結論
共英製鋼は鉄筋に強い電炉メーカーだ。国内のほか、米国・カナダ・ベトナムで事業を持つ。売上の半分強はすでに海外だ。筆者の結論は「ほぼ適正、やや割高に寄る」で、安く見えるのは帳簿の割に利益が出ない会社だからだ。
最大の論点は、米国テキサスの新製鋼工場だ。総額は3億ドル超、円で500億円近い。時価総額は800億円台だから、会社の体力に対して大きな賭けになる。当たれば海外が利益の柱に育つが、国内の利益は縮み、ベトナムは長く赤字に苦しんできた。
10年の中立では、営業利益は今の1.25倍にとどまる。物価の伸びにも届かない。ROEは資本コストを下回ったままで、資本を厚く持っていることが価値になっていない。
日本製鉄が約27%を持つ筆頭株主として控える点は、下値の安心材料になりうる。ただ、経営に関与しないと会社は説明している。
この会社を見るときは、鉄筋の市況よりも、投資がいつ利益に変わるかを追いたい。米国の工場が2027年に動くかどうかが、10年の評価を左右する。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、共英製鋼を持ちたいと思う材料は多くない。まず事業が鉄筋という値段を自分で決められない商品だ。次に、利益が出た年でも資本コストを超えて稼げていない。10年のROEの中央値は5%で、これは資本コストの9%に遠く及ばない。
そのうえで経営は、時価総額に近い額の投資を米国に打とうとしている。当たれば利益は伸びるが、外れたときは借金が残る。バリュー投資家が嫌う形だ。
一方で、帳簿の価値が時価総額の2.5倍あり、日本製鉄という大きな株主が支える点は下値の支えになる。ただ、帳簿の厚さは稼ぐ力が伴って初めて価値になる。
安全域は厚くない。筆者は、投資の成果が数字に出るのを見てから判断したい。それまでは待つ立場だ。国内の電炉で稼ぐ現金を、資本コストを超える投資に回せるかが、経営に問われる最大の点だ。
何で稼ぐ会社か
共英製鋼の稼ぎは二本立てだ。国内は鉄筋(コンクリートを補強する棒鋼)などを電気炉で作り、建設会社や商社に売る。2026年3月期の国内鉄鋼の利益は約110億円で、ピークの2024年3月期の半分ほどに下がった。
海外は米国のビントン・スチール(テキサス)、カナダ、ベトナムの3拠点が柱だ。海外鉄鋼の売上は国内を上回る約1,800億円だが、利益は2023年3月期から3期連続で赤字だった。2026年3月期にようやく約60億円の黒字に戻った。
ほかに製鋼で出る副産物を扱う環境リサイクルがあり、利益率は高いが規模は小さい。売上は全体の2%ほどにとどまる。
中期経営計画では、3年で約1,100億円を投じる。うち海外が約800億円、米国が600億円と、重点をベトナムから北米へ移した。最終年度に純利益175億円、ROE8%以上を目標にする。
会社の足元の予想は2027年3月期で減益だ。純利益は約84億円で、目標の半分にとどまる。投資の成果が出るのはその先だ。国内の利益が下がる中で、海外の黒字化と米国の新工場が間に合うかが問われる。
優良さと弱いところ
共英製鋼の強みは、鉄スクラップを溶かして鉄筋を作る技術と、国内で長く築いた販売網だ。ただ鉄筋は差別化が効きにくく、値段は市況で決まる。筆者は堀、つまり他社がまねできない強みは弱いと見る。
財務は自己資本比率が5割台で、無借金ではない。純有利子負債は約480億円と時価総額の6割に迫る。これから設備投資で増える公算が大きい。
海外は成績が安定しない。ベトナムは中国材と不動産不況に押されて赤字を重ね、前の中計で収益が不安定になった。米国は関税で守られた市場に入る点は強いが、工事費は計画の途中で何度も膨らんだ。
経営は資本の使い方に迷いが見える。投資の重点を動かし、投資額も変えてきた。社外取締役は4人いて統治の形は整っているが、成績で証明するのはこれからだ。
国内の事業は黒字で現金を生むが、国内の需要は縮み続ける。その稼ぎを海外に回す戦略は筋が通っている。ただ、海外の成績が積み上がるまで、評価は慎重にならざるをえない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の鉄筋需要は構造的に縮んでいる。人口減と建設の先細りで、国内の粗鋼生産は57年ぶりの低水準まで落ちた。需要の減少を前提に、電炉各社は生産設備の統合と海外進出で生き残りを図る。
一方、米国は鉄鋼に50%の関税をかけ、鉄筋でもアルジェリア・エジプト・ベトナムなどからの輸入に高率の関税を課す方向だ。国内の鉄筋メーカーには追い風で、ビントンが米国を選んだ理由もここにある。ただし関税は政治で変わる。
ベトナムは別の構図だ。中国の過剰生産のはけ口になり、安い鋼材が流れ込む。不動産の不況で需要も弱く、現地の値段は上がりにくい。
電炉の利益は、鉄スクラップの値段と電気代、そして製品の値段の差で決まる。原料が上がる局面で製品に転嫁できるかが、各社の差になる。
米国では、鉄筋の大手が新しい電炉を増やしており、新工場の完成後は競争が増える可能性もある。ビントンは自前で鋼片を作ることで調達の弱みをなくす一方、新設の大手と市場で競うことになる。需要の側では、インフラ投資と工場・データセンターなどの建設が下支えする。
資本政策と M&A
配当は連結の配当性向30〜35%を目安にし、年間の配当に下限を設ける。2027年3月期は配当を減らす予想で、設備投資を優先する姿勢が出ている。自社株買いに積極的な会社ではない。
米国の新工場は、総投資額が2026年1月に3億2,700万ドルへ増えた。工事費の高騰や関税が理由だ。借金で賄う部分が大きく、財務の余力は削られる。
筆頭株主は日本製鉄で、発行株式の約27%を持つ。会社は日本製鉄を親会社とはせず、経営への関与もないとする。資本の面では、買収や再編の話が出ても不思議ではない位置にある。政策保有株は縮減の方針だ。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
米国の新工場は、ビントンが自前で鋼片を作れるようになる決定的な一手だ。関税に守られた米国の鉄筋市場で、採算は大きく変わる。海外の出荷を240万トンにするという中計の目標が届けば、海外が利益の柱に育つ。
ベトナムは2026年3月期に黒字に戻り(海外鉄鋼の利益は約60億円)、北部の新しい圧延工場も動き出した。中国材の流入が落ち着けば、数量の増加がそのまま利益に効く。国内も、鉄筋の需要は更新工事と人手不足による工期の長期化で、思ったほどは落ちない。
日本製鉄という大株主がいる安心感に加え、帳簿の価値は時価総額の2.5倍ある。利益が中計の純利益175億円に近づけば、今の値段は大きく割安になる。国内の電炉は、設備の統合が進めば残った会社の採算が改善する。共英製鋼は国内で長く築いた販売網を持ち、鉄スクラップの調達網も厚く、需要が縮む中でもシェアを守れる。縮む国内で稼いだ現金を、成長する米国へ回す配分は理にかなう。
慎重な見方
いちばんの問題は、利益に比べて投資が大きすぎる点だ。米国の新工場は3億ドルを超え、時価総額に迫る。工事費は計画のたびに増え、立ち上げの遅れも起こりうる。
ベトナムは3期連続で赤字だった。2026年3月期の黒字は一息ついただけで、中国材の流入が続く限り安定しない。値下げ競争に巻き込まれれば、増産した分だけ赤字が膨らむ危うさもある。国内の利益は2024年3月期から半減した。市況の山が過ぎれば、さらに戻る可能性がある。
会社の2027年3月期の予想は減益だ。ROEは5%前後と資本コストを大きく下回る。帳簿が厚いことは、稼ぐ力の弱さの裏返しにすぎない。借金が増える中で、市況が悪化すれば減配に追い込まれる。米国の関税は政権次第で変わり、守られた採算が崩れる危うさもある。投資の回収まで何年もかかる事業に、時価総額並みの金額を賭ける経営の判断が、これから問われる。国内の利益が縮む局面での大型投資は、失敗の許容度が小さい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方にやや重みを置く。米国の新工場の成否は10年の大きな分かれ目だが、そこに時価総額並みの金額を投じる会社に、高い確率で成功を置く根拠はない。一方、関税で守られた米国市場と国内の利益の厚みは軽くない。確率は中立に3分の1を置き、楽観側と悲観側を同じ程度に残した。悲観は投資が裏目に出る構造的な負けを想定し、1割強を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,132 円1,361 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 970 円421 億円)。 今の値に割り戻すと 2,030 円882 億円、今との差 +5.0%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,838 円2,537 億円 | 1,381 円600 億円 | +273.4% | +14.1% | 722 円314 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,834 円2,101 億円 | 1,220 円530 億円 | +213.2% | +12.1% | 1,332 円579 億円 |
| 中立 | 34% | 3,465 円1,506 億円 | 1,104 円480 億円 | +136.4% | +9.0% | 1,554 円675 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,022 円444 億円 | 690 円300 億円 | −11.4% | −1.2% | 377 円164 億円 |
| 悲観 | 12% | 682 円296 億円 | 299 円130 億円 | −49.2% | −6.6% | 118 円51 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,132 円1,361 億円 | 970 円421 億円 | +112.2% | +7.8% | 4,102 円1,783 億円 |
今の株価時価総額 1,933 円840 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 米国の新工場が当たり、ベトナムも黒字に戻る 利益 215 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,838 円2,537 億円
米国テキサスの新製鋼工場が2027年に動き出し、鉄筋の値段が関税に守られた高めの水準で落ち着く。自前で鋼片を作れるようになったビントンの採算は大きく改善し、海外の出荷は中期経営計画の240万トンに届く。
ベトナムでは北部の新しい圧延工場が稼働率を上げ、中国材の流入が落ち着いて赤字体質を抜ける。国内は人手不足と更新工事で鉄筋の需要が下げ止まり、出荷は1割減にとどまる。
中計が掲げる純利益175億円には届かないが、海外が利益の主役に育つ10年だ。借金は設備投資で増えるが、利益の伸びで返せる範囲にとどまる。配当は純利益の4割ほどを保ち、米国の稼ぎが日本の利益の落ち込みを補って、株主への還元も厚みを増していく。
- 国内鉄鋼・環境リサイクル:数量 118(国内の鋼材出荷量(万トン))× 価格 14(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 1,599 億円・営業利益 128 億円。出荷9%減、物価並みの値上げ、利益率8%
- 海外鉄鋼(米国・カナダ・ベトナム):数量 250(海外の鋼材出荷量(万トン))× 価格 13(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 3,331 億円・営業利益 217 億円。出荷39%増(中計の240万トンに近い)、利益率6.5%
倍率:事業の純利益 215 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 2,533 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の新製鋼工場の立ち上げ、ベトナムの黒字定着、国内の採算維持が10年続く必要がある。重なる条件が多く、1割ほどに置いた。
やや楽観 22% 米国が収益源に育ち、ベトナムは持ちこたえる 利益 178 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,834 円2,101 億円
米国の新工場は少し遅れて立ち上がるが、2030年までに安定稼働に入る。ビントンの利益が海外の稼ぎの柱になり、カナダもこれを支える。
ベトナムは中国材との値下げ競争が続くものの、新しい圧延工場の分だけ出荷が増え、わずかな黒字を保つ。国内は鉄筋の需要が縮み、出荷は5%ほど減る。
純利益は今の1.8倍ほどになるが、設備投資の回収に時間がかかり、資本の効率はなお資本コストに届かない。株主への還元は純利益の4割ほどで、自社株買いは大きくは行われない。米国の関税に守られた採算が、設備投資の重さを少しずつ軽くしていく10年になる。
- 国内鉄鋼・環境リサイクル:数量 124(国内の鋼材出荷量(万トン))× 価格 14(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 1,680 億円・営業利益 126 億円。出荷5%減、利益率7.5%
- 海外鉄鋼(米国・カナダ・ベトナム):数量 232(海外の鋼材出荷量(万トン))× 価格 13(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 3,091 億円・営業利益 170 億円。出荷29%増、利益率5.5%
倍率:事業の純利益 178 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 2,097 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の増産は計画どおり進むが、ベトナムの回復は鈍く、国内も緩やかに縮む。会社の中計に近い上振れの線。
中立 34% 国内は縮み、海外が穴を埋める 利益 128 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,465 円1,506 億円
国内の鉄筋需要は人口減と建設の先細りで10年かけて縮み、出荷は15%ほど減る。値段は物価並みに上がるが、利益率は市況の山だった今の9%から6.5%ほどに戻る。
海外は米国の増産とベトナムの新工場で出荷が2割ほど増える。ただし中国材の圧力は消えず、利益率は4.5%どまりで、中計が描く姿には届かない。
全体の営業利益は今の1.25倍にとどまり、物価の伸びにも追いつかない。大型投資のわりに稼ぐ力が上がらない、というのが筆者の中心の見立てだ。配当は純利益の4割を保つが、自己資本は利益の積み上げで少しずつ厚くなり、資本の効率はむしろ下がる。日本製鉄は筆頭株主にとどまり、経営の方向は大きく変わらない。
- 国内鉄鋼・環境リサイクル:数量 110(国内の鋼材出荷量(万トン))× 価格 14(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 1,491 億円・営業利益 97 億円。出荷15%減、物価並みの値上げ、利益率6.5%
- 海外鉄鋼(米国・カナダ・ベトナム):数量 215(海外の鋼材出荷量(万トン))× 価格 13(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 2,865 億円・営業利益 129 億円。出荷19%増、利益率4.5%
倍率:事業の純利益 128 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.6% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,502 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の縮小を米国とベトナムの増産がおおむね埋める線。業界ノートの中立(国内は1〜2割縮小、海外が支える)に沿う。
やや悲観 22% 中国材と国内縮小で稼ぐ力が細る 利益 54 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,022 円444 億円
中国材の流入がベトナムと国内の値段を押さえつけ、値上げが物価に追いつかない。国内の出荷は2割以上減り、固定費の重さが利益率を削る。
米国の新工場は動くが、工事費の膨らみと立ち上げの遅れで、見込んだ採算には届かない。ベトナムは損益が行ったり来たりする。
営業利益は今の6割ほどに落ち、借金の返済を優先して配当は下限近くに抑えられる。投資家の評価は冷え込み、設備投資の回収に疑いの目が向けられる。経営は次の一手を打てず、縮む国内を海外が支えきれない状態が長引く。日本製鉄の動きだけが、下値を支える材料として残る。
- 国内鉄鋼・環境リサイクル:数量 100(国内の鋼材出荷量(万トン))× 価格 13(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 1,295 億円・営業利益 52 億円。出荷23%減、値上げは物価に届かず、利益率4%
- 海外鉄鋼(米国・カナダ・ベトナム):数量 190(海外の鋼材出荷量(万トン))× 価格 12(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 2,362 億円・営業利益 59 億円。出荷6%増、値上げは物価に届かず、利益率2.5%
倍率:資本コスト8.5%。余った現金を除いた事業のROE2.2%がk以下なのでPERの上限は1÷k=11.1倍で、その約7割の8倍に置く。稼ぐ力が細る筋書きなので、上限より低めに置く。
確率:ベトナムの赤字が続き、国内の縮小も速い。米国の新工場は立ち上がるが、投資の重さを利益で吸収できない。
悲観 12% 投資が裏目に出て、海外も国内も稼げなくなる 利益 6 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 682 円296 億円
米国の新工場が膨らんだ工事費に見合う採算を出せず、関税の追い風も弱まる。ベトナムは中国材に押されて赤字が定着し、設備の減損に追い込まれる。
国内は出荷が3割以上減り、値上げもできずに固定費が利益を食う。営業利益はほぼゼロまで落ちる。
借金は設備投資のぶんだけ残り、配当は下限(年13億円ほど)を、借金と遊休資産の売却で守るのがやっとになる。純利益の合計を超える還元は、資産の売却と借入で賄う。もう優良な電炉メーカーとは言えない状態だ。筆頭株主の日本製鉄も、追加の支援には慎重になる。国内の事業も縮小が止まらず、海外の損失を補う余力がなくなる。投資家の信頼を取り戻すには、時間のかかる構造改革が避けられない。
- 国内鉄鋼・環境リサイクル:数量 85.0(国内の鋼材出荷量(万トン))× 価格 12(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 1,037 億円・営業利益 16 億円。出荷35%減、値上げは物価の6割、利益率1.5%
- 海外鉄鋼(米国・カナダ・ベトナム):数量 150(海外の鋼材出荷量(万トン))× 価格 12(出荷1万トン当たりの売上(億円・名目))→ 売上 1,725 億円・営業利益 9 億円。出荷17%減、値上げは物価の半分、利益率0.5%
倍率:資本コスト8.5%。純利益が数億円しか残らず、稼ぐ力では測れない。減損を入れた自己資本の下で、今の自己資本に0.14倍を掛けた床とした。EV÷営業利益(EVは時価総額に純有利子負債を足した額)で見ても、利益がほぼゼロで倍率は意味を持たない。
確率:米国の工事費の膨張と、ベトナムの慢性的な赤字が重なる構造的な負け。投資額が時価総額に近い会社なので、10年という長さを考えると無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内鉄鋼・環境リサイクル
国内の電炉で鉄筋・棒鋼などを作る事業と、製鋼の副産物を扱う環境リサイクル。
| 数量国内の鋼材出荷量(万トン) | 価格出荷1万トン当たりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 10 | 1,315 | 118 |
| 10 年後 中立 | 110 | 14 | 1,491 | 97 |
取り方:国内鉄鋼の売上1,255億円と環境リサイクルの59億円を合わせた約1,315億円。出荷量は開示を確かめられず、売上と平均的な鉄筋の値段から130万トンと推定した。利益はセグメント利益の113億円と5億円の合計。
海外鉄鋼(米国・カナダ・ベトナム)
米国のビントン・スチール、カナダ、ベトナムの3拠点で鉄筋・形鋼などを作る事業。
| 数量海外の鋼材出荷量(万トン) | 価格出荷1万トン当たりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 180 | 9.94 | 1,790 | 61 |
| 10 年後 中立 | 215 | 13 | 2,865 | 129 |
取り方:海外鉄鋼の売上約1,790億円。出荷量は開示を確かめられず、中計の海外240万トン構想と各拠点の能力から180万トンと推定した。利益はセグメント利益の約61億円。全社の営業利益170億円との差は本社費などで、調整に-9億円と置く。
リスクと懸念
米国の新工場の投資負担
総投資は3億2,700万ドルに膨らみ、時価総額に迫る。工事費の増加や立ち上げの遅れが続けば、借金が増えて利益で返せなくなる。投資の計画はこれまでも変更されてきた。
ベトナムの赤字体質
中国材の流入と不動産不況で、ベトナムは2023年3月期から3期連続の赤字だった。新しい圧延工場で数量は増えるが、値段が上がらなければ利益にはつながらない。
国内の鉄筋需要の縮小
人口減と建設の先細りで国内の粗鋼生産は57年ぶりの低水準だ。国内利益は2024年3月期から半減しており、市況の山の分がさらに剥げる可能性がある。
米国の関税政策の変更
米国市場の魅力は、鉄鋼への高い関税が輸入を抑えることにある。政権や通商交渉で関税が下がれば、新工場の採算の前提が崩れる。
スクラップと電気代の上昇
電炉の利益は、鉄スクラップと電力のコストと製品の値段の差で決まる。製品に転嫁できない期間が長引けば、利益率を直接削られる。
ROEが資本コストに届かない状態の固定化
10年のROEの中央値は5%で、資本コストを大きく下回る。投資を増やしても資本の効率が上がらなければ、帳簿の厚さは価値に変わらない。
日本製鉄の動き
日本製鉄は約27%を持つ筆頭株主だが、経営への関与はないと会社は説明する。持ち分の扱いが変わると、株の需給や経営の方向に影響が出る。
今後の分かれ目
- 米国の新工場が予定どおり2027年に稼働し、ビントンの利益が増えたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。海外が利益の柱に育つ前提に見直す。
- 米国の新工場の工事費がさらに増える、または稼働が大きく遅れたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。借金の増加が利益を超えて重くなる。
- ベトナムの黒字が2期以上続いたら
- 海外の利益率の前提を上げ、中立の海外利益率を見直す。
- 米国が鉄鋼・鉄筋の関税を引き下げたら
- 米国事業の利益率を下げ、新工場の採算を厳しく見直す。
- 日本製鉄が持ち株の売却、または買い増しを発表したら
- 株の需給と経営の方向への影響を見直す。TOBの可能性に注意する。
- 国内の鉄筋の出荷が前年比で大きく落ちたら
- 国内の縮小が速いとみて、やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 米国の新製鋼工場の稼働時期と総投資額の再変更の有無
- ベトナムのセグメント損益の黒字が続くか
- 国内鉄鋼の利益の推移(ピークの半分から更に下がるか)
- 純有利子負債と自己資本比率(中計の目標は50%以上・ネットDE0.5倍以下)
- 米国の鉄鋼・鉄筋の関税と輸入の動き
倍率と資本コストの決め方
国内と海外の2つに分け、数量(出荷量)と価格(1万トン当たりの売上)で10年を積み上げた。出荷量は開示で確かめられず推定のため、利益はセグメント利益に合わせた。倍率は資本コスト8.5%(基本7.5%に品質+1.5%)と、事業のROEから決めた。ROEがkを下回る筋書きの倍率は上限の1÷kの7〜9割に置いた。悲観は稼ぐ力と今の自己資本に掛ける床で測った。今の株価と倍率からは置いていない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.3→11.76 倍・やや楽観 PER 9.7→11.76 倍・中立 PER 9.1→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質+1.5%を足した9%(β・規模は使わない)。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。