結論
大平洋金属は、ステンレスの原料になるフェロニッケルを青森県八戸でつくる専業メーカーだ。ステンレスそのものを作る会社ではない。この点が、同じ鉄鋼の他社と決定的に違う。
筆者の結論は、今の値段はやや割高だ。会社の中身は「赤字の製錬所」「黒字の鉱山の持分」「厚い現金」の三つで、割高の最大の理由は製錬所が稼げないことにある。
営業損益は 4 期続けて赤字で、2026 年 3 月期は 50 億円の赤字だった。それでも純利益が 26 億円の黒字なのは、フィリピンのニッケル鉱山の持分法益が 78 億円あったからだ。本業の穴を、川上の利益で埋めている。
赤字の原因は構造的だ。インドネシアがニッケル銑鉄をつくり過ぎ、日本の電気炉でつくるフェロニッケルは価格でも費用でも勝てない。会社は販売量を絞り、2027 年 3 月期も営業赤字 60 億円を見込む。
財務は堅い。自己資本比率は 93%、純現金は 184 億円と時価総額の 45% に当たる。ただし現金は赤字の穴埋めにも消える。製錬所を畳むか、小さくして耐えるか。この選択で 10 年後の価値は大きく分かれる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「良い鉱山株と悪い製錬所が同居する会社」だ。
良い部分は二つある。一つは財務だ。借金がなく、現金が厚い。もう一つは鉱山の持分だ。資源を持つ側は、相場が上がれば自動的に儲かる。持分法益 78 億円は、時価総額 406 億円に対して大きい。
悪い部分は製錬所だ。10 年後も事業が残るかどうか、そこから疑わしい。赤字を出しながら設備を維持し、稼いだ鉱山の利益と現金を食う。オーナーの手元に残る利益は、鉱山の稼ぎから製錬の赤字を引いた残りに過ぎない。
鉱山の持分も永続ではない。鉱量に限りがあり、タガニートは 2018 年時点で残り約 22 年、リオ・チュバは約 6 年と開示されていた。年金のように期限つきの収入として測るのが筋だ。
安全域は、現金が支える下の部分にだけある。時価総額は純現金と鉱山の持分の簿価でほぼ説明がつき、製錬所と新規事業には値が付いていない。つまり市場は「製錬所はゼロ」と見ている。筆者は、製錬所がマイナスの価値を持つ可能性のほうを重く見る。畳む費用と赤字が続く間の出血は、現金の山を少しずつ削るからだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つある。製錬、鉱山の持分、新規事業だ。会社の開示は「ニッケル事業」と「ガス事業」の二つだけなので、三つへの分け方は筆者の推定である。
製錬は八戸製造所が担う。フィリピンやニューカレドニアのニッケル鉱石を電気炉で溶かし、フェロニッケルにする。売上の約 9 割がこの事業だ。2026 年 3 月期の販売量はニッケル含有で 3,962 トン、適用したニッケル相場は 1 ポンドあたり 6.91 ドルだった。売値はロンドン金属取引所の相場に連動し、一部はニッケル銑鉄の相場も参考にする。
顧客の偏りは大きい。2024 年 3 月期は日鉄ステンレス向けが売上の 82%、台湾の華新麗華が 9% だった。
鉱山の持分が、実は利益の本体だ。フィリピンのリオ・チュバ鉱山を 36%、タガニート鉱山を 33.5% 持つ(相手の過半はフィリピン上場の Nickel Asia)。この持分法益が、2026 年 3 月期は 78 億円に達した。
新規事業は中長期戦略「PAMCOvision2031」で打ち出した。核融合向けのベリリウム、ニッケルマット向けの原料、海底資源の受託製錬、小売電気、電気炉鋼の脱硫材(カルシウムアルミネート)などだ。まだ売上は小さい。
連結子会社には、製錬スラグを扱う太平洋興産(74%)と、工業ガスの大平洋ガスセンター(50%)がある。従業員は連結で約 460 人だ。
優良さと弱いところ
堀は浅い。フェロニッケルは汎用品で、値段は相場が決める。品質で上乗せを取れる商品ではない。
弱さは数字に出ている。2022 年 3 月期は売上 571 億円で営業利益 48 億円の黒字だった。いまの売上は 94 億円と 6 分の 1 に縮み、営業赤字が続く。設備を回すほど赤字が減る固定費の重い事業なのに、安値で売るよりましだと量を絞っている。筆者の概算では、黒字に戻るには今の販売量の数倍が要る。
強みは別にある。第 1 に、川上の鉱山の持分だ。鉱石が逼迫すれば、製錬所は痛むが持分法益は膨らむ。インドネシアの鉱石規制は、この会社にとって両刃になっている。第 2 に、厚い財務だ。自己資本比率 93% で、借金に追われない。第 3 に、日鉄ステンレスとの長い取引関係がある。ただ、同社は 2025 年 3 月に持株を 9.99% に下げ、主要株主ではなくなった。
資本の効率は低い。過去 10 年の自己資本利益率の中央値はほぼゼロだ。
経営は事業の作り替えを掲げる。「業態をゼロベースで見直す」という言葉は重い。だが、新規事業が稼ぎに変わった実績はまだない。筆者がいちばん気にするのは、赤字の製錬を続けるのか畳むのか、決める時期が見えない点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
フェロニッケルの需要の大半はステンレスだ。そのステンレス業界で、ニッケルの調達先が変わってきた。
最大の変化は、インドネシアのニッケル銑鉄だ。中国資本が現地に大規模な設備を建て、過剰生産が続く。社長も、過剰生産に歯止めがかからないとみている。ステンレスメーカーはスクラップの配合を見直し、安いニッケル銑鉄へ調達を移した。日本の電気炉でつくるフェロニッケルは、電力と鉱石のコストで勝てない。
逆風はもう一つある。インドネシアが鉱山の規制を強め、フィリピン産を含む鉱石の値段が上がっている。製錬所の原料費は膨らむ。2027 年 3 月期の赤字拡大の理由に、会社はこれとエネルギー高を挙げた。
一方で、鉱石の値上がりは鉱山の持分には追い風だ。Nickel Asia の 2025 年の純利益は前年の約 3 倍に増え、鉱石の輸出価格は 3 割上がった。大平洋金属の 78 億円の持分法益は、この流れの果実である。
国内の競合は日本冶金工業(5480)が大江山製造所でフェロニッケルをつくるが、これは自社向けだ。ステンレスの国内需要自体が人口減で細っている。
この業界の本質は、川下の製錬が勝てず、川上の鉱山が稼ぐ構図だ。ニッケルの値段が上がっても、製錬所が黒字になるとは限らない。費用も上がるからだ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、守りに寄っている。
配当は連結配当性向 30% を目処とする方針だ。2026 年 3 月期は中間 10 億円、期末 13 億円の計 23 億円を払い、純利益の約 9 割に当たる。2027 年 3 月期は小幅の減配を見込む。赤字の本業を抱えるので、利益が落ちれば配当も下がる前提で見る。
自社株は発行済みの約 11% を自己株式として持つ。政策保有株は上場 52 銘柄で、簿価は約 20 億円と小さく、過去に売却も進めた。
設備投資は小さい。2027 年 3 月期は老朽更新と新規に 4 億円、機能材料に 15 億円だ。製錬所への大型投資は見えない。
再編の芽はある。日鉄ステンレスは持株を 10% 弱まで下げた。これが関係の見直しなのか、単なる持ち高調整なのかはわからない。株価純資産倍率が 1 倍を割る小型株で、現金と鉱山の持分が厚いため、買収の標的にもなりうる。
最大の論点は、現金 184 億円の行き先だ。株主に戻すのか、新規事業に使うのか、赤字の穴埋めで消えるのか。ここで価値が動く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
評価のポイントは、製錬所が持つ「ゼロ」ではなく「オプション」だ。
第 1 に、鉱山の持分は本物だ。2025 年に Nickel Asia の利益は約 3 倍になり、リオ・チュバとタガニートの持分法益は 78 億円に達した。インドネシアの規制が続けば、フィリピン産の鉱石は希少になり、この利益は高止まりする。
第 2 に、製錬所の赤字は縮められる。会社は販売量を大きく絞り、2027 年 3 月期の生産は 3,100 トンまで下げる計画だ。ラインを減らし、固定費を削れば、赤字は 28 億円まで縮むと考えられる。
第 3 に、製錬を畳む選択肢が現実にある。現金は 184 億円あり、整理費用を払っても余る。畳めば、鉱山の利益だけが残り、純利益は 70 億円台に乗る。
第 4 に、新規事業だ。核融合向けのベリリウムは外部から 42 億円の資金を集め、八戸のパイロットプラントは 2026 年度に完成する。ニッケルマット向けの原料は 2027 年度の生産開始を目指す。うまくいけば、八戸の設備と敷地が別の稼ぎに変わる。
最後に、価格だ。時価総額は純現金と鉱山の持分の簿価で説明がつく。製錬所を畳むか、再建が見えるだけで、評価は上に動く。
慎重な見方
今の値段は、製錬所の再建と鉱山の高利益の両方を織り込みすぎている。
第 1 に、持分法益 78 億円は山の数字だ。2025 年に鉱石価格が 3 割上がった反動で、利益が大きく振れた。Nickel Asia の純利益は 2024 年に約 3 分の 1 の水準だった。会社自身も 2027 年 3 月期の経常利益を 7 億円へ急減と見込む。
第 2 に、鉱山には寿命がある。リオ・チュバは 2018 年時点で残り約 6 年、タガニートは約 22 年と開示されていた。年金のように期限があるのに、永続する利益として値をつけるのは危うい。
第 3 に、製錬所は畳めない事情が重い。売上の 8 割超が日鉄ステンレス向けで、供給の責任がある。従業員は約 460 人で、地元八戸の雇用も背負う。畳む決断が遅れるほど、赤字が現金を削る。
第 4 に、新規事業の実績がない。ベリリウムは核融合の実用化が前提で、収益化はまだ先だ。ニッケルマットの原料も、足元では計画段階にとどまる。
最後に、現金は株主のものと決まっていない。新規事業や赤字の穴埋めに使われれば、184 億円は目減りする。時価総額が自己資本の 65% なのは、割安ではなく妥当な割引にすぎない。
どちらに重みを置いたか
どちらも根拠はあるが、強いのは慎重な見方だ。鉱山の持分は本物でも、製錬所の出血が続く限り、利益は鉱山の分で相殺されて増えない。
そこで、製錬を畳んで鉱山の利益だけが残る楽観側(楽観とやや楽観)を合わせて 3 割、製錬を縮めて続ける中立を 35%、赤字が続くやや悲観と悲観を 35% に置いた。畳む決断が遅れるほど、悲観側が厚くなる。
同じ領域の日本冶金工業とは事業が違い、物差しは使えない。こちらは借金がなく、かわりに製錬所の価値がマイナスになりうる点で、悲観の形が違う。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,620 円456 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,087 円189 億円)。 今の値に割り戻すと 1,813 円315 億円、今との差 −18.7%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 6,447 円1,121 億円 | 1,955 円340 億円 | +276.6% | +14.2% | 504 円88 億円 |
| やや楽観 | 24% | 4,903 円853 億円 | 1,610 円280 億円 | +191.9% | +11.3% | 1,563 円272 億円 |
| 中立 | 35% | 2,115 円368 億円 | 1,150 円200 億円 | +46.3% | +3.9% | 1,143 円199 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,035 円180 億円 | 632 円110 億円 | −25.3% | −2.9% | 417 円73 億円 |
| 悲観 | 10% | 575 円100 億円 | 230 円40 億円 | −63.9% | −9.7% | 80 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,620 円456 億円 | 1,087 円189 億円 | +66.2% | +5.2% | 3,707 円645 億円 |
今の株価時価総額 2,231 円388 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:ニッケル銑鉄の過剰が収まり、製錬が黒字に戻る 利益 124 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 6,447 円1,121 億円
インドネシアが鉱山と製錬の規制をさらに強め、ニッケル銑鉄の過剰が収まる。ニッケル相場が上がり、費用の上昇を超えて売値が伸びる。ステンレスメーカーも、品質の安定したフェロニッケルを見直す。
製錬の販売量は今の 2 倍の 8 千トンに戻り、営業利益は黒字に変わる。固定費を回せる量に届くかどうかが分かれ目で、ここがその境を越えた姿だ。
鉱山の持分は引き続き稼ぐ。鉱石の出荷が伸び、価格も物価を上回る。持分法益は 100 億円に乗る。
新規事業も一部が実る。核融合向けのベリリウムが実証炉向けに納入を始め、ニッケルマット向けの原料が立ち上がる。営業利益は 25 億円まで育つ。
純利益は 120 億円台で、自己資本利益率は 11% 台に上がる。それでも鉱山には寿命があるため、倍率は伸びない。株主への還元も厚くなる。
- フェロニッケル製錬(八戸):数量 8.0(販売量(ニッケル含有・千トン))× 価格 324(1 トンあたり売上(万円・ニッケル含有ベース))→ 売上 259 億円・営業利益 10 億円。数量 8.0 × 単価 324
- 鉱山の持分(持分法益):数量 5.4(持分に対応する鉱石の出荷量(百万 wmt))× 価格 5,900(1 wmt あたり売上(円・ニッケル鉱石の平均))→ 売上 319 億円・営業利益 101 億円。数量 5.4 × 単価 5900
- 新規事業・ガス・副産物:数量 5.0(販売量(千トン換算の混合))× 価格 240(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 120 億円・営業利益 25 億円。数量 5.0 × 単価 240
倍率:事業の純利益 122 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 1.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 8.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 8.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)120 億円。全体の PER 8.2 倍、時価総額 1,121 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インドネシアが生産を抑え、日本の製錬所が黒字に戻る条件は多い。鉱山の追い風は続きやすいが、製錬の復活までは重ならないため低く置く。
やや楽観 24% やや楽観:製錬を畳み、鉱山の利益だけが残る 利益 77 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 4,903 円853 億円
会社は 2030 年度ごろまでに製錬を止める。整理の費用は 70 億円ほどかかるが、現金で賄える。八戸の敷地と設備は、新規事業に回す。
販売量は在庫の売り切りで 400 トン程度に落ち、赤字は 3 億円まで縮む。もう黒字の見込みのない設備に、現金を食われなくなる。
残る稼ぎは鉱山の持分だ。リオ・チュバの鉱量は減るが、タガニートは稼ぎ続け、持分法益は 76 億円になる。
新規事業は小さく育つ。ベリリウムとニッケルマット向け原料が合わせて 10 億円の営業利益を出し、電気とカルシウムアルミネートが下支えする。
純利益は 77 億円で、自己資本利益率は 9% 台だ。資本コストにやや届かない。ただし配当は厚くなる。畳む決断をした経営は、資本を大切にする会社として見直される。
- フェロニッケル製錬(八戸):数量 0.4(販売量(ニッケル含有・千トン))× 価格 289(1 トンあたり売上(万円・ニッケル含有ベース))→ 売上 12 億円・営業利益 −3 億円。数量 0.4 × 単価 289.4
- 鉱山の持分(持分法益):数量 4.8(持分に対応する鉱石の出荷量(百万 wmt))× 価格 5,630(1 wmt あたり売上(円・ニッケル鉱石の平均))→ 売上 270 億円・営業利益 76 億円。数量 4.8 × 単価 5630
- 新規事業・ガス・副産物:数量 3.5(販売量(千トン換算の混合))× 価格 150(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 53 億円・営業利益 10 億円。数量 3.5 × 単価 150
倍率:事業の純利益 75 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 1.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 8.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 8.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)120 億円。全体の PER 8.2 倍、時価総額 736 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:経営が事業の作り替えを掲げており、現金も厚いので畳む決断は現実的だ。ただし時期と費用が読めないため、中立よりやや低く置く。
中立 35% 中立:製錬を小さくして続け、赤字と鉱山の黒字が相殺する 利益 34 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 2,115 円368 億円
製錬は畳まれず、小さく続く。ラインを減らして固定費を削り、販売量は 2 千トン台に落ちる。それでも赤字は残り、営業損失は 28 億円ほどだ。日鉄ステンレスへの供給責任と地元の雇用が、全面撤退を遅らせる。
鉱山の持分は、鉱石価格が平常に戻り、鉱量も減るため、今より実質で細る。持分法益は 62 億円だ。
新規事業は黒字を出せず、せいぜい収支が合う程度だ。営業利益は 3 億円にとどまる。
全体の営業利益は 31 億円で、純利益は 33 億円ほどになる。自己資本利益率は 5% 台で、資本コストには届かない。
手元の現金は赤字の穴埋めと整理費用で減るが、鉱山の配当が補う。配当は今の水準を保つのが精いっぱいで、株主への還元は年 20 億円ほどだ。会社は大きく伸びず、大きく崩れもしない。
- フェロニッケル製錬(八戸):数量 2.2(販売量(ニッケル含有・千トン))× 価格 289(1 トンあたり売上(万円・ニッケル含有ベース))→ 売上 64 億円・営業利益 −28 億円。数量 2.2 × 単価 289.4
- 鉱山の持分(持分法益):数量 4.3(持分に対応する鉱石の出荷量(百万 wmt))× 価格 5,360(1 wmt あたり売上(円・ニッケル鉱石の平均))→ 売上 231 億円・営業利益 62 億円。数量 4.3 × 単価 5360
- 新規事業・ガス・副産物:数量 3.0(販売量(千トン換算の混合))× 価格 85(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 26 億円・営業利益 3 億円。数量 3.0 × 単価 85
倍率:事業の純利益 32 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.9% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 7.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 7.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)120 億円。全体の PER 7.79 倍、時価総額 368 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:製錬を小さく続ける姿が、会社の今の方針にいちばん近い。畳みきれず、再建も完成しない中間の姿として最も起きやすい。
やや悲観 25% やや悲観:製錬の赤字が続き、鉱山の利益も細る 利益 −27 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,035 円180 億円
製錬所の赤字は縮まない。ニッケル銑鉄との競争で売値は物価に追いつかず、鉱石とエネルギーの費用が上がる。営業損失は 60 億円規模のまま続く。
日鉄ステンレスへの供給責任と地元の雇用が、閉鎖の判断を遅らせる。10 年のうち前半は赤字を垂れ流し、後半に整理を始めても費用が重い。
鉱山の持分は細る。リオ・チュバの鉱量が尽きに向かい、鉱石価格も 2025 年の山から下がる。持分法益は 42 億円まで落ちる。
新規事業は立ち上がりが遅れ、営業利益は 6 億円の赤字だ。
純損益は 27 億円の赤字になり、自己資本は 330 億円まで減る。配当は減額され、年 10 億円規模になる。
評価の支えは、残った現金と鉱山の持分を売った時の価値だ。会社は稼ぐ会社でなくなり、資産の箱として値がつく。
- フェロニッケル製錬(八戸):数量 3.0(販売量(ニッケル含有・千トン))× 価格 275(1 トンあたり売上(万円・ニッケル含有ベース))→ 売上 83 億円・営業利益 −60 億円。数量 3.0 × 単価 275
- 鉱山の持分(持分法益):数量 3.5(持分に対応する鉱石の出荷量(百万 wmt))× 価格 4,900(1 wmt あたり売上(円・ニッケル鉱石の平均))→ 売上 172 億円・営業利益 42 億円。数量 3.5 × 単価 4900
- 新規事業・ガス・副産物:数量 2.0(販売量(千トン換算の混合))× 価格 60(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 12 億円・営業利益 −6 億円。数量 2.0 × 単価 60
倍率:赤字なので利益の倍率は使わない。稼ぐ力(鉱山の持分法益と金利収入から製錬の赤字を引くとマイナス)ではなく、売れる資産で測る。残る現金と鉱山の持分の売却価値を合わせて床とし、今の自己資本629億円を下回る水準に置く。
確率:撤退を決められず赤字が続く姿は、いま起きていることの延長だ。鉱石価格の反動もあるため、中立の次に厚く置く。
悲観 10% 悲観:閉鎖が遅れて減損と撤去費用がかさみ、新規事業も不発 利益 −37 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 575 円100 億円
製錬の閉鎖が遅れ、赤字が現金を削り続ける。最後に閉鎖を決めた時には、設備の減損と撤去、従業員への対応で 250 億円ほどの費用が出る。
鉱山の持分は細る。ニッケル価格が低迷し、鉱石のコストは上がる。リオ・チュバは操業を終え、持分法益は 15 億円に落ちる。
新規事業は実を結ばない。核融合の実用化が遅れ、ベリリウムは小さな市場にとどまる。ニッケルマットの原料は、価格が合わず見送られる。営業損失は 12 億円だ。
全体では 38 億円の営業損失になり、自己資本は 190 億円台まで減る。配当は事実上ゼロに近づく。
会社は「現金と鉱山株の箱」としても縮み、清算に近い価値で評価される。借金がないので破綻はしないが、株主の取り分は細る。
- フェロニッケル製錬(八戸):数量 0.5(販売量(ニッケル含有・千トン))× 価格 270(1 トンあたり売上(万円・ニッケル含有ベース))→ 売上 14 億円・営業利益 −35 億円。数量 0.5 × 単価 270
- 鉱山の持分(持分法益):数量 2.0(持分に対応する鉱石の出荷量(百万 wmt))× 価格 4,400(1 wmt あたり売上(円・ニッケル鉱石の平均))→ 売上 88 億円・営業利益 15 億円。数量 2.0 × 単価 4400
- 新規事業・ガス・副産物:数量 1.5(販売量(千トン換算の混合))× 価格 57(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 9 億円・営業利益 −12 億円。数量 1.5 × 単価 57
倍率:赤字なので利益の倍率は使わない。閉鎖費用を払った後の売れる資産(残る現金と細った鉱山の持分)を床にして、今の自己資本629億円に対し約16%の水準に置く。
確率:製錬の赤字、鉱山の細り、新規事業の失敗が重なる構造的な負けだ。現金が厚く倒産はしにくいため、1 割にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
フェロニッケル製錬(八戸)
ニッケル鉱石を電気炉で溶かし、ステンレス向けのフェロニッケルをつくる。スラグなどの副産物を含む。
| 数量販売量(ニッケル含有・千トン) | 価格1 トンあたり売上(万円・ニッケル含有ベース) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 216 | 86 | −48 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 289 | 64 | −28 |
取り方:販売量は 2026 年 3 月期の決算説明(3,962 トン)。単価は、連結売上 94 億円の約 9 割をニッケル事業と見て 85.6 億円とし、販売量で割った推定(適用ニッケル相場 6.91 ドル/ポンドを 150.87 円で換算した約 230 万円に近い)。営業損益は連結の営業損失 50 億円のうち、棚卸評価の戻し入れ 23 億円を含む数字で、本業の実力はさらに悪い。
鉱山の持分(持分法益)
フィリピンのリオ・チュバ鉱山(36%)とタガニート鉱山(33.5%)の持分に対応する出荷と利益。会計上は営業外の持分法益だが、利益の本体なので分けて積む。
| 数量持分に対応する鉱石の出荷量(百万 wmt) | 価格1 wmt あたり売上(円・ニッケル鉱石の平均) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 4,000 | 200 | 78 |
| 10 年後 中立 | 4.3 | 5,360 | 231 | 62 |
取り方:内訳は非開示。持分法益 78 億円(決算説明)を、Nickel Asia の 2025 年の出荷量(全鉱山 1,856 万 wmt、加重平均の鉱石価格 25.66 ドル)と持分比率から逆算した推定で、出荷量 500 万 wmt、1 wmt あたり約 27 ドル相当(150 円換算。輸出と製錬所向けの平均)と置いた。売上は連結に入らない持分按分の目安で、op は持分法益そのもの。
新規事業・ガス・副産物
ベリリウム、ニッケルマット向け原料、カルシウムアルミネート、小売電気、工業ガス、スラグ販売など。
| 数量販売量(千トン換算の混合) | 価格1 トンあたり売上(万円・製品の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 43 | 9 | −2 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 85 | 26 | 3 |
取り方:連結売上の約 1 割(8.5 億円)をガス・スラグ・立ち上げ中の事業と見て、販売量と単価を置いた推定。開示は粗い。営業損益は研究開発費を含めてわずかな赤字と置いた。
リスクと懸念
製錬所の赤字と撤退の判断
営業赤字は 4 期続き、2027 年 3 月期は 60 億円の赤字を見込む。畳む決断が遅れるほど、現金を削る。整理の費用も、時期によって大きく変わる。
鉱山の持分法益の振れ
2026 年 3 月期の持分法益 78 億円は、鉱石価格が上がった年の数字だ。相場が戻れば半分近くに落ちうる。鉱山には寿命があり、リオ・チュバは 2018 年時点で残り約 6 年と開示されていた。
インドネシアの政策
鉱山の規制は、鉱石を高くして製錬所の費用を押し上げる。逆に緩めば、ニッケル銑鉄の洪水が続き、売値が下がる。どちらに転んでも製錬所には厳しい。
顧客の偏り
売上の 8 割超が日鉄ステンレス向けだ。2025 年 3 月に持株が 10% を割り、関係が変わる可能性がある。取引が細れば、販売量の下支えがなくなる。
新規事業の実行
ベリリウムは核融合の実用化が前提で、収益化は先になる。ニッケルマット向け原料、受託製錬、電力も、まだ売上が小さい。資金を使っても稼ぎにならないリスクがある。
現金の使い道
手元の純現金は 184 億円あるが、株主に戻る保証はない。新規事業や赤字の穴埋めに使われれば、価値が目減りする。配当性向の目処も、利益が出ない年は意味を持たない。
今後の分かれ目
- 製錬の停止や大幅な縮小が発表される
- 整理費用が出るが、赤字の出血が止まる。中立から、やや楽観の筋書きへ寄る。
- ニッケル相場が上がり、費用の上昇を超えて売値が伸びる
- 製錬の販売量と利益率が戻り、楽観の筋書きに近づく。鉱山の持分法益も増える。
- インドネシアが鉱石の輸出や製錬の規制を緩める
- ニッケル銑鉄の過剰が続き、製錬の赤字が固定化する。やや悲観へ寄る。
- リオ・チュバやタガニートの鉱山免許・鉱量に問題が出る
- 持分法益の期限が縮み、年金としての価値が下がる。中立から悲観へ寄る。
- 日鉄ステンレスが持株をさらに売り、取引も減らす
- 販売先を失う恐れがあり、製錬の縮小か撤退が早まる。
- ベリリウムなど新規事業が初の黒字を出す
- 新規事業が稼ぎに変わる証拠となり、やや楽観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 製錬の営業損益と販売数量
- 持分法投資損益の内訳(リオ・チュバ・タガニート)
- ニッケルの相場と、フィリピン産の鉱石価格
- インドネシアの鉱山・輸出の規制
- PAMCOvision2031 の進み具合(新規事業の売上・損益)
- 純現金と配当の水準
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PERには寄せていない。製錬・鉱山の持分・新規事業を、数量と単価(物価並みの1.34倍が基本)で10年先まで積んだ。鉱山の持分は寿命14年の年金で測り、倍率は上限7.9倍の約8〜9割に置いた。製錬所の赤字が続く筋書きでは、利益の倍率を使わず売れる資産で測っている。結果として時価総額(純現金と鉱山の簿価でほぼ説明がつく水準)を下回るのは、製錬所の価値をゼロでなくマイナスとみたため。形は日本冶金工業と違い、借金が無く現金が厚いが、製錬が構造的に負けている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 7.4→8.2 倍・やや楽観 PER 7→8.2 倍・中立 PER 6.6→7.79 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +2.25% を足した9.75%。借金が無い分、同じ領域の日本冶金工業(+1.75%)の借金の項は消えるが、循環と寿命で上回る。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.75% → 9.25%。