結論
大同特殊鋼は、自動車の足回りや駆動部品に使う特殊鋼の国内最大手だ。強い鋼を溶かし、棒や鍛造品に仕上げて自動車メーカーの部品会社へ納める。
筆者の結論は、今の値段は割高だ。理由は稼ぐ力にある。自己資本利益率は 7% 前後で、資本コストの 8.5% に届かない。元手より価値が小さい会社に、元手並みの値段は付けにくい。会社が掲げる再成長の計画を、株価はかなり織り込んでいる。
逆風は明白だ。エンジンやミッション向けの鋼材は、電気自動車が増えるほど減る。会社自身も、この需要の漸減を覚悟し、10 年かけて事業を組み替えると明言している。
手札もある。半導体製造装置向けのステンレスは世界シェア 5 割を狙い、航空機・掘削向けの高合金、チタン、電動車用の磁石も伸ばす。これが自動車の細りを埋めれば、利益は今より増える。ただ、実を結ぶのは 10 年がかりで、途中の不況で谷も深くなる。
資本の使い方は良い方向に動いている。東北特殊鋼の子会社化、政策保有株の縮減、配当の下限設定がそれだ。それでも、今の利益水準に見合う値段は、市場が付けている値段より低いと筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「分かる事業だが、持ち続けたいとは言いにくい」位置にある。
事業は理解しやすい。特殊鋼を作って自動車に納める。10 年後も事業はあるが、今より強いとは言えない。主力の需要が構造的に縮むからだ。堀は技術と認証にあるが、広がるより守る堀だ。
オーナーの手に残る利益は少ない。設備の更新に大きな投資が要り、稼ぎは資本コストに届かない。新分野への 360 億円の投資が、本当に資本コスト以上を稼ぐかは、完成してみないと分からない。
経営は資本の効率に目を向け始めた。買収は小さく、政策保有株も縮める。ここは前向きに見ている。
安全域はない。今の値段は、利益が 4〜5 割増える姿をすでに半分は払っている。楽観の筋書きでも、値段に見合うのは 10 年先でようやくだ。筆者は、この銘柄に対し、よほどの下落がない限り安全域は薄いと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 4 つある。最大は特殊鋼鋼材で、自動車や建設機械向けの棒鋼を主に、売上の 4 割ほどを占める。数量は年に 100 万トン余りで、国内では最大手だ。
いちばん利益率が高いのは機能材料・磁性材料だ。半導体製造装置向けのステンレス、航空機エンジンや石油掘削に使う高合金、チタン、電動車用のネオジム磁石が入る。会社は、ここを次の稼ぎ頭に育てる。
3 つ目は自動車部品・産業機械部品だ。鍛造品など、鋼材を加工した部品を自動車メーカーの系列各社へ納める。鋼材より付加価値は高いが、エンジン周りの比重が大きく、電動化の影響を直接受ける。
残りはエンジニアリングと流通だ。電気炉や環境設備の製作、鋼材の販売がここに入る。
顧客の中心は国内の自動車産業だ。トヨタ・日産などの自動車メーカーが軸だ。海外の売上は 3 割弱で、会社は 2030 年度に 35% を目指している。
工場は愛知県の知多・星崎、渋川などにあり、高合金の溶解は渋川が親工場だ。航空機向けは認証が必要で、品質管理の部署を 2023 年に新設して体制を固めた。
事業別の売上と利益は開示の区分を参考にした筆者の推定である。
優良さと弱いところ
堀は、技術と顧客との長い付き合いにある。特殊鋼は、成分と熱処理で性能が決まる素材だ。自動車メーカーの認証を通り、品質で信頼を積んだ供給元は、簡単には入れ替わらない。航空機向けも認証が壁になる。
一方、価格を決める力は弱い。鋼材は原料のくず鉄や合金の値段を価格に反映する仕組みが主で、利益は加工の付加価値に限られる。自動車メーカーとの交渉でも、強気に出られる立場ではない。
資本の効率は物足りない。営業利益率は過去 10 年ほぼ 5〜8% に収まり、自己資本利益率は 12 年のうち 1 年しか 10% を超えていない。純資産の厚み、特に政策保有株が利益を生まないまま残っていることが重しだ。
財務は堅い。自己資本比率は 55% あり、赤字は 2009・2010 年の 2 年だけだ。倒産を心配する会社ではない。
経営は、遅まきながら資本効率に目を向けている。2025 年に計画を作り直して数字を引き下げた点は、背伸びしない姿勢として評価できる。筆者がいちばん気にするのは、電動化の進み方が会社の想定より速い場合に、新分野の利益が間に合うかどうかだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の特殊鋼は、成熟どころか縮む市場だ。自動車の国内生産は人口とともに細り、日系メーカーの中国での販売減も響いている。数量の追い風はどこにもない。
さらに電動化が来る。エンジンの弁やクランクシャフト、ミッションの歯車は、強度の高い特殊鋼の大きな需要先だった。電気自動車ではこれらが要らなくなる。ただ、足回りや車体の部品は残る。減り方は、10 年で 2〜4 割の幅で見るのが妥当だろう。
競合は国内の愛知製鋼、山陽特殊製鋼、海外の特殊鋼メーカーだ。愛知製鋼はトヨタグループに属し、鍛造部品に強い。軸受鋼は山陽特殊製鋼が強い。大同は規模で国内最大手だが、価格をリードできるほどの差はない。
伸びる領域は別にある。半導体製造装置向けのステンレスは、半導体の設備投資とともに伸びるが、波も大きい。航空機のエンジン部材は、認証が壁で参入しにくく、需要は長く伸びる。資源開発やエネルギー向けの高合金も底堅い。会社はこれらに 360 億円を投じて自由鍛造品の能力を増やしている。
つまり、この業界の本質は縮む本業と、伸びるが小さい新分野の綱引きだ。綱引きの結果は、10 年後に売上がほぼ横ばいで、中身が入れ替わる姿に落ち着くと筆者は見る。
資本政策と M&A
資本の使い方は、ここ数年で変わってきた。
2026 年 5 月、持分 34% の東北特殊鋼に公開買付けを行い、持分は 58% に上がった。7 月から連結子会社で、会社は完全子会社化を目指す。買収額は 79 億円と小さく、特殊鋼の事業基盤をまとめる狙いだ。無理な大型買収ではない点は安心できる。
政策保有株は減らす方針だ。2030 年までに純資産の 10% まで縮め、2024 年には一部を売って約 90 億円の益を出した。ノンコア不動産も売る。この資金が成長投資と還元に回る。
還元は、配当性向 30% 以上に純資産配当率 2.5% の下限を加えた。自社株買いも選択肢に入れている。3 年で投資 1,400 億円、還元 500 億円の計画だ。投資のほうが重く、還元の厚みは出ない。
大型の再編は、国内の特殊鋼をめぐって起こりうる。愛知製鋼や山陽特殊製鋼との関係に注意したい。ただし、実現を前提にはしない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社は 2030 年度に営業利益 600 億円以上、自己資本利益率 9% 以上を掲げており、実現すれば今の値段は安く見える。根拠は 3 つある。
第 1 は半導体製造装置向けのステンレスだ。会社は世界シェア 5 割を狙い、真空アーク再溶解炉の増設に 50 億円超を投じた。半導体の設備投資は AI 向けで長く伸びる可能性が高く、この分野の利益率は他の事業の 2 倍以上ある。
第 2 は航空機・エネルギー向けの高合金だ。認証が壁で参入は難しく、需要は長く続く。360 億円の高合金プロセス改革は、完成後に営業利益を約 50 億円押し上げる計画で、投資の回収は見えている。
第 3 は自動車の細りが緩やかなことだ。ハイブリッド車が長く残り、足回りや車体の部品は電気自動車でも要る。数量が 10 年で 1 割減にとどまれば、本業の利益は大きく崩れない。
そのうえ、政策保有株と不動産の売却、配当の下限設定で、資本効率は改善に向かう。自己資本利益率が 9% に乗れば、PBR 1 倍が正当化される。
慎重な見方
今の株価は、会社が一度引き下げた計画の達成すら前提にしている。慎重に見るべき点は 3 つある。
第 1 は本業の細りだ。自動車向けの特殊鋼は、電動化で 10 年間に 2〜4 割減る。会社自身が漸減を覚悟すると語っている。国内の自動車生産も、人口減と日系メーカーの苦戦で伸びない。
第 2 は新分野の規模だ。成長市場製品の売上比率は約 10% で、2030 年度の 25% という目標でも、本業の細りを埋めるには時間がかかる。半導体向けは設備投資の波が大きく、不況のたびに需要が急減する。
第 3 は資本効率だ。過去 12 年で自己資本利益率が 10% を超えたのは 1 年だけで、会社が掲げる 9% は一度も定着していない。前回の計画は財務目標を達成できず、今回も営業利益の目標を 600 億円から 400 億円に引き下げた。
不況に対する耐性も高くない。2009 年は純損失、2020 年の谷では純利益が 45 億円まで落ちた。電動化と景気の谷が重なれば、単独で立て直せる保証はない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。本業の縮小は動かしにくい事実で、新分野の成功は未確定だからだ。強気の根拠である半導体・航空機向けは本物だが、規模が本業の細りを埋めるまでに時間がかかる。そこで確率は、10 年では中立とやや悲観・悲観に厚く置き、悲観は 12% とした。ただし、半導体向けが想定以上に伸びる筋書きも無視できず、楽観とやや楽観に合わせて 3 割を残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,142 円4,281 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 899 円1,797 億円)。 今の値に割り戻すと 1,604 円3,206 億円、今との差 −27.6%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,508 円7,010 億円 | 1,107 円2,212 億円 | +108.1% | +7.6% | 461 円922 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,852 円5,700 億円 | 920 円1,838 億円 | +70.1% | +5.5% | 754 円1,508 億円 |
| 中立 | 38% | 2,402 円4,800 億円 | 800 円1,598 億円 | +44.4% | +3.7% | 1,217 円2,431 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,219 円2,436 億円 | 904 円1,806 億円 | −4.3% | −0.4% | 424 円848 億円 |
| 悲観 | 12% | 536 円1,071 億円 | 1,000 円1,998 億円 | −30.7% | −3.6% | 184 円368 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,142 円4,281 億円 | 899 円1,797 億円 | +37.2% | +3.2% | 3,041 円6,078 億円 |
今の株価時価総額 2,217 円4,431 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:半導体と航空機が本業の細りを大きく上回る 利益 559 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,508 円7,010 億円
半導体製造装置向けのステンレスが世界シェア 5 割に近づき、航空機と資源開発向けの高合金も増産が実を結ぶ。機能材料の数量は今の 1.65 倍になり、営業利益率は 16% に届く。電動化はハイブリッド車が長く残る形で進み、自動車向け鋼材の数量は 10 年で 1 割減にとどまる。自動車部品も電動車用の駆動部品や磁石へ乗り換えが進み、利益率が上向く。高合金プロセス改革の投資も計画どおり回収される。営業利益は 800 億円台に乗り、会社が掲げる 2030 年度の目標を超える。政策保有株の縮減と配当の下限で、還元も厚くなる。それでも、鋼材と部品の本業は縮んでおり、自己資本利益率は 8% 台にとどまる。資本コストには届かず、倍率はそこで頭打ちになる。
- 特殊鋼鋼材:数量 99.4(出荷量(万トン))× 価格 29(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 2,863 億円・営業利益 172 億円。数量 99.36 × 単価 28.81、営業利益率 6.0%
- 機能材料・磁性材料:数量 8.3(出荷量(万トン・混合単価))× 価格 348(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 2,874 億円・営業利益 460 億円。数量 8.25 × 単価 348.40、営業利益率 16.0%
- 自動車部品・産業機械部品:数量 27.3(出荷量(万トン換算))× 価格 54(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,474 億円・営業利益 111 億円。数量 27.28 × 単価 54.03、営業利益率 7.5%
- エンジニアリング・流通ほか:数量 48.0(取扱量(万トン換算))× 価格 27(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,285 億円・営業利益 64 億円。数量 48.00 × 単価 26.77、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 559 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.54 倍、時価総額 7,010 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体投資の長い上昇と航空機需要の継続、電動化の緩やかな進行がすべてそろう必要があり、確度は低め。
やや楽観 20% やや楽観:新分野が育ち、自動車の細りは小幅 利益 456 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,852 円5,700 億円
半導体向けと高合金は計画の 8 割ほどで伸び、機能材料の数量は今の 1.45 倍になる。電動化は想定より穏やかで、鋼材の数量は 1 割強の減少にとどまる。東北特殊鋼の完全子会社化で電炉・工具鋼の重複が減り、利益率が少し改善する。営業利益は 650 億円台に乗るが、新分野の立ち上げ費用と設備更新の負担が重く、利益率は過去の最良期に届かない。自動車部品は電動車向けの受注が一部で入るものの、エンジン系の減少を埋めるには足りない。還元は配当性向 30% 台後半から 40% で、自社株買いは小さい。株価は事業の安定を評価されるが、成長株としては見られない。
- 特殊鋼鋼材:数量 95.0(出荷量(万トン))× 価格 29(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 2,738 億円・営業利益 151 億円。数量 95.04 × 単価 28.81、営業利益率 5.5%
- 機能材料・磁性材料:数量 7.3(出荷量(万トン・混合単価))× 価格 342(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 2,477 億円・営業利益 359 億円。数量 7.25 × 単価 341.70、営業利益率 14.5%
- 自動車部品・産業機械部品:数量 25.4(出荷量(万トン換算))× 価格 54(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,373 億円・営業利益 93 億円。数量 25.42 × 単価 54.03、営業利益率 6.8%
- エンジニアリング・流通ほか:数量 45.6(取扱量(万トン換算))× 価格 27(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,221 億円・営業利益 56 億円。数量 45.60 × 単価 26.77、営業利益率 4.6%
倍率:事業の純利益 456 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 5,700 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新分野が会社の計画の 7〜8 割で進めば成り立つ。計画が一度下がった点を考えると、起こりやすい出来事の一つ。
中立 38% 中立:本業は 15% 減り、新分野が埋めて売上は物価並みに伸びる 利益 384 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,402 円4,800 億円
自動車向けの特殊鋼は電動化で 10 年に 2 割強減り、鋼材全体の数量は今の 0.85 倍になる。自動車部品も 2 割ほど減る。半導体向けと高合金は着実に伸び、機能材料の数量は 1.3 倍になる。価格は物価並みに上がり、売上は今の 1.3 倍の 7,300 億円台になる。営業利益は 560 億円で、過去の最良期をわずかに上回る程度にとどまる。会社が掲げる 600 億円には届かない。新分野の拡大は、本業の細りと設備更新の費用でほぼ相殺される。自己資本利益率は 6% 前後で、資本コストを下回り続ける。競争の形は今と変わらず、愛知製鋼などとの価格競争が続く。大同は利益の中身を入れ替えつつ、規模は横ばいで 10 年を過ごす。
- 特殊鋼鋼材:数量 91.8(出荷量(万トン))× 価格 29(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 2,645 億円・営業利益 132 億円。数量 91.80 × 単価 28.81、営業利益率 5.0%
- 機能材料・磁性材料:数量 6.5(出荷量(万トン・混合単価))× 価格 335(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 2,178 億円・営業利益 294 億円。数量 6.50 × 単価 335.00、営業利益率 13.5%
- 自動車部品・産業機械部品:数量 24.2(出荷量(万トン換算))× 価格 54(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,306 億円・営業利益 81 億円。数量 24.18 × 単価 54.03、営業利益率 6.2%
- エンジニアリング・流通ほか:数量 43.2(取扱量(万トン換算))× 価格 27(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,157 億円・営業利益 49 億円。数量 43.20 × 単価 26.77、営業利益率 4.2%
倍率:事業の純利益 384 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,800 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画の達成度が 5〜6 割にとどまると見る中心の筋書き。過去の計画が未達だった実績が根拠。
やや悲観 20% やや悲観:電動化が早く進み、新分野が伸び悩む 利益 276 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,219 円2,436 億円
電動化が想定より早く進み、自動車向け鋼材は 10 年で 2 割強減る。部品の減少はさらに大きく、3 割強になる。国内の自動車生産は人口減とともに細る。半導体向けは中国の国産化と設備投資の停滞で伸びが鈍り、機能材料の数量は 1.12 倍にとどまる。価格は競争で物価に追いつかず、鋼材と機能材料で実質 3% 下がる。営業利益は 400 億円まで落ち、今より 5% 減る。固定費の重さが利益率を押し下げ、自己資本利益率は 5% を割る。設備の減損が出るため、自己資本の伸びも鈍る。会社は事業の組み替えを急ぎ、さらに資産の売却と構造改革の費用を出す。株価は、成長の見込みを失った素材会社として、純資産を大きく割り込む水準で評価される。
- 特殊鋼鋼材:数量 84.2(出荷量(万トン))× 価格 28(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 2,354 億円・営業利益 99 億円。数量 84.24 × 単価 27.95、営業利益率 4.2%
- 機能材料・磁性材料:数量 5.6(出荷量(万トン・混合単価))× 価格 325(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 1,820 億円・営業利益 209 億円。数量 5.60 × 単価 324.95、営業利益率 11.5%
- 自動車部品・産業機械部品:数量 21.1(出荷量(万トン換算))× 価格 52(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,105 億円・営業利益 57 億円。数量 21.08 × 単価 52.41、営業利益率 5.2%
- エンジニアリング・流通ほか:数量 40.3(取扱量(万トン換算))× 価格 26(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,058 億円・営業利益 38 億円。数量 40.32 × 単価 26.24、営業利益率 3.6%
倍率:資本コスト8%。余った現金を除いた事業のROE4.7%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.8倍で、その約7割の8倍に置く。電動化が早く進み新分野が伸び悩む筋書き。
確率:電動化の加速と半導体向けの停滞が同時に起きる必要があるが、一方だけなら十分ありうるので、やや高めに置いた。
悲観 12% 悲観:電動化と中国勢の攻勢で自動車事業が崩れ、新分野も間に合わない 利益 144 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 536 円1,071 億円
電動専用の車台が普及し、エンジン・ミッション系の部品はほぼ消える。自動車向け鋼材の数量は 10 年で 4 割減り、部品は半減する。中国の特殊鋼メーカーが海外市場で値下げを仕掛け、価格は実質 7% 下がる。半導体向けは国産化で伸びず、高合金も増産投資の回収が遅れる。営業利益は 200 億円に細り、自己資本利益率は 3% 台になる。自動車向けの設備に巨額の減損が出て、自己資本は 1,000 億円ほど毀損する。会社は人員と設備を減らす再編に追い込まれる。もはや優良な素材会社ではなく、再建途上の会社として評価される。
- 特殊鋼鋼材:数量 67.0(出荷量(万トン))× 価格 27(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,794 億円・営業利益 36 億円。数量 66.96 × 単価 26.79、営業利益率 2.0%
- 機能材料・磁性材料:数量 4.8(出荷量(万トン・混合単価))× 価格 308(1 トンあたり売上(万円・製品の混合))→ 売上 1,464 億円・営業利益 132 億円。数量 4.75 × 単価 308.20、営業利益率 9.0%
- 自動車部品・産業機械部品:数量 15.5(出荷量(万トン換算))× 価格 50(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 779 億円・営業利益 23 億円。数量 15.50 × 単価 50.25、営業利益率 3.0%
- エンジニアリング・流通ほか:数量 36.0(取扱量(万トン換算))× 価格 25(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 916 億円・営業利益 23 億円。数量 36.00 × 単価 25.43、営業利益率 2.5%
倍率:資本コスト8%。余った現金を除いた事業のROE3.6%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.8倍で、その約6割の7.5倍に置く。電動化と中国勢で自動車事業が崩れる構造的な負けなので、中立よりかなり低く置く。売れる資産の床は足さない。
確率:電動化の急進と新分野の失速が重なる構造的な負けで、可能性は低くない。本業が自動車に偏る点を踏まえ、12% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
特殊鋼鋼材
自動車・建設機械向けの棒鋼など。国内最大手。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 108 | 22 | 2,322 | 105 |
| 10 年後 中立 | 91.8 | 29 | 2,645 | 132 |
取り方:会社の計画の鋼材数量(2024 年度 108 万トン、2026 年度 116 万トン想定)の 108 万トンと、売上の 4 割ほどという見当から単価 21.5 万円を置いた推定。開示の区分を参考にした筆者の推定で、営業利益 105 億円は会社の「150 億円規模の実力」より低い今の実績に合わせた。
機能材料・磁性材料
半導体製造装置用ステンレス、航空機・掘削向け高合金、チタン、電動車用磁石。
| 数量出荷量(万トン・混合単価) | 価格1 トンあたり売上(万円・製品の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 250 | 1,250 | 190 |
| 10 年後 中立 | 6.5 | 335 | 2,178 | 294 |
取り方:半導体向け・高合金・磁石・チタンを合わせた出荷を 5 万トンと見て、混合単価 250 万円を置いた推定。個別の数量は開示がない。営業利益 190 億円は利益率 15% 台と置いた推定で、会社の当初計画(2026 年度に 280 億円)より低い。
自動車部品・産業機械部品
鋼材を鍛造・加工した部品。自動車メーカーの系列各社へ納める。
| 数量出荷量(万トン換算) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 31.0 | 40 | 1,250 | 85 |
| 10 年後 中立 | 24.2 | 54 | 1,306 | 81 |
取り方:鍛造・加工部品の出荷を鋼材換算で 31 万トン、単価 40 万円として売上 1,250 億円に合わせた推定。営業利益 85 億円は利益率 7% 弱と置いた。
エンジニアリング・流通ほか
電気炉・環境設備の製作と鋼材の販売など。
| 数量取扱量(万トン換算) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 48.0 | 20 | 959 | 41 |
| 10 年後 中立 | 43.2 | 27 | 1,157 | 49 |
取り方:鋼材の販売と設備の製作を合わせて取扱量 48 万トン換算、単価 20 万円の推定。売上の残り 959 億円に合わせ、営業利益 41 億円は利益率 4% 台とした。
リスクと懸念
電動化が想定より早く進む
エンジン・ミッション向けの特殊鋼は主力の需要先で、電気自動車が増えるほど減る。会社は漸減を覚悟すると言うが、電動専用の車台の普及が早ければ、新分野の育成が間に合わず、鋼材と部品の数量が 10 年で 4 割以上減りかねない。
自動車メーカーへの依存と価格交渉力の弱さ
顧客の中心はトヨタ・日産などの自動車メーカーで、価格を決める力は弱い。日系メーカーの中国での販売減や国内の減産は、そのまま数量に響く。原料高を価格に転嫁するのにも時間がかかり、利益率が一時的に落ちやすい。
半導体向けの循環
半導体製造装置向けのステンレスは利益率が高く成長の柱だが、設備投資の波に左右される。投資が急減すれば、増設した真空アーク再溶解炉の稼働が落ち、固定費が重くなる。中国の国産化が進めば、世界シェア 5 割の目標も遠のく。
計画の未達が続いてきた
前の中期計画は営業利益・自己資本利益率とも目標に届かず、今回の計画も 2025 年に営業利益 600 億円から 400 億円へ引き下げた。2030 年度の 600 億円という目標も、本業の細りを新分野が埋める前提で、達成の保証はない。
大型投資の回収
高合金プロセス改革に 360 億円、3 年で合計 1,400 億円を投じる。完成後の営業利益の増加は約 50 億円という計画で、資本コストを超えるかは完成後に分かる。需要が想定より弱ければ、減価償却の負担だけが残る。
景気後退への弱さ
2009 年は純損失、2020 年の谷でも純利益が 45 億円まで落ちた。自動車の生産が 3〜4 割落ちるリーマン級の不況では、稼働率の低下で赤字に近づく。財務は堅いが、利益の落ち込みは深く、谷のあとの回復にも数年かかる。
子会社化と再編の実行
東北特殊鋼の完全子会社化は規模が小さく、重複の整理が目的だ。ただ、国内の特殊鋼は再編が続きうる業界で、将来の統合の条件次第では、大同の株主にとって有利にも不利にもなりうる。実現する時期も条件も読めないので、筋書きには織り込んでいない。
今後の分かれ目
- 電動専用の車台が普及し、自動車向けの鋼材が 3 年で 1 割以上減る
- 主力の需要が想定の倍の速さで細る。新分野の利益が間に合わず、中立から悲観の筋書きに寄る。減損のリスクも高まる。
- 半導体製造装置向けステンレスの受注が急増し、世界シェア 5 割が現実になる
- 機能材料の利益が計画を超えて伸び、全体の営業利益は 600 億円に近づく。それでも自己資本利益率は 9% に届くかが焦点で、楽観の筋書きに近づく。
- 世界的な景気後退で自動車の生産が 3 割以上落ちる
- 稼働率が下がり、営業利益は 100 億円規模まで落ちる。純資産を大きく割り込む水準まで売られる。
- 政策保有株の売却が進み、自社株買いが増える
- 元手の効率が上がり、自己資本利益率が改善する。利益そのものは変わらないが、1 株あたりの価値は上がる。
- 高合金プロセス改革の完成後、営業利益が計画の 50 億円を超える
- 新分野の投資回収が確認され、資本コストを超える稼ぎが出ると分かる。倍率が上限に近づく。
- 愛知製鋼など国内同業との再編が持ち上がる
- 規模の利益と価格交渉力の改善が期待できる一方、統合比率しだいで価値が動く。条件を見るまで判断しない。
見ておくもの
- 特殊鋼鋼材の出荷量(自動車向けの前年比)と、国内の自動車生産台数
- 機能材料・磁性材料の営業利益と、半導体製造装置向けステンレスの受注
- 会社の中期計画の進み具合(営業利益 400 億円・自己資本利益率 7%)
- 政策保有株の売却と自社株買いの発表
- 電動車の販売比率と、日系メーカーの部品調達の方針
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PER には寄せていない。先にセグメントごとに数量(万トン)と単価(物価並み)で10年の売上と利益を積み、その時点の ROE から倍率を決めた。ROE が資本コスト 8%(基本7.5%に品質+1.0%)を下回る会社なので、倍率は 1÷k の約11.8倍が上限で、楽観〜中立はその 8.5〜9.5 割に置いた。やや悲観・悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の 7〜9 割で測り、売れる資産の床は足していない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→12.54 倍・やや楽観 PER 10.6→12.5 倍・中立 PER 10→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本7.5%に quality +1.0% を足した 8.5%(β・規模は使わない)。自動車・産機向けで鋼材需要が景気に振れ循環+0.5、スクラップ・合金の値上がりは割増金で転嫁できるが値段は顧客と交渉で値決め力0、純負債1,105億円は利益の範囲で借金0、エンジン・ミッション向け鋼材は電動化で細り寿命+0.5。合計+1.0%。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。