結論
中部鋼鈑は、名古屋の工場で厚板を作る電炉メーカーだ。厚板は橋やビル、建設機械の骨組みに使う厚い鋼板で、これを電炉で専業で作る会社は国内に他にない。筆者の結論は「やや割高」である。財務は鉄壁だが、稼ぐ力が資本の大きさに見合っていない。
強みは立地と専業の身軽さにある。中部・関東・関西の3大都市圏にトラックで届き、スクラップの調達も出荷も有利だ。国内の厚板は高炉3社が8割超を握る。その高炉が造船の細りで設備を畳みはじめ、電炉が埋める余地が生まれている。
弱みは利益の薄さだ。2025年1月の爆発事故で製鋼を約2か月半止め、2026年3月期の営業利益は9億円まで落ちた。新しい電気炉が動き、4直3交代で増産に入ったが、下がった鋼材の値段はまだ戻っていない。
現預金と有価証券は合わせて約250億円ある。時価総額の4割を超える額だが、利息と配当は年3億円ほどしか生まない。資本コストを8%台と見れば、積み上げた資本を活かせていないことになる。
10年後の中立の姿は、数量が増えても営業利益率は6%台で、ROEは資本コストに届かない。筆者は、財布は厚いが稼ぎは細い会社だと見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社をどう見るか。事業は好ましい。国内唯一の電炉厚板専業で、立地に根ざした小さな堀がある。借金がなく、事故のような一撃にも耐えた。
気がかりは資本の配分だ。自己資本は750億円あるのに、稼ぎは営業利益で10億円前後の年もある。現預金と有価証券の合計は約250億円で、時価総額の4割を超え、そこから年3億円ほどしか入らない。オーナーの立場なら、この金は事業に使うか、株主に返してほしい。
安全域は確かにある。構造的に負ける筋書きでも、売れる資産が値段の足場になる。ただ、足場があることと、価値が足場より上にあることは別の話だ。事業が資本コストを稼げない限り、積んだ資本は帳簿どおりの価値にならない。
筆者は、持ち続けたい事業だが、今の値段を払うほどの余裕はないと考える。増産が実り、メタルスプレッドが事故前の水準に戻る筋書きは十分ありうる。ただその筋書きですら、利益が資本コストを大きく超えるところまでは行かない。
何で稼ぐ会社か
事業は一本、鉄スクラップを電気炉で溶かし、厚板に仕上げて売ることだ。
厚板は厚さ6ミリ以上の鋼板で、建設機械や産業機械、ビルの柱、橋に使う。連結売上の9割台半ばを鉄鋼関連事業が占め、残りは運送や賃貸などの周辺事業だ。
工場は名古屋市中川区の本社工場ただ1つ。製鋼から圧延までを一つの敷地でつなぎ、都市の真ん中でスクラップを買い、近くの顧客に翌月出荷を基本として届ける。出荷の4割は中部、2割強が関東、2割が関西で、半径300キロの圏内に8割強が収まる。
用途は産業機械・建設機械、建築・土木、問屋経由の店売りが中心だ。造船向けはほとんどない。産業機械向けのシェアが高いと会社は説明する。
販売量は2024年3月期に52万トンだった。事故で大きく落ち込んだあと、2026年3月期は前期比13.7%増に戻した。2027年3月期は約60万トンを計画する。2024年10月に完成した新電気炉は投資額が約80億円で、電力の使用量を15%減らす。2026年4月からは製鋼を4直3交代にして、24時間動かしている。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、技術の独自性よりも、立地と専業の組み合わせにある。
国内で電炉の厚板を専業で作る会社は他にない。多額の設備投資と熟練の技、スクラップの購買網がそろわないと参入できず、新規の競合は出にくい。電炉の主要10社で比べた営業利益率は、2022・23年度とも1位だったと会社は説明する。
一方、堀は狭い。厚板の値段は高炉の建値に引っ張られ、値上げも値下げも高炉の動き次第だ。工場は1か所で、2025年1月の事故が示したとおり、止まれば売上が丸ごと止まる。売上は500億円規模と小さく、スクラップや電力の値上がりを値段に移すのに時間がかかる。
資本の使い方は、ここまで保守的すぎた。自己資本比率は9割近くあり、過去10年のROEの中央値は3.8%にとどまる。ただ、経営は変わりつつある。配当を利益に連動させる方式から、純資産に対して一定率を払う方式に改め、政策保有株の売却も進めている。
堀の強さは普通と見る。長く続く力はあるが、価格を自分で決められる会社ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鉄鋼需要は構造的に細っている。2025年度の粗鋼生産は8,033万トンと、1968年度以来の低さだった。人口減と建設の弱さ、製造業の海外移転が重なっている。
厚板では、需要の細りより供給の細りのほうが速い。会社の推計では、国内の厚板の需要は2021年度の900万トンから2026年度に860万トンへ減る。造船が240万トンから160万トンへ縮む一方、土木・建築は160万トンから200万トンへ増える。高炉の供給は同じ期間に110万トン減る。この差が、電炉の取り分になる。
厚板は電炉の比率が14%にすぎない。高炉が設備を畳むほど、脱炭素を求める建設会社は電炉の厚板に向かう。電炉法のCO2は高炉の約5分の1だ。
競合は日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の高炉3社と、電炉の東京製鐵、中山製鋼所である。2022年度の国内シェアは中部鋼鈑が約6%。中山製鋼所には半製品のスラブを供給していて、競合であり顧客でもある。
脅威は2つある。1つは中国の過剰生産で、世界の需給ギャップは2026年に6.3億トンへ広がる。厚板は今のところ輸入の影響が小さいが、円高になれば荒れる。もう1つは、スクラップや電力が上がるのに厚板の値段が追いつかない局面だ。2026年3月期はまさにこれで、単価が11.7%下がり、利益が薄くなった。
資本政策と M&A
還元は手厚いが、利益を超えている。配当の基準は、純資産に対して3.5%を払う方式で、業績が悪くても減らさない仕組みだ。2027年3月期の配当は約30億円と、会社の純利益予想の3倍を超える。
この払い方はこれまで手元資金で賄えた。ただ、資金は2025年3月期末の214億円から、2026年3月期末は129億円に減った。増産に伴う売上債権と在庫の積み増しが主因だ。
政策保有株は少しずつ手放している。2026年3月期は投資有価証券の売却益が4.8億円、売却と償還の収入が86億円あった。残る投資有価証券は約118億円である。
大株主は三井物産スチールが9%、取引先の持株会が6%で、商社や取引先が並ぶ。支配株主はいない。
買収は、買う側としての具体的な動きは確認できない。買われる側の可能性は、小型で純資産に対して株価が安く、現金が厚い点から、筆者は否定できないと見る。kabufuの試算では、10年以内に買収される確率は約2割だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
厚板の電炉化は、まだ入口に立ったところだ。国内の厚板の約86%は高炉が作っている。その高炉が造船の細りを受けて設備を畳み、2021年度から2026年度で供給が110万トン減る。需要の減りは40万トンにとどまる。差し引き70万トンの穴を、脱炭素を求める建設会社が電炉の厚板で埋めに来る。
会社はこの波に備えて、新電気炉を2024年10月に動かし、2026年4月から製鋼を4直3交代にした。事故前の52万トンは通過点で、80万トン、さらに100万トンという目標が現実味を帯びる。輸出もアジア向けで四半期に1.2万トンが決まり、年5万トン規模の新しい販路が見えてきた。
利益の面でも余地がある。2023年3月期には営業利益123億円、営業利益率16%を出した実績がある。メタルスプレッドが戻れば、固定費が薄まる増産局面でこの水準に近づく。
さらに、自己資本750億円のうち約250億円は金融資産で、時価総額の4割を超える。株価は純資産を大きく下回る。経営は時価総額1,000億円を掲げており、自社株買いや増配で資本の効率を直す余地は大きい。
慎重な見方
数量が増えても、利益は増えない。厚板の値段は高炉の建値に従い、スクラップや電力の上昇は後から値段に乗る。2026年3月期は販売量が13.7%増えたのに、単価が11.7%下がり、営業利益は66%減った。増産が利益に直結しないことを、この1年がすでに示している。
高炉の撤退で生まれる穴も、あてにならない。国内の厚板需要は人口減と造船の縮みで細り、高炉が設備を絞れば絞るほど、残った高炉は稼働率を守るために値段を下げて取りに来る。電炉が取れる分は、思うほど多くない。2025年度の国内粗鋼は57年ぶりの低水準だ。
営業利益率16%の2023年3月期は、メタルスプレッドが例外的に開いた年の数字である。過去10年のROEの中央値は3.8%で、資本コストをずっと下回ってきた。
工場は1か所しかなく、事故が起きれば売上が止まる。2027年3月期の配当は約30億円で、純利益予想の3倍を超える。この払い方を続ければ、積み上げた現金はいずれ運転資金の増加に消えていく。現金が厚いことは、儲かることとは別の話だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが一歩強い。数量が戻ることは強気の見方のとおり確かだが、それが営業利益率の回復と同じ意味にはならない。この会社は過去10年のうち7年、営業利益率が10%に届かなかった。さらに、利益が回復しても、自己資本が大きく、ROEが資本コストを超えにくい。
このため確率は慎重側に寄せた。10年の筋書きは、楽観とやや楽観を合わせて約3割、やや悲観と悲観を合わせて約3.5割とした。厚い金融資産が構造的な負けの床になる点は評価し、悲観の確率を1割強にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,422 円641 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 971 円257 億円)。 今の値に割り戻すと 1,810 円479 億円、今との差 −16.8%、 期待の年率 +4.5%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,514 円1,459 億円 | 1,398 円370 億円 | +217.6% | +12.3% | 553 円146 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,543 円938 億円 | 1,209 円320 億円 | +118.4% | +8.1% | 950 円252 億円 |
| 中立 | 37% | 2,586 円685 億円 | 1,077 円285 億円 | +68.3% | +5.3% | 1,355 円359 億円 |
| やや悲観 | 23% | 947 円251 億円 | 756 円200 億円 | −21.8% | −2.4% | 392 円104 億円 |
| 悲観 | 12% | 813 円215 億円 | 378 円100 億円 | −45.3% | −5.8% | 143 円38 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,422 円641 億円 | 971 円257 億円 | +55.9% | +4.5% | 3,393 円898 億円 |
今の株価時価総額 2,176 円576 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 増産が実り、厚板の電炉化が進む 利益 94 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 5,514 円1,459 億円
高炉が厚板の設備を畳み、電炉が穴を埋める流れが10年続く。新電気炉と4直3交代が生き、販売量は80万トン前後へ伸びる。アジア向けの輸出も年5万トン規模の柱になる。
値段は物価を上回って上がる。脱炭素を求める建設会社が電炉の厚板に価値を認め、高炉との値差が縮むからだ。固定費が薄まり、営業利益率は10%に届く。
資本の使い方も改まる。余った資金は自社株買いと増配に回り、自己資本の積み上がりが止まる。それでもROEは10%に迫り、資本コストをやっと超える。
事故のような再発もなく、スクラップと電力の値上がりも値段に移せる。何もかもうまく回った10年の姿である。
- 鉄鋼関連事業(厚板・スラブ):数量 80.0(鉄鋼製品販売量(万トン、厚板+スラブ))× 価格 15(1トン当たり販売単価(万円、名目))→ 売上 1,209 億円・営業利益 121 億円。販売量が事故前の5割増し。単価は物価を上回って上昇。営業利益率10%
倍率:事業の純利益 93 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 14.68 倍、時価総額 1,459 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:高炉の撤退、新電気炉、輸出、メタルスプレッドの回復が10年間そろう必要がある。経営が掲げた100万トンに近い姿で、確度は高くない。
やや楽観 20% 増産は進み、利益率は事故前の6割 利益 66 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,543 円938 億円
販売量は72万トンまで伸びる。高炉の撤退が続き、電炉の厚板の取り分が少しずつ広がる。輸出は景気次第で増減するが、アジア向けが年3万トンほど積み上がる。
値段は物価並みに上がる。営業利益率は8%で、過去10年の中央値に近い。事故前の高い利益率までは戻らない。
資本の使い方は少しだけ改まる。配当は純資産連動を保ち、政策保有株の売却を進める。純利益は66億円ほどになる。
この筋書きでも、ROEは8%弱と資本コストに届かない。数量の成功は、利益率の回復と同じ意味にならない。
事故前の2023年3月期のように、メタルスプレッドが例外的に開く年も混じる。それでも平均すれば、好況の年と不況の年がならされ、電炉の同業並みの稼ぎに落ち着く。
- 鉄鋼関連事業(厚板・スラブ):数量 72.0(鉄鋼製品販売量(万トン、厚板+スラブ))× 価格 14(1トン当たり販売単価(万円、名目))→ 売上 1,035 億円・営業利益 83 億円。販売量は55%増。単価は物価並みに1.38倍。営業利益率8%
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.80% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 12.97 倍、時価総額 938 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の80万トン目標を少し下回る72万トンで、利益率も中計の目標には届かない。業界見通しの上位レンジに近い想定。
中立 37% 数量は伸びるが、稼ぐ力は資本に届かない 利益 47 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 2,586 円685 億円
国内の厚板需要は人口減と造船の縮みで細る。ただ、高炉の撤退と電炉化の流れで、中部鋼鈑の販売量は66万トンまで伸びる。事故前の52万トンと、会社の目標80万トンの間に着地する。
値段は物価並みに上がる。営業利益率は6%台で、電炉の同業と同じ水準だ。スクラップと電力の上昇を値段に移すのに時間がかかるため、高炉の建値に頼る限り、利益率は高くならない。
経営は資本を少しずつ効率よく使うようになるが、大きくは変わらない。配当は純資産連動で、毎年28億円ほど払い続ける。純利益は47億円まで戻り、事故前の年に近づく。
利益が物価で伸びても、積み上がった資本が利益を薄める。ROEは6%前後で、資本コストに届かない。
- 鉄鋼関連事業(厚板・スラブ):数量 66.0(鉄鋼製品販売量(万トン、厚板+スラブ))× 価格 14(1トン当たり販売単価(万円、名目))→ 売上 921 億円・営業利益 58 億円。販売量は4割増。単価は物価並みに1.34倍。営業利益率は6.3%
倍率:事業の純利益 46 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)100 億円。全体の PER 12.82 倍、時価総額 685 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の厚板需要の細りを、高炉の撤退と輸出が補う中心線。会社の80万トン目標には届かない。会社計画より慎重な線で、中立にしては悲観寄りに見えるが、過去10年の実績に近い。
やや悲観 23% 高炉の値下げと輸入で利益率が戻らない 利益 23 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 947 円251 億円
高炉は設備を畳んでも、残した設備の稼働率を守るために値段を下げて取りに来る。電炉の厚板の取り分は思うほど増えず、販売量は54万トンにとどまる。
輸出は円高で採算が合わず、アジア向けは細る。中国の過剰生産が続き、世界の鋼材価格の天井は低いままだ。
値段は物価の伸びに届かず、10年で1.28倍にとどまる。営業利益率は3%台で、2026年3月期とほぼ同じ苦しさが続く。
配当は純資産連動を守れず、段階的に減らす。純利益は23億円ほど。金融資産は取り崩され、余った現金の使い道はますます見えなくなる。
新電気炉の電力の節約や4直3交代の効果は出るが、値段の下落がそれを打ち消す。経営は拡販を急ぎ、値引きでシェアを守る。結果として利益は増えない。
- 鉄鋼関連事業(厚板・スラブ):数量 54.0(鉄鋼製品販売量(万トン、厚板+スラブ))× 価格 13(1トン当たり販売単価(万円、名目))→ 売上 720 億円・営業利益 25 億円。販売量は16%増にとどまる。単価は1.28倍。営業利益率3.5%
倍率:資本コスト7.8%。余った現金を除いた事業のROE3%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.6倍で、その約7割の8倍に置く。利益率が戻らず、稼ぐ力は薄い。余った現金は筋書きに書かず、今の額の0.75倍で足した。
確率:高炉が稼働率を守るために値段を下げ、中国材の流入も続く。増産しても利益が出ない最近の1年が続く、現実味のある筋書き。
悲観 12% 電炉の厚板も値崩れし、優良さを失う 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 813 円215 億円
国内の厚板需要が人口減で想定より速く縮む。高炉が設備の撤退を取りやめ、中国の過剰分が円高で国内に入り込む。電炉同士の値下げ競争も始まる。
販売量は40万トンまで落ち、値段は物価の伸びに大きく届かず1.15倍にとどまる。固定費をまかなえず、鉄鋼関連事業は赤字に沈む。
大きな追加投資をした新電気炉の償却が重くのしかかる。配当は大きく削られ、経営は資産の売却で資金を作る。
事業の価値はほぼ消え、残るのは現預金と売れる有価証券だけになる。
名古屋の工場は都市の真ん中にあり、土地の価値は残る。ただ、操業を続けるほど赤字が出るため、経営は縮小か売却の判断を迫られる。株主の取り分は、資産を処分して得る額に近づく。
- 鉄鋼関連事業(厚板・スラブ):数量 40.0(鉄鋼製品販売量(万トン、厚板+スラブ))× 価格 12(1トン当たり販売単価(万円、名目))→ 売上 479 億円・営業利益 −5 億円。販売量は事故後の水準に逆戻り。単価は1.15倍。赤字
倍率:稼ぐ力はほぼ消え、価値は純現金と売れる有価証券の税後(215億円)の床で測る。今の自己資本750億円に0.287を掛けた額で、稼ぐ力(純利益÷k)より床のほうが大きい。
確率:高炉の撤退が止まり、輸入が国内に入り、電炉同士も値下げ競争に入る構造的な負け筋。単一工場・単一製品の会社で、10年という期間を考えれば無視できない確率として1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄鋼関連事業(厚板・スラブ)
名古屋の本社工場で、鉄スクラップを電気炉で溶かして厚板とスラブを作り、産業機械・建築土木・問屋向けに売る。連結売上の約95%。運送や賃貸などの周辺事業(売上約28億円・営業利益約4億円)は調整の欄に入れた。
| 数量鉄鋼製品販売量(万トン、厚板+スラブ) | 価格1トン当たり販売単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 46.4 | 10 | 484 | 6 |
| 10 年後 中立 | 66.0 | 14 | 921 | 58 |
取り方:開示は売上483.5億円・利益5.5億円と、販売量が前期比13.7%増・単価が11.7%減という変化率のみ。前期の販売量を約41万トンと置いて逆算し、今期を約46万トン・約10.4万円と推定した(2024年3月期は52万トン・約12.5万円)。
リスクと懸念
高炉の建値と輸入に左右される値段
厚板の値段は高炉3社の建値に連動し、中部鋼鈑が自分で決められない。2026年3月期は販売量が増えたのに単価が11.7%下がり、営業利益は66%減った。高炉が稼働率を守るために値下げに転じれば、増産の効果は消える。
単一工場の事故リスク
製鋼から圧延までが名古屋の本社工場1か所にある。2025年1月の水蒸気爆発では、製鋼を約2か月半止めただけで、2025年3月期の純利益が76%減った。同じ規模の事故や災害が再び起きれば、売上が丸ごと止まる。再発防止策は取ったが、集中の構造は変わっていない。
スクラップと電力のコスト
原料の鉄スクラップと電力は、値上がりすると利益を直撃する。厚板の値段に移すには時間がかかる。新電気炉は電力の使用量を15%減らすが、20年固定のオフサイトPPAは通常分の一部にとどまる。メタルスプレッドの縮小が続けば、増産しても利益が出ない。
国内厚板需要の細り
造船向けは韓国・中国の台頭で2021年度の240万トンから2026年度に160万トンへ縮む見通しだ。土木・建築が200万トンへ伸びても、全体は細る。人口減と建設現場の人手不足も、国内需要の重しになる。
金融資産の使い道
現預金と有価証券で約250億円あるが、利息と配当は年3億円ほどしか生まない。これが長く続くと、資本全体の収益が資本コストに届かない。増産の運転資金や配当に使われれば減っていくが、買収で使えば失敗のリスクが生じる。
利益を超える配当
2027年3月期の配当は約30億円で、純利益予想の3倍を超える。純資産に対する3.5%の基準は、業績が悪い年でも払う仕組みだ。この払い方は現金の減りを早める。厳しい年が続けば、基準を下げる判断を迫られる。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の販売量が60万トンを超え、メタルスプレッドが事故前の水準へ戻った場合
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。営業利益率が8%を超えて定着するかどうかが次の分かれ目になる。
- 高炉が厚板の設備の撤退を取りやめ、値下げに転じた場合
- やや悲観・悲観に重みを移す。電炉の厚板の取り分が広がるという前提が崩れる。
- 自社株買いが大きく実施された場合
- 金融資産の効率が改善する。余った現金の戻り方の評価が上がる。
- 新電気炉の電力の使用量が計画どおり下がり、4直3交代で稼働が安定した場合
- コスト競争力が強まり、営業利益率の下限が上がる。中立の筋書きの利益率を見直す。
- 製鋼工場で2度目の事故が起きた場合
- 売上の停止に加え、取引先が高炉に戻る恐れが出る。悲観の確率を上げる。
- 同業の電炉や高炉、商社から買収の打診があった場合
- 買収価格は純資産と金融資産が目安になる。今の値段より高い可能性があるが、10年の筋書きは変えない。
見ておくもの
- 鉄鋼製品の販売量(2027年3月期の約60万トン計画に対する進捗)
- メタルスプレッド(厚板の販売単価とスクラップ価格の差)
- 高炉3社の厚板設備の撤退・集約の動き
- 新電気炉の電力使用量と4直3交代の稼働率
- アジア向けの輸出受注と円相場
- 自社株買いなど資本政策の発表
倍率と資本コストの決め方
価格・数量・利益率はセグメントから積み上げ、倍率はROEとkから決めた。今の株価や過去のPBR・同業のPERは使っていない。中立のROEが6.1%でk(8.6%)を下回るので、PERの上限は1÷k。上限の約85%に置いた。金融資産は余った現金100億円を戻り方1.0で別に足し、残りは運転資金とみて事業のPERに含めた。新リース会計基準の影響は、リース債務が年0.1億円と小さく、今と同じ形で置いても結果は動かない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.6→14.68 倍・やや楽観 PER 10.5→12.97 倍・中立 PER 10→12.82 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本7.5%に品質の調整+1.1%を足した8.6%(β・規模は使わない)。電炉の厚板は市況で利益が大きく振れるので循環+0.8。厚板は競争相手が少なく、値決め力は0。純現金で借金は0。単一工場・単一製品の脆さを寿命+0.3で見た。個別の事故リスクはkでなく筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.60% → 7.80%。