結論
大和工業は条鋼・H形鋼を作る電炉メーカーだが、稼ぎの主役は国内ではない。国内のヤマトスチールとタイ・インドネシアの子会社を合わせた営業利益はわずかで、純利益の大半は出資49%の米国ニューコア・ヤマト・スチールなど、経営権を持たない持分法の仲間から来る。筆者の結論は「割高」だ。
国内の条鋼市場は人口減と建設の先細りで縮み続け、JFEスチールとの協業は生き残りの知恵であって成長の原動力ではない。本当の成長の種は北米の建設需要とドル高、そして2030年に掲げる形鋼800万トン体制というインドを含む海外展開にある。ここでは国内・タイ・インドネシアの連結事業と、北米中心の持分法事業を分けて数量と価格を積み上げた。資本コストは基本7.5%に品質の調整+1.25%(鉄鋼の循環と値決め力の弱さ)を足した8.75%とした。持分法頼みで中身を読みにくい点は、kでなく筋書きと確率で見た。
手元の現金及び預金は2,190億円と、時価総額の3割に迫る。事業に要らない1,900億円の半分を価値に足したうえで、本質価値は今より3割ほど低いと出た。今の株価は、北米の好循環がこのまま続くという、やや楽観的な前提をすでに映している。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でこの会社を見るとき、筆者がまず引かれるのは北米の合弁がもたらす現金の質の高さだ。出資比率を上げずに利益だけを取り込む形は、資本をあまり使わずに稼ぐという意味でオーナー利益の効率がよい。
一方で、経営権を持たない持分法の利益に純利益の大半を頼る構造は、安全域を測りにくくする弱さでもある。相手(ニューコア)の投資判断や米国景気の振れを自分でコントロールできないからだ。国内の条鋼事業そのものは、堀と呼べるほどの強みを持たない成熟産業であり、JFEスチールとの協業も守りの一手に近い。
資本配分については、無理な買収に走らず合弁と協業で規模を確保してきた規律を評価したいが、2030年の800万トン構想とインド進出は、実行できれば価値を生むが、まだ実行力が読めない段階の計画だ。今払う値段に対する安全域は、持分法利益がこのまま続くという前提に強く依存しており、筆者は厚くはないと見ている。
何で稼ぐ会社か
大和工業の事業は三層構造だ。足元はヤマトスチール(兵庫県姫路市、圧延能力70万トン)が担う国内のH形鋼・棒鋼で、連結の中では規模が一番小さい。中層はタイのサイアム・ヤマト・スチール(出資70%)とインドネシアのガルーダ・ヤマト・スチール(出資80%)で、いずれも連結子会社として現地の建設向け形鋼を供給する。
稼ぎの本体はもう一段外側にある。米国のニューコア・ヤマト・スチール(出資49%、1987年設立、アーカンソー州ブライズビル)だ。北米最大手ニューコアとの合弁で、形鋼の生産能力は230万トンと北米でも屈指の規模を持ち、売上を連結せずに利益だけを持分法で取り込む。ベトナムのPOSCOヤマトヴィナ(49%)、韓国のYKスチール(30%)も同じ持分法の仲間で、経常利益の実に8割が海外、とりわけ北米から生まれる年が続いている。国内事業の営業利益は数十億円規模にとどまり、連結の営業利益と純利益の差が毎年大きく開くのはこの構造のためだ。
2025年4月からはJFEスチールのH形鋼事業(JFE条鋼)とヤマトスチールが協業を始め、互いの製品を顧客に紹介し合う体制を敷いた。国内需要が細る中での生産効率化が狙いで、資本提携や経営統合には至っていない。
優良さと弱いところ
大和工業の強みは条鋼そのものの技術力ではなく、北米で稼ぐ合弁の立地と規模にあると筆者は見る。ニューコアという北米最大手と30年以上肩を並べ、出資比率を上げずに利益だけを安定して取り込んできた資本配分の規律は評価したい。自己資本比率は85%を超え、実質無借金という財務の強さも際立つ。
一方で弱さもはっきりしている。H形鋼や棒鋼は差別化が効きにくいコモディティで、価格決定力は中国材の流入やスクラップ価格に左右される。インドネシア事業はその弱さの縮図で、政府のインフラ予算削減と中国材の値下げ圧力で販売益が計画を下回っている。持分法の利益は会社が経営権を握っていない分、ニューコア側の投資判断や米国景気の振れをそのまま飲み込むしかない。
国内では設備更新への投資は保守的で、JFEスチールとの協業も攻めの一手というより、縮む市場での生き残り策だ。堀の強さは普通より少し弱いと筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の条鋼市場は構造的に縮んでいる。人口減少と建設需要の先細りで、国内粗鋼生産は57年ぶりの低水準まで落ち込んだ。大和工業はここに固執せず、稼ぎの場を北米・東南アジアに移してきた会社だと筆者は見る。
北米の形鋼市場は住宅よりも非居住建築・インフラ更新の比重が高く、ニューコア・ヤマトはそこで上位のシェアを持つ。中国の過剰生産と輸出攻勢は世界の鋼材価格の天井を押さえ続けており、タイやインドネシアでは中国材の流入がそのまま収益を削る圧力になっている。インドネシア事業の苦戦はその典型例だ。
会社は2030年の「ありたい姿」としてグループ形鋼生産能力を650万トンから800万トンへ広げる構想を掲げ、次の一手としてインドへの進出を探っている。実現すれば持分法利益の柱がもう一本増える話だが、まだ検討段階であり実行力は未知数だ。国内ではJFEスチールとの協業が始まったばかりで、競争環境を大きく変えるには時間がかかる。電炉業界全体は中堅・中小が多く価格決定力に乏しいが、大和工業は海外の合弁という独自のポジションでその弱さを補っている。
資本政策と M&A
配当方針は連結配当性向40%を目安としつつ、業績が沈んでも一定額を下回らせない下限を設けている。直近は安定した配当が続き、自社株買いも業績に応じて実施してきたが、2026年3月期は前の期より規模を縮めた。現金及び預金は2026年3月期末で2,190億円、借入は7億円ほどで、会計上の現金同等物755億円のほかに定期預金が積まれている。使い道が決まらない現金は、事業に要らない1,900億円とみた。ただし創業家色が強く、貯まる速度に比べて戻す速度は遅い。足すのは半分だけにした。同じ期には政策保有株の売却益168億円が純利益を押し上げる一時的な要因になっており、これを抜いた実力の利益はもう少し小粒だと筆者は見ている。
M&Aについては、自ら買いに出る動きよりも、北米・東南アジアでの合弁拡大とJFEスチールとの協業という「手を組む」資本政策が一貫している。TOBの標的になる可能性は低くないが、創業家色の強い経営と実質無借金の財務を考えると、短期的な買収圧力は小さいと筆者は考える。
点検済み:走査上の中立の利益率24.6%は、北米・アジアの持分法の利益を売上なしで営業利益に足した事業別の合算のため、過去の営業利益率(持分法を含まない)と比べられない見かけの超え。純利益で比べると中立686億円は過去の山(700億円)と同水準で、今期・来期の予想(575〜610億円)の延長。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
北米事業の強さはまだ過小評価されている。ニューコア・ヤマト・スチールは230万トンの生産能力を持ち、高強度のH形鋼「エイオス」のような高付加価値品でさらにシェアを伸ばす余地がある。米国は住宅より非居住建築・インフラ更新が条鋼需要を支える構図にあり、人口減に悩む日本とは需要の質が違う。
会社が掲げる2030年の形鋼800万トン構想とインド進出が実現すれば、持分法の利益の柱がもう一本増え、経常利益の海外比率はさらに高まる。JFEスチールとのH形鋼協業も、縮む国内市場でコストを分け合いながら生き残る知恵として評価できる。
自己資本比率85%超、実質無借金という財務の強さは、谷が来ても投資と株主還元を同時に続けられる余力を意味する。業績が沈んでも還元の下限を割らない方針も明確で、政策保有株の売却を通じた資本効率の改善も続いている。中国材の流入という圧力はあるが、北米市場は地理的にその影響を受けにくく、ドル高が続く限り持分法利益は円換算でさらに膨らむ可能性がある。
慎重な見方
一方で気になるのは、純利益の大半を自社が経営権を持たない合弁に頼る構造そのものだ。ニューコア・ヤマト・スチールは出資49%にすぎず、増産や値付けの判断はニューコア側の意向が強く働く。米国の建設投資が景気後退で落ち込めば、持分法利益は国内事業の小さな営業利益では到底補えない規模で縮む。
インドネシア事業はすでに中国材の流入とインフラ予算削減で苦戦しており、タイを含む東南アジア全体が同じ圧力にさらされる可能性がある。国内の条鋼需要は人口減少で構造的に縮み続け、JFEスチールとの協業も競争力強化とは言うが、実質は縮む市場を分け合う話にすぎない。
2030年の形鋼800万トン構想とインド進出は、社長の発言こそあるが具体的な投資計画や時期はまだ見えておらず、絵に描いた餅で終わるリスクもある。何より、現在の株価は持分法利益がこの先も円安・米金利高の追い風を受け続けるという、やや楽観的な前提をすでに織り込んでいる。ドル円が150円から円高に戻れば、円換算の持分法利益は機械的に縮む。
どちらに重みを置いたか
筆者の判断は、慎重な見方にやや重みを置く。北米の合弁が稼ぐ力そのものは本物だが、経営権のない事業に純利益の大半を頼る構造は、好調が続く間は良いが、逆風では脆さが一気に表に出る。本質価値の計算では、中立の筋書きで10年後の時価総額は今とほぼ同じ水準にとどまり、10年の年率は資本コストに届かない。国内・タイ・インドネシアの連結事業だけでは割高を正当化できる成長力がなく、北米の持分法利益がこのまま拡大し続けるという強気の見方の前提がどこまで続くかが分かれ目になる。確率はやや悲観側に重みを残しつつ、北米の規模とドル高の追い風は軽視できないため、楽観側にも相応の確率を置いた。資本コストは基本7.5%に品質+1.25%を足して8.75%とした。手元の現金は厚く財務は堅いが、純利益の大半が経営権のない米国合弁の持分法利益で読みにくいため、+側は小さくとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 18,491 円1.10 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 4,725 円2,823 億円)。 今の値に割り戻すと 11,780 円7,039 億円、今との差 −3.8%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 32,917 円1.97 兆円 | 6,621 円3,956 億円 | +222.9% | +12.4% | 4,745 円2,835 億円 |
| やや楽観 | 23% | 24,671 円1.47 兆円 | 5,313 円3,175 億円 | +144.9% | +9.4% | 6,896 円4,121 億円 |
| 中立 | 35% | 18,280 円1.09 兆円 | 4,385 円2,620 億円 | +85.1% | +6.4% | 7,933 円4,740 億円 |
| やや悲観 | 20% | 9,799 円5,855 億円 | 4,525 円2,704 億円 | +17.0% | +1.6% | 2,865 円1,712 億円 |
| 悲観 | 10% | 5,087 円3,040 億円 | 2,682 円1,603 億円 | −36.6% | −4.4% | 777 円464 億円 |
| 加重平均 | 100% | 18,491 円1.10 兆円 | 4,725 円2,823 億円 | +89.6% | +6.6% | 23,216 円1.39 兆円 |
今の株価時価総額 12,245 円7,317 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 北米とインドの二本柱が育つ 利益 1,134 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 32,917 円1.97 兆円
北米の建設・インフラ更新需要が10年にわたり拡大を続け、ニューコア・ヤマト・スチールの持分法利益が大黒柱として定着する10年になる。高強度H形鋼「エイオス」のような高付加価値品の比率が上がり、米金利高・ドル高の環境も円換算の利益を後押しする。会社が掲げる形鋼800万トン構想は、インドでの新拠点設立という形で実行に動き出し、持分法利益の柱がもう一本育つ。国内は人口減で条鋼需要が縮み続けるが、JFEスチールとの協業が一体運営に進み、縮む市場でも収益を守る体制が整う。タイ・インドネシアも東南アジアの建設需要の回復でインドネシアの苦戦が解消し、海外全体で収益源が分散する10年になる。
- 国内鉄鋼事業(ヤマトスチール):数量 58.9(鋼材出荷量(万トン、国内))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 714 億円・営業利益 43 億円。出荷量維持、利益率6%
- 海外鉄鋼事業(タイ・インドネシア、連結):数量 174(鋼材出荷量(万トン、タイ・インドネシア合計))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 2,108 億円・営業利益 148 億円。出荷45%増、利益率7%
- 北米・アジアの持分法事業(ニューコア・ヤマト等):数量 208(出資比率を考慮した実質生産量(万トン、北米中心))× 価格 4.77(実質生産量1万トン当たりの持分法利益(億円、名目))→ 売上 992 億円・営業利益 992 億円。北米実質生産量60%増(インド拠点含む)、1万トン当たり利益55%増
倍率:事業の純利益 1,108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,900 億円。全体の PER 16.04 倍、時価総額 19,669 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:形鋼800万トン構想とインド進出が実現し、北米市場も拡大を続ける前提。10年間の連続成功が必要で確度は高くない。
やや楽観 23% 北米主軸の成長が定着 利益 888 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 24,671 円1.47 兆円
北米事業の収益がこれまでと同じペースで積み上がる、会社の長期ビジョンに沿った10年になる。インド進出の検討は進むが、実際の稼働はこの10年の終盤にとどまる。国内条鋼は構造的な縮小が続くが、JFEスチールとの協業で急激な収益悪化は避けられる。タイは安定した収益源として定着し、インドネシアも中国材流入の圧力を受けつつ徐々に持ち直す。北米の持分法利益がドル高の追い風を受け続け、全社の収益を支える構図が10年間続く。配当は業績の伸びに合わせて増え、自社株買いも折々に実施される10年になる。インド進出の検討も終盤には実を結び、次の10年への布石となる。
- 国内鉄鋼事業(ヤマトスチール):数量 55.8(鋼材出荷量(万トン、国内))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 662 億円・営業利益 33 億円。出荷量10%減、利益率5%
- 海外鉄鋼事業(タイ・インドネシア、連結):数量 158(鋼材出荷量(万トン、タイ・インドネシア合計))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,857 億円・営業利益 111 億円。出荷32%増、利益率6%
- 北米・アジアの持分法事業(ニューコア・ヤマト等):数量 176(出資比率を考慮した実質生産量(万トン、北米中心))× 価格 4.43(実質生産量1万トン当たりの持分法利益(億円、名目))→ 売上 778 億円・営業利益 778 億円。北米実質生産量35%増
倍率:事業の純利益 861 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,900 億円。全体の PER 14.91 倍、時価総額 14,742 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米中心の持分法利益が主軸として定着する、業界見通しの上位レンジに近い想定。
中立 35% 中立:国内縮小を北米依存で補う10年 利益 686 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 18,280 円1.09 兆円
国内の条鋼需要は人口減少で10年かけて構造的に縮み、ヤマトスチールの出荷は緩やかな右肩下がりをたどる。タイ・インドネシアは中立的な伸びにとどまり、インドネシアの中国材流入による圧迫も残ったままだ。それでも全社の収益を支えるのは、やはり北米のニューコア・ヤマト・スチールを中心とする持分法の仲間で、米国の建設・インフラ需要とドル円150円の前提のもとで利益は緩やかに伸び続ける。形鋼800万トン構想とインド進出は検討が続くが、この10年では具体的な稼働には至らない。JFEスチールとの協業は国内事業の収益を一定程度守るが、全社の成長をけん引する規模にはならない。純利益は北米依存の構造を残したまま、緩やかに積み上がる10年になる。
- 国内鉄鋼事業(ヤマトスチール):数量 52.7(鋼材出荷量(万トン、国内))× 価格 12(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 612 億円・営業利益 21 億円。出荷量15%減、物価並みの価格、利益率3.5%
- 海外鉄鋼事業(タイ・インドネシア、連結):数量 144(鋼材出荷量(万トン、タイ・インドネシア合計))× 価格 11(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,632 億円・営業利益 65 億円。出荷20%増、利益率4%
- 北米・アジアの持分法事業(ニューコア・ヤマト等):数量 150(出資比率を考慮した実質生産量(万トン、北米中心))× 価格 4.12(実質生産量1万トン当たりの持分法利益(億円、名目))→ 売上 616 億円・営業利益 616 億円。北米実質生産量15%増、物価並みの利益の伸び
倍率:事業の純利益 660 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,900 億円。全体の PER 13.68 倍、時価総額 10,923 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の構造的縮小を海外(特に北米)が補う、会社の長期ビジョンの中心線に沿ったシナリオ。
やや悲観 20% 中国材の流入が東南アジアで強まる 利益 458 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 9,799 円5,855 億円
中国材の流入がタイ・インドネシアの双方で強まり、東南アジア事業の収益性が一段と落ちる10年になる。国内の条鋼需要も想定より速いペースで縮み、JFEスチールとの協業の効果もこの縮小を覆すには力不足だ。北米のニューコア・ヤマト・スチールは堅調を保つものの、米金利・ドル高の追い風が一服し、持分法利益の伸びは過去10年より鈍くなる。形鋼800万トン構想は掲げられたままインド進出の実行には至らず、成長の種が育たない10年になる。配当は下限を割らない程度に抑えられ、自社株買いも控えめにとどまり、投資家の評価も徐々に冷えていく。
- 国内鉄鋼事業(ヤマトスチール):数量 46.5(鋼材出荷量(万トン、国内))× 価格 11(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 515 億円・営業利益 5 億円。出荷量25%減、利益率1%
- 海外鉄鋼事業(タイ・インドネシア、連結):数量 120(鋼材出荷量(万トン、タイ・インドネシア合計))× 価格 10(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 1,220 億円・営業利益 18 億円。出荷ほぼ横ばい、利益率1.5%
- 北米・アジアの持分法事業(ニューコア・ヤマト等):数量 117(出資比率を考慮した実質生産量(万トン、北米中心))× 価格 3.69(実質生産量1万トン当たりの持分法利益(億円、名目))→ 売上 432 億円・営業利益 432 億円。北米実質生産量10%減、利益の伸び鈍化
倍率:資本コスト8%。余った現金を除いた事業のROE7.2%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.4倍で、その約7割の8.5倍に置く。中国材の流入が東南アジアで強まる筋書きなので、上限より低めに置く。
確率:中国材の流入が東南アジアで一段と強まり、国内縮小も想定より速い場合。
悲観 10% 構造的に優良さを失う 利益 292 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 5,087 円3,040 億円
国内の条鋼事業が中国材との競争とJFEスチールとの協業の行き詰まりでシェアを落とし、構造的に優良さを失う10年になる。タイ・インドネシアも同じ圧力で収益性が低下し、頼みの北米ニューコア・ヤマト・スチールまで米国景気の後退と競争の激化で持分法利益の伸びを失う。形鋼800万トン構想とインド進出は実行されず、会社の成長戦略そのものが宙に浮く。実質無借金の財務は崩れないが、持分法頼みの収益構造の弱さがそのまま表面化し、かつての「条鋼の優良企業」という評価は後退する10年になる。配当は下限を保つが、成長投資は大きく絞られる。
- 国内鉄鋼事業(ヤマトスチール):数量 34.1(鋼材出荷量(万トン、国内))× 価格 9.53(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 325 億円・営業利益 0 億円。出荷量45%減、利益率0%
- 海外鉄鋼事業(タイ・インドネシア、連結):数量 90.0(鋼材出荷量(万トン、タイ・インドネシア合計))× 価格 8.99(鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目))→ 売上 809 億円・営業利益 4 億円。出荷25%減、利益率0.5%
- 北米・アジアの持分法事業(ニューコア・ヤマト等):数量 91.0(出資比率を考慮した実質生産量(万トン、北米中心))× 価格 3.08(実質生産量1万トン当たりの持分法利益(億円、名目))→ 売上 280 億円・営業利益 280 億円。北米実質生産量30%減、1万トン当たり利益も伸びを失う
倍率:資本コスト8%。余った現金を除いた事業のROE4.1%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.4倍で、その約7割の7.5倍に置く。ROEの低下に加え、持分法事業の競争力も落ちる構造的な負けなので、中立よりかなり低く置き、売れる資産の床は足さない。
確率:国内条鋼事業がシェアを失い、北米の持分法事業も競争力を落とす構造的な負け筋。10年という期間を考えれば無視できない確率として10%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内鉄鋼事業(ヤマトスチール)
兵庫県姫路市のヤマトスチール(100%子会社)が、国内の建設・土木向けにH形鋼・棒鋼を製造・販売する中核事業。
| 数量鋼材出荷量(万トン、国内) | 価格鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 62.0 | 8.66 | 537 | 15 |
| 10 年後 中立 | 52.7 | 12 | 612 | 21 |
取り方:ヤマトスチールの圧延能力70万トンに対し稼働率を約9割とみて出荷量62万トンを置いた。価格はセグメント売上536.7億円を出荷量で割った1万トン当たり8.66億円(トン当たり約8.7万円)。営業利益はセグメント利益(約14.9億円)を使った。
海外鉄鋼事業(タイ・インドネシア、連結)
タイのサイアム・ヤマト・スチール(出資70%)とインドネシアのガルーダ・ヤマト・スチール(出資80%)が、現地の建設向け形鋼を製造・販売する連結対象の海外事業。
| 数量鋼材出荷量(万トン、タイ・インドネシア合計) | 価格鋼材1万トン当たりの売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 7.82 | 938 | 30 |
| 10 年後 中立 | 144 | 11 | 1,632 | 65 |
取り方:タイのセグメント売上687.7億円とインドネシアの250.3億円を合わせた938.0億円を出荷量120万トンで割った。営業利益はタイのセグメント利益(約42.4億円)に、中国材流入とインフラ予算減で苦戦するインドネシアの損益下押し分(約-12億円)を加えた概算。
北米・アジアの持分法事業(ニューコア・ヤマト等)
出資49%の米国ニューコア・ヤマト・スチール(アーカンソー州、形鋼生産能力230万トン)を中核に、ベトナムのPOSCOヤマトヴィナ(49%)、韓国のYKスチール(30%)を加えた持分法の仲間。売上は連結されず、利益だけを取り込む。
| 数量出資比率を考慮した実質生産量(万トン、北米中心) | 価格実質生産量1万トン当たりの持分法利益(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 3.08 | 400 | 400 |
| 10 年後 中立 | 150 | 4.12 | 616 | 616 |
取り方:ニューコア・ヤマトの生産能力230万トンに出資比率49%を掛けて約113万トン、ベトナム・韓国の持分も合わせて130万トンとした。持分法利益は売上という概念がないため、近年の経常利益と営業利益の差(経常利益の8割が海外、年300〜500億円規模)から概算400億円を置き、そのまま1万トン当たりの利益に換算した。
リスクと懸念
持分法頼みの利益構造
純利益の大半は出資49%の米国ニューコア・ヤマト・スチールなど、経営権を持たない持分法の仲間から生まれる。米国景気やニューコア側の投資判断が悪化すれば、国内・タイ・インドネシアの連結事業の利益では到底補えない規模で純利益が縮む構造的な弱さを抱える。
ドル円の反転
筋書きはドル円150円を前提にしているが、実際に円高に戻れば北米の持分法利益は円換算で機械的に縮む。資本コストや数量の前提を変えずに、為替だけで株価の見え方が大きく変わってしまい、持分法頼みの構造だけに影響も相対的に大きい。
国内条鋼需要の構造的な縮小
人口減少と建設の先細りで、国内粗鋼生産は57年ぶりの低水準に落ち込んだ。ヤマトスチールの出荷量は中立でも緩やかな減少が続く見通しで、JFEスチールとの協業も縮む市場を二社で分け合う範囲を出ず、縮小そのものを止める力にはならない。
中国材の流入とインドネシア事業の苦戦
中国の過剰生産と輸出攻勢は世界の鋼材価格の天井を押さえ続けている。インドネシア事業はインフラ予算削減と中国材の値下げ圧力で販売益が計画を下回っており、タイを含む東南アジア全体に同じ圧力が及ぶ可能性がある。
2030年構想の実行力
形鋼生産能力を650万トンから800万トンへ広げ、インドにも進出するという2030年の構想は、社長の発言はあるが具体的な投資計画と時期はまだ固まっていない。実行できなければ成長の種が絵に描いた餅で終わる。
スクラップ価格・電力費の上振れ
電炉は鉄スクラップと電力を原料・エネルギーとして使う。スクラップ価格や電力費が急に上がれば、価格への転嫁が追いつかない期間は利益率を直接圧迫する。中国・アジア勢とのスクラップ調達競争が強まれば、コスト上昇はさらに長引く。
JFEスチールとの協業の先行き不透明
2025年4月に始まった国内H形鋼事業の協業は、まだ製品の相互紹介という初期段階にある。将来的な一体運営に進むかどうかは両社の判断次第で、進んだ場合の資本構成や経営権の扱いは読めず、進まなければ縮む市場での効率化も限定的にとどまる。
今後の分かれ目
- 北米の建設投資・インフラ更新需要が計画を上回るペースで拡大したら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。ただし持分法利益はドル円の前提にも左右されるため、為替の動きと合わせて確認する。
- ドル円が円高方向に大きく戻ったら
- やや悲観側の筋書きに重みを移す。円換算の持分法利益がどの程度縮むかを次の決算で確認する。
- インド進出や形鋼800万トン構想の具体的な投資計画が公表されたら
- 10年の楽観・やや楽観の確率を上げ、持分法利益の柱がもう一本増える前提に見直す。
- インドネシア・タイで中国材の流入がさらに強まり、現地の販売益が一段と悪化したら
- やや悲観・悲観側に重みを移す。国内・海外連結事業の利益率の前提を下方修正する。
- JFEスチールとの協業が資本提携や経営統合に進む発表があったら
- 国内事業の競争力と利益率の前提を見直す。統合効果が出るまでの期間はやや悲観に近い想定を続けてよい。
- 米国の建設投資が景気後退で明確に落ち込んだら
- 悲観の筋書きが近づいていると見て、持分法利益の縮小幅を保守的に見直す。
見ておくもの
- 四半期ごとの持分法による投資利益の推移(北米事業の実勢)
- ドル円の水準とニューコア・ヤマト・スチールの業績
- インド進出・形鋼800万トン構想の具体化の有無
- JFEスチールとの協業の進展(一体運営への移行の有無)
- インドネシア・タイの販売益と中国材流入の動向
倍率と資本コストの決め方
国内・タイ・インドネシアの連結事業と、北米中心の持分法事業を別の欄に分けて数量と価格を積み上げた。持分法事業は売上という概念がないため、持分法利益そのものを価格(1万トン当たりの利益)×量として表した。倍率は資本コスト8%(基本7.5%に品質+1.25%)とROEから決め、ROEがkを超える筋書きだけ正当化PERの上限を使い、楽観〜中立は上限の約8〜9割に置いた。余った現金を除いた中立のROEは9.7%でkを超える。ROEがk以下になる悲観側は PER の上限が 1÷k。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)で測った。余った現金1,900億円は半分だけ足し、その分の利息は純利益から引いた。ROEは余った現金を除いて測り直した。今の株価には寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→16.04 倍・やや楽観 PER 10.6→14.91 倍・中立 PER 10.6→13.68 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本7.5%に quality +1.25% を足した 8.75%(β・規模は使わない)。鉄筋・形鋼は建設市況で利益が振れ循環+0.5、鋼材の値段は市場で決まり値決め力+0.5、純現金で借金0、国内は縮むが北米・インドの需要が補い寿命0。合計+1.25%。持分法頼みの読みにくさはkでなく筋書きと確率で見た。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.00%。