結論
高砂鐵工は、東京・板橋の工場で鋼の帯を薄く精密に延ばす会社だ。自動車部品向けのみがき帯鋼が主力で、日本製鉄が株の 3 割を持つ。筆者の結論は「ほぼ適正」で、割安の根拠に見える現金の厚さを差し引いても、事業そのものの稼ぐ力が弱い。
手元には借金なしで 23 億円の現金がある。時価総額のおよそ 6 割だ。ただ、配当性向は 3 割台で自社株買いもしておらず、この現金がすぐ株主に戻る形にはなっていない。
事業の ROE は 7〜8% で、資本コストの 9% に届かない。主な買い手は自動車部品で、国内の生産は細っていく。電子基板を重ねて焼く時に挟むプレスプレートが伸びているのは明るい材料だが、会社全体を変えるほどの大きさではない。10 年の中立では、利益は物価と品種の入れ替えで 1.5 倍ほどに増えるが、資本コストを超える稼ぎは見込みにくい。
現金と事業を合わせた価値は、今の時価総額とほぼ同じところに落ち着く。値段が安く見えるのは、市場が現金の戻り方と事業の先細りを割り引いているからで、その割り引きはおおむね妥当だと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安いが良い会社ではない」の典型に近い。手元の現金を引けば、事業はとても低い値段で買える。しかし、事業が資本コストを上回って稼げないなら、ためた利益は年々その価値を減らしていく。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、純利益から圧延機の更新を引いた分だ。償却は年 1.6 億円と小さいが、機械の更新は物価と建築費の上昇で高くつく。見かけの利益ほど現金は残らない。
安全域は現金があるぶん厚い。ただ、その現金が株主に戻るかどうかは経営と日本製鉄の判断で決まる。払う値段に対して事業の価値と現金の価値の両方が得られる時に初めて安全域と呼べる。今の値段は、その中間にある。
持ち続けたい会社かと問われれば、筆者は経営が現金の使い道を示すまで待つと答える。事業は堅実だが、伸びる市場にいるわけではない。
何で稼ぐ会社か
売上 121 億円のほぼすべてが鉄鋼製品で、残りは板橋と大阪の土地を使った不動産の賃貸だ。鉄鋼製品は、日本製鉄の熱延や冷延の鋼板を仕入れ、自社の圧延機で薄く、精密な厚みと表面に仕上げて売る。いわば鋼の帯の仕立て屋である。
主力のみがき帯鋼は、表面を磨いたように仕上げた炭素鋼の帯で、シートベルトの金具や変速機の部品など自動車の小物に使われる。最大の顧客は部品の商社で、売上の 15% を占める。ステンレスは東大阪の子会社タカサゴスチールで冷延し、模様を付けたエンボス品は建材や家電に向かう。プレスプレートは、電子基板を何層も重ねて熱と圧力で固める時に挟む鋼板で、会社が戦略品に挙げる。
稼ぎ方は、鋼板の仕入れ値に加工の手間賃を乗せる形だ。原料の値上がりは時間差で売値に転嫁するため、市況が急に動くと利益が振れる。不動産は売上の 2% に満たないが、営業利益の 2 割近くを稼ぎ、谷の年の下支えになっている。従業員は 152 人と小さく、工場も実質 2 か所しかない。小回りが利く反面、1 つの設備の故障や大口の顧客の離反が、そのまま業績に響く体質でもある。
優良さと弱いところ
優良さは中くらいより下と筆者は見る。精密な厚みと表面の品質を長年積み上げてきたので、顧客の部品工場は簡単には仕入れ先を変えない。この点は小さいながら堀、つまり他社がまねしにくい強みになっている。
一方で値決め力は弱い。原料は日本製鉄品を商社経由で買い、売り先は自動車部品の大手の下請けだ。上と下の両方に大きな相手がいて、手間賃を大きく上げる立場にない。過去 12 年の営業利益率は最良でも 7% ほどで、赤字の年もあった。
財務は堅い。借金がなく、自己資本比率は 5 割を超える。ただ、それは稼ぎが厚いからではなく、配当を控えめにして現金をためてきた結果だ。ROE は 10 年の中央値で 1 割に届かず、資本コストを安定して上回ってはいない。中期計画の売上 200 億円は届かないと会社自身が認めており、規模の拡大で利益率を上げる道は見えていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鋼材需要は構造的に縮んでいる。2025 年度の国内粗鋼生産は 57 年ぶりの低さで、人口減と製造業の海外移転が効いている。精密な帯鋼もこの流れの外にはいない。最大の買い手である自動車は、国内生産が年 800 万台前後で頭打ちになり、10 年では 1 割ほど減ると筆者は見る。
電動化も逆風だ。変速機やエンジンまわりには、みがき帯鋼で作る小物の部品が多い。電気自動車ではその一部が消える。座席やシートベルト、車体の小物は残るので、需要が一気に消えるわけではない。
明るい材料は電子基板だ。AI 向けのサーバーは基板の層が多く、重ねて焼き固める工程が増える。そこで使うプレスプレートは平らさと表面の質が問われ、精密圧延の腕が生きる。競合には同じ精密圧延の日本金属や、日鉄系の加工会社がある。中国から安い帯鋼が入れば、汎用の品種から値段が崩れる。業界は小さな会社が多く、再編の話は出やすい。日本製鉄が持つ 3 割の株は、その時の鍵になる。
10 年の中立では、業界全体の数量は 1〜2 割縮み、値段は物価よりやや遅れて上がると筆者は置く。精密な品種ほど縮み方は緩く、汎用品ほど中国の値段に引きずられる。
資本政策と M&A
還元の方針は配当性向 3 割以上で、自社株買いはしていない。今期は 増配を予定し、性向は 3 割ほどだ。借金はなく、現金は 1 年で 9 億円増えた。
資本の使い方は保守的すぎると筆者は見る。時価総額の 6 割の現金を持ちながら、PBR は 1 倍を割っている。会社は PBR 1 倍を目指すと言うが、具体的な手は配当の小幅な増額にとどまる。
日本製鉄は 3 割を持つ「その他の関係会社」で、親会社ではない。鉄鋼の再編が進めば、日鉄グループ内での統合や売却の候補になりうる。ただ、公表された動きはない。大きな買収の歴史もなく、現金が無駄な買収に消える心配は小さい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
現金だけで時価総額の 6 割がある。借金はなく、毎年 4 億円前後の純利益を積み上げている。現金を引いた事業の値段は、利益の 4〜5 年分にすぎない。小さな加工の会社でも、これは安すぎる。
しかも伸びる芽がある。AI 向けのサーバー基板は層が増え、重ねて焼き固める時に使うプレスプレートの出番が増える。平らさと表面の質が問われる品で、精密圧延を長年続けてきた会社が強い。今期の営業利益は 25% 増の計画で、値上げの転嫁も進んでいる。人件費や電気代の上昇を売値に乗せられるなら、物価の世界では手間賃も名目で伸びる。
資本の使い方が変わる余地も大きい。東証は PBR 1 倍割れの会社に改善を求めており、会社も 1 倍を目指すと言っている。配当を増やすか自社株買いに動けば、眠っている現金が株主の手に戻る。日本製鉄が 3 割を持つので、グループ再編で買い取られる道もある。どの道でも、今の値段は現金の価値を十分に映していない。
慎重な見方
安く見えるのは、事業が資本コストを上回って稼げないからだ。ROE は 10 年の中央値で 1 割に届かず、赤字の年も挟まる。最大の買い手は自動車部品で、国内生産は細り、電動化で変速機などの部品も減る。主力のみがき帯鋼は、長い目で見て数量が減る品だ。
値決め力もない。原料は日本製鉄品を商社経由で買い、売り先は部品の大手の下請けだ。中国から安い帯鋼が入れば、汎用の品種から値段が崩れる。プレスプレートは伸びるかもしれないが、会社全体の 1 割にも満たない。圧延機の更新は機械代の上昇で高くつき、見かけの利益ほど現金は残らない。過去にも中期計画の売上目標は届かなかった。
現金が戻るとも限らない。配当性向は 3 割台で、自社株買いの実績はない。日本製鉄は親会社ではなく、買い取る理由も乏しい。現金が積み上がるのを、株主は眺めるだけになりうる。安い株が安いまま 10 年続く例は、日本の小型株にいくらでもある。
どちらに重みを置いたか
事業の弱さを突く慎重な見方の方が、筆者には説得力がある。現金の厚さは事実だが、戻り方は不確かで、事業は資本コストに届かない。一方で、電子基板向けの伸びと PBR 改善の圧力は実在し、悲観一色でもない。確率は中立を厚くし、強気と慎重を同じ重さで両側に振り分けた。現金の戻り方が変われば、強気の側へ寄せ直す余地がある。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,992 円90 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 520 円16 億円)。 今の値に割り戻すと 1,704 円51 億円、今との差 +31.9%、 期待の年率 +10.5%(資本コスト 8.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,384 円162 億円 | 736 円22 億円 | +373.7% | +16.8% | 612 円18 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,087 円123 億円 | 620 円19 億円 | +264.3% | +13.8% | 941 円28 億円 |
| 中立 | 40% | 3,140 円94 億円 | 526 円16 億円 | +183.8% | +11.0% | 1,467 円44 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,521 円46 億円 | 416 円13 億円 | +50.0% | +4.1% | 388 円12 億円 |
| 悲観 | 10% | 763 円23 億円 | 286 円9 億円 | −18.8% | −2.1% | 105 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,992 円90 億円 | 520 円16 億円 | +171.9% | +10.5% | 3,512 円105 億円 |
今の株価時価総額 1,292 円39 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 積層用の板と自動車が両方伸びる 利益 9 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 5,384 円162 億円
自動車の国内生産が思ったほど減らず、電動車でも駆動まわりや座席の部品に精密な帯鋼が使われ続ける。加えて、電子基板を重ねて焼き固める時に挟むプレスプレートが、AI 向けサーバーの多層基板の増産に乗って伸びる。板橋の工場は稼働が上がり、固定費が薄まる。
数量は今より 1 割増え、値上げも物価並みに通る。利益率は過去の最良に近い水準まで戻る。中期計画の 8% には届かないが、手元の現金は配当を払っても積み上がる。日本製鉄との関係は原料の安定に効き、再編で買われる話は出ない。ROE は資本コストを上回り、ためた利益にも 1 倍を超える値が付く。
- 鉄鋼製品(みがき帯鋼・ステンレス・プレスプレート):数量 3.3(出荷量(万トン・推定))× 価格 54(1 万トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 178 億円・営業利益 12 億円。万トン × 1 トンあたり(億円/万トン) 3.3 × 54.0、6.5%
- 不動産:数量 10.0(賃貸の延床面積(千㎡・推定))× 価格 0.24(1 千㎡あたりの年の賃料(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。千㎡ × 1 千㎡あたり年の賃料(億円) 10 × 0.24、54.0%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.8% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 15.7 倍、時価総額 149 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子基板の増産と国内の自動車生産の底堅さが同時に来る筋書きで、二つが重なる確度は高くない。
やや楽観 20% プレスプレートが下支え 利益 7 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 4,087 円123 億円
自動車向けのみがき帯鋼は国内生産とともに少しずつ細るが、プレスプレートとエンボス加工のステンレスが穴を埋める。数量は 1 割弱の増加にとどまるものの、品種の入れ替えで 1 トンあたりの稼ぎは上がる。
値上げは原料高の転嫁が中心で、物価並みに通る。利益率は今より 1 ポイント強よくなり、ROE は資本コストにほぼ並ぶ。人件費や電気代の上昇も売値に乗せられる。現金は積み上がり、配当性向は 3 割台が続く。大きな買収はせず、設備の更新を自己資金でこなす 10 年になる。株主から見れば、現金を抱えたまま事業がそこそこ稼ぐ姿に落ち着く。
- 鉄鋼製品(みがき帯鋼・ステンレス・プレスプレート):数量 3.1(出荷量(万トン・推定))× 価格 53(1 万トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 164 億円・営業利益 9 億円。万トン × 1 トンあたり(億円/万トン) 3.1 × 53.0、5.3%
- 不動産:数量 10.0(賃貸の延床面積(千㎡・推定))× 価格 0.24(1 千㎡あたりの年の賃料(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。千㎡ × 1 千㎡あたり年の賃料(億円) 10 × 0.235、53.0%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 14.73 倍、時価総額 111 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子基板向けの伸びは既に見え始めており、自動車の目減りを埋める筋書きにはそれなりの重みがある。
中立 40% 細る自動車を品種の入れ替えで埋める 利益 5 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 3,140 円94 億円
国内の自動車生産はゆっくり減り、みがき帯鋼の数量は 10 年で 5% ほど減る。プレスプレートとステンレスの加工品が伸びて、全体の目減りは小さく済む。値段は原料高を転嫁しつつ物価よりやや遅れて上がる。
利益率は 4% 台で、過去 10 年の真ん中あたりだ。償却は取得した時の値段のままなので見かけの利益は少し押し上げられるが、圧延機の更新は建築費・機械代の上昇で高くつく。ROE は 8% 前後で資本コストに届かず、ためた利益の価値は帳簿の額を少し下回る。現金は積み上がるが、配当性向 3 割台の方針は変わらない。
- 鉄鋼製品(みがき帯鋼・ステンレス・プレスプレート):数量 2.9(出荷量(万トン・推定))× 価格 52(1 万トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 147 億円・営業利益 6 億円。万トン × 1 トンあたり(億円/万トン) 2.85 × 51.7、4.3%
- 不動産:数量 10.0(賃貸の延床面積(千㎡・推定))× 価格 0.24(1 千㎡あたりの年の賃料(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。千㎡ × 1 千㎡あたり年の賃料(億円) 10 × 0.235、52.0%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)11 億円。全体の PER 13.76 倍、時価総額 83 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の鋼材需要が 1〜2 割縮むという業種の前提に、電子基板向けの伸びを少し足した中心の筋書き。
やや悲観 20% 電動化で帯鋼の出番が減る 利益 4 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 1,521 円46 億円
電動車への移行が速く、変速機やエンジンまわりの部品に使うみがき帯鋼の注文が減る。数量は 1 割強落ち、値段も中国から入る安い帯鋼に押さえられる。プレスプレートは伸びるが、全体を支えるほど大きくない。
利益率は 3% 前後に下がり、ROE は 5% 台にとどまる。圧延機の稼働が落ちても、人と設備の固定費はほぼそのまま残る。現金の一部は設備の更新と谷の運転資金に食われる。配当は続くが、増配の余地は小さい。会社は小さくても黒字を守るが、資本コストを上回る稼ぎは出せない。市場の目は事業より現金の使い道に向かい、経営に還元を求める声が強まる。
- 鉄鋼製品(みがき帯鋼・ステンレス・プレスプレート):数量 2.6(出荷量(万トン・推定))× 価格 50(1 万トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 130 億円・営業利益 4 億円。万トン × 1 トンあたり(億円/万トン) 2.6 × 50.0、3.0%
- 不動産:数量 10.0(賃貸の延床面積(千㎡・推定))× 価格 0.23(1 千㎡あたりの年の賃料(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。千㎡ × 1 千㎡あたり年の賃料(億円) 10 × 0.225、50.0%
倍率:事業の ROE 5.3% は k を大きく下回るので PER の上限 1÷k の 11.1 倍の 7.5 割、8.3 倍。余った現金は谷で 4 分の 1 を食うとみて 11 億円を戻り方 0.75 で足す。
確率:電動化の速さ次第で変速機などの部品向けが細る。起こりうるが、電子基板向けが一部を埋めるため中立より低い確率。
悲観 10% 主力の需要が構造的に縮む 利益 1 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 763 円23 億円
自動車部品の需要が構造的に縮み、みがき帯鋼の数量は今より 2 割以上減る。プレスプレートは海外の競合に押され、ステンレスは市況の下げをかぶる。板橋の工場は稼働が落ち、固定費が重くのしかかる。
利益率は 1% ほどに沈み、ROE は 2% を切る。2010 年前後のように赤字の年も挟まる。更新投資を先送りすれば、品質で選ばれてきた強みも削れていく。現金は谷の運転資金と更新投資で目減りし、配当も細る。価値を支えるのは手元の現金と工場の土地くらいで、事業の稼ぐ力にはほとんど値が付かない。日本製鉄が支えに入る保証もなく、株主は手元の現金の行方を見守るしかない。
- 鉄鋼製品(みがき帯鋼・ステンレス・プレスプレート):数量 2.2(出荷量(万トン・推定))× 価格 48(1 万トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 106 億円・営業利益 1 億円。万トン × 1 トンあたり(億円/万トン) 2.2 × 48.0、1.0%
- 不動産:数量 10.0(賃貸の延床面積(千㎡・推定))× 価格 0.22(1 千㎡あたりの年の賃料(億円・名目))→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。千㎡ × 1 千㎡あたり年の賃料(億円) 10 × 0.215、45.0%
倍率:稼ぐ力(純利益 1.3 億円÷k 8.25%)は 15 億円ほどしかなく、価値は手元の現金と土地で決まる。今の自己資本に 0.45 倍を掛けた 23 億円で、純現金 23 億円とほぼ同じ。戻り方 0.75 と土地の換金の難しさを差し引いても、床として妥当な水準。
確率:主力の自動車部品向けが細り、品種の入れ替えも空振りする複合の筋書き。過去にも営業赤字の年があり 1 割を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄鋼製品(みがき帯鋼・ステンレス・プレスプレート)
鋼板を仕入れて精密に冷間圧延し、自動車部品・電子基板・建材向けに売る。
| 数量出荷量(万トン・推定) | 価格1 万トンあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 40 | 119 | 5 |
| 10 年後 中立 | 2.9 | 52 | 147 | 6 |
取り方:数量は開示が無いので推定。炭素鋼のみがき帯鋼(1 トン 30 万円前後)とステンレス帯(同 60 万円前後)の混ぜた単価を 1 トン約 40 万円とし、セグメント売上 119.3 億円から年 3 万トンと置いた。利益はセグメントの経常利益 4.71 億円から営業外を除いた額。
不動産
板橋・大阪の自社の土地建物を貸す。
| 数量賃貸の延床面積(千㎡・推定) | 価格1 千㎡あたりの年の賃料(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 0.19 | 2 | 1 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 0.24 | 2 | 1 |
取り方:面積は開示が無いので推定。賃料収入 1.86 億円を 1 ㎡あたり月 0.155 万円ほどとみて延床 1 万㎡と置いた。利益はセグメント利益。
リスクと懸念
自動車の電動化
みがき帯鋼は変速機やエンジンまわりの小物の部品に多く使われる。電気自動車への移行が速ければ、主力の数量が想定より早く細る。座席や車体の部品は残るが、穴を埋めきれない恐れがある。
原料と売値の時間差
原料は日本製鉄品で、値上げは時間差で売値に転嫁する。市況が急に上がる局面では利益が一時的に削られ、ステンレスは市況が下がると在庫の評価で損が出る。
現金が戻らない
純現金は時価総額の 6 割だが、配当性向は 3 割台で自社株買いの実績はない。現金が積み上がるだけなら、少数株主にとっての価値は帳簿の額を下回る。
中国からの安い帯鋼
中国の鋼材は過剰生産で輸出が増えている。汎用の帯鋼やステンレスに安い品が入れば、加工の手間賃を上げにくくなる。
小さな会社の人手と設備
従業員は 152 人で、工場は実質 2 か所だ。熟練の人手が確保できない、圧延機が故障するといった出来事が、そのまま業績に響く。
今後の分かれ目
- 自社株買いや配当性向の大幅な引き上げを打ち出す
- 眠っていた現金が株主に戻り、現金の価値を帳簿どおりに数えられる。中立の価値は 1 割ほど上がる。
- 日本製鉄がグループ再編で残りの株を買い取る
- 現金と工場の土地の価値が値段に乗りやすい。ただ、公表された動きはない。
- プレスプレートの売上が 2 倍になる
- 品種の入れ替えで 1 トンあたりの稼ぎが上がり、やや楽観の筋書きに近づく。
- 国内の自動車生産が 700 万台を割る
- みがき帯鋼の数量が落ち、やや悲観に寄る。利益率は 3% を割り込む。
- 中期計画の ROS 8% を次の計画でも掲げ直す
- 過去の最良を超える水準で、達成の道筋が具体的に示されない限り中立の利益率は変えない。
見ておくもの
- プレスプレートの売上と顧客の基板メーカーの増産
- 国内の自動車生産台数
- 配当性向と自社株買いの方針
- 日本製鉄の持株比率と鉄鋼の再編
- 原料の帯鋼の値上げと売値への転嫁の時間差
倍率と資本コストの決め方
倍率は ROE と k の関係だけで置いた。中立の事業の ROE は 8% で k 8.25% に届かないので、PER は 1÷k を上限に 9 割とした。今の PER や PBR、同業の値付けは見ていない。余った現金は月商 1 か月分ほどを運転に残した 15 億円とし、配当の方針から戻り方を 0.75 にした。今の株価が倍でも半分でも、価値の計算は変わらない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.95→15.7 倍・やや楽観 PER 10.05→14.73 倍・中立 PER 10→13.76 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。