結論
愛知製鋼は、トヨタグループで唯一の素材メーカーだ。電気炉で特殊鋼を作り、それを鍛造した自動車部品まで一貫して手がける。
筆者の結論は割高だ。いちばんの理由は稼ぐ力にある。自己資本利益率は 5% 前後で、資本コストの 8.75% に届かない。元手を下回る稼ぎの会社に、元手並みの値段は付けにくい。
足元は好調だ。2026 年 3 月期の営業利益は 174 億円で、会社が掲げた 150 億円の目標を 1 年早く超えた。ただ、鋼の利益率は赤字から 7% 台へ急に戻したところで、長い目で見れば山に近い。
逆風は電動化だ。ギヤやクランクなど、エンジンと変速機の部品は電気自動車では要らなくなる。会社は電動車向けの部品、磁気センサ、インドでの拡販で穴を埋める構えだ。
トヨタが筆頭株主で、需要にも資本にも後ろ盾がある。この安心感は確かだが、利益の質を変えるものではない。10 年後の中立の姿は営業利益 230 億円前後で、会社が描く 2030 年度の 280 億円には届かないと筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安心感はあるが、持ち続けたい稼ぎではない」位置にある。
事業は分かりやすい。鋼を作り、鍛造して自動車部品にする。10 年後も事業は残るが、今より強いとは言いにくい。主力の需要が構造的に細るからだ。
オーナーの手に残る利益は少ない。知多工場の更新などに大きな投資が要り、稼ぎは資本コストに届かない。会社は 2030 年度に自己資本利益率 8% を掲げるが、過去 10 年の中央値は 3.5% だ。実績との距離は大きい。
経営は資本効率に目を向け、買収も小さく抑えている。ここは前向きに見ている。トヨタグループの後ろ盾は、倒産の心配を消す。ただし、それは利益の質ではなく、安全の話だ。
安全域は薄い。今の値段は、利益が今の水準を保つか、さらに伸びる姿を払い込んでいる。楽観の筋書きですら、値段に届かない。筆者は、よほどの下落がない限り、この銘柄に安全域はないと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは 4 つのカンパニーに分かれる。
最大は鍛(キタエル)で、売上の 4 割強を占める。鋼を熱して型で打ち、ギヤやシャフトの形にして、機械加工まで仕上げる。国内の自動車用熱間鍛造品のうち、当社が担うのは約 12% だ。
次が鋼(ハガネ)で、売上の 3 分の 1 強だ。電気炉で鉄スクラップを溶かし、自動車向けの特殊鋼を棒に圧延する。自社の鍛造に使うほか、外の部品メーカーにも売る。原料のスクラップや合金鉄の値上がりは、販売価格へ転嫁する仕組みがある。
ステンレスは売上の 1 割強だ。燃料系や駆動系、産業機械向けの棒線を作る。2026 年 3 月期は営業利益が 4 億円まで落ち、利益率は 1% になった。
スマートは売上の 7% だ。電動車のパワー半導体に使うリードフレーム、MI センサと呼ぶ超小型の磁気センサ、磁石を扱う。リードフレームは、ほぼすべてのトヨタ電動車に載ると会社は説明する。
販売先の偏りは大きい。最大の販売先は商社の豊田通商で、売上の 4 分の 1 弱を占める。アイシン、トヨタ自動車が続く。有価証券報告書も、グループへの依存度が非常に高いと認めている。
事業別の数量と単価は、開示の区分をもとにした筆者の推定である。
優良さと弱いところ
堀は、トヨタグループの一員であることと、鋼から部品までの一貫体制にある。素材を自前で作るので、品質を鋼の段階から管理できる。トヨタ系の部品メーカーにとって、簡単には入れ替えにくい供給元だ。
一方、値段を決める力は弱い。自動車メーカーとの交渉で強気に出られる立場ではなく、スクラップの値上がりを転嫁しても、加工の付加価値は薄い。鋼カンパニーは 2022 年と 2023 年の 3 月期に赤字だった。電力費の高騰を価格に移し切れなかったためだ。
資本の効率は物足りない。過去 10 年の自己資本利益率の中央値は 3.5% で、資本コストにはほど遠い。営業利益率が 5% を超えたのは、ごく最近のことだ。
財務は堅い。自己資本比率は 59% で、純有利子負債は 139 億円と小さい。過去 20 年で純損失を出したのは 2009 年 3 月期だけだ。
経営は資本効率に向き合い始めた。2030 年度に自己資本利益率 8% と PBR 1 倍を掲げ、豊田自動織機株など政策保有株も手放している。ただし、筆者がいちばん気にするのは、新事業が育つ前に鍛と鋼の数量が崩れる場合だ。ステンレスの利益率が 1 年で 5% 台から 1% へ落ちた事実も、事業の読みにくさを示している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の自動車用熱間鍛造品は、年に約 152 万トンある。人口減と国内生産の細りで、この数量は伸びない。
電動化はさらに重い。世界の電動車比率は、2030 年に 4 割、2035 年に 5 割を超えるという当社の試算がある。エンジンの弁やクランク、変速機のギヤは、特殊鋼の大きな需要先だった。電気自動車ではこれが減る。ただし、モーターと一体の駆動ユニット(e-Axle)にもギヤは要り、鍛造品がゼロになるわけではない。
競合は、特殊鋼の国内最大手である大同特殊鋼、軸受鋼に強い山陽特殊製鋼、日本製鉄や神戸製鋼などの鋼メーカーだ。鍛造は中小の会社が多く、品番の減少で再編が進む可能性を会社自身が指摘している。愛知製鋼は、トヨタ向けの結びつきの強さでは他社より有利だが、価格をリードできるほどの差はない。
伸びる領域は 3 つある。電動車向けのリードフレームと磁気センサ、インドの特殊鋼需要、国内外の鍛造の再編だ。インドでは、出資先の特殊鋼メーカー(バルドマン社)が日系メーカーのギヤ用鋼の認証を得た。
業界の本質は、縮む鍛と鋼を、小さな新事業が追いかける構図だ。10 年後の姿は、売上が物価並みに伸びても、数量は本業が細り、中身が入れ替わった会社になると筆者は見る。
資本政策と M&A
資本の使い方は、ここ数年で良い方向に動いている。
配当は連結配当性向 40% 以上を目安とし、2030 年度までに成長投資約 1,000 億円、株主還元 700 億円超を掲げる。2026 年 3 月期は特別配当を加え、配当性向が 85% に上った。ただ、成長投資のほうが重く、還元だけで自己資本利益率が上がる形ではない。
政策保有株は減らしている。2026 年 3 月期には豊田自動織機株を手放し、豊田通商や中央発條などが約 190 億円分残る。
買収は小さい。インドのバルドマン社に出資を重ね、持分法の会社にした。大型買収で価値を壊す心配は小さい。
株主では、トヨタ自動車が議決権の約 25%、豊田自動織機が約 8%、日本製鉄が約 6% を持つ。トヨタ系の持ち合い見直しは進んでおり、筆頭株主の動きは常に気にしたい。ただ、愛知製鋼の TOB や完全子会社化の発表は確認できない。筋書きには織り込んでいない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
愛知製鋼の利益は、まだ底上げの途中だ。2026 年 3 月期の営業利益 174 億円は、会社の 150 億円の目標を 1 年早く超えた。2030 年度には 280 億円、自己資本利益率 8% を目指している。根拠は 3 つある。
第 1 は電動車向けの新事業だ。リードフレームは、ほぼすべてのトヨタ電動車に載る。トヨタは 2030 年に電動車 800 万台を想定し、数量の伸びは計画で 3 年に 77% ある。磁気センサも素材からの一貫生産が整った。
第 2 は鍛造の優位だ。品番が減り、少量品の作り手が減る局面では、多品種少量に強い会社が生き残る。電動の駆動ユニット向けにも、高強度のギヤを開発している。
第 3 は資本政策だ。政策保有株を手放し、配当の目安を引き上げ、700 億円超の還元を掲げる。鋼カンパニーは赤字から利益率 7% 台へ戻り、構造改革の効果も出ている。
これらがそろえば、営業利益は 300 億円を超える。自己資本利益率が 8% に乗れば、価値は今の値段に近づく。
慎重な見方
今の値段は、会社の計画達成をかなり織り込んでいる。慎重に見るべき点は 3 つある。
第 1 は収益の質だ。直近の営業利益 174 億円は過去 10 年で突出して良い。それ以前の 3 年は 30 億円前後で、鋼カンパニーは 2 年連続の赤字だった。ステンレスの利益率は 1 年で 5% 台から 1% へ落ちた。稼ぎが山にあるときに、将来の水準と見るのは危うい。
第 2 は電動化だ。エンジン・変速機向けの鍛造品と鋼材は、電動車比率が上がるほど減る。新事業のスマートは売上の 7% で、本業の穴を埋めるには規模が小さい。
第 3 は資本効率だ。過去 10 年の自己資本利益率の中央値は 3.5%、会社の 2026 年度目標も 4% 以上で、資本コストを大きく下回る。8% は一度も定着していない。
販売先も偏る。豊田通商、アイシン、トヨタ自動車という身内への依存が高く、価格交渉の余地は限られる。不況になれば、2009 年 3 月期のように赤字へ落ちる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。直近の利益は山に近く、本業の縮小は避けにくい。新事業は本物だが、売上の 7% で、穴を埋めるには時間がかかる。強気の根拠である 2030 年度の 280 億円は、利益を 6 割押し上げる計画で、過去の実績から大きく離れる。そこで、確率は中立とやや悲観・悲観に厚く置き、悲観は 12% とした。一方、トヨタの後ろ盾と電動車向けの伸びは無視できず、楽観とやや楽観に合わせて 3 割弱を残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,323 円1,493 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,205 円774 億円)。 今の値に割り戻すと 1,862 円1,196 億円、今との差 −34.8%、 期待の年率 +2.1%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,942 円2,533 億円 | 1,556 円1,000 億円 | +92.5% | +6.8% | 440 円283 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,282 円2,109 億円 | 1,401 円900 億円 | +63.9% | +5.1% | 937 円602 億円 |
| 中立 | 40% | 2,697 円1,733 億円 | 1,245 円800 億円 | +38.0% | +3.3% | 1,577 円1,013 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,108 円712 億円 | 1,089 円700 億円 | −23.1% | −2.6% | 439 円282 億円 |
| 悲観 | 12% | 420 円270 億円 | 700 円450 億円 | −60.8% | −8.9% | 134 円86 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,323 円1,493 億円 | 1,205 円774 億円 | +23.5% | +2.1% | 3,527 円2,267 億円 |
今の株価時価総額 2,857 円1,836 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:電動車向けが伸び、鍛・鋼の細りも小幅 利益 209 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,942 円2,533 億円
電動化が穏やかに進み、ハイブリッド車が長く残る。ギヤやシャフトの鍛造品は、電動の駆動ユニット向けの高強度ギヤにも切り替わり、鍛の数量は 10 年で 5% しか減らない。スマートはリードフレームと MI センサが広がり、数量は今の 2.2 倍になる。ステンレスは電動車向けの部品で持ち直す。営業利益は 330 億円前後と、会社が掲げる 2030 年度の 280 億円を超える。省エネ型の電気炉への更新も計画どおり進み、電力費に利益が振り回されにくくなる。それでも鍛と鋼の本業は縮んでおり、自己資本利益率は 7% 前後で、資本コストには届かない。
- 鍛(型打鍛造品):数量 17.3(鍛造品の出荷量(万トン))× 価格 99(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,716 億円・営業利益 112 億円。数量 17.29 × 単価 99.254、営業利益率 6.5%
- 鋼(特殊鋼鋼材):数量 73.6(外販の出荷量(万トン))× 価格 18(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,302 億円・営業利益 98 億円。数量 73.60 × 単価 17.688、営業利益率 7.5%
- ステンレス:数量 9.2(出荷量(万トン))× 価格 65(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 599 億円・営業利益 42 億円。数量 9.20 × 単価 65.124、営業利益率 7.0%
- スマート(磁石・センサ・電子部品):数量 1,144(搭載車両の台数換算(万台))× 価格 0.57(1 台あたり売上(万円))→ 売上 652 億円・営業利益 65 億円。数量 1144.00 × 単価 0.570、営業利益率 10.0%
- その他:数量 298(従事人員(人))× 価格 0.14(1 人あたり売上(億円))→ 売上 42 億円・営業利益 14 億円。数量 298.20 × 単価 0.139、営業利益率 34.0%
倍率:事業の純利益 209 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.0% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,533 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化の緩やかな進行、リードフレーム・センサの伸び、鋼の利益率の定着がすべてそろう必要があり、確度は低め。
やや楽観 20% やや楽観:新事業が計画の 8 割で進み、本業の減りは 1 割強 利益 174 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,282 円2,109 億円
電動化は会社の想定に近く進み、鍛と鋼の数量は 1 割強の減少に収まる。スマートは計画の 7〜8 割で伸び、数量は 1.85 倍になる。ステンレスは利益率が 6% 台まで戻る。営業利益は 270 億円台に乗り、会社が掲げる 280 億円に近づく。ただ、知多工場の更新と省エネ電炉の投資が重く、利益率は過去の最良期をわずかに超える程度にとどまる。還元は配当性向 4 割台を守り、自社株買いは小さい。トヨタ向けの結びつきは変わらず、価格を押し上げるほどの交渉力は得られない。自己資本利益率は 6% 前後で、資本コストを下回る。
- 鍛(型打鍛造品):数量 16.4(鍛造品の出荷量(万トン))× 価格 99(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,626 億円・営業利益 94 億円。数量 16.38 × 単価 99.254、営業利益率 5.8%
- 鋼(特殊鋼鋼材):数量 70.4(外販の出荷量(万トン))× 価格 18(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,245 億円・営業利益 85 億円。数量 70.40 × 単価 17.688、営業利益率 6.8%
- ステンレス:数量 8.6(出荷量(万トン))× 価格 65(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 557 億円・営業利益 35 億円。数量 8.56 × 単価 65.124、営業利益率 6.2%
- スマート(磁石・センサ・電子部品):数量 962(搭載車両の台数換算(万台))× 価格 0.57(1 台あたり売上(万円))→ 売上 548 億円・営業利益 49 億円。数量 962.00 × 単価 0.570、営業利益率 9.0%
- その他:数量 290(従事人員(人))× 価格 0.14(1 人あたり売上(億円))→ 売上 40 億円・営業利益 14 億円。数量 289.68 × 単価 0.139、営業利益率 34.0%
倍率:事業の純利益 174 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,109 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新事業が計画の 7〜8 割で進み、鍛と鋼の減りが小さければ成り立つ。直近の好調を考えると、起こりやすい出来事の一つ。
中立 40% 中立:本業は 15% 減り、新事業が一部を埋めて売上は物価並みに伸びる 利益 143 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,697 円1,733 億円
自動車向けの鍛と鋼は、電動化と国内生産の細りで、数量が 10 年で 15% 減る。ステンレスはほぼ横ばいだ。スマートは電動車向けのリードフレームが伸び、数量は 1.6 倍になる。価格は物価並みに上がり、売上は今の 1.24 倍の 3,800 億円弱になる。営業利益は 230 億円ほどで、会社の 280 億円には届かない。鋼の利益率は、赤字だった 3 年前からの回復が一巡して 6% に落ち着く。電力費と原料の変動は残り、利益は波を打つ。自己資本利益率は 5% 前後で、資本コストを下回り続ける。トヨタグループの安定した需要が崖を防ぐが、稼ぎを押し上げる力ではない。
- 鍛(型打鍛造品):数量 15.5(鍛造品の出荷量(万トン))× 価格 99(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,535 億円・営業利益 77 億円。数量 15.47 × 単価 99.254、営業利益率 5.0%
- 鋼(特殊鋼鋼材):数量 68.0(外販の出荷量(万トン))× 価格 18(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,203 億円・営業利益 72 億円。数量 68.00 × 単価 17.688、営業利益率 6.0%
- ステンレス:数量 8.0(出荷量(万トン))× 価格 65(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 521 億円・営業利益 29 億円。数量 8.00 × 単価 65.124、営業利益率 5.5%
- スマート(磁石・センサ・電子部品):数量 832(搭載車両の台数換算(万台))× 価格 0.57(1 台あたり売上(万円))→ 売上 474 億円・営業利益 38 億円。数量 832.00 × 単価 0.570、営業利益率 8.0%
- その他:数量 284(従事人員(人))× 価格 0.14(1 人あたり売上(億円))→ 売上 40 億円・営業利益 14 億円。数量 284.00 × 単価 0.139、営業利益率 34.0%
倍率:事業の純利益 143 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 1,733 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化で本業が 15% 減り、新事業で一部を埋める中心の筋書き。過去の計画の未達(前中計は営業利益 103 億円で計画 150 億円に届かず)が根拠。
やや悲観 20% やや悲観:電動化が早く進み、価格競争も再燃 利益 89 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,108 円712 億円
電動化が会社の想定より早く進み、鍛の数量は 10 年で 3 割弱減る。鋼も 2 割強減る。国内の自動車生産は人口減で細り、日系メーカーの中国販売の不振も重なる。スマートは 1.25 倍にとどまり、鍛と鋼の減りを埋められない。競合との値下げ合戦で、鋼・鍛・ステンレスの価格は物価に追いつかず、10 年で 3% 劣後する。営業利益は 140 億円で、今より 2 割弱減る。固定費の重さで利益率は 4% 台に下がり、自己資本利益率は 3% 台になる。設備の減損も出る。会社は事業の組み替えを急ぐが、費用が先に出る。
- 鍛(型打鍛造品):数量 13.1(鍛造品の出荷量(万トン))× 価格 96(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,262 億円・営業利益 44 億円。数量 13.10 × 単価 96.291、営業利益率 3.5%
- 鋼(特殊鋼鋼材):数量 62.4(外販の出荷量(万トン))× 価格 17(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 1,071 億円・営業利益 48 億円。数量 62.40 × 単価 17.160、営業利益率 4.5%
- ステンレス:数量 7.2(出荷量(万トン))× 価格 63(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 455 億円・営業利益 18 億円。数量 7.20 × 単価 63.180、営業利益率 4.0%
- スマート(磁石・センサ・電子部品):数量 650(搭載車両の台数換算(万台))× 価格 0.57(1 台あたり売上(万円))→ 売上 370 億円・営業利益 22 億円。数量 650.00 × 単価 0.570、営業利益率 6.0%
- その他:数量 270(従事人員(人))× 価格 0.14(1 人あたり売上(億円))→ 売上 36 億円・営業利益 11 億円。数量 269.80 × 単価 0.135、営業利益率 30.0%
倍率:資本コスト8.25%。余った現金を除いた事業のROE3.6%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.4倍で、その約7割の8倍に置く。電動化が早く進み価格競争も再燃する筋書き。
確率:電動化の加速か、価格競争の再燃のどちらかが起きれば成り立つ。過去 10 年に利益率が 1% 台まで落ちた期が複数あり、やや高めに置いた。
悲観 12% 悲観:電動化の急進と中国・インド勢の値下げで本業が崩れる 利益 36 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 420 円270 億円
電動専用の車台が急速に広がり、エンジン・変速機向けの鍛造品は半減する。鋼の数量は 3 分の 1 減る。インドや中国の特殊鋼メーカーが海外で値下げを仕掛け、価格は物価に追いつかず、10 年で 7% 劣後する。リードフレームなどの新事業も競合の参入で伸びず、数量は今の 9 割に落ちる。知多工場の更新投資は残ったまま、稼働率が下がる。営業利益は 60 億円に細り、自己資本利益率は 2% を割る。鍛造設備に減損が出て、自己資本は 500 億円ほど削られる。もう優良な素材会社ではなく、再建途上の会社になる。トヨタグループの後ろ盾はあるが、稼ぐ力を保証するものではない。
- 鍛(型打鍛造品):数量 9.1(鍛造品の出荷量(万トン))× 価格 93(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 843 億円・営業利益 13 億円。数量 9.10 × 単価 92.588、営業利益率 1.5%
- 鋼(特殊鋼鋼材):数量 52.0(外販の出荷量(万トン))× 価格 17(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 858 億円・営業利益 21 億円。数量 52.00 × 単価 16.500、営業利益率 2.5%
- ステンレス:数量 6.0(出荷量(万トン))× 価格 61(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 364 億円・営業利益 9 億円。数量 6.00 × 単価 60.750、営業利益率 2.5%
- スマート(磁石・センサ・電子部品):数量 468(搭載車両の台数換算(万台))× 価格 0.53(1 台あたり売上(万円))→ 売上 249 億円・営業利益 10 億円。数量 468.00 × 単価 0.531、営業利益率 4.0%
- その他:数量 241(従事人員(人))× 価格 0.13(1 人あたり売上(億円))→ 売上 31 億円・営業利益 8 億円。数量 241.40 × 単価 0.130、営業利益率 25.0%
倍率:資本コスト8.25%。余った現金を除いた事業のROE1.7%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.4倍で、その約7割の7.5倍に置く。電動化と値下げで本業が崩れる構造的な負けなので、中立よりかなり低く置く。稼ぐ力で測り、売れる資産の床は足さない(保有株の約190億円から純負債139億円を引くと約50億円で、稼ぐ力より小さい)。
確率:電動化の急進と新事業の失速、価格競争が重なる構造的な負け。販売先がトヨタグループに偏る点を踏まえ、12% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鍛(型打鍛造品)
自動車のギヤ・シャフト・クランクなどを鋼から鍛造し、機械加工まで行う部品。
| 数量鍛造品の出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 18.2 | 74 | 1,348 | 67 |
| 10 年後 中立 | 15.5 | 99 | 1,535 | 77 |
取り方:国内の自動車用熱間鍛造品は年 152 万トンで、中計では当社が 12% を占めるとある。そこから 18.2 万トンとみて、売上 1,348 億円を割って 1 トン 74 万円とした推定。営業利益 66.5 億円は開示のカンパニー利益。
鋼(特殊鋼鋼材)
自動車向けの構造用鋼・軸受鋼などの棒鋼。鍛造や他社の部品工場へ売る。
| 数量外販の出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 13 | 1,056 | 82 |
| 10 年後 中立 | 68.0 | 18 | 1,203 | 72 |
取り方:前中計の売上数量(2023 年度 97.7 万トン)のうち鋼カンパニー外販を 80 万トンとみて、売上 1,056 億円で割って 13.2 万円とした推定。営業利益 81.6 億円は開示値。スクラップ・合金の値上がりは単価に入る。
ステンレス
自動車の燃料系・駆動系や産業機械向けのステンレス棒線。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 49 | 389 | 4 |
| 10 年後 中立 | 8.0 | 65 | 521 | 29 |
取り方:棒線の出荷を 8 万トンとみて、売上 389 億円で割って 48.6 万円とした推定(出荷量は非開示)。営業利益 4 億円は開示値で、利益率は 1% まで下がっている。
スマート(磁石・センサ・電子部品)
電動車のパワー半導体用リードフレーム、磁気センサ、磁石など。トヨタの電動車に広く載る。
| 数量搭載車両の台数換算(万台) | 価格1 台あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 520 | 0.43 | 221 | 14 |
| 10 年後 中立 | 832 | 0.57 | 474 | 38 |
取り方:リードフレームなどが載る電動車・ハイブリッド車を 520 万台相当と置き、売上 221 億円を割って 1 台 0.425 万円とした推定(台数は非開示)。営業利益 13.8 億円は開示値。 数量は実物(搭載車両の台数)で、名目の市場の伸びではない。
その他
物流・不動産・技術支援などの小さな事業。
| 数量従事人員(人) | 価格1 人あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 284 | 0.10 | 30 | 10 |
| 10 年後 中立 | 284 | 0.14 | 40 | 14 |
取り方:その他に属する従業員 284 人に、売上 29.5 億円を割って 1 人あたり 0.104 億円とした推定。営業利益 10.1 億円は開示値で、小さいが利益率は高い。
リスクと懸念
電動化が想定より早く進む
鍛と鋼の主力需要は、エンジン・変速機向けだ。電動専用の車台の普及が早ければ、新事業が育つ前に、鍛と鋼の数量が 10 年で 3〜5 割減りかねない。電動の駆動ユニット向けのギヤへの切り替えが遅れるほど、影響は大きくなる。
トヨタグループへの依存
最大の販売先は豊田通商で、アイシンとトヨタ自動車が続く。有価証券報告書も、グループへの依存度が非常に高いと記す。トヨタの生産が落ちれば数量が直撃し、価格の交渉でも強い立場に立てない。
利益が山にある
2026 年 3 月期の営業利益 174 億円は、過去 10 年で突出して良い。鋼は赤字から 7% 台へ、鍛は 2% 台から 4.9% へ急に戻した。電力費や原料が再び上がり、価格転嫁が遅れれば、利益率は短い期間で元に戻りやすい。
ステンレスの失速
ステンレスは営業利益率が 9.2% から 1% へ 2 年で落ちた。数量減と価格下落が同時に起きた。受注残は増えたが、事業としての収益力が戻るかは確かでない。
大型投資の回収
知多工場に 116 億円、鍛造工場に 69 億円など、2030 年まで続く更新投資がある。省エネ電炉の構想も控える。稼ぎが資本コストを超えなければ、減価償却の負担だけが残る。
景気後退への弱さ
2009 年 3 月期は 141 億円の純損失、2023 年 3 月期も営業利益が 33 億円まで落ちた。自動車生産が 3〜4 割落ちる不況では、稼働率の低下で赤字に近づく。財務は堅いが、利益の落ち込みは深い。
筆頭株主の動きと再編
トヨタ自動車が議決権の約 25% を持つ。トヨタ系の持ち合い見直しや、豊田自動織機の非公開化の流れの中で、愛知製鋼の株の扱いが変わる可能性がある。条件次第で少数株主に有利にも不利にもなり、時期は読めないので筋書きには織り込まない。
今後の分かれ目
- 電動専用の車台が普及し、鍛造品の数量が 3 年で 1 割以上減る
- 主力の需要が想定の倍の速さで細る。新事業が間に合わず、中立からやや悲観・悲観の筋書きに寄る。減損の恐れも高まる。
- リードフレームや磁気センサの売上が、計画を超えて伸びる
- スマートの利益が積み上がり、営業利益は 280 億円に近づく。楽観の筋書きに寄るが、自己資本利益率が資本コストを超えるかが焦点になる。
- 世界的な不況で自動車生産が 3 割以上落ちる
- 稼働率が下がり、営業利益は 50 億円規模まで落ちうる。純資産を大きく割り込む水準まで売られる。
- 電力費が上がり、価格転嫁が遅れる
- 鋼の利益率は 3 年前のように赤字へ戻りうる。会社全体の利益が 2 割以上減る。
- トヨタ自動車が愛知製鋼株を買い増す、または完全子会社化を発表する
- 買付価格しだいで少数株主の価値が動く。条件を見るまで判断せず、本質価値と比べて評価する。
- 鋼・鍛の利益率が 6% を超えて定着する
- 構造改革が実を結んだと分かり、中立から楽観に寄る。ただし、倍率は自己資本利益率が資本コストを超えるまで上限に近づかない。
見ておくもの
- 鋼・鍛カンパニーの営業利益率と、電力費・スクラップの動き
- リードフレーム・MI センサなどスマートカンパニーの売上と営業利益
- 国内の自動車生産台数と、トヨタの電動車比率
- 中期計画の進み具合(営業利益 150 億円の維持と 2030 年度 280 億円)
- トヨタ自動車・豊田自動織機の保有株の動き
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PER には寄せていない。先にカンパニーごとに数量(万トン・万台)と単価(物価並みの 1.34 倍)で 10 年後の売上と営業利益を積み、その時点の ROE と資本コスト 8.25%(基本 7.5% に品質 +1.25%)から倍率を決めた。事業の ROE が資本コストを下回るので、PER は 1÷k の約 11.4 倍が上限で、楽観〜中立はその 8〜9.5 割に置いた。やや悲観・悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の 7〜8 割で測った。10 年後の数字は、今と同じ形(連結の営業利益)でそろえている。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.9→12.12 倍・やや楽観 PER 10.3→12.12 倍・中立 PER 9.1→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25%。cycle は自動車向けの鋼と鍛の需要が景気で振れ +0.5。pricing は値段をトヨタ系の顧客との交渉で決め +0.25。debt は純負債 139 億円で利益の範囲に収まり 0。life はエンジン・変速機向け中心で電動化に細り、販売先もトヨタグループに偏るため +0.5。合計 +1.25%。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。