結論
JPモルガン・チェースは、資産約 4 兆ドル超の全米最大の銀行である。消費者・コミュニティ銀行(預金・カード・住宅ローン)、商業・投資銀行(投資銀行・市場・決済)、資産・富裕層運用(運用資産 4.8 兆ドル)の 3 本柱に、本社(財務部門)が加わる。2025 年は純利益約 570 億ドル(ROE 15.7%)、2026 年 4〜6 月期は一過性の益(ビザ株関連の 46 億ドル)を含めて純利益 212 億ドル、それを除いて 169 億ドルと、利益水準はさらに切り上がっている。純金利収益の 2026 年の見通しは市場業務を除いて約 965 億ドル、総額で約 1,055 億ドルで、自己資本比率(CET1)は 14.1% と厚い。
事業の質は銀行の中で飛び抜けている。預金・カード・投資銀行・資産運用のどの領域でも上位に居て、費用の規模の利益と技術投資(年 198 億ドル)で競合との差を広げている。10 年後もこの事業は存在し、おそらく今より強い。ダイモン氏の後継という不確実性はあるが、経営の資本配分(ファースト・リパブリックの救済買収を含む)は概ね健全である。
バリュー投資の観点では、強さと値段を分けて見る。銀行の利益は信用循環と金利に左右され、10 年後の ROE は 15% 前後、長期の成長は物価 3.5% を含む名目 4% 前後が現実的だ。資本コスト 7.75%(基本 8.0% に quality −0.25%)では、この ROE と成長から利益ベースの式で出す正当化 PER の上限は約 17.5 倍(資本コストを超える稼ぎは新しく投じるお金では半分に薄れる)、その 9.5 割の約 16.6 倍・PBR 約 2.6 倍に置くと、今の PER 16.0 倍・PBR 2.5 倍よりやや高い。中立の筋書きでは 10 年後の時価総額は今の約 1.7 倍、還元を足して割り引くと今の値段より 1 割ほど上に来る。ただし 10 年のうちに不況は避けられず、構造的に負ければ(確率 12%)PBR は 1 倍を割りうる。優良さへの評価は高く、値段は「やや割安」というのが結論である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず 10 年後もあるかを問う。答えは、ある。預金・決済・投資銀行・資産運用が重なる事業は、金融危機でもむしろ地位を上げてきた。堀は広がる方向にあり、これは疑いにくい。銀行の中でこれほど予測しやすい会社は少ない。
次にオーナー利益を見る。銀行は貸出が増えるほど自己資本を積み増す必要があり、利益のうち再投資に回る分が大きい。利益 570 億ドルのうち、規制資本を維持したまま株主に出せる分は、配当と自社株買いの約 5〜6 割というのが 10 年の実績に近い。2025 年の還元(利益の約 9 割)は余剰資本の取り崩しを含み、毎年続けられる水準ではない。
安全域では、利益ベースで正当化される倍率は中立の 10 年で PER 約 16.6 倍・PBR 約 2.6 倍(式の ROE は帳簿で 15.6%、新しく投じるお金の稼ぎは 11.7% に薄れる)で、今の 2.5 倍より 1 割ほど上、余裕は小さい。ただしこの余裕は ROE 15% が保たれる前提に乗っており、ROE が 12% に落ちれば式の PBR は 2 倍前後に下がる。銀行は信用循環で利益が 2〜3 年のうちに半減しうる業種で、リーマン級でも PBR 1 倍前後(過去の最小は 0.68 倍)まで下がった。優良な事業を良い価格で買えば報われるが、割高に買えばリターンは事業の質ではなく払った価格で決まる。確信度は事業については高く、値段については、安全域は薄いが中立で報われる水準と見る。
何で稼ぐ会社か
消費者・コミュニティ銀行(CCB)は、全米の家計の約 5 分の 1 に口座を持ち、預金約 1.1 兆ドルを集める。チェース・サファイアなどのカード、住宅ローン、自動車ローン、中小企業向け貸出が主で、低コストの預金を調達源に貸出で利ざやを稼ぐ。カードは貸倒率(2026 年の見通しで約 3.2%)が収益の振れ幅を決める。2025 年末にはアップル・カード提携の引き継ぎに伴う引当 22 億ドルを積んだ。
商業・投資銀行(CIB)は、投資銀行(M&A・株式・債券の引受)、市場業務(株・債券・為替・商品の売買)、資金管理・証券サービス(企業の決済・カストディ)、法人融資からなる。世界の投資銀行手数料で長年首位級、市場業務は 2025 年に株式で過去最高を更新した。決済と証券サービスは金利と無関係な手数料収益で、顧客の業務に組み込まれるため解約されにくい。
資産・富裕層運用(AWM)は運用資産 4.8 兆ドルを預かり、運用報酬とプライベートバンクの貸出・預金の利ざやで稼ぐ。収益の安定度が高く、市場が上がれば運用報酬が増える。本社部門は余剰資金の運用(債券・金利ヘッジ)を行い、金利動向で損益が振れる。会社全体では純金利収益が約 55%、手数料・市場業務が約 45% という構成で、金利が高い今は両方が揃って伸びている。
優良さと弱いところ
堀は 4 層ある。第 1 は預金基盤で、無利息・低利の預金の厚みが調達コストを他行より低く保つ。第 2 は規模と費用で、年約 200 億ドルの技術投資を 4 兆ドルの資産に配れる。小さな銀行には同じ投資ができず、地銀との差は広がる。第 3 は事業の幅で、貸出・市場・決済・運用が景気の局面ごとに補い合う。第 4 は信用力で、金融危機のような局面ではむしろ顧客と預金が集まる(ベア・スターンズ・ワシントン・ミューチュアル・ファースト・リパブリックの買収はいずれも危機で機会を得たもの)。
資本効率も高く、ROE は 2025 年に 15.7%、ROTCE(有形資本の利益率)は約 20% で、会社の長期目標は 17% である。ただし規制資本(CET1 14.1%、規制の最低に対し大幅な余裕)が厚いほど、ROE は抑えられる。資本規制の緩和が自社株買いを増やす方向に働くかが分かれ目になる。
弱点は 3 つ。第 1 に、利益の半分が金利と市場業務という外部要因で決まること。第 2 に、規模が巨大で成長の余地が物価並みに限られること。第 3 に、ジェイミー・ダイモン氏(CEO・会長)の後継という人への依存と、銀行が受ける規制・訴訟のリスクである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国の銀行業は、FDIC の 2026 年 4〜6 月期の速報で純利益 901 億ドル(年換算約 3,600 億ドル)、ROA 1.37%、純金利マージン(NIM)3.32%、貸出は前年比 +6.8% と、利益水準が高い。短期金利が 3.5〜4%、長期金利が 5% 前後で高止まりする世界では、低利の債券・住宅ローンが満期や借換えで徐々に高利回りへ入れ替わり、NIM は緩やかに改善する。一方で預金は無利息では残らず、預金コストは 2010 年代のゼロには戻らない。
競争では、上位 4 行(JPモルガン・バンク・オブ・アメリカ・ウェルズ・ファーゴ・シティグループ)が預金の約 4 割を握る。ウェルズ・ファーゴは資産上限が 2025 年に解除され、攻勢に戻った。投資銀行ではゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)とモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)が主な競合、決済ではビザ・マスターカード・フィンテック・ステーブルコインが周辺から侵食をねらう。規制緩和(SLR の見直し・バーゼル III の再提案)で銀行 M&A の承認は早まり、地銀の再編が進むが、巨大化した JPモルガン自身は規模の上限(預金シェア 10% 規制)があり、大型買収は難しい。
循環でいえば、信用コストが平常(銀行全体の償却率 0.5% 前後)で、市場業務と投資銀行が好調な中盤〜山に近い。商業用不動産(オフィス)とノンバンク貸出(2025 年の自動車・サブプライム破綻の連鎖)に火種があり、物価と金利が高止まりすると借り手の返済負担が重くなる。分かれ目は、失業率、カードと法人貸出の延滞、預金コスト、長期金利の動きである。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買いで、2025 年は配当 166 億ドル・自社株買い 346 億ドル、合わせて純利益の約 9 割に達した。2026 年 4〜6 月期の自社株買いは正味 62 億ドル、配当は増配が続いている。自社株買いは株数を毎年 2〜3% 減らしており、株式報酬による増加分は自社株買いに含まれるため、この分析の還元額は正味の還元で置いた。CET1 は 14.1% と、規制の最低(約 11.5%)と会社の運用水準を上回り、余剰資本が積み上がっている。資本規制が緩めば還元はさらに増えるが、割高な局面での自社株買いは価値を壊す点に注意が要る。
M&A は、2008 年のベア・スターンズ・ワシントン・ミューチュアル、2023 年のファースト・リパブリックと、危機で安く買う型が成功している。平時の大型買収は規模と規制の制約で難しく、今後はフィンテックやデータ・AI への小規模な投資が中心になる。買われる側になる可能性はない。会社全体の資本配分は、事業への再投資(技術・店舗・採用)を先に、余りを還元に回す方針で、規律は高い。 なお、決算期末後に実行済みの自社株買い 161.7 億ドル(2026 年 1〜9 月、1〜6 月は 10-Q の実額 151.1 億ドル・7〜9 月は決算資料の 10.6 億ドル)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元(payout_oku)からは除いてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
預金・カード・投資銀行・資産運用のすべてで首位級という会社は他にない。技術投資年 198 億ドルは、他行が追いつけない固定費の壁で、地銀の再編が進むほど預金は大手へ集まる。2026 年 4〜6 月期は純金利収益が前年比 10% 増え、市場業務を除く純金利収益の見通しも 965 億ドルへ引き上げられた。低利の債券と住宅ローンが満期で入れ替わるため、物価と金利が高止まりするほど NIM は徐々に改善する。
資本面では、CET1 14.1% の余剰が自社株買いで毎年株数を 2〜3% 減らし、ROTCE は 20% 前後に届く。資本規制の緩和(SLR の見直し・バーゼル III の再提案)は還元余力を一段と広げ、規制の変わり目に利益率を押し上げる。AI で費用率が下がれば、費用の 1 割の削減は純利益を 1 割以上押し上げる。ダイモン氏の後も経営陣は厚く、ファースト・リパブリックのように危機で割安に買える体力がある。10 年で貸出が 1.6 倍になれば、純利益は 2 倍近くになりうる。
慎重な見方
銀行は信用循環の産物である。2025 年の純利益 570 億ドルは貸倒が低く市場業務が絶好調な局面のもので、これが定常と見なされている。2026 年 4〜6 月期の純利益 212 億ドルはビザ株関連の一過性の益 46 億ドルを含み、それを除くと 169 億ドル(ROTCE 23%)で、この水準は景気の山の値である。カードの貸倒率は 3.2%、アップル・カードの引当、ノンバンク貸出の混乱に見るように、信用の質は徐々に悪化している。
資本は CET1 14.1% と厚いが、それ自体が ROE を押し下げており、規制緩和が実現しなければ自社株買いも増えない。成長は物価並みで、自己資本は 10 年で 1.7 倍になる。資本コスト 7.75% の下で PBR 2.6 倍を支えるには ROE 14% 前後が 10 年続く必要があり、信用の悪化や規制で ROE が 12% に落ちれば式の PBR は 2 倍前後に下がる。安全域は薄い。さらに、ダイモン氏の後継、規制(カード金利上限・クレジット・カード競争法)、フィンテックと預金の流出、AI による手数料の圧縮という火種が同時に控える。
どちらに重みを置いたか
事業の質と成長は強気の見方が強く、確率を楽観側へ少し寄せた(10 年の楽観・やや楽観の合計 37%、悲観・やや悲観の合計 30%)。値段については、資本コスト 7.75% の下では中立の ROE 15.6% に利益ベースの式で上限 PER 17.5 倍が付き、その 9.5 割の 16.6 倍を置くと、還元を足して割り引いた 10 年の価値は今の時価総額を 1 割ほど上回る。慎重な見方の芯は ROE が 12% 台へ落ちる道(やや悲観、確率 18%)で、この場合 10 年後の時価総額は今から 1 割強しか増えない。悲観は構造的な負け(預金流出・規制・不祥事)を 12% に置き、ROE が k を下回るので PER は 1÷k に近い 12.7 倍(PBR 約 0.9 倍)で測った。結論は「優良で、やや割安」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 542.55 ドル1.45 兆ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 170.32 ドル4,562 億ドル)。 今の値に割り戻すと 374.46 ドル1.00 兆ドル、今との差 +11.3%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 783.21 ドル2.10 兆ドル | 202.65 ドル5,428 億ドル | +192.9% | +11.3% | 118.30 ドル3,169 億ドル |
| やや楽観 | 25% | 674.53 ドル1.81 兆ドル | 188.84 ドル5,058 億ドル | +156.5% | +9.9% | 215.84 ドル5,782 億ドル |
| 中立 | 33% | 581.20 ドル1.56 兆ドル | 176.89 ドル4,738 億ドル | +125.3% | +8.5% | 250.17 ドル6,701 億ドル |
| やや悲観 | 18% | 382.59 ドル1.02 兆ドル | 157.11 ドル4,208 億ドル | +60.4% | +4.8% | 97.15 ドル2,602 億ドル |
| 悲観 | 12% | 160.57 ドル4,301 億ドル | 101.11 ドル2,708 億ドル | −22.2% | −2.5% | 31.40 ドル841 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 542.55 ドル1.45 兆ドル | 170.32 ドル4,562 億ドル | +111.8% | +7.8% | 712.86 ドル1.91 兆ドル |
今の株価時価総額 336.54 ドル9,015 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:預金と市場でシェアを伸ばし、費用率が下がって ROE が上がる 利益 1,194 億ドル · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 783.21 ドル2.10 兆ドル
10 年後(2035 年末)、地銀再編で預金が大手へ集まり、CCB の残高は 2.85 兆ドル(年 5.3%)、収益は 1,268 億ドル。CIB は世界のプール 7,300 億ドルの 23%(1,679 億ドル)、AWM は運用資産 12 兆ドルで 600 億ドル。AI で費用率が 4 ポイント下がり、利益率が過去最高を更新して純利益は約 1,210 億ドル。資本規制の緩和で ROE は 18% に上がり、10 年の還元は 5,428 億ドル。成長が名目 5% に落ち着いた後でも、PER 17.4 倍が付く。
- 消費者・コミュニティ銀行(CCB):数量 28,500(預金と貸出の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益(純金利収益+手数料)の率)→ 売上 1,268 億ドル・営業利益 418 億ドル。預金基盤とデジタルで効率が改善
- 商業・投資銀行(CIB):数量 7,300(世界の投資銀行・市場・決済の収益プール(億ドル))× 価格 23.0%(JPモルガンのシェア)→ 売上 1,679 億ドル・営業利益 823 億ドル。世界首位の地位が拡大
- 資産・富裕層運用(AWM):数量 120,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.01(残高あたりの純収益の率(運用報酬と預金・貸出の利ざやを含む))→ 売上 600 億ドル・営業利益 246 億ドル。富裕層の資産が増える
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 13 億ドル)・優先株(約 200 億ドル)を引いた普通株の値(推定)。のれんと無形資産(約 560 億ドル)を除いた有形ベースの ROE は帳簿より 2 ポイントほど高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 18.4%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 13.1% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=18.5 倍が上限。利益の質(規模・決済網・投資銀行の厚みで同業で最も安定した利益を出す大手銀行)から、上限の 9.5 割の PER 17.6 倍に置いた(検査の上限は時価総額 22088 億ドル)。
確率:規制緩和・AI による費用の圧縮・シェア拡大がそろう。10 年を通じた実現は 1 割強。
やや楽観 25% やや楽観:堀は広がり、成長は名目 5% 利益 1,056 億ドル · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 674.53 ドル1.81 兆ドル
10 年後(2035 年末)、地銀の再編と規制の落ち着きの中で、預金と市場業務の地位は保たれる。貸出・預金は年 4.5% で伸び、CCB は 1,196 億ドル、CIB は世界のプール 6,900 億ドルの 22%(1,518 億ドル)、AWM は運用資産 11.2 兆ドルで 549 億ドルとなる。信用コストは 10 年を通じて平常(貸出の 0.55% 前後)で、景気後退を 1 回挟んでも資本の厚みで吸収する。技術投資の効果で費用率は小幅に下がるが、競合も同じ投資をするため、利益率の改善は限られる。純利益は約 1,070 億ドル(2025 年の 1.9 倍)、ROE は 16.7%、10 年の還元は 5,058 億ドル。成長が名目 5% に落ち着いた成熟した優良銀行として PER 16.9 倍が付く。
- 消費者・コミュニティ銀行(CCB):数量 27,300(預金と貸出の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益(純金利収益+手数料)の率)→ 売上 1,196 億ドル・営業利益 377 億ドル。貸出 年 4.5%
- 商業・投資銀行(CIB):数量 6,900(世界の投資銀行・市場・決済の収益プール(億ドル))× 価格 22.0%(JPモルガンのシェア)→ 売上 1,518 億ドル・営業利益 721 億ドル。収益プール 年 5.6%
- 資産・富裕層運用(AWM):数量 112,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用報酬と預金・貸出の利ざやを含む))→ 売上 549 億ドル・営業利益 217 億ドル。運用資産 年 8.8%
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 13 億ドル)・優先株(約 200 億ドル)を引いた普通株の値(推定)。のれんと無形資産(約 560 億ドル)を除いた有形ベースの ROE は帳簿より 2 ポイントほど高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 16.9%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 12.3% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=18.0 倍が上限。利益の質(規模・決済網・投資銀行の厚みで同業で最も安定した利益を出す大手銀行)から、上限の 9.5 割の PER 17.1 倍に置いた(検査の上限は時価総額 19019 億ドル)。
確率:預金と市場業務の地位が保たれ、規制も大きく変わらない。起こりやすい。
中立 33% 中立:優良な成熟銀行として名目並みに成長 利益 935 億ドル · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 581.20 ドル1.56 兆ドル
10 年後、貸出・預金は年 4.5%、CCB は 1,133 億ドル、CIB はプール 6,500 億ドルの 21%(1,365 億ドル)、AWM は運用資産 10.6 兆ドルで 507 億ドル。信用循環を 2 回挟んで、10 年の平均信用コストは貸出の 0.55%、2 回の景気後退で純利益は一時的に半減するが、ならせば年 5% 増。10 年後の純利益は約 950 億ドル、ROE は 15.3%。10 年の還元は 4,738 億ドル。オーナー利益に近い余剰資本の使い方は規律があり、PER は 19.5 倍に収まる。
- 消費者・コミュニティ銀行(CCB):数量 26,350(預金と貸出の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益(純金利収益+手数料)の率)→ 売上 1,133 億ドル・営業利益 340 億ドル。貸出・預金 年 4.5%
- 商業・投資銀行(CIB):数量 6,500(世界の投資銀行・市場・決済の収益プール(億ドル))× 価格 21.0%(JPモルガンのシェア)→ 売上 1,365 億ドル・営業利益 628 億ドル。シェア 21%
- 資産・富裕層運用(AWM):数量 105,600(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用報酬と預金・貸出の利ざやを含む))→ 売上 507 億ドル・営業利益 193 億ドル。運用資産 年 8.2%
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 13 億ドル)・優先株(約 200 億ドル)を引いた普通株の値(推定)。のれんと無形資産(約 560 億ドル)を除いた有形ベースの ROE は帳簿より 2 ポイントほど高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 15.6%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 11.7% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=17.5 倍が上限。利益の質(規模・決済網・投資銀行の厚みで同業で最も安定した利益を出す大手銀行)から、上限の 9.5 割の PER 16.6 倍に置いた(検査の上限は時価総額 16385 億ドル)。
確率:業界ノートの中立(貸出 年 +5%・ROE 14〜16%)に沿う。
やや悲観 18% やや悲観:預金コスト固定と規制で ROE が 12% に下がる 利益 662 億ドル · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 382.59 ドル1.02 兆ドル
10 年後、預金は高利の MMF・ステーブルコイン・フィンテックへ流出し、預金コストは 4% 台で固定される。カード金利の上限規制やクレジット・カード競争法が収益を削り、CCB の利益率は 25% に下がる。CIB は、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー、さらに市場のデジタル化による手数料の低下で、収益は 1,092 億ドルにとどまる。AWM は運用報酬の低下(パッシブ運用の拡大)で 414 億ドル。信用コストは 10 年の平均で貸出の 0.7% に上がり、純利益は約 680 億ドル、ROE は 12.3%、10 年の還元は 4,208 億ドル。堀は残るが、超過収益の大半が消えた普通の優良銀行として PER は 16.9 倍まで下がる。
- 消費者・コミュニティ銀行(CCB):数量 24,500(預金と貸出の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益(純金利収益+手数料)の率)→ 売上 1,004 億ドル・営業利益 251 億ドル。預金が流出・信用コスト高止まり
- 商業・投資銀行(CIB):数量 5,600(世界の投資銀行・市場・決済の収益プール(億ドル))× 価格 19.5%(JPモルガンのシェア)→ 売上 1,092 億ドル・営業利益 437 億ドル。競争で手数料低下
- 資産・富裕層運用(AWM):数量 90,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用報酬と預金・貸出の利ざやを含む))→ 売上 414 億ドル・営業利益 137 億ドル。運用報酬の低下
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 13 億ドル)・優先株(約 200 億ドル)を引いた普通株の値(推定)。のれんと無形資産(約 560 億ドル)を除いた有形ベースの ROE は帳簿より 2 ポイントほど高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 12.5%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 10.1% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=16.1 倍が上限。利益の質(規模・決済網・投資銀行の厚みで同業で最も安定した利益を出す大手銀行)から、上限の 9.6 割の PER 15.5 倍に置いた(検査の上限は時価総額 10676 億ドル)。
確率:預金コストの固定、カード金利規制、フィンテックの侵食が同時に進む展開。起きても不思議はない。
悲観 12% 悲観:構造的に負け、優良銀行でなくなる 利益 340 億ドル · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 160.57 ドル4,301 億ドル
10 年後、預金がフィンテックと国債 MMF へ大量に流出し、預金コストが 4% 台に固定される。カードの金利上限規制と決済手数料の義務化(クレジット・カード競争法)で CCB の利益率は 15% に落ち、CIB は競争とデジタル化でシェアを失って 816 億ドル、AWM の運用資産は 7.6 兆ドルに減る。同時に、制裁金と事業制限を伴う巨額の不祥事が起き、リスク管理への信頼も損なわれる(ウェルズ・ファーゴの資産上限の型)。純利益は約 350 億ドル、ROE 7.2%、10 年の還元は 2,708 億ドル。もう優良銀行ではなく、普通の大手銀行として PER 12.2 倍で定着する。
- 消費者・コミュニティ銀行(CCB):数量 22,000(預金と貸出の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益(純金利収益+手数料)の率)→ 売上 836 億ドル・営業利益 125 億ドル。預金流出・カード金利規制・不祥事
- 商業・投資銀行(CIB):数量 4,800(世界の投資銀行・市場・決済の収益プール(億ドル))× 価格 17.0%(JPモルガンのシェア)→ 売上 816 億ドル・営業利益 228 億ドル。シェア低下
- 資産・富裕層運用(AWM):数量 76,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用報酬と預金・貸出の利ざやを含む))→ 売上 319 億ドル・営業利益 80 億ドル。運用資産の流出
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 13 億ドル)・優先株(約 200 億ドル)を引いた普通株の値(推定)。のれんと無形資産(約 560 億ドル)を除いた有形ベースの ROE は帳簿より 2 ポイントほど高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。ROE 7.2% が k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)以下なので、ためた利益は額面を下回る価値で、PER は 1÷k=12.9 倍が上限。利益の質(規模・決済網・投資銀行の厚みで同業で最も安定した利益を出す大手銀行)から、上限の 9.8 割の PER 12.7 倍に置いた(検査の上限は時価総額 4387 億ドル)。
確率:預金流出・規制・大規模な不祥事のうち複数が重なる確率を 1 割強と置く。ウェルズ・ファーゴの資産上限(2018〜25 年)型の事故を下敷きにした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
消費者・コミュニティ銀行(CCB)
個人の預金・住宅ローン・カード・自動車ローン・中小企業向け。全米最大の預金基盤と、カードの利回りが収益源。
| 数量預金と貸出の平均残高の合計(億ドル) | 価格残高あたりの純収益(純金利収益+手数料)の率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 17,000 | 0.04 | 760 | 220 |
| 10 年後 中立 | 26,350 | 0.04 | 1,133 | 340 |
取り方:2025 年の預金約 1.1 兆ドルと貸出約 6,000 億ドルの合計を概算で 1.7 兆ドルと置き、純収益 760 億ドル(推定)を割った率 4.47%。営業利益は貸倒引当・費用を引いた税引前利益の推定。市場で見ると、米国の預金約 18 兆ドルのうち JPモルガンは約 11〜12% で首位(バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)約 10%、ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)約 7.5%)。価格(残高あたりの率)は利ざやで決まり物価では上がらないので、物価の分は名目の預金・貸出残高の伸びに入れた(残高は 10 年 1.55 倍で物価の 1.41 倍を上回る)。
商業・投資銀行(CIB)
投資銀行・市場業務(株・債券・為替)・決済・証券サービス・法人融資。世界首位級。
| 数量世界の投資銀行・市場・決済の収益プール(億ドル) | 価格JPモルガンのシェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4,000 | 20.0% | 800 | 370 |
| 10 年後 中立 | 6,500 | 21.0% | 1,365 | 628 |
取り方:投資銀行・市場・資金管理・証券サービスの世界の収益プールを約 4,000 億ドル(推定)と置き、CIB の純収益約 800 億ドルのシェア 20%。営業利益は税引前の推定。競合はゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)・モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)・バンク・オブ・アメリカで、投資銀行の手数料と市場業務でいずれも JPモルガンが首位(手数料シェア約 9%)。収益プールは名目の取引額・資産価格とともに物価以上に伸びる(10 年 1.6 倍)ので、価格の欄のシェアは物価で上げない。
資産・富裕層運用(AWM)
資産運用・プライベートバンク・信託。運用資産残高 4.8 兆ドル。
| 数量運用資産残高(億ドル) | 価格残高あたりの純収益の率(運用報酬と預金・貸出の利ざやを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 48,000 | 0.01 | 250 | 95 |
| 10 年後 中立 | 105,600 | 0.00 | 507 | 193 |
取り方:2025 年末の運用資産残高約 4.8 兆ドルに、純収益約 250 億ドル(推定)の率 0.52%。営業利益は税引前の推定。運用資産ではブラックロック(BlackRock)の約 12 兆ドルに次ぐ層で、富裕層向けではモルガン・スタンレーと競る。運用資産は名目の資産価格で膨らむので物価の分はそこに入り、報酬率は物価で上げず、パッシブ運用の拡大で少しずつ下がると置いた。
リスクと懸念
信用循環(カード・法人・商業用不動産)
銀行の利益は貸倒で振れる。カードの貸倒率は 2010 年に約 10% まで上がった(今は約 3.2%)。物価と金利が高止まりすると返済負担が重くなり、2025 年のノンバンク貸出の混乱が広がれば、引当が利益を数年にわたって削る。
預金コストの固定と流出
短期金利 3.5〜4% では、無利息預金が MMF・国債・フィンテックへ流れる。預金コストが 4% 台に固定されると NIM が縮み、純金利収益(利益の約 55%)が減る。ステーブルコインの普及は預金の置き換え圧力になる。
金利と市場業務の山
純金利収益の見通し(約 1,055 億ドル)は金利の水準に依存し、長期金利が大きく下がれば低下する。市場業務と投資銀行も 2025〜26 年が過去最高圏にあり、市場が荒れれば半減しうる。 この火種は単独でも利益を 1〜2 割動かし、他のリスクと重なると悲観の筋書きに近づく。
後継と経営の継続
ジェイミー・ダイモン氏は 20 年にわたり経営を率い、その規律が資本配分の質を支えてきた。後継の時期と人選が不透明で、交代後に買収や投資の規律が緩むと価値を損なう。次の投資家向け説明会は 2027 年 2 月 22 日の予定。
規制・訴訟・不祥事
カード金利の上限案、クレジット・カード競争法、資本規制の再強化、巨額の制裁金や訴訟が火種。資産規模が大きいため、一度の事故が数十億ドルの損失になる。 この火種は単独でも利益を 1〜2 割動かし、他のリスクと重なると悲観の筋書きに近づく。
含み損と金利
米銀全体の有価証券含み損は 2026 年 1〜3 月期末で 3,251 億ドル。金利が下がらなければ含み損は残り続け、売却すれば減資になる。JPモルガンは対策が厚いが、地銀の破綻が起きれば預金と市場の混乱に巻き込まれる。
AI・フィンテックの競争
決済(ステーブルコイン・ペイパル)、投資銀行の自動化、AI による手数料の圧縮が、収益の質を変える。技術投資の年 198 億ドルは防御にもなるが、重い固定費でもある。 この火種は単独でも利益を 1〜2 割動かし、他のリスクと重なると悲観の筋書きに近づく。
今後の分かれ目
- 失業率が 5% を超え、カードと法人貸出の延滞が 2 四半期連続で上がったら
- 貸倒引当が積み上がり、やや悲観・悲観の確率を上げる。谷の PBR は 1 倍前後を見て、利益の半分が消えても資本は保たれる前提で考える。
- 資本規制の緩和(SLR の見直し・バーゼル III の再提案)が確定したら
- 余剰資本が還元に回り、ROE が 1〜2 ポイント上がる。楽観・やや楽観の確率を上げ、PER を 1 倍ほど上げて見る。
- 預金コストが上がり、無利息預金の比率が 3 割を割ったら
- NIM が縮み、純金利収益の見通しを下げる。やや悲観の確率を上げ、ROE は 14% 台へ下げて見る。
- ダイモン氏が退任し、後継が決まったら
- 資本配分の規律が保たれるかを確信度に反映する。方針の継続が確認できれば確率は動かさず、買収志向へ転じるなら、ROE と g を下げて式で倍率を引き直す。
- カード金利の上限規制またはクレジット・カード競争法が成立したら
- CCB の利益率が数ポイント下がる。やや悲観の確率を上げ、10 年の純利益を 1〜2 割下げて見る。
- ステーブルコインが決済と預金の 1 割を置き換えると確認されたら
- 預金コストの固定と手数料の低下が現実になる。悲観(構造変化)の確率を上げる。
見ておくもの
- 純金利収益(市場業務を除く)の見通しと NIM、預金コスト(預金ベータ)
- カードの貸倒率・30 日延滞・商業用不動産の引当
- CET1 比率と自社株買い(資本規制の緩和の進展)
- 市場業務と投資銀行の収益(四半期の前年比)
- ダイモン氏の後継計画と 2027 年 2 月の投資家向け説明会
- FDIC の四半期(含み損・預金の動き)と、カード金利規制・ステーブルコインの法制
倍率と資本コストの決め方
今の PER 16.0 倍・PBR 2.51 倍を見る前に、セグメントごとの残高・収益プール × シェア・運用資産と利益率を積み上げ、ROE・g・k から利益ベースの正当化 PER の上限を出し、その 9.5 割に倍率を置いた。資本コストは基本 8.0% に quality −0.25%(預金基盤と規模で値決め力と寿命が高く、信用循環で利益が振れる分を差し引き)を足した 7.75%。中立の ROE 15.6%(帳簿。のれんと無形資産(約 560 億ドル)を除くと約 17%)・g 4%・RONIC 11.7% から上限 PER 17.5 倍、その 9.5 割の 16.6 倍とした。過去 20 期の PER の中央値 11.9 倍より高いが、過去の低い倍率が続くとは置かないためで、今の倍率にも寄せていない。結論は計算が決めた(やや割安)。2025〜26 年の利益は山に近いと見て、中立の利益は年 5〜7% 増に抑えた。表の純利益・自己資本は優先株を除く普通株の値で、文章の純利益・ROE は優先配当前の値。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 5% + β 1.02 × 5%。k = 基本 8.0% + quality −0.25% = 7.75%。大手銀行の中でも預金・規模・事業の幅が厚く、利益が長く続くので小さく下げた。信用循環と規制の危険は k に足さず、悲観の確率と利益率で表した。