結論
日本金属は、ステンレスを冷間で精密に圧延する専門メーカーだ。板厚 20 ミクロンまで延ばす技術を持ち、自動車の外装モール、注射針、精密機器のばねなどに材料を出す。筆者の結論はやや割高である。PBR は 0.2 倍と低いが、稼ぐ力が資本コストに遠く届かないので、帳簿の価値は株主の価値にならない。
会社は 2026 年 8 月、2029 年度の目標を自ら大きく下げた。営業利益は 50 億円から 20 億円へ、売上は 650 億円から 520 億円へ。中国の急な EV 化で外装モールが減り、海外の安い材が入り、新事業の量産は数年遅れる。正直な見直しだが、事業の厳しさを映している。
筆者は 10 年後の営業利益を 20 億円前後と見る。それでも自己資本利益率(ROE)は 3% ほどで、資本コストの 9.5% の 3 分の 1 にとどまる。借入は 170 億円あり、金利の上昇が利益をさらに削る。価値の多くは、工場と土地という帳簿の中に眠ったままだ。
技術を利益に変える道筋が見えるまで、低い PBR は割安の印ではなく、資本が稼がないことへの値付けだと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、PBR 0.2 倍という数字に飛びつくのは危うい。帳簿の価値が株主の価値になるのは、その資産が資本コストを稼ぐ時か、売って現金になる時だけだ。この会社はどちらでもない。
工場は重く、毎年の償却と更新の投資が欠かせない。物価が上がれば、設備を建て替える費用も膨らむ。会計の利益は物価で少しふくらんで見えても、更新の投資で手元の現金は細る。借入が 170 億円ある中で、稼ぎの多くは利払いと設備に消える。
経営は誠実だと筆者は見る。2029 年度の目標を自ら大きく下げ、採算の悪い品から撤退した。ただ、誠実さと資本の稼ぐ力は別の話だ。オーナーとして持ち続けたいと思える事業になるには、新しい品が量産に乗り、利益率が 5% を超える姿を見る必要がある。土地と有価証券は悲観の時の支えにはなるが、売る方針は示されていない。安全域は帳簿の上にはあっても、稼ぎの上にはない。
何で稼ぐ会社か
事業は 2 つある。主力のみがき帯鋼は、ステンレスや特殊鋼の帯を冷間で薄く精密に延ばす事業で、売上の 8 割を占める。加工品は、帯鋼を切ったり曲げたりした部品や建材で、岐阜と福島の工場が受け持つ。
みがき帯鋼の強みは、薄さと幅の両立だ。600 ミリの広い幅で 0.1 ミリ未満の箔を作れる会社は、世界でも限られる。高級車の外装モール材や、インスリン注射針に使う薄く狭い材も得意だ。どれも注文を受けてから作る受注生産である。
売り先は自動車、家電、精密機器、医療、建材と広い。原料のステンレスは大手の高炉・電炉メーカーから買い、ニッケルの値上がりは売値に転嫁する。利益は、圧延と加工の手間賃の部分で決まる。
新しい柱として、黒い意匠のファインブラック仕上、半導体工場用の部材、医療用の極小径のファインパイプ、モーター向けの極薄電磁鋼帯、マグネシウム合金を育てている。ただ、次世代電池向けのステンレス箔やマグネシウム合金は、量産が数年遅れると会社自身が認めた。2026 年 8 月には、散気装置の製造の受託という新しい仕事も始めた。設備と人手を遊ばせない工夫だが、規模はまだ小さい。
優良さと弱いところ
日本金属の優良さは、圧延の腕にある。紙より薄いステンレスを、広い幅でむらなく延ばす技術は、一朝一夕にはまねできない。注射針や精密ばねの材料のように、品質で選ばれる用途も持つ。
ただ、技術の強さが利益の強さにつながっていない。過去 10 年の ROE の中央値は 4% で、資本コストを大きく下回ってきた。営業利益率は最も良かった 2018 年 3 月期でも 7% で、赤字の年も 3 回あった。工場は重く、償却と借入の利払いが毎年の利益を食う。
顧客に対する立場も強くない。主力の自動車向けは、車メーカーの設計の変更で需要が消える。外装モールは中国の EV 化で、駆動部品用の異形鋼は採算割れで、どちらも手放しつつある。工場の稼働を保つために、手間のかかる小口の注文も受けざるを得ない。堀、つまり他社がまねできない強みは、技術としてはあるが、値段を決める力としては弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ステンレスの精密圧延は、大手の鉄鋼メーカーの下流にある専門の業界だ。日本製鉄やその系列の会社、そして日本金属のような独立の専門メーカーが並ぶ。原料の値段は大手が決め、製品の値段は顧客の自動車や電機の会社が強く押す。間に挟まれた専門メーカーの取り分は、薄い。
需要の流れは二つに割れている。自動車の外装や駆動部品のような昔からの用途は、EV 化と海外の安い材で細る。中国や韓国の圧延材は、汎用品の値段を押し下げている。一方で、半導体の工場、医療機器、モーターの高効率化に使う極薄の材は伸びる。
10 年の流れを見ると、筆者は数量は実質で 1 割弱減ると見る。昔からの用途が 2 割ほど減り、新しい用途がその半分ほどを埋める形だ。値段は物価とニッケルの転嫁で上がるが、海外材と競る汎用品は物価並みに届かない。業界の再編が進めば、大手の系列に入る道もありうる。
人手の面でも厳しさがある。圧延は熟練の技能に頼る部分が大きく、地方の工場では若い働き手が集まりにくい。電気代やガス代も上がり、エネルギーを多く使う圧延の費用を押し上げる。値上げで転嫁できなければ、手間賃の薄い取り分はさらに削られる。
資本政策と M&A
還元は少ない。2026 年 3 月期の配当は総額 0.3 億円ほどで、配当性向は 15% 前後だった。会社は 2029 年度の配当性向を 20% 程度とする。2025 年度には株数の 3.6% にあたる自社株を買った。
財務は重い。借入金は 170 億円で、現金 64 億円を引いた純負債は 100 億円を超える。利益の少ない年には、利払いが営業利益の半分近くを食う。金利が 3.5% に上がれば、利払いは年 2.5 億円ほど増える。土地は再評価で 60 億円の差額を自己資本に入れており、有価証券も 40 億円ほど持つ。
M&A の動きは見えない。小さく PBR の低い会社なので、同業や大手鉄鋼の系列からの買収の的になりうるが、具体的な話はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
まねのできない技術は確かにある。広い幅で 0.1 ミリ未満の箔を延ばせる会社は世界に数社しかない。注射針や半導体の工場、医療の計測機器のように、品質で選ばれる用途は景気に左右されにくい。会社はそこに経営資源を集めると決めた。
採算の悪い品からはすでに手を引いた。駆動部品用の異形鋼とベイナイトから撤退し、2027 年 3 月期の第 1 四半期は営業利益が前年の 3 倍近くになった。高収益の品へ寄せ、コストの上昇を売値に乗せる動きが利益に表れている。
次世代電池向けのステンレス箔やマグネシウム合金、極薄電磁鋼帯は、量産が遅れているだけで消えたわけではない。どれかが量産に乗れば、当初の目標の営業利益 50 億円も夢ではない。PBR 0.2 倍の値段は、その可能性をまったく見ていない。土地と有価証券だけで時価総額を上回る資産もある。
借入も返せない額ではない。毎年の償却 17 億円分の現金が入り、配当は小さい。設備の更新を絞れば、数年で借入を大きく減らせる。
慎重な見方
会社自身が 2029 年度の目標を 6 割下げた。営業利益 20 億円、売上高に対する経常利益の比は 3% という計画は、資本コストを稼ぐ姿からほど遠い。過去 10 年の ROE の中央値は 4% で、技術があっても利益は残らなかった。
主力の自動車向けは構造的に細る。中国の EV 化で外装モールの需要が減り、韓国や中国の圧延材が汎用品の値段を押し下げる。新事業の量産は、水素の整備の遅れなどで数年単位で後ろにずれた。遅れは、いつか取り戻せる保証にはならない。
財務も重い。借入は 170 億円で、金利が上がれば利払いが利益を食う。工場の更新は物価の上昇で高くつき、償却より多い現金が出ていく。PBR が低いのは市場の見落としではない。資本が稼がないことへの、正しい値付けに近い。
経営の目もまだ定まっていない。次世代電池、エネルギー、半導体、医療と、狙う分野は 4 つに広がる。小さな会社が全部を追えば、どれも中途半端に終わりかねない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。技術の強さは本物だが、それが利益に変わった記録が乏しく、会社自身が目標を大きく下げた。新しい品の量産が遅れていることも重い。確率は中立とやや悲観に厚く置き、楽観は会社の当初の目標に近い筋書きとして 1 割未満にとどめた。PBR の低さは、筋書きの確率を楽観に寄せる理由にしていない。売れる資産の床は、悲観側の値段を支えるだけだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,787 円115 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 184 円12 億円)。 今の値に割り戻すと 838 円54 億円、今との差 −3.3%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 9.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,253 円275 億円 | 435 円28 億円 | +440.8% | +18.4% | 328 円21 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,979 円192 億円 | 314 円20 億円 | +279.8% | +14.3% | 593 円38 億円 |
| 中立 | 40% | 1,845 円119 億円 | 206 円13 億円 | +136.5% | +9.0% | 820 円53 億円 |
| やや悲観 | 23% | 702 円45 億円 | 39 円3 億円 | −14.6% | −1.6% | 170 円11 億円 |
| 悲観 | 12% | 452 円29 億円 | 46 円3 億円 | −42.5% | −5.4% | 60 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,787 円115 億円 | 184 円12 億円 | +127.4% | +8.6% | 1,971 円127 億円 |
今の株価時価総額 867 円56 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 新しい品が量産に乗り、当初目標に近づく 利益 26 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 4,253 円275 億円
新しい品が次々に量産に乗る筋書きだ。次世代電池向けのステンレス箔が 2030 年代の初めに立ち上がり、極薄電磁鋼帯はモーターの高効率化で採用が広がる。半導体の工場や医療の計測機器向けの材も伸び、外装モールの減少を埋めて余りある。
出荷は今と同じ水準を保ち、高い品の比率が上がって 1 トンあたりの値段は物価より速く上がる。営業利益は 40 億円台と、当初の目標に近づく。借入は少しずつ返り、利払いの重さも和らぐ。それでも ROE は 6% 台で、資本コストにはまだ届かない。工場と土地という重い資本が、伸びた利益を薄めるからだ。
- みがき帯鋼:数量 40,000(出荷量(トン))× 価格 146(1 トンあたりの売上(万円。ニッケルの転嫁と圧延の手間賃、物価を含む))→ 売上 584 億円・営業利益 44 億円。4.0 万トン(今と同じ)× 146 万円(1.42 倍、高い品の比率が上がる)、営業利益率 7.5%
- 加工品:数量 7,000(出荷量(トン))× 価格 195(1 トンあたりの売上(万円))→ 売上 137 億円・営業利益 10 億円。7,000 トン × 195 万円、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 26 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 275 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が自ら下げた当初の目標に近い筋書きで、新事業の量産の遅れを考えると起こりにくい。技術の確かさを認めて 7% とした。
やや楽観 18% 高収益の品への寄せが進み、営業利益 30 億円 利益 18 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 2,979 円192 億円
高収益の品への寄せが着実に進む筋書きだ。外装モールと異形鋼の減少は続くが、意匠材、半導体工場向け、医療用のファインパイプが穴を埋める。新事業のうち 1 つか 2 つが量産に乗る。
出荷は実質で 4% ほど減るが、値段は物価をやや上回って上がる。営業利益は 30 億円ほどに増え、2029 年度の目標を 1.5 倍上回る。配当性向は 20% を保ち、借入は横ばいで推移する。ROE は 5% 前後にとどまる。新事業の残りは開発を続けるが、費用の重さは利益をわずかに削る。会社は誠実に計画を見直し続け、投資家の信頼は少しずつ戻る。
- みがき帯鋼:数量 38,500(出荷量(トン))× 価格 141(1 トンあたりの売上(万円。ニッケルの転嫁と圧延の手間賃、物価を含む))→ 売上 543 億円・営業利益 34 億円。3.85 万トン(0.96 倍)× 141 万円(1.37 倍)、営業利益率 6.3%
- 加工品:数量 6,600(出荷量(トン))× 価格 190(1 トンあたりの売上(万円))→ 売上 125 億円・営業利益 8 億円。6,600 トン × 190 万円、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.9% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 192 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:撤退と値上げの効果が 1Q の利益に表れており、続く可能性はある。ただ利益率 6% 台は過去 12 年で 1 度しかないので 18% とした。
中立 40% 見直した計画どおり、営業利益 20 億円 利益 11 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,845 円119 億円
会社の見直した計画が、ほぼそのとおりに進む筋書きだ。外装モールなど昔からの用途は細り、半導体や医療の材がその半分ほどを埋める。新事業の量産は遅れ、10 年たっても売上の柱にはならない。
出荷は実質で 7% ほど減り、値段は物価並みに上がる。償却は今ある設備の分が取得時の値段のまま残るので、営業利益は 20 億円ほどに届く。ただ、借入の金利が上がって利払いが増え、純利益は 11 億円ほどにとどまる。ROE は 3% 台で、資本コストの 3 分の 1 だ。配当性向は 20% で、ためた利益は工場の更新と借入の返済に回る。
- みがき帯鋼:数量 37,000(出荷量(トン))× 価格 138(1 トンあたりの売上(万円。ニッケルの転嫁と圧延の手間賃、物価を含む))→ 売上 511 億円・営業利益 26 億円。3.7 万トン(0.93 倍)× 138 万円(物価並み 1.34 倍)、営業利益率 5.0%
- 加工品:数量 6,300(出荷量(トン))× 価格 188(1 トンあたりの売上(万円))→ 売上 118 億円・営業利益 7 億円。6,300 トン × 188 万円、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.3% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 119 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が 2026 年 8 月に出した計画は、事業の厳しさを正直に映した数字で、最も起こりやすい。40% とした。
やや悲観 23% 昔からの用途が速く細り、利益はほぼ残らない 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 702 円45 億円
昔からの用途の減り方が速く、新しい品が追いつかない筋書きだ。外装モールは EV 化でほぼ消え、家電や精密機器向けも海外の安い材に押される。新事業は量産に乗らないまま、開発の費用だけがかさむ。
出荷は実質で 2 割近く減り、値段は物価に届かない。工場は重いまま稼働が落ち、営業利益は 6 億円ほどに沈む。利払いを引けば、純利益はほとんど残らない。配当はわずかに続くが、工場と土地の価値は稼ぎに結びつかない。借入は減らず、金利の上昇で利払いが重くなる。経営は工場の集約を検討するが、決めきれないまま時間が過ぎる。
- みがき帯鋼:数量 33,000(出荷量(トン))× 価格 130(1 トンあたりの売上(万円。ニッケルの転嫁と圧延の手間賃、物価を含む))→ 売上 429 億円・営業利益 12 億円。3.3 万トン(0.83 倍)× 130 万円(1.26 倍、物価に届かない)、営業利益率 2.8%
- 加工品:数量 5,800(出荷量(トン))× 価格 180(1 トンあたりの売上(万円))→ 売上 104 億円・営業利益 5 億円。5,800 トン × 180 万円、営業利益率 4.5%
倍率:稼ぐ力(純利益 0.5 億円÷k)はほぼゼロなので、売れる資産の床で置いた。今の自己資本 292 億円に PBR 0.155 倍を掛けた約 45 億円。EV(時価総額+純負債約 100 億円)÷営業利益は 20 倍を超えるが、営業利益がほぼ無い筋書きなので利益の倍率でなく床で見た。
確率:外装モールの減少と海外材の攻勢はすでに起きており、新事業の遅れも続いている。この流れが速まる筋書きとして 23% とした。
悲観 12% 専門メーカーとして負け、赤字が続く 利益 −14 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 452 円29 億円
精密圧延の専門メーカーとして生き残れなくなる筋書きだ。自動車向けが大きく減り、中国や韓国の圧延材が汎用品の市場を奪う。新事業は撤退に追い込まれ、工場の一部を閉じる費用もかかる。熟練の働き手も去り、品質で選ばれてきた用途まで守れなくなる。
出荷は 3 割減り、営業赤字が続く。借入の金利は上がり、赤字の中で借り換えの条件も悪くなる。配当は止まる。株主の価値は、有価証券と土地を売り、運転資金を回収した時に残る額に近づく。大手の系列に安値で引き取られる形の再編もありうる。その時の値段は、帳簿の価値を大きく下回る。
- みがき帯鋼:数量 28,000(出荷量(トン))× 価格 125(1 トンあたりの売上(万円。ニッケルの転嫁と圧延の手間賃、物価を含む))→ 売上 350 億円・営業利益 0 億円。2.8 万トン(0.70 倍)× 125 万円、営業利益率 0%
- 加工品:数量 5,000(出荷量(トン))× 価格 170(1 トンあたりの売上(万円))→ 売上 85 億円・営業利益 2 億円。5,000 トン × 170 万円、営業利益率 2.0%
倍率:赤字なので PBR で置く。床は有価証券と土地の一部を売り、運転資金を回収して借入を返した残りで、今の自己資本 292 億円の 0.10 倍の約 29 億円。
確率:過去 20 年で赤字は 6 回あり、主力の用途はすでに縮んでいる。海外材に押されて構造的に負ける筋書きとして 12% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
みがき帯鋼
ステンレス・特殊鋼の帯を冷間で精密に圧延する主力事業。外装モール材、注射針材、精密ばね材、極薄電磁鋼帯、意匠材など。売上の 8 割。
| 数量出荷量(トン) | 価格1 トンあたりの売上(万円。ニッケルの転嫁と圧延の手間賃、物価を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40,000 | 103 | 412 | 16 |
| 10 年後 中立 | 37,000 | 138 | 511 | 26 |
取り方:出荷トン数の開示がないため推定。外部売上 412 億円(2026/03 期のセグメント売上 425 億円からセグメント間を除く)を、精密圧延のステンレス帯の 1 トンあたり約 103 万円(冷延コイルの値段に圧延の手間賃を足した水準)で割った約 4 万トン。利益は 1Q の比率から年 16 億円と推定。
加工品
帯鋼を切断・成形した部品や建材(工場の歩廊など)。岐阜工場と福島工場。
| 数量出荷量(トン) | 価格1 トンあたりの売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,000 | 140 | 84 | 6 |
| 10 年後 中立 | 6,300 | 188 | 118 | 7 |
取り方:出荷トン数の開示がないため推定。外部売上 84 億円を、加工の手間を足した 1 トンあたり約 140 万円で割った約 6,000 トン。利益は 1Q の比率から年 5.5 億円と推定。
リスクと懸念
自動車向けの構造的な縮小
主力の外装モール材は中国の EV 化で需要が減り、駆動部品用の異形鋼からは撤退した。自動車の設計が変われば、材料の需要は一気に消える。みがき帯鋼の売上の多くがまだ自動車に頼っている。
海外の安い圧延材
中国や韓国のステンレス圧延材が、汎用品の値段を押し下げている。品質で選ばれる用途を除けば、値段で競る場面が増える。会社は 2029 年度の目標を下げた理由の 1 つに海外材の攻勢を挙げた。
新事業の量産の遅れ
次世代電池向けのステンレス箔は 100 億円、マグネシウム合金は 25 億円、2029 年度の売上の見込みから消えた。量産の時期は数年単位で遅れている。開発の費用だけがかさみ、柱に育たない恐れがある。
借入と金利の上昇
借入金は 170 億円で、現金を引いても 100 億円を超える。今の利払いは低い金利に支えられているが、借り換えのたびに 3.5% 前後に上がる。利益の少ない年には、利払いが営業利益の大半を食う。
工場の更新の費用
圧延の設備は重く、償却は年 17 億円ほどある。物価と建築費が上がれば、設備を建て替える費用は今の償却より大きくなる。会計の利益が出ても、更新の投資で手元の現金は細る。
今後の分かれ目
- 次世代電池向けのステンレス箔か極薄電磁鋼帯で、量産の受注が公表されたら
- やや楽観の筋書きの確率を上げる。数量の減りを小さく見直し、高い品の比率を引き上げる。
- 2027 年 3 月期の営業利益が計画の 13 億円を大きく上回り、利益率 3% を超えたら
- 撤退と値上げの効果が根づいた証拠として、中立の利益率を見直す。
- 自動車の外装モールの受注がさらに減り、みがき帯鋼の売上が 2 期続けて 5% 以上減ったら
- やや悲観の筋書きに重みを移す。
- 大手鉄鋼や同業から資本提携や買収の提案があったら
- PBR の低さから、帳簿の価値に近い値段での再編がありうる。筋書きの外の上振れとして扱う。
- 有価証券や遊休の土地を売り、借入を大きく減らしたら
- 利払いの重さが和らぐので、純利益の見通しを上げ、借金の分の資本コストの上乗せを外すことを考える。
見ておくもの
- みがき帯鋼の四半期の売上と利益率
- 新事業(ステンレス箔・電磁鋼帯・マグネシウム合金・ファインパイプ)の量産の時期
- 借入金の残高と利払い
- 自動車の外装モール向けの受注の動き
- 配当性向と自社株買い
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や PBR を見ずに、ROE と k 9.5% から決めた。中立の ROE は 3.3% で k を大きく下回るので、PER の上限は 1÷k の 10.5 倍になり、その 8 割を使った。PBR 0.2 倍は割安の根拠にしていない。利益率は過去 12 年の山(7.0%)より下の 5% 前後に置き、会社が 2026 年 8 月に見直した 2029 年度の営業利益 20 億円と合う。悲観側は稼ぐ力がほぼ無いので、売れる資産の床で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.5→10.53 倍・やや楽観 PER 8.9→10.53 倍・中立 PER 8.4→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。