結論
丸一鋼管は、国内首位の溶接鋼管メーカーだ。建物の骨組みや空調・給排水の配管、自動車部品に使う鋼管を、鋼板を巻いて溶接してつくる。売上の4割強は海外で、米国とアジアの工場が収益の柱に育った。
筆者の結論は「割高」である。事業はまじめで財務は強い。だが、鋼管は鋼材代を値段に転嫁して稼ぐ加工業で、値段を自分で決める力は弱い。しかも自己資本の2割強が現金で、これが資本の稼ぎを薄めている。事業の自己資本利益率(ROE)は7%台で、筆者が求める資本コスト7.75%にわずかに届かない。
国内の需要は人口とともに細る。丸一鋼管はそれを、米国の鋼管需要と半導体・水素向けの特殊管で埋めにいく。会社は2030年度に売上4,000億円、営業利益500億円を掲げる。筆者は、国内の数量が1割ほど減っても、米国とアジアの伸びで利益は名目で今より2割ほど増えると見る。ただ、それは物価に追いつくだけで、実質では横ばいに近い。
10年後の筋書きを確率で束ねると、本質価値は今の時価総額を3割あまり下回る。上振れの筋書きでも、今の値段を大きくは超えない。値段が下がる材料を探す会社ではなく、今の値段で買う理由が見つからない会社だ。
ただし負けにくさは本物である。無借金で、赤字は2009年3月期の1度だけ。だから悲観でも会社が傷むのは稼ぎであって、存続ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、丸一鋼管は「いい会社だが、いい値段ではない会社」に見える。事業は10年後も残る。水道やガスの配管、建物の骨組み、自動車の部品は、なくならない。ここまでは合格だ。
問題は、その事業が株主に残す利益の質である。ROEは7%台で、資本コストにわずかに届かない。工場を新しく建てるたび、稼ぎは物価に追いつくだけで、資本を増やしても価値は増えない。筆者が好むのは、同じ利益を出すのに追加の資本がほとんど要らない会社だ。鋼管は逆で、数量を増やすには工場と在庫が要る。
財務の安全域は広い。純現金が時価総額の2割を占める。ただ、この現金は配当で戻る保証がなく、会社は買収と設備に使う計画を掲げている。使い方次第で価値は上にも下にも動く。筆者は、現金の半分だけを株主の持ち分とみなす。
経営は堅実で、無理をしない。借金で膨らませた経歴もない。だから大きく壊れる可能性は小さい。その代わりに、大きく伸びる可能性も小さい。
求める値段は、10年後の利益を資本コストで割り戻した値だ。今の値段はそれを上回る。安全域があるのは会社の財務であって、株価ではない。
何で稼ぐ会社か
祖業は、鋼板を丸めて高周波で溶接する普通鋼の溶接鋼管だ。ガス管・水道用の配管、建築の足場や構造用の角形・丸形の管、自動車の部品用など、用途は広い。単価は1トン十数万円で、重さに対して運賃がかさむため、近くの工場から届ける商売になる。工場を複数の地域に置く丸一鋼管は、ここで強い。
稼ぎの区分は3つある。日本は売上約1,440億円、営業利益約220億円で、会社の6割の売上と7割近い利益を稼ぐ。北米は売上約550億円、利益約55億円。西海岸と中西部の工場に加え、メキシコのモンテレー工場が米国南部の市場を受け持つ。アジアは売上約450億円、利益約40億円で、アジア・オセアニアの現地拠点が受け持つ。
成長を担わせているのは、半導体製造装置向けの精密管(BAチューブ)と、水素・アンモニア向けの新しい管だ。BAチューブはテキサスの工場が2024年に動き出した。まだ売上は小さいが、普通の鋼管より単価も利益率も高い。
原料は鋼板(帯鋼)で、高炉メーカーと電炉メーカーの両方から買う。原料が上がれば製品も上げる。この転嫁の速さが利益の波を決める。
財務は実質無借金だ。純現金は約840億円、自己資本比率は8割を超える。工場への設備投資と、買収の資金に回せる体力がある。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、規模と配置だ。国内で溶接鋼管の首位に立ち、複数の工場と販売網で、運賃の重い商品を安く短い納期で届ける。小さな同業は、この網をつくれない。一方で、技術で守れる商品ではない。鋼板さえあれば同じものがつくれるので、値段の力は限られる。
利益率の記録を見るとそれがわかる。営業利益率は10年で9%から16%の間を行き来し、中央値は12%前後だ。鋼材が高騰すると増益になり、下がると減益になる。会社が値段を決めているのではなく、鋼材相場の波に乗っているのである。
資本効率は平凡だ。ROEの中央値は7%台で、会社自身が掲げる目標も8%にとどまる。理由ははっきりしている。自己資本3,500億円のうち純現金が800億円を超え、使われていない。
経営の姿勢は堅実だ。赤字は2009年3月期だけで、リーマン後も黒字を保った。取締役8名のうち社外が4名と、監督の形は整っている。支配株主はおらず、少数株主を犠牲にする構図は見えない。
弱みは、成長の筋書きが小さな事業に偏る点だ。半導体向けや水素向けは、売上に占める割合がまだ小さい。ここが大きくならなければ、会社は「国内の縮む市場で堅実に稼ぐ会社」のままである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鋼管の需要は、建築と設備の投資で決まる。人手不足と資材高で建築着工は低位で、人口減が続く以上、国内の数量は年に1%弱ずつ細るのが基本線だ。日本の粗鋼生産は2025年度に57年ぶりの低水準になった。鋼管だけが例外とはならない。
下支えもある。水道管やガス管の老朽化対応、公共施設の更新は、これから数量を支える。ただ、更新の予算は自治体の財布次第で、急に増えるものではない。筆者は、国内は10年で数量が1割弱減ると見る。
米国は様子が違う。データセンターの建設、国境や工場の囲い、住宅の配管で、鋼管の需要は厚い。米国は輸入鋼材に高い追加関税をかけており、現地で鋼管をつくる丸一鋼管には追い風になりうる。ただ、関税の制度は2026年4月にも組み替えられたばかりで、先が読みにくい。現地メーカーが増産に動けば、利益率はすぐに削られる。
競争相手は、国内では日鉄系の鋼管会社や地場の中小メーカーだ。米国では現地の鋼管メーカーとも競り合い、アジアでは中国からの安い輸出が値段の天井を押さえる。世界の鉄鋼の需要と生産能力の差は広がっており、中国の過剰な生産は2028年にかけて悪化するとの見方が多い。
今の景気の位置は、中立に近い。2026年3月期は米国の回復で営業利益が4割増えたが、営業利益率13%は過去の中央値より少し高い。山の途中と見るのが妥当だ。
価格の見通しも同じ形になる。鋼管の値段は物価並みに上がるが、鋼材のコストも物価並みに上がるため、売上は膨らんでも利益率は広がらない。
資本政策と M&A
配当性向は38%まで引き上げてきた。中期経営計画は、2026年度に45%、2030年度に50%を目標にする。自社株買いの実績は大きくない。配当の増やし方は穏やかで、貯めた現金を戻す姿勢は強くない。
資本の使い道は、設備と買収が先だ。第7次中計は3年で1,300億円を投じる。うち買収に400億円、半導体や水素などの成長事業に520億円を充てる。これは3年の純利益の合計に近い額で、現金を持つ余力は生かされる。ただ、買収は価格を誤れば資本の稼ぎを壊す。北米を中心にシナジーを狙うとしているが、案件の中身はまだ見えない。
政策保有株は減らす方針だ。会社は資本コストを約6.8%と認識し、ROE8%、PBR1倍以上を目標に置く。ただ、筆者が資本コストを7.75%と置くので、会社の目標どおりに達成しても、価値の増えない水準である。
支配株主はいない。信託銀行の名義が約12%、吉村興業が約6%で、大株主の構成は分散している。買収されて価値が動く筋書きは、置いていない。
政策保有株の含み益(評価差額金131億円、税引き後)は、半分だけ価値に足した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
米国の鋼管需要は構造的に強い。データセンターの建設と電力設備、工場の国内回帰で、米国は今後10年、鋼管を使い続ける。輸入鋼材に高い関税がかかる以上、現地で鋼管をつくる丸一鋼管は価格の面で守られる。2026年3月期は北米の回復で営業利益が4割伸び、体力を証明した。
国内は縮むが、収益の質は上がっている。亜鉛めっき管や付加価値品への切り替え、次世代の圧延設備の導入で、トン当たりの利益は伸びる。地場の小さな工場が減れば、首位の取り分は増える。
成長事業は、まだ小さいが単価が高い。半導体製造装置向けのBAチューブは、AI向けの投資拡大の恩恵を受ける。水素・アンモニア向けの管は、立ち上がれば普通鋼管よりはるかに高い利益率になる。会社は2030年度に営業利益500億円を掲げており、実現すれば10年後の稼ぎは今より5割以上大きい。
さらに、純現金が840億円ある。無借金のまま買収で規模を広げられる。配当性向は50%に向かい、PBR1倍以上を会社が公約している。株主に報いる意思は明確だ。
慎重な見方
鋼管は、値段を決められない商売だ。原料の鋼板が上がれば転嫁するが、下がればすぐ値下げ圧力が来る。営業利益率が過去10年で9%から16%まで振れたのは、会社の努力でなく鋼材相場の波である。今の13%は、山に近い。
国内の数量は構造的に減る。建築着工は人手不足で伸びず、人口は減る。水道管の更新は自治体の予算に依存し、急に増えない。国内が会社の利益の約7割を占める以上、ここが痩せれば全体が痩せる。
米国の追い風は、政策が与えたものであって、事業の強さではない。関税の制度は頻繁に変わる。現地メーカーが増産すれば、値段は崩れる。アジアでは中国の安い輸出が天井を押さえる。
資本の使い方にも疑問が残る。自己資本の2割強が眠る現金で、資本利益率を押し下げている。買収に400億円を使う計画は、価格を誤れば価値を壊す。ROEは7%台で、資本コストに届かない会社が、成長のために資本を足しても、株主の取り分は増えない。
今の値段は、会社目標の達成をかなり織り込んでいる。実現しても資本コストを稼ぐだけで、外れれば下がる。上がる理由が乏しく、下がる理由は多い。
どちらに重みを置いたか
米国の追い風と財務の強さは本物で、悲観が大きく壊れるとは考えにくい。ただ、強気の根拠の多くは政策や会社目標で、事業そのものの強さではない。値段を決められない商売、国内の数量減、資本効率が資本コストに届かないことは、10年で解消しにくい。
確率は、中立に43%を置き、やや悲観を20%、悲観を10%とした。強気側は、やや楽観が20%、楽観が7%にとどめた。慎重な見方がわずかに強い。
結論は、事業の質より値段の高さが勝つ。今の値段は、稼ぐ力に対して先を行っている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,174 円4,791 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 632 円1,392 億円)。 今の値に割り戻すと 1,465 円3,230 億円、今との差 −14.4%、 期待の年率 +5.1%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,227 円7,113 億円 | 885 円1,950 億円 | +140.1% | +9.2% | 288 円634 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,770 円6,105 億円 | 744 円1,640 億円 | +105.2% | +7.5% | 703 円1,549 億円 |
| 中立 | 43% | 2,460 円5,421 億円 | 658 円1,450 億円 | +82.0% | +6.2% | 1,341 円2,955 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,414 円3,115 億円 | 531 円1,170 億円 | +13.5% | +1.3% | 389 円857 億円 |
| 悲観 | 10% | 537 円1,184 億円 | 318 円700 億円 | −50.1% | −6.7% | 85 円188 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,174 円4,791 億円 | 632 円1,392 億円 | +63.8% | +5.1% | 2,805 円6,183 億円 |
今の株価時価総額 1,713 円3,774 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 国内も海外も当たる10年 利益 454 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 3,227 円7,113 億円
米国のデータセンター・電力設備・工場の建設が10年続き、北米の出荷量は今の1.5倍になる。関税の守りで現地の値段が上がり、利益率も上がる。半導体向けのBAチューブと水素・アンモニア向けの管が立ち上がり、アジアも1.4倍に伸びる。国内は公共の水道・ガス管の更新が本格化して数量が下げ止まり、地場の小さな工場が減って首位の取り分が増える。利益率は日本16%、北米13%、アジア12%まで上がる。
会社は買収を成功させ、シナジーで規模を広げる。配当性向は5割を超え、純現金も徐々に事業に回って自己資本の稼ぎが改善する。会社目標の営業利益500億円を大きく超える、最も理想的な10年になる。それでも自己資本利益率(ROE)は9%台にとどまる。
- 日本(溶接鋼管・ステンレス・表面処理):数量 88.2(国内の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 22(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 1,947 億円・営業利益 312 億円。営業利益率 16.0%
- 北米(溶接鋼管・半導体向け精密管):数量 40.5(北米の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 28(1 トンあたり平均売上(万円・名目、1 ドル 150 円換算))→ 売上 1,151 億円・営業利益 150 億円。営業利益率 13.0%
- アジア・オセアニア(溶接鋼管):数量 44.8(アジアの鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 19(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 866 億円・営業利益 104 億円。営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 445 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)631 億円。全体の PER 14.56 倍、時価総額 7,113 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の追い風、特殊管の立ち上がり、国内の更新需要がすべてそろう必要があり、確率は低い(7%)。
やや楽観 20% 米国と特殊管が国内の縮小を上回る 利益 389 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 2,770 円6,105 億円
米国の需要は厚く、北米の出荷量は今の1.3倍に伸びる。アジアも現地の建設と自動車で1.3倍に増える。国内は人口減で数量が5%ほど減るが、亜鉛めっき管など付加価値品の比率が上がり、利益率は15%に改善する。半導体向けBAチューブが月25万本の計画に近づき、水素向けも立ち上がる。
会社は設備投資と買収を計画どおりに進め、配当性向は5割に近づく。営業利益は500億円に近づくが、物価の上昇分を引くと実質の伸びは小さい。自己資本の厚みは残り、ROEは8%台で資本コストをわずかに超える。ただし筆者は、米国の関税の守りが10年続くとは置いていない。守りが続く間に現地の同業が増産し、超過利益は徐々に薄れていく。国内の縮小をそこまで補えれば上出来、というのがこの筋書きである。
- 日本(溶接鋼管・ステンレス・表面処理):数量 85.5(国内の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 22(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 1,860 億円・営業利益 279 億円。営業利益率 15.0%
- 北米(溶接鋼管・半導体向け精密管):数量 35.1(北米の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 28(1 トンあたり平均売上(万円・名目、1 ドル 150 円換算))→ 売上 969 億円・営業利益 116 億円。営業利益率 12.0%
- アジア・オセアニア(溶接鋼管):数量 41.6(アジアの鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 19(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 786 億円・営業利益 86 億円。営業利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 380 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)631 億円。全体の PER 13.85 倍、時価総額 5,896 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の需要と会社の成長事業が計画の近くまで進む筋書き。中計の達成は半分程度との見立て。
中立 43% 国内は縮み、海外が補って物価並みに伸びる 利益 337 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,460 円5,421 億円
国内の数量は人口減と建築の弱さで10年に8%減る。水道・ガス管の更新が下支えするので、それ以上は減らない。値段は物価並みに上がるが、鋼材のコストも同じだけ上がるので、利益率は14%で、今より少し下がる。米国は数量が1.15倍、アジアは1.19倍に伸びる。
米国の関税は残るが、現地の増産で超過利益は削られ、利益率は11%と今に近い。半導体・水素向けは育つが、全体を動かす規模にはならない。会社の計画(営業利益500億円)には届かず、10年後は4割ほどの未達で、420億円前後になる。
配当性向は5割に近づくが、設備と買収で現金は減らない。ROEは7%台で、資本コストに届かない状態が続く。
- 日本(溶接鋼管・ステンレス・表面処理):数量 82.8(国内の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 21(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 1,775 億円・営業利益 249 億円。営業利益率 14.0%
- 北米(溶接鋼管・半導体向け精密管):数量 31.0(北米の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 27(1 トンあたり平均売上(万円・名目、1 ドル 150 円換算))→ 売上 843 億円・営業利益 93 億円。営業利益率 11.0%
- アジア・オセアニア(溶接鋼管):数量 38.1(アジアの鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 19(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 715 億円・営業利益 72 億円。営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 328 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)631 億円。全体の PER 13.31 倍、時価総額 4,999 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内は縮み海外が補う姿が、過去10年の営業利益率の動き(中央値12%前後)に最も近い。
やや悲観 20% 国内の縮小が深く、海外の利益率が削られる 利益 243 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,414 円3,115 億円
国内の建築と設備の投資が一段と弱まり、数量は15%減る。鋼材が高い局面で転嫁が追いつかず、利益率は11.5%に下がる。米国は関税の制度が緩み、現地メーカーの増産と輸入品の復活で、値段は物価より上がらない。北米の利益率は9%まで下がる。アジアは中国の安い輸出に押され、利益率が8%になる。
営業利益は300億円を切り、今より1割ほど減る。会社の中計は未達に終わる。買収は計画の一部で成果が出ず、純現金は減る。ROEは5%台に下がり、資本コストを大きく下回る。国内の工場は稼働率が下がり、固定費の重さが利益を直撃する。米国は関税が緩んだ年に、現地の価格競争で採算が一気に悪化する。それでも赤字には落ちず、配当は維持される。ただし配当性向は5割に届かず、株主の取り分は細る。会社は成長事業に投じた資金の回収に時間がかかり、10年を通じて資本コストを稼げない会社になる。
- 日本(溶接鋼管・ステンレス・表面処理):数量 76.5(国内の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 21(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 1,591 億円・営業利益 183 億円。営業利益率 11.5%
- 北米(溶接鋼管・半導体向け精密管):数量 28.4(北米の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 25(1 トンあたり平均売上(万円・名目、1 ドル 150 円換算))→ 売上 721 億円・営業利益 65 億円。営業利益率 9.0%
- アジア・オセアニア(溶接鋼管):数量 35.2(アジアの鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 18(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 631 億円・営業利益 50 億円。営業利益率 8.0%
倍率:資本コスト7.75%。余った現金を除いた事業のROE5.4%がk以下なのでPERの上限は1÷k=12.5倍で、その約7割の9倍に置く。構造的な負けで稼ぐ力が落ち、ROEがkを大きく下回るので、上限から引き下げて置く。余った現金は谷で食う前提で今の額の0.75倍を足した。
確率:国内の縮小や、米国の関税制度の変化で利益率が削られる展開は十分ありうる。
悲観 10% 構造的に負ける10年 利益 113 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 537 円1,184 億円
国内の建築・設備の投資が構造的に縮み、数量は10年で3割近く減る。中国の過剰な生産が世界の鋼材を押し下げ、鋼管の値段は物価に追いつかず、1.15倍にとどまる。利益率は7%まで低下する。米国は関税が緩んで輸入品が戻り、数量も減る。北米の利益率は5%、アジアは4.5%になる。
営業利益は130億円ほどで、今の4割にとどまる。買収に使った資金の一部は損失になり、自己資本から300億円が失われる。純現金も半分ほど減る。財務は崩れないが、稼ぐ力は並の加工業に落ち、もう優良ではない。国内の工場は統廃合を迫られ、減損も出る。米国は関税の守りがなくなり、現地の大手と輸入品の間で採算が悪化する。成長事業も思うように育たず、会社の目標はほぼ全面的に未達になる。株主への還元は配当が中心で、成長のための資金は縮む。10年の途中でリストラを迫られる、悲観の筋書きである。
- 日本(溶接鋼管・ステンレス・表面処理):数量 64.8(国内の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 18(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 1,192 億円・営業利益 83 億円。営業利益率 7.0%
- 北米(溶接鋼管・半導体向け精密管):数量 24.3(北米の鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 22(1 トンあたり平均売上(万円・名目、1 ドル 150 円換算))→ 売上 543 億円・営業利益 27 億円。営業利益率 5.0%
- アジア・オセアニア(溶接鋼管):数量 28.8(アジアの鋼管出荷量(万トン・年、推定))× 価格 16(1 トンあたり平均売上(万円・名目))→ 売上 464 億円・営業利益 21 億円。営業利益率 4.5%
倍率:資本コスト7.75%。余った現金を除いた事業のROE2.7%がk以下なのでPERの上限は1÷k=12.5倍で、その約6割の8倍に置く。構造的な負けで並の加工業になるので、稼ぐ力に見合う低めの倍率に置く。余った現金は失敗した買収に使う前提で今の額の0.5倍を足した。
確率:構造的な負けは、国内の縮小と関税の緩み、買収の失敗が重なる場合。悲観が小さいのは、財務の強さと広い用途のため。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(溶接鋼管・ステンレス・表面処理)
国内の溶接鋼管を中心に、ガス管・建築構造用鋼管・自動車用・ステンレス管・照明柱などを製造販売する主力事業。
| 数量国内の鋼管出荷量(万トン・年、推定) | 価格1 トンあたり平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 16 | 1,440 | 218 |
| 10 年後 中立 | 82.8 | 21 | 1,775 | 249 |
取り方:日本セグメントの売上約1,441億円(内部取引を除く)と、溶接鋼管の1トン十数万円という単価から、年の出荷量を約90万トンと推定した。数量は実質、物価の分は1トンあたりの売上に入れる。利益は会社開示のセグメント利益218億円。
北米(溶接鋼管・半導体向け精密管)
米国の西海岸・中西部・テキサスの工場とメキシコ工場で、建築・配管用の鋼管と半導体向けBAチューブをつくる。
| 数量北米の鋼管出荷量(万トン・年、推定) | 価格1 トンあたり平均売上(万円・名目、1 ドル 150 円換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 27.0 | 20 | 548 | 55 |
| 10 年後 中立 | 31.0 | 27 | 843 | 93 |
取り方:北米セグメントの売上約548億円を、米国の鋼管の1トンあたり約1,350ドル(150円で約20万円)で割り、年の出荷量を約27万トンと推定した。精密管など単価の高い品を含めた平均。利益は会社開示のセグメント利益55億円。
アジア・オセアニア(溶接鋼管)
アジア・オセアニアの現地拠点で、建築・自動車・配管用の鋼管を現地向けに製造販売する。
| 数量アジアの鋼管出荷量(万トン・年、推定) | 価格1 トンあたり平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 32.0 | 14 | 448 | 42 |
| 10 年後 中立 | 38.1 | 19 | 715 | 72 |
取り方:アジアセグメントの売上約448億円を、現地の鋼管単価(日本より安い1トン約14万円)で割り、年の出荷量を約32万トンと推定した。利益は会社開示のセグメント利益42億円。連結の営業利益320億円との差5億円強は調整(消去)の分。
リスクと懸念
国内の数量が想定より速く縮む
国内は利益の7割近くを稼ぐ。建築着工の弱さと人口減で数量が10年で2割以上減れば、海外の伸びでは埋まらない。水道・ガス管の更新も自治体の予算次第で、下支えになる保証はない。
米国の関税制度の変更
米国は2026年4月にも鋼製品の関税を組み替えた。現地生産の追い風は政策が与えたもので、制度が緩めば輸入品が戻り、北米の利益率が急に落ちる。現地メーカーの増産も値段を押し下げる。
鋼材相場と転嫁の遅れ
原料の鋼板が急騰した時は転嫁が遅れ、急落した時は在庫の評価損が出る。営業利益率が9%から16%まで振れたのはこのため。中国の過剰な生産が長引けば、値段の天井はさらに低くなる。
買収の失敗
第7次中計は買収に400億円を充てる。価格を誤れば、ただでさえ資本コストに届かないROEが一段と下がる。北米を中心にシナジーを狙うとするが、案件の中身はまだ見えない。
余った現金の使われ方
純現金は840億円で時価総額の2割を占める。配当性向は38%で、貯めた現金を戻す姿勢は弱い。設備や買収に回って稼ぎが資本コストに届かなければ、株主の取り分は目減りする。
成長事業が小さいまま終わる
半導体向けのBAチューブと水素向けの管は単価も利益率も高いが、売上に占める割合はまだ小さい。顧客の投資の波に左右され、会社目標の営業利益500億円を支える規模に育たない可能性がある。
今後の分かれ目
- 米国の鋼製品の関税が引き下げられ、輸入鋼管が増えたら
- 北米の利益率の前提を引き下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 国内の鋼管の出荷量が2年続けて1割以上減ったら
- 国内の数量の縮小が想定より速いと見て、悲観側に重みを移す。
- 半導体向けや水素向けの精密管の売上が、会社計画どおり倍増ペースで立ち上がったら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。単価が高く、利益率の上振れが見込める。
- 大型の買収を高い値段で発表したら
- 資本の稼ぎが薄まると見て、中立のROEを引き下げ、倍率も下げる。
- 自社株買いや特別配当で、余った現金を大きく戻したら
- 余った現金の戻り方を1.0に引き上げて評価する(足せる額が増える)。
- 鋼板の値上がりを製品に転嫁できず、営業利益率が2期続けて10%を割ったら
- 値決め力は想定より弱いと見て、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 国内の鋼管出荷量と、建築着工・公共の水道管更新の動き
- 北米セグメントの利益率と、米国の鋼製品関税の変更
- BAチューブの月産本数と、成長事業の売上比率
- 買収の発表内容と、配当性向・自社株買いの実績
倍率と資本コストの決め方
数量は国内0.92倍、北米1.15倍、アジア1.19倍の実質で、値段は物価並みの1.34倍を基本に積んだ(今の株価は見ていない)。倍率は、事業のROE(中立7.4%)が資本コスト7.75%にわずかに届かないので、PERの上限は1÷k=12.5倍。ここから利益の波の大きさを見て中立は8.5割の10.6倍に置いた。今のPERや同業の倍率からは置いていない。余った現金は戻り方0.5で別に足した。結果は中立の本質価値が今の時価総額の7割前後で、割高に出た。リースは国内の営業所・倉庫に限られ、金額は小さい(有報の約束額は未確認)ので影響は限定的とみて数字は変えていない。数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。政策保有株の含み益は評価差額金の半分だけ余った資産として足し、その利息分を純利益から引いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→14.56 倍・やや楽観 PER 10.8→13.85 倍・中立 PER 10.6→13.31 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.5%。会社が公表する資本コスト(5.4〜6.8%)は使わない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.75%。