結論
ユニチカは、糸の会社から、フィルムと樹脂の会社へ姿を変えた。26年3月期の売上の約半分は高分子(フィルムと樹脂)で、営業利益の約9割もここが稼いだ。祖業の繊維、不織布、産業繊維は、再生計画で撤退の途中にある。
筆者の結論は、今の時価総額は大幅な割高、というものだ。理由は事業の質ではない。普通株の取り分が、資本の仕組みで薄まるからだ。国の再生ファンド(地域経済活性化支援機構)が2025年4月に200億円で買ったC種株式は、2027年8月から普通株に換えられる。換えれば約4.6億株が生まれ、今の普通株(約5,800万株)は全体の1割強に縮む。
事業そのものは、2年前より明らかに良い。構造改革で赤字の事業を切り、27年3月期の営業利益は80億円の予想だ。ただし純利益50億円の大半は、転換後はファンドの取り分になる。会社が開示する転換後の1株利益は、転換前の約9分の1だ。
良い材料は三つある。フィルムの電子材料向けが戻った。半導体パッケージ向けの極薄ガラスクロスが育っている。金融機関の債権放棄で、財務の危機は去った。
悪い材料は、普通株主に決める力がないことだ。ファンドは議決権の3分の2超を持ち、取締役の過半を指名できる。配当も、ファンドの承認なしには出せない。10年後の筆者の見立ては、事業は今の水準を保つが、普通株の価値は今の1割に届かない、というものだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を普通株で持つ理由は見つかりにくい。
事業は悪くない。フィルムと樹脂は、需要が続く素材で、極薄ガラスクロスのような芽もある。構造改革で損益は戻った。だが、事業の良し悪しと、普通株の価値は別の話だ。
投資家が受け取るのは、会社の利益のうち、自分の持ち株に割り当てられる分だけだ。普通株には、2027年8月から約4.6億株の新株が加わる可能性がある。ファンドが転換を選べば、純利益50億円のうち、普通株の取り分は6億円弱だ。これでは、安全域を取る前に、取り分が足りない。
経営の資本配分も、今は普通株主のためにない。配当はゼロで、決めるのはファンドだ。再生の成功は、ファンドの出口の成功だ。
もう一つ、見逃せない点がある。ファンドが転換せず、200億円の償還を選ぶ筋書きでは、普通株主の取り分は大きくなる。だが、事業の価値が償還額を大きく上回る限り、ファンドにその理由はない。
筆者は、今の値段を払うなら、事業を買うのではなく、ファンドの出口の失敗を買うことになる、と見る。事業の価値が悪くても、倍になっても、結論はほぼ変わらない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ頭は高分子事業だ。26年3月期は売上564億円、営業利益94億円で、営業利益率は17%に達した。柱は包装用のナイロンとポリエステルのフィルムで、ガスバリア性の高い食品包装用「エンブレムHG」が伸びている。半導体の工程で使う離型フィルム「ユニピール」など、電子材料向けの工業用フィルムも持つ。樹脂は、車や電機向けのエンジニアリングプラスチックと、水系接着剤向けの変性ポリオレフィン「アローベース」が主力だ。
次が機能資材事業で、売上337億円、営業利益16億円だ。中身は二つに割れる。残す側は、ガラス繊維、活性炭繊維(浄水器やめっき液のフィルター用)、ガラスビーズだ。ガラス繊維は、ハイエンドメモリなどの半導体パッケージ基板に使う極薄ガラスクロスに力を入れている。撤退する側は、不織布と産業繊維だ。
繊維事業は売上284億円で、5億円の営業赤字だった。ユニフォームや一般衣料、デニム生地などで、需要の細る分野が中心だ。紡績はカワボウへ、スパンレース不織布は瑞光へ、上條精機はセーレンへ、それぞれ譲る。日本エステルは会社分割ののち解散し、タイのスパンボンド子会社も停止した。14の事業で最終合意まで進んだ。
撤退が終わると、売上は27年3月期予想の840億円から、さらに縮む。会社の再生計画は、29年度に売上700億円、営業利益65億円を掲げた。その時の売上構成は高分子が7割、機能資材が2割強、繊維が1割弱だ。すでに営業利益は計画を超えて走っている。
優良さと弱いところ
優良さは、事業ごとに違う。堀、つまり他社がまねしにくい強みがあるのは、半導体や電子部品の工程に入り込んだ製品だ。離型フィルムや極薄ガラスクロスは、顧客の品質認定を通ると入れ替えにくい。ただし規模が小さい。ガラスクロスでは、日東紡のような大手が増産に動いている。
包装用フィルムは、国内で供給能力が大きく、ガスバリアなど付加価値で勝負している。それでも、インドネシアの子会社では、東南アジアの安い製品に押されて、107億円の減損を出した。汎用品の値段は、ここで決まる。
資本の稼ぎは、この数年は悪かった。営業利益率は、2023年3月期に1%、24年3月期は赤字だった。26年3月期の8.9%は、価格改定と撤退の効果で、構造がどこまで続くかはまだ分からない。純利益182億円も、固定資産の売却益と債務免除益という一回限りの利益が膨らませた。
財務は救われたが、体質は変わっていない。2014年からの構造改革でも、2018年度からの投資でも、利益は戻らなかった。筆者がいちばん気にしているのは、この繰り返しだ。今回は、金融機関が約430億円の債権放棄を決め、ファンドが経営に入る。外から規律がかかった点は、過去と違う。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ユニチカが立つ市場は、大きく三つある。
一つ目は、食品などの包装フィルムだ。国内の数量は人口とともに緩やかに細る。東南アジアの安い製品が値段を縛る。ガスバリアなど付加価値で勝つ必要があり、汎用品の増産で勝つ時代ではない。
二つ目は、半導体と電子部品の素材だ。離型フィルムは半導体や電子部品の製造工程で使う。市況が戻った26年3月期は、販売が伸びた。この分野は半導体投資の波をまともに受ける。
三つ目は、AI向けの半導体パッケージだ。HBMなどの先端メモリや高性能ロジックの基板に、極薄のガラスクロスが使われる。日東紡は約150億円を投じて、2027年に増産設備を動かす計画だ。需要は強いが、勝者は大手に偏りやすい。ユニチカは、ハイエンドメモリ向けの極薄品で食い込んでいる。
この三つに比べて、繊維は別世界だ。国内の衣料需要は人口とともに細り、海外の安い生産に負ける。ユニチカはここから出ていくと決めた。
10年の構図は、包装フィルムが横ばいから微減、電子材料と半導体向けが数量で伸びる、という形になる。全体の利益は、後者の伸びと、前者の値段を守れるかで決まる。
資本政策と M&A
資本政策は、普通株主の手を離れている。
2024年11月に、地域経済活性化支援機構(REVIC)が再生支援を決めた。金融機関には約430億円の債権放棄が求められ、26年3月期に債務免除益120億円が入った。ファンドは2025年4月30日に、C種種類株式を約200億円で引き受けた。議決権は全体の66.76%で、取締役の過半を指名できる。
C種株式は、2027年8月から二つの権利を使える。一つは、普通株に転換する権利だ。当初の転換価格は、今の株価のおよそ30分の1で、約4.6億株になる。もう一つは、払込額に配当を足した金額で、会社に買い戻させる権利だ。普通株の価値が高ければ、ファンドは転換を選ぶのが合理的だ。
C種の優先配当は、金利に0.5%を足した率で、非参加型だ。普通株の配当は27年3月期の予想もゼロだ。配当、増資、自社株買い、M&A、大きな資産の売却は、すべてファンドの事前承認が要る。
ファンドは、株式を中期で持ち、第三者への売却を主に考えている。このため、10年以内に別の会社が買収する筋書きは、十分ありうる。その場合も、普通株主の取り分は、転換後の持ち分が基準になる。
点検済み(割高の見落とし点検 2026-10-19):起点の純利益は売却益・債務免除益を除いた会社予想 50 億円を取り分 11.1% で書き、株数は C 種転換後で数えた。割高は転換の仕組みによるもので、数え漏れは無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
事業はもう別の会社だ。26年3月期の営業利益は105億円で、高分子だけで94億円を稼いだ。27年3月期の営業利益は80億円を見込み、再生計画が29年度に掲げた65億円をすでに上回っている。第1四半期の営業利益は42億円で、進みは速い。
赤字の繊維、不織布、産業繊維は、14の事業で最終合意まで進み、固定費の重荷が消える。残る高分子は、電子材料向けの離型フィルムと、ガスバリアの包装フィルムが伸びる。極薄ガラスクロスは、AI向けの先端メモリの基板で採用が進み、日東紡の増産が示すとおり市場そのものが大きくなっている。
資本の面でも、最悪期は抜けた。約430億円の債権放棄と200億円の増資で、純負債は74億円まで減った。ファンドが経営に入り、過去の構造改革で足りなかった規律も入る。
10年後に、フィルムと樹脂で利益率が10%台に乗り、ガラスクロスが大手の隣で一角を占めれば、営業利益は200億円近くに届く。その時、ファンドが段階的に株を売る過程で、会社は第三者の傘下に入るかもしれない。普通株主の取り分が薄まっても、事業の価値が大きく膨らめば、取り分の絶対額は増える。
慎重な見方
普通株の価値は、事業の稼ぎでなく、転換の仕組みで決まる。2027年8月から、C種株式は約4.6億株の普通株に換えられる。今の普通株は約5,800万株で、換えれば全体の1割強に縮む。会社自身が開示する転換後の1株利益は、転換前の約9分の1だ。
ファンドの転換価格は今の株価のおよそ30分の1で、どう見ても換えるのが得だ。200億円の償還を選ぶのは、事業の価値が200億円前後まで落ちた時だけだ。そして事業の価値が高い時ほど、ファンドの取り分は増える。普通株主は、いい時には1割、悪い時はほぼゼロという形になる。
事業の質も、手放しでは信じにくい。26年3月期の純利益182億円は、売却益と債務免除益が作った。2014年からの構造改革と2018年度からの投資でも、利益は戻らなかった。インドネシアの子会社は過剰な能力で107億円の減損を出し、包装フィルムは東南アジアの安い製品と値段で戦っている。極薄ガラスクロスは、大手が増産に動けば値段が崩れる。
しかも、ファンドは議決権の3分の2超を持つ。配当は承認制で、27年3月期の予想もゼロだ。ファンドは第三者への売却を主に考えており、買い手が払う値段は、転換後の持ち分が基準になる。普通株主が割増しを取れる場面は、ほとんどない。
どちらに重みを置いたか
事業の見立てでは、強気の言い分に分がある。構造改革は進み、利益は動かせない水準に戻った。ただし、普通株の価値を決めるのは事業でなく転換の仕組みで、こちらは慎重な見方が圧倒的に強い。
確率は事業の側で振り分けた。中立を4割弱に置き、構造改革が何度も失敗してきた過去から、やや悲観を楽観側より厚くした。どの筋書きでも、普通株の取り分は転換後の持ち分で測る。この点では、強気の筋書きでも今の時価総額を超えない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 206 円119 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 27 円16 億円)。 今の値に割り戻すと 109 円63 億円、今との差 −91.4%、 期待の年率 −15.6%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 443 円255 億円 | 63 円37 億円 | −60.1% | −8.8% | 35 円20 億円 |
| やや楽観 | 18% | 337 円194 億円 | 44 円26 億円 | −70.0% | −11.3% | 69 円40 億円 |
| 中立 | 38% | 225 円130 億円 | 29 円17 億円 | −80.0% | −14.9% | 96 円56 億円 |
| やや悲観 | 25% | 104 円60 億円 | 14 円8 億円 | −90.7% | −21.1% | 30 円17 億円 |
| 悲観 | 12% | 26 円15 億円 | 4 円2 億円 | −97.7% | −31.3% | 4 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 206 円119 億円 | 27 円16 億円 | −81.6% | −15.6% | 234 円135 億円 |
今の株価時価総額 1,269 円732 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% ガラスクロスが花開き、電子材料が稼ぎ頭になる 利益 14 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 443 円255 億円
AI向けの先端メモリと高性能ロジックの基板で、極薄ガラスクロスの採用が広がり、機能資材の出荷量は2倍を超える。大手の増産で値段が崩れず、営業利益率は18%に乗る。離型フィルムも半導体の投資に乗って伸び、フィルムと樹脂の利益率は13〜14%になる。
撤退する繊維は、残るユニフォームだけの小さな規模に収まり、赤字は消える。営業利益は190億円を超える。
ファンドは転換して、株を段階的に市場や第三者へ売る。買い手がつけば、会社は第三者の傘下に入る場面も出る。普通株の取り分は転換後の1割強で、事業が大きく伸びても、今の時価総額には届かない。
- フィルム(包装・工業用):数量 3.8(出荷量(万トン・推定))× 価格 126(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 476 億円・営業利益 62 億円。数量 0.95 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 13.0%
- 樹脂・その他高分子:数量 2.1(出荷量(万トン・推定))× 価格 170(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 366 億円・営業利益 51 億円。数量 1.25 倍・価格 1.42 倍、営業利益率 14.0%
- ガラス繊維・活性炭繊維・ガラスビーズ:数量 1.7(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 290(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 488 億円・営業利益 88 億円。数量 2.20 倍・価格 1.45 倍、営業利益率 18.0%
- 繊維・不織布・産業繊維(撤退中):数量 0.4(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 214(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 2 億円。数量 0.12 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 2.0%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.65 倍、時価総額 217 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ガラスクロスの採用拡大と、フィルムの高付加価値化が両方当たる必要がある。大手の増産が続くなか、小規模な会社が両方で成功するのは難しい。7%とした。
やや楽観 18% 構造改革が定着し、電子材料が育つ 利益 10 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 337 円194 億円
撤退は計画どおり終わり、固定費の重荷が消える。高分子は、電子材料向けの離型フィルムと、ガスバリアの包装フィルムが伸び、営業利益率は12%台を保つ。機能資材は、ガラスクロスの出荷量が7割増え、利益率は15%台になる。
営業利益は145億円ほどで、売上は1,200億円台に戻る。純負債は小さいままで、配当を再開できる環境が整う。
ファンドは転換を選び、普通株主の取り分は1割強に縮む。それでも、事業の利益が増えた分、普通株の取り分も今の純利益の2倍近くになる。
偶然に頼らない筋書きだ。撤退で営業赤字の事業が消え、残る事業の固定費も軽くなる。ガラスクロスは大手の増産でも需要が追いつき、値段が大きくは崩れない。ただし包装フィルムの値段は物価並みに上がるだけで、利益率の伸びは電子材料に頼る。
- フィルム(包装・工業用):数量 3.6(出荷量(万トン・推定))× 価格 124(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 445 億円・営業利益 53 億円。数量 0.90 倍・価格 1.38 倍、営業利益率 12.0%
- 樹脂・その他高分子:数量 2.0(出荷量(万トン・推定))× 価格 168(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 332 億円・営業利益 42 億円。数量 1.15 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 12.5%
- ガラス繊維・活性炭繊維・ガラスビーズ:数量 1.3(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 280(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 375 億円・営業利益 58 億円。数量 1.75 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 15.5%
- 繊維・不織布・産業繊維(撤退中):数量 0.3(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 214(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 1 億円。数量 0.11 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 1.5%
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.83 倍、時価総額 153 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再生計画が掲げた29年度の営業利益65億円を、すでに超えて走っている実績がある。その延長にある筋書きなので、実現しやすい側の上として18%を置いた。
中立 38% 事業は今の水準を保ち、普通株は転換で薄まる 利益 7 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 225 円130 億円
フィルムは、国内の数量が人口とともに細り、インドネシアの能力も絞られて、出荷量は今の85%になる。値段は物価並みに上がり、営業利益率は10%に収まる。樹脂は電機向けが支え、数量は5%増える。
ガラス繊維と活性炭繊維は、半導体向けの伸びで数量が3割台半ば増える。ただし大手の増産があり、利益率は13%にとどまる。撤退事業は、ユニフォームなど小さな繊維を残して、ほぼ消える。
営業利益は100億円ほどで、今の水準を物価の分だけ保つ。ファンドは2027年8月以降に転換し、普通株主の取り分は1割強になる。配当は、転換後に純利益の3割ほどが出る。
- フィルム(包装・工業用):数量 3.4(出荷量(万トン・推定))× 価格 121(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 408 億円・営業利益 41 億円。数量 0.85 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 10.0%
- 樹脂・その他高分子:数量 1.8(出荷量(万トン・推定))× 価格 163(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 294 億円・営業利益 32 億円。数量 1.05 倍・価格 1.36 倍、営業利益率 11.0%
- ガラス繊維・活性炭繊維・ガラスビーズ:数量 1.0(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 272(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 281 億円・営業利益 37 億円。数量 1.35 倍・価格 1.36 倍、営業利益率 13.0%
- 繊維・不織布・産業繊維(撤退中):数量 0.3(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 214(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 63 億円・営業利益 1 億円。数量 0.10 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 1.0%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.92 倍、時価総額 90 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革は進んだが、包装フィルムの値段と、ガラスクロスの競争は読み切れない。強気と慎重の言い分が一部ずつ当たるとみて、最も厚い4割弱を置いた。
やや悲観 25% 包装フィルムの値段が崩れ、電子材料も伸び悩む 利益 3 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 104 円60 億円
東南アジアの安い製品に押されて、包装フィルムの出荷量は今の75%に落ち、値段も物価に追いつかない。営業利益率は6%台に下がる。樹脂は電機と自動車の需要の波に左右され、数量は横ばいだ。
ガラス繊維は、大手の増産で値段が下がり、数量は伸びても利益は増えない。撤退した繊維の残りも、わずかな赤字を出す。
営業利益は50億円ほどにとどまる。ファンドは転換を選ぶ。事業の価値が小さいので、普通株の取り分は1割強でも、金額はごくわずかだ。
撤退の効果は出るが、それを上回る逆風がある。東南アジアの製品に押された包装フィルムが、全体の足を引っ張る。構造改革で身軽になった分だけ、利益の落ち込みは深くならないが、再生計画が描いた姿には届かない。
- フィルム(包装・工業用):数量 3.0(出荷量(万トン・推定))× 価格 115(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 344 億円・営業利益 22 億円。数量 0.75 倍・価格 1.28 倍、営業利益率 6.5%
- 樹脂・その他高分子:数量 1.6(出荷量(万トン・推定))× 価格 156(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 254 億円・営業利益 19 億円。数量 0.95 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 7.5%
- ガラス繊維・活性炭繊維・ガラスビーズ:数量 0.8(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 256(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 196 億円・営業利益 18 億円。数量 1.00 倍・価格 1.28 倍、営業利益率 9.0%
- 繊維・不織布・産業繊維(撤退中):数量 0.3(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 200(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 0 億円。数量 0.10 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 0.0%
倍率:普通株の取り分は、C種株式が転換した後の持ち分(全体の 11.1%)で測る。純利益・自己資本・還元はすべて全社の値にこの割合を掛けた。全社の事業の ROE は 3.5%、k 8.5%、g 4.0% で、正当化 PER を出し、上限の約 6 割に置いた。利益の質(売却益に頼らない稼ぎ、競争の厳しさ)を見て 8.0 倍。
確率:過去の二度の構造改革が、利益を戻せなかった。包装フィルムの値段は市場が決めるので、楽観側よりやや厚い2割台半ばを置いた。
悲観 12% 再生が再び失敗し、ファンドが償還を求める 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 26 円15 億円
包装フィルムは出荷量が4割減り、値段は物価の半分しか上がらない。インドネシアの能力過剰が残り、ガラスクロスも大手に押される。営業利益は10億円に満たなくなり、固定資産の減損が出る。
事業の価値は、ファンドの200億円を少し上回る程度まで落ちる。ファンドは転換せず、払込額と配当の償還を求める。普通株主に残るのは、償還のあとの小さな残りだけだ。
構造的に負けた会社の床は、売れる資産の税後と、純負債の差で測る。そこからファンドの200億円を引くと、普通株主の分はほとんど残らない。
ファンドが転換でなく償還を求めるのは、事業の価値が200億円に近づいた時だけだ。この筋書きでは、転換した場合の持ち分が償還額を下回るので、ファンドは償還を選ぶ。普通株主は最後に回る立場だ。
- フィルム(包装・工業用):数量 2.4(出荷量(万トン・推定))× 価格 104(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 247 億円・営業利益 5 億円。数量 0.60 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 2.0%
- 樹脂・その他高分子:数量 1.4(出荷量(万トン・推定))× 価格 138(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 190 億円・営業利益 6 億円。数量 0.80 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 3.0%
- ガラス繊維・活性炭繊維・ガラスビーズ:数量 0.5(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 230(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 123 億円・営業利益 5 億円。数量 0.70 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 4.0%
- 繊維・不織布・産業繊維(撤退中):数量 0.3(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 176(平均単価(万円/トン・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 −2 億円。数量 0.10 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 -3.0%
倍率:事業の稼ぐ力は小さく、床は売れる資産の税後。全社で約 215 億円の価値からファンドの償還 200 億円を引いた残り(約 15 億円)が普通株主の取り分。自己資本(普通株の取り分で換算)に 0.24 倍を掛けた。ためた利益に倍率は付けない。
確率:再生が三度失敗し、事業の価値が200億円前後まで落ちる複合の筋書き。ファンドが入り、金融機関も支えているので、そこまでの崩れは1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
フィルム(包装・工業用)
ナイロン・ポリエステルの包装フィルム(ガスバリアの「エンブレムHG」など)と、離型フィルム「ユニピール」などの電子材料向け工業用フィルム。
| 数量出荷量(万トン・推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.0 | 90 | 358 | 58 |
| 10 年後 中立 | 3.4 | 121 | 408 | 41 |
取り方:開示は金額だけなので出荷量を推定した。26年3月期の高分子は売上564億円・営業利益94億円で、中間期の内訳(フィルム 約6割、樹脂 約25%、その他)から、フィルムは売上 約358億円、営業利益 約58億円と置いた。平均単価を 90 万円/トンと置くと約 4.0 万トン。数量は実質、物価と高付加価値品へのミックスは単価に入れる。
樹脂・その他高分子
車・電機向けのエンジニアリングプラスチック、水系接着剤向けの変性ポリオレフィン「アローベース」、ナノコンなど。
| 数量出荷量(万トン・推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 120 | 206 | 36 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 163 | 294 | 32 |
取り方:フィルムと同じ按分で、樹脂とその他は売上 約206億円、営業利益 約36億円と推定した(高分子の合計 564億円・94億円に合わせた)。平均単価を 120 万円/トンと置くと約 1.7 万トン。数量は実質、物価は単価に入れる。
ガラス繊維・活性炭繊維・ガラスビーズ
極薄ガラスクロス(半導体パッケージ基板向け)と産業用ガラス繊維、浄水・めっき液用の活性炭繊維、道路・工業用のガラスビーズ。残す機能資材。
| 数量出荷量(万トン換算・推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 200 | 153 | 24 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 272 | 281 | 37 |
取り方:機能資材(売上337億円)のうち、残す側を推定した。2025年3月期の中間期は、活性炭繊維10億円・ガラス繊維48億円・ガラスビーズ14億円で、年換算の約145億円に近い。26年3月期は約153億円、営業利益は約24億円と置いた。平均単価は 200 万円/トン、約 0.77 万トン。数量は実質。
繊維・不織布・産業繊維(撤退中)
衣料繊維、不織布、産業繊維の撤退対象と、撤退後も残るユニフォームなどの繊維。再生計画で縮小・譲渡の途中。
| 数量出荷量(万トン換算・推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.9 | 160 | 468 | −13 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 214 | 63 | 1 |
取り方:全社(売上1,185億円・営業利益105億円)から、上の三つを引いた残りで、売上 約468億円、営業利益 約 ▲13億円。繊維事業の284億円と、機能資材のうち撤退する不織布・産業繊維の約180億円を合わせた規模。平均単価を 160 万円/トンと置くと約 2.9 万トン。数量は実質。
リスクと懸念
C種株式の転換で普通株が薄まる
2027年8月から、ファンドは約4.6億株の普通株に転換できる。今の普通株は約5,800万株で、全体の1割強に縮む。転換価格は今の株価よりはるかに低く、ファンドが転換を選ぶのが合理的だ。会社が開示する転換後の1株利益は、転換前の約9分の1になっている。
議決権と配当をファンドが握る
ファンドは議決権の3分の2超を持ち、取締役の過半を指名できる。配当、増資、自社株買い、M&A、大きな資産の売却は、ファンドの事前承認が要る。普通株の配当は27年3月期の予想もゼロで、普通株主が還元を求める力は弱い。
過去の構造改革が続かなかった
2014年からの構造改革と、2018年度からの投資でも、利益は戻らなかった。インドネシアの子会社は能力過剰で107億円の減損を出した。今回は金融機関の支援とファンドの規律があるが、26年3月期の好決算は、価格改定と撤退の効果にも支えられている。
包装フィルムの値段が東南アジアに縛られる
包装用のナイロンとポリエステルのフィルムは、東南アジアの安い製品と値段を競う。ガスバリアなどの付加価値品が伸びても、汎用品の値段が崩れれば、高分子全体の利益率が下がる。26年3月期の17%は、過去から見て高い。
ガラスクロスは大手との競争になる
極薄ガラスクロスは、AI向け半導体の基板で需要が強い。ただし日東紡が約150億円の増産に動くなど、大手が供給を増やしている。ユニチカは小規模で、需要が強い間は伸びても、需給が緩めば値段と数量の両方で押される恐れがある。
撤退の実行と残る固定費
14の事業は最終合意まで進んだが、一部はまだ完了していない。会社は、撤退後も残る固定費で、下期の利益は上期より落ちるとみている。譲渡先の事情や、生産移管の遅れで、構造改革費用が膨らむ恐れがある。
ファンドの出口の読めなさ
ファンドは株を中期で持ち、第三者への売却を主に考えている。出口の形(市場での売却、第三者への売却、会社による買い戻し)によって、普通株主の取り分も、売り圧力も変わる。価格を決める主役はファンドだ。
今後の分かれ目
- ファンドが転換せずに、200億円の償還を選んで受け取ったら
- 普通株主の取り分は、全社の価値から200億円を引いた分になる。転換の想定より大きく、中立の価値を大きく引き上げる。事業の価値が償還額に近づいた場合に起きる。
- C種株式の転換価格や条件が、再交渉で変わったら
- 取り分の割合(今は約1割強)が動く。条件が普通株に有利になれば、すべての筋書きの価値を引き上げる。開示を最優先で確認する。
- 高分子の営業利益率が、2期続けて15%を保ったら
- フィルムと樹脂の利益率を上方修正し、強気の側の確率を厚くする。ただし取り分の割合は変わらない。
- 極薄ガラスクロスの売上が、大手の増産後も伸び続けたら
- 機能資材の数量を上方修正する。ガラスクロスの利益が全社の4分の1を超えれば、強気の筋書きに重みを移す。
- インドネシアの子会社で、再び減損が出たら
- 包装フィルムの利益率を下げ、慎重な筋書きの確率を上げる。構造改革の再失敗の兆しとみる。
- ファンドが保有株を第三者に売却すると発表したら
- 買い手が払う値段と、普通株への扱い(公開買付けの有無)を確認する。普通株主の取り分は、転換後の持ち分が基準になる。
見ておくもの
- C種株式の転換・償還の通知と、投資契約の変更
- 高分子と機能資材の営業利益率(四半期)
- 極薄ガラスクロスの売上と大手の増産の動き
- 撤退事業の譲渡の完了と構造改革費用
- インドネシアの子会社の稼働と減損
- ファンドの出口(売却先・公開買付け)の開示
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去の市場評価から置かず、資本コスト 8.5%・事業の ROE・長期成長率 4% から、正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g) を出して決めた。中立は事業の ROE が 6〜7% で k を下回るので、PER は 1÷k(約 12 倍)が上限になり、その 9 割に置いた。普通株の取り分は、C種株式が転換した後の持ち分(約 11.1%)で測り、純利益・自己資本・還元を同じ割合で換算した。今の時価総額(約 770 億円)が筋書きより大きいのは、市場が転換の希薄化を織り込んでいないためと見る。今の株価に合わせた調整はしていない。リースの影響は小さい。10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.9→15.65 倍・やや楽観 PER 10.1→14.83 倍・中立 PER 10.9→12.92 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。