結論
東京製鐵は、鉄スクラップを電気炉で溶かしてH形鋼・厚板・コイルをつくる国内最大の電炉メーカーだ。筆者の結論は「割高」である。いちばんの理由は、いま稼いでいないことだ。2027年3月期は営業赤字の見通しで、純利益が黒字なのは保有株の売却益のおかげにすぎない。
財務の強さは本物だ。純現金は735億円あり、自己資本比率は75%を超える。ここは倒れない会社だと筆者は見る。ただ、現金の厚みは株価の下値を支えるだけで、事業の価値を押し上げはしない。中国の鋼材輸出がアジアの市況を壊し、国内は建設の工事遅れで需要が細っている。
10年の中立では、国内のH形鋼と厚板の数量が1割ほど減り、薄板は高炉の減産を取り込んで減りを抑える。利益は過去の平均を少し下回る水準に落ち着く。資本コストは基本7.5%に1.5%を足した9.0%とした。
中立の10年後の時価総額は今とほぼ同じ水準にとどまる。10年かけて資本コスト分を稼げないため、本質価値は今より3割強低い。今の値段は先の回復を先取りしすぎていると見ている。ただし、高炉の撤退が進み電炉の薄板が主役になる展開は、楽観側の筋書きとして残した。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の本質価値はいま稼ぐ力に比べて高く見積もられていると考える。
良い点は、倒れないことだ。無借金で現金が厚く、谷でも事業を続けられる。事業がうまくいかない時に会社が消えてしまう心配は小さい。
悪い点は、稼ぐ力が弱いことだ。鋼材は規格品で、堀と呼べる強みは薄い。10年たっても、いまより強い事業になっている確信が持てない。ROEは資本コストを下回り、ため込んだ現金は事業の稼ぎを薄めている。現金は戻らないかぎり、株主にとって帳簿の額どおりの価値にならない。
資本配分も評価しきれない。設備投資に営業CFの半分を回してきたが、投資の成果は利益に出ていない。経営は無理な買収には走らないが、現金の使い道を示してもいない。安全域は、純現金を除いた事業の値段が低いときにだけ生まれる。いまの値段は、先の回復を一部先取りしていると見ている。
何で稼ぐ会社か
東京製鐵の稼ぎの源は、鉄スクラップを電気炉で溶かして鋼材にする一本の事業だ。鉄鉱石から鉄をつくる高炉メーカーと違い、解体した建物や廃車の鉄を原料にする。
製品は大きく二つある。一つは建設向けの形鋼と厚板だ。H形鋼は1969年に電炉で初めて供給を始め、いまも生産量は国内トップに立つ。厚板は2007年に参入し、国内シェアは7%ほどだが、電炉の厚板では中部鋼鈑と二分する。もう一つは薄板で、1991年に電炉として国内で初めてホットコイルの量産に入り、酸洗・めっき鋼板へ広げた。
工場は田原(愛知)・岡山・九州(北九州)・宇都宮の4か所に分かれ、電炉の拠点が全国に鋼材を届ける体制だ。2026年3月期の販売量は約276万トンで、うち輸出は35万トンほど。国内の需要が弱いと、輸出で数量を調整する。
稼ぎ方の特徴は、原料が国内に余るスクラップであることだ。鉄スクラップは1990年代後半から国内で消費しきれず輸出される状況が続いており、電炉にとって原料は買いやすい。その代わり電力を大量に使い、電力価格が採算を左右する。
優良さと弱いところ
堀は薄いと筆者は見る。H形鋼の国内首位は誇れる地位だが、鋼材は規格品で、値段は市場とスクラップ価格が決める。高炉メーカーや輸入材に常に競われ、価格を自分で決める力は弱い。
強みは別のところにある。一つは資本の使い方だ。借金に頼らず、純現金を積み上げて谷を耐える経営を続けてきた。2013年3月期には大きな赤字を出したが、財務は持ちこたえている。もう一つは、電炉の設備で薄板まで手を広げた技術と投資の先行だ。
弱みもはっきりしている。10年の営業CFのおよそ半分を設備投資に回してきたが、それで稼ぐ力が高まったかは疑わしい。2026年3月期のROEは5%台で、資本コストを下回る。ため込んだ現金も、株主に十分戻っていない。
堀の薄さと資本の使い方の弱さを、財務の強さが帳消しにしているだけだ。優れた会社とまでは言えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鉄鋼は、人口減と建設の先細りで数量が構造的に縮む。電炉の中でも建設向けが多い東京製鐵は、その影響を直接受ける。工事の遅れが続き、足元の出荷は落ちている。
外から来る圧力はもっと厳しい。中国は過剰な生産能力を輸出で吐き出し、アジアの鋼材市況を押し下げている。日本の電炉は輸出の逃がし先を失い、国内向けにも安い鋼材が入ってくる。電力の値上がりも、電炉のコストを直接押し上げる。
追い風もある。高炉メーカーは老朽高炉の休止を進め、脱炭素のために電炉への転換を模索している。厚板やコイルの国内供給に穴が空けば、電炉に需要が回る可能性がある。日本製鉄とJFEスチールが厚板で38%ずつ、東京製鐵が7%という現状は、電炉が取れるシェアの余地を示している。
競合は大きく三つに分かれる。高炉メーカー、国内の電炉の同業(共英製鋼・大阪製鐵・中部鋼鈑など)、そして輸入材だ。東京製鐵は薄板で高炉と、形鋼で電炉同士と戦っている。縮む市場で稼ぎ続けるには、シェアを取るしかない。分かれ目は、高炉の撤退がどこまで進むかである。
資本政策と M&A
資本の使い方は堅実だが、積極的とは言えない。純現金735億円を抱え、自己資本比率は75%を超える。配当は純利益の4割強にあたる水準で、赤字でも下限を割らせない姿勢だ。自社株買いも折々に実施してきた。
2026年3月期の純利益116億円は、保有株の売却益が押し上げている。実力の利益はもっと小さい。持ち合い株を手放して現金化する動きは、資本効率の面ではよい兆しだ。
M&Aには動かない。自力で設備を更新し、薄板や厚板に参入してきた会社だ。TOBの標的になる可能性は低くない(kabufuの試算では10年以内に2割ほど)が、純現金の厚みと国内の鉄づくり拠点という性格から、買う側には重い買い物になる。筆者は、買収よりも現金の使い道を問われる局面が先に来ると見る。中期経営計画の数値目標は確認できなかった。
政策保有株の含み益(評価差額金114億円、税引き後)は、半分だけ価値に足した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
高炉の撤退が、電炉にとって10年に一度の好機になる。日本製鉄やJFEスチールが老朽高炉を休止すれば、薄板と厚板の供給に穴が空く。東京製鐵は岡山・田原・九州に電炉の薄板設備をすでに持ち、受け皿になれる。H形鋼は国内首位で、建設が縮んでも維持更新の需要は残る。
足元の赤字は、中国材の流入と工事の遅れという一時的な理由による。鋼材市況は循環で、谷の次には山が来る。2022年3月期から2024年3月期は営業利益が300億円を超えた。財務は純現金735億円で、谷でも投資と配当を両立できる。
脱炭素が進むほど、スクラップを使う電炉の価値は上がる。炭素の価格付けが広がれば、高炉との費用差は縮む。この追い風が10年続けば、利益は過去の平均を物価の分だけ上回る。
東京製鐵は国内で唯一、H形鋼から厚板、コイルまで電炉でそろえる。設備はすでに償却が進み、需要が戻れば利益は一気に増える。自己資本比率75%の財務は、その日まで待つ体力を意味する。
慎重な見方
気になるのは、稼ぐ力そのものが弱いことだ。営業利益は2026年3月期に72億円まで落ち、次の期は赤字の見通しである。ROEは5%台で資本コストを下回る。これは谷の一時的な落ち込みというより、鋼材が規格品で、中国の過剰生産に値段を決められている結果だ。
国内の建設は人口減で縮む。H形鋼と厚板の数量は10年で1割以上減る。高炉の撤退が薄板に回すと言っても、それは日本製鉄やJFEスチールが電炉への切り替えを自分で進めない場合に限る。高炉メーカー自身が電炉を建てれば、東京製鐵の取り分は消える。
輸出は中国材との競合で赤字だ。電力は高止まりし、スクラップは国内の同業と取り合いになる。純現金735億円は強みだが、事業の稼ぎを薄め、株主にも十分戻っていない。現金は稼ぐ力を薄めている。
保有株の売却益が純利益を支える構図も、本業の弱さを覆い隠しているにすぎない。売る株がなくなれば、赤字は純利益にもそのまま出る。強気の見方が言う『谷の次の山』は、構造が変わらないかぎり来ない。
どちらに重みを置いたか
筆者の判断は、慎重な見方に重みを置く。強気の見方の根拠である高炉の撤退は確かに起きうる。しかし、それが東京製鐵の取り分になるかは、高炉メーカー自身の電炉への転換次第で、会社は決められない。一方、慎重な見方の根拠である国内の縮小と中国材の圧力は、いま数字に出ている。
確率は、中立を35%、やや悲観を22%、悲観を13%とし、楽観側は合わせて30%にとどめた。10年の悲観は、電炉の供給過剰で稼げない会社になる筋書きだ。純現金が床を支えるので、悲観でも会社は残る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,409 円2,439 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 616 円624 億円)。 今の値に割り戻すと 1,535 円1,555 億円、今との差 −9.9%、 期待の年率 +5.9%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,580 円4,637 億円 | 988 円1,000 億円 | +226.5% | +12.6% | 557 円564 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,369 円3,411 億円 | 770 円780 億円 | +142.8% | +9.3% | 828 円838 億円 |
| 中立 | 35% | 2,705 円2,739 億円 | 612 円620 億円 | +94.6% | +6.9% | 1,161 円1,176 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,153 円1,167 億円 | 474 円480 億円 | −4.6% | −0.5% | 358 円362 億円 |
| 悲観 | 13% | 593 円600 億円 | 346 円350 億円 | −45.0% | −5.8% | 122 円124 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,409 円2,439 億円 | 616 円624 億円 | +77.5% | +5.9% | 3,026 円3,063 億円 |
今の株価時価総額 1,705 円1,726 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 薄板で高炉の穴を埋め、国内の主役になる 利益 292 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 4,580 円4,637 億円
高炉の撤退が進み、国内の薄板市場に穴が空く10年になる。日本製鉄やJFEスチールが老朽高炉を畳むたびに、電炉のホットコイルとめっき鋼板に注文が回る。東京製鐵は岡山・田原・九州の3拠点でその受け皿になり、薄板の出荷を伸ばす。国は建築物の脱炭素を後押しし、輸入材への規制も強まって、国内の値段が守られる。H形鋼と厚板は建設の縮小を受けて数量こそ横ばいだが、値上げが通って利益率が上がる。輸出は採算品に絞って伸ばす。スクラップは国内で余り続け、原料は安く手に入る。会社はためた現金で設備を更新しつつ、還元も厚くする。電炉が日本の鉄の主役に近づく、最良の姿だ。
- 形鋼・厚板(建設向け):数量 100(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 15(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,508 億円・営業利益 166 億円。数量1.00倍、価格1.45倍、利益率11.0%
- 薄板(ホットコイル・めっき):数量 162(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 14(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 2,256 億円・営業利益 203 億円。数量1.15倍、価格1.45倍、利益率9.0%
- 輸出:数量 42.0(鋼材出荷量(万トン))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 499 億円・営業利益 15 億円。数量1.20倍、価格1.45倍、利益率3.0%
倍率:事業の純利益 285 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)514 億円。全体の PER 14.25 倍、時価総額 4,577 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:高炉の撤退を電炉が取り込み、価格も守られる最良の姿。10年の間に複数の追い風が重なる必要があり、確度は高くない。
やや楽観 20% 国内の縮小を薄板の拡大が上回る 利益 220 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,369 円3,411 億円
国内の縮小を、薄板のシェア拡大が上回る10年になる。H形鋼と厚板は建設の先細りで数量が1割ほど減るが、薄板は高炉の減産分を一部取り込み、数量が増える。鋼材の値段は物価並みか少し上を保つ。中国からの安い鋼材は残るものの、アジアの市況が最悪期を抜け、輸出の採算も戻る。電力の値段は高止まりするが、スクラップとの値差を製品価格へ移せる。会社は設備投資と還元を両立し、財務の厚みを保つ。今の苦境は循環の谷だったと振り返る展開で、利益は過去の平均を物価の分だけ上回る。ただし価格を決める力が弱い商品である点は変わらない。
- 形鋼・厚板(建設向け):数量 94.0(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 14(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,349 億円・営業利益 128 億円。数量0.94倍、価格1.38倍、利益率9.5%
- 薄板(ホットコイル・めっき):数量 148(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 13(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,962 億円・営業利益 147 億円。数量1.05倍、価格1.38倍、利益率7.5%
- 輸出:数量 38.5(鋼材出荷量(万トン))× 価格 11(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 436 億円・営業利益 9 億円。数量1.10倍、価格1.38倍、利益率2.0%
倍率:事業の純利益 213 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)514 億円。全体の PER 13.22 倍、時価総額 3,333 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:薄板のシェア拡大が国内の縮小を上回る。業界の見通しの上位レンジで、会社の設備と財務の余力から現実味はあるが、価格の決定力が弱く上振れを確率で厚くできない。
中立 35% 縮む国内を、薄板のシェアでしのぐ10年 利益 172 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,705 円2,739 億円
国内の建設は縮み、H形鋼と厚板の数量は10年で1割ほど減る。一方、薄板は高炉の減産を受けて少しずつ取り込み、減りを小さく抑える。鋼材の値段は物価並みに上がるにとどまり、中国の過剰生産が上値を押さえる。電力の値上がりは製品価格へ移せるときと移せないときが交互に来る。利益率は過去の平均より少し低い水準に落ち着き、赤字の期はたまに出る。会社は純現金を保ち、配当を下限にして余力で自社株買いを足す。堀の薄い商品で食いつなぐ、地味だが崩れない10年だ。今の赤字は谷として扱うが、谷が長引く期も途中に混じる。輸出は採算を見て数量を抑え、国内向けの比率が少しずつ上がる。投資は更新が中心で、大型の新設は見送られる。電炉の同業との再編はなく、各社が縮む市場を分け合う形が続く。
- 形鋼・厚板(建設向け):数量 88.0(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 14(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,226 億円・営業利益 104 億円。数量0.88倍、価格1.34倍、利益率8.5%
- 薄板(ホットコイル・めっき):数量 130(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 13(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,669 億円・営業利益 109 億円。数量0.92倍、価格1.34倍、利益率6.5%
- 輸出:数量 35.0(鋼材出荷量(万トン))× 価格 11(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 385 億円・営業利益 4 億円。数量1.00倍、価格1.34倍、利益率1.0%
倍率:事業の純利益 165 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)514 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 2,570 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界ノートの中立線(国内の出荷は年1〜2%の縮小、価格は物価並み)に沿う。会社固有の固定費の重さと、中国材の圧力を織り込んだ落としどころ。
やや悲観 22% 輸入材と空洞化で利益が細る 利益 84 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,153 円1,167 億円
輸入材と国内の空洞化が利益を細らせる10年になる。中国の鋼材輸出が東南アジアから日本向けに広がり、薄板と形鋼の値段が下がる。建設は人手不足で工事が遅れ続け、H形鋼と厚板は数量が2割落ちる。電炉各社の供給余力が積み上がり、価格競争が常態になる。東京製鐵は設備を維持するために投資を続けるが、稼ぎは伸びない。輸出は採算が悪く、縮小に向かう。現金はためたまま使い道が決まらず、還元は下限にとどまる。利益率は薄く、景気の谷では赤字が目立つ。事業は残るが、稼ぐ力は物価の分すら追いつかない。保有株の売却益も尽き、利益の底上げ役がいなくなる。国内の電炉同士の値引きが激しくなり、薄板で取り込んだはずのシェアも採算を割る。
- 形鋼・厚板(建設向け):数量 80.0(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 13(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,065 億円・営業利益 53 億円。数量0.80倍、価格1.28倍、利益率5.0%
- 薄板(ホットコイル・めっき):数量 120(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,472 億円・営業利益 44 億円。数量0.85倍、価格1.28倍、利益率3.0%
- 輸出:数量 31.5(鋼材出荷量(万トン))× 価格 10(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 331 億円・営業利益 −3 億円。数量0.90倍、価格1.28倍、利益率-1.0%
倍率:資本コスト8%。余った現金を除いた事業のROE3.9%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.1倍で、その約7割の7.5倍に置く。稼ぐ力は伸びない構造的な負けの入口なので、中立よりかなり低く置く。
確率:中国材の流入が日本向けにも広がる。足元の営業赤字がすでにその兆しで、強い方の意見は慎重な見方にある。確率をやや悲観側に寄せた。
悲観 13% 電炉の供給過剰で、稼げない会社になる 利益 5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 593 円600 億円
電炉の供給過剰で、稼げない会社になる。建設需要の縮小は想定より速く、H形鋼と厚板の数量が3分の1減る。薄板は高炉と中国材の挟み撃ちで値段が下がり、シェアも伸びない。電炉の設備は余り、各社が値下げで数量を取りにくる。東京製鐵は薄板の稼働を落として値崩れを防ごうとするが、固定費が重く赤字が続く。輸出は撤退に近い規模へ縮む。財務は無借金で崩れないものの、ため込んだ現金を赤字の穴埋めと設備の老朽更新で取り崩す。配当は減り、持ち合い株の売却で形を保つ。10年たっても、鉄をつくる会社として残るが、優良さは失われている。
- 形鋼・厚板(建設向け):数量 65.0(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 777 億円・営業利益 8 億円。数量0.65倍、価格1.15倍、利益率1.0%
- 薄板(ホットコイル・めっき):数量 91.7(鋼材出荷量(万トン、推定))× 価格 11(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,012 億円・営業利益 −10 億円。数量0.65倍、価格1.15倍、利益率-1.0%
- 輸出:数量 21.0(鋼材出荷量(万トン))× 価格 9.43(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 198 億円・営業利益 −8 億円。数量0.60倍、価格1.15倍、利益率-4.0%
倍率:純現金が厚く稼ぐ力は弱い。悲観の価値は稼ぐ力(純利益÷k)より、純現金と売れる資産の税引き後を今の自己資本に掛けた床が大きい。今の自己資本2221億円に0.27倍で約600億円。構造的な負けなので純現金の約8割を床に置いた。
確率:電炉の供給過剰が価格競争を常態にし、会社が稼げなくなる構造的な負け。足元で営業赤字に入っており、10年の間に起きる確率は無視できないので13%に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
形鋼・厚板(建設向け)
岡山・田原・九州・宇都宮の電炉で、H形鋼・鋼矢板・厚板など建設・土木向けの構造用鋼材をつくる。H形鋼の生産量は国内トップ。
| 数量鋼材出荷量(万トン、推定) | 価格鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 10 | 1,040 | 50 |
| 10 年後 中立 | 88.0 | 14 | 1,226 | 104 |
取り方:形鋼・厚板の販売量は開示がないため推定。国内出荷241万トンのうち構造用(H形鋼・鋼矢板・厚板・形鋼)をおよそ100万トンとみて置いた。1万トン当たり10.4億円(トン約10.4万円)。営業利益は全社72億円のうち、構造用の採算が相対的に良いとみて50億円を割り当てた推定。
薄板(ホットコイル・めっき)
電炉でホットコイル、酸洗コイル、溶融亜鉛めっきコイルをつくり、国内の建材・家電・自動車周辺・物流向けに売る。1991年に電炉として初めて量産に入った。
| 数量鋼材出荷量(万トン、推定) | 価格鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 141 | 9.60 | 1,354 | 30 |
| 10 年後 中立 | 130 | 13 | 1,669 | 109 |
取り方:国内出荷241万トンから構造用100万トンを引いた141万トンを薄板とみた推定。単価は9.6万円/トン。営業利益は30億円と推定。
輸出
アジア向けを中心に鋼材を輸出する。国内の需要が弱いときに数量を調整する逃がし先だが、中国材と競合し採算は悪い。
| 数量鋼材出荷量(万トン) | 価格鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 8.20 | 287 | −10 |
| 10 年後 中立 | 35.0 | 11 | 385 | 4 |
取り方:輸出348千トンを35万トンとして置いた。単価は国内より低い8.2万円/トンと推定。営業利益は中国材との競争で赤字とみて-10億円と置いた推定。
リスクと懸念
中国の鋼材輸出と国内への流入
中国は過剰な生産能力を輸出に回し、アジアの鋼材市況を押し下げている。輸出の採算は悪化し、安い鋼材は日本向けにも入ってくる。国内の値段が崩れれば、薄板・形鋼の利益率が長く戻らない恐れがある。
国内の建設需要の縮小と工事の遅れ
人口減と人手不足で建設工事の遅れが続き、H形鋼と厚板の出荷が細る。中立でも10年で1割ほどの減少を置いた。建設投資が一段と落ちれば、固定費の重い電炉は稼働が下がり赤字が続く。
電力コストの上昇
電炉は電力を大量に使う。電力価格が上がっても、規格品の鋼材は値段を移しにくい。製品への転嫁が遅れる期間は利益を直接削り、スクラップとの値差が縮むと採算が悪化する。
高炉メーカーの電炉への転換
日本製鉄やJFEスチールが老朽高炉の休止にあわせて自ら電炉を建てれば、東京製鐵が高炉の撤退を取り込む筋書きは成り立たない。電炉の供給能力が過剰になり、値下げ競争を招く恐れもある。
ため込んだ現金の使い道
純現金735億円は事業の稼ぎを薄めている。使い道が決まらないまま積み上がれば、投資の失敗や非効率な設備投資で価値を壊す危険がある。株主への還元の割合も高くはない。
保有株の売却益に頼る利益
2026年3月期の純利益は保有株の売却益が押し上げ、2027年3月期予想の黒字もその売却益による。本業の稼ぐ力は営業赤字で、売却益は一回限りのため、利益の質は見かけより低い。
今後の分かれ目
- 高炉メーカーが老朽高炉の休止を具体化し、電炉への転換ではなく調達の拡大を示したら
- 薄板の取り込みが現実になる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 高炉メーカーが自ら大型電炉を建設すると発表したら
- 電炉の供給過剰が近づく。やや悲観・悲観に確率を寄せる。
- 中国の鋼材輸出が減り、アジアの市況が戻ったら
- 輸出の採算が改善し、国内の値段も持ち直す。2028年3月期の黒字化が早まる。
- 電力価格がさらに上がり、製品への転嫁が遅れたら
- 利益率が下がり、中立の営業利益を下回る。慎重な見方に重みを置く。
- 会社が純現金の使い道を示し、自社株買いや還元を大きく増やしたら
- 余った現金の戻り方の見立てを上げられる。価値の見積もりが上向く。
- 建設投資が景気後退で急減したら
- 悲観の筋書きが近づく。固定費の重さで赤字が続く可能性を見直す。
見ておくもの
- 四半期ごとの営業利益と、国内・輸出の販売量
- 中国の鋼材輸出量とアジアの鋼材市況
- 日本製鉄・JFEスチールの高炉休止と電炉転換の発表
- 電力価格と、スクラップとの値差
- 保有株の売却と、自社株買い・配当の方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は資本コスト8%(基本7.5%に品質+1.5%)と事業のROEから、上限(1÷kまたは正当化PER)の7〜9割に置いた。悲観は純現金と売れる資産の床で、今の自己資本に掛けた。今の株価・過去のPBR・同業の倍率からは置いていない。今の株価が倍でも半分でも価値の数字は動かない作りにした。数量と価格は推定で、形鋼・厚板と薄板の内訳は開示がないため試算である。政策保有株の含み益は評価差額金の半分だけ余った資産として足し、その利息分を純利益から引いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質+1.5%を足した9.0%(β・規模は使わない)。個別の懸念は筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.00%。