結論
日亜鋼業は、鉄の線材を針金、ばね用の硬い鋼線、高力ボルトに加工して売る会社だ。大阪の尼崎に本社があり、日本製鉄が議決権の26%を持つ。筆者の結論は 「割高」 である。資産が厚い一方、本業の稼ぐ力が低く、そこから出る価値は今の値段に届かないと見る。
売上は338億円、営業利益は14億円で、利益率は4%ほどにとどまる。ROEは過去10年の中央値で2%台だ。自己資本は534億円あり、うち約178億円を他社の株式が占める。株式の配当は利益に入るが、それ以外の資産、つまり工場や在庫は、薄い利益しか生んでいない。
財務は強い。自己資本比率は73%、純現金は約51億円で、借金の重さはない。自社株買いも3年続け、株数を約7%減らした。総還元は純利益の9割に近い。経営の姿勢は、前向きに変わってきている。
一方、国内の鋼材需要は構造的に縮む。建築は人手不足、土木は予算頼み、自動車は電動化で線材の需要が細る。値段の決め手は、日本製鉄から仕入れる線材の価格と、商社を通した売り先の力関係だ。
10年の見立ては、数量が1割ほど減り、価格は物価よりゆるやかに上がり、利益率は今と同じ4%前後の形を中心に置いた。
足元は悪くない。第1四半期の営業利益は6割増え、財務の目標も達成した。ただ、本業の薄い利益が、厚い資産を食わせるほどには育っていない。
バリュー投資の観点から
筆者がまず見るのは、この会社が株主のお金をどう使っているかだ。事業の中身は分かりやすい。鉄の線を針金やボルトに加工する、昔ながらの仕事である。ただ、利益率は4%ほどにとどまり、10年を通じて目立った伸びは無い。
資本の使い方は、方向が変わりつつある。自社株買いを3年続け、総還元性向を50%以上と明示した。これは前向きに評価できる。残る課題は、自己資本の3分の1を占める保有株だ。配当しか生まない資産を持ち続けるより、売って事業か還元に回した方が、株主には得になる。
安全域はある。純現金があり、借金は薄く、自己資本比率は73%だ。悲観の筋書きでも会社が傷む心配は小さい。ただ、払う値段に見合う稼ぐ力があるかというと、答えは別だ。本業の稼ぎで測ると、今の値段は高めだと筆者は考える。保有株を売る方針が数字で示されれば、見方は変わる。
付け加えると、バリュー投資で大切なのは、安いかどうかでなく、価値が育つかどうかだ。PBRが低いのは、資産が少ないからでなく、資産が稼いでいないからである。経営が資産を動かし始めるまで、安さは待つ理由にならない。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。普通線材は、めっきした鉄線を作り、かごや落石防護網、フェンスなどの土木資材に加工する。売上は92億円だ。特殊線材は、硬鋼線、めっき鋼線、鋼より線、鋼索を作る。自動車、電力・通信、公共土木が顧客で、売上は173億円と全体の半分を占める。鋲螺(びょうら)線材は、トルシア形などの高力ボルトで、主に建築の鉄骨に使う。売上は67億円だ。
原料は日本製鉄から商社を通して買う線材である。売り先も商社経由が多く、最大の販売先のメタルワン系は売上の11%を占める。顧客から見れば鉄の線は規格品で、他社でも代わりが利く。ボルトのように規格と品質保証が要る分野と、特殊線材のように用途ごとに仕様を詰める分野は、競争が少し緩い。
生産は尼崎の本社工場と茨城の工場が中心で、子会社に、ジェイ-ワイテックス、滋賀ボルト、太陽メッキがある。連結の従業員は827人。新しい本社屋を建設中で、2026年10月に完成する。基幹システムも刷新した。2025年には、中国の子会社の解散を決めた。
不動産賃貸も小さな柱で、売上は1.6億円、営業利益は1億円ほどだ。事業の中身は、素材そのものより、加工と規格対応で食べる会社だと言える。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、広くない。線材は日本製鉄から仕入れた鉄を加工するだけで、加工賃の上乗せ幅が薄い。2015年3月期以降、営業利益率は1〜6.6%の間で動き、一度も7%に届いていない。強みは、規格品の品質保証と、顧客に近い小口の対応力くらいだ。
同業には、線材の二次加工で神鋼鋼線工業や東京製綱などが並ぶ。需要先は国内の建築、土木、自動車、電力・通信で、どれも成長はゆるやかだ。値段は原料の線材と亜鉛の相場に連動し、転嫁に時間がかかる年は利益が削られる。
経営の質は、直近で改善してきた。総還元性向50%以上を目安に掲げ、自社株買いを続けて、実際の還元はそれを上回る。償却前営業利益率8%、D/Eレシオ0.3倍以下という財務目標も達成した。ただ、資本効率の目標は無く、保有株の売却方針も示されていない。
資本の使い方が、いちばんの弱みである。自己資本の3分の1ほどが他社の株式で、稼ぎは配当にとどまる。事業の利益率が低いまま、資産だけが厚くなってきた。筆者は、ここがPBR0.3倍台の主因だと見ている。
人の面では、連結の従業員は827人、提出会社の平均年齢は43歳、勤続は19年ほどだ。労働組合との関係は安定している。技能が現場に蓄積する職種なので、人が定着していること自体は強みになる。賃金は前期に3%上がった。人件費の上昇を価格に転嫁できるかが、利益率を左右する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
鋼材の需要は、国内で構造的に縮んでいる。2025年度の国内粗鋼生産は8,033万トンで、57年ぶりの低水準になった。日本鉄鋼連盟は、2026年度は前年並みの下げ止まりを期待する段階だとする。人口の減少、建設の弱さ、製造業の海外移転が重なる。中立の10年では、国内需要はさらに1〜2割縮むと見る。
日亜鋼業の三つの分野は、それぞれ事情が違う。普通線材は、国土強靱化の予算が下支えする。落石防護網やフェンスは、公共土木に頼る。特殊線材は、自動車向けが電動化で細る一方、電力・通信向けは更新需要が続く。鋲螺線材は、建築の鉄骨が主戦場で、2024年問題で現場の人手が足りず、着工が伸びにくい。
中国の過剰生産と輸出は、世界の鋼材価格の天井を押さえる。米国は関税を強め、日本から米国への輸出はほとんど期待できない。日亜鋼業は国内向けが中心なので、直接の影響は小さいが、輸入鋼材の流入で国内の相場が下がる経路はある。
物流費の上昇も効く。トラック運転手の時間外規制で、運賃が上がり続けている。製品が重く、嵩張る線材は影響を受けやすい。値上げの転嫁は、顧客との交渉次第だ。
全体として、成長を期待する業界ではない。それでも、規格が厳しく簡単に代替が利かない分野が残ることが、需要の下支えになる。
資本政策と M&A
還元は厚くなってきた。方針は、自己株式の取得を含む総還元性向50%以上だ。配当は据え置きで、配当性向は45%。これに加え、2023年から3年で約350万株の自社株買いを実行し、発行済み株数を約7%減らした。総還元は純利益の9割ほどになる。
投資は、新本社屋の建設に21.9億円、基幹システムの刷新に14.2億円を充てた。どちらも2026年中に終わる。工場への大きな投資計画は見当たらない。今ある設備の償却は取得時の値段のままなので、物価が上がっても費用は増えない。更新の費用だけが膨らむ点は、10年の現金に効く。
政策保有株は大きい。投資有価証券は約178億円で、含み益から税を引いた評価差額金だけで約69億円ある。モリ工業、池田泉州HD、合同製鐵、りそなHD、阪和興業などを持つ。縮減の方針は開示されていない。配当は利益に入っているので、価値は別に足さない。
日本製鉄が議決権の26%を持つ。原料の仕入れ先でもあり、親会社としては扱われていない。M&Aの実績は目立たない。TOBなどの再編は、PBRの低さと株主構成からあり得るが、価値には織り込まない。株主優待は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
財務は強く、株主還元の姿勢も変わった。自己資本比率は73%、D/Eレシオは0.04倍で、財務の目標を達成している。総還元性向50%以上を掲げ、自社株買いを3年続けた。この動きが続けば、資本効率の改善は避けられない。
自己資本534億円のうち、保有株が約178億円ある。評価差額金だけで約69億円の含み益だ。PBRは0.3倍台で、市場は資産を大きく割り引いて見ている。政策保有株の縮減は、全国の上場会社で進む流れだ。日亜鋼業が売却に動けば、現金が還元に回り、価値が一度に表に出る。
足元の事業も悪くない。第1四半期の営業利益は6割増え、経常利益は中間期の計画に対して74%まで進んだ。国土強靱化の予算と更新需要が、公共土木向けを支える。新本社屋と基幹システムの刷新が終われば、投資の負担も軽くなる。10年で見れば、利益率は6%台に乗る余地がある。
日本製鉄が議決権の26%を持つ点も、見方を変えれば安定株主だ。仕入れ先でもあり、原料の供給が途切れる心配は小さい。経営の方向が一度でも資本効率に向かえば、変化は大きい。
慎重な見方
この会社の稼ぐ力は低い。営業利益率は4%ほどで、過去10年を通して1〜6.6%の間を行き来してきた。ROEは中央値で2%台だ。自己資本が厚いのは、稼いだ利益を事業に使わず、保有株や現金で寝かせてきた結果にすぎない。
国内の鋼材需要は構造的に縮む。建築は人手不足、自動車は電動化、土木は予算頼みだ。日本製鉄から仕入れた線材を加工するだけで、値段を自分で決める力は乏しい。物流費も上がり続け、転嫁に時間がかかる。中国の子会社は解散を決め、特別損失も出た。
政策保有株を売る方針は開示されていない。売らないなら、保有株は配当を生むだけの資産だ。配当の利回りは資本コストを大きく下回る。PBR0.3倍台は割安ではなく、資産を活かせていない会社への当然の評価だ。自社株買いも、資産価値を上回る値段で買えば、株主の取り分を減らしかねない。今期の会社予想は経常利益が1割減る見込みで、勢いは弱い。
加えて、日本製鉄が26%を握る構造は、少数株主の発言力を弱める。保有株を売る、大きく還元する、といった決定が経営の意思だけで決まるわけではない。変化を期待して待つ間も、資本コストは時間とともにかかる。
どちらに重みを置いたか
財務の強さと還元の変化は、確かな前進だ。しかし、事業の稼ぐ力が低いまま、資産を活かせていない点が重い。筆者は、中立で利益率を今と同じ4%前後に置き、保有株は売却の方針が無い限り配当の形だけで数えた。保有株を売る方針が示される可能性は残るので、楽観の側にも確率を配った。10年の本質価値は今の時価総額の 7割 ほどで、結論は 割高 になった。
保有株の扱いが、結論を大きく左右する。売却の方針が開示されれば、評価は別の形になりうる。今の時点では、開示された事実だけで数えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 393 円176 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 202 円91 億円)。 今の値に割り戻すと 320 円143 億円、今との差 −21.2%、 期待の年率 +3.9%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 690 円309 億円 | 348 円156 億円 | +155.7% | +9.8% | 62 円28 億円 |
| やや楽観 | 18% | 534 円239 億円 | 277 円124 億円 | +99.7% | +7.2% | 146 円65 億円 |
| 中立 | 40% | 408 円183 億円 | 221 円99 億円 | +55.0% | +4.5% | 252 円113 億円 |
| やや悲観 | 24% | 297 円133 億円 | 170 円76 億円 | +14.9% | +1.4% | 112 円50 億円 |
| 悲観 | 12% | 174 円78 億円 | 22 円10 億円 | −51.6% | −7.0% | 24 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 393 円176 億円 | 202 円91 億円 | +46.7% | +3.9% | 596 円267 億円 |
今の株価時価総額 406 円182 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 保有株の売却と還元が進み、利益率も6%近くまで上がる 利益 23 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 690 円309 億円
国土強靱化の予算が続き、公共土木向けの普通線材は数量を保つ。電力・通信の更新が特殊線材を押し上げ、高力ボルトも建築の鉄骨で踏みとどまる。価格は物価をやや上回って通り、営業利益率は5.8%に上がる。過去の山6.6%には届かない。
経営は政策保有株の売却方針を数字で示し、現金を自社株買いに回す。含み益から税を引いた約7割が、株主に届く形になる。
自己資本は増え続けるが、還元も厚く、ROEは4%台に上がる。売上は490億円ほどで、営業利益は28億円になる。それでも資本コストには届かず、優良とは言い切れない。
- 普通線材(めっき鉄線・加工品):数量 4.6(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 28(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 131 億円・営業利益 6 億円。実質で横ばい・価格1.42倍。国土強靱化の予算が続く
- 特殊線材(硬鋼線・めっき鋼線・鋼より線・鋼索):数量 7.0(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 36(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 256 億円・営業利益 18 億円。実質1.02倍・価格1.45倍。電力・通信の更新と高付加価値品
- 鋲螺線材(高力ボルト):数量 1.9(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 50(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 95 億円・営業利益 4 億円。実質で横ばい。建築の鉄骨需要が踏みとどまる
- 不動産賃貸・その他:数量 6.5(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 145(名目の価格指数(今=100))→ 売上 9 億円・営業利益 2 億円。賃料は物価並みに上がる
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 309 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:保有株の売却方針が示され、事業の利益率も過去の山の水準まで上がる必要がある。過去10年で一度も7%に届いていないため、6%に抑える。
やや楽観 18% 規格品の強みを保ち、利益率は5%近くへ緩やかに改善 利益 18 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 534 円239 億円
規格品の品質保証が評価され、価格転嫁が少し進む。数量は国内の縮小に押されて5%ほど減るが、電力・通信向けの更新が下支えする。営業利益率は5%近くに上がる。
売上は440億円、営業利益は21億円ほどになる。総還元性向50%以上の方針が守られ、自社株買いも続く。保有株の売却は、小規模にとどまる。
ROEは3%台で、資本コストにはほど遠い。ただ、事業は堅調で、財務の強さが安心感を生む。優良とは呼べないが、傷まない10年になる。
10年の終わりには、財務目標の水準を保ったまま、還元が少しずつ積み上がる姿になる。
- 普通線材(めっき鉄線・加工品):数量 4.4(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 27(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 118 億円・営業利益 4 億円。実質0.95倍・価格1.35倍
- 特殊線材(硬鋼線・めっき鋼線・鋼より線・鋼索):数量 6.7(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 34(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 228 億円・営業利益 14 億円。実質0.97倍・価格1.36倍
- 鋲螺線材(高力ボルト):数量 1.7(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 47(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 83 億円・営業利益 3 億円。実質0.92倍
- 不動産賃貸・その他:数量 6.5(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 140(名目の価格指数(今=100))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。賃料は物価並み
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 239 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:規格対応の強みで価格転嫁が進み、公共土木と電力・通信の更新が数量を支える形。直近の還元強化と財務目標の達成を考え、中立の次に起こりやすい。
中立 40% 数量はじわじわ縮み、利益は物価の分だけ増える 利益 13 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 408 円183 億円
数量は実質で1割ほど減る。建築は人手不足で伸びず、自動車向けは電動化で細る。公共土木と電力・通信の更新が下支えして、極端な縮小は避けられる。価格は鋼材が物価よりゆるやかに上がり、10年で1.3倍ほどになる。
営業利益率は4%前後と、今と同じ水準にとどまる。人件費と物流費の上昇は、価格転嫁でかろうじて吸収できる。売上は395億円ほど、営業利益は16億円になる。
還元は純利益の7割台を続け、自己資本は570億円前後に増える。ROEは2%台で、資本コストを大きく下回る。保有株の売却は進まず、現金が少しずつ積み上がる。普通の素材加工メーカーとして10年を終える筋書きだ。
- 普通線材(めっき鉄線・加工品):数量 4.1(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 26(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 106 億円・営業利益 3 億円。実質0.9倍・価格1.28倍(鋼材は物価よりゆるやか)
- 特殊線材(硬鋼線・めっき鋼線・鋼より線・鋼索):数量 6.3(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 33(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 207 億円・営業利益 11 億円。実質0.92倍。自動車向けは細るが電力・通信が下支え
- 鋲螺線材(高力ボルト):数量 1.6(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 46(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 2 億円。実質0.85倍。人手不足で建築着工が伸びない
- 不動産賃貸・その他:数量 6.5(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 134(名目の価格指数(今=100))→ 売上 9 億円・営業利益 1 億円。賃料は物価並み
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)25 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 183 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内需要の縮小と物価の分の価格上昇が釣り合い、利益率は今と同じ水準で推移する形。もっとも起こりやすい形として4割に置く。
やや悲観 24% 国内需要の縮小と輸入品で、利益率は2%台まで落ちる 利益 5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 297 円133 億円
国内の鋼材需要が想定を超えて縮み、輸入鋼材の流入で価格が崩れる。普通線材と特殊線材の数量は2割以上減り、鋲螺線材も建築の弱さで細る。価格は物価に追いつかない。
営業利益率は2%まで落ち、利益は賃貸収入と保有株の配当が頼りになる。固定費の重さが利益を直撃し、減価償却は物価に連動しないため、売上が減る分だけ重く感じる。
還元は絞られ、自社株買いは止まる。ROEは1%まで下がる。財務は傷まないが、事業の価値は目減りする。保有株と現金の存在が、株主に残る最後の支えになる。
経営は新しい投資を絞り、守りに入る。それでも自社株買いは細々と続け、株数は少しずつ減る。
- 普通線材(めっき鉄線・加工品):数量 3.6(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 24(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 1 億円。実質0.78倍・価格1.20倍。輸入鋼材と公共予算の減少
- 特殊線材(硬鋼線・めっき鋼線・鋼より線・鋼索):数量 5.4(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 30(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 5 億円。実質0.78倍。自動車向けが電動化で細る
- 鋲螺線材(高力ボルト):数量 1.3(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 41(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 0 億円。実質0.7倍。鉄骨需要が縮む
- 不動産賃貸・その他:数量 6.5(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 130(名目の価格指数(今=100))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。賃料は物価に届かない
倍率:ROE 約1% が k を大きく下回る構造的な負けの筋書き。稼ぐ力は低く、売れる資産が価値を支えると見て、PBR で置いた。今の自己資本 534 億円に 0.23 を掛けた(約 123 億円)。売れる資産の目安 130 億円に近く、事業が黒字を保つので、清算前提より大きくは割り引かない。
確率:国内需要の縮小が想定を超え、輸入品の流入で価格が崩れる形。素材の加工業として、起こりやすく、確率は軽くない。
悲観 12% 需要が細り赤字が続く。保有株と現金だけが残る 利益 3 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 174 円78 億円
建築と自動車向けの需要が構造的に縮み、鋼材の供給過剰で原料高を転嫁できない。数量は実質で4割縮み、価格は物価の伸びを大きく下回る。営業利益は赤字に沈む。
赤字が数年続き、工場の集約と人員の整理が避けられない。配当は絞られ、自社株買いは止まる。評価損で保有株の含み益も目減りする。
清算されない限り、保有株と現金は少数株主には引き出せない。赤字の補填と評価損で、価値は6割ほどに減る。事業は優良でなくなり、資産株としてだけ残る10年になる。
筆者は、この筋書きの確率を低くは置けないと見る。薄い利益率の加工業は、需要が欠けると赤字に転じやすい。
- 普通線材(めっき鉄線・加工品):数量 2.8(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 22(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 −1 億円。実質0.6倍・価格1.10倍。供給過剰で原料転嫁が遅れ赤字
- 特殊線材(硬鋼線・めっき鋼線・鋼より線・鋼索):数量 4.1(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 28(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 114 億円・営業利益 −1 億円。実質0.6倍・赤字
- 鋲螺線材(高力ボルト):数量 1.0(出荷量(万トン)。開示がないため推定)× 価格 38(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 36 億円・営業利益 −1 億円。実質0.5倍・赤字
- 不動産賃貸・その他:数量 5.8(当社の取り分(実質、億円・今の値段基準))× 価格 120(名目の価格指数(今=100))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。賃料収入は残る
倍率:赤字が続き、稼ぐ力ではなく売れる資産で測る。ただし清算されない限り少数株主は引き出せないので、売れる資産の約半分を価値として数えた。PBR は今の自己資本に掛けた値。
確率:建築と自動車向けが一気に細り、赤字が数年続く形。2011年3月期に赤字になった前例がある。5%の下限は超え、1割強に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
普通線材(めっき鉄線・加工品)
めっきした鉄線と、かご・落石防護網・フェンスなどの加工品。公共土木と民間の土木資材向け。
| 数量出荷量(万トン)。開示がないため推定 | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.6 | 20 | 92 | 3 |
| 10 年後 中立 | 4.1 | 26 | 106 | 3 |
取り方:有報の普通線材の売上 91.88億円。数量は開示がなく、1トン20万円と置いた推定で 4.59万トンとした。営業利益は全社 14.3億円(開示は単一)を、規模と原価の違いから配分した推定で 2.8億円(利益率3%)。
特殊線材(硬鋼線・めっき鋼線・鋼より線・鋼索)
自動車、電力・通信、公共土木向けの高強度の鋼線。売上の半分を占める中核。
| 数量出荷量(万トン)。開示がないため推定 | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.9 | 25 | 173 | 10 |
| 10 年後 中立 | 6.3 | 33 | 207 | 11 |
取り方:有報の特殊線材の売上 172.87億円。数量は開示がなく、1トン25.05万円と置いた推定で 6.9万トンとした。営業利益は配分した推定で 9.6億円(利益率5.6%)。
鋲螺線材(高力ボルト)
トルシア形・六角の高力ボルトなど。主に建築の鉄骨向け。
| 数量出荷量(万トン)。開示がないため推定 | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 35 | 67 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1.6 | 46 | 74 | 2 |
取り方:有報の鋲螺線材(高力ボルト)の売上 66.73億円。数量は開示がなく、1トン35.12万円と置いた推定で 1.9万トンとした。営業利益は配分した推定で 1.6億円(利益率2.4%)。
不動産賃貸・その他
賃貸用の土地・建物の収入と、その他の小さな事業。
| 数量当社の取り分(実質、億円・今の値段基準) | 価格名目の価格指数(今=100) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.5 | 100 | 6 | 1 |
| 10 年後 中立 | 6.5 | 134 | 9 | 1 |
取り方:不動産賃貸 1.61億円とその他 5.45億円から連結消去 0.61億円を引いた 6.45億円。賃貸の営業利益は開示で 0.98億円。数量は実質(今の値段基準の億円)、価格は物価の指数(今=100)、rev_factor=0.01。全社の費用 0.7億円は筋書きの調整として別に引く。
リスクと懸念
国内需要の構造的な縮小
2025年度の国内粗鋼生産は57年ぶりの低水準になった。建築は人手不足、自動車は電動化で線材の需要が細る。売上の大半は国内向けとみられ、この流れから逃れにくい。
薄い利益率と価格転嫁
営業利益率は過去10年で1〜6.6%にとどまる。原料の線材と亜鉛、物流費が上がっても、顧客への転嫁に時間がかかる年は利益が削られる。
保有株の評価と資本の活かし方
投資有価証券は約178億円で、自己資本の3分の1を占める。縮減の方針は開示されていない。相場が崩れれば自己資本が減り、売らなければ資本効率は低いままだ。
特定の仕入先への依存
原料の線材を日本製鉄から商社経由で買う。日本製鉄は議決権の26%も持つ。仕入れ条件の変更が、利益率に直接響く。
災害と拠点の集中
製造拠点は関東と関西の2か所。大地震や津波で止まれば、代わりが乏しい。有報も自然災害をリスクに挙げている。
特別損失と海外撤退
中国の子会社の解散と旧倉庫の除却で、前期は特別損失が約6億円増えた。海外の事業整理が続けば、同様の損失が出うる。
今後の分かれ目
- 政策保有株の縮減を、金額と期間で明示する
- 現金が還元に回る前提が強まり、余った現金の評価が上がる。楽観の筋書きに近づく。
- 国土強靱化の予算が拡大し、公共土木向けの数量が伸びる
- 普通線材と特殊線材の稼働が上がり、利益率が5%台に乗る。
- 輸入鋼材の流入で国内の線材価格が下がる
- 価格転嫁が遅れ、営業利益率が2%台に落ちる。やや悲観の筋書きに近づく。
- 自動車の電動化が想定より速く進む
- 特殊線材の自動車向けが細り、数量の減少が中立より大きくなる。
- 総還元性向の水準を引き上げる方針が示される
- 自己資本が厚いまま還元が増え、資本効率が改善に向かう。
- 日本製鉄が持分を増やす、または再編を持ちかける
- 低いPBRが評価され、一度に価値が表に出る可能性がある。ただし筋書きには織り込んでいない。
見ておくもの
- 政策保有株の縮減方針(金額・期間)の開示
- 営業利益率と、中間期・通期の会社予想の修正
- 自社株買いの実行額と総還元性向
- 公共土木・電力通信・建築向けの出荷動向
- 日本製鉄との取引条件と持分の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価に寄せず、ROE が資本コスト 8%(基本 7.5% + 循環・値決め・寿命の +1.0%)を下回るので、PER の上限 1÷k の 7.5〜9 割に置いた。今の株価と PBR(0.3 倍台)は見ていない。数量は実質で国内需要の1〜2割減を基本にし、価格は鋼材が物価よりゆるやかに上がるとして 1.28〜1.30 倍にした。投資有価証券は配当が利益に入るため余り資産に足さず、売却方針がない限り悲観の床だけで使った。余った現金は純現金のうち 25 億円とし、戻り方は 1.0 とした。会社の今期予想(経常利益が1割減)は出発点にせず、過去10年の営業利益の中央値をまたぐ形で10年を組んだ。本社などの賃借は小さく、新リース会計基準の影響は軽い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.4→12.5 倍・やや楽観 PER 9.6→12.5 倍・中立 PER 9.4→12.5 倍・悲観 PBR 0.14→0.146 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0% = 8.5%。保有株の評価や日本製鉄との関係は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。