結論
東京製綱は、クレーンやエレベーターに使うワイヤロープで国内の最大手だ。橋のケーブルや炭素繊維ケーブル(CFCC)、タイヤ用のスチールコード、石油販売や不動産賃貸も手がける。2026年3月期は営業利益48億円と、過去最高の利益率7.6%を記録した。
筆者の結論は「やや割高」である。事業は堅いが、稼ぐ力は弱い。10年後の中立の純利益は41億円ほどで、積み上がる自己資本に対するROEは6〜7%にとどまる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額の1割ほど下になる。
理由は二つある。第一に、今期の最高益は炭素繊維ケーブルの案件が集中した結果で、会社の来期予想は減益だ。第二に、自己資本が積み上がっても、資本コストを超えて稼げなければ、ためた利益の価値は額面より小さい。PBR1倍割れは、割安の根拠にならない。
注目すべきは、スチールコードを担う子会社が債務超過に陥っている点である。再建できるか撤退かで、10年の姿が変わる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず10年後も存在する事業かを問う。ワイヤロープと橋のケーブルは必要とされ続けるだろう。ただ、需要は成熟し、利益は鋼材の市況と案件の出方に揺れる。予測の確度は高くない。
オーナー利益は、見かけの利益より小さい。設備の更新と、赤字のスチールコードを支える資金が毎年かかる。直近の営業利益48億円も、案件が集中した幸運を含む。
堀は老舗のブランドと技術の蓄積だ。しかし、材料価格に縛られ、価格を自分で決められる力は弱い。ROEが資本コストに届かない以上、ためた利益は額面より小さい価値で見るべきだ。
資本の使い方では、政策保有株を減らし、総還元性向を4割に引き上げた点を評価する。残る課題は、赤字の子会社の始末だ。
安全域の点では、今のPBRの低さは安全域にならない。バリュー投資家なら、事業の堅さを認めつつ、稼ぐ力に対して割安とは言い切れないと見るだろう。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は四つある。鋼索鋼線が売上の約4割で、ワイヤロープ、ワイヤ、繊維ロープを造る。エレベーターや建機、水産、鉄鋼向けが中心で、国内で約4割のシェアを持つといわれる。利益率は9%弱だ。
開発製品が約3割を占め、利益では最大の柱に育った。橋のケーブルなどの橋梁、落石を防ぐ道路安全施設、そして炭素繊維複合材ケーブル(CFCC)が入る。CFCCは鉄に代わる、軽くてさびにくい素材のケーブルで、橋やコンクリートの補強、洋上風力の係留索に使う。利益率は11%に達する。
子会社の東綱スチールコードが造るスチールコードは、タイヤの補強材だ。販売価格の下落で営業損失が出ており、売上の約8%だが、損失は利益全体の1割を食う。
そのほか、産業機械(計量機・包装機、粉末冶金)と、エネルギー不動産(石油製品の販売、店舗の賃貸、太陽光発電)がある。海外の売上は約14%と小さく、10%を超える顧客はいない。
従業員は連結で約1,400人、研究開発費は年13億円ほどだ。設備投資は年23億円で、半分以上を鋼索鋼線の更新に回している。生産拠点は土浦と堺の工場が中心で、賃貸用の不動産は泉佐野などにある。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、国内ワイヤロープの地位と、技術の積み上げだ。エレベーターや橋のケーブルは、事故が許されない用途で、実績のある相手から買い続けられる。1887年の創業以来の老舗で、顧客との関係は深い。
一方で、堀は鋼線の価格に縛られる。原料の線材と亜鉛の値上がりを製品価格に転嫁するのに時間差があり、利益率は鋼材の市況に左右される。国内の需要も、建機の海外移管と人口の減少で細る。
資本効率はこの会社の弱みだ。過去10年のROEの中央値は7%で、営業利益率は1〜7%の間を動いた。赤字の期は4回あった。自己資本は412億円と厚いが、その多くは含み益のある投資有価証券や設備に張り付いている。
経営は、スチールコード子会社の再建と、炭素繊維ケーブルの育成という二つの課題を抱える。中計は目標を引き下げざるをえず、規律が問われる局面だ。政策保有株の縮減を進め、8銘柄まで減らした点は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のワイヤロープは成熟した市場だ。建設機械、エレベーター、クレーン、水産、鉄鋼などの需要は、設備投資と建設活動に連動して動く。国内では神鋼ワイヤロープなどとの競争があり、世界ではベカルトなどの大手がいる。値段は鋼線の価格と為替に左右される。
炭素繊維ケーブルは新しい市場で、橋やコンクリート構造物の補強、北米の高速道路、洋上風力の係留索に用途が広がる。北米では工場を設立し、規格化の進展を需要の見通しの根拠としてきた。ただし、受注は案件単位で、前倒しや遅れで年ごとの業績が振れる。2019年3月期にも、案件の遅れで予想を下回った前例がある。
橋梁は、国内の老朽化対策で補修の需要が続く。工事の発注量は公共予算に左右される。
スチールコードは、世界のタイヤ用補強材の市場で、中国・韓国・欧州の大手が量で圧倒する。日本の単独の工場が価格競争に勝つのは難しく、赤字が続いている。
鋼材の価格は、中国の過剰生産が上値を抑えている。鋼線を買って製品にする当社は、材料が安くなる局面では追い風だが、値下げ圧力も同時に受ける。
資本政策と M&A
還元の方針は、中計で総還元性向40%以上を掲げている。2026年3月期の年間配当は前期より増え、配当総額は約11億円と純利益の約3割にあたる。残りは自社株買いなどで補う。株主優待は確認できなかった。
資本は、サステナブル化投資と重点事業(炭素繊維ケーブル、橋梁ケーブル、洋上風力関連)に優先して回す。余った資金は有利子負債の圧縮に充てる。
政策保有株は、上場8銘柄で約35億円に減った。最大の保有先は日本製鉄である。2021年には日本製鉄が敵対的とされたTOBで出資を一時19.9%まで高めたが、公正取引委員会の指摘で売却し、約1割に戻る見込みと報じられた。現在の持分は確認できていない。
借入は、シンジケートローン約49億円を含み、担保として工場財団がある。純資産の維持と、営業損益が2期連続赤字にならないことという財務特約が付く。スチールコード子会社への債権は、回収可能性を見直して個別で費用を計上した。筆者は、日本製鉄などによる買収を期待して価値を上乗せしない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今期の営業利益48億円と7.6%の利益率は、炭素繊維ケーブルや橋梁といった開発製品の伸びが支えた。開発製品の利益は21億円と、全体の4割強を占める最大の柱に育っている。北米での規格化、国内の橋の老朽化対策、洋上風力の係留索と、追い風が重なる。
国内ワイヤロープは約4割のシェアを持ち、価格改定が浸透して利益率も改善してきた。エレベーターや橋の用途は事故が許されず、実績のある会社から買い続けられる。需要は急には落ちない。
財務も改善している。純有利子負債はこの10年で265億円から157億円まで減り、D/Eレシオは0.5を下回る水準へ向かう。政策保有株は縮減を進め、総還元性向は4割以上と、株主への配分も厚くなった。
さらにスチールコードの赤字は、再建か撤退で止められる。損失は全体の利益の1割で、止まれば営業利益は5億円ほど増える。
日本製鉄が19.9%を狙ったTOBに動いた事実は、外部から見ても価値のある資産だと映った証拠だ。PBRが0.7倍前後と低い今、資産価値に見合う評価に戻る余地がある。
慎重な見方
今期の過去最高益は、炭素繊維ケーブルの案件が一度に集中した結果だ。会社の来期予想は営業利益43億円と1割以上の減益で、中計の目標(売上680億円、営業利益45億円)も未達の見込みだ。案件型の事業は、受注が続く保証がない。
スチールコードは、価格の下落で営業損失が6億円出ている。子会社の債務超過は34億円に膨らみ、親会社は債権の回収可能性を見直す事態になった。撤退すれば、保証や貸付金の損失が一度に出る。
財務特約には、営業損益が2期連続で赤字にならないことが入る。過去20年に赤字の期は4回あり、2013年3月期は純損失が288億円に達した。金利が上がれば、純有利子負債157億円の利払いも重くなる。
資本効率の低さは構造的だ。過去10年のROEの中央値は7%で、資本コストを下回る。自己資本は412億円あっても、含み益のある株や設備に眠ったままだ。PBRの低さは割安ではなく、稼ぐ力の弱さの表れである。
日本製鉄の2021年のTOBも、公取委の指摘で持分の一部を売却する結果になった。買収を期待するのは筋が悪い。
どちらに重みを置いたか
開発製品の伸びと財務の改善には説得力があり、事業の質を否定する材料は少ない。ただし価値の計算では、後者が突く資本効率の低さと、案件型の利益の不安定さが重い。中立の筋書きでも、ROEは6〜7%と資本コストに届かず、10年後の価値は今の値段をわずかに下回る。確率は中立を最も厚くし、やや悲観に楽観より重みを寄せた。子会社の債務超過と、過去の赤字の多さを考えたためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,886 円446 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 837 円129 億円)。 今の値に割り戻すと 1,907 円294 億円、今との差 +7.6%、 期待の年率 +7.7%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 5,615 円867 億円 | 1,171 円181 億円 | +283.0% | +14.4% | 475 円73 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,089 円631 億円 | 1,022 円158 億円 | +188.4% | +11.2% | 1,022 円158 億円 |
| 中立 | 38% | 3,320 円513 億円 | 913 円141 億円 | +138.9% | +9.1% | 1,609 円248 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,579 円244 億円 | 708 円109 億円 | +29.1% | +2.6% | 549 円85 億円 |
| 悲観 | 11% | 315 円49 億円 | 307 円47 億円 | −64.9% | −9.9% | 68 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,886 円446 億円 | 837 円129 億円 | +110.1% | +7.7% | 3,723 円575 億円 |
今の株価時価総額 1,772 円274 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 炭素繊維ケーブルが北米とインフラ更新で大きく育つ 利益 64 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 5,615 円867 億円
炭素繊維ケーブル(CFCC)が北米の規格化とインフラ老朽化対策、さらに浮体式洋上風力の係留索で採用を広げ、開発製品の量は10年で1.8倍になる。橋梁ケーブルの更新工事も途切れず、案件の波が小さくなる。国内のワイヤロープは建機・エレベーター向けの需要を保ち、価格改定も物価並みに通る。スチールコードは子会社の再建が進み、赤字から小幅な黒字に戻る。全社の営業利益率は9%台と、今期の過去最高7.6%を超える。ただし、これは受注の質が一段上がった場合に限る。借入は返済が進み、総還元性向は4割を保って自己資本は積み上がる。
- 鋼索鋼線(ワイヤロープ・ワイヤ):数量 5.0(ワイヤロープ・ワイヤの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 76(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 382 億円・営業利益 34 億円。数量1.00倍×価格1.36倍、利益率9.0%
- スチールコード:数量 2.2(スチールコードの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 26(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 1 億円。数量0.90倍×価格1.30倍、利益率2.0%
- 開発製品(炭素繊維ケーブル・橋梁・道路安全):数量 720(年間の案件・工事の件数(件・推定、1件平均の規模を一定とみた実質))× 価格 0.67(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 483 億円・営業利益 53 億円。数量1.80倍×価格1.38倍、利益率11.0%
- 産業機械・エネルギー不動産:数量 1,222(機械の出荷、石油製品の販売、賃貸の契約を合わせた取引件数(件・年、推定))× 価格 0.14(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 166 億円・営業利益 12 億円。数量1.05倍×価格1.36倍、利益率7.0%
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.5 倍、時価総額 867 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:炭素繊維ケーブルの規格化と受注の連続が必要で、実現すれば大きいが、案件は単発になりやすい。会社自身も、案件の前倒し終了で計画を下回る見込みを示した。
やや楽観 20% 炭素繊維ケーブルと橋梁が伸び、スチールコードは損益ゼロに戻る 利益 51 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 4,089 円631 億円
開発製品は、国内のインフラ補修と炭素繊維ケーブルの海外案件で、量が10年で1.5倍になる。案件の出方に波はあるが、均すと右肩上がりを保つ。ワイヤロープは国内で横ばいから微減、価格は鋼線の値上がりを転嫁して物価並みに上がる。スチールコードは生産を絞り、損益がゼロ近くまで戻る。営業利益率は8%台に乗り、過去最高圏を保つ。財務は、純有利子負債が利益の2年分を下回るところまで減る。総還元性向は4割で、配当と自社株買いを続ける。ただし、この筋書きでも自己資本が積み上がるため、ROEは8%に届かない。スチールコード子会社の債務超過は、親会社の支援で整理される。
- 鋼索鋼線(ワイヤロープ・ワイヤ):数量 4.9(ワイヤロープ・ワイヤの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 75(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 369 億円・営業利益 33 億円。数量0.98倍×価格1.34倍、利益率8.8%
- スチールコード:数量 1.9(スチールコードの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 25(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 0 億円。数量0.80倍×価格1.27倍、利益率0.0%
- 開発製品(炭素繊維ケーブル・橋梁・道路安全):数量 600(年間の案件・工事の件数(件・推定、1件平均の規模を一定とみた実質))× 価格 0.66(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 397 億円・営業利益 38 億円。数量1.50倍×価格1.36倍、利益率9.5%
- 産業機械・エネルギー不動産:数量 1,164(機械の出荷、石油製品の販売、賃貸の契約を合わせた取引件数(件・年、推定))× 価格 0.14(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 157 億円・営業利益 10 億円。数量1.00倍×価格1.35倍、利益率6.3%
倍率:事業の純利益 50 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 631 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期は開発製品が増収増益で、会社の路線に沿った姿。ただし来期の予想が減益で、案件の波に左右される。中立に次ぐ重みを置いた。
中立 38% 炭素繊維ケーブルは案件で伸びるが、全体は物価並みの成長にとどまる 利益 41 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,320 円513 億円
国内のワイヤロープは、エレベーターや建機、水産、鉄鋼向けの需要が人口とともにゆるやかに細り、量は10年で0.95倍になる。価格は鋼線コストの転嫁が遅れ、物価をわずかに下回る。開発製品は、橋梁の補修と炭素繊維ケーブルの案件で量が1.25倍に伸びるが、案件ごとの波は残る。スチールコードは、中国勢との値下がりで赤字が続き、規模を縮める。営業利益率は7.5%と今期の過去最高と同水準にとどまる。金利の上昇で利払いが増え、純利益の比率は低めに出る。配当と自社株買いを合わせた総還元性向は4割で、自己資本は積み上がり、ROEは6〜7%になる。
- 鋼索鋼線(ワイヤロープ・ワイヤ):数量 4.8(ワイヤロープ・ワイヤの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 74(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 353 億円・営業利益 29 億円。数量0.95倍×価格1.32倍、利益率8.2%
- スチールコード:数量 1.9(スチールコードの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 25(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 −2 億円。数量0.80倍×価格1.25倍、利益率-3.0%
- 開発製品(炭素繊維ケーブル・橋梁・道路安全):数量 500(年間の案件・工事の件数(件・推定、1件平均の規模を一定とみた実質))× 価格 0.65(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 326 億円・営業利益 29 億円。数量1.25倍×価格1.34倍、利益率9.0%
- 産業機械・エネルギー不動産:数量 1,164(機械の出荷、石油製品の販売、賃貸の契約を合わせた取引件数(件・年、推定))× 価格 0.13(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 9 億円。数量1.00倍×価格1.34倍、利益率6.0%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 512 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期の過去最高益は案件の集中が寄与しており、来期の予想は減益だ。この水準を保つ確度は高くない。伸びは緩やかで、利益率は山の手前に収まる。この落としどころを最も重く見た。
やや悲観 24% 国内の需要が細り、案件も尽きて利益率が過去の平均に戻る 利益 25 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,579 円244 億円
国内のワイヤロープの需要は、建機の海外移管と人口減で細り、量は10年で0.88倍に落ちる。価格改定は鋼線の値上がりを追いかけるばかりで、利益率は6%台に下がる。炭素繊維ケーブルは受注が単発で終わり、開発製品は量が増えない。スチールコードは赤字が続き、子会社への支援が重くのしかかる。借入の金利が上がって利払いが増え、財務特約の営業赤字2期連続の条項を意識する局面も出る。営業利益率は5%台にとどまり、2020年3月期の水準に近づく。総還元性向は4割を維持するが、自己資本ばかりが積み上がり、ROEは4%台に下がる。
- 鋼索鋼線(ワイヤロープ・ワイヤ):数量 4.4(ワイヤロープ・ワイヤの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 72(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 317 億円・営業利益 21 億円。数量0.88倍×価格1.28倍、利益率6.5%
- スチールコード:数量 1.5(スチールコードの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 23(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 −2 億円。数量0.60倍×価格1.15倍、利益率-6.0%
- 開発製品(炭素繊維ケーブル・橋梁・道路安全):数量 400(年間の案件・工事の件数(件・推定、1件平均の規模を一定とみた実質))× 価格 0.63(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 253 億円・営業利益 18 億円。数量1.00倍×価格1.30倍、利益率7.0%
- 産業機械・エネルギー不動産:数量 1,106(機械の出荷、石油製品の販売、賃貸の契約を合わせた取引件数(件・年、推定))× 価格 0.13(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 144 億円・営業利益 7 億円。数量0.95倍×価格1.30倍、利益率4.5%
倍率:ROE 4.3% と k を大きく下回り、PER の上限は 1÷k=11.4 倍。稼ぐ力が弱い姿なので、上限の 7.4 割の 8.5 倍に置いた。
確率:過去20年で赤字の期が4回あり、利益率の平均は低い。今期の水準が続く保証はなく、無視できない重みを置いた。
悲観 11% スチールコードの破綻と国内需要の急減が重なる 利益 6 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 315 円49 億円
東綱スチールコードの債務超過が膨らんで事業を畳み、親会社が債務の保証や貸付金の回収不能を負担して大きな損失を出す。同時に国内のワイヤロープ需要が構造的に細り、鋼線の値上がりを転嫁できず、利益率が3%まで落ちる。炭素繊維ケーブルは競合に市場を取られ、開発製品も縮む。借入は担保の工場財団と財務特約のもとで返済を急がされ、投資を絞る。固定資産の減損も出て、自己資本は今より減る。配当は大きく減らすが続ける。事業は残るが、優良な老舗という評価は外れる。国内のワイヤロープとインフラ補修の需要は細りながらも続くため、売上は5割強の水準で下げ止まる。配当は減らしても、完全にはやめない。
- 鋼索鋼線(ワイヤロープ・ワイヤ):数量 3.8(ワイヤロープ・ワイヤの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 65(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 243 億円・営業利益 7 億円。数量0.75倍×価格1.15倍、利益率3.0%
- スチールコード:数量 0.7(スチールコードの出荷量(万トン・年、推定))× 価格 20(1トンあたり売上(万円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 −3 億円。数量0.30倍×価格1.00倍、利益率-20.0%
- 開発製品(炭素繊維ケーブル・橋梁・道路安全):数量 320(年間の案件・工事の件数(件・推定、1件平均の規模を一定とみた実質))× 価格 0.56(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 179 億円・営業利益 5 億円。数量0.80倍×価格1.15倍、利益率3.0%
- 産業機械・エネルギー不動産:数量 1,048(機械の出荷、石油製品の販売、賃貸の契約を合わせた取引件数(件・年、推定))× 価格 0.12(1件あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 4 億円。数量0.90倍×価格1.20倍、利益率3.0%
倍率:ROE 1.3% で、稼ぐ力は純利益÷k から出す。債務の重さと損失の出方を見て、上限の 7.0 割の 8.0 倍に置いた。市場の倍率は使っていない。借入が重く、EV÷営業利益で見ても12倍前後で、自己資本の薄さは債務の重さによる。
確率:子会社の債務超過、財務特約、国内需要の縮小が重なる複合の姿。低頻度だが、債務超過額が大きい以上、外せない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鋼索鋼線(ワイヤロープ・ワイヤ)
エレベーター・建機・クレーン・水産・鉄鋼向けのワイヤロープ、ワイヤ、繊維ロープ。
| 数量ワイヤロープ・ワイヤの出荷量(万トン・年、推定) | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 56 | 281 | 25 |
| 10 年後 中立 | 4.8 | 74 | 353 | 29 |
取り方:セグメント売上287億円からセグメント間取引を除いた外部売上281億円を、出荷量約5万トン、1トン約56万円(ワイヤロープは高め、鋼線は低め)と推定した。数量は実質の出荷トン数で、物価3%と鋼線の値上がりは価格に入れる。利益はセグメント利益25.3億円。
スチールコード
タイヤの補強に使う極細の鋼線コード。子会社の東綱スチールコードが製造し、当社が販売する。
| 数量スチールコードの出荷量(万トン・年、推定) | 価格1トンあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.4 | 20 | 49 | −6 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 25 | 49 | −2 |
取り方:外部売上48.7億円を、1トン約20万円、年約2.4万トンと推定した。販売価格の下落で営業損失6.1億円。数量は実質、物価は価格に入れる。
開発製品(炭素繊維ケーブル・橋梁・道路安全)
炭素繊維複合材ケーブル(CFCC)、橋梁ケーブルの設計・施工、落石防護網などの道路安全施設、金属繊維。
| 数量年間の案件・工事の件数(件・推定、1件平均の規模を一定とみた実質) | 価格1件あたり平均売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 0.49 | 195 | 22 |
| 10 年後 中立 | 500 | 0.65 | 326 | 29 |
取り方:外部売上194.6億円を、橋梁・道路安全・CFCCなど小口から大型までの案件を平均して年約400件、1件約0.49億円と置いた推定。開示は件数を出していない。数量は実質の件数、物価は1件あたりの単価に入れる。利益はセグメント利益21.8億円。
産業機械・エネルギー不動産
計量機・包装機(長崎機器)、粉末冶金(日本特殊合金)、石油製品の販売、賃貸、太陽光発電。
| 数量機械の出荷、石油製品の販売、賃貸の契約を合わせた取引件数(件・年、推定) | 価格1件あたり平均売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,164 | 0.10 | 116 | 7 |
| 10 年後 中立 | 1,164 | 0.13 | 156 | 9 |
取り方:産業機械44.8億円とエネルギー不動産71.6億円(外部売上換算)の合計116.4億円を、1件あたり平均約0.1億円(機械は大口、石油販売と賃貸は小口の平均)と置き、年約1,160件と推定した。開示は件数を出していない。数量は実質の件数、物価は単価に入れる。利益は両セグメントの合計7.4億円。
リスクと懸念
スチールコード子会社の債務超過
東綱スチールコードの債務超過は2026年3月末で34億円に達する。親会社は債権の回収可能性を見直した。撤退や支援には保証や貸付金の損失が伴い、一度に利益を押し下げる恐れがある。
案件型利益の振れ
今期の最高益は炭素繊維ケーブルの案件集中が寄与した。会社の来期予想は営業利益43億円と減益で、中計の目標は未達の見込みだ。案件の前倒しや遅れで、年ごとの業績が大きく振れる。
資本効率の低さ
自己資本は412億円と厚いが、ROEは過去10年の中央値で約7%と資本コストに届かない。総還元性向を4割にしても、残りで自己資本が積み上がり、ROEはさらに薄まりやすい。
鋼線の価格の転嫁遅れ
線材や亜鉛の値上がりを製品価格に転嫁するのに時間がかかる。中国の過剰生産で鋼材の価格が抑えられる局面では追い風だが、値下げ要求も同時に受ける。利益率は鋼材の市況と為替に左右される。
財務特約と借入
純有利子負債は157億円で、シンジケートローンには工場財団の担保と、純資産の維持および営業損益が2期連続で赤字にならないという特約が付く。赤字が続けば返済を迫られる恐れがある。
国内需要の縮小
エレベーター、建機、水産向けの国内需要は、人口の減少と海外移管で細る。海外売上は約14%と小さく、国内の減少を海外で補う力はまだ弱い。
買収・TOBの不透明さ
2021年に日本製鉄がTOBで出資を高めようとし、会社は反対を表明した。その後、持分は約1割に戻る見込みと報じられた。買収の可能性は常にあるが、価格や時期は読めず、本質価値に織り込めない。
今後の分かれ目
- 炭素繊維ケーブルの海外案件が相次いで受注され、開発製品の売上が毎期増えたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。案件の質(利益率10%以上)も同時に確かめる。
- 東綱スチールコードの撤退や再建計画が発表されたら
- 損失の大きさと、親会社の負担額を確かめる。赤字が止まれば営業利益は5億円ほど上向く。
- 営業利益が2期連続で計画を下回ったら
- やや悲観の確率を上げる。財務特約の条項を意識する局面に近づく。
- 総還元性向を50%以上に引き上げる方針が示されたら
- 自己資本の積み上がりが小さくなり、ROEが上がるので、中立の倍率を見直す。
- 日本製鉄など外部の株主が持分を高める動きを見せたら
- 買収価格は筋書きの価値と比べる。期待で価値を上乗せしない。
- 国内のワイヤロープの出荷量が2年連続で前年を下回ったら
- 鋼索鋼線の数量を下方修正し、やや悲観に寄せる。
見ておくもの
- 開発製品の売上高・セグメント利益率(四半期)
- 東綱スチールコードの損益と債務超過額
- 営業利益の通期予想との乖離(来期予想43億円)
- 純有利子負債と財務特約への抵触の有無
- 総還元性向の実績(40%以上の目標)
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g))から決め、今の株価やPBRは使っていない。中立のROEは約6.6%で、資本コストの8.75%を下回るため、PERの上限は1÷kの11.4倍とし、その約8割の9.5倍に置いた。PBR1倍割れは割安の根拠にしていない。売上は数量×価格(物価並み1.34倍に近い1.32〜1.34)で積み、利益率は今期の過去最高7.6%以下の7.5%に置いた。利払いの増加(約4億円)は純利益の比率0.62に織り込んだ。政策保有株の配当と賃料は純利益に入っており、価値には二重に足していない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)で置いた。リースは今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→13.5 倍・やや楽観 PER 10.5→12.5 倍・中立 PER 9.5→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。