結論
ASTスペースモバイルは、普通のスマートフォンを宇宙の基地局につなぐ衛星通信会社である。筆者の結論は割高だ。市場が大きく育つことと、この会社が十分な利益を株主に残せることは、別の問題だからである。
最大の魅力は、地上の基地局が届かない場所でも、端末を交換せずに音声やデータ通信ができる技術だ。エーティー・アンド・ティー、ベライゾン、ボーダフォンなどとの関係があり、2026年8月の会社発表では提携通信事業者が60社を超え、その顧客基盤は30億人以上に達する。ただし、30億人は契約済みの衛星利用者ではない。2026年6月時点でも衛星携帯通信サービスの本格的な収入はまだ発生していない。
進歩は本物である。2026年4月には米国の衛星直接通信に必要な主要認可を取得した。8月には軌道上の衛星が試験機を含め13機となり、2026年の売上見通しも1.5〜2.0億ドルを維持した。一方、同年4月に打ち上げたBlueBird 7は予定軌道に到達できず失われた。技術の成功と事業の成功を同一視できない段階にある。
2035年の中立では衛星通信の有料換算利用者を7500万人、年間の卸売収入を1人36ドルと見込む。政府向け通信や地上局設備を加えた全社売上は約33億ドル、純利益は約5.8億ドルとなる。強気には世界の主要な通信網へ組み込まれる大きな可能性があるが、弱気には競争相手に市場を取られ、衛星の更新費用だけが残る。
5つの筋書きを資本コスト10.5%で現在価値に直した本質価値は約35億ドルである。台帳の時価総額約119億ドルを約70%下回り、種類株に対応する経済持分を含めた約155億ドルとはさらに大きな差がある。魅力的な発明ではあっても、長期株主に十分な安全域がある値段とは判断しない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、最初に問うべきなのは衛星通信市場が伸びるかではない。10年後にASTスペースモバイルが、他社に簡単に奪われない利益を生み、その利益を株主に渡せるかである。
事業そのものは長く必要とされる。人が世界中を移動し、災害が発生する限り、地上網を補う通信には需要がある。大型アンテナの技術、周波数の許認可、通信事業者との関係は、他社が短期間で買いそろえられない資産だ。しかし、この強みが価格を自由に決める力になった証拠はまだない。大手通信会社が顧客を握り、スターリンクが巨大な衛星網と打ち上げ手段を握るからである。
特に気になるのは、最初の設備投資と維持更新投資を区別しにくいことだ。現在の赤字が成長のためだけの一時的な支出なら、後に豊かなオーナー利益が残る。だが、衛星が数年で更新を要し、競合に合わせた増強を続けるなら、利益が出ても現金は再び宇宙へ向かう。高いROEだけでは十分でない。追加の投資で稼ぐ利回りが資本コストを上回らなければ、成長は価値を増やさない。
経営者は難しい技術を形にし、通信大手との契約を結んだ。それは高く評価できる。一方、資金調達と支配権の構造は少数株主に有利とは限らない。事業が成功するまで資金を出し続ける株主と、成功後に利益を受け取る株主の取り分が一致する保証もない。
筆者は技術の可能性を否定しない。しかし、商用収入が立ち上がる前の会社に、既に成功した通信インフラ会社のような値段を払うことには慎重である。予測できない部分が大きいほど、安全域を厚く求めたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心になる予定なのは、通信会社に衛星回線を卸す事業である。利用者は今のスマートフォンと契約を使い続け、地上の電波が届かない場所で衛星につながる。ASTスペースモバイルは通信会社から接続数や利用量に応じた対価を受け取る。自社で世界中の消費者に直接料金を請求する方式ではない。
この仕組みには営業上の利点がある。エーティー・アンド・ティーやベライゾンは既に顧客、通信料金の請求手段、周波数免許を持っている。ASTは衛星と地上接続設備を提供すればよく、消費者を一人ずつ獲得する費用を抑えられる。しかし、その代わりに通信会社が卸売料金の交渉力を握る。提携先の利用者数が多いことだけでは、ASTの取り分は決まらない。
2025年の実際の売上約0.71億ドルは、将来の衛星回線収入ではない。通信会社向けの地上局装置・ソフトウエア販売が約0.44億ドル、米国政府向けの契約履行収入が約0.27億ドルである。衛星通信サービスは商用開始前のため売上がゼロだった。2026年4〜6月も売上3152万ドルの大部分は地上局装置の納入と政府案件であった。
政府向けは第二の柱になりうる。大型アンテナ、高出力通信、広域への信号送受信を、防衛、災害対応、政府専用通信に応用する。2026年8月には米国政府の複数の契約獲得額が合計1.25億ドルを超えた。政府の仕事は民間通信と契約単位が異なり、特定の技術達成や設備提供の対価を受け取る。
第三の収入は通信事業者向けのゲートウェイ、つまり衛星と地上網をつなぐ設備の販売である。2025年には5大陸で15基を納入した。将来も新規設置と設備更新は続くが、通信サービスのように毎月同じ料金を得られる収入ではない。
会社が正式に開示する事業セグメントは全社で一つである。ここでは収入の性質が異なるため三つに分けて考える。どの事業も実物の通信設備と周波数を使うため、席課金のソフトや人月で売るサービスではない。PROMPT_AI_RISKのAIエージェント代替の対象事業には該当しない。
優良さと弱いところ
最大の強みは、普通の携帯電話と交信できる大型の衛星アンテナを実際に軌道へ投入し、地上の携帯通信網とつなぐ技術を持つことだ。2026年6月の開示では、世界で約3900件の特許・特許出願中の請求項があり、そのうち約2100件が登録または許容されている。米国では248機の衛星システムに関する認可も得た。研究段階から実運用へ進むための障壁は確かに高い。
通信会社との関係も価値がある。60社超の提携先に地上局をつなぎ、既存の料金体系に衛星通信を組み込めば、新しい衛星会社が同じ規模の販路を作るには時間がかかる。衛星の軌道、周波数、地上局、通信会社との接続試験が一体になれば、乗り換えの費用も大きくなる。ただし、既に値上げを繰り返し実現した実績や、長年の低い解約率は存在しない。現時点で完成した強い堀とは呼べない。
技術の優位性にも寿命がある。スペースXは既に大規模なスターリンク衛星網を運用し、衛星から通常の携帯電話への通信でも先行する。打ち上げ能力を自社で持ち、衛星を大量に生産できる点は大きい。ASTが優れたアンテナを作れても、単位通信量あたりの総費用で負ければ、通信会社は卸売料金の引き下げを求める。
資本効率はまだ証明されていない。2025年のROEはマイナス18.6%で、フリーキャッシュフローは約11.4億ドルの赤字だった。衛星の開発、製造、打ち上げに先に資金を使うため、会計上の利益が出ても更新投資を差し引いた株主利益は小さくなりうる。
経営者の技術的な実行力には評価できる部分があるが、株主の権利は単純ではない。創業者が持つClass Cには強い議決権があり、一般株主の経営への影響力は限られる。今後の増資や関連当事者との契約を、少数株主の利益という観点で厳しく見続ける必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
衛星とスマートフォンの直接通信は、今後10年で市場そのものが大きくなる可能性が高い。需要は山間部や海上だけではない。災害で地上の基地局が止まったときの予備回線、国境を越える通信、遠隔地の機械や車両などにも用途がある。既存の携帯通信の大部分を置き換えるのではなく、地上網が不得意な場所を補う市場である。
調査会社オムディアは2026年3月、世界の衛星直接通信について、2030年に月間利用者4億1100万人、サービス収入約120億ドルとの見通しを示した。ただし、これは業界全体の利用者と売上であり、ASTの契約者や卸売収入ではない。通信会社が利用者へ無料で提供する場合もあるため、利用者数をそのまま有料契約数へ変換することはできない。
競争相手の中心はスペースXのスターリンクである。2026年には直接通信対応の衛星が約650機規模となり、既に商用サービスを提供している。グローバルスターはアップルとの関係を持ち、イリジウムやスカイロも衛星接続の需要を狙う。各社の直接通信に限定した同一基準の売上シェアは十分に開示されていない。ASTの衛星携帯通信の商用売上シェアは2026年6月時点で実質ゼロである。
ASTが狙うのは、単なる緊急メッセージではなく、音声、データ、動画まで使える高い通信能力だ。技術が実用化されれば、通信会社は付加価値の高い契約を販売できる。一方、スターリンクが十分な通信能力を安い費用で提供すると、卸売価格は競争で下がる。2026年5月には米国通信大手3社が衛星直接通信の共同事業構想を発表した。これは衛星サービスの普及を促すが、通信会社側の交渉力も強める。
規制は競争力を左右する。米国の許認可は前進したが、国ごとの周波数調整や、リガドから取得予定の周波数利用権には条件が残る。電波干渉と宇宙ごみの問題も拡大する。世界の携帯電話利用者が増えるだけでASTの売上が増えるわけではなく、使える周波数、常時接続できる地域、通信品質、通信会社への価格が同時にそろわなければならない。
資本政策と M&A
資本政策は株主還元より衛星網の建設が中心である。会社は普通株に配当を払った実績がなく、近い将来に配当を始める方針も示していない。自社株買いの継続的な枠や数値目標もない。会社が2026年8月に維持した売上ガイダンスは、2026年通期で1.5〜2.0億ドルである。2035年の利益や株主還元について、会社による数字の約束はない。
資金調達は積極的だ。2026年6月末の現金・制限付き現金は約27億ドルで、7月には額面11.5億ドルの転換社債を発行した。会社発表の調達後の現金残高は37億ドル超だが、借金の調達額を含む。自由に配れる余剰現金ではない。転換社債は現金返済か株式への転換が必要となり、株式報酬も含めて既存株主の取り分を薄める。
会社は90機超の次世代衛星について、製造材料と打ち上げの平均費用を1機2100万〜2300万ドルと見積もる。約90機分の資金は確保できたとするが、衛星の更新費用、地上設備、追加の周波数確保は別の負担である。45〜60機による主要地域の連続通信はなお完成前にあり、2026年の軌道投入失敗は工程管理の難しさを示した。
リガドとの周波数利用権取引は魅力と負担の両方を持つ。条件が満たされれば通信容量を増やせるが、規制認可は未完了で、年間の利用料や追加資金が必要となる。既に取得した周波数権と未成立の取引を混同しない。
2025年末の台帳の自己資本は18.4億ドルだが、Class BとClass Cに対応するAST LLCの経済持分を合わせて会社全体を評価する必要がある。創業者の議決権集中に加え、税務上の節約額の85%を一定の権利者へ支払う税受取契約もある。株主に将来残る利益を判断する際には、事業の成長だけでなくこれらの権利関係も重要だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
世界中の携帯電話を、衛星の追加設備を買わずに接続できる技術には大きな経済価値がある。通常の衛星通信は専用端末やアンテナが必要だった。ASTは既存の携帯電話をそのまま使えるため、通信会社にとって導入の障害が小さい。既に60社を超える通信事業者との関係があり、対象顧客基盤は30億人以上に達する。これは営業先をゼロから探す会社とは異なる出発点である。
2026年には米国の主要な規制認可を取得し、次世代衛星を実際に複数打ち上げた。高い通信能力を持つ大型アンテナは、緊急メッセージだけでなく、音声通話や広帯域通信の提供を可能にする。通信会社が既存契約に衛星通信を組み込めば、利用者は追加の手続きをせずにサービスを使える。世界中に新しい地上基地局を建てる場合と比べ、離れた場所への接続を安く増やせる可能性がある。
将来、米国、欧州、日本、中東の通信会社が衛星通信を標準機能として提供すれば、契約対象の数%が料金を生むだけで大きな売上になる。政府向けの安全保障通信も拡大できる。周波数と地上局の統合が進めば後発企業の参入は難しくなり、衛星の製造費用も量産で下がる。
一度軌道に投入した衛星の能力を多数の利用者で分け合えれば、追加利用者の限界費用は小さい。設備の更新費用を上回る現金が生まれ始めると、利益は売上より速く伸びる。政府・通信会社からの契約を積み重ねた同社が世界的な通信インフラの一部になる可能性は十分ある。
慎重な見方
市場が大きいことは、この会社が勝つことを意味しない。2026年半ばの時点でも衛星通信の本格的な商用売上はなく、収入の大半は地上局装置と政府契約によるものだ。技術実証の成功から、数千万人に安定して通信を提供する事業までには大きな距離がある。通信網を作る間に赤字と資金調達が続き、既存株主の持分も薄まる。
最大の競争相手であるスペースXは、自社で衛星を製造し、ロケットで大量に打ち上げ、既に携帯電話との直接通信を商用提供している。スターリンクの衛星数はASTよりはるかに多い。周波数取得も進めているため、技術とコストの両面で競争は厳しくなる。ASTの大きなアンテナが優れていても、打ち上げ・更新まで含む費用で相手に勝てるかは別の問題だ。
通信会社が強い販売網を提供する代わりに、ASTは価格交渉の主導権を失う。衛星通信が消費者向け契約に無料で含まれるようになれば、利用者が増えてもASTへの支払いは小さい可能性がある。2026年に米国通信大手3社が構想した共同事業も、衛星会社にとっては大口顧客の交渉力を一段と強める仕組みになりうる。
衛星は永久には使えない。運用年数が短ければ定期的な再製造と打ち上げが必要になり、通信量が増えるほど衛星の追加投資も膨らむ。BlueBird 7の失敗は一度の事故で終わるかもしれないが、宇宙事業には常に同じ危険がある。資本政策にも不透明さがあり、支配株主と一般株主の利害が完全には一致しない。事業が生き残っても、株主が期待した利益を得られない危険は大きい。
どちらに重みを置いたか
技術と市場の可能性は高く評価するが、長く持つ株主にとっては慎重な見方が勝る。最大の理由は、本格的な商用売上、価格決定力、衛星更新後の現金収支がまだ実証されていないことだ。確率は楽観10%、やや楽観16%、中立29%、やや悲観25%、悲観20%とし、悲観側を45%へ寄せた。早期の技術成功がそのまま高い投資収益につながるとは見ない一方、大きな成功の余地は楽観側に残した。通信大手とは異なり、完成済みの収益基盤を買う投資ではない。企業価値の見通しに対して現在の値段には安全域が乏しく、結論は割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 35.29 ドル106 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 −2.01 ドル−6 億ドル)。 今の値に割り戻すと 11.78 ドル35 億ドル、今との差 −71.2%、 期待の年率 −2.0%(資本コスト 10.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 176.85 ドル529 億ドル | 8.36 ドル25 億ドル | +352.1% | +16.9% | 18.52 ドル55 億ドル |
| やや楽観 | 16% | 70.42 ドル211 億ドル | −3.34 ドル−10 億ドル | +63.7% | +4.9% | 10.73 ドル32 億ドル |
| 中立 | 29% | 17.45 ドル52 億ドル | −4.68 ドル−14 億ドル | −68.8% | −9.8% | 3.70 ドル11 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 3.61 ドル11 億ドル | −3.01 ドル−9 億ドル | −98.5% | −23.5% | 0.15 ドル0 億ドル |
| 悲観 | 20% | 1.89 ドル6 億ドル | −1.00 ドル−3 億ドル | −97.8% | −27.3% | 0.18 ドル1 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 35.29 ドル106 億ドル | −2.01 ドル−6 億ドル | −18.8% | −2.0% | 33.28 ドル100 億ドル |
今の株価時価総額 40.97 ドル123 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 世界の衛星通信基盤となり、広帯域サービスで大きな利益を生む 利益 43 億ドル · PER 12.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 176.85 ドル529 億ドル
衛星の量産と打ち上げが順調に進み、米国、欧州、日本、中東などで広帯域の直接通信が一般化する。通信会社は衛星接続を有料の上位プランに組み込み、ASTは世界的な卸売回線網として地位を固める。年間の有料換算接続数は2億人に達し、提携事業者の既存顧客約30億人に対して約6.7%となる。年間のAST受取収入は1人60ドルで、通信品質が上がった分の付加価値が料金に反映される。
スペースXのスターリンクも強いが、複数の通信事業者は供給元を一社に依存せず、ASTを主力の一つとして採用する。政府向けは安全保障通信の大型契約へ発展する。2035年の売上は約135億ドル、営業利益は約60億ドルとなり、衛星更新費用を含めても高い利益率が残る。2035年時点の年間成長率は既に一桁へ鈍化している。
2026〜2029年の累計損失約22億ドルを、2030〜2035年の累計利益約167億ドルが上回る。期間中に増資・転換による資金調達を約20億ドル行うが、後半には配当と自社株買いを約50億ドル実施し、株式報酬約5億ドルを引いた正味還元は25億ドルとなる。堀は地上網との統合が進むほど広がり、追加投資の利回りが資本コストを大きく上回る。
- 衛星直接通信サービス(通信事業者向け卸売):数量 200(年間平均の有料換算接続数(百万人))× 価格 60(有料換算1接続あたり年間のAST受取卸売収入(ドル))→ 売上 120 億ドル・営業利益 61 億ドル。提携先の有料換算利用率が約6.7%へ上昇。広帯域の高付加価値通信によって卸売価格は月5ドルとなる。世界の衛星通信市場で主力の一角を占める。
- 政府・安全保障向け通信:数量 40.0(年間に収益認識する政府案件相当件数(件、推定))× 価格 30(1案件相当あたりの年間認識売上(百万ドル))→ 売上 12 億ドル・営業利益 4 億ドル。防衛・政府専用通信の大型契約が増え、年間40案件相当まで拡大する。
- 地上局装置・接続設備・ソフトウエア:数量 75.0(年間納入するゲートウェイ相当設備数(基))× 価格 4.00(1基あたり売上(百万ドル))→ 売上 3 億ドル・営業利益 0 億ドル。新規地域の整備と既存設備の更新が続き、設備一式の高機能化で単価も上がる。
倍率:k10.5%、g4.0%。gは2035年以降の直接通信需要の実質増加約2%、シェア横ばい、競争を受けた卸売単価の名目上昇約2%を合成したものであり、ROEから導かない。2035年の事業ROEは43÷138.4=31.1%。moat=normalで超過収益の残存割合を1/2とするとRONICは20.8%。正当化PERは翌期利益基準で約12.42倍、2035年利益には1.04を掛けて約12.92倍。実際の12.3倍は上限の95%である。衛星技術の成功後にも競争と更新投資が残るため上限そのものにはしない。GAAP利益を用い、株式報酬と償却を足し戻さない。2035年の年間利益成長率は10%以下へ鈍化する想定。
確率:通信事業者60社超との関係と大型アンテナ技術を生かし、世界規模で競争力を確立する余地がある。ただし商用実績のない会社がスターリンクなどを相手に高い卸売価格と十分な利益率を両立するには多くの条件が必要であり、確率は10%に抑える。
やや楽観 16% 有力な衛星通信会社として定着し、収益化が進む 利益 20 億ドル · PER 10.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 70.42 ドル211 億ドル
米国と欧州の主要地域で衛星通信が定着する。日本や中東でも商用サービスが広がり、提携事業者は地上網の補完サービスとしてASTを継続利用する。年間の有料換算接続は1億3500万人となる。ASTの年間受取収入は1人48ドルで、2025年に想定した卸売単価より高いが、広帯域通信の利用料を含むためである。
スターリンクは市場の先頭に立つものの、通信会社は複数の衛星網を組み合わせる。ASTは大型アンテナの能力と既存の契約関係を生かして一定のシェアを守る。政府向けも契約数と案件規模を伸ばす。売上は約74億ドル、営業利益は約27億ドルで、研究開発と衛星更新を続けながら利益を残せる。
2030年までの損失を後半の商用収入で回収し、10年間の累計純利益は45億ドルとなる。成長資金として約20億ドルの増資・転換を行い、後半の株主還元15億ドルと株式報酬5億ドルを差し引くと正味還元はマイナス10億ドルとなる。規制と通信網の統合は参入障壁として残るが、卸売料金を自由に決めるほどの堀にはならない。
- 衛星直接通信サービス(通信事業者向け卸売):数量 135(年間平均の有料換算接続数(百万人))× 価格 48(有料換算1接続あたり年間のAST受取卸売収入(ドル))→ 売上 65 億ドル・営業利益 29 億ドル。有料換算接続1億3500万人。年間卸売収入は1人48ドルで、通信事業者と利益を分け合いながら広帯域通信を提供する。
- 政府・安全保障向け通信:数量 30.0(年間に収益認識する政府案件相当件数(件、推定))× 価格 24(1案件相当あたりの年間認識売上(百万ドル))→ 売上 7 億ドル・営業利益 2 億ドル。政府案件が増え、実証契約から継続的な通信能力の提供へ移る。
- 地上局装置・接続設備・ソフトウエア:数量 65.0(年間納入するゲートウェイ相当設備数(基))× 価格 3.50(1基あたり売上(百万ドル))→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。新規設置と更新で65基相当を納入する。
倍率:k10.5%、g3.7%。長期の成長は衛星直接通信市場の実質数量増約2.5%、ASTのシェアの微減約0.3%、卸売価格の名目上昇約1.5%から説明する。2035年の事業ROEは19.5÷73.4=26.6%。通常の堀の残存割合1/2でRONICは約18.5%。10年目の利益に対する正当化PERは約12.21倍となるため、採用倍率10.8倍は上限の約88%である。通信会社の交渉力と衛星の更新費用を考えて割り引く。純利益は株式報酬を費用に含むGAAP基準。
確率:主要な通信事業者との提携、周波数認可、衛星の製造能力が利益につながる可能性はある。ただしスターリンクとの競争で高い料金を維持することは難しく、楽観ほどのシェアは得ないと考える。確率は16%。
中立 29% 衛星通信の一角を占めるが、価格競争と更新投資が利益を抑える 利益 6 億ドル · PER 9.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 17.45 ドル52 億ドル
2035年には衛星直接通信が携帯電話サービスの一般的な補完機能になる。ASTも米国、欧州、日本などで利用されるが、スターリンクは規模と打ち上げ能力で先行し続ける。世界の通信会社は用途や地域に応じて複数の衛星網を使い分ける。ASTの年間有料換算接続は7500万人で、現在の提携事業者の顧客基盤約30億人の2.5%に相当する。年間卸売収入は1人36ドルとなる。
直接通信の売上は27億ドルで、政府向け4.4億ドル、地上局設備1.65億ドルを加え、全社売上は約33億ドルとなる。規模が大きくなって営業黒字は定着するが、追加衛星と地上設備の更新が続く。全社営業利益は約8.6億ドル、純利益は約5.8億ドルにとどまる。利益の質は改善するものの、通信大手のような安定した現金創出力にはまだ届かない。
初期の赤字約15億ドルを後半の利益約25億ドルが上回り、10年間の累計純利益は10億ドルとなる。追加資本と株式報酬の正味負担は14億ドルで、株主への大きな還元は始まらない。宇宙に通信網を作る技術の価値は認められるが、通信会社の価格交渉力が強く、堀の広がりは限定的である。
- 衛星直接通信サービス(通信事業者向け卸売):数量 75.0(年間平均の有料換算接続数(百万人))× 価格 36(有料換算1接続あたり年間のAST受取卸売収入(ドル))→ 売上 27 億ドル・営業利益 11 億ドル。有料換算接続7500万人、年間卸売収入36ドル。提携先の全顧客が課金対象になるとは考えず、衛星を利用する需要だけを数える。
- 政府・安全保障向け通信:数量 20.0(年間に収益認識する政府案件相当件数(件、推定))× 価格 22(1案件相当あたりの年間認識売上(百万ドル))→ 売上 4 億ドル・営業利益 1 億ドル。政府の通信・安全保障案件が増えるが、競争入札と契約更新で利益率は抑えられる。
- 地上局装置・接続設備・ソフトウエア:数量 50.0(年間納入するゲートウェイ相当設備数(基))× 価格 3.30(1基あたり売上(百万ドル))→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。新しい通信事業者向け設置と既存地上局の更新が続く。設備価格は物価ほど上がらない。
倍率:k10.5%、g3.5%。2035年以降の数量は衛星直接通信市場の実質拡大約2%、ASTの市場シェア横ばい、卸売単価の名目上昇約1.5%で成長を説明する。2035年の事業ROEは5.8÷42.4=13.7%。通常の堀の残存割合1/2からRONICは約12.1%。正当化PERは翌期利益基準で約10.15倍、2035年利益に対しては約10.50倍となる。採用する9倍は上限の約86%であり、未成熟な収益基盤と継続的な衛星更新の負担を反映した。成長率はROEから逆算していない。純利益はGAAPを基準とし、株式報酬を足し戻さない。
確率:通信会社との契約と実証済みの技術に価値がある一方、商用収入と投下資本利益率はまだ実証されていない。競争によって世界市場の一部を確保するが、巨大な独占にはならない状態を中心に考え、確率は29%とする。
やや悲観 25% 商用化は進むが、スターリンクとの競争で収益が伸び悩む 利益 1 億ドル · PER 8.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3.61 ドル11 億ドル
衛星通信の需要は伸びるが、スターリンクが世界の主要な市場を押さえる。ASTは通信会社との既存契約によって一定の利用者を残すものの、広帯域通信の価格競争が厳しくなる。年間の有料換算接続は4000万人にとどまり、卸売収入は1人26ドルまで下がる。通信会社は無料の補完機能として衛星通信を組み込み、追加料金を十分に回収できない。
政府向けの仕事は続くが、大型案件では大手防衛企業やスターリンク関連サービスが競争相手になる。地上局設備も更新中心となる。売上は約13億ドル、営業利益は約2.2億ドルで、純利益は約1.35億ドルとなる。衛星と地上局を維持するための支出が残り、現金の余裕は小さい。
2026年から2030年頃までの累計損失約15億ドルに対し、その後の利益累計は約5億ドルにとどまる。追加の増資・転換と株式報酬の正味負担は9億ドルとなり、株主還元はほぼ実現しない。事業は存続するが、追加投資の利回りは資本コストを下回る。2025年の帳簿資産の多くは10年後には更新が必要で、資産を売っても当初の投資額は戻らない。
- 衛星直接通信サービス(通信事業者向け卸売):数量 40.0(年間平均の有料換算接続数(百万人))× 価格 26(有料換算1接続あたり年間のAST受取卸売収入(ドル))→ 売上 10 億ドル・営業利益 3 億ドル。有料換算接続4000万人。衛星通信の価格競争により実質単価は大きく低下する。
- 政府・安全保障向け通信:数量 12.0(年間に収益認識する政府案件相当件数(件、推定))× 価格 16(1案件相当あたりの年間認識売上(百万ドル))→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。政府案件は維持するが、契約数と平均契約額の伸びが鈍る。
- 地上局装置・接続設備・ソフトウエア:数量 25.0(年間納入するゲートウェイ相当設備数(基))× 価格 3.00(1基あたり売上(百万ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。新規地域の拡大が鈍り、更新案件が中心となる。
倍率:k10.5%、g2.0%。長期の衛星直接通信需要の数量増約2%、ASTのシェア低下約1%、卸売価格の名目上昇約1%による。事業ROEは1.35÷17.4=7.8%で資本コストを下回る。したがって利益ベースのPER上限は1÷k=9.52倍。採用倍率は8倍とし、利益を留保しても資本コストを稼げない低収益事業の価値を抑える。中立の9倍より低い。衛星や通信設備の処分価値は簿価より低いが、時価総額10.8億ドルは売却可能資産の推定床7.2億ドルを上回る。
確率:衛星通信自体は普及しても、ASTが主力事業者になれない可能性は十分にある。スターリンクの規模、通信会社の交渉力、継続的な設備投資を考え、商用黒字化は達成するが資本効率が低い筋書きに25%を割り当てる。
悲観 20% 技術と価格競争に敗れ、衛星事業の縮小・再編に追い込まれる 利益 −2 億ドル · PBR 0.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1.89 ドル6 億ドル
スターリンクなどの競合が安価な直接通信を提供し、ASTは重要な市場の多くを失う。大型アンテナの技術自体は残るが、衛星を量産して打ち上げる総費用が競合を上回る。通信会社は契約の更新時に条件の引き下げを求め、一部は別の衛星網へ移る。ASTの年間有料換算接続は500万人まで減り、年間卸売収入も1人16ドルに下がる。
政府の一部案件と地上設備の保守販売は残るが、売上は約1.6億ドルしかない。衛星を維持する固定費が重く、営業損失は約1.22億ドル、純損失は約1.5億ドルとなる。会社は追加の衛星打ち上げを止め、不要な設備や権利を売却する。技術を必要とする通信会社や宇宙企業への事業売却も検討するが、買収価格を楽観してはならない。
期間の累計損失は約12億ドルで、その中に設備の減損と事業縮小の費用を含む。追加の資本調達による正味の株主負担は3億ドルとなり、自己資本は約9.4億ドルに減る。一般的な通信会社の利益倍率で評価できる事業ではなくなる。売却可能資産から整理費用を引いた約5.6億ドルを価値の床とし、2025年の帳簿自己資本がそのまま残るとは考えない。
- 衛星直接通信サービス(通信事業者向け卸売):数量 5.0(年間平均の有料換算接続数(百万人))× 価格 16(有料換算1接続あたり年間のAST受取卸売収入(ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。有料換算接続500万人。スターリンクなどに主力市場を奪われ、衛星通信の採算が悪化する。
- 政府・安全保障向け通信:数量 5.0(年間に収益認識する政府案件相当件数(件、推定))× 価格 10(1案件相当あたりの年間認識売上(百万ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。政府向けの小規模な既存契約だけが残る。
- 地上局装置・接続設備・ソフトウエア:数量 10.0(年間納入するゲートウェイ相当設備数(基))× 価格 2.60(1基あたり売上(百万ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。既存設備の保守・限定的な更新に縮小する。
倍率:2035年もGAAP純利益が赤字のためPERは使わない。2025年末の自己資本18.4億ドルから、期間の損失12億ドルと正味の資本注入3億ドルを反映すると2035年の自己資本は9.4億ドルとなる。衛星の減損は期間損失に含め、二重計上しない。競争に敗れ、設備や周波数関連資産の譲渡に頼るためPBRは0.60倍とし、時価総額5.64億ドルを得る。これは処分可能な純資産の推定床5.6億ドルをわずかに上回る。過去の市場PBRから倍率を導いていない。
確率:商用通信が期待した規模に達せず、競争相手の通信品質と費用に追いつけない構造的な負けを考える。過去の増資依存、衛星の軌道投入失敗、規制と周波数費用の不確実性が重なるため、確率を20%とする。完全な清算だけでなく、縮小・事業売却による存続を含む。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
衛星直接通信サービス(通信事業者向け卸売)
既存のスマートフォンを衛星へ直接つなぎ、通信会社を通して音声・データ通信を提供する。将来の中心的な継続収益源となる予定だが、2025年には商用サービス売上がまだ存在しない。
| 数量年間平均の有料換算接続数(百万人) | 価格有料換算1接続あたり年間のAST受取卸売収入(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 24 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 75.0 | 36 | 27 | 11 |
取り方:2025年10-KではSpaceMobile Serviceは未開始で売上ゼロ。数量0は実績である。年間24ドルは実績単価ではなく、月2ドルの卸売収入を仮に設定した将来比較用の基準である。T-モバイルの衛星通信の消費者向け追加料金は2026年に月10ドル程度だが、通信会社が料金を徴収し衛星会社に一部を渡すため、ASTの取り分は消費者料金より低いと考える。数量は提携通信事業者の顧客30億人以上を上限とせず、そのうち実際に料金に結びつく年間平均利用者だけを数える。2035年の業界の利用者はオムディアの2030年世界月間利用者4.11億人を起点に考え、通信会社の採用率、衛星容量、地域別認可、競合シェアから推定する。価格の単位は年間ドル、換算係数0.01は百万人×ドルから億ドルへの換算。
政府・安全保障向け通信
米国政府や主契約企業向けに、衛星を用いた安全保障、通信実証、災害対応などのサービスを提供する。技術達成や契約履行の段階に応じて収入を得る。
| 数量年間に収益認識する政府案件相当件数(件、推定) | 価格1案件相当あたりの年間認識売上(百万ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4.0 | 6.63 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 22 | 4 | 1 |
取り方:2025年10-Kのサービス売上2652.9万ドルを政府向け収入の実績とする。案件別の件数と金額は公開されていないため、数量4は複数の政府契約履行を4件相当に換算した推定値であり、正式な受注件数ではない。単価約663万ドルは実績収入を推定件数で割ったもので、厳密な契約単価ではない。2026年8月には政府案件の契約獲得額が累計1.25億ドル超と発表された。将来の件数と単価はこの契約規模に加え、防衛通信などの大型化の可能性を考える。営業利益0.24億ドルは直接原価を引いた概算貢献利益であり、全社共通の研究開発や衛星費用は含めない。
地上局装置・接続設備・ソフトウエア
通信事業者がASTの衛星を自社の携帯通信網につなぐためのゲートウェイ装置とソフトウエアを販売する。新規地域の整備と設備更新が数量を左右する。
| 数量年間納入するゲートウェイ相当設備数(基) | 価格1基あたり売上(百万ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 15.0 | 2.96 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 50.0 | 3.30 | 2 | 0 |
取り方:2025年10-Kの製品売上4438.9万ドルと、同年度に5大陸で15基のゲートウェイを納入した会社の説明を使う。装置売上にはソフトウエア等が含まれるため、1基約296万ドルは設備一式の平均売上であり装置単体価格ではない。2025年の製品原価3303.2万ドルを引いた直接貢献利益は約0.114億ドルで、営業利益の欄では約0.11億ドルとする。研究開発・管理費・衛星費用は全社の共通費に残す。
リスクと懸念
商用化の遅れと衛星打ち上げ失敗
2026年4月のBlueBird 7は予定より低い軌道に投入され、運用を続けられず失われた。2026年4〜6月期には保険回収額を差し引いて約1.26億ドルの損失が計上された。打ち上げ失敗が重なると連続通信の開始が遅れ、契約上の収入認識と設備更新計画が後ろ倒しになる。技術が成立していても、打ち上げの工程は会社だけでは制御できない。
スターリンクとの技術・費用競争
スペースXは自社ロケットと大量の衛星を持ち、既に衛星直接通信を商用提供している。次世代衛星の通信容量と周波数が拡大すると、ASTの大型アンテナの優位性が縮む可能性がある。競争では通信品質だけでなく、打ち上げ費用、衛星寿命、故障率、通信量あたりの費用が効く。長期の市場シェアと卸売単価の両方に下押し圧力が生じる。
通信事業者の価格交渉力
ASTは消費者と直接契約せず、通信会社に衛星回線を卸す。販売網を借りられる利点がある半面、通信会社は卸売料金を低く抑えようとする。衛星通信が携帯料金に無料で含まれると、利用者数は増えてもASTへの追加収入が小さくなる。米国通信大手3社の共同事業構想が進めば、衛星事業者への交渉力はさらに強まる可能性がある。
増資・転換社債と少数株主の取り分
衛星の建設資金は配当や営業キャッシュフローではなく、増資や転換社債で賄われてきた。2026年にも大型の転換社債を発行した。現金が十分に見えても負債の調達額を含み、返済や株式転換の義務は残る。Class BとClass Cに対応する経済持分、創業者の議決権、税受取契約などもあり、会社全体の成長が一般株主の利益増加と同じ割合になるとは限らない。
周波数の許認可とリガド取引
米国の規制認可は大きく前進したが、各国の通信免許や周波数調整は別に必要となる。リガドとの周波数利用権取引にも未充足の条件があり、年間利用料や契約上の支払いが続く。規制の変更、周波数干渉、相手方との訴訟により、予定した帯域が使えなければ通信容量を十分に増やせない。既に投じた資金の回収にも影響する。
衛星更新投資がオーナー利益を食う
低軌道の衛星には運用寿命があり、長期に使う通信網には定期的な再製造と打ち上げが欠かせない。会社が示す次世代衛星の製造材料・打ち上げ費用は1機2100万〜2300万ドルで、地上設備などは別に必要となる。商用利益が伸びても維持更新に現金が消えれば、配当や自社株買いに回る金額は小さい。会計上のROEと現金による投資収益率の差に注意が必要だ。
今後の分かれ目
- 2027年末までに主要市場で連続通信が実現し、有料の利用実績と卸売収入が継続して開示される
- 技術実証から商用事業への移行が確認できる。中立とやや楽観の確率を引き上げ、実際の利用率と卸売単価で2035年の直接通信売上を再計算する。
- 衛星の投入が遅れ、45〜60機の連続通信体制の整備が計画から大きく遅れる
- 売上の立ち上がりと黒字化が遅れ、累計損失と追加資本調達が増える。やや悲観・悲観の確率を上げ、正味還元を一段と低く見直す。
- スターリンクの次世代直接通信の費用がASTを大きく下回り、通信会社が契約を切り替える
- 市場全体が伸びてもASTの数量と価格がともに下がるため、構造的な負けの筋書きを重くする。既存の特許と周波数が価格決定力につながるかを再評価する。
- 提携通信会社の顧客の5%以上が有料換算で利用し、ASTの年間卸売収入が1人48ドルを超える
- 現在のやや楽観以上の需要が見えてくる。衛星容量が対応でき、更新費用を差し引いても利益が残るなら、楽観の確率と長期の収益力を引き上げる。
- 政府向けの年間認識売上が3億ドルを超え、契約更新と利益率が安定する
- 民間携帯通信だけに頼らない収入基盤ができる。政府案件の数量と平均単価を引き上げられるが、単発の大型案件か継続契約かを区別して判断する。
- 商用黒字化後もフリーキャッシュフローが赤字で、追加の増資や転換が続く
- 会計上の成長に対して株主のオーナー利益が不足していると判断する。純利益の増加をそのまま価値へ反映せず、設備更新費用と株式報酬、正味資本調達を厳しく見直す。
見ておくもの
- BlueBird衛星の打ち上げ成功率、軌道投入数、稼働数と故障率
- 主要市場での連続通信の開始時期と、実際に使える地域・通信容量
- 衛星直接通信の商用売上と有料換算接続数、ASTの実際の卸売収入
- スターリンクの直接通信対応衛星数、通信品質、提携通信会社の変化
- 通信会社60社超の提携から正式な有料契約へ転換した件数
- 政府向け契約の獲得額、年間収益認識額、継続契約の割合
- 衛星1機あたりの製造・打ち上げ・更新費用とフリーキャッシュフロー
- 現金、制限付き現金、転換社債、株式報酬、追加増資の正味額
- リガドとの周波数利用権取引の規制認可と費用負担
- Class A・B・Cに対応する経済持分の変化と創業者の議決権
倍率と資本コストの決め方
現在の株価や市場PERを使わず、2035年の有料換算接続数と卸売収入、政府案件、地上局設備の数量と価格から売上を積み上げた。利益率は衛星運用費用、更新投資、通信会社との価格交渉を考えて決めた。倍率はk10.5%、事業ROE、競争優位の残存割合1/2、長期成長率gから正当化PERを出し、楽観から中立にはその約86〜95%を採用した。悲観は赤字のため資産の処分価値で測った。予想純利益はGAAP基準とし、株式報酬を足し戻していない。現在の時価総額は台帳の119億ドルと、交換可能な経済持分を含む市場の約155億ドルで大きく異なる。台帳の株数がClass A中心であることが原因であり、この差を将来の持分比率で二重に割り引いていない。
資本コスト 10.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株の基本8.0%に、事業の質による上乗せ2.5%を加えた10.5%。同じ領域のAT&T、ベライゾン、T-モバイルの8.5%より高い。既に収益を生む全国網を持つ通信大手に対し、ASTは商用収益の実証と衛星建設が残る。エコスターの10.5%とは数字が同じでも理由が異なり、ASTは技術・建設・価格決定力の不確実性を重く見た。資金は当面確保されているため存続危機の特別上乗せは設けず、事業失敗の危険を悲観の確率と深さに反映する。