結論
合同製鐵は、鉄スクラップを電気炉で溶かして鉄筋用の棒鋼や形鋼、線材、軌条を作る会社だ。売上の9割が鉄鋼で、国内の建設現場が顧客になる。筆者の結論は「やや割高」で、割安とは見ない。
時価総額は純資産の3割しかない。これだけ見れば宝の山に映る。だが自己資本利益率は5%台で、資本コストに届かない。ためた利益が額面どおりの価値を持たない会社では、帳簿の厚みは安全域にならない。
足もとはさらに悪い。建設の人手不足と資材高で需要は鈍り、スクラップと燃料は高止まりしている。今期の会社予想は経常利益70億円と前期の6割程度で、4〜6月期の営業利益率は1%を切った。
それでも筆者は悲観一色にはしない。関東の鉄筋4工場の一体運営、姫路の圧延機の刷新、日本製鉄が2割弱を持つ後ろ盾は、利益率を過去の平均へ戻す材料になる。10年後の中心は、数量が1割減り、価格が物価並みに上がり、営業利益率が4%台に戻る姿だ。その価値は今の値段を1割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、筆者がこの会社を持ち続けたいかと問えば、答えは慎重になる。
事業は10年後も残る。建物がある限り鉄筋は要る。だが、需要は縮み、値段は市場が決め、儲けは原料と電力の差で揺れる。堀、つまり他社がまねできない強みと呼べるものは薄い。
資本の使い方も決め手に欠ける。総資産2,555億円で営業利益は100億円を割る。ためた利益を3割程度しか返さないなら、自己資本は増えるのにROEは3〜4%に落ちていく。
そのため、時価総額が純資産の3割という安さを、筆者は安全域と見ない。純資産が稼ぎを生む力に見合わないからだ。見るべきは、利益を平均的な水準に戻したとき、その利益に妥当な倍率を掛けた額と今の値段の差だ。
その差は小さい。買う理由は、利益率が平均へ戻る可能性と、日本製鉄の後ろ盾という保険にとどまる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの9割は鉄鋼事業だ。製品は鉄筋用の棒鋼、建築や土木に使う大形・中形の形鋼、線材、鉄道の軌条で、鋼材の生産量は年127万トン。主原料は鉄スクラップで、鉄鉱石や原料炭は使わない。
拠点は関東と関西、姫路などに散らばる。関東の3工場を一体で動かし、鉄筋4工場の成績を競わせて底上げする方針を掲げている。鉄筋は運賃がかさむため、近くの現場に売る地産地消の商売になる。
売り先は商社が中心だ。阪和興業が14%、伊藤忠丸紅住商テクノスチールが11%、エムエム建材が1割ほどを占める。値決めは商社経由の市況に左右される。
農業資材は有機質肥料や化成肥料で、売上は127億円、利益はわずかだ。ほかに朝日工業などの加工・流通の子会社があり、2025年6月には鉄筋工事の事業も譲り受けた。
日本製鉄が議決権の18.8%を持つその他の関係会社で、鋼材と鋼片の取引もある。連結の従業員は約2,100人で、うち鉄鋼が1,800人あまりを占める。電気炉の電力費と、電極に使うニードルコークスなど資材の値上がりが、日々の採算を左右する。
優良さと弱いところ
優良さは高くない。筆者は、規模はあるが値段を自分で決められない会社と見る。
強みは3つある。関東に鉄筋の工場を複数持つこと、鉄筋から形鋼、線材、軌条まで品ぞろえが広いこと、日本製鉄という株主の後ろ盾だ。財務も悪くない。自己資本比率は56%で、純有利子負債は自己資本の2割に収まる。
弱みは稼ぐ力の細さにある。営業利益率は過去10年で1〜8%に散らばり、中央値は4%台だ。製品の差が出にくく、スクラップ価格や電力費の上げ下げを値段へ移せるかどうかで利益が決まる。
総資産は2,555億円あるが、そこから出る営業利益は100億円に届かない。会社は2030年度にROE7%を目標に置くが、これは資本コストを下回る水準だ。
経営の規律は評価できる点もある。有利子負債を減らし、政策保有株を縮める方針は一貫している。ただ、2025年度までの中期ビジョンで掲げた経常利益160億円には届かなかった。計画を達成した実績はまだ薄い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鉄筋と形鋼の市場は、じわじわ縮む局面にある。国内の粗鋼生産は1968年度以来の低水準で、建設現場の人手不足と工期の長期化、資材高による案件の延期が需要を押し下げている。同社の鋼材生産も2年で1,480千トンから1,274千トンへ減った。
業界の構造は、地域ごとの電炉が分け合う形だ。共英製鋼、東京鐵鋼、大和工業、東京製鐵などが同じ棒鋼や形鋼で競う。鉄筋は関東が最大の市場で、ここで工場が多い同社には強みと弱みが同居する。
利益の源は、製品価格とスクラップ・電力費の差、いわゆるメタルスプレッドだ。2026年度はスクラップと燃料の急騰が先に来て、販売価格への転嫁が遅れている。上期の経常利益予想を26億円から10億円へ引き下げたのはこのためだ。
一方で、供給側の整理は進む。老朽炉の更新や統合が進めば、需要が減っても値崩れは抑えられる。同社の姫路の圧延機刷新は、その流れに沿った投資だ。
東アジアの過剰生産が輸入材を呼び込めば、天井は押さえられる。この点は日本の電炉に共通の弱みだ。
電力費の水準も効く。電炉は電気を大量に使うため、燃料高や円安が続くと原価が重くなる。非化石電力で作る鋼材を売り込む動きも出ているが、買い手が上乗せを払うかは見えていない。
資本政策と M&A
還元の方針は連結配当性向30%程度で、自社株買いの記載はない。2026年3月期は前の期より配当を減らしたが、実際の性向は4割ほどだった。筆者は10年間の還元を純利益の35%と置いた。
設備には年80億円規模を使い、2030年度までの5年で400億円を見込む。姫路の圧延機刷新は128億円で、2028年度下期に終わる。借入は減らしており、2026年3月期は長期借入金を約104億円返した。
政策保有株は上場17銘柄で144億円。三井物産、三菱商事、共英製鋼、東京鐵鋼などだ。2026年6月の取締役会は、売る銘柄はないと判断した。この配当は利益に入っており、含み益は価値に足していない。
M&Aは朝日工業の子会社化と鉄筋工事の事業の取得があり、のれんの減損が有報のリスクに挙がる。買収の規模は小さく、会社の価値を左右するほどではない。
最大の変数は日本製鉄の持ち分だ。18.8%を持つが、完全子会社化の話は出ていない。資本の動きは筋書きに織り込まず、価値の計算にも上乗せしていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の値段は谷を見すぎている。2026年3月期の営業利益率は5.1%で、悪い年ではない。4〜6月期の落ち込みはスクラップと燃料の急騰が先に来た一時の現象で、販売価格が追いつけば利益は戻る。2023〜2024年度は営業利益率が6〜8%に届いた。同じ事業で同じ設備だ。
供給の整理も追い風だ。関東の鉄筋4工場を競わせて底上げする方式は、数量が減っても固定費を薄めすぎない。姫路の圧延機刷新が終われば、コストの面でも一段強くなる。2024年2月には関東の商慣習の適正化とサーチャージ期間の短縮を打ち出しており、値段を決める力は少しずつ上がっている。
財務の余力もある。有利子負債は着実に減り、D/Eの目標は0.4以下。自己資本比率は56%まで上がった。日本製鉄が2割弱を握る安定株主であることも、長い目で見れば保険になる。会社の目標どおり経常利益160億円に届けば、今の値段は半分以下の評価に見える。さらに、国内の電炉どうしの再編が進めば、関東の鉄筋の値付けは今より安定する。
慎重な見方
ふくらんだ純資産は稼ぎに結びついていない。ROEは5.6%、今期の予想は3%だ。資本コストを大きく下回る事業に、利益の7割をためこんでいる。帳簿の安さは、帳簿がそれだけの価値を持たない証拠かもしれない。
国内の需要は戻らない。人口減と建設の効率化で、鋼材の生産はこの2年でも7%減った。2025年度までの中期ビジョンは、経常利益160億円の目標に届かないまま終わった。次の中期ビジョンも同じ数字を並べ、ROEの目標は7%と、資本コストより低い。
電炉は原料の値上がりを値段へ移すのが遅く、移せなければ赤字になる。2022年3月期は営業赤字だった。東アジアの過剰生産が輸入材を呼べば、国内の価格の天井が下がる。朝日工業ののれん減損や圧延機刷新の遅れも、利益率を押し下げうる。
悲観の底では、数量は3割以上減り、営業利益はほぼゼロ。そこまで落ちなくても、稼ぐ力は今より細いままだ。商社経由の販売では、値決めの主導権を握りにくい点も変わらない。
どちらに重みを置いたか
筆者は慎重な見方に少し重みを置いた。強気の見方は、利益率が過去の山へ戻ると読むが、戻る根拠はまだ計画の約束にとどまる。慎重な見方は、需要の縮小と資本の重さを突くが、供給の整理と財務の改善を軽く見ている。
中立は、数量が1割減り、価格は物価並みに上がり、営業利益率が過去の中央値あたりに戻る姿とした。確率はやや悲観の側を厚くし、悲観も1割残した。ただ、帳簿の厚みと日本製鉄の後ろ盾があるため、悲観の底でも今の時価総額の3割強は残ると見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,009 円732 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,269 円186 億円)。 今の値に割り戻すと 2,999 円439 億円、今との差 +5.0%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 8.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 10,318 円1,509 億円 | 2,010 円294 億円 | +331.8% | +15.8% | 863 円126 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,582 円1,109 億円 | 1,634 円239 億円 | +222.8% | +12.4% | 1,843 円270 億円 |
| 中立 | 38% | 5,706 円834 億円 | 1,374 円201 億円 | +148.0% | +9.5% | 2,691 円393 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,177 円318 億円 | 951 円139 億円 | +9.6% | +0.9% | 782 円114 億円 |
| 悲観 | 10% | 574 円84 億円 | 410 円60 億円 | −65.5% | −10.1% | 98 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,009 円732 億円 | 1,269 円186 億円 | +119.9% | +8.2% | 6,277 円918 億円 |
今の株価時価総額 2,855 円418 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 値決めが定着し、利益率が過去の山へ 利益 132 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 10,318 円1,509 億円
関東の鉄筋4工場の一体運営が働き、数量の減りは2%にとどまる。2024年に打ち出した商慣習の適正化とサーチャージ期間の短縮が定着し、スクラップや電力費の上げを販売価格へ移せるようになる。姫路の圧延機の刷新も予定どおり終わり、コストも下がる。
鉄鋼の営業利益率は7%、会社が掲げるROSの目標に届く。2024年3月期に8%を付けた実績の範囲内だ。業界の整理が進み、東アジアからの輸入材も抑えられる。日本製鉄との関係も安定して続く。それでも国内需要の縮小という土台は変わらず、倍率は上がらない。この筋書きでは、会社の想定する鉄筋の収益改善策がほぼ思惑どおりに働くため、10年を通して利益は現在の約2倍の水準まで伸びる。
- 鉄鋼事業:数量 125(鋼材の生産量=出荷量(万トン))× 価格 19(1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 2,394 億円・営業利益 168 億円。数量は2%減、価格は1.40倍、営業利益率7%
- 農業資材・その他:数量 9.5(肥料の生産量(万トン))× 価格 26(1万トン当たりの売上(億円、肥料とその他の合計))→ 売上 252 億円・営業利益 8 億円。肥料は小幅増、利益率3%
倍率:事業の純利益 132 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 1,509 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率が会社の目標の7%まで戻るには、数量の減りが小さいことと値上げの定着が重なる必要がある。2024年3月期に8%を付けた実績はあるが、10年続くとは言いにくく、7%を置いた。
やや楽観 20% 利益率が平均より上で定着 利益 97 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 7,582 円1,109 億円
数量は6%減にとどまり、価格は物価をやや上回って上がる。スクラップ高は2027年度までに一巡し、鉄筋の価格転嫁が進む。鉄鋼の営業利益率は5.5%と、2023年3月期から2025年3月期の平均に近い水準で落ち着く。
配当は純利益の35%で推移し、有利子負債の圧縮も続く。朝日工業の統合の効果はわずかに出る。ただ国内の建設鋼材は増えず、成長で評価が上がることはない。利益は増えても、資本の効率は資本コストに届かない。会社が掲げるROE7%にも手が届かず、計画は半ばで止まる。2023年から2024年のような好況は一度だけ訪れるが、続かずに平均へ戻っていく。
- 鉄鋼事業:数量 120(鋼材の生産量=出荷量(万トン))× 価格 19(1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 2,249 億円・営業利益 124 億円。数量は6%減、価格は1.37倍、利益率5.5%
- 農業資材・その他:数量 9.3(肥料の生産量(万トン))× 価格 26(1万トン当たりの売上(億円、肥料とその他の合計))→ 売上 243 億円・営業利益 5 億円。肥料はほぼ横ばい、利益率2.2%
倍率:事業の純利益 97 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 1,109 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画の利益率には届かないが、過去10年の中央値より上に戻る。供給整理の効果が半分出る中位の強気で、確率は2割とした。
中立 38% 数量は1割減、利益率は平均へ戻る 利益 73 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 5,706 円834 億円
国内の鉄筋と形鋼の需要は年1%前後で縮み、10年で数量は1割減る。価格はスクラップと電力費に連動して物価並み(1.34倍)に上がる。2026年度のスクラップと燃料の急騰は、遅れて販売価格に反映され、利益率は2028年度から平均へ戻る。
鉄鋼の営業利益率は4.3%。2017年から2026年の中央値4%台とほぼ同じで、会社の計画の7%には遠い。計画の達成実績が乏しいため、ここは計画の数字を採らない。
借入は返済が進み、利払いの増加(約7億円)は純利益に入れた。還元は純利益の35%。自己資本はためた利益で増えるが、ROEは4%にとどまる。この会社は成長ではなく、横ばいの中で株主に少しずつ返す10年になる。
- 鉄鋼事業:数量 115(鋼材の生産量=出荷量(万トン))× 価格 18(1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 2,108 億円・営業利益 91 億円。数量は1割減、価格は物価並み、利益率4.3%
- 農業資材・その他:数量 9.1(肥料の生産量(万トン))× 価格 26(1万トン当たりの売上(億円、肥料とその他の合計))→ 売上 234 億円・営業利益 4 億円。数量横ばい、価格は物価並み
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.0% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 834 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:二人の議論の落としどころ。足もとの谷は一時の要因が大きく、過去10年の営業利益率の中央値4%台へ戻ると読む。確率はやや悲観側が厚い。
やや悲観 25% 需要が想定より速く縮み、転嫁も遅れる 利益 34 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 2,177 円318 億円
数量は2割減り、価格の上げは物価を下回る。スクラップや電力費の上昇に販売価格が追いつかず、メタルスプレッドが細る年が続く。鉄鋼の営業利益率は2%台に落ち、2022年3月期のような赤字の年も混じる。
東アジアの過剰な生産が輸入材を呼び込み、国内の価格の天井を押さえる。朝日工業ののれんの減損や圧延機の刷新の遅れも重なる。それでも財務は崩れず、配当は純利益の3割台を保つ。事業は続くが、ROEは2%に沈む。利益の変動が大きく、配当は据え置きが精一杯の10年になる。関東の鉄筋の競争が激しく、値上げが通る年と通らない年が交互に来て、生産を絞って耐える場面も出る。
- 鉄鋼事業:数量 102(鋼材の生産量=出荷量(万トン))× 価格 18(1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,814 億円・営業利益 40 億円。数量は2割減、価格は1.30倍、利益率2.2%
- 農業資材・その他:数量 8.8(肥料の生産量(万トン))× 価格 24(1万トン当たりの売上(億円、肥料とその他の合計))→ 売上 211 億円・営業利益 1 億円。肥料は小幅減、利益率0.5%
倍率:k8.75%。ROEは2.0%でk以下、PERの上限は1÷k=10.8倍。利益が薄く谷を繰り返す姿なので、上限の約65%の7.0倍に置く(7割へ引き上げない)。
確率:国内の建設は人手不足による案件の先送りがすでに出ており、数量が2割減る方向は十分ありうる。転嫁の遅れも2026年度に実際に起きている。確率を4分の1とした。
悲観 10% 構造的に負け、設備の減損に追われる 利益 14 億円 · PER 6.0 倍 · 株価時価総額 574 円84 億円
国内の建設需要が構造的に縮み、数量は3分の1減る。東アジアからの輸入材が増え、価格は物価の半分ほどしか上がらない。スクラップと電力費の上げは転嫁できず、営業利益は十数億円まで落ちる。
朝日工業ののれんと圧延機などの設備で減損が出て、自己資本は約150億円削られる。配当は最低限の水準に下げる。日本製鉄の後ろ盾があるため財務は持ちこたえるが、優良な電炉ではなくなる。再編の対象になる可能性もあるが、その際の価格は帳簿を大きく下回る。残った事業は関東の鉄筋と一部の形鋼に絞られ、肥料など周辺の事業は縮小か売却に向かう。
- 鉄鋼事業:数量 83.0(鋼材の生産量=出荷量(万トン))× 価格 16(1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,363 億円・営業利益 14 億円。数量は35%減、価格は1.20倍、利益率1%
- 農業資材・その他:数量 8.0(肥料の生産量(万トン))× 価格 23(1万トン当たりの売上(億円、肥料とその他の合計))→ 売上 184 億円・営業利益 0 億円。肥料も減、利益ゼロ
倍率:k8.75%。ROEは1.0%でkを大きく下回りPERの上限は1÷k=10.8倍。構造的に負けた会社で、やや悲観の7.0倍よりさらに低い約55%の6.0倍に置く。純有利子負債があり、売れる資産の床は足していない(EV÷営業利益も約26倍と高く、利益の倍率を上げない)。
確率:需要の大幅な縮小と輸入材の流入、のれんと設備の減損が重なる構造的な負け。2022年3月期の赤字や2010年代前半の連続赤字の実績があり、10年で1割は残す。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄鋼事業
鉄筋用棒鋼、形鋼、線材、軌条を電炉で作り、商社経由で国内の建設・土木に売る。
| 数量鋼材の生産量=出荷量(万トン) | 価格1万トン当たりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 127 | 14 | 1,743 | 95 |
| 10 年後 中立 | 115 | 18 | 2,108 | 91 |
取り方:有報の鋼材生産127.4万トンを出荷量とみた(在庫差は小さいと置いた)。価格は鉄鋼の売上1,743億円を出荷量で割った値で、加工品の売上を含む。営業利益は連結98.1億円から農業資材・その他の約3億円を引いた推定。
農業資材・その他
有機質肥料と化成肥料、朝日工業などの加工・工事の子会社。
| 数量肥料の生産量(万トン) | 価格1万トン当たりの売上(億円、肥料とその他の合計) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9.1 | 19 | 175 | 3 |
| 10 年後 中立 | 9.1 | 26 | 234 | 4 |
取り方:肥料の生産量9.1万トンに、農業資材127.2億円とその他47.5億円の売上を合わせて割った。その他は工事や加工で、肥料の数量と直接の関係はないため、数量は肥料で代表させた推定。営業利益は農業資材の経常利益2.75億円などから約3億円とみた。
リスクと懸念
スクラップと電力費の上昇を値段に移せない
電炉の利益は製品価格と原料・電力費の差で決まる。2026年度はスクラップと燃料の急騰が先に来て、上期の経常利益予想が26億円から10億円に下がった。転嫁の遅れが長引けば、利益はさらに削られる。
国内の建設需要の縮小
人手不足による工期の延び、資材高による案件の中止、人口減が重なり、鋼材生産はこの2年で7%減った。需要が想定の1割減より速く縮めば、固定費の重い電炉は利益が急に落ちる。
計画の未達
2025年度までの中期ビジョンで掲げた経常利益160億円には届かなかった。2030年度の目標も同じ160億円で、ROEは7%と資本コストを下回る。実行力に疑いが残る。
東アジアの過剰生産
中国の過剰生産が輸入材の増加を呼べば、国内の鉄筋や形鋼の価格の天井が下がる。有報にも、東アジアの過剰生産による輸入増加がリスクとして書かれている。
買収した会社ののれんと設備の減損
朝日工業の子会社化に伴うのれんには減損のリスクがあると有報は述べる。姫路の圧延機の刷新(128億円)の収益が見合わなければ、設備の減損も起こりうる。
重い資産と低い資本効率
総資産2,555億円に対し営業利益は100億円を割る。還元を3割にとどめて利益をため込むほど、ROEは下がる。資本の使い方が改まらなければ、帳簿の安さは解消しない。
今後の分かれ目
- スクラップが落ち着き、鉄筋の販売価格の上げが定着したら
- 2027年度後半から営業利益率が4%台へ戻り、中立が現実に近づく。楽観寄りの確率を少し上げる。
- 2026年度の下期も営業利益がほぼゼロのまま続いたら
- やや悲観に重みを移す。メタルスプレッドの構造的な悪化を疑う。
- 日本製鉄が持ち分を引き上げる、または再編の動きが出たら
- 資本の動きによる価値の上積みを別に見る。ただし今回の筋書きには織り込んでいない。
- 政策保有株の売却や自社株買いの実施が公表されたら
- 資本効率の改善として評価する。還元の割合が5割を超えれば中立のROEと倍率を見直す。
- 姫路の圧延機の刷新が遅れる、または朝日工業で減損が出たら
- やや悲観に重みを移す。計画の実行力への疑いが強まる。
見ておくもの
- 四半期ごとの鉄鋼の営業利益率とメタルスプレッド
- 鋼材の生産量(国内の建設需要の指標)
- スクラップ価格と電力・燃料費
- 政策保有株の売却と自社株買い
- 中期ビジョン2030の進み具合(経常利益160億円)
倍率と資本コストの決め方
今の株価や過去の倍率から置いていない。倍率は資本コスト8.75%から出し、ROEが資本コストを下回るため上限の1÷k(10.8倍)を基準に、楽観〜中立は上限の8〜9割、やや悲観は約65%に置いた。時価総額が純資産の3割という点は、ROEの低さを理由に割安の根拠から外した。悲観の床は、減損後の自己資本に低いPBRを掛け、純資産の取り崩しを織り込んだ。悲観側のPBRが低く出るのは、自己資本の大半が稼ぎに結びつかず、売れる資産の裏づけも確かめられないため、床として足さなかった結果だ。今の時価総額(419億円)は、確率で重みをつけた値と比べるまで見ていない。新リース会計基準(2028年3月期から)で営業利益や純有利子負債の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。還元は純利益の35%とした(会社の目安は30%、2026年3月期は4割強)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.7→11.43 倍・やや楽観 PER 9.2→11.43 倍・中立 PER 8.6→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質+1.75%を足した9.25%。同じ領域の大阪製鐵(+1.5%)より高いのは、海外の足場がなく国内の建設需要だけに頼る点を寿命に反映したため。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.75%。