結論
アトモス・エナジーは、テキサスを中心に 8 州で約 340 万件(推定)の顧客へ都市ガスを届ける、米国で最大級の純粋なガス配給会社である。利益の約 8 割が配電事業、残りがテキサスの州内パイプラインと貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス)。2025 年 9 月期の純利益は約 12 億ドル、営業利益率は 33%(ガスの仕入れ原価は料金に転嫁するので、売上の大半は利益にならない)。2026 年 9 月期の 1 株利益の見通しは上方修正のあと据え置かれたが、その中にはテキサス州法 HB 4384 の特例的な効果が入っている。
事業の質は高い。地域独占で、テキサスは年度内の投資の 90% 超を 6 か月以内に料金に反映できる制度を持ち、規制のずれ(ラグ)が小さい。2026〜2030 年度の設備投資は約 260 億ドルで、8 割超はパイプの交換など安全・信頼性。規制資本(自己資本と純負債の合計 約 227 億ドル)は 10 年で年 7.5% 前後伸びる、というのが業界ノートの中立の置き方であり、利益も年 7% 弱で伸びる。
ただしバリュー投資の観点では、成長のために毎年大きな資本を預け直す事業である。自己資本比率の維持に、年 8〜11 億ドル(時価総額の約 3%)の株式の売り出しが続き、過去 5 年の株数は年 4〜6% 増えた。会社全体の利益は伸びても、既存の株主のものになる利益は小さい。資本コストは基本 8.0% に品質の上乗せ(循環 −0.5%・値決め力 −1.0%・借金 +0.5%)を足して 7.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER(moat=normal)の 7〜10 割に置いた。10 年の中立は正当化 PER 15.7 倍(g 3.5%・RONIC 7.8%)の 8.3 割の 13.0 倍。今の GAAP の PER 23.5 倍は、この水準を大きく上回る。確率で重ねた総合は今の時価総額の約 39% 下で、結論は「割高」である。期間中の増資の払い込み(10 年 29〜71 億ドル)は配当から引いて正味の還元とした。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず 10 年後もこの事業があるかを問う。ガス配給は、南部の人口が増える地域で、暖房・給湯・調理の需要が続く。電化の逆風はあるが、アトモスの顧客の多くは温暖な地域で影響が遅く、10 年後も今より大きい。堀は地域独占と、テキサスの規制のずれの小ささで、広がりも狭まりもせず保たれる。
次にオーナー利益。純利益 12 億ドルのうち配当が約 6 億ドル、投資は年 40 億ドル超で FCF は大きく赤字になる。成長の原資の半分以上は借金と増資であり、株主が自由に引き出せる利益はほぼ配当だけ。規制事業は、稼いだ利益を再投資して初めて成長する。再投資の収益は許可 ROE 約 9.8% の範囲で、自己資本 ROE は 8〜9%。k(7.0%)を上回るので価値は生まれるが、その差は 1.5% ほどで大きくない。
安全域では、利益ベースの正当化 PER 15.7 倍(g 3.5%・RONIC 7.8%・k 7.00%・moat=normal)に対して、10 年の中立を 13.0 倍に置いた。今の PER 23.5 倍はこれより高く、安全域はない。確率で重ねた総合は今の時価総額の約 39% 下で、結論は「割高」である。リーマン級でも公益は PBR 1 倍前後が床になり、下げは 3 割以内。確信度は事業の存続について高く、増資の頻度と許可 ROE の水準について中程度。
何で稼ぐ会社か
配電事業(ディストリビューション)は、テキサス(ダラス周辺のミッドテックス・ウェスト・テキサスなど)・ルイジアナ・ミシシッピ・ケンタッキー・テネシー・カンザス・コロラドなど 8 州で、家庭と商業の顧客にガスを届ける。料金は各州の委員会が決め、利益はレートベース(認可された投資残高)に許可 ROE(ガスの平均は約 9.8%)を掛けた分で決まる。ガスの仕入れ原価は料金に転嫁されるので、売上 47 億ドルのうち、利益に効くのは配送で得る差益である。売上の半分近くが原価の転嫁と見られる(推定)。
パイプライン・貯蔵事業(アトモス・パイプライン・テキサス)は、テキサス州内に約 5,700 マイルの導管と貯蔵を持ち、配電会社・発電所・産業向けにガスを運ぶ。ミッドテックスの配電会社が最大の顧客で、データセンターや発電所向けの需要、ペルミアン盆地からの輸送が伸びしろ。州内で完結するのでテキサス州の規制を受け、配電より利益率が高い(売上に対する営業利益は 5〜6 割)。2026 年は容量の稼働が早まって、下期の寄与が見通しの下端に落ちた。
投資の中身は、古い鋳鉄・鋼管の交換と、供給の信頼性(寒波への備え)である。2021 年 2 月の寒波(ウリ)で仕入れ費用が急騰した教訓から、テキサスでは費用の長期回収の仕組み(証券化)と、パイプの安全規則が整った。顧客は年 5 万件台で増え(テキサスの人口流入)、1 顧客あたりの使用量は省エネで年 0.5〜1% 減る。
優良さと弱いところ
堀は地域独占と規制の質にある。第 1 に、ガス管の二重敷設は経済的に成り立たないので、顧客を取り合う競争が無い。第 2 に、テキサスの制度(年度内の投資を料金に反映する仕組みと、HB 4384 による投資回収の見直し)が、ガス会社の中で規制のずれを最も小さくしている。ワン・ガス(ONE Gas)・サウスウエスト・ガス(Southwest Gas)・ノースウェスト・ナチュラル(Northwest Natural)・センターポイント(CenterPoint)のガス部門などは、多くが 1 年前後のずれを抱える。第 3 に、純粋なガス配給としての規模で、年 40 億ドル超の投資を投資適格の信用で調達できる。
資本効率は規制公益として平凡で、ROE は 8〜9%(過去 12 期は 8.1〜12.6%)。稼ぐ力は認められた ROE で頭打ちになり、超過収益は小さい。成長は規制資本の伸びで買う形になり、そのたびに増資が要る。利益の質は良く、景気や気温で営業利益が 1 割も動かない。
弱点は 3 つ。第 1 に、増資の負担(株数の増加が年 4〜6%)で 1 株の成長は会社全体の利益の伸びより年 3〜4% 低い。第 2 に、単一の事業・単一の州(配電の規制資本の約 65% がテキサス)への集中で、テキサスの規制と政治が変わると全体に効く。第 3 に、電化(ヒートポンプ)と州の抵抗で、長い目では住宅のガス需要が縮みうる点である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国のガス配給は、約 7,000 万件の顧客を持つ公益群で、競合は同じ地域で争うガス会社ではなく、電気(ヒートポンプ・電気調理)への置き換えである。住宅の暖房は北部で電化が進み、ニューヨーク・マサチューセッツなどは新設の接続を制限する方向にある。一方、テキサス・南東部は人口が増え、ガス料金が電気より安いので電化の動きは遅い。アトモスの顧客の大半は温暖な南部で、寒波が来た時の信頼性の方が政治の関心である。
業界全体で投資が膨らむ。ガス配給の同業はレートベースを年 6〜9% で伸ばす計画で(ワン・ガス 7〜9%、ノースウェスト・ナチュラル 6〜8%、サウスウエスト・ガス 6〜8%、MDU 7〜8%)、アトモスの 10% が最も高い。許可 ROE は 2026 年上半期の平均が 9.83% と、金利 5% の世界でも動かない。手頃さの政治はガスでも効き、住宅料金の上がりが続くと許可 ROE と投資の認可が標的になる。
パイプライン側では、テキサスのガス輸送の競合にエナジー・トランスファー(Energy Transfer)・キンダー・モルガン(Kinder Morgan)・エンタープライズ・プロダクツ(Enterprise Products)がある。ただしアトモスの導管は自社の配電会社と州内の顧客向けに特化し、競合というより補完の関係。データセンター向けのガス火力が増えれば輸送の需要が伸びる。再編では、中堅ガス会社(ノースウェスト・ナチュラル・サウスウエスト・ガスなど)の買収・統合が続く可能性があり、アトモスは買い手になりうるが、今は自社投資で足りている。
資本政策と M&A
資本政策は、規制資本を年 10% 前後で伸ばす投資、配当(配当性向は純利益の約 50%。1 株利益と同じ年 6〜8% で増やす目標)、そして ATM(随時の株式売り出し)と先渡し契約による株式の調達の組み合わせである。自社株買いは無い。2025 年の配当は約 6 億ドル、FCF は −15 億ドルで、不足は借金と増資で埋める。授権株式を倍にしたのは、増資を長く続ける前提の表れである。
M&A は小さい。大きな買収は近年無く、成長の原資は自社の投資に絞っている。再編の可能性はあるが、規制資本の 10 年の成長が自社で十分なので、買う動機は薄い。買われる側になる可能性は、時価総額 282 億ドルと規模が大きく、低い。
資本配分の評価は、規制の許す ROE の範囲で事業を伸ばすことに徹し、割高な買収をしない点で良い。一方、増資で資金を取り入れる形は、既存の株主には成長の中で持ち分が薄まるコストになる。筋書きでは、この増資の払い込みを配当から引いた正味の還元で測る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
テキサスは人口と企業の流入で顧客が年 5 万件台で増え、規制資本は 2030 年度まで年 10% 前後で伸びる。年度内の投資の 90% 超を 6 か月以内に料金に反映できる制度のおかげで、規制のずれが同業で最も小さく、実現 ROE が許可 ROE に近づく。2026 年度だけで年換算の営業利益増 3.96 億ドルを実施し、係争中の 3.34 億ドルも 2027 年度の初めに反映される。会社の 1 株利益の目標は年 6〜8% で、実績もそれに沿う。
パイプライン事業は、データセンターとガス火力の増加で輸送の需要が伸び、利益率が 5〜6 割と高い。許可 ROE 9.8% は金利 5% の世界でも動かず、k が 7.0% なら 3% 弱の超過収益が毎年積み上がる。負債は投資適格で、顧客は温暖な地域に偏り電化の影響が遅い。10 年で規制資本が 2.1 倍になれば、利益は今の 2 倍に届き、PER は正当化 PER の上限近く(15〜16 倍台)まで評価されても不思議はない。配当は毎年増え、公益の中で最も予測しやすい成長である。
慎重な見方
今の PER 23.5 倍・PBR 2.1 倍は、ガス配給としては過去 20 期の最大に近く(PER の中央 19 倍、PBR の中央 1.7 倍)、金利 5% の世界で k 7.0% が低く見積もられていることに寄っている。ROE 8〜9% は k を 2% 前後しか超えず、利益ベースの正当化 PER は 13〜16 倍にとどまる。ROE は 8〜9% に頭打ちで、超過収益は小さい。
成長は増資で買っている。FCF は −15 億ドルで、年 8〜11 億ドルの株式の売り出しが続き、株数は過去 5 年で年 4〜6% 増えた。会社全体の利益が年 7% 伸びても、1 株では 3〜4% にとどまる。2026 年度の見通しにはテキサスの特例的な効果(約 1.3 億ドル)が入り、足元の伸びが実力より高く見える。
さらに、テキサス 1 州に配電の規制資本の約 65% が集まり、政治が手頃さに傾けば許可 ROE と投資の認可が絞られる。2021 年 2 月の寒波のような仕入れ費用の急騰、電化の進行による需要の減少、借り換えで利払いが増える点も、利益の伸びを削る。
どちらに重みを置いたか
事業の質は強気の見方が強く、規制資本の伸びと規制のずれの小ささは確かなので、悲観の確率は 1 割と、公益としては標準に置いた。ただし値段と 1 株への届き方は慎重な見方が強い。倍率は正当化 PER の 7〜10 割に置いた(10 年の中立 13.0 倍=正当化 PER 15.7 倍の 8.3 割)。今の PER を見て寄せていない。確率は中立に厚く寄せ、楽観・やや楽観の合計を 33%、悲観・やや悲観の合計を 30% にした。筋書きを確率で重ねた総合は今の時価総額の約 39% 下で、結論は「割高」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 168.39 ドル283 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 23.09 ドル39 億ドル)。 今の値に割り戻すと 102.07 ドル172 億ドル、今との差 −38.9%、 期待の年率 +1.4%(資本コスト 7.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 244.91 ドル412 億ドル | 17.23 ドル29 億ドル | +57.0% | +4.6% | 20.97 ドル35 億ドル |
| やや楽観 | 25% | 207.49 ドル349 億ドル | 19.60 ドル33 億ドル | +36.0% | +3.1% | 56.77 ドル96 億ドル |
| 中立 | 37% | 176.72 ドル298 億ドル | 23.76 ドル40 億ドル | +20.1% | +1.8% | 74.18 ドル125 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 119.46 ドル201 億ドル | 27.92 ドル47 億ドル | −11.7% | −1.2% | 29.48 ドル50 億ドル |
| 悲観 | 10% | 76.51 ドル129 億ドル | 24.35 ドル41 億ドル | −39.6% | −4.9% | 10.09 ドル17 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 168.39 ドル283 億ドル | 23.09 ドル39 億ドル | +14.7% | +1.4% | 191.48 ドル322 億ドル |
今の株価時価総額 166.95 ドル281 億ドル(2026-10-21)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:規制資本が 10 年で 2.4 倍、データセンター向けの輸送も伸びる 利益 27 億ドル · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 244.91 ドル412 億ドル
10 年後(2035 年 9 月期)、規制資本は年 9.4% で 約 530 億ドル(配電 438・パイプライン 92)。テキサスの顧客は年 5〜6 万件で増え、データセンター向けのガス火力と輸送で 1 顧客あたりの使用量の減少を補う。ガス原価は物価並み(10 年 1.41 倍)に使用量の伸びを加えて上がり、売上は 約 91 億ドル、営業利益 37.6 億ドル、純利益 27.0 億ドル(2025 年の 2.25 倍)。自己資本は 300 億ドル、ROE 9.0%。増資は 10 年で約 70 億ドル。倍率は 正当化 PER 16.1 倍に対して 15.3 倍(9.5 割)に置いた(規制のずれが最小で規制資本の伸びが年 10% 以上続く優良さを堀の強さ(テキサスの制度)に見て上限の 9.5 割)。配当は 10 年で約 100 億ドル。増資の払い込みは 10 年で約 71 億ドル(自己資本の増加 − 純利益の合計 + 配当 から)で、配当 100 億ドルからこれを引いた正味の還元は 29 億ドル。
- 配電(ガスの配給):数量 438(規制資本(億ドル))× 価格 0.18(規制資本あたりの売上(ガス原価の転嫁を含む))→ 売上 78 億ドル・営業利益 30 億ドル。規制資本 438 億ドル × 売上の率 0.1779
- パイプライン・貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス):数量 92.0(規制資本(億ドル))× 価格 0.14(規制資本あたりの売上)→ 売上 13 億ドル・営業利益 8 億ドル。規制資本 92 億ドル × 売上の率 0.143
倍率:正当化 PER 16.1 倍(g 3.5%、RONIC 8.0%=k 7.00%+残る割合 0.50×(事業の ROE 9.0%−k)、moat=normal。式 (1−g÷RONIC)÷(k−g))に対して 15.3 倍(9.5 割)に置いた。規制のずれが最小で規制資本の伸びが年 10% 以上続く優良さを堀の強さ(テキサスの制度)に見て上限の 9.5 割。g の内訳:ガス配送量は実質ほぼ横ばい(顧客増 +1.5%・電化で 1 顧客あたり −0.5〜1%)× 規制資本の伸び(名目で料金の基礎が増える)で、名目の長期 g は 4.0〜4.5% だが、k−g≥3.5% の守りで 3.5% に抑えた。純利益は GAAP の考え方。
確率:規制のずれの小ささ・南部の人口流入・ガス火力向けの輸送の 3 つが 10 年続く展開。10 年続くので 1 割未満。
やや楽観 25% やや楽観:規制資本は年 8% 台、許可 ROE 9.8% を保つ 利益 25 億ドル · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 207.49 ドル349 億ドル
10 年後、規制資本は年 8.2% で 約 498 億ドル(配電 410・パイプライン 88)。許可 ROE は 9.8% 前後を保ち、規制のずれは小さいまま。使用量は 1 顧客あたり年 0.5% 減るが、顧客の増加(年 1.5%)で配送量は横ばい。パイプラインは投資を重ね、売上は 約 85 億ドル、営業利益 34.9 億ドル、純利益 24.6 億ドル。自己資本は 285 億ドル、ROE 8.6%。倍率は 正当化 PER 15.8 倍に対して 14.2 倍(9.0 割)に置いた(許可 ROE 9.8% を保ち計画どおり進むので上限の 9.0 割)。配当は 10 年で約 95 億ドル。増資の払い込みは 10 年で約 62 億ドル(自己資本の増加 − 純利益の合計 + 配当 から)で、配当 95 億ドルからこれを引いた正味の還元は 33 億ドル。
- 配電(ガスの配給):数量 410(規制資本(億ドル))× 価格 0.18(規制資本あたりの売上(ガス原価の転嫁を含む))→ 売上 72 億ドル・営業利益 28 億ドル。規制資本 410 億ドル × 売上の率 0.176
- パイプライン・貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス):数量 88.0(規制資本(億ドル))× 価格 0.14(規制資本あたりの売上)→ 売上 13 億ドル・営業利益 7 億ドル。規制資本 88 億ドル × 売上の率 0.142
倍率:正当化 PER 15.8 倍(g 3.5%、RONIC 7.8%=k 7.00%+残る割合 0.50×(事業の ROE 8.6%−k)、moat=normal。式 (1−g÷RONIC)÷(k−g))に対して 14.2 倍(9.0 割)に置いた。許可 ROE 9.8% を保ち計画どおり進むので上限の 9.0 割。g の内訳:ガス配送量は実質ほぼ横ばい(顧客増 +1.5%・電化で 1 顧客あたり −0.5〜1%)× 規制資本の伸び(名目で料金の基礎が増える)で、名目の長期 g は 4.0〜4.5% だが、k−g≥3.5% の守りで 3.5% に抑えた。純利益は GAAP の考え方。
確率:業界の中立(年 7.5%)より少し強い。テキサスの制度と人口流入が続く。
中立 37% 中立:規制資本は年 7.5%、優良な公益として名目並みに伸び、倍率は成熟側へ 利益 23 億ドル · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 176.72 ドル298 億ドル
10 年後、規制資本は年 7.5% で 約 470 億ドル(配電 385・パイプライン 85)、2025 年の 2.1 倍。許可 ROE は 9.8% を保つが、実現 ROE は 9.4% 前後。配電の売上はガス原価が物価並み(10 年 1.41 倍)、配送の差益が規制資本の伸びにやや遅れて 1.85 倍で、売上は 約 79 億ドル。営業利益 32.7 億ドル、純利益 22.9 億ドル(年 6.7%。2025 年の 1.9 倍)。借り換えによる利払いの増加(brief.py の推定で 10 年 約 2 億ドル)を含む。増資は 10 年で約 50 億ドル、自己資本 270 億ドル、ROE 8.5%。倍率は 正当化 PER 15.7 倍に対して 13.0 倍(8.3 割)に置いた(規制の質は高いが、ROE が k を 2% 弱しか超えず、増資で毎年薄まるため上限の 8.3 割(中立は 1÷k の床を守る))。配当は 10 年で約 88 億ドル。電化で住宅の 1 顧客あたり使用量は年 0.5〜1% 減るが、顧客の増加で相殺される。増資の払い込みは 10 年で約 48 億ドル(自己資本の増加 − 純利益の合計 + 配当 から)で、配当 88 億ドルからこれを引いた正味の還元は 40 億ドル。
- 配電(ガスの配給):数量 385(規制資本(億ドル))× 価格 0.18(規制資本あたりの売上(ガス原価の転嫁を含む))→ 売上 68 億ドル・営業利益 26 億ドル。規制資本 385 億ドル × 売上の率 0.1753
- パイプライン・貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス):数量 85.0(規制資本(億ドル))× 価格 0.14(規制資本あたりの売上)→ 売上 12 億ドル・営業利益 7 億ドル。規制資本 85 億ドル × 売上の率 0.141
倍率:正当化 PER 15.7 倍(g 3.5%、RONIC 7.7%=k 7.00%+残る割合 0.50×(事業の ROE 8.5%−k)、moat=normal。式 (1−g÷RONIC)÷(k−g))に対して 13.0 倍(8.3 割)に置いた。規制の質は高いが、ROE が k を 2% 弱しか超えず、増資で毎年薄まるため上限の 8.3 割台(中立は 1÷k の床を守る)。g の内訳:ガス配送量は実質ほぼ横ばい(顧客増 +1.5%・電化で 1 顧客あたり −0.5〜1%)× 規制資本の伸び(名目で料金の基礎が増える)で、名目の長期 g は 4.0〜4.5% だが、k−g≥3.5% の守りで 3.5% に抑えた。純利益は GAAP の考え方。
確率:業界ノートの中立(規制資本 10 年 年 +7.5%)。増資と許可 ROE の名目維持を前提にした落としどころ。
やや悲観 20% やや悲観:電化と手頃さの政治で、許可 ROE と投資の認可が絞られる 利益 18 億ドル · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 119.46 ドル201 億ドル
10 年後、許可 ROE は 9.0% 前後に落ち、ケンタッキー・コロラドなど北部寄りの州で新設の接続や投資の認可が絞られる。規制資本は年 6.3% で 約 412 億ドル(配電 340・パイプライン 72)。住宅の 1 顧客あたり使用量は年 1.5% 減り、顧客の増加で配送量は横ばいから微減。パイプラインは民間の競合(エナジー・トランスファー・キンダー・モルガン)に新規の契約を奪われ、利益率が下がる。営業利益 26.7 億ドル、純利益 18.1 億ドル(年 4.2%)、自己資本 240 億ドル、ROE 7.5%。倍率は 正当化 PER 14.8 倍に対して 11.1 倍(7.5 割)に置いた(許可 ROE と投資の認可が絞られ、RONIC が k に近づくので上限の 7.5 割(1÷k の近く))。増資の払い込みは 10 年で約 33 億ドル(自己資本の増加 − 純利益の合計 + 配当 から)で、配当 80 億ドルからこれを引いた正味の還元は 47 億ドル。
- 配電(ガスの配給):数量 340(規制資本(億ドル))× 価格 0.17(規制資本あたりの売上(ガス原価の転嫁を含む))→ 売上 59 億ドル・営業利益 21 億ドル。規制資本 340 億ドル × 売上の率 0.174
- パイプライン・貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス):数量 72.0(規制資本(億ドル))× 価格 0.14(規制資本あたりの売上)→ 売上 10 億ドル・営業利益 6 億ドル。規制資本 72 億ドル × 売上の率 0.138
倍率:正当化 PER 14.8 倍(g 3.5%、RONIC 7.3%=k 7.00%+残る割合 0.50×(事業の ROE 7.5%−k)、moat=normal。式 (1−g÷RONIC)÷(k−g))に対して 11.1 倍(7.5 割)に置いた。許可 ROE と投資の認可が絞られ、RONIC が k に近づくので上限の 7.5 割(1÷k の近く)。g の内訳:ガス配送量は実質ほぼ横ばい(顧客増 +1.5%・電化で 1 顧客あたり −0.5〜1%)× 規制資本の伸び(名目で料金の基礎が増える)で、名目の長期 g は 4.0〜4.5% だが、k−g≥3.5% の守りで 3.5% に抑えた。純利益は GAAP の考え方。
確率:電化の進行と、住宅料金の上昇への反発(手頃さの政治)が同時に進む展開。起きても不思議はない。
悲観 10% 悲観:構造的に負け、ガス管の投資が取り残される 利益 12 億ドル · PBR 1.0 倍 · 株価時価総額 76.51 ドル129 億ドル
10 年後、電化・ヒートポンプで住宅のガス需要が年 2〜3% で縮み、州がガス管の新設接続を禁止し、投資の認可を大きく絞る。規制資本は年 4.2% にとどまり 約 335 億ドル(配電 280・パイプライン 55)。2021 年 2 月のような寒波の仕入れ費用の回収が長期の証券化になり、利益を削る。取り残された資産(ストランデッド)の一部が減損され、純利益は 12.0 億ドル、ROE は 5.6% に落ちる。倒産には至らず、規制資本の裏付け(認可で回収される)が床になるので、今の自己資本 136 億ドルに 0.95 倍(129 億ドル)を掛けて測る。配当は 10 年で約 70 億ドル(減配しない)。増資の払い込みは 10 年で約 29 億ドル(自己資本の増加 − 純利益の合計 + 配当 から)で、配当 70 億ドルからこれを引いた正味の還元は 41 億ドル。
- 配電(ガスの配給):数量 280(規制資本(億ドル))× 価格 0.17(規制資本あたりの売上(ガス原価の転嫁を含む))→ 売上 48 億ドル・営業利益 15 億ドル。規制資本 280 億ドル × 売上の率 0.17
- パイプライン・貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス):数量 55.0(規制資本(億ドル))× 価格 0.13(規制資本あたりの売上)→ 売上 7 億ドル・営業利益 4 億ドル。規制資本 55 億ドル × 売上の率 0.13
倍率:悲観の床は今の自己資本 136 億ドルに 0.95 倍(129 億ドル)。規制資本は認可で回収されるので床になるが、のれんを除いた ROE 5.8% は k 7.0% に届かず、式の PBR は ROE÷k = 約 0.83 倍まで。稼ぐ力(純利益 12.0 ÷ k 7.0% = 171 億ドル)の 75% に置いた。構造的な低 ROE を PBR で測る。
確率:電化の加速・州の接続禁止・寒波の仕入れ費用の急騰が重なる確率を 1 割と置く。アトモスの顧客は南部が中心で、北部ほど急ではない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
配電(ガスの配給)
テキサスを中心とする 8 州の家庭・商業へのガス配給の地域独占。利益は規制資本に許可 ROE を掛けた分で決まり、ガスの仕入れ原価は料金に転嫁される。
| 数量規制資本(億ドル) | 価格規制資本あたりの売上(ガス原価の転嫁を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 185 | 0.22 | 41 | 13 |
| 10 年後 中立 | 385 | 0.18 | 68 | 26 |
取り方:配電の規制資本を約 185 億ドル(推定。自己資本と純負債の合計 227 億ドルのうち、パイプライン側を引いた分)、売上を約 41 億ドル(推定)と置き、1 単位あたり 0.2216。売上の半分近くはガスの仕入れ原価の転嫁で、残りが配送の差益。価格は規制資本の伸びが売上の伸びより速いので先で下がる(利益は許可 ROE で決まり、価格で決まらない。物価並みに上がるのは仕入れ原価と運営費で、10 年 1.41 倍)。営業利益 12.6 億ドルは推定。競合と照らすと、同じ地域の顧客を奪い合うガス会社は無く、競合は電化。ワン・ガス・サウスウエスト・ガス・センターポイントのガス部門は別地域の独占で、規制資本の伸びは 6〜9% に対しアトモスの 10% が最高、規制のずれが小さい分だけ実現 ROE が高い。
パイプライン・貯蔵(アトモス・パイプライン・テキサス)
テキサス州内の導管(約 5,700 マイル)と貯蔵。配電会社・発電所・産業向けにガスを運ぶ、州の規制を受ける輸送。
| 数量規制資本(億ドル) | 価格規制資本あたりの売上 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 40.0 | 0.15 | 6 | 3 |
| 10 年後 中立 | 85.0 | 0.14 | 12 | 7 |
取り方:パイプライン側の規制資本を約 40 億ドル(推定)、外部への売上を約 6 億ドル(推定)と置き、1 単位あたり 0.15。営業利益 3.4 億ドルは推定で、利益率は約 57%。価格は輸送料金で、規制資本の伸びが売上の伸びより速いので先で下がる。競合と照らすと、テキサス州内の輸送は、エナジー・トランスファー・キンダー・モルガン・エンタープライズなどの民間のパイプラインが同じ地域を走るが、アトモスは自社の配電会社の最大の輸送の担い手で、料金は州の規制を受ける。競合に負けた時は、ペルミアンからのガスの輸送や発電所向けの契約が他社へ流れ、規制資本の伸びが 10 年で年 6% 以下に落ちる、という形で効く。
リスクと懸念
増資による持ち分の薄まり
規制資本を年 10% で伸ばすには年 8〜11 億ドル(時価総額の約 3%)の株式の売り出しが要り、株数は過去 5 年で年 4〜6% 増えた。会社全体の利益の伸びが年 7% でも、既存の株主には 3〜4% しか届かない。株価が下がった時に増資を続けると、薄まりはさらに重くなる。
テキサスの規制と政治への集中
配電の規制資本の約 65% がテキサスで、アトモス・パイプライン・テキサスの規制も州。年度内の投資の 90% 超を 6 か月で料金に反映できる制度が、手頃さの政治や州法の変更で改められると、規制のずれが同業並みに広がり、実現 ROE が 1 ポイントほど下がる。
許可 ROE の引き下げと手頃さの政治
住宅料金は 2026 年に前年比 約 +5% で、料金の上がりが続くと、ガスでも許可 ROE(平均 9.83%)と投資の認可が標的になる。許可 ROE が 9.3% に下がると利益は 5% 強減り、複数の州で同時に起きると 1 株利益の伸びが 1 年分失われる。
電化とガス需要の縮み
ヒートポンプ・電気調理への置き換えと、北部の州の新設接続の制限で、住宅の 1 顧客あたり使用量は年 0.5〜1% 減っている。アトモスの顧客は温暖な南部に偏り影響は遅いが、10 年の悲観では年 2〜3% の縮みと、投資が取り残される危険がある。
寒波と仕入れ費用の急騰
2021 年 2 月の寒波(ウリ)で、テキサスのガス会社は仕入れ費用が急騰し、長期の証券化で回収した。同じ規模が再び来ると、資金繰りの悪化と顧客の負担への反発が起きる。回収は料金で認められる前提だが、時期は遅れ、その間の利払いは会社が負う。
金利と借り換え・テキサスの特例効果の剥落
借金は借り換えのたびに 5.75% 前後になり、brief.py の推定では 10 年で 2 億ドルの利払いが増える。2026 年度の見通しにはテキサス州法 HB 4384 の特例的な効果(約 1.3 億ドル)が入っており、翌年はこの分が抜ける。
今後の分かれ目
- テキサス州が年度内の投資の料金反映の制度を変更・縮小したら
- 規制のずれが広がり、実現 ROE が下がる。やや悲観・悲観の確率を上げ、倍率は 2 倍ほど下げて見る。
- 許可 ROE の平均が 9.5% を下回る水準が複数の州で続いたら
- 利益の伸びが年 1 ポイント下がる。10 年のやや悲観の確率を上げ、PER を 1〜2 倍下げて見る。
- データセンター・ガス火力向けの輸送契約がパイプラインの規制資本を年 10% 以上伸ばしたら
- パイプラインの利益が増え、楽観・やや楽観の確率を上げる。PER を 1 倍ほど上げて見る。
- 大きな寒波が来て仕入れ費用が急騰したら
- 回収の速さを見る。1 年以上遅れる、または一部が認められないなら、悲観の確率を上げる。
- 増資の額が年 15 億ドルを超える、または株価が下がった時に出す形が続いたら
- 1 株の成長が会社全体の利益の伸びを大きく下回る。倍率を 1 倍ほど下げて見る。
- 10 年国債の利回りが 5% から 4% 台へ下がったら
- k が下がり、正当化される倍率が 2 倍ほど上がる。ただし本分析は金利を動かさない前提で、見直しの合図として扱う。
見ておくもの
- 1 顧客あたり使用量の前年比と顧客の増加数(テキサス)
- 許可 ROE・実現 ROE と、年度内の投資の料金への反映の実績(実施した年換算の営業利益増と係争中の額)
- 年間の増資額(ATM・先渡し)と自己資本比率
- アトモス・パイプライン・テキサスの輸送契約と稼働(データセンター・ガス火力向け)
- 2026 年度のテキサス特例効果(HB 4384)が抜けた後の 1 株利益の伸び
- 住宅料金の前年比・10 年国債の利回り
倍率と資本コストの決め方
今の PER 23.5 倍を見る前に、数量と価格でセグメントを積み、純利益と自己資本を決め、倍率は利益ベースの正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g)(RONIC=k+残る割合×(事業の ROE−k)、moat=normal)の 7〜10 割に置いた。10 年の中立は正当化 PER 15.7 倍(g 3.5%・RONIC 7.8%・k 7.00%)の 8.3 割の 13.0 倍。悲観の床は過去の PBR でなく、今の自己資本と稼ぐ力(純利益 ÷ k)から置いた。今の値段に寄せていない。結論は、総合で今の時価総額の約 39% 下の「割高」。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 5% + β 0.72 × 5%。基本 8.0%(米国)+ quality −1.0% = 7.0%。内訳は循環 −0.5%(暖房・給湯・調理の需要は景気に左右されない)、値決め力 −1.0%(地域独占で料金は規制が決め、テキサスは投資を 6 か月以内に料金へ反映できる)、借金 +0.5%(純負債は EBITDA の約 3.5 倍で、増資と借入が続く)、寿命 0(電化の逆風と数十年続く導管が相殺)。存続を疑う状態ではなく上乗せ 0。増資の負担・テキサスへの集中・電化は k に足さず、確率と筋書きで表した。k−g≥3.5% の守りで長期の g は 3.5% に抑えた。