結論
ニッケ(日本毛織)は、羊毛の紡績から出発し、不動産と産業資材の会社へ姿を変えた。営業利益のおよそ半分は、商業施設と賃貸不動産を営む人とみらい開発事業が稼ぐ。祖業の繊維は、制服用の毛織物に絞られている。
筆者の結論は、今の値段はやや割高と適正の境目、というものだ。会社は堅い。50年減配がなく、現金が借金を上回る。ただ10年の伸びは物価並みで、資本の稼ぎは資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。強気の筋書きが実現しないと、今の値段を大きく超える価値は見えない。
材料は三つある。一つは、買収で足した不織布と制御装置の産業機材だ。二つ目は、伊丹の跡地などの再開発で、賃料の伸びが見込める。三つ目は、時価で282億円まで膨らんだ政策保有株で、含み益が厚い。
不安は二つある。国内の少子化で制服の需要が細ること、そして投資の稼ぎが低いことだ。衣料繊維で4%台、産業機材で6%台にとどまる。
会社が掲げる売上2,000億円は、10年かけて届くかどうかの水準だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は二つの資産の束だ。一つは不動産を中心にした安定した稼ぎ、もう一つは含み益を抱えた政策保有株だ。
安定した稼ぎは、商業施設と賃貸が生む。景気に左右されにくく、10年先も存在する。ただ、この稼ぎを大きく伸ばす手は限られる。再開発できる土地を増やせるかで決まる。
衣料繊維と産業機材は、資本を食う割に稼ぎが低い。投下資本の稼ぎが5%前後の事業に追加で資本を入れても、価値は増えない。
政策保有株は、含み益に税がかかるので、手に入る額は時価より小さい。それでも、まとまった額が株主に戻りうる。売却が遅いことが、価値を目減りさせている。
安全域でいえば、今の値段は事業の価値とほぼ釣り合う。割安とまでは言えない。筆者が持ちたいと思うのは、再開発を急ぎ、政策保有株を減らして株主に戻す姿勢が見えた時だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ頭は人とみらい開発事業だ。2025年11月期の売上は267億円、営業利益は68億円で、利益率は25%に近い。千葉県市川市のニッケコルトンプラザと、兵庫県加古川市のニッケパークタウンという二つの商業施設を持つ。賃貸ビルや賃貸住宅、介護・保育・スポーツ施設もこの事業だ。
産業機材事業は、売上352億円で最大の事業だ。自動車の内装材やフィルターに使う不織布、鉄道車両の制御装置、工場の自動化設備、バドミントンのガットや釣糸を手がける。呉羽テック、カンキョーテクノ、カコテクノスなどの買収で規模を広げてきた。営業利益は29億円で、利益率は8%台だ。
衣料繊維事業は、売上303億円。祖業のウール製品で、学校や官公庁、企業の制服用の生地が85%を占める。糸から縫製品まで一貫でつくれるのが強みだ。ただ営業利益は26億円で、会社の計画を下回った。学校制服の販売先で在庫がだぶついたためだ。
生活流通事業は、売上が約230億円。毛布、寝装品、家具、乗馬用品、均一価格の店向けの雑貨などを卸す。利益率は4%台と低い。
この会社には、連結売上の1割を超える大口の顧客がいない。顧客が分散している点は安心材料になる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、事業ごとに濃さが違う。いちばん確かなのは不動産だ。大型の商業施設は、立地が決まれば競合が入りにくい。保有する土地は取得が古く、賃料を生む力に比べて帳簿の値が低い。
産業機材は、買収で技術を足した段階だ。自動車向けの不織布は、完成車メーカーが値段を決める側にいて、堀は薄い。鉄道向けの制御装置のように、認証を取って納めた先で長く使われる分野は、堀が出てくる。
衣料繊維は、制服という安定した需要がある。ただ国内の生徒数が減るので、ここは構造的に縮む。会社もそれをリスクと認めている。
資本の稼ぎには物足りなさが残る。全社の営業利益率は10%に乗ったが、売上は伸びなかった。投下資本の稼ぎは、衣料繊維が4%台、産業機材が6%台だ。会社が投資に課す目標の8%に届かない。ROEの10年の中央値は7%弱にとどまる。
強みは財務の安全さだ。自己資本比率は69%、現金が借金を上回る。景気が悪い年も、配当を続けられる。
筆者がいちばん気にするのは、経営が資本の置き場を絞れていないことだ。全部の事業を「本業」と呼ぶ姿勢が、買収を重ねる素地になった。会社自身も、成長の柱の育成が遅れていると認めている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社は一つの業界では語れない。商業施設・不動産、自動車や産業の資材、ユニフォーム、生活雑貨、そして医療用素材の五つに立っている。
商業施設は、地域に根ざした郊外型だ。来館者は回復し、賃料は物価に遅れて上がる。ネット通販に押される心配はあるが、食品・サービス・保育のような、足を運ばないと使えない店が下支えする。
自動車向けの不織布と制御装置は、世界の自動車生産に連動する。台数は横ばいに近い。完成車メーカーの値下げ圧力は強く、数量が伸びても利益は伸びにくい。環境向けでは、焼却炉に使う高機能フィルターが、規制の強まりで伸びる見通しだ。
ユニフォームは、少子化で国内の制服の数が減る。会社は、生地の販売から縫製品の供給へ移ることで、1着あたりの単価を上げ、数量の減りを補う考えだ。海外のウール織物とアウトドア向けのニット糸は、まだ小さい。
生活流通は、人口とともに緩やかに細る卸の世界だ。トランクルーム用コンテナのような新しい品も、規模は小さい。
医療用素材は、再生医療向けの細胞培養基材を育てている段階で、利益への寄与はまだない。
10年の構図は、人口減に縛られる繊維と卸が足を引っ張り、不動産と産業資材が物価の分だけ全体を押し上げる、というものだ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、堅実だが慎重すぎる。第3次中期経営計画は、配当性向35%とDOE2.5%を目標に掲げ、2025年11月期に1年早く達成した。50年減配がなく、2026年11月期は8期連続の増配を予定する。2025年には200万株の自社株買いも行った。
成長投資は、3年で約500億円の枠を置いた。ただ設備と研究開発は、約60億円の未達になる見通しだ。M&Aは過去5年で8件。呉羽テック、カンキョーテクノ、鉄道向け制御装置のカコテクノスなどを取り込み、産業機材を厚くした。投資の基準は、投下資本の稼ぎ8%が目標、最低5%で、のれんは営業利益で5年以内に回収する。
政策保有株は、5年で簿価約30億円を売っただけだ。時価は282億円と、時価総額の2割にあたる。売却のペースは遅い。
買収防衛策がある。10年以内に買収される確率は、参考にしている推計で17%近くある。ただし防衛策が残る間は、友好的でない買収は難しい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
不動産は強く、資産の価値はこれから表に出る。営業利益の半分を稼ぐ人とみらい開発事業は、八重洲通フィルテラスと夙川の賃貸住宅が2026年から通期で寄与する。旧フジコーの伊丹跡地とコルトンプラザ南側の再開発が動けば、賃料はさらに積み上がる。土地は取得が古く、帳簿に出ていない価値が大きい。
産業機材は、買収で土台ができた。呉羽テックの不織布、鉄道向けのカコテクノスの制御装置、カンキョーテクノの環境機器が、グループ内で技術と営業網を共有し始める。不織布と制御装置は、会社が第3、第4の収益の柱にすると明言した。海外の拠点が育てば、国内の人口減に縛られない伸びが出る。
衣料繊維は、縫製品へ軸足を移し、岐阜にトップメイキング工程を新設して、原料から一貫で品質を確保する。ウール素材は、スポーツやインナーでも評価が高まっている。
資本政策も動く。配当性向とDOEの目標を前倒しで達成した会社は、新しい中長期計画でさらに引き上げる余地がある。時価で282億円ある政策保有株を売れば、自社株買いの原資になる。
10年で売上2,000億円、営業利益250億円に届けば、今の値段は明らかに安い。
慎重な見方
成長の筋書きは、会社の自己評価を見ても怪しい。成長の柱の育成が遅れていると、会社自身が認めている。売上は買収で積み増しただけで、既存事業の自力の伸びは限られた。設備と研究開発の投資は、計画から約60億円遅れている。
資本の稼ぎも低い。衣料繊維は4%台、産業機材は6%台で、どちらも会社が掲げる投資の目標の8%に届かない。買収ののれんは5年で営業利益から回収する前提だが、不織布は自動車メーカーの値下げ圧力を受ける。
衣料繊維は、学校制服の需要が国内の生徒数とともに構造的に減る。2025年11月期は、販売先の在庫調整で計画を下回った。縫製品への転換は、低コストで先行するアジアの縫製メーカーとの競争になる。
商業施設は、ネット通販と人手不足の逆風を受ける。伊丹などの再開発は、金利が上がる中で投資の回収が延びる。建築費の高騰も重い。
政策保有株の売却は、5年で簿価約30億円と遅い。資本効率を上げる意思が弱ければ、含み益は眠ったままで、ROEは7%前後から上がらない。今の値段は、こうした疑問を割り引いてもなお高い。
どちらに重みを置いたか
不動産と財務は本物で、産業機材の土台もできた。ただ伸びは物価並みで、資本の稼ぎは資本コストをわずかに上回る程度だ。強気の言い分は、再開発と海外の両方の成功を必要とする。慎重な言い分は、会社自身の自己評価と数字で裏づけられている。
確率は中立をいちばん厚くした。やや悲観を、やや楽観よりわずかに厚くした。悲観は、制服と自動車向けの崩れに、商業施設の不振が重なる複合の筋書きで、1割強を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/11 期)
確率で加重した株価時価総額 3,339 円2,175 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 867 円565 億円)。 今の値に割り戻すと 2,363 円1,539 億円、今との差 +13.6%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 6.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,556 円3,619 億円 | 1,290 円840 億円 | +229.1% | +12.7% | 548 円357 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,297 円2,799 億円 | 1,059 円690 億円 | +157.5% | +9.9% | 1,071 円698 億円 |
| 中立 | 38% | 3,525 円2,296 億円 | 912 円594 億円 | +113.3% | +7.9% | 1,686 円1,098 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,622 円1,708 億円 | 683 円445 億円 | +58.9% | +4.7% | 727 円474 億円 |
| 悲観 | 12% | 990 円645 億円 | 461 円300 億円 | −30.3% | −3.5% | 174 円113 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,339 円2,175 億円 | 867 円565 億円 | +102.2% | +7.3% | 4,206 円2,740 億円 |
今の株価時価総額 2,080 円1,355 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 再開発と産業機材が両輪で伸び、売上2,000億円に届く 利益 190 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 5,556 円3,619 億円
中長期ビジョンが描いた絵が、ほぼそのまま実現する。産業機材は、不織布と制御装置が第3、第4の収益の柱に育つ。出荷量は1.45倍に増え、海外の拠点が国内の人口減を補う。
人とみらい開発は、伊丹の跡地とコルトンプラザ南側の再開発が完成し、賃貸の床が増える。賃料は物価に沿って上がり、利益率は27%に達する。
衣料繊維は、縫製品への転換が進んで単価が上がり、利益率が10%に戻る。メディカル関連は、再生医療向けの素材が育って黒字になる。
売上は2,000億円を超え、営業利益は250億円台になる。政策保有株は計画的に売られ、自社株買いに回る。ROEは10%に乗り、資本コストを明確に上回る会社になる。
- 衣料繊維:数量 0.3(出荷量(万トン・毛糸・毛織物・縫製品の重量換算、推定))× 価格 1,450(平均単価(万円/トン・名目、縫製品の割合を含む))→ 売上 417 億円・営業利益 42 億円。数量 0.95 倍・価格 1.45 倍、営業利益率 10.0%
- 産業機材:数量 3.4(出荷量(万トン・不織布・資材・装置の重量換算、推定))× 価格 210(平均単価(万円/トン・名目、装置を含む))→ 売上 714 億円・営業利益 71 億円。数量 1.45 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 10.0%
- 人とみらい開発:数量 70.0(運営・賃貸の床面積換算(万m2、推定))× 価格 7.15(1m2あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 501 億円・営業利益 135 億円。数量 1.40 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 27.0%
- 生活流通:数量 1,933(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.16(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 311 億円・営業利益 17 億円。数量 1.00 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 5.5%
- その他(メディカル・本社付帯):数量 125(取引件数(万件、推定))× 価格 1.07(1件あたり売上(万円・名目))→ 売上 134 億円・営業利益 11 億円。数量 2.50 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 188 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)133 億円。全体の PER 17.99 倍、時価総額 3,518 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 17.57 倍・時価総額 3,338 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:再開発の完成と、産業機材の海外展開と、メディカルの黒字化が重なる必要がある。会社は売上の伸びが遅れていると認めており、連続の成功は確率が低いので8%とした。
やや楽観 20% 産業機材が育ち、再開発も進んで利益が積み上がる 利益 151 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 4,297 円2,799 億円
産業機材が会社の目標どおり育つ。不織布の出荷が1.28倍に増え、鉄道や工場向けの装置も受注を重ねる。自動車向けの値下げ圧力は残るが、環境向けの高機能フィルターがそれを補う。
人とみらい開発は、八重洲通フィルテラスと夙川の賃貸住宅が通期で寄与し、伊丹の再開発も一部が稼働する。賃料は物価より少し遅れて上がり、利益率は25%台に乗る。
衣料繊維は、縫製品への転換が進むが、制服の数は減り続ける。出荷量は1割減り、利益率は9%台にとどまる。
営業利益は200億円前後で、会社の中計が掲げる130億円を大きく超える。配当は増え続け、自社株買いも続く。倍率は普通の優良企業並みで、特別な高評価は付かない。
- 衣料繊維:数量 0.3(出荷量(万トン・毛糸・毛織物・縫製品の重量換算、推定))× 価格 1,420(平均単価(万円/トン・名目、縫製品の割合を含む))→ 売上 387 億円・営業利益 36 億円。数量 0.90 倍・価格 1.42 倍、営業利益率 9.3%
- 産業機材:数量 3.0(出荷量(万トン・不織布・資材・装置の重量換算、推定))× 価格 207(平均単価(万円/トン・名目、装置を含む))→ 売上 621 億円・営業利益 56 億円。数量 1.28 倍・価格 1.38 倍、営業利益率 9.0%
- 人とみらい開発:数量 62.5(運営・賃貸の床面積換算(万m2、推定))× 価格 7.04(1m2あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 440 億円・営業利益 112 億円。数量 1.25 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 25.5%
- 生活流通:数量 1,895(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.16(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 299 億円・営業利益 15 億円。数量 0.98 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 5.0%
- その他(メディカル・本社付帯):数量 90.0(取引件数(万件、推定))× 価格 1.06(1件あたり売上(万円・名目))→ 売上 95 億円・営業利益 2 億円。数量 1.80 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 2.0%
倍率:事業の純利益 149 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)133 億円。全体の PER 16.6 倍、時価総額 2,609 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 16.17 倍・時価総額 2,442 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:産業機材が会社の目標どおり育ち、再開発も予定どおり進む筋書き。5期連続で増収増益を続けた実績の延長にあるので、2割を置いた。
中立 38% 不動産が支え、全体は物価並みに伸びる 利益 125 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 3,525 円2,296 億円
不動産が全体を支え、残りが物価の分だけ伸びる。人とみらい開発は、新しい賃貸ビルと住宅が通期で寄与し、伊丹の再開発は一部にとどまる。出荷量は1.15倍、利益率は24%台で落ち着く。
産業機材は、不織布と制御装置で出荷量が1.12倍になる。自動車向けは数量が横ばいで、値下げ圧力が利益率を8%台に抑える。
衣料繊維は、制服の数が1割5分減るが、縫製品への転換で単価が物価を上回る。利益率は8%に下がる。生活流通は人口とともに細り、メディカルは赤字を脱しない。
営業利益は160億円台で、利益率は10%弱だ。還元は純利益の5割台半ばを保つ。政策保有株は、少しずつ売られる。ROEは7%前後で、資本コストをわずかに超える。
- 衣料繊維:数量 0.3(出荷量(万トン・毛糸・毛織物・縫製品の重量換算、推定))× 価格 1,400(平均単価(万円/トン・名目、縫製品の割合を含む))→ 売上 360 億円・営業利益 29 億円。数量 0.85 倍・価格 1.40 倍、営業利益率 8.0%
- 産業機材:数量 2.6(出荷量(万トン・不織布・資材・装置の重量換算、推定))× 価格 204(平均単価(万円/トン・名目、装置を含む))→ 売上 536 億円・営業利益 46 億円。数量 1.12 倍・価格 1.36 倍、営業利益率 8.5%
- 人とみらい開発:数量 57.5(運営・賃貸の床面積換算(万m2、推定))× 価格 6.94(1m2あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 399 億円・営業利益 98 億円。数量 1.15 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 24.5%
- 生活流通:数量 1,837(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.16(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 287 億円・営業利益 13 億円。数量 0.95 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 4.5%
- その他(メディカル・本社付帯):数量 75.0(取引件数(万件、推定))× 価格 1.04(1件あたり売上(万円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 0 億円。数量 1.50 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 0.0%
倍率:事業の純利益 123 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)133 億円。全体の PER 15.48 倍、時価総額 2,039 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 15 倍・時価総額 1,875 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:不動産が堅く、繊維の縮みと産業機材の伸びがほぼ打ち消し合う落としどころ。強気と慎重の言い分が一部ずつ当たるとみて、いちばん厚く38%を置いた。
やや悲観 22% 制服と自動車向けが重く、利益が横ばいにとどまる 利益 87 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 2,622 円1,708 億円
制服の縮みが速まり、自動車向けの値下げが続く。衣料繊維の出荷量は2割減り、価格転嫁も遅れて利益率は6%に下がる。不織布は数量が伸びず、産業機材の利益率は6%台にとどまる。
人とみらい開発は、ネット通販の影響で商業施設の賃料が伸びず、再開発も遅れる。利益率は22%に下がる。メディカルは赤字が続く。
営業利益は110億円台で、今の水準から物価の分も伸びない。買収は成果が出ず、のれんの減損が一部で出る。会社は配当を守り、自社株買いを控える。
財務は堅く、現金は借金を上回ったままだ。政策保有株の売却は進まず、資本効率は上がらない。ROEは5%前後に下がり、資本コストを下回る。
- 衣料繊維:数量 0.2(出荷量(万トン・毛糸・毛織物・縫製品の重量換算、推定))× 価格 1,320(平均単価(万円/トン・名目、縫製品の割合を含む))→ 売上 312 億円・営業利益 19 億円。数量 0.78 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 6.0%
- 産業機材:数量 2.3(出荷量(万トン・不織布・資材・装置の重量換算、推定))× 価格 195(平均単価(万円/トン・名目、装置を含む))→ 売上 457 億円・営業利益 30 億円。数量 1.00 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 6.5%
- 人とみらい開発:数量 52.5(運営・賃貸の床面積換算(万m2、推定))× 価格 6.72(1m2あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 353 億円・営業利益 78 億円。数量 1.05 倍・価格 1.26 倍、営業利益率 22.0%
- 生活流通:数量 1,701(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.15(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 255 億円・営業利益 9 億円。数量 0.88 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 3.5%
- その他(メディカル・本社付帯):数量 60.0(取引件数(万件、推定))× 価格 1.00(1件あたり売上(万円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 −3 億円。数量 1.20 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 -5.0%
倍率:事業のROEは5.2%でk 6.75%以下なので、正当化PERは1÷k(13.8倍)が上限(ためた利益は額面未満)。成長の乏しさと投資の低い稼ぎを見て、その8割の11.0倍に置いた。余った現金は今の額の0.75倍(谷で食う)に戻り方0.5を掛けて足した。
確率:制服の縮みが速く、自動車向けの値下げが続いて、成長投資の稼ぎが上がらない筋書き。成長の柱の育成が遅れている現状を見て、やや楽観よりわずかに厚い22%とした。
悲観 12% 制服も自動車向けも崩れ、商業施設も不振になる 利益 20 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 990 円645 億円
制服の需要が構造的に崩れ、衣料繊維は赤字に沈む。出荷量は4割減り、価格競争で単価も物価に追いつかない。自動車向けの不織布は、完成車メーカーの値下げと、海外の安価な不織布に押される。買収ののれんは大きく減損する。
人とみらい開発も崩れる。ネット通販と人手不足でテナントが減り、金利の上昇で再開発の投資が回らない。賃料は物価に届かず、空室が増える。
営業利益は30億円に満たず、会社は事業の稼ぎでなく、資産の価値で値付けされる。配当は続くが、自社株買いは止まる。
政策保有株の時価は下がり、現金も運転資金に食われる。売れる資産の価値が、会社の価値の中心になる。
- 衣料繊維:数量 0.2(出荷量(万トン・毛糸・毛織物・縫製品の重量換算、推定))× 価格 1,200(平均単価(万円/トン・名目、縫製品の割合を含む))→ 売上 218 億円・営業利益 −4 億円。数量 0.60 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 -2.0%
- 産業機材:数量 2.0(出荷量(万トン・不織布・資材・装置の重量換算、推定))× 価格 173(平均単価(万円/トン・名目、装置を含む))→ 売上 344 億円・営業利益 9 億円。数量 0.85 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 2.5%
- 人とみらい開発:数量 47.5(運営・賃貸の床面積換算(万m2、推定))× 価格 5.87(1m2あたり年間売上(万円・名目))→ 売上 279 億円・営業利益 42 億円。数量 0.95 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 15.0%
- 生活流通:数量 1,450(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.14(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 200 億円・営業利益 2 億円。数量 0.75 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 1.0%
- その他(メディカル・本社付帯):数量 40.0(取引件数(万件、推定))× 価格 0.88(1件あたり売上(万円・名目))→ 売上 35 億円・営業利益 −4 億円。数量 0.80 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 -10.0%
倍率:事業の稼ぐ力(純利益÷k)は小さいので、売れる資産の税後を床にして、今の自己資本1,316億円に0.49倍を掛けた。事業が優良さを失い、ROEがkを大きく下回るので、ためた利益に倍率は付けない。
確率:制服と自動車向けが崩れ、商業施設も不振になる複合の筋書き。不動産と財務の厚みがあるので事業が丸ごと消えることはなく、1割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
衣料繊維
毛糸・毛織物・縫製品。制服用の生地が85%を占める。糸から縫製品まで一貫でつくる。
| 数量出荷量(万トン・毛糸・毛織物・縫製品の重量換算、推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目、縫製品の割合を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 0.3 | 1,000 | 303 | 27 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 1,400 | 360 | 29 |
取り方:開示は金額だけなので出荷量を推定した。毛織物の生地は1メートルあたり数千円、重さは数百グラムで、縫製品を含めた平均を1トン1,000万円と置くと約0.3万トンになる。数量は実質(生徒数と制服の数)、物価と縫製品への切り替えは単価に入れる。
産業機材
自動車用などの不織布、鉄道・工場向けの制御装置と自動化設備、環境フィルター、ガットや釣糸。
| 数量出荷量(万トン・不織布・資材・装置の重量換算、推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目、装置を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 2.3 | 150 | 352 | 29 |
| 10 年後 中立 | 2.6 | 204 | 536 | 46 |
取り方:開示は金額だけ。不織布は1トン数十万円、制御装置や自動化設備は1トンあたり数百万円になるので、全体の平均を150万円/トンと置くと約2.3万トンになる。数量は実質、物価と装置へのミックスは単価に入れる。
人とみらい開発
商業施設(ニッケコルトンプラザ・ニッケパークタウン)の運営、不動産の賃貸・開発、建設、介護・保育・スポーツ施設。
| 数量運営・賃貸の床面積換算(万m2、推定) | 価格1m2あたり年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 50.0 | 5.34 | 267 | 68 |
| 10 年後 中立 | 57.5 | 6.94 | 399 | 98 |
取り方:開示は金額だけ。売上を床面積に直した推定で、施設と賃貸住宅・ビル・介護・保育などを合わせて約50万m2、1m2あたりの年売上を5.3万円と置いた。面積は実質(新しい開発で増える)、賃料の改定や建設の単価は1m2あたり売上に入れる。
生活流通
毛布・寝装品、家具、乗馬用品、スタンプ、手編毛糸、均一価格の店向け雑貨の卸、トランクルーム用コンテナ。
| 数量出荷点数(万点、推定) | 価格1点あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 1,933 | 0.12 | 232 | 11 |
| 10 年後 中立 | 1,837 | 0.16 | 287 | 13 |
取り方:開示は金額だけ。毛布や家具から低価格の雑貨まで混ざるので、平均で1点0.12万円と置くと約1,900万点になる。点数は実質(人口と需要)、物価と品の入れ替えは1点あたり売上に入れる。
その他(メディカル・本社付帯)
再生医療向けの細胞培養基材など医療関連の育成事業と、グループの付帯事業。営業利益は調整に含める。
| 数量取引件数(万件、推定) | 価格1件あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/11 | 50.0 | 0.80 | 40 | 0 |
| 10 年後 中立 | 75.0 | 1.04 | 78 | 0 |
取り方:開示は金額だけで、利益は全社の調整に含まれる。1件0.8万円と置いた推定。件数は実質、物価は単価に入れる。 数量は実物(取引件数)で、名目の市場の伸びではない。
リスクと懸念
少子化で制服が細る
衣料繊維の売上の85%はユニフォームで、学校制服が柱だ。国内の生徒数は減り続ける。2025年11月期は販売先の在庫調整で計画を下回った。縫製品への転換が遅れれば、数量の縮みが利益率を押し下げる。
自動車向けの数量と値段
産業機材の約半分は自動車向けで、完成車メーカーが値段を決める側にいる。不織布の需要は自動車の生産台数と部品の仕様変更に左右される。値下げ圧力が続けば、買収で厚くした産業機材の利益率が上がらない。
M&Aとのれん
過去5年で8件の買収をこなし、呉羽テックなどを取り込んだ。投下資本の稼ぎは、衣料繊維が4%台、産業機材が6%台で、会社の目標の8%に届かない。買収した会社の稼ぎが想定を下回れば、のれんの減損が利益を削る。
商業施設と再開発の収益
ニッケコルトンプラザとニッケパークタウンは、ネット通販と人手不足の影響を受ける。伊丹の再開発などは、金利と建築費が上がると投資の回収が延びる。不動産の稼ぎが崩れると、全社の利益が大きく振れる。
政策保有株の値下がりと売却の遅れ
政策保有株の時価は282億円で、時価総額の2割にあたる。株式市場が大きく下がれば、含み益は縮む。売却が遅いまま保有が続けば、資本効率は上がらず、ROEは7%前後にとどまる。
原油・資材高と中国の景況
2026年度は、中東情勢による原油と資材の値上がり、中国景況の回復の遅れが重なる。不織布や資材は原料の値上がりを価格に移す遅れが出やすく、短期の利益を削る。
人手不足
介護、建設、商業施設の運営、国内の縫製と紡績の現場は、いずれも人手が足りない。外注先の廃業も起きている。人件費が物価を上回って上がれば、利益率の下押しになる。
今後の分かれ目
- 伊丹の再開発とコルトンプラザ南側の計画が決まり、着工に進んだら
- 賃貸の床が増えるので、人とみらい開発の数量を上方修正し、やや楽観の確率を厚くしてよい。
- 産業機材の営業利益率が2期続けて9%を超えたら
- 買収の成果が出たと判断し、中立の利益率を上げ、楽観側の確率を厚くする。
- 政策保有株の売却が加速し、自社株買いの追加が決まったら
- 還元の合計と余った現金の戻り方を上方修正する。ただし事業の稼ぎが変わらなければ、倍率は動かさない。
- 衣料繊維の営業利益が2期続けて計画を下回ったら
- 制服の縮みが速いと判断し、数量を下方修正してやや悲観の確率を上げる。
- 大型のM&Aでのれんが大きく膨らんだら
- 資本の使い方に疑いを持ち、投下資本の稼ぎが低いままなら、悲観側の確率を少し上げる。
- 2027年度から始まる新しい中期経営計画が、利益率や資本の稼ぎの数値目標を引き上げたら
- 資本政策の転換とみて、還元の見通しを上げる。数値目標が今と同じなら、中立のまま据え置く。
見ておくもの
- 人とみらい開発の営業利益と、再開発案件の着工
- 産業機材の営業利益率と、不織布・制御装置の受注
- 衣料繊維の営業損益と、制服の販売先の在庫の動き
- 政策保有株の売却額と、自社株買いの追加
- M&Aの実行の有無と、買収後ののれん
- 2027年度から始まる新しい中期経営計画の数値目標
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去・同業の評価から置かず、資本コスト6.75%、事業のROE、長期成長率3.75%から、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出して決めた。中立は事業のROEがkをわずかに上回るだけなので、式の値と下限の1÷kがほぼ重なる。今のPERは倍率の根拠に使っていない。余った現金は政策保有株の税後の概算で、戻り方0.5として足した。リースの影響は小さい(商業施設は自社保有で、借りて営む店舗は小さい)。10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。