結論
ムーディーズは、世界の債券・ローンの信用格付を担うムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS、2026 年上期の売上 24.1 億ドル、調整後営業利益率 約 68%)と、銀行・保険・取引先審査向けのソフトとデータを売るムーディーズ・アナリティクス(MA、同 18.5 億ドル、利益率 約 34%)の 2 本柱でできている。格付は S&P グローバルと合わせて市場の約 8 割を握る寡占で、発行が増えるほど新規の格付料が入り、残高に応じた監視料が景気の下でも残る。2026 年 4〜6 月期は売上 21.9 億ドルで前年比 +15%、MIS は発行額が 2 兆ドルを超えて +25%、MA は有機で +8%。通期は売上が高めの 1 桁増、GAAP の純利益は 28 億ドル前後の見通し。
バリュー投資の観点では、10 年後も債券は発行され格付は要る。MIS の堀は広がるか保たれる一方、MA は AI に分析を代替されうる部分を持つ。売上の 46% を占める MA の確信度が全体を下げる。数量×価格で 4 部門を積むと、中立の 10 年後は売上 約 145 億ドル(年 +6.5%)、純利益 約 51 億ドル。資本コスト 7.75%(基本 8.0% + quality −0.25%)・g 4%・ROE 約 100%(帳簿)の式から正当化 PER は約 25.1 倍。その 8.2 割の 20.6 倍を中立に置き、時価総額は約 1,047 億ドル。今の PER 34 倍(GAAP の実績)は、この倍率より高い。確率をかけて割り引いた本質価値は今の時価総額を約 16% 下回り、期待の年率は 4.7% で資本コストに届かず、総合では『やや割高』になる。良い会社だが、今の値段は 10 年の成長を先取りしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点ではまず 10 年後を問う。債券は 10 年後も発行され、格付は必要とされ、MIS は S&P グローバルとの二強の位置を保つ可能性が高い。堀は保たれるか少し広がる。MA は堀が狭まる可能性があり、全体の確信度はここで下がる。
次にオーナー利益。設備投資は売上の数 %、株式報酬は費用として引いても、利益の大半は株主のものになる。成長に要る元手が軽いので、自社株買いで自己資本が縮んでも事業の力は落ちない。式の ROE は帳簿の値が 60% 前後で 40% を超えるため ROIC から直したが、倍率の式は ROE が高いほど『ほぼ全部を還元できる』という意味しか持たず、成長は数量と価格から出した。
経営は、格付の価格を物価以上に上げ続け、MA を再編し、本業に絞る方向で、資本配分は悪くない。ただ自社株買いは FCF を超えて借入も使っており、今の倍率で買い戻す分は価値を足しにくい。
安全域:10 年後の時価総額は、楽観で今の約 1.9 倍、中立で約 1.2 倍、悲観で約 0.4 倍(還元は別)。利益ベースの式の倍率で見る限り、今の値段(PER 34 倍)は 10 年の好調をかなり織り込んでおり、安全域は薄い。良い会社だが、買うなら今より低い値段を待つのがバリュー投資の流儀。確信度は中〜高。
何で稼ぐ会社か
収益は大きく 2 つ。
MIS(2026 年上期 売上 24.1 億ドル):企業(上期 12.8 億)・金融機関(4.2 億)・公共・プロジェクト・インフラ(4.0 億)・仕組み債(2.9 億)の 4 領域で、債券・ローンの発行体から新規の格付料を取り、既発債には毎年の監視料を取る。売上は発行額に連動するため景気と金利に振れるが、監視料が下支えする。2026 年は AI のデータセンター向けの起債、借り換え、プライベート・クレジット関連(前年比 +40% 超)が重なって記録的な発行になった。
MA(同 18.5 億ドル、2026 年 6 月末の ARR 36.6 億ドル・前年比 +9%):意思決定ソリューション(銀行向け信用リスク・保険の災害モデル・KYC。ARR 16.2 億)、リサーチ・インサイト(調査・分析。同 10.4 億)、データ・インフォメーション(企業データベース『オービス』など。同 10.0 億)の 3 本。売上の大半が年間更新のサブスクリプションで、更新維持率は約 95%。2026 年に学習ソリューションと規制ソリューションを売却し、本業に絞った。
利益は MIS が全社の約 7 割を稼ぎ、MA は利益率を 30% 台前半から 2027 年末に 30 台後半へ上げる再編の途中にある。
優良さと弱いところ
堀は MIS と MA で性質が違う。MIS は規制上の認定(NRSRO)と、投資家・発行体の双方が S&P かムーディーズの格付を求める慣行で守られる。第 3 位のフィッチ(Fitch)は長年シェアを大きく上げられず、新興の KBRA も限定的。利益率 65〜68% は S&P グローバルの格付部門と並ぶ世界最高水準で、売上の増加分の大半が利益になる。価格を決める力も強く、格付料は物価を上回って上げてきた。
MA は堀が薄い。意思決定ソリューションの KYC や保険モデルはデータ・ワークフローに根差し切り替えの費用が高いが、リサーチ・インサイトは S&P グローバルのマーケット・インテリジェンス、ブルームバーグ、LSEG、ファクトセットと競い、AI で同等の分析が安く作れるなら単価と更新率が下がる。会社は自社データを MCP 経由でクロード(Claude)・ChatGPT・マイクロソフトのコパイロットなどに提供して、AI の側に回る道を取っている。
資本効率:帳簿の自己資本は自社株買いで 40 億ドル前後まで縮み、ROE は 60% 前後と見かけ上きわめて高い。事業そのものが必要とする設備投資は売上の 3〜6% 程度(2026 年はオフィス移転を含む約 4.5 億ドル)と軽い。弱点は MA の利益率が MIS の半分であること、買収したデータ事業ののれんが残ること、MIS が発行額という景気の波に乗ること。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場は『格付(発行額)』と『リスク・データ・分析(サブスクリプション)』の 2 つに分かれる。
格付:世界の社債発行は年 8〜9 兆ドル(推定)。2026 年は AI のデータセンター向け起債、借り換えの壁、プライベート・クレジット絡みの証券化で、2026 年 4〜6 月期の格付対象発行額は 2 兆ドルを超えた。会社は年間の発行増加見通しを中位 1 桁に引き上げたが、増分の多くが利ざやの低い銀行債・データセンター債で、売上ガイダンスは高めの 1 桁のまま据え置いた。長期金利が 5% 前後で下がらないため、借り換えの先延ばしと、返済が重い企業の格付見直し(監視料の増加)が同時に起きる。景気が崩れて発行が 3 割減れば新規料は落ちるが、監視料は残る(2008〜09 年の MIS 売上は 2〜3 割減)。
データ:金融機関のリスク・コンプライアンス予算は伸びる(KYC の ARR は +13%)。一方、生成 AI が分析の入口を変えており、2026 年 2 月にはアンスロピック(Anthropic)の業務プラグインをきっかけにデータ・分析会社の株が急落した。AI が欲しがるのは正確な生データで、データを持つ側が『売る側』に回れるかが 10 年の論点。
競争の形:格付は S&P グローバルとムーディーズの二強にフィッチが続く寡占。データはブルームバーグ・LSEG・ファクトセット・S&P グローバル(マーケット・インテリジェンス)・MSCI が競う。
資本政策と M&A
資本政策は積極的な株主還元型。2026 年は自社株買いを最大 30 億ドルへ引き上げ(上期だけで 21.7 億ドル)、配当は年 約 7 億ドル。フリー・キャッシュフローは 27〜29 億ドルの見通しなので、買い戻しは FCF を上回り、現金(上期末 14.7 億ドル)と借入で賄う。総債務は 69.5 億ドル、純負債は時価総額の約 6% と軽い。自社株買いの値段を意識する経営かは、株価が PER 30 倍台の今は見ておく点(高い値段で買い戻すと価値を足さない)。
M&A:2017 年のビューロー・ヴァン・ダイク(欧州の企業データ)、2018 年のレイス(Reis)、2021 年のリスク・マネジメント・ソリューションズ(保険の災害モデル)など、MA を中心に数十億ドル規模の買収を重ねてきた。2026 年上期の買収は 0.2 億ドルと小さく、学習ソリューションと規制ソリューションを売却(規制ソリューションの売却益 1.8 億ドル)して事業を絞る局面に変わった。大型の買収で価値を壊すリスクは下がった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
MIS は、AI データセンターの起債、プライベート・クレジットの格付需要、新興国の債券市場の拡大で、格付対象の発行額が実質で 10 年に 1.5 倍を超え、価格も物価を 1 割強上回って上がる。2026 年 4〜6 月期の MIS 利益率 68.3%(前年比 +410bps)が示すとおり、増えた売上のほぼ全部が利益になる。S&P グローバルとの二強は規制と慣行で守られ、KBRA などには奪われない。
MA は、AI が分析の入口になるほど、その裏で使われる正確なデータ(オービス・KYC・保険モデル)の価値が上がり、AI 企業・銀行へのデータ提供が新しい売上になる。ARR は +9% で、KYC は +13%。再編と AI による効率化で利益率は 2027 年末に 30 台後半、さらに 40% 前後へ向かう。
資本は軽く、利益の 95% 以上を配当と自社株買いで返せる。この見方なら 10 年後の純利益は約 69 億ドルで、今の約 2.8 倍になる。
慎重な見方
今の PER 34 倍は、MIS の記録的な発行と利益率 68% が続く前提を織り込んでいる。2026 年の発行は AI のデータセンター債、借り換え、プライベート・クレジットが重なった山で、一過性の可能性が高い。会社自身が、発行増の多くは利ざやの低い銀行債・データセンター債だと認めている。発行が 2008 年や 2022 年のように 3 割落ちると、新規の格付料は消える。
さらに格付への依存を減らす規制(EU・米国)、フィッチ・KBRA の値引き、大手投資家の社内格付で、10 年後には MIS の価格が物価に届かなくなる。MA は AI に分析を代替され、リサーチ・インサイトは契約が減り、データも内製の AI 要約に削られる。アンスロピックの発表で株が急落した 2026 年 2 月は、市場が MA の弱さを織り込み始めた合図。
自社株買いは 2026 年に FCF を超えて 30 億ドルまで増やし、借入を使う。高い値段で買い戻すほど価値を足さない。この見方では 10 年後の純利益は約 22 億ドルにとどまり、PER も 15 倍前後に縮み、今の時価総額を大きく下回る。
どちらに重みを置いたか
格付の寡占が利益の約 7 割を占め、AI で置き換わる部分は MA に限られるため、強気の言い分の方が事業の見方としては強い。ただし本質価値は事業の質ではなく値段との関係で決まる。利益ベースの式の倍率(中立の PER 20.6 倍)は今の PER 34 倍よりかなり低く、強気の筋書きでもその差を埋めにくい。MIS の記録的な発行が一服する反動と MA の AI 懸念を重く見て、悲観・やや悲観を合わせて 34% に厚くした。確率は楽観側 34%・中立 32%・悲観側 34%。事業は強気、値段は慎重という配分。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 562.28 ドル979 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 201.90 ドル352 億ドル)。 今の値に割り戻すと 405.56 ドル706 億ドル、今との差 −17.4%、 期待の年率 +4.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 911.95 ドル1,588 億ドル | 254.45 ドル443 億ドル | +137.5% | +9.0% | 116.64 ドル203 億ドル |
| やや楽観 | 24% | 737.97 ドル1,285 億ドル | 230.33 ドル401 億ドル | +97.2% | +7.0% | 232.39 ドル405 億ドル |
| 中立 | 32% | 601.09 ドル1,047 億ドル | 210.22 ドル366 億ドル | +65.2% | +5.1% | 259.62 ドル452 億ドル |
| やや悲観 | 21% | 365.88 ドル637 億ドル | 176.34 ドル307 億ドル | +10.4% | +1.0% | 113.87 ドル198 億ドル |
| 悲観 | 13% | 190.70 ドル332 億ドル | 129.81 ドル226 億ドル | −34.7% | −4.2% | 41.67 ドル73 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 562.28 ドル979 億ドル | 201.90 ドル352 億ドル | +55.6% | +4.5% | 764.18 ドル1,330 億ドル |
今の株価時価総額 491.05 ドル855 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:寡占の堀が広がり、MA も AI 向けデータで伸びる 利益 69 億ドル · PER 22.9 倍 · 株価時価総額 911.95 ドル1,588 億ドル
2035 年に売上 約 183 億ドル(年 +8%)、純利益 約 69 億ドル。MIS は発行額が実質 1.55 倍、格付料は物価(1.41 倍)を 15% 上回る 1.62 倍で売上 約 105 億ドル(利益率 68%)。MA は意思決定ソリューションが契約 1.40 倍・価格 1.65 倍(KYC・保険モデル・AI 向けの追加提供)で約 38 億ドル、データは AI 企業・銀行へのライセンスで契約 1.50 倍・価格 1.68 倍、約 22 億ドル。リサーチ・インサイトも 約 18 億ドル。競合の S&P グローバル・フィッチ・ブルームバーグに対して今のシェアを保ち、MA の利益率は 40% を超える。自己資本は小さいまま、ROE は ROIC から直した。
- ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS・信用格付):数量 10.9(MIS が格付する発行額(兆ドル。物価を除いた実質。推定))× 価格 9.67(1 兆ドルあたりの売上(億ドル))→ 売上 105 億ドル・営業利益 71 億ドル。発行額×格付料
- MA 意思決定ソリューション(銀行・保険・KYC):数量 16.8(有料の契約(千件・推定))× 価格 2.27(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 38 億ドル・営業利益 16 億ドル。契約数×単価
- MA リサーチ・インサイト(調査・分析・経済データ):数量 9.2(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.96(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 18 億ドル・営業利益 7 億ドル。契約数×単価
- MA データ・インフォメーション(企業データベース):数量 15.0(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.48(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 22 億ドル・営業利益 10 億ドル。契約数×単価
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.75%(基本 8.0% + quality -0.25%)。事業の ROE 128.3%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 54 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 88.1%、g 4.0%(社債発行量の伸びと格付手数料の物価並みの上昇で、長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 25.5 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。格付の二強の一角で利益率 65% 超の堀を持つが、データ事業は AI で揺らぐ。 上限の 9.0 割の 22.9 倍に置いた。
確率:AI がデータを使い捨てにせずデータを持つ側に回り、格付の発行も伸び続ける最良の筋書き。
やや楽観 24% やや楽観:目標の下の方で達成し、MA は一時落ちても戻る 利益 59 億ドル · PER 21.7 倍 · 株価時価総額 737.97 ドル1,285 億ドル
2035 年に売上 約 162 億ドル(年 +7%)、純利益 約 59 億ドル。MIS は発行額が 1.43 倍、価格 1.55 倍で売上 約 93 億ドル(利益率 67%)。2030 年代前半に AI 関連の起債は一服するが、借り換えと新興国・プライベート・クレジットの格付需要が埋める。MA は更新率が 1 度落ち込むが、再編と AI 向けのデータ提供で戻り、売上は意思決定ソリューション 約 34 億ドル、データ 約 20 億ドル、リサーチ 約 17 億ドル、利益率は 38% 台。S&P グローバルとの価格競争は起きず、フィッチには少しだけシェアを奪われる。優良さ(高い利益率と価格を決める力)はほぼ保たれる。
- ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS・信用格付):数量 10.0(MIS が格付する発行額(兆ドル。物価を除いた実質。推定))× 価格 9.26(1 兆ドルあたりの売上(億ドル))→ 売上 93 億ドル・営業利益 62 億ドル。発行額×格付料
- MA 意思決定ソリューション(銀行・保険・KYC):数量 15.8(有料の契約(千件・推定))× 価格 2.13(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 34 億ドル・営業利益 14 億ドル。契約数×単価
- MA リサーチ・インサイト(調査・分析・経済データ):数量 9.0(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.86(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 17 億ドル・営業利益 6 億ドル。契約数×単価
- MA データ・インフォメーション(企業データベース):数量 14.0(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.39(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 20 億ドル・営業利益 9 億ドル。契約数×単価
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.75%(基本 8.0% + quality -0.25%)。事業の ROE 111.5%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 53 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 76.9%、g 4.0%(社債発行量の伸びと格付手数料の物価並みの上昇で、長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 25.3 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。格付の二強の一角で利益率 65% 超の堀を持つが、データ事業は AI で揺らぐ。 上限の 8.6 割の 21.7 倍に置いた。
確率:MIS は寡占の価格力で伸び、MA は AI への懸念が一度出ても戻る中程度の強気。
中立 32% 中立:格付は堀を保ち、MA は AI で伸びが鈍る 利益 51 億ドル · PER 20.6 倍 · 株価時価総額 601.09 ドル1,047 億ドル
2035 年に売上 約 145 億ドル(年 +6.5%)、純利益 約 51 億ドル。MIS は発行額が実質 1.33 倍、格付料は物価 1.41 倍+実質 +5% の 1.48 倍で売上 約 82 億ドル(利益率 66%)。MA は意思決定ソリューションが契約 1.25 倍・価格 1.47 倍で約 30 億ドル(利益率 37.5%)、データが契約 1.28 倍・価格 1.47 倍で約 17 億ドル、リサーチは契約 1.10 倍・価格 1.43 倍で約 16 億ドル。AI は MA の単価の上げ幅を縮めるが、解約にはつながらない。競合に対して、格付は S&P グローバルとの二強、データは 3〜5 番手争いという今の位置を保つ。
- ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS・信用格付):数量 9.3(MIS が格付する発行額(兆ドル。物価を除いた実質。推定))× 価格 8.84(1 兆ドルあたりの売上(億ドル))→ 売上 82 億ドル・営業利益 54 億ドル。発行額×格付料
- MA 意思決定ソリューション(銀行・保険・KYC):数量 15.0(有料の契約(千件・推定))× 価格 2.02(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 30 億ドル・営業利益 11 億ドル。契約数×単価
- MA リサーチ・インサイト(調査・分析・経済データ):数量 8.8(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.77(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 16 億ドル・営業利益 5 億ドル。契約数×単価
- MA データ・インフォメーション(企業データベース):数量 12.8(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.29(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 17 億ドル・営業利益 7 億ドル。契約数×単価
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.75%(基本 8.0% + quality -0.25%)。事業の ROE 99.6%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 51 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 69.0%、g 4.0%(社債発行量の伸びと格付手数料の物価並みの上昇で、長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 25.1 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。格付の二強の一角で利益率 65% 超の堀を持つが、データ事業は AI で揺らぐ。 上限の 8.2 割の 20.6 倍に置いた。
確率:強気と慎重の落としどころ。
やや悲観 21% やや悲観:MA の AI 懸念と格付の価格競争が部分的に現実になる 利益 38 億ドル · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 365.88 ドル637 億ドル
2035 年に売上 約 117 億ドル(年 +4.2%)、純利益 約 38 億ドル。発行は 2030 年代に頭打ちになり、MIS は発行額が 1.14 倍、格付料はフィッチ・KBRA の値引きに押されて 1.38 倍(物価 1.41 倍に届かない)で売上 約 66 億ドル(利益率 63%)。MA は AI が実際の更新率に出て、リサーチ・インサイトは契約が横ばい、価格は 1.30 倍(物価を大きく下回る)。MA 全体の利益率は 33% 前後で再編の効果が出ない。借入での買い戻しの分だけ利払いが増える。
- ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS・信用格付):数量 8.0(MIS が格付する発行額(兆ドル。物価を除いた実質。推定))× 価格 8.24(1 兆ドルあたりの売上(億ドル))→ 売上 66 億ドル・営業利益 42 億ドル。発行額×格付料
- MA 意思決定ソリューション(銀行・保険・KYC):数量 13.4(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.83(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 25 億ドル・営業利益 8 億ドル。契約数×単価
- MA リサーチ・インサイト(調査・分析・経済データ):数量 8.2(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.61(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 13 億ドル・営業利益 4 億ドル。契約数×単価
- MA データ・インフォメーション(企業データベース):数量 11.5(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.19(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 14 億ドル・営業利益 6 億ドル。契約数×単価
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.75%(基本 8.0% + quality -0.25%)。事業の ROE 75.8%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 50 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 53.1%、g 4.0%(社債発行量の伸びと格付手数料の物価並みの上昇で、長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 24.7 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。格付の二強の一角で利益率 65% 超の堀を持つが、データ事業は AI で揺らぐ。 上限の 6.8 割の 16.8 倍に置いた。
確率:MA の AI 懸念と寡占事業の価格競争が部分的に現実になる確率。記録的な発行の反動も含む。
悲観 13% 悲観:MA が縮み、格付の堀も侵食される構造的な負け 利益 22 億ドル · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 190.70 ドル332 億ドル
2035 年に売上 約 85 億ドル(年 +0.9%)、純利益 約 22 億ドル。MA は AI エージェントが席数ベースの契約を奪い、リサーチ・インサイトの契約は 15% 減(価格も 1.10 倍にとどまる)。格付は、規制(EU・米国での依存の見直し)と、フィッチ・KBRA・大手投資家の社内格付で、発行額が 5% 減り格付料は 1.20 倍(物価 1.41 倍を大きく下回る)、売上 約 48 億ドル、利益率 55%。もう寡占の優良企業とは呼べず、ROE も大きく下がる。優良さの根拠だった『物価以上に値上げできる』力が消える筋書き。
- ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS・信用格付):数量 6.7(MIS が格付する発行額(兆ドル。物価を除いた実質。推定))× 価格 7.17(1 兆ドルあたりの売上(億ドル))→ 売上 48 億ドル・営業利益 26 億ドル。発行額×格付料
- MA 意思決定ソリューション(銀行・保険・KYC):数量 11.4(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.58(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 18 億ドル・営業利益 5 億ドル。契約数×単価
- MA リサーチ・インサイト(調査・分析・経済データ):数量 6.8(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.36(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 9 億ドル・営業利益 2 億ドル。契約数×単価
- MA データ・インフォメーション(企業データベース):数量 9.5(有料の契約(千件・推定))× 価格 1.01(1 千契約あたりの売上(億ドル))→ 売上 10 億ドル・営業利益 3 億ドル。契約数×単価
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.75%(基本 8.0% + quality -0.25%)。事業の ROE 46.8%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 47 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 33.8%、g 4.0%(社債発行量の伸びと格付手数料の物価並みの上昇で、長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 23.5 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。格付の二強の一角で利益率 65% 超の堀を持つが、データ事業は AI で揺らぐ。 上限の 6.4 割の 15.1 倍に置いた。
確率:MA の縮小と寡占の堀の侵食が同時に起きる構造的な負け。10 年で起きる確率を 1 割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MIS・信用格付)
企業・金融機関・公共・仕組み債の信用格付。新規格付料と毎年の監視料。
| 数量MIS が格付する発行額(兆ドル。物価を除いた実質。推定) | 価格1 兆ドルあたりの売上(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7.0 | 5.97 | 42 | 27 |
| 10 年後 中立 | 9.3 | 8.84 | 82 | 54 |
取り方:2025 年の MIS 売上を約 41.8 億ドル(推定。2026 年上期の MIS 売上 24.13 億ドル・前年比 +16% から逆算)、調整後営業利益率 約 64%(2026 年ガイダンスは約 65%)とした。格付対象の発行額を年 約 7 兆ドル(推定。2026 年 4〜6 月期だけで 2 兆ドル超)とし、41.8 ÷ 7.0 = 約 5.97 億ドルを 1 兆ドルあたりの価格にした。S&P グローバルと合わせて市場の約 8 割。2026 年上期は +16%。
MA 意思決定ソリューション(銀行・保険・KYC)
銀行の信用リスク・保険の災害モデル・取引先審査(KYC)のソフトとデータ。年間契約。
| 数量有料の契約(千件・推定) | 価格1 千契約あたりの売上(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 12.0 | 1.38 | 17 | 5 |
| 10 年後 中立 | 15.0 | 2.02 | 30 | 11 |
取り方:2025 年の売上を約 16.5 億ドル(推定。2026 年 6 月末の ARR 16.21 億ドル・前年比 +10% と上期売上 8.55 億ドルから)、利益率 約 30% とした。契約を 1.2 万件・1 件あたり 約 13.8 万ドル(推定)と置いた。学習・規制ソリューションの売却で報告ベースの伸びは 2% だが、売却を除く有機の伸びは 12%。
MA リサーチ・インサイト(調査・分析・経済データ)
信用調査レポート・経済予測・格付の裏付けとなる調査。サブスクリプション。
| 数量有料の契約(千件・推定) | 価格1 千契約あたりの売上(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 8.0 | 1.24 | 10 | 3 |
| 10 年後 中立 | 8.8 | 1.77 | 16 | 5 |
取り方:2025 年の売上を約 9.9 億ドル(推定。ARR 10.37 億ドル・+6% から)、利益率 約 30% とした。契約を 8 千件・1 件あたり 約 12.4 万ドル(推定)と置いた。上期は +5%。堀が最も薄い部分。
MA データ・インフォメーション(企業データベース)
世界の企業データ(ビューロー・ヴァン・ダイクの『オービス』など)と不動産・保険のデータ。年間契約。
| 数量有料の契約(千件・推定) | 価格1 千契約あたりの売上(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.0 | 0.88 | 9 | 4 |
| 10 年後 中立 | 12.8 | 1.29 | 17 | 7 |
取り方:2025 年の売上を約 8.8 億ドル(推定。ARR 10.03 億ドル・+8% と上期売上 4.85 億ドル +9% から)、利益率 約 40% とした。契約を 1 万件・1 件あたり 約 8.8 万ドル(推定)と置いた。AI 企業へのデータ提供が伸びれば最も上振れしやすい。
リスクと懸念
AI による MA の置き換え
MA は売上の 46% を占め、利益率は MIS の約半分で堀も薄い。AI が分析を安く代替すると、契約数と更新率が下がる。2026 年 2 月にはアンスロピックの業務プラグインでデータ・分析会社の株が急落した。MA の ARR は +9% と堅調だが、悲観では 10 年で MA の契約が 1 割以上減る。
記録的な発行の反動
2026 年 4〜6 月期の格付対象発行額は 2 兆ドル超で、AI のデータセンター債・借り換え・プライベート・クレジットが重なった山。増分の多くは利ざやの低い銀行債・データセンター債で、会社も売上ガイダンスを据え置いた。山が過ぎると新規の格付料が減る。ただし監視料(売上の約半分と推定)は残る。
格付への規制と競争
格付への依存を減らし手数料と利益相反を抑える規制が EU・米国で強まれば、価格決定力が削られる。フィッチ・KBRA の値引きや、大手投資家が社内格付で代替する動きもある。MIS の利益率 65〜68% は高く、下がる余地の方が大きい。
高い倍率と借入での大型の買い戻し
今の PER は GAAP で 34 倍と、利益ベースの式から出る倍率(19 倍前後)よりかなり高い。2026 年は自社株買いを最大 30 億ドルへ引き上げ、FCF(27〜29 億ドル)を超える分を現金と借入で賄う。借換えの金利は 5.75% 前後。高い値段で買い戻すと価値を壊し、景気後退期は財務の余裕が薄い。
MA 再編の実行
MA の利益率を 2026 年の 34〜35% から 2027 年末に 30 台後半へ上げる再編と AI による効率化が計画どおり進むかが利益の伸びを左右する。学習・規制ソリューションの売却後、残る事業の成長率と利益率が上がらなければ、中立の利益率の前提を下げる。
金利・信用の悪化
長期金利 5% が続くと、借り換えの先延ばしと返済の重い企業の信用悪化が同時に起きる。信用が一気に悪化すると、発行が止まり MIS の新規料が落ちる。MA も金融機関の予算が凍結される。2008〜09 年は MIS の売上が 2〜3 割減った。
今後の分かれ目
- MA の ARR の伸びが 2 四半期続けて +5% を下回り、更新維持率が 90% 台前半に落ちる
- AI による置き換えが実際に始まったと見て、やや悲観・悲観の確率を厚くし、MA の価格の上げ幅を物価の 3 分の 1 以下に下げる。本質価値は 1 割ほど下がる。
- AI 企業がムーディーズのデータをライセンス契約で購入し、MA の AI 向けデータ売上が目に見える規模(ARR の 1 割)になる
- MA の価格・契約数が上がり、楽観の確率を高める。AI がデータの買い手になる見方が当たる。
- 格付対象の発行額が前年比 −20% 以上の落ち込みに転じる
- MIS の新規料が減り、2028 年の谷の筋書きに近づく。ただし監視料で下支えされるため利益率の低下は限定的。
- EU または米国で、格付への依存を減らし手数料を抑える規制が成立する
- MIS の価格を物価以下に置き直し、利益率 65% 超の前提を下げる。やや悲観の確率を上げる。
- 経営が借入を増やし、純負債が調整後 EBITDA の 2 倍を超えて買い戻しを続ける
- 景気後退時の財務が薄くなる。利払いが 5.75% で効き、純利益が減る。k は上げず、悲観の深さに反映する。
- MIS の売上が 2 年続けて高めの 1 桁増を超え、利益率が 68% を保つ
- 楽観の確率を上げる。ただし倍率は式で決まるので、値段との関係は大きく変わらない。
見ておくもの
- MA の ARR の伸びと更新維持率、AI 関連のライセンス契約の開示
- 格付対象の発行額(特に借り換えとプライベート・クレジット関連)
- MIS の調整後営業利益率(68% 前後を保てるか)と MA の利益率(2027 年末に 30 台後半)
- 自社株買いの額と純負債(調整後 EBITDA 倍率)
- 格付への規制(EU・米国)とフィッチ・KBRA のシェア
- 2026 年 10〜12 月期の決算(通期ガイダンスの修正)
倍率と資本コストの決め方
今の PER 34 倍(2025 年の GAAP 純利益)・PBR 約 21 倍を見ずに、MIS と MA の部門を数量×価格で積んで純利益を出し、倍率は利益ベースの正当化 PER((1 − g/RONIC)/(k − g)、二強の寡占で RONIC = k + 2/3 ×(ROE − k))の 6〜9 割で置いた。k は基本 8.0% + quality −0.25%(格付の循環 +0.25%、値決め −0.5%)の 7.75%、g は決まりの 4%(k − g = 3.75%)。AI によるデータ事業の置き換えは悲観の確率に入れ、k には足していない。ROE は帳簿で 100% 前後と高く、自己資本が小さいことによる(理由は roe_why)。中立 10 年の PER は 20.6 倍。倍率を割り引かず、下げる理由は g(数量・価格)に入れた。純利益は GAAP(償却・株式報酬は費用)で、調整後 EPS は使っていない。結果として今の値段は式より高く、やや割高に出たが、この結果に合わせて筋書きを動かしてはいない。今の時価総額(約 844 億ドル)に寄せてはいない。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality -0.25% = 7.75%。内訳は cycle +0.25・pricing -0.50・debt +0.00・life +0.00(%)で、理由は quality_why。β は使わない。個別の懸念(生成 AI によるデータ事業の置き換え・社債発行の減少・規制)は k に足さず、筋書きの数量・利益率と確率で表した。