結論
光通信は、中小企業・個人向けに通信回線・電力・ガス・保険などを継続的に取り次いで月額・年額の収益を積み上げる「ストック事業」と、携帯電話・OA機器などを一括で取り次ぐ「フロー(取次)事業」、そして本業で得た資金を上場株式に長期で投資する「純投資事業」の三層で構成される。2026年3月期の自己資本1兆1,857億円に対し、純投資の有価証券だけで時価1兆4,764億円・含み益6,241億円を抱え、バークシャー・ハサウェイをはじめ数百社に分散投資する、投資会社としての性格を強く併せ持つ会社である。
中核のストック事業は通信・電力・保険の乗り換え需要と中小企業のバックオフィスDX需要を取り込みながら緩やかに拡大する一方、フロー・取次事業(携帯販売代理店等)は端末の値引き規制強化と買い替えサイクルの長期化で構造的に縮小が続く。業績の最終的な振れは、この二つの事業よりも株式市場全体の地合いと投資先の業績に左右される比重が大きく、2026年3月期も純利益が営業利益を上回るほど投資関連の寄与が大きかった。
自己資本は「今+期間の純利益−還元」で流し、ROEはその結果として出した(中立で10年後8%)。倍率は最後は利益で測り、今の利益はそのまま残り先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎ(資本コスト7.5%=基本7.5%に優良度の調整+1.25%を超える分の半分が残る)だけとした上限の7.5〜9割に置き(中立は上限の9割で10年後PER10倍強)、保有株を支える借入の利払いの増加(金利の決まり)は純利益から引いた。計算の結果、10年後の本質価値は今の時価総額を2割ほど下回り、総合ではやや割高(−20%)と出た。ただし、創業家による意思決定への依存とリーマン級の株式市場急落では投資の含み益が大きく剥落し本質価値が今より下がる場面もある、振れ幅の大きい銘柄だと判断した。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の観点では、ストック事業(通信・電力・保険の継続課金)は顧客を一度獲得すれば設備投資の負担が小さく、キャッシュに転換しやすい性質を持つ。フロー・取次事業は手数料収入に対して販促費・人件費の負担が相応にかかり、オーナー利益への転換効率はストック事業より劣る。純投資事業で生まれる持分法利益・評価益は会計上の純利益には乗るが、未実現の評価益の部分は売却するまで現金化されないため、純利益の額を株主のものになるキャッシュとそのまま同一視するのは適切でない。
堀の幅については、複数商材を一つの営業網でクロスセルする仕組みと、長年にわたり時価が簿価を上回ってきた純投資の目利きという二つの実績は評価できる。一方、堀の深さは営業力と投資判断力という属人的な能力に依存する部分が大きく、ブランドや技術のような恒久的な堀とは性質が異なる。
経営の資本配分については、本業のキャッシュフローを長期の株式投資に回し、数百社規模に分散しながら大きな含み益を積み上げてきた実績自体は資本配分の巧みさを示している。ただし、この巧みさが重田康光氏個人の判断に強く依存している点は、バリュー投資の観点では安全域を狭める要因として重く見るべきである。今の値付けは、ストック事業の安定収益と純投資の含み益の両方をある程度評価しているとみられ、本質価値との差は、投資ポートフォリオの先行きと経営の後継という二つの不確実性の大きさで決まると考える。
何で稼ぐ会社か
光通信の事業は大きく三つに分かれる。一つ目は法人サービスで、中小企業を主な顧客に、インターネット回線・固定電話・電力・ガス・店舗予約サイトなどの自社商材を継続課金で販売する。二つ目は個人サービスで、個人向けのインターネット回線・電力・宅配水などを同様に継続課金で販売する。法人・個人サービスを合わせたものが会社の言う「ストック事業」で、2024年3月期の売上構成では法人45%・個人37%の計82%を占める、収益の軸である。三つ目は取次販売で、携帯電話・OA機器・保険など他社商品を一括で取り次いで手数料を得るフロー型のビジネスであり、売上構成では18%を占める。
各事業は販売網(法人営業・代理店網)という共通のチャネルで動いており、営業担当者が一つの顧客に複数の商材(通信+電力+保険など)をクロスセルすることで、一件当たりの継続収益(ARPU)を積み上げる構造になっている。
これらの事業で生んだキャッシュフローは、四つ目の柱である純投資事業に回される。国内の中小型株を中心に数百社・時価1兆円超の規模で長期保有し、持分法適用関連会社(34社)からの利益の持分や、保有株式の評価益・配当が純利益に直接反映される。ストック事業・フロー事業は事業会社としての顔、純投資事業は投資会社としての顔であり、光通信はこの二つの顔を併せ持つ会社だと理解する必要がある。
優良さと弱いところ
堀の中心は、通信・電力・保険という複数の継続課金商材を同じ営業チャネルで売り切る販売力と、それを積み上げてきた顧客基盤の厚みにある。単品の通信代理店や単品の保険代理店にはない「複数商材のクロスセル」という組み合わせが、1顧客当たりの収益性を高めている。加えて、本業で得た資金を長期で株式に投資し、数百社規模に分散しながら持分法適用会社を34社抱えるという投資の目利きは、長年にわたり時価が簿価を大きく上回る実績(含み益6,241億円)で裏付けられており、これも一種の競争力だと見ることができる。
一方で、取次販売(携帯電話・OA機器等)は商材そのものに差別化がなく、価格競争と規制強化(携帯端末の値引き規制等)に収益性が削られやすい、優良さの薄い事業である。純投資事業は、株式市場全体の地合いに業績が左右されるため、本業の「継続課金で稼ぐ」という優良さの物語に、市場相場というコントロールできない変数を持ち込んでいる。ROEは12%台で悪くないが、投資先の評価次第で年度ごとに大きく振れる。
資本効率と並んで見るべきは経営の集中度で、創業家(資産管理会社の光パワー等)が合計で株式の半分近くを握り、重田康光氏個人の投資判断への依存度が高い。優良な資本配分の実績はあるが、後継者への引き継ぎという固有の脆さを抱える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ストック事業が立つ市場は、中小企業向けの通信・電力・保険の乗り換え需要と、個人向けの通信・生活インフラの乗り換え需要である。電力・ガスの自由化以降、法人・個人ともに契約の切り替えが定着し、継続的な乗り換え提案を行う代理店モデルには一定の需要が続く。中小企業のバックオフィスDX(クラウド化・ペーパーレス化)も、法人サービスの新規契約の追い風になっている。
フロー・取次販売(携帯電話・OA機器・保険等)の市場は、スマートフォンの買い替えサイクルの長期化と、携帯大手による端末値引き規制(行政指導を含む)、オンライン直販の拡大によって、代理店が受け取る取次手数料そのものが構造的に縮みやすい環境にある。携帯大手3社(NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク)が自社チャネルでの直接販売を強めれば、光通信のような独立系代理店の取り分はさらに削られる可能性がある。
純投資事業が置かれた環境は、国内中小型株市場の相場そのものである。光通信は大量保有報告の件数で突出した存在として知られ、TOB・MBO・完全子会社化・自己株買い・スクイーズアウトといった「イベント」を通じて保有株の出口(キャピタルゲイン)を作る投資スタイルを取ってきた。2025年にはファンド2社とともにレオパレス21に対し最大2,676億円のTOBを実施するなど、買い手側としての大型M&Aにも関与している。株式市場全体が好調であれば評価益が積み上がりやすく、不調であれば含み益の剥落が業績を直接圧迫する、循環に対する感応度の高い構造である。
競合は、通信・電力・保険の代理店という意味では多数の中小代理店や他の通信系代理店(ティーガイア等)、投資という意味では個人投資家や他の事業会社の持株部門がライバルになるが、法人営業網の規模と純投資の両方を同時に持つ会社は国内に他に例が少ない。
資本政策と M&A
株主還元は配当を中心に行われており、純投資で得た評価益・キャピタルゲインも還元の原資になり得る。資本配分の特徴は、本業(ストック・フロー事業)で得たキャッシュフローの一部を成長投資や自社株買いに向けつつ、残りを上場株式への純投資に回す循環モデルにある点で、一般的な事業会社の「配当か成長投資か」という二択とは異なる。
M&Aについては、買う側・買われる側の両方の顔を持つ。買う側としては、2025年にファンド2社とともにレオパレス21に対し最大2,676億円のTOBを実施した例があり、今後も割安と判断した企業への大型出資・TOBに動く可能性がある。一方、光通信自身は大量保有報告を突出して多く提出する会社として知られ、保有先企業のTOB・MBO・完全子会社化といったイベントを通じて保有株を売却し利益を確定させる出口戦略を繰り返しており、保有株式のポートフォリオは常に入れ替わっている。
ガバナンスでは、筆頭株主の有限会社光パワーをはじめ創業家関係者で株式の48%前後を握り、重田康光氏個人の投資判断に経営の重心が置かれている。光通信自身がTOBの対象になる確率は、創業家の支配が強いこともあって高くないと見られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ストック事業は、通信・電力・保険という複数の継続課金商材を同じ営業網でクロスセルする仕組みにより、中小企業のDX需要や電力・保険の乗り換え需要を取り込みながら緩やかに拡大を続けられる。法人・個人向けサービスの合計はすでに売上の8割超を占め、取次販売の縮小を十分に補える規模に育っている。
純投資事業は、数百社・時価1兆円を超える規模まで育った上場株ポートフォリオが、バークシャー・ハサウェイをはじめとする保有先の株価上昇や、持分法適用会社(34社)の増益によって今後も含み益を積み上げていく余地が大きい。光通信は大量保有報告を突出して多く提出する会社として知られ、割安と判断した中小型株に長期で投資し、TOB・MBO・完全子会社化といったイベントで出口を作る投資スタイルを確立している。2025年のレオパレス21へのTOB参加のように、買い手側としての大型M&Aで新たな収益源を作る余地もある。
資本効率を重視する経営方針(資本効率の悪い事業への経営資源の集中を避ける)のもと、ROEは12%台を維持しており、同業の通信・ネット企業と比べても資本配分の規律は高い。創業家による支配は裏を返せば、短期的な市場の圧力に左右されずに長期の株式投資を続けられるという強みにもなり得る。
慎重な見方
フロー・取次販売(携帯電話・OA機器等)は、携帯大手3社による端末値引き規制の強化と買い替えサイクルの長期化、オンライン直販の拡大によって、構造的に縮小が続く事業である。ストック事業がこれを補っているとはいえ、取次販売が本格的に縮小すれば、全社の増益ペースは鈍る。
純投資事業は、株式市場全体が崩れればそのまま業績を直撃する。2026年3月末の有価証券の含み益6,241億円は裏を返せば、同規模の評価損に転じるリスクを抱えているということでもある。リーマン級の株式市場急落では、国内中小型株は大型株よりも下落率が大きくなりやすく、光通信の投資先(中小型株中心)のポートフォリオはより大きな打撃を受けやすい。純利益が営業利益を上回るほど投資関連の寄与が大きいという今の構造は、好調な市場では強みだが、不調な市場では弱みに転じる。
ガバナンス面では、筆頭株主の光パワーをはじめ創業家関係者が株式の48%前後を握り、重田康光氏個人の投資判断への依存度が極めて高い。後継者への資本配分の巧みさの引き継ぎが上手くいかなければ、純投資事業の実績そのものが再現できなくなるリスクがある。大量保有報告を突出して多く提出するという投資スタイルも、保有先企業との関係や市場からの見られ方次第で、純粋な事業投資ではなく思惑的な取引だと評価される余地を残す。
どちらに重みを置いたか
ストック事業の底堅さと純投資の長年の実績は実在するが、取次販売の構造的な縮小と、純利益の大部分を左右する株式市場の地合いへの感応度の高さ、創業家個人への依存という三つの脆さは、通常の通信・ネット企業よりも重く見るべきだと判断した。確率は中立に最も重みを置きつつ、投資ポートフォリオの規模の大きさを踏まえてやや悲観・悲観側もしっかり厚めに置いた。自己資本を流れで出し直し、資本コストを超える分が先で薄れるとして倍率を引き直すと、中立はROE(8%台)が資本コスト7.5%に届かないので、PERの上限は1÷k=11.4倍で、その9割に置く。悲観側を厚くしたため、結論はやや割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 73,149 円3.19 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 14,704 円6,419 億円)。 今の値に割り戻すと 45,733 円2.00 兆円、今との差 +19.8%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 184,071 円8.04 兆円 | 27,191 円1.19 兆円 | +453.6% | +18.7% | 25,351 円1.11 兆円 |
| やや楽観 | 23% | 115,513 円5.04 兆円 | 20,748 円9,058 億円 | +257.1% | +13.6% | 31,340 円1.37 兆円 |
| 中立 | 30% | 60,127 円2.63 兆円 | 15,415 円6,730 億円 | +98.0% | +7.1% | 22,663 円9,894 億円 |
| やや悲観 | 20% | 23,164 円1.01 兆円 | 8,848 円3,863 億円 | −16.1% | −1.7% | 6,402 円2,795 億円 |
| 悲観 | 15% | 12,142 円5,301 億円 | 1,832 円800 億円 | −63.4% | −9.6% | 2,096 円915 億円 |
| 加重平均 | 100% | 73,149 円3.19 兆円 | 14,704 円6,419 億円 | +130.2% | +8.7% | 87,853 円3.84 兆円 |
今の株価時価総額 38,160 円1.67 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 12% ストック事業の多角化と投資ポートフォリオの複利が軌道に乗る 利益 4,377 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 184,071 円8.04 兆円
ストック事業は通信・電力・保険に加え、中小企業向けの新たな継続課金商材(データ活用・セキュリティ等)への多角化が進み、契約件数・ARPUの両方が長期にわたって伸び続ける。取次販売は縮小した規模のまま下支え役として残る。純投資事業は数百社規模のポートフォリオがさらに拡大し、バークシャー・ハサウェイや持分法適用会社の増益、保有先企業のTOB・完全子会社化といったイベントを通じたキャピタルゲインが積み重なり、純投資の時価が自己資本の数倍規模まで育つ。創業家の後継体制も明確になり、長年の資本配分の巧みさが次世代に引き継がれる、ストック事業と投資の両輪が軌道に乗った10年になる。
- ストック事業(法人・個人サービス):数量 700(継続契約件数(万件))× 価格 20(契約1件当たりの年間単価(万円))→ 売上 13,860 億円・営業利益 3,465 億円。契約件数700万件×年間単価19.8万円、営業利益率25%
- フロー・取次事業(携帯・OA機器等):数量 220(取次件数(万件))× 価格 6.00(1件当たりの取次手数料(万円))→ 売上 1,320 億円・営業利益 132 億円。取次件数220万件×単価6.0万円、営業利益率10%
倍率:事業の純利益 4,377 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.36 倍、時価総額 80,362 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ストック事業が新たな継続課金商材に多角化し、純投資事業も数百社規模のポートフォリオがさらに拡大し、創業家の後継も円滑に進む組み合わせを想定した。複数の前提が長期にわたり同時に成立する必要があるため確率は抑えた。
やや楽観 23% ストック事業の深化と投資の長期上昇が続く 利益 3,009 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 115,513 円5.04 兆円
ストック事業は中小企業・個人向けの乗り換え需要を取り込み続け、クロスセルの深化でARPUも緩やかに伸びる。電力・保険のクロスセル比率が高まり、1顧客当たりの継続収益が10年を通じて積み上がっていく。取次販売は構造的な縮小が続くものの、OA機器・保険の取次が一定の下支えを保つ。純投資事業は、加盟店手数料的な安定収益は持たないが、持分法適用会社の増益と株式市場の長期的な上昇基調に乗って評価益が着実に積み上がり、純投資の時価が自己資本と同程度の規模で拡大を続ける。創業家主導の資本配分は変わらず続き、大きなガバナンス上の混乱もない10年になる。
- ストック事業(法人・個人サービス):数量 607(継続契約件数(万件))× 価格 19(契約1件当たりの年間単価(万円))→ 売上 11,466 億円・営業利益 2,523 億円。契約件数607万件×年間単価18.89万円、営業利益率22%
- フロー・取次事業(携帯・OA機器等):数量 197(取次件数(万件))× 価格 5.70(1件当たりの取次手数料(万円))→ 売上 1,123 億円・営業利益 90 億円。取次件数197万件×単価5.7万円、営業利益率8%
倍率:事業の純利益 3,009 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.76 倍、時価総額 50,431 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ストック事業のクロスセル深化が続き、純投資事業も持分法適用会社の増益と株式市場の長期上昇基調に乗って評価益が着実に積み上がる組み合わせを想定した。
中立 30% ストック事業が主役に、取次は縮小、投資は市場並み 利益 1,846 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 60,127 円2.63 兆円
ストック事業は中小企業・個人向けの乗り換え需要を取り込みながら、物価並みの成長をかろうじて保つ。新規契約の獲得は電力・保険の既存顧客への追加提案が中心になり、通信回線単体での新規開拓は鈍る。取次販売は携帯大手の直販強化とオンライン化の進展で縮小が続き、全社の成長の主役ではなくなる。純投資事業は株式市場の長期的な上昇基調には乗るが、中小型株中心のポートフォリオゆえに大型株指数ほどの伸びにはならず、評価益の拡大ペースは緩やかにとどまる。創業家主導の資本配分体制は10年を通じて変わらず続く、会社の現状をそのまま延長した10年になる。
- ストック事業(法人・個人サービス):数量 502(継続契約件数(万件))× 価格 18(契約1件当たりの年間単価(万円))→ 売上 9,041 億円・営業利益 1,718 億円。契約件数502万件×年間単価18.01万円、営業利益率19%
- フロー・取次事業(携帯・OA機器等):数量 168(取次件数(万件))× 価格 5.10(1件当たりの取次手数料(万円))→ 売上 857 億円・営業利益 51 億円。取次件数168万件×単価5.1万円、営業利益率6%
倍率:事業の純利益 1,846 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.22 倍、時価総額 26,250 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ストック事業が物価並みの成長をかろうじて保ち、取次販売が成長の主役ではなくなり、純投資事業も中小型株中心で市場並みの伸びにとどまる、会社の構造を素直に延長した中心シナリオ。
やや悲観 20% 取次がほぼ役割を失い、投資も停滞 利益 734 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 23,164 円1.01 兆円
取次販売は携帯大手の直販強化とオンライン直販の拡大でほぼ下支えの役割を失い、ストック事業の多角化も競合(通信・電力大手の自社チャネル、他の代理店)との競争で想定より伸びが鈍る。新規契約の獲得コストが上昇し、既存顧客の解約率もじわりと上がる。純投資事業は中小型株中心のポートフォリオが長期の株式市場の停滞局面に巻き込まれ、評価益の拡大がほぼ止まり、一部の持分法適用会社では業績不振による損失計上も出てくる。創業家の後継がうまく進まず、資本配分の巧みさが以前より発揮されにくくなる、守りの経営に終始する10年になる。
- ストック事業(法人・個人サービス):数量 424(継続契約件数(万件))× 価格 16(契約1件当たりの年間単価(万円))→ 売上 6,924 億円・営業利益 969 億円。契約件数424万件×年間単価16.33万円、営業利益率14%
- フロー・取次事業(携帯・OA機器等):数量 132(取次件数(万件))× 価格 4.50(1件当たりの取次手数料(万円))→ 売上 594 億円・営業利益 18 億円。取次件数132万件×単価4.5万円、営業利益率3%
倍率:事業の純利益734億円・事業のROE3.8%。ROEがk7.5%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=11.4倍まで。上限は事業734億円×11.4倍+余った現金0億円=8,390億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の8.5割に置き、時価総額7,131億円、全体のPERに直して9.7倍。
確率:取次販売が携帯大手の直販強化でほぼ下支えの役割を失い、ストック事業の多角化も競合との競争で伸びが鈍り、純投資事業も株式市場の停滞局面に巻き込まれる組み合わせを想定した。
悲観 15% 構造的に地位を失い、もう優良企業ではない 利益 −1,098 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 12,142 円5,301 億円
携帯大手の直販強化とオンライン直販の拡大で取次販売はほぼ消滅同然の規模まで縮小し、ストック事業もクラウド型の通信・電力サービスを自前で提供する大手との競争に敗れてシェアを失う。株式市場は長期にわたり低迷し、純投資の保有有価証券は含み益の大半を失って評価損に転じ、持分法適用会社の一部も業績不振で損失を計上する。保有有価証券の一部売却を原資に最低限の配当を維持するものの、創業家の後継がうまくいかず、重田康光氏個人に依存していた資本配分の巧みさが再現できなくなり、純投資事業の実績そのものが過去の遺産になる。構造的に地位を失い、もはや優良企業とは言えない状態に陥った10年になる。
- ストック事業(法人・個人サービス):数量 346(継続契約件数(万件))× 価格 15(契約1件当たりの年間単価(万円))→ 売上 5,124 億円・営業利益 461 億円。契約件数346万件×年間単価14.81万円(大手との競争でシェア低下)、営業利益率9%
- フロー・取次事業(携帯・OA機器等):数量 92.0(取次件数(万件))× 価格 3.60(1件当たりの取次手数料(万円))→ 売上 331 億円・営業利益 2 億円。取次件数92万件(ほぼ消滅同然)×単価3.6万円、営業利益率0.5%
倍率:悲観は純投資の評価損で純利益が赤字になり、利益の倍率では測れないのでPBRで置く。値は、売れる資産の床(有価証券の簿価約8,523億円−純有利子負債5,486億円=約3,037億円)に、残るストック事業の稼ぐ力(営業利益283億円×(1−税30%)÷k7.5%=約2,264億円)を足した5,301億円で、今の自己資本11,857億円に掛けるPBR0.45倍。EVを営業利益で割ると40倍近いが、借入は保有株を支えるものでこの年は資産で測っている。
確率:取次販売が携帯大手の直販強化でほぼ消滅同然となり、ストック事業も大手の自社チャネルとの競争に敗れ、株式市場の長期低迷で純投資の含み益が消え、創業家の後継にも失敗する筋書き。10年の構造的な悲観として他業種と同水準の重みを置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ストック事業(法人・個人サービス)
中小企業・個人向けの通信回線・電力・ガス・保険・店舗予約サイト等を継続課金で販売する、法人サービスと個人サービスの合計。
| 数量継続契約件数(万件) | 価格契約1件当たりの年間単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 450 | 13 | 6,030 | 1,085 |
| 10 年後 中立 | 502 | 18 | 9,041 | 1,718 |
取り方:法人サービス(中小企業向け通信・電力・保険等)と個人サービス(個人向け通信・電力等)の合計を『ストック事業』とし、2024年3月期の売上構成比(法人45%・個人37%の合計82%)をbrief.pyの2026年3月期売上収益7,348億円に当てはめて売上を概算した(約6,030億円)。契約件数(万件)×年間単価(万円)で数量×価格に分解した推定値。営業利益率は継続課金の高マージン特性から18%と置いた。
フロー・取次事業(携帯・OA機器等)
携帯電話・OA機器・保険など他社商品を一括で取り次いで手数料を得る、フロー型の取次販売事業。
| 数量取次件数(万件) | 価格1件当たりの取次手数料(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 220 | 6.00 | 1,320 | 106 |
| 10 年後 中立 | 168 | 5.10 | 857 | 51 |
取り方:取次販売(携帯電話・OA機器・保険等の他社商品の取次)を『フロー事業』とし、2024年3月期の売上構成比(取次18%)をbrief.pyの2026年3月期売上収益に当てはめて売上を概算した(約1,320億円)。取次件数(万件)×1件当たりの取次手数料(万円)で分解した推定値。営業利益率は販促費・人件費負担を踏まえ8%と置いた。取次手数料は携帯大手・保険会社等が定める料率で決まり、端末値引き規制とオンライン直販の拡大で競争が強まっているため、中立・悲観の筋書きでは物価並みに上げず据え置き・下落で置いた(1件当たり単価の低下は量の減少とセットで、価格に物価上昇を乗せない理由)。
リスクと懸念
純投資ポートフォリオの評価損リスク
純投資の保有有価証券は2026年3月末時点で時価1兆4,764億円・含み益6,241億円に達し、自己資本(1兆1,857億円)を上回る規模まで育っている。この含み益は裏を返せば同規模の評価損に転じ得るということであり、株式市場全体がリーマン級に急落すれば、純利益・自己資本の双方が大きく圧迫される。
取次販売(携帯・OA機器等)の構造的な縮小
携帯大手3社による端末値引き規制の強化、買い替えサイクルの長期化、オンライン直販の拡大によって、取次販売事業の収益性は構造的に縮みやすい。ストック事業の拡大で補っているが、取次販売の縮小ペースが想定より速ければ、全社の増益ペースが鈍る。
創業家への経営・投資判断の集中
筆頭株主の有限会社光パワーをはじめ創業家関係者で株式の48%前後を握り、重田康光氏個人の投資判断に経営の重心が置かれている。長年の資本配分の実績は評価できるが、後継者への引き継ぎが上手くいかなければ、純投資事業の実績そのものが再現できなくなるリスクがある。
大量保有・イベント投資スタイルへの評価リスク
光通信は中小型株への大量保有報告を突出して多く提出し、TOB・MBO・完全子会社化などのイベントを通じて保有株の出口を作る投資スタイルを取る。この手法が市場や投資先企業から思惑的な取引だと評価されれば、保有先との関係悪化や規制強化を通じて投資機会そのものが狭まる可能性がある。
中小企業向け市場の景気感応度
法人サービスの主要顧客は中小企業であり、景気後退期には中小企業の通信・電力・保険の契約見直し・解約が増えやすい。個人向けサービスも消費の冷え込みに感応するため、リーマン級の不況ではストック事業の新規契約・継続率が同時に鈍る。
大型M&Aの実行リスク
レオパレス21へのTOB参加のように、光通信は買い手側としての大型M&Aにも関与する。買収価格が割高であったり、買収後の統合がうまくいかなければ、純投資事業で築いてきた良好な実績を損ない、純有利子負債(自己資本の約46%)をさらに積み上げる要因になる。
規制・会計基準変更のリスク
電力・通信の販売代理店に対する規制(景品表示法、販売勧誘規制等)の強化や、保有株式の会計上の評価方法(IFRSの金融商品基準)の見直しが行われれば、ストック事業の収益性や純投資の損益計上のタイミングに影響が及ぶ可能性がある。
今後の分かれ目
- 株式市場全体(TOPIX・中小型株指数)が大きく下落したら
- 純投資の評価益が剥落し純利益・自己資本が圧迫されるとみて、やや悲観・悲観側の確率を上げる。
- レオパレス21など大型M&Aの統合が順調に進み、新たな持分法利益の寄与が決算で確認できたら
- 純投資事業の実力が裏付けられたとみて楽観・やや楽観側の確率を上げる。
- 取次販売(携帯・OA機器等)の売上が数年連続で大きく減少したら
- フロー事業の縮小がストック事業の拡大を上回っているとみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 重田康光氏の後継体制(資本配分を担う経営体制)が明確に発表されたら
- ガバナンス集中リスクが和らぐとみて、悲観側に厚く置いた確率を見直し、楽観側の確率を上げてよい
- 大量保有報告の件数・保有先への介入が規制強化や訴訟などで制約を受けたら
- 純投資事業のイベント投資スタイルが制約されるとみて、悲観側の確率を上げる。
- ストック事業(法人・個人サービス)の売上構成比がさらに拡大し取次販売への依存度が下がったら
- 事業の優良さが高まっているとみて楽観・やや楽観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 純投資保有有価証券の時価・含み益(決算説明資料「純投資概要」)の推移
- ストック事業(法人・個人サービス)とフロー・取次販売の売上構成比の変化
- 大量保有報告の件数・保有先でのTOB・MBO等のイベント発生状況
- 重田康光氏・光パワーグループの保有比率と後継体制に関する開示
- 純有利子負債・自己資本比率の推移と株主還元方針の変更
倍率と資本コストの決め方
ストック・取次・純投資の3層に分け、契約件数×単価と投資の時価の伸びで積んだ。純投資の損益は営業外に入るので、純利益が営業利益を上回る理由を net_op_why に書いた。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k7.5%、堀は並みで残る割合1/2)に対する位置で置いた。楽観は上限の8割、やや楽観7.5割、中立9割、やや悲観8.5割、悲観は事業の純利益÷kの稼ぐ力(と純現金)の(赤字のため資産の床で別に置いた)割。今のPERや同業の倍率、谷の倍率は見ていない。悲観は赤字なので、売れる資産の床(簿価−純有利子負債)に残る事業の稼ぐ力を足してPBRにした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.14→18.36 倍・やや楽観 PER 9.66→16.76 倍・中立 PER 10.29→14.22 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。