結論
中央発條はトヨタ系のばねメーカーだ。車の足回りを支えるシャシばねが売上の約半分を占め、SUV のバックドアを開け閉めするばねや、車載ケーブルが残りを担う。トヨタ自動車が議決権の約 25% を持ち、売上の 34% はトヨタ向けである。
筆者の結論は、今の値段は割高だ。一番の理由は、稼ぐ力より株価が先に走っていることにある。直近の純利益は大きく見えるが、投資有価証券を売った一度きりの利益で、本業の営業利益は 28 億円しかない。会社が示す今期の純利益は 24 億円で、時価総額はその 39 倍にあたる。
会社の中期計画は、2030 年度に営業利益率 7% を掲げる。過去 10 年の最高は 4% で、足元の第 1 四半期は前年の 4% しか営業利益が出ていない。計画どおりに進んだ筋書きでも、ROE は資本コストの手前にとどまり、価値は今の時価総額と同じ程度だ。
ただ、見るべき点もある。車用ばねは寡占で、SUV 向けの精密ばねは利益率が高い。親会社のトヨタが TOB に動く可能性もある。だがそれは買い手の都合で決まる値段で、本質価値とは別の話だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、10 年後もこの会社が車に要るばねを作っているか、稼いだお金を株主に残せるか、の 2 つだ。前者の答えはイエス、後者はまだノーである。
寡占の部品会社という事業の形は悪くない。だが利益は薄く、営業利益率は 10 年間で 4% を超えたことがない。稼いだお金の多くは設備更新と安全対策に消え、株主の手元に残るオーナー利益は、見かけの純利益よりさらに小さい。資本に見合う稼ぎを出しているのは、精密ばねだけである。
経営は資本の使い方で問われる。売却益で現金は増えたが、その使い道は示されていない。DOE 3% は最低限の約束にすぎない。
安全域は無い。ROE が資本コストに届かない会社に、帳簿の価値を超える値段を払う理由は見当たらない。7% の利益率が実績として出るまで、今の値段は計画の先取りだと考える。
何で稼ぐ会社か
事業は 4 つに分かれる。売上の約半分がシャシばね、2 割強が精密ばね、残りをケーブルと非自動車が分け合う。
シャシばねは、車体を支えるコイルばねやスタビライザーなどだ。車の安全に直結するため、供給が止まれば完成車の工場が止まる。実際、2025 年 3 月の藤岡工場の爆発事故ではトヨタの工場が止まった。代わりの利かない部品だが、値段を決める力が強いわけではない。発注するトヨタが価格の主導権を握っているからだ。利益は薄く、2026 年 3 月期はシャシばねだけで 4 億円の赤字だった。
精密ばねは、SUV のパワーバックドアに使うばね(PBD)が中心だ。営業利益率は 9% と、全社でいちばん高い。日本・米国に続いてインドの合弁でも生産を始め、欧米系の自動車メーカーからも受注した。
ケーブルは、シフトやパーキングブレーキを動かす車載ケーブルだ。電動化で電気式に置き換わるため、縮む事業である。非自動車は産業機器向けのばねなどで、売上の 15% 弱ながら営業利益率は 6% 台と安定している。
顧客はトヨタ向けが 34% で、そのトヨタは親会社でもある。トヨタ以外にも完成車メーカーへ広がるが、この依存の高さが会社の最大の特徴だ。
優良さと弱いところ
優良さは事業ごとに差が大きい。精密ばねは優良、シャシばねは並、ケーブルは先細りだ。
堀、つまり他社がまねできない強みは、技術と、完成車メーカーの認証・品質の実績にある。車用ばねは寡占で、新しく入る会社は少ない。ただ、寡占であることと、利益が出ることは別だ。シャシばねの価格はトヨタとの交渉で決まり、鋼材高の転嫁には時間がかかる。営業利益率は過去 10 年で 0.4〜4.0% と薄い。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 2.9% で、資本コストを下回り続けた。直近の ROE 14% は売却益で膨らんだ見かけの数字だ。財務は堅く、自己資本比率は 57%、純有利子負債はマイナスである。ただし純現金は時価総額の 1 割に満たず、余った現金として切り分けるほどではない。
気になるのは工場の安全だ。同じ藤岡工場で 2023 年 10 月と 2025 年 3 月に爆発が起き、後者では死者が 1 人出た。後者の発生源は集じん機とされる。品質と安全で信頼を築く部品会社にとって、これは堀を削る傷だ。経営の質を見るうえで、筆者が最も重く見ている点である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
車用ばねは寡占の市場で、世界ではムベア(ドイツ系)、ニッパツ(日本発條)、中央発條などが上位に並ぶ。ある簡易推計では、中央発條の世界シェアは 1.6% で 8 位、ニッパツは 7.9% で 3 位だ。トヨタ向けに強い国内の専業という位置づけである。
数量の見通しは平らだ。世界の乗用車生産は年 9,300 万台前後で横ばい圏にあり、EV 化が進んでもばね自体は要る。車が重くなる分、足回りへの要求はむしろ上がる。一方でケーブルは電動化で置き換わり、縮んでいく。
価格は物価並みに上がるのが前提だが、自動車メーカーは毎年のように部品の値下げを求める。鋼材高を転嫁できるかどうかが利益率を決める。2026 年 7 月発表の第 1 四半期は、売上が 5% 増えたのに営業利益は 96% 減った。固定費の増加と、北米の関税・資材高が重なった。
中期計画(2025 年 7 月発表)は 2030 年度に売上 1,300 億円、営業利益 91 億円、ROE 8%、PBR 1 倍以上を掲げる。シャシばねの営業利益を 4 億円の赤字から 46 億円へ引き上げる計画だが、値上げが通り、設備更新費が落ち着くことが前提になる。精密ばねは SUV の需要が追い風で、2030 年度の営業利益 30 億円を目標にしている。
資本政策と M&A
還元は、配当性向 30% 以上と DOE(自己資本に対する配当の割合)3% を目安とする。累進配当や下限は置かない。今期の配当は前期から 5 割増える予定だが、会社予想の純利益 24 億円の大半を配当に回す計算で、余裕は小さい。自社株買いは確認できなかった。
直近の純利益 124 億円は、投資有価証券を売って得た約 129 億円の利益が押し上げた。売却した銘柄は確認できていない。政策保有株の整理は資本効率には前向きだが、配当収入が減る分、次期以降の経常利益は下がる。
大型の M&A はなく、投資は藤岡工場の設備更新やインドの合弁など既存事業が中心だ。トヨタ自動車が議決権の 24.48% を持つ「その他の関係会社」で、会社は独立性を確保していると開示している。kabufu の推計では 10 年以内の TOB・買収の確率は 19.4% だ。完全子会社化されれば少数株主に値段が付くが、その値段は本質価値の計算には入れていない。
還元は方針(配当性向30%以上・DOE3%)どおりで、中立は純利益の合計(起点は一過性の売却益を除いた24億円)の約8割。持ち合い株の含み益107億円は還元に入れず時価総額に足す。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
シャシばねの赤字は、一時的な費用の山だ。爆発事故のあとに続いた安全投資と、古くなった設備の更新が重なっただけで、これが一巡すれば固定費が落ち、黒字化は届く。シャシばねの営業利益は 4 億円の赤字から 2027 年度に 11 億円、2030 年度には 46 億円へ戻る。
精密ばねは本物の成長事業だ。SUV の比率が高まるほど、バックドア自動開閉の搭載率も上がる。同社はインドの合弁で能力を 1 割増やし、欧米系の受注まで取った。営業利益率は 9% で、全社の利益の中核になる。
トヨタの後ろ盾も大きい。親会社が議決権の 4 分の 1 を持ち、売上の 3 分の 1 を預けている。止めれば工場が止まる部品だから、代わりを探すのも簡単ではない。
財務は自己資本比率 57% で借金がなく、売却益で得た現金もある。TOB の可能性も約 2 割ある。起きれば少数株主には大きな上乗せがつく。会社が掲げる ROE 8% の目標が実現すれば、PBR 1 倍は妥当な値段だ。
慎重な見方
利益が出ない構造は変わらない。営業利益率は 10 年間で 0.4〜4.0% の間を動いただけで、会社目標の 7% は過去最高の 1.75 倍だ。シャシばねの価格はトヨタが握り、鋼材高の転嫁は後追いになる。第 1 四半期の営業利益が前年の 4% しか出なかったのは、それを示している。
事故は決定的だ。同じ藤岡工場で 2 度爆発し、トヨタの工場を止め、死者まで出した。トヨタが供給元を二重化すれば、シャシばねの数量が直接削られる。安全対策と更新投資は今後も続き、利益を吸う。
ケーブルは電動化で置き換わる。精密ばねの高い利益率も、ムベアなどが PBD に力を入れれば守れる保証はない。
値段の面でも、直近の純利益 124 億円は一度きりの売却益で、今期の純利益 24 億円は時価総額の 39 分の 1 しかない。ROE は過去 10 年の中央値が 2.9% で、資本コストを大きく下回る。帳簿の自己資本に近い値段を払う根拠が無い。TOB を当て込んで買う値段は、本業の価値ではなく賭けの値段だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが事実に近い。決め手は、10 年のあいだ営業利益率が 4% を超えたことのない会社に、7% を前提にした値段がついていることだ。強気の見方から採ったのは、精密ばねの成長と、親会社の後ろ盾による取引の安定である。この 2 つで悲観に落ち切らせず、中立を最も重く置いた。ただ、同じ工場で事故が繰り返された点と第 1 四半期の利益の落ち込みを重く見て、悲観側に 43% を置き、楽観側は 20% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,938 円489 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,004 円253 億円)。 今の値に割り戻すと 1,525 円385 億円、今との差 −58.6%、 期待の年率 −2.2%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 4,163 円1,050 億円 | 1,507 円380 億円 | +54.1% | +4.4% | 283 円72 億円 |
| やや楽観 | 15% | 3,107 円784 億円 | 1,308 円330 億円 | +20.0% | +1.8% | 662 円167 億円 |
| 中立 | 37% | 2,142 円540 億円 | 1,110 円280 億円 | −11.6% | −1.2% | 1,203 円303 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,151 円290 億円 | 872 円220 億円 | −45.0% | −5.8% | 567 円143 億円 |
| 悲観 | 15% | 991 円250 億円 | 515 円130 億円 | −59.1% | −8.5% | 226 円57 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,938 円489 億円 | 1,004 円253 億円 | −20.1% | −2.2% | 2,941 円742 億円 |
今の株価時価総額 3,680 円928 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 計画どおり利益率が上がり、親会社の後ろ盾も生きる 利益 89 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,163 円1,050 億円
10 年後、会社の中期計画が最後までほぼ実現した姿だ。藤岡工場の設備更新と安全投資が一巡し、シャシばねは固定費の重さを脱して黒字を定着させる。SUV 向けのパワーバックドア用ばねはインド・米国・日本の 3 拠点で欧米系の自動車メーカーにも広がり、精密ばねが利益の柱になる。ケーブルは電子化の波で縮むが、残す品目を絞って赤字を止める。
トヨタは中央発條を、供給を止めない大事な部品会社として使い続ける。部品価格の引き下げ要求が弱まり、鋼材高を転嫁できる年が続く。会社は DOE 3% の方針を守りつつ、利益が増えた分で還元を厚くする。ただ、それでも自己資本の厚さは変わらず、ROE は資本コストの手前で止まる。いちばんうまくいった姿でも、筆者は今の時価総額に届かないと見ている。
- シャシばね:数量 14.0(世界の乗用車生産(百万台)× 同社の搭載シェア(百万台相当))× 価格 55(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 776 億円・営業利益 39 億円。計画どおり黒字化、営業利益率 5%
- 精密ばね:数量 17.0(精密ばねを使う車両相当数(百万台))× 価格 27(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 456 億円・営業利益 46 億円。PBD が海外で伸び、営業利益率 10%
- ケーブル:数量 8.0(ケーブルを使う車両相当数(百万台))× 価格 21(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 169 億円・営業利益 5 億円。赤字を止め 3%
- 非自動車:数量 36.0(ばね・部品の出荷重量(千トン、推定))× 価格 6.70(1(千トン)あたり売上(億円・名目))→ 売上 241 億円・営業利益 17 億円。産業用ばね堅調、7%
倍率:事業の純利益 87 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)80 億円。全体の PER 12.28 倍、時価総額 1,151 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 11.8 倍・時価総額 1,047 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:会社の 2030 年度目標(営業利益率 7%)は過去最高の 4% の 1.75 倍で、安全対策費と関税で足元は逆向きだ。実現には値上げの通る環境と事故ゼロが重なる必要があり、5% にとどめた。
やや楽観 15% 精密ばねが伸び、シャシばねの赤字は抜ける 利益 66 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,107 円784 億円
精密ばねが全社の伸びを引っ張る 10 年だ。SUV のバックドア自動開閉は世界で標準装備に近づき、PBD 用ばねの出荷がインドの新拠点を含めて着実に増える。シャシばねは赤字から抜けるものの、利益率は 3% 台にとどまる。トヨタ系の部品会社として値決めの主導権はトヨタ側にあり、鋼材高の転嫁には毎年交渉が要るからだ。
ケーブルは電動化で数量が減り続けるが、損失は小さくなる。非自動車の産業用ばねは堅調で、全社の営業利益率は過去最高の 4% を超える。安全対策の費用は継続するものの、事故の再発はなく、会社は配当を DOE 3% 水準で積み増す。トヨタによる株式の買い増しや完全子会社化の話は出ない前提だ。
- シャシばね:数量 13.5(世界の乗用車生産(百万台)× 同社の搭載シェア(百万台相当))× 価格 55(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 749 億円・営業利益 26 億円。赤字を抜け 3.5%
- 精密ばね:数量 15.5(精密ばねを使う車両相当数(百万台))× 価格 27(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 415 億円・営業利益 39 億円。PBD 増、9.5%
- ケーブル:数量 7.5(ケーブルを使う車両相当数(百万台))× 価格 22(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 163 億円・営業利益 3 億円。数量減で 2%
- 非自動車:数量 34.5(ばね・部品の出荷重量(千トン、推定))× 価格 6.70(1(千トン)あたり売上(億円・名目))→ 売上 231 億円・営業利益 15 億円。堅調、6.5%
倍率:事業の純利益 65 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)80 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 842 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:精密ばね(PBD)の海外展開は進んでおり、シャシばねの赤字が固定費の落ち着きで消える筋書きは現実味がある。ただ過去の利益率の上限を超えるため 15% に置いた。
中立 37% 薄利のまま物価並みに伸びる 利益 46 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,142 円540 億円
シャシばねとケーブルは車の台数と値上げの分だけ名目で伸び、利益はほとんど残らない。トヨタ向けが中心で値決めの主導権は握れず、鋼材高の転嫁は後追いになる。一方で精密ばねは SUV 向けの需要を取り込み、数量が 1 割強増えて、全社の利益の半分以上を稼ぐ。
全社の営業利益率は 4% 弱で、過去の最高水準に並ぶ程度だ。安全対策と設備更新の費用が定常的にかかり、会社の 7% 目標には届かない。還元は DOE 3% の方針に沿って続き、自己資本は緩やかに積み上がる。ROE は資本コストに届かないまま、普通の部品会社として評価される 10 年になる。
- シャシばね:数量 13.0(世界の乗用車生産(百万台)× 同社の搭載シェア(百万台相当))× 価格 55(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 721 億円・営業利益 14 億円。台数横ばい・物価並みの値上げ、2%
- 精密ばね:数量 13.5(精密ばねを使う車両相当数(百万台))× 価格 27(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 362 億円・営業利益 31 億円。SUV 向け増、8.5%
- ケーブル:数量 7.0(ケーブルを使う車両相当数(百万台))× 価格 22(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 152 億円・営業利益 2 億円。電子化で数量減、1%
- 非自動車:数量 33.0(ばね・部品の出荷重量(千トン、推定))× 価格 6.70(1(千トン)あたり売上(億円・名目))→ 売上 221 億円・営業利益 13 億円。物価並み、6%
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)80 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 599 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 10 年の営業利益率の中央値に近い薄利が続く姿を、いちばん近い道筋として最も重く置いた。強気・慎重のどちらの言い分も半分ずつ通る。
やや悲観 28% 値下げ圧力と固定費増で利益が消えていく 利益 20 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,151 円290 億円
トヨタを筆頭に完成車メーカーの値下げ要求が続き、鋼材高の転嫁が追いつかない。シャシばねの価格は物価ほど上がらず、台数も EV 化と中国メーカーの台頭で細る。1Q に出た固定費増と北米関税の重さが 10 年にわたって居座り、全社の営業利益率は 2% 台に落ちる。
精密ばねは SUV 需要に支えられるが、取引先が二重調達を進めて数量の伸びは小さい。ケーブルは電子化で減り、再び赤字になる。会社は DOE の方針を守るので、利益を超える配当が自己資本を取り崩す年も出る。事故の再発はないが、安全投資の負担が重く、資本を食う事業が残る。
- シャシばね:数量 12.0(世界の乗用車生産(百万台)× 同社の搭載シェア(百万台相当))× 価格 54(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 646 億円・営業利益 3 億円。値下げ要求で価格 1.30 倍にとどまる、0.5%
- 精密ばね:数量 11.5(精密ばねを使う車両相当数(百万台))× 価格 25(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 288 億円・営業利益 19 億円。二重調達で伸び鈍化、価格 1.25 倍、6.5%
- ケーブル:数量 5.5(ケーブルを使う車両相当数(百万台))× 価格 20(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 112 億円・営業利益 −1 億円。再び赤字、-1%
- 非自動車:数量 31.0(ばね・部品の出荷重量(千トン、推定))× 価格 6.50(1(千トン)あたり売上(億円・名目))→ 売上 202 億円・営業利益 9 億円。価格 1.30 倍、4.5%
倍率:悲観側の床は稼ぐ力(純利益÷k)でなく、売れる資産の税後(純現金・残る持ち合い株・土地)で測る。今の自己資本877億円に掛けた値。
確率:1Q の営業利益は前年の 4% しか出ておらず、固定費と関税で利益が削られる流れが現にある。事故後の安全投資も続くため、やや悲観を中立に近い重みの 28% とした。
悲観 15% 事故と値下げが重なり、取引の土台が崩れる 利益 −12 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 991 円250 億円
3 度目の重大事故が起き、トヨタが供給元の分散に動く。部品の調達を二重化されるとシャシばねの数量は 3 割近く落ち、固定費の重い藤岡工場を中心に赤字が続く。精密ばねも欧米系の新規受注が伸びず、利益が薄くなる。ケーブルは電子化でほぼ消える。
親会社の後ろ盾は残るが、救済はない。会社はリストラと遊休資産の売却で食いつなぎ、配当は DOE の方針を守れず縮小する。売れるのは純現金と一部の保有株式、工場設備の一部だけで、事業の稼ぐ力は市場から問われなくなる。優良な部品会社という評価は完全に外れ、会社の値段は、売って手元に残る資産の額で決まる。
自動車部品の取引は、一度他社に移ると戻りにくい。トヨタの調達方針の変更は、会社の存続よりも先に、事業の価値を大きく動かす。10 年かけて顧客と利益が失われていく、ゆるやかな後退がこの筋書きの中身である。
- シャシばね:数量 9.5(世界の乗用車生産(百万台)× 同社の搭載シェア(百万台相当))× 価格 50(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 472 億円・営業利益 −9 億円。数量 3 割減・価格 1.20 倍、-2%
- 精密ばね:数量 8.0(精密ばねを使う車両相当数(百万台))× 価格 23(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 184 億円・営業利益 6 億円。新規受注失速、価格 1.15 倍、3%
- ケーブル:数量 4.0(ケーブルを使う車両相当数(百万台))× 価格 19(1(百万台相当)あたり売上(億円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 −3 億円。ほぼ消える、-4%
- 非自動車:数量 27.0(ばね・部品の出荷重量(千トン、推定))× 価格 6.00(1(千トン)あたり売上(億円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 3 億円。需要減、2%
倍率:悲観側の床は稼ぐ力(純利益÷k)でなく、売れる資産の税後(純現金・残る持ち合い株・土地)で測る。今の自己資本877億円に掛けた値。
確率:同じ工場で 2 度爆発し、トヨタの工場を止めた会社の信用は脆い。取引先がばねの二重調達に動けば数量が落ちる。悲観を 15% と通常より厚く置いた(k とは別に、筋書きと確率で表す)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
シャシばね
車の足回りを支えるコイルばね・スタビライザーなど。トヨタ系の主力で、売上の約半分。
| 数量世界の乗用車生産(百万台)× 同社の搭載シェア(百万台相当) | 価格1(百万台相当)あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13.0 | 41 | 538 | −4 |
| 10 年後 中立 | 13.0 | 55 | 721 | 14 |
取り方:世界の乗用車生産を年 9,300 万台とし、トヨタ向けを中心とする搭載シェアを約 14% と推定して 13.0 百万台相当と置いた。2026/03 期の売上 538 億円をこれで割って 1 百万台あたり 41.4 億円とした。開示は金額のみで、台数は推定。シェアの変化は数量側、鋼材高の転嫁と値下げ要求は価格側に入れる。
精密ばね
SUV のパワーバックドア用ばね(PBD)を中心とする精密ばね。利益率が最も高い。
| 数量精密ばねを使う車両相当数(百万台) | 価格1(百万台相当)あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.8 | 20 | 255 | 23 |
| 10 年後 中立 | 13.5 | 27 | 362 | 31 |
取り方:PBD ばねの 1 台あたり単価を推定し、売上 255 億円から 12.75 百万台相当と置いた(世界の乗用車生産の約 14%)。開示は金額のみで推定。インド拠点などによる能力増は数量側に、単価は価格側に入れる。
ケーブル
シフトやパーキングブレーキなどの車載コントロールケーブル。電動化で縮む事業。
| 数量ケーブルを使う車両相当数(百万台) | 価格1(百万台相当)あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9.3 | 16 | 151 | 2 |
| 10 年後 中立 | 7.0 | 22 | 152 | 2 |
取り方:1 台あたり単価を推定し、売上 151 億円から 9.3 百万台相当と置いた(世界生産の約 10%)。電動化でシフトバイワイヤなどへ置き換わる分は数量の減少で表す。開示は金額のみで推定。
非自動車
産業機器向けのばね・部品など、自動車以外の小粒な事業の集合。
| 数量ばね・部品の出荷重量(千トン、推定) | 価格1(千トン)あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 32.8 | 5.00 | 164 | 11 |
| 10 年後 中立 | 33.0 | 6.70 | 221 | 13 |
取り方:平均単価を 1 トンあたり 50 万円と仮置きし、売上 164 億円から出荷重量を 32.8 千トンと逆算した。開示は金額のみで推定。物価分は単価(価格側)に入れる。
リスクと懸念
工場事故の再発
藤岡工場では 2023 年 10 月と 2025 年 3 月に爆発が起き、後者では死者が出てトヨタの工場が止まった。3 度目が起きれば、トヨタが供給元を二重化し、シャシばねの数量が直接削られる。信用を失えば、設備更新や安全対策の費用も重くなる。
利益率の低さと値決めの弱さ
営業利益率は過去 10 年で 0.4〜4.0% にとどまる。値段を発注するトヨタが握り、鋼材高の転嫁は後追いだ。2027 年 3 月期の第 1 四半期は営業利益が前年の 4% まで落ちた。固定費の増加が続けば、会社目標の 7% は遠い。
トヨタへの依存
売上の 34% がトヨタ向けで、議決権の約 25% も持たれている。トヨタの生産が落ちれば数量が直撃し、部品価格の引き下げ要求も逃れにくい。トヨタ系の再編で調達の方針が変われば、取引の形が変わるおそれもある。
電動化によるケーブルの縮小
ケーブルはシフトやブレーキの電気式への置き換えで数量が減る。売上の約 14% を占め、利益はすでにほぼゼロだ。ばね類は電動化後も要るが、ケーブルの縮みを精密ばねの伸びで埋められなければ、全社の成長は止まる。
北米の関税と資材高
2027 年 3 月期の第 1 四半期の減益は、北米の関税と資材高が一因だった。自動車部品への関税が長引けば、米国向けの採算が悪化する。顧客との価格交渉で吸収できなければ、利益率の回復が遅れる。
売却益の反動と配当の重さ
2026 年 3 月期の純利益は一度きりの売却益で膨らんだ。今期は大きく減る見込みで、会社予想の純利益の大半を配当に回す計算になる。投資有価証券の残高は確認できておらず、売却が進めば配当収入も減り、経常利益を押し下げる。
精密ばねの競争
精密ばね(PBD)は高い利益率が全社の稼ぎを支える。しかし、シェア上位のムベアなど海外大手や中国メーカーが SUV 向けに力を入れれば、価格競争が起きる。インドなど新拠点の立ち上げが遅れれば、能力増の投資が回収できない。
今後の分かれ目
- シャシばねの営業利益が 2 期連続で黒字になったら
- やや楽観側に確率を移す。安全投資が一巡したかを、設備更新費の動きと合わせて確かめる。
- 藤岡工場などで重大事故が再発したら
- 悲観側の確率を大きく引き上げる。トヨタが供給の二重化に動いたかが分かれ目になる。
- トヨタが TOB や追加の株式取得を発表したら
- 少数株主には買い付け価格がつくが、その額は本業の価値とは別に決まる。価値の見立ては変えず、価格と本質価値の差だけを見直す。
- 精密ばねの営業利益率が 10% を超えて定着したら
- 中立の利益率を引き上げてよい。PBD の欧米系の受注が量産に入ったかを合わせて確かめる。
- 営業利益率が 2 期続けて 5% を超えたら
- 会社の計画が現実味を帯びたと見て、やや楽観側の確率を厚くする。
- 自動車部品への関税が引き上げられ、価格転嫁も通らない状態が続いたら
- やや悲観側へ確率を移し、シャシばねの利益率の前提を下げる。
見ておくもの
- シャシばね・精密ばねの四半期ごとの営業利益
- 藤岡工場の安全対策の進み具合と、事故の有無
- トヨタの国内外の生産台数と、部品価格の交渉の様子
- PBD 用ばねの出荷(インド拠点の稼働、欧米系の受注)
- 投資有価証券の残高と、配当・自社株買いの方針の変更
倍率と資本コストの決め方
数量は世界の乗用車生産に搭載シェアを掛けた推定、価格は物価並みの 1.34 倍を基本に置き、値下げ圧力を受ける筋書きだけ下げた。倍率は資本コスト 8.5% と ROE から式で決め、ROE が k 未満の中立は上限 1÷k=11.8 倍の約 7 割に置いた。今の株価・過去の PBR・同業の倍率は使っていない。時価総額が今の株価の 3 割程度の水準になるのは、本業の利益が薄いことの結果で、株価に寄せて直していない。直近の純利益 124 億円は売却益なので流れの起点に使わず、会社予想の 24 億円をならした値とした。悲観は売れる資産で測った。純現金は時価総額の 1 割未満で余った現金の切り分けはしない。 持ち合い株の含み益は2026年3月期の売却後の残り(推定107億円)を戻り方0.5で足した。悲観側の床は純現金・残る株・土地の手取りで置き直した。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。個別の事故リスクは k に入れず、筋書きと確率で表した。