結論
日本冶金工業は、ニッケルを含むステンレス鋼と、ニッケル合金をつくる専業メーカーだ。原料のフェロニッケルを自前でつくり、製鋼から最終製品までを一つの流れでこなす。この一貫生産ができる国内メーカーは同社だけだ。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当で、割安とも割高とも言い切れない。稼ぐ力が資本コストに届かないため、大きな割安は付けにくい。一方で、時価総額が自己資本を下回る分は、悲観がすでにかなり織り込まれていることを示す。
強みははっきりしている。ニッケル系ステンレスの国内の一貫メーカーは、同社と日本製鉄の系列の 2 社に絞られた。半導体装置やエネルギー設備向けの高機能材は、量は少なくても品質が問われ、簡単には入れ替わらない。
弱みは 3 つある。国内の一般材の需要が細ること、ニッケル相場で利益が大きく振れること、そして借金が重いことだ。純負債は時価総額とほぼ同じ額で、金利が上がる世界では利払いが利益を削る。
会社は 2028 年度に自己資本利益率 10% を掲げる。高機能材が計画どおり伸びれば、そこへ近づく。ただ 10 年で見ると、利益は緩やかに増えても、資本コストを超える稼ぎには届かないと見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い部分と悪い部分が混ざった会社」だ。
良い部分は高機能材にある。半導体装置やエネルギー設備に使う合金は、品質と納期が問われ、代わりを見つけにくい。国内でフェロニッケルから一貫生産できるのは同社だけで、原料の調達にも工夫がある。10 年後も事業は残り、高機能材は今より強いと見る。
悪い部分は 3 つある。一般材は輸入材との消耗戦で、堀が狭まる。ニッケル相場が利益を大きく動かすため、先の利益が読みにくい。そして設備投資が重く、稼いだ利益の多くが設備の更新に消える。オーナーの手に残る利益は少ない。
経営は資本効率を意識し始めた。ただ、自己資本利益率 10% の目標は、足元の 7% からは距離がある。相場の追い風を除いて定着するかは未知だ。
安全域は薄い。今の時価総額は自己資本の 7 割で見かけは安いが、元手に対する稼ぎが資本コスト未満なら、帳簿より低くて当然だ。強気にも弱気にも寄らず、様子を見る水準と考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 2 つある。ステンレス一般材と、ニッケルを多く含む高機能材だ。
一般材は、建材や設備、容器まで幅広く使われる標準的なステンレスだ。国内向けが中心で、原料のニッケルや鉄くずの値上がりは、売値に上乗せする仕組み(サーチャージ)で転嫁する。利益の大きさは、その上乗せを引いた後の加工の取り分で決まる。売上の 4 割ほどを占め、利益率は低めだ。
高機能材は、ニッケルを 2 割以上含む合金で、腐食や高温に強い。半導体製造装置の部品、化学プラントの配管、エネルギー設備に使われる。海外向けが中心で、利益の大半をここで稼ぐ。会社は 2028 年度に、単体の売上の 6 割を高機能材にする目標だ。2025 年 8 月にはインドに現地法人を開いた。
残りは子会社で、ステンレスの鋼管、磨帯鋼、商社、エンジニアリングなどが入る。
工場は川崎製造所が中心で、製鋼から最終製品までをここでこなす。大江山製造所は、リサイクル原料や鉱石からフェロニッケルをつくる。都市鉱山、つまり使い終わった製品から回収した原料の割合を高め、燃料は石炭から LNG へ切り替えている。
部門別の売上と利益は開示が粗いため、筆者の推定である。
優良さと弱いところ
堀は、一貫生産と小ロットへの対応力にある。ニッケル系ステンレスを原料の段階からつくれる国内メーカーは、同社と日本製鉄の系列だけだ。高機能材は顧客ごとに成分や形を細かく変える注文が多く、品質で信頼を積んだ供給元は代わりにくい。
価格を決める力は一般材では弱い。サーチャージで原料高は転嫁できるが、加工の取り分は輸入材との競争で決まる。高機能材は競争が緩やかで、利益率も高い。ここが同社の最大の強みだ。
資本の効率は振れが大きい。過去 10 年の自己資本利益率は 2% 台から 24% 台まで動き、中央値は 11% 台だ。山の年はニッケル相場の追い風を受けやすい。相場の影響をならすと、資本コストをわずかに上回る程度だろう。
財務は強いとは言えない。自己資本比率は 46% あるが、純負債は 660 億円で、時価総額に近い。長期の格付けは BBB+ で、会社は A 格の取得を目指している。
経営は、資本効率を意識して動いている。設備投資の規模を決め、還元の下限を配当率で定め、長期の像に PBR 1 倍を置いた。筆者が気にするのは、ニッケル相場が下がる局面で在庫評価損が出て、利益が大きく振れる点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のステンレス需要は、人口減と建設の弱さで細っている。国内の粗鋼生産は 57 年ぶりの低水準になった。ステンレスも同じ流れで、一般材の数量は 10 年で 1 割前後減ると見るのが自然だろう。
追い打ちが輸入材だ。中国の鉄鋼は生産能力が大きく余り、輸出が過去最高を更新している。ステンレスの輸入材も国内市場に入りやすい。国内の一貫メーカーが 2 社に絞られたことは、供給の規律を保つ助けになるが、価格の天井は外から押さえられる。
一方、高機能材は別の市場だ。半導体製造装置、化学プラント、エネルギー設備など、耐食・耐熱の合金が要る用途は、世界の設備投資とともに伸びる。需要の波は大きく、2026 年 3 月期は高機能材の不振が減益の一因になった。ただ、その後は戻り、2026 年 8 月には通期の見通しを上方修正した。
競合は、国内では日本製鉄の系列のステンレス会社だ。高機能材では海外の特殊合金メーカーが競合になる。同社は小回りの利く小ロット対応で戦う。
この業界の本質は、縮む国内の一般材と、伸びるが波の大きい高機能材の綱引きだ。10 年後は、高機能材が利益の 7 割を超える会社に変わると筆者は見る。
資本政策と M&A
資本の使い方は、改善の途上にある。
設備投資は、2020 年から年 100 億円規模で続いてきた。新しい中計も 3 年で 380 億円を見込み、減価償却の 244 億円を大きく上回る。更新の色が濃い投資だ。利益のかなりの部分が設備に消えるため、資本コストを超える稼ぎが出るかは、完成後の数字で確かめるしかない。
還元は、配当性向 35% 以上に、純資産に対する配当率 2.8% 以上の下限を加えた。総還元性向 35% を掲げ、自社株買いも実施してきた。ただ 3 年の還元は 100 億円ほどで、設備投資の 4 分の 1 だ。
財務は、ネットのデット・エクイティ・レシオを 0.5〜0.7 に保つ方針だ。現状は 0.65 で、借金を減らすより、現状維持で投資を回す設計といえる。
再編は、国内のニッケル系ステンレスの一貫メーカーがすでに 2 社に集約されており、次の大きな動きは見えにくい。ただ、規模が小さく時価総額が自己資本を下回るため、株主構成や提携の動きには注意したい。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社は 2028 年度に EBITDA 300 億円、自己資本利益率 10% を掲げる。足元の動きは、その方向を向いている。
第 1 に、利益は回復に入った。2026 年 3 月期の営業利益は 110 億円まで落ちたが、4〜6 月は 47 億円と前年を 4 割以上上回り、通期の見通しも上方修正された。半導体装置向けが戻れば、高機能材の利益率は 15% 近くまで戻る。
第 2 に、高機能材は世界の設備投資と結びついている。半導体装置、化学プラント、エネルギー設備で、ニッケル合金は欠かせない。2025 年に開いたインド現地法人は、中東とあわせて新しい販路になる。
第 3 に、国内のニッケル系ステンレスの一貫メーカーは 2 社に絞られた。一般材の価格が崩れにくくなり、リサイクル原料と LNG への転換で原価も下がる。
最後に、時価総額が自己資本を下回っている。会社が掲げる 10 年後の像(PBR 1 倍、純資産 1,500 億円以上)が実現すれば、評価は大きく変わる。
慎重な見方
今の値段は、会社の計画をかなり織り込んでいる。慎重に見るべき点は 4 つある。
第 1 に、利益の質だ。過去には営業利益が 293 億円まで伸びた年があるが、ニッケル相場の追い風を受けた面がある。同じ水準が続くとは言えない。相場が反転すれば、在庫評価損が利益を削る。2024 年にも、それで予想を引き下げた。
第 2 に、借金だ。純負債は 660 億円で、時価総額とほぼ同じ額ある。借り換えのたびに金利が上がり、10 年で利益を十数億円削る。景気が悪化すれば、財務の余裕はすぐなくなる。
第 3 に、高機能材の波だ。2026 年 3 月期は高機能材の不振もあり、営業利益が 35% 減った。回復が続く保証はなく、中国の国産化も進んでいる。
第 4 に、一般材の細りだ。輸入材は増え続け、国内の需要は縮む。ここで赤字が出れば、高機能材の利益を食う。
自己資本利益率は直近で 7% にとどまる。10% を定着させるのは簡単ではない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠があり、確率は大きく寄せなかった。高機能材の伸びは本物で、足元の上方修正もある。ただ、国内の一般材の細り、ニッケル相場の振れ、借金の重さは、10 年の筋書きを下に引く要因だ。そこで楽観とやや楽観を合わせて 3 割弱、やや悲観と悲観を合わせて 3 割半に置いた。中心は中立の 37% で、同じ領域の大同特殊鋼より、小さく借金が重い分だけ悲観側を少し厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 9,194 円1,275 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,017 円418 億円)。 今の値に割り戻すと 6,191 円858 億円、今との差 +18.8%、 期待の年率 +8.9%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 19,514 円2,706 億円 | 5,012 円695 億円 | +370.8% | +16.8% | 1,962 円272 億円 |
| やや楽観 | 20% | 14,098 円1,955 億円 | 3,844 円533 億円 | +244.4% | +13.2% | 3,588 円498 億円 |
| 中立 | 37% | 10,573 円1,466 億円 | 3,310 円459 億円 | +166.5% | +10.3% | 5,137 円712 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,611 円501 億円 | 2,402 円333 億円 | +15.4% | +1.4% | 1,323 円183 億円 |
| 悲観 | 13% | 820 円114 億円 | 721 円100 億円 | −70.4% | −11.5% | 200 円28 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,194 円1,275 億円 | 3,017 円418 億円 | +134.4% | +8.9% | 12,211 円1,693 億円 |
今の株価時価総額 5,210 円722 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:高機能材が倍近くに伸び、利益が過去の山に並ぶ 利益 193 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 19,514 円2,706 億円
半導体製造装置、LNG・化学プラント、インドや中東の設備投資が長く続き、高機能材の数量は今の 1.8 倍になる。ニッケル合金を使う分野が増え、再溶解設備の増設も実を結ぶ。価格は物価並みに上がり、ニッケル分の転嫁も効く。
国内のステンレス一般材は、需要の細りが想定より緩やかで、数量は 5% 減にとどまる。リサイクル原料と LNG への転換で原価も下がる。
営業利益は 300 億円と、2023 年の山に並ぶ。借入は返済が進み、会社は自己資本 1,500 億円以上という長期の像を超える。それでも自己資本利益率は 11% 台で、資本コストを少し上回る程度だ。堀が深い事業ではあるが、設備更新に利益の多くを使うため、倍率は 13.91 倍にとどまる。
- ステンレス一般材:数量 16.8(出荷量(万トン))× 価格 47(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 788 億円・営業利益 43 億円。数量 16.81 × 単価 46.90、営業利益率 5.5%
- 高機能材(ニッケル合金など):数量 11.7(出荷量(万トン))× 価格 134(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 1,568 億円・営業利益 235 億円。数量 11.70 × 単価 134.00、営業利益率 15.0%
- 関係会社ほか(鋼管・磨帯鋼・商社):数量 8.0(取扱量(万トン換算))× 価格 40(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 322 億円・営業利益 23 億円。数量 8.00 × 単価 40.20、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 193 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.91 倍、時価総額 2,685 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体装置・エネルギー・インドの需要が長く伸び、国内の一般材も下げ止まる必要があり、条件は多い。
やや楽観 20% やや楽観:高機能材が計画に近く伸び、ROE が資本コストに迫る 利益 152 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 14,098 円1,955 億円
高機能材は中計が描く方向で伸び、数量は今の 1.55 倍になる。半導体向けの回復が続き、インド現地法人も軌道に乗る。一般材の数量は 7% 減で、国内の輸入材との競争は続くが、サーチャージ制で原料高は転嫁できる。
営業利益は 240 億円で、2028 年度の目標に近い水準を維持する。ただし設備投資は 3 年で 380 億円規模が続き、減価償却と更新の負担が重い。自己資本利益率は 9% 前後と、資本コストにほぼ並ぶ。
評価は「良い素材会社」に戻るが、成長株としては見られない。還元は配当性向 45% 前後で、自社株買いは小さい。
- ステンレス一般材:数量 16.5(出荷量(万トン))× 価格 47(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 772 億円・営業利益 39 億円。数量 16.46 × 単価 46.90、営業利益率 5.0%
- 高機能材(ニッケル合金など):数量 10.1(出荷量(万トン))× 価格 134(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 1,351 億円・営業利益 182 億円。数量 10.08 × 単価 134.00、営業利益率 13.5%
- 関係会社ほか(鋼管・磨帯鋼・商社):数量 7.8(取扱量(万トン換算))× 価格 40(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 312 億円・営業利益 20 億円。数量 7.76 × 単価 40.20、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 152 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.71 倍、時価総額 1,932 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:高機能材が中計の方向どおりに進めば成り立つ。足元の上方修正は追い風だが、前の計画の達成度は不明で、強くは寄せない。
中立 37% 中立:高機能材が伸び、国内一般材の細りを埋めて利益は緩やかに増える 利益 119 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 10,573 円1,466 億円
高機能材の数量は今の 1.35 倍になる。半導体装置やエネルギー向けは堅調に伸び、インドと中東で販路が増える。高機能材の営業利益率は 12% を保つ。
国内のステンレス一般材は、人口減と建設需要の弱さで数量が 1 割弱減る。中国やインドの安い輸入材との競争は続くが、国内の一貫メーカーが 2 社に絞られていることが下支えになる。
営業利益は 190 億円台で、今期予想の延長線上に収まる。会社が掲げる 2028 年度の EBITDA 300 億円には、ほぼ届く。ただし借金の借り換えで利払いが増え、純利益は営業利益の 6 割強にとどまる。
自己資本利益率は 7〜8% で、資本コストには届かない。業績は良くなるが、元手に対する稼ぎは並の域を出ない。
- ステンレス一般材:数量 16.3(出荷量(万トン))× 価格 47(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 764 億円・営業利益 34 億円。数量 16.28 × 単価 46.90、営業利益率 4.5%
- 高機能材(ニッケル合金など):数量 8.8(出荷量(万トン))× 価格 134(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 1,177 億円・営業利益 141 億円。数量 8.78 × 単価 134.00、営業利益率 12.0%
- 関係会社ほか(鋼管・磨帯鋼・商社):数量 7.6(取扱量(万トン換算))× 価格 40(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 306 億円・営業利益 18 億円。数量 7.60 × 単価 40.20、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 119 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 1,442 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:高機能材は伸びるが、国内の一般材の細りとニッケル相場の振れを引いた中心の姿。最も起こりやすい。
やや悲観 22% やや悲観:安い輸入材と市況の波で、利益は今の水準に張りつく 利益 63 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 3,611 円501 億円
国内のステンレス需要は細り続け、一般材の数量は 2 割減る。中国・インド・インドネシアの安い輸入材に押され、価格は物価に追いつかない。一般材の利益率は 2% 台に落ちる。
高機能材は伸びるが、半導体装置の設備投資の波と、中国の国産化で勢いが鈍る。数量は 1.1 倍にとどまり、利益率も 9% に下がる。
営業利益は今と同じ 110 億円のままで、借り換えで利払いが増える分、純利益は 60 億円台になる。ニッケル相場の下落で在庫評価損も出る。自己資本利益率は 5% を割り、会社の目標である 10% は遠い。川崎製造所の設備の一部で減損が出て、還元も配当の下限が精いっぱいになる。
- ステンレス一般材:数量 14.2(出荷量(万トン))× 価格 44(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 629 億円・営業利益 16 億円。数量 14.16 × 単価 44.45、営業利益率 2.5%
- 高機能材(ニッケル合金など):数量 7.2(出荷量(万トン))× 価格 130(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 930 億円・営業利益 84 億円。数量 7.15 × 単価 130.00、営業利益率 9.0%
- 関係会社ほか(鋼管・磨帯鋼・商社):数量 7.2(取扱量(万トン換算))× 価格 39(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 281 億円・営業利益 11 億円。数量 7.20 × 単価 39.00、営業利益率 4.0%
倍率:資本コスト8.25%。余った現金を除いた事業のROE4.8%がk以下なのでPERの上限は1÷k=10.8倍で、その約7割の7.5倍に置く。稼ぐ力が細る筋書きなので、上限より低めに置く。
確率:国内ステンレスの細りと輸入材の攻勢は現実に進んでいる。高機能材の伸びも半導体の波で鈍りうるため、やや厚く置く。
悲観 13% 悲観:一般材が赤字に沈み、高機能材も奪われる 利益 12 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 820 円114 億円
国内のステンレスは、インドや中国の輸入材に押されて数量が 4 割減り、価格も崩れる。一般材は赤字に沈み、川崎製造所の稼働率を保てなくなる。
高機能材も安泰ではない。半導体装置向けは韓国・中国勢との競争で単価が下がり、エネルギー向けは設備投資の延期で数量が減る。ニッケル相場が安く推移すれば、在庫評価損が重なる。
営業利益は 30 億円台に細り、利払いを払うと利益はほとんど残らない。大江山のフェロニッケル設備や川崎の設備に 500 億円ほどの減損が出て、純負債の重さが経営の自由度を奪う。会社は人員と設備の整理に追い込まれ、もはや堀のある素材会社ではなく、再建途上の会社として評価される。
- ステンレス一般材:数量 10.6(出荷量(万トン))× 価格 42(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 446 億円・営業利益 −4 億円。数量 10.62 × 単価 42.00、営業利益率 -1.0%
- 高機能材(ニッケル合金など):数量 5.9(出荷量(万トン))× 価格 120(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 702 億円・営業利益 35 億円。数量 5.85 × 単価 120.00、営業利益率 5.0%
- 関係会社ほか(鋼管・磨帯鋼・商社):数量 6.4(取扱量(万トン換算))× 価格 36(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 230 億円・営業利益 2 億円。数量 6.40 × 単価 36.00、営業利益率 1.0%
倍率:資本コスト8.25%。余った現金を除いた事業のROE1.3%がk以下なのでPERの上限は1÷k=10.8倍で、その約6割の7倍に置く。減損後もROEはkに届かず、売れる資産の床は足さない(借金が重く、設備も大江山・川崎に偏り、売って現金化できる資産の額を確かめられない)。EVで見ても純負債661億円を足して営業利益の20倍超だが、営業利益33億円はすでに構造的な負けの底で、借金を含む事業の価値は稼ぐ力以下に置くのが筋と考える。
確率:一般材の赤字化と高機能材の競争激化が同時に来る構造的な負け。借金が重い点を考え、1 割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ステンレス一般材
建材・設備・容器に使う標準的なニッケル系ステンレス。国内向けが中心。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 17.7 | 35 | 620 | 25 |
| 10 年後 中立 | 16.3 | 47 | 764 | 34 |
取り方:一般材と高機能材の売上比率は開示が粗い。会社が高機能材を 2028 年度に単体の 6 割へ高める目標を持つことから、今は 4 割台と見て、一般材の売上を約 620 億円と置いた。単価 35 万円(ニッケル分を含む)から出荷 17.7 万トンを逆算した筆者の推定。営業利益 25 億円は利益率 4% と置いた。
高機能材(ニッケル合金など)
ニッケル 2 割以上の合金。半導体装置・化学プラント・エネルギー向け。海外が中心。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円・製品の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.5 | 100 | 650 | 70 |
| 10 年後 中立 | 8.8 | 134 | 1,177 | 141 |
取り方:売上を約 650 億円、混合単価 100 万円として出荷 6.5 万トンを置いた筆者の推定。営業利益 70 億円は利益率 11% で、2023 年の山より低い今の実績に合わせた。個別の数量は開示がない。
関係会社ほか(鋼管・磨帯鋼・商社)
ステンレス鋼管・磨帯鋼の製造、商社、エンジニアリング。
| 数量取扱量(万トン換算) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 30 | 240 | 15 |
| 10 年後 中立 | 7.6 | 40 | 306 | 18 |
取り方:連結売上の残り約 240 億円を、取扱量 8 万トン換算・単価 30 万円とした筆者の推定。営業利益 15 億円は利益率 6% と置いた。
リスクと懸念
ニッケル相場と在庫評価損
ステンレスの原料のニッケル価格が下がると、手持ちの在庫の評価損が出て、営業利益が大きく減る。2024 年にもこれで業績の見通しを下げた。相場の動きは読めず、利益の質に不確実さが残る。
借金の重さと金利
純負債は 660 億円で、時価総額とほぼ同じ額ある。借り換えで金利が上がると、10 年で利益を十数億円削る。景気が悪化すれば、設備投資と還元の両方を抑えることになりうる。
国内一般材の細りと輸入材
人口減と建設の弱さで国内の需要は縮む。安い輸入材は増え続ける。一般材の数量が減り、価格も押さえられれば、利益は一般材から先に失われる。
半導体装置向けの波
高機能材の利益率を押し上げる半導体装置向けは、設備投資の波が大きい。2026 年 3 月期も高機能材の不振が減益の一因になった。中国の国産化が進めば、回復が続く保証はない。
設備投資の回収
3 年で 380 億円の設備投資を見込み、減価償却を大きく上回る。再溶解設備や LNG への切り替えが利益を生むかは、完成後に分かる。需要が弱ければ、償却の負担だけが残る。
一貫生産の固定費
フェロニッケルから最終製品までをこなす仕組みは強みだが、設備の維持に固定費がかかる。稼働率が落ちると、利益が急に減る。大江山の設備は、原料の調達環境が変われば減損の対象になりうる。
今後の分かれ目
- ニッケル相場が長く下がり続ける
- 在庫評価損が重なり、営業利益は 100 億円を割りうる。中立から悲観の筋書きに寄る。
- 半導体装置向けの高機能材の受注が計画を超えて伸びる
- 高機能材の利益率が 15% 近くまで戻り、営業利益は 240 億円に近づく。やや楽観から楽観の筋書きに近づく。
- 国内の一般材の数量が 3 年で 1 割以上減る
- 一般材が赤字に近づき、固定費の重さが全体の利益を削る。中立から悲観に寄る。
- 借金を減らし、ネットのデット・エクイティ・レシオが 0.5 を割る
- 利払いの負担が軽くなり、純利益が営業利益に近づく。資本コストの見方も改善する。
- インド現地法人と中東向けの販売が定着し、海外の高機能材が増える
- 高機能材の比率 6 割の目標が見え、10 年の利益の伸びが上振れする。
- 国内の同業との提携や資本再編が持ち上がる
- 規模の利益と価格の安定が期待できる一方、条件で価値が動く。内容を見るまで判断しない。
見ておくもの
- 高機能材の営業利益と、半導体製造装置向けの受注
- ニッケル価格と在庫評価損益
- 国内のステンレス需要と輸入材の数量
- 中計の進み具合(EBITDA 300 億円・自己資本利益率 10%)
- 純有利子負債と借り換えの金利
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PER には寄せていない。先にセグメントごとに数量(万トン)と単価(物価並みの 1.34 倍が基本)で 10 年の売上と利益を積み、純利益は過去の比率(0.68)に利払いの増加(約 12 億円)を引いて置いた。中立の ROE は 7.6% で、資本コスト 8.25% を下回るため、PER は 1÷k の 10.8 倍が上限で、その約 8 割に置いた。楽観は ROE が k を上回るが、堀が中程度なので上限の約 9.5 割にとどめた。やや悲観・悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の約 7 割で置き、売れる資産の床は足していない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→13.91 倍・やや楽観 PER 9.7→12.71 倍・中立 PER 8.7→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.75% を足した 9.25%。同じ領域の大同特殊鋼(+1.0%)より、借金が重く規模が小さい分だけ高く置く。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.25%。