結論
モリ工業は、ステンレスの溶接管をつくる専業メーカーだ。仕入れた鋼帯を丸や角の管に仕上げ、配管、自動車、建材、手すりへ売る。ステンレス管では国内最大手と評される。
筆者の結論は、今の値段はやや割高だ。ただ、純現金 139 億円と自己資本 585 億円が下を支えるため、大きく崩れる心配は小さい。元手に対する稼ぎが資本コストに届かず、10 年後の価値は今の時価総額を少し下回る。
強みは、小ロットと多品種に応える機動力と、メーカーと商社を兼ねる売り方だ。借金はほとんどなく、不況でも潰れにくい。
弱みは需要の細りである。原料のステンレス使用量は 9 年で 4 分の 1 減った。輸入管は過去最高の水準にあり、自動車の電動化は排気系の管を減らす。会社は 10 年後に売上 700 億円を掲げるが、今の 433 億円からは遠い。
10 年の中心像は、売上が緩やかに増えても物価に追いつかず、利益は横ばいに近い。積み上がる現金が自己資本利益率を押し下げる。現金が株主に戻るか、買収に消えるかで、評価は上にも下にも動く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「悪くない事業と、眠っている現金」の組み合わせだ。
事業は 10 年後も残る。ステンレスの管は、水、熱、食品、建物など、生活の土台で使われる。ただし成長はなく、物価に追いつくのがやっとだろう。堀は小さい。オーナーとして持ち続けたい事業かと問われれば、事業そのものに強い魅力はない。
惹かれるのは財務だ。借金がなく、現金が時価総額の 4 割ある。事業が衰えても、会社は簡単には潰れない。ここに安全域がある。
気がかりは資本配分である。稼いだお金の 6 割が会社に残り、元手に対する稼ぎは 6% 前後にとどまる。資本コストを下回る使い方が続けば、留保は価値を削る。買収に使う 100 億円の枠も、成功の保証がない。
安全域は現金で確保されている。ただ上振れが起きるのは、現金が株主に戻るか、資本コストを上回る投資に変わった時に限られる。それまでは、待つ価値がある会社ではあっても、急いで買う会社ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はステンレス管だ。売上の 5 割強を占める。
管には丸管、角管、異形管、クラッド管などがある。配管用が最も大きく、建物や設備の水道・給湯の配管に使う。装飾・建材用は手すりや外装、自動車用は排気系の部品に回る。給湯器に使う曲げられる管(フレキ管)も育てている。
次が条鋼で、売上の 2 割強。ステンレスの丸棒や形鋼を、特殊鋼問屋などへ売る。残りは普通鋼の鋼管、加工品、パイプ切断機などの機械だ。
特徴は、メーカーと商社を兼ねる点にある。自社で鋼帯を切り、圧延し、熱処理する。同時に、管と条鋼の在庫を持って小口で売る。注文を受けてから素材を探す同業より、納期が短い。生産設備の多くは自社で設計・製作してきた。
海外はインドネシアの子会社が自動車向けを中心に担い、売上の 5〜6% になる。
原料のステンレス鋼帯は、ニッケル相場に連動して値段が動く。値上がり分は売値に乗せる。ただ在庫を持つ商売なので、相場の下落期には評価損が利益を削る。
部門別の利益は開示が粗く、本稿の配分は筆者の推定である。
優良さと弱いところ
堀は、小ロットに強い機動力と、顧客との関係の長さだ。
同社は多品種の管を、短い納期で、小さい単位でも売る。大手が嫌がる注文を拾うことで、値引き競争に巻き込まれにくい場面がある。この積み重ねが、過去 10 年の営業利益率を 8〜14% の幅に保ってきた。
ただし、強い堀とは言えない。配管用は輸入管との競争が激しく、価格は市場が決める。自動車用も、顧客の部品設計が変われば注文が消える。
資本の効率は低い。過去 10 年の自己資本利益率の中央値は 7.9% で、直近は 5.7% まで落ちた。利益が減っただけでなく、手元の現金が積み上がって分母が膨らんだ。自己資本比率は 80% を超え、借金はほとんどない。守りは固いが、元手を働かせきれていない。
経営は堅実で、やや保守的だ。不採算の金物事業と自転車販売から撤退し、工場を集約した決断は評価できる。一方、中計の達成は鈍い。2026 年 3 月期の営業利益は 44 億円で、計画の 56 億円に届かなかった。
筆者が気にするのは、事業の強さより、資本の使い道の遅さだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ステンレス管の国内市場は、数量が細る成熟市場だ。
会社の資料によれば、原料のステンレス鋼の使用量は 2014 年度の約 4.7 万トンから 2023 年度の約 3.5 万トンへ、25% 減った。建築の配管、家電、自動車部品と、需要先のどれも伸びない。売上が持ちこたえたのは、単価の上昇と配管用への軸足の移動のおかげだ。
追い風は少ない。人口が減り、新築も細る。一方で、既存の建物の更新、給湯器、水素、熱交換器、蓄電池など、新しい用途は少しずつ出てくる。
逆風は輸入管である。ステンレス溶接鋼管の輸入は、2021 年下期から過去最高の水準にある。中国・台湾・東南アジアの管が、配管用に入り込む。中計も配管用で「輸入材への対抗」を課題に掲げる。
競合は、日鉄系のステンレス鋼管会社、ナストーア、新家工業、ステンレスパイプ工業、大一ステンレス鋼管などだ。公的なシェア統計は見つからない。流通向けの溶接管の販売が月 5,000 トン台と、直販の自動車向けを合わせた国内の年 10 万トン弱を市場とみると、同社の管は 2 割前後のシェアになる。筆者の推定である。
この業界の本質は、縮む国内の需要と、安い輸入管の綱引きだ。10 年後は、国内の数量が 1 割強減り、インドネシアなど海外の比率が少し上がる姿になる。
資本政策と M&A
資本の使い方は、堅実だが遅い。
手元は純現金で 139 億円、時価総額の 4 割にあたる。配当性向は 2023 年から 40% 程度へ引き上げた。総還元率は 30% 前後を保ってきたが、自社株買いは「機動的に」とするだけで、大きな実行は見当たらない。利益の 6 割ほどは社内に残り、現金が増えてきた。
使い道として会社が掲げるのは、10 年で 350 億円の投資枠だ。うち新規事業や買収に 100 億円、インドネシアに次ぐ海外に 50 億円、既存設備の更新に 100 億円を充てる。焦点は、買収で価値を壊さないかである。小さな会社が慣れない分野へ出ると、失敗の傷が大きい。
株主には、光通信系の投資組合、大同生命、銀行、個人の大株主、阪和興業などが並ぶ。支配株主はいない。時価総額が自己資本の 6 割に満たないため、外部の株主から還元の強化を求められても不思議はない。買収や再編の話も出うるが、価格は交渉で決まるため、価値には織り込まない。
店舗や倉庫を借りて営む会社ではなく、新リース会計基準の影響は小さいと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社は 10 年後に売上 700 億円、営業利益 90 億円を掲げる。そこまで届かなくても、上振れの芽は複数ある。
第 1 に、利益は底を打った。2026 年 3 月期の営業利益は 44 億円まで落ちたが、今期の 4〜6 月は 19% 増の約 13 億円で、販売価格の上昇が効いた。
第 2 に、輸入管への対抗策が動き出した。配管用の品ぞろえを広げ、顧客との関係を強める方針で、給湯器用のフレキ管など付加価値の高い品も育つ。新工場と設備の更新で、生産の効率も上がる。
第 3 に、新しい用途がある。水素や熱交換器、蓄電池向けの管は、ステンレスの得意分野だ。インドネシアは自動車の生産が伸び、拠点は黒字になった。
第 4 に、財務の余力がある。純現金 139 億円と、10 年 350 億円の投資枠で、買収により穴を埋められる。時価総額が自己資本を大きく割り込むため、外部の株主からの還元の要求も追い風になる。
配当性向 40% の方針が守られ、現金の一部が還元に回れば、評価は大きく見直される。
慎重な見方
需要の細りは、数字にすでに出ている。慎重に見るべき点は 4 つある。
第 1 に、数量だ。原料のステンレス使用量は 9 年で 25% 減った。売上が持ちこたえたのは、単価の上昇のおかげで、実力の増加ではない。
第 2 に、輸入管だ。ステンレス溶接管の輸入は過去最高の水準が続き、配管用の価格は上がりにくい。会社も「輸入材への対抗」を課題と認めている。
第 3 に、自動車である。排気系の管は、電動化で本数が減る。会社は中計の期間中は影響が限定的と見るが、10 年では無視できない。
第 4 に、利益の水準だ。営業利益は 2024 年 3 月期の 59 億円から 44 億円へ、2 年で 25% 減った。経常利益は 4 期連続の減益で、今期の会社予想も減益と減配である。
そして資本の使い方がある。現金が積み上がり、自己資本利益率は 5.7%。資本コストを下回る状態が続く。買収の 100 億円が当たる保証はなく、外れれば現金の安全域が削られる。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠がある。上振れの根拠は新用途と現金だが、実績はまだ薄い。下振れの根拠は数量の減少と輸入で、すでに数字に出ている。そこで楽観とやや楽観を合わせて 3 割弱、やや悲観と悲観を合わせて 3 割強に置いた。悲観は、借金がなく純現金が床になるため 1 割にとどめた。中心の中立は 4 割。同じ領域の日本精線に近い置き方で、借金のない分だけ悲観を厚くしすぎなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,469 円558 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 369 円140 億円)。 今の値に割り戻すと 932 円354 億円、今との差 +5.3%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,199 円835 億円 | 529 円201 億円 | +208.3% | +11.9% | 218 円83 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,006 円762 億円 | 455 円173 億円 | +178.1% | +10.8% | 492 円187 億円 |
| 中立 | 40% | 1,797 円683 億円 | 395 円150 億円 | +147.7% | +9.5% | 877 円333 億円 |
| やや悲観 | 22% | 621 円236 億円 | 300 円114 億円 | +4.1% | +0.4% | 203 円77 億円 |
| 悲観 | 10% | 366 円139 億円 | 118 円45 億円 | −45.3% | −5.8% | 48 円18 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,469 円558 億円 | 369 円140 億円 | +107.7% | +7.6% | 1,838 円698 億円 |
今の株価時価総額 885 円336 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:新用途と海外が重なり、売上は 630 億円、営業利益は 70 億円へ 利益 57 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 2,199 円835 億円
新用途と海外が重なり、会社が掲げる長期ビジョンに近づく。配管用は輸入管に押されない。品ぞろえの拡大とフレキ管などの付加価値品で、単価は物価を上回って上がる。ステンレス管の数量は横ばいを保つ。
水素・熱交換器・蓄電池向けの管が育ち、インドネシアは自動車の伸びと建材への展開で数量が倍になる。条鋼は特殊鋼問屋の新規開拓で少し伸びる。営業利益は 70 億円台で、過去の山(67 億円)を超える。
10 年 350 億円の投資枠のうち、買収と海外が成果を出す。配当性向は 45% 前後に上がり、自社株買いも加わる。それでも自己資本が厚く、自己資本利益率は 8% に届かない。資本コストをわずかに下回る姿だ。
- ステンレス管・加工品:数量 2.3(出荷量(万トン))× 価格 153(1 トンあたり売上(万円・ニッケル分を含む混合))→ 売上 345 億円・営業利益 47 億円。数量 2.25 × 単価 153.3、営業利益率 13.5%
- ステンレス条鋼:数量 1.2(出荷量(万トン))× 価格 122(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 141 億円・営業利益 11 億円。数量 1.16 × 単価 121.9、営業利益率 8.0%
- 鋼管(普通鋼)・機械:数量 3.5(鋼管の出荷量(万トン))× 価格 23(1 トンあたり売上(万円・機械の売上を含む混合))→ 売上 79 億円・営業利益 6 億円。数量 3.52 × 単価 22.5、営業利益率 7.5%
- インドネシア子会社:数量 1.0(出荷量(万トン))× 価格 67(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 67 億円・営業利益 7 億円。数量 1.00 × 単価 67.0、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 55 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)132 億円。全体の PER 12.8 倍、時価総額 835 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:配管用で輸入管に勝ち、新用途も立ち上がり、買収も当たる必要がある。条件が多く、1 割を切る。
やや楽観 20% やや楽観:輸入管に踏みとどまり、営業利益は会社の目標水準に届く 利益 51 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,006 円762 億円
配管用で輸入管と互角に戦い、数量の減りは 5% ほどに収まる。給湯器用のフレキ管と新用途が加わり、単価は物価をわずかに上回る。インドネシアは数量が 6 割増える。
営業利益は 60 億円前後になる。会社が掲げた 2026 年度の目標(59 億円)に、物価の上昇を織り込んだ姿で届く。条鋼は横ばい、鋼管は縮む。
配当性向 40% は守られ、買収は 60 億円ほどの小粒で終わる。現金は貯まる一方で、自己資本利益率は 7% 前後にとどまる。成長はするが、元手に対する稼ぎは資本コストに届かない。
評価は「堅実な管メーカー」に戻るが、成長株としては見られない。現金の戻りがなければ、倍率は資本コストで頭を押さえられる。
- ステンレス管・加工品:数量 2.1(出荷量(万トン))× 価格 150(1 トンあたり売上(万円・ニッケル分を含む混合))→ 売上 321 億円・営業利益 41 億円。数量 2.14 × 単価 150.0、営業利益率 12.8%
- ステンレス条鋼:数量 1.1(出荷量(万トン))× 価格 122(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 134 億円・営業利益 9 億円。数量 1.10 × 単価 121.9、営業利益率 7.0%
- 鋼管(普通鋼)・機械:数量 3.3(鋼管の出荷量(万トン))× 価格 23(1 トンあたり売上(万円・機械の売上を含む混合))→ 売上 75 億円・営業利益 5 億円。数量 3.33 × 単価 22.5、営業利益率 7.0%
- インドネシア子会社:数量 0.8(出荷量(万トン))× 価格 67(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 54 億円・営業利益 5 億円。数量 0.80 × 単価 67.0、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)170 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 762 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の営業利益は 19% 増で回復の兆しがあり、会社の目標の線は現実味がある。ただ過去の中計は未達が続き、強くは寄せない。
中立 40% 中立:数量は緩やかに縮み、利益は小幅に増え、現金だけが積み上がる 利益 43 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,797 円683 億円
国内のステンレス需要は緩やかに縮み、配管用の数量は 10 年で 1 割強減る。輸入管との競争で、価格は物価並みに上がるのがやっとだ。インドネシアが数量で 5 割増え、減りを一部補う。
営業利益は 51 億円ほどで、今より 2 割弱増えるにとどまる。売上は 530 億円前後で、物価の伸びにも追いつかない。会社が掲げる 10 年後の売上 700 億円・営業利益 90 億円には遠い。
配当性向 40% は保たれ、残りは運転資金と設備の更新、40 億円ほどの小さな買収に使われる。使い切れない現金が積み上がり、自己資本は 800 億円を超える。自己資本利益率は 5% 台で、資本コストを下回る。
- ステンレス管・加工品:数量 2.0(出荷量(万トン))× 価格 147(1 トンあたり売上(万円・ニッケル分を含む混合))→ 売上 290 億円・営業利益 35 億円。数量 1.98 × 単価 146.7、営業利益率 12.0%
- ステンレス条鋼:数量 1.0(出荷量(万トン))× 価格 122(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 121 億円・営業利益 8 億円。数量 0.99 × 単価 121.9、営業利益率 6.5%
- 鋼管(普通鋼)・機械:数量 3.1(鋼管の出荷量(万トン))× 価格 23(1 トンあたり売上(万円・機械の売上を含む混合))→ 売上 71 億円・営業利益 5 億円。数量 3.15 × 単価 22.5、営業利益率 6.5%
- インドネシア子会社:数量 0.8(出荷量(万トン))× 価格 67(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 50 億円・営業利益 4 億円。数量 0.75 × 単価 67.0、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 40 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)188 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 682 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量の減少を単価と海外で補う姿が、過去 10 年の実績に最も近い。最も起こりやすい。
やや悲観 22% やや悲観:輸入管と電動化に押され、営業利益は 3 割減る 利益 25 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 621 円236 億円
輸入管が配管用を侵食し、数量は 4 分の 1 近く減る。価格は物価に追いつかず、利益率は 7% 前後に下がる。自動車の電動化で、排気系の管も減る。
営業利益は 30 億円と、今の 7 割になる。インドネシアは堅調だが、規模が小さく全体を支えられない。
配当性向 40% は守られるが、利益が減るため配当額も減る。100 億円規模の買収が期待外れに終わり、設備には使われない資産が残る。自己資本利益率は 3% 台。事業の評価は下がり、現金だけが下を支える。
会社は存続し、配当も続く。ただ、成長の物語は消え、現金の使い道への疑いが倍率を縛る。
- ステンレス管・加工品:数量 1.7(出荷量(万トン))× 価格 142(1 トンあたり売上(万円・ニッケル分を含む混合))→ 売上 243 億円・営業利益 21 億円。数量 1.71 × 単価 142.3、営業利益率 8.5%
- ステンレス条鋼:数量 0.8(出荷量(万トン))× 価格 118(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 98 億円・営業利益 4 億円。数量 0.82 × 単価 118.3、営業利益率 4.5%
- 鋼管(普通鋼)・機械:数量 2.7(鋼管の出荷量(万トン))× 価格 22(1 トンあたり売上(万円・機械の売上を含む混合))→ 売上 58 億円・営業利益 2 億円。数量 2.66 × 単価 21.8、営業利益率 4.0%
- インドネシア子会社:数量 0.6(出荷量(万トン))× 価格 65(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 39 億円・営業利益 2 億円。数量 0.60 × 単価 65.0、営業利益率 6.0%
倍率:資本コスト 8%。余った現金を除いた事業の ROE 3.5% が k 以下で、PER の上限は 1÷k の約 12.1 倍。稼ぐ力が細る筋書きで、上限の約 6 割の 7.5 倍に置く。
確率:ステンレス使用量は 9 年で 25% 減り、輸入管は過去最高の水準にある。すでに進んでいる流れで、やや厚く置く。
悲観 10% 悲観:需要の細りと買収の失敗が重なり、価値は手元の現金まで下がる 利益 7 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 366 円139 億円
輸入管と電動化が同時に来る。配管用は輸入管に押されて数量が半分近くまで減り、価格も物価に追いつかない。自動車用の排気管は電動化で細り、インドネシアも低迷する。
営業利益は 7 億円まで落ち、管事業は固定費を賄えるぎりぎりになる。稼働率が下がり、集約したばかりの工場にも 100 億円ほどの減損が出る。買収に使った現金も戻らない。
ただ、もともと借金がなく、現金を厚く持つため、会社は存続する。評価は稼ぐ力ではなく、手元の純現金に近い水準まで下がる。もう優良な加工業ではなく、現金を抱えた縮む会社として扱われる。
- ステンレス管・加工品:数量 1.2(出荷量(万トン))× 価格 134(1 トンあたり売上(万円・ニッケル分を含む混合))→ 売上 165 億円・営業利益 6 億円。数量 1.24 × 単価 133.6、営業利益率 3.5%
- ステンレス条鋼:数量 0.6(出荷量(万トン))× 価格 109(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 60 億円・営業利益 1 億円。数量 0.55 × 単価 109.2、営業利益率 1.0%
- 鋼管(普通鋼)・機械:数量 1.9(鋼管の出荷量(万トン))× 価格 20(1 トンあたり売上(万円・機械の売上を含む混合))→ 売上 37 億円・営業利益 0 億円。数量 1.85 × 単価 20.2、営業利益率 0.0%
- インドネシア子会社:数量 0.5(出荷量(万トン))× 価格 60(1 トンあたり売上(万円))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。数量 0.45 × 単価 60.0、営業利益率 2.0%
倍率:資本コスト 8%。事業の ROE は k より大きく下で、PER の上限は 1÷k の約 12.1 倍。構造的に負けた筋書きで、稼ぐ力(純利益÷k)は約 80 億円にとどまる。純現金 139 億円の床のほうが大きいので、床の値で置く(PBR は床の額を自己資本 590 億円で割った値)。
確率:需要の細りと買収の失敗が同時に来る構造的な負け。ただ借金がなく、現金が下を支えるため 1 割にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ステンレス管・加工品
配管用・自動車用・建材用の丸管・角管・異形管と、給湯器用フレキ管などの二次加工品。主力。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円・ニッケル分を含む混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.3 | 110 | 246 | 31 |
| 10 年後 中立 | 2.0 | 147 | 290 | 35 |
取り方:2024 年 3 月期の売上構成(管 54%・加工品 2%)と同期の売上 478 億円から、今期の売上 433 億円に合わせて管と加工品で約 246 億円と置いた筆者の推定。数量は鋼帯の使用量(2023 年度 3.5 万トン、管・条鋼・加工品の合計)と月産の目安から、管・加工品を 2.25 万トンとした。営業利益 31 億円は利益率 12.5% の推定で、開示はない。
ステンレス条鋼
ステンレスの丸棒・形鋼など。特殊鋼問屋などへ在庫販売する。茨城工場に生産を集約。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.1 | 91 | 100 | 7 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 122 | 121 | 8 |
取り方:2023 年度の条鋼は売上 114 億円(24%)。今期は全体の減収に合わせて約 100 億円、数量 1.1 万トン・単価 91 万円と置いた筆者の推定。営業利益 7 億円は利益率 7%。
鋼管(普通鋼)・機械
普通鋼の鋼管(塗装品など)と、パイプ切断機などの機械。ステンレス以外の部門。
| 数量鋼管の出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円・機械の売上を含む混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.7 | 17 | 62 | 4 |
| 10 年後 中立 | 3.1 | 23 | 71 | 5 |
取り方:2023 年度の鋼管は売上 64 億円・普通鋼の使用量 4.2 万トン。今期は鋼管 57 億円・3.7 万トン、機械約 5 億円を足して 62 億円と置いた筆者の推定。営業利益 4 億円は利益率 7%。
インドネシア子会社
2012 年に設立した現地の製造子会社。自動車向けのパイプが中心で、黒字。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.5 | 50 | 25 | 2 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 67 | 50 | 4 |
取り方:中計の計画では売上 22〜25 億円(構成比 5% ほど)。数量 0.5 万トン・単価 50 万円と置いた筆者の推定。営業利益 1.8 億円は利益率 7%。
リスクと懸念
輸入管の攻勢
ステンレス溶接鋼管の輸入は2021年下期から過去最高の水準にある。配管用で輸入管が値段を決めると、同社の主力の数量と利益率が同時に削られる。会社も中計で「輸入材への対抗」を課題に挙げている。
自動車の電動化
自動車用は売上の 1 割ほどで、排気系の管が多い。電動化が進むと本数が減る。インドネシアの拠点も自動車向けが中心で、現地の成長が電動化で相殺されうる。会社は中計の期間中は影響が限定的と見る。
ニッケル相場と在庫評価損
原料のステンレス鋼帯はニッケル相場に連動する。値上がりは売値に乗せられるが、在庫を持つ商売なので、相場が下がる局面では評価損が出て利益を削る。投資マネーの流入で、相場の動きは読みにくい。
現金の使い道(買収の失敗)
10 年で 350 億円の投資枠のうち、新規事業や買収に 100 億円を充てる計画だ。小さな会社が慣れない分野へ出ると、失敗の傷は大きい。外れれば、現金という安全域そのものが削られる。
国内需要の細り
人口が減り、新築も細る。会社の資料では、原料の使用量は 9 年で 25% 減った。売上は単価で保っているため、単価が崩れる局面では数量減が一気に利益に出る。
現金が積み上がる資本効率の低さ
配当性向は 40% 程度で、利益の 6 割ほどは社内に残る。事業に使い切れなければ、現金が増えて自己資本利益率が下がる。資本コストを下回る状態が長く続くと、会社の価値は帳簿より低く評価され続ける。
今後の分かれ目
- 配管用の輸入管の流入が止まるか、国内の流通向けの販売量が増え続ける
- 数量の減りが緩み、やや楽観から楽観の筋書きに近づく。
- 輸入管がさらに増え、配管用の値段が物価に追いつかなくなる
- 利益率が 7% 台まで下がり、やや悲観から悲観の筋書きに寄る。
- 自社株買いや増配で、純現金の一部が実際に株主へ戻る
- 現金が価値として認められ、資本の使い方への見方が改善する。
- 100 億円規模の買収が発表され、本業と関係の薄い分野に出る
- 価値を壊すか生むかは、買う値段と事業の中身で決まる。内容を見るまで判断しない。
- インドネシアの売上が建材など自動車以外にも広がり、現地の数量が倍近くになる
- 全社の利益の下支えになり、やや楽観の筋書きに近づく。
- 外部の株主が株式を買い増して提案を出す、または再編の話が持ち上がる
- 還元の強化や条件次第で価値が動く。条件を見るまで織り込まない。
見ておくもの
- ステンレス溶接鋼管の輸入量と、国内の流通販売量(月次)
- 配管用ステンレス鋼管の単価と、ニッケル相場・在庫評価損益
- 営業利益率(今は 10%)と、中計の進み具合
- インドネシア子会社の売上と、自動車の生産台数
- 純現金の推移と、自社株買い・買収の発表
倍率と資本コストの決め方
今の株価・PER には寄せていない。セグメントごとに数量(万トン)と単価(物価並みの 1.34 倍が基本)で 10 年の売上と利益を積み、純利益は過去の比率 0.77 に利払い・受取利息の増加分を足して置いた。中立の事業の ROE は 7% 台で資本コスト 8% に届かず、PER は 1÷k の約 12.1 倍の約 8 割に置いた。余った現金は、今の 100 億円に 10 年の留保から運転資金と買収を引いた分を足し、戻り方 0.5 で数えた。悲観は稼ぐ力より大きい純現金 139 億円を床にした。新リース会計基準(2028/03 期から)で営業利益と負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.8 倍・やや楽観 PER 10.3→12.5 倍・中立 PER 9.7→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。同じ領域の日本精線(+0.75%)と同じ水準。日本冶金(+1.75%)より、借金がなく製錬の設備を持たない分だけ低く置く。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.00%。