結論
小松マテーレは、ポリエステルやナイロンの生地を染め、撥水や防臭などの機能を加える石川県の会社だ。ブランドや商社が企画した生地を仕上げる、縁の下の存在である。売上は約416億円、営業利益は25億円。
筆者の結論は「やや割高」である。10年先の中心の見立てでは、価値は今の時価総額とほぼ同じ。だが悪い目が出た時の下振れが、良い目の上振れより大きい。
強みは技術と地盤だ。国内の染色加工で約14%、地元の石川県では約9割を占める。中東の民族衣装と北米のファッションが伸び、5期連続で増収増益を続けた。
弱みは、値段を自分で決められないことだ。加工賃は発注元との交渉で決まる。今期は中東の混乱で約20億円の利益が消える見通しで、さらに工場の建て替えに300億円以上をかける。
財務は堅い。純現金は92億円、自己資本比率は76%ある。ただ、利益が小さく、自己資本利益率は10年の中央値で5%に届かない。堅さが、そのまま株主の利益になっていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、「良い会社だが、持ち続けて複利で増える会社ではない」と見る。
技術は本物だ。しかし加工賃を決めるのは発注元で、営業利益率が6%に届いたのは、過去12年で最後の1年だけだ。稼ぐ力を測ると、営業利益は25億円、ならした純利益は23億円ほど。時価総額の260億円に対し、およそ11倍にあたる。
安全域は財務にある。純現金92億円と、上場の政策保有株の時価71億円で、時価総額の6割をまかなえる。ただ、この現金は事業に使われる。工場の建て替えに300億円以上、今期の設備投資は49億円で、償却費の2倍を超える。投じた資金が、資本コスト以上の稼ぎを生むか。勝負はここにある。
資本の使い方は、評価できる点が多い。配当と自社株買いで、純利益に近い額を戻してきた。一方で、非上場株の評価損のように、小さな賭けが外れた例もある。
10年後に今より強い会社か。新素材と中東が伸びれば強くなり、工場が重荷になれば弱くなる。分かれ目は、省人化で利益率が上がるかどうかだ。今の値段に、十分な安全域があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
事業の本体は、化学素材メーカーを名乗る染色加工だ。ポリエステルやナイロンの生地を、年に約2億平方メートル染める。糸や生地を作る川上と、服や鞄を作る川下の間に立つ。国内の染色加工では約14%、石川県内ではほぼ9割を持つ。
売上の7割は衣料ファブリックで、296億円。スポーツ、ファッション、中東の民族衣装(トーブ)の3本柱だ。民族衣装は64億円で、前期より15%増えた。海外売上は176億円で、半分以上が中東と北米である。
資材ファブリックは88億円。鞄や日傘などの生活関連資材が、過去最高の29億円になった。車輌、電子材料、リビング、医療・福祉向けもある。
製品部門は26億円。子会社の連結で、前期のほぼ2倍になった。生地の加工から最終製品へ、事業を広げる試みだ。
新素材にも出資している。人工のタンパク質を作るSpiberや、植物由来の繊維を作るBioworksの素材を、染色の技術で仕上げる狙いだ。炭素繊維の耐震補強材や、汚泥を減らす微生物の製剤もある。どれもまだ小さい。
衣料と資材を合わせた営業利益は22.5億円。全社の営業利益率は6.0%で、過去12年の最高である。
優良さと弱いところ
一言でいえば、腕は確かだが、値段は決められない会社だ。
技術の幅が、堀に近い。染色だけでなく、風合いの変化、撥水や防臭、膜をつける加工を一社でこなす。イタリアの染色会社との交流で磨いた「製品染め」もある。欧州のラグジュアリーブランドや北米の有名ブランドが使う理由は、この仕上げの幅にある。
一方で、加工賃は発注元が握る。東レは大株主で、主な納入先とされる。一つの客の影響は大きい。中東の民族衣装も、取引先が限られる。堀と呼べるのは技術の幅までで、価格を決める力にはなっていない。
資本効率は低い。自己資本利益率は過去10年の中央値で4.9%、最高でも7.4%だ。自己資本比率76%の厚い財務が、利益率を薄めている。
資本配分は評価が割れる。政策保有株の縮減と自社株買いで、株主に戻す姿勢は明確だ。総還元性向は2025年3月期に155%まで上げた。だが非上場株に出資し、12億円の評価損を出した。新素材への賭けは、結果が出るまで時間がかかる。
経営は、中山大輔社長のもとで、中期経営計画の営業利益の目標を1年前倒しで達成した。実績は積み上がっている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場の大枠は、衣料と資材向けの素材の需要だ。国内の衣料は人口減で細る。海外のブランド向けは、品質志向で堅い。同社は、この二つの間に立つ。
中東の民族衣装は、海外の柱だ。2026年3月期の中東向けは60億円で、12%増えた。ところが今期は、中東情勢の緊迫で約20億円の利益が押し下げられる見通しだ。ホルムズ海峡の封鎖で、出荷した製品が洋上で滞っている。ナフサなど石油製品の供給にも影響が出ており、合成繊維の原料価格の不安も重なる。
北米向けのファッションは伸びている。2026年3月期は57億円で、12%増えた。アジア向け、特に中国のカジュアルは減っている。
染色加工の競争は、国内では設備を持つ同業との差別化、海外ではアジアの加工業者との価格競争が軸になる。同社は設備の老朽化と人手不足を、工場の再編の理由に挙げている。
資材は用途が分かれる。鞄や日傘のような生活雑貨、車輌、電子材料だ。景気の山谷は、衣料よりも小さい。
需要の波をならすと、実質の数量は横ばいに近い。国内の人口減と、海外の緩やかな伸びが打ち消し合うからだ。値段は物価並みに上がるのが基本だが、発注元の値下げ要求で、わずかに物価を下回りやすい。
10年を通した前提は、1ドル150円で動かさない。
資本政策と M&A
還元は厚い。配当は連結配当性向40%以上が目安で、2026年3月期は51%、前期は70%だった。これに自社株買いが加わり、総還元性向は2025年3月期に155%、2026年3月期に86%となった。今は上限17億円の自社株買いを、2026年10月末まで実行中だ。
政策保有株は、時価で78億円、純資産の19.5%ある。3年で半分、約40億円を減らす計画で、2026年3月期は約15億円を売った。上場11社に加え、非上場12社の株も持つ。
工場の再編「factoRe100」は、総工費が300億円以上で、完成は2043年。3〜5年ごとに、既存の敷地内で建て替えと新設を進める。年平均では十数億円で、今期の償却費22億円より小さい。ただ、今期は基幹システムの更新も重なり、設備投資は49億円に膨らむ。
M&Aは、子会社の取得で製品部門を広げた段階にとどまる。買われる側の可能性は否定できない。純現金と上場の政策保有株を合わせると、時価総額の6割にあたる。東レが約1割を持つ。kabufu の推計では、10年以内の買収の確率は2割ほどだ。
株主優待はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
5期連続で増収増益を続け、中期経営計画の営業利益25億円・利益率6%を1年前倒しで達成した。実績は言葉だけではない。
中東の民族衣装は高付加価値品の継続投入で増え、北米のファッションも伸びた。海外売上は過去最高の176億円で、国内の人口減に左右されにくい。中東の混乱は一時的な要因で、洋上で滞った製品は、いずれ売上に戻る。
今期の営業利益15億円の予想は、工場の建て替えやシステム、福利厚生といった構造改革の費用を、20億円分あえて先に積んだ結果だ。この費用が一巡すれば、利益は戻る。価格改定も16億円の効果を見込んでおり、値上げが通る力はある。
製品部門は、子会社の取得で売上が倍になった。生地の加工から最終製品へ広がれば、値段を握る力が増える。植物由来や人工タンパクの新素材と染色技術の組み合わせは、石油に頼らない素材の波に乗る。
財務は盤石で、純現金92億円、政策保有株の売却で40億円を捻出し、自社株買いも続く。株主に戻す姿勢が明確だ。
慎重な見方
利益率6%は過去12年で初めての水準で、10年のほとんどは4〜5%台だった。最高益は、値上げと円安の効果が大きい。続く保証はない。
今期の営業利益は、会社自身が40%の減益を予想している。中東の混乱が収まっても、構造改革の費用は戻らない。費用の中身はシステム、設備、福利厚生で、固定費として残る。さらに、工場の建て替えは300億円以上。償却費が増え、利益を押し下げ続ける。
加工賃を決めるのは発注元だ。東レのような大きな客や、中東の特定の取引先に偏る。アジアの加工業者が品質を上げれば、価格競争に巻き込まれる。
自己資本利益率は10年の中央値で4.9%と、資本コストを大きく下回る。厚い財務は、安全というより、使われていない資本でもある。非上場株の評価損12億円は、新素材への賭けの危うさを示している。
純現金や政策保有株は、すぐ株主の手に戻るわけではない。工場に使われれば、積み上げた現金は消える。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、実績と新素材に説得力がある。ただ、利益率の上振れを10年支える証拠は、最高益の1年だけだ。慎重な言い分は、固定費と外部要因という具体的な重しを挙げており、こちらが少し強い。
そこで確率は、中立に4割強を置き、やや悲観までを厚めにした。やや楽観より上は合わせて23%、やや悲観より下は35%。ただし純現金と政策保有株が、悲観を深くしすぎない床になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 860 円321 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 446 円167 億円)。 今の値に割り戻すと 702 円262 億円、今との差 +1.1%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 1,538 円575 億円 | 643 円240 億円 | +214.3% | +12.1% | 131 円49 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,188 円444 億円 | 549 円205 億円 | +150.3% | +9.6% | 295 円110 億円 |
| 中立 | 42% | 1,021 円381 億円 | 495 円185 億円 | +118.4% | +8.1% | 637 円238 億円 |
| やや悲観 | 24% | 460 円172 億円 | 375 円140 億円 | +20.3% | +1.9% | 200 円75 億円 |
| 悲観 | 11% | 242 円90 億円 | 147 円55 億円 | −44.0% | −5.6% | 43 円16 億円 |
| 加重平均 | 100% | 860 円321 億円 | 446 円167 億円 | +88.2% | +6.5% | 1,306 円488 億円 |
今の株価時価総額 694 円259 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 中東と新素材が重なり、工場の建て替えも実を結ぶ 利益 40 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 1,538 円575 億円
石川の工場の建て替えが順調に進み、自動化で人手と電力のむだが減る。中東向けの民族衣装は高付加価値品の比率が上がり、北米のファッション向けも伸びる。加工量は今の1.1倍強になり、値段は物価をわずかに上回る。
資材では、鞄や日傘などの生活関連資材が定着し、植物由来や人工タンパクの素材が量産に乗る。製品部門は、買収した子会社の販路を使って今の2倍超に育つ。
営業利益率は7%に届く。過去の最高を1ポイントほど超えるが、構造改革費用が一巡し、省人化の効果が出る前提だ。会社が掲げた6%の目標を1年早く達成した実績は、この筋書きの裏づけになる。
純現金は戻り続け、自社株買いも続く。ただし現金の使い道に無理な買収は入れていない。
- 衣料ファブリック:数量 140(加工量(百万m2))× 価格 322(1m2あたり加工売上(円)。物価と高付加価値品の比率、客の値下げ要求で動く)→ 売上 451 億円・営業利益 31 億円。加工量1.12倍、値段1.36倍。高付加価値品が増え営業利益率6.8%
- 資材ファブリック:数量 97.5(加工量(百万m2))× 価格 162(1m2あたり加工売上(円)。物価と用途の構成で動く)→ 売上 158 億円・営業利益 11 億円。加工量1.3倍。生活関連資材と新素材が伸び、営業利益率7.2%
- 製品:数量 288(販売点数(万点))× 価格 2,771(1点あたり売上(円))→ 売上 80 億円・営業利益 6 億円。販売点数2.2倍。営業利益率7.5%
- その他:数量 1.0(1式)× 価格 6.89(売上(億円))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。物価並み
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 13.52 倍、時価総額 575 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中東・北米・新素材・工場の自動化が同時にうまくいく必要がある。営業利益率は過去の最高を超える。実績は積み上がっているが、重なる確率は低いので6%にとどめた。
やや楽観 17% 高付加価値品が伸び、利益率は最高水準を保つ 利益 32 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,188 円444 億円
中東向けの民族衣装が堅調で、北米のファッションも伸びる。工場の建て替えは計画どおりに進み、費用は利益で吸収できる。加工量は今の1.05倍、資材は1.15倍まで伸びる。
製品部門は子会社化の効果が続き、今の2倍近くになる。営業利益率は6.2%と、いまの最高水準をわずかに上回る。構造改革費用が一巡し、価格改定が定着した分だけ、利益率が上がる。
一方で、国内のユニフォームやスポーツは細り、アジア向けの回復は鈍い。新素材は事業として芽が出るが、利益への寄与は小さい。
還元は配当性向40%以上の方針に自社株買いを足す形で続く。株主への戻しは、純利益の8割弱に収まる。
- 衣料ファブリック:数量 131(加工量(百万m2))× 価格 318(1m2あたり加工売上(円)。物価と高付加価値品の比率、客の値下げ要求で動く)→ 売上 417 億円・営業利益 25 億円。加工量1.05倍、値段1.34倍。営業利益率6.0%
- 資材ファブリック:数量 86.3(加工量(百万m2))× 価格 160(1m2あたり加工売上(円)。物価と用途の構成で動く)→ 売上 138 億円・営業利益 9 億円。加工量1.15倍。営業利益率6.2%
- 製品:数量 249(販売点数(万点))× 価格 2,731(1点あたり売上(円))→ 売上 68 億円・営業利益 5 億円。販売点数1.9倍。営業利益率7%
- その他:数量 1.0(1式)× 価格 6.69(売上(億円))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。物価並み
倍率:事業の純利益 32 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 444 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:5期連続の増益を続けた実績があり、利益率6%の目標も1年早く達成した。この勢いの延長は十分ありうる。ただし中東の混乱と構造改革費用が重いので、17%とした。
中立 42% 利益は物価並みに伸びるだけで、実力は横ばい 利益 27 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,021 円381 億円
加工量は今と同じ水準で、値段は物価をわずかに下回る1.32倍に収まる。中東向けは伸びる一方、国内のユニフォームやスポーツは細り、差し引きで横ばいになる。
資材は、生活関連資材が伸びて車輌と電材が横ばいで、加工量は1.05倍になる。製品部門は子会社の効果で1.6倍に伸びる。
営業利益率は5.6%。今の6.0%から少し戻る。工場の建て替えで償却費が増え、システムと福利厚生の費用も固定費として残るからだ。営業利益は物価の伸びとほぼ同じ32億円ほどで、実力はほとんど増えない。
現金の利息が増える分、純利益は27億円ほど。株主への戻しは純利益の8割弱で、自己資本はゆっくり増える。
- 衣料ファブリック:数量 125(加工量(百万m2))× 価格 313(1m2あたり加工売上(円)。物価と高付加価値品の比率、客の値下げ要求で動く)→ 売上 391 億円・営業利益 21 億円。加工量は横ばい、値段は1.32倍(客の値下げ圧力で物価をやや下回る)。営業利益率5.4%
- 資材ファブリック:数量 78.8(加工量(百万m2))× 価格 157(1m2あたり加工売上(円)。物価と用途の構成で動く)→ 売上 124 億円・営業利益 7 億円。加工量1.05倍。営業利益率5.6%
- 製品:数量 210(販売点数(万点))× 価格 2,691(1点あたり売上(円))→ 売上 56 億円・営業利益 4 億円。販売点数1.6倍。営業利益率6.5%
- その他:数量 1.0(1式)× 価格 6.69(売上(億円))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。物価並み
倍率:事業の純利益 26 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)50 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 381 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の言い分(実績と新素材)と慎重な言い分(外部要因と固定費)の落としどころ。実力は物価並みで横ばいとみて、4割強を置いた。
やや悲観 24% 中東と国内ユニフォームが細り、工場投資の重さが残る 利益 17 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 460 円172 億円
中東の需要が戻らず、民族衣装の高付加価値品が値下がりする。国内のユニフォームやスポーツは細り、アジア向けも戻らない。加工量は今の9割に減り、値段も物価に追いつかない。
染め工程の稼働が落ちると、固定費の重い工場は利益が急に削られる。営業利益率は3.8%まで下がる。工場の建て替えは続くので、償却費が重くのしかかる。
資材は、車輌や電材が横ばいでも、生活関連資材が一服し、数量は5%減る。製品部門は伸びるが、利益は薄い。
純利益は17億円ほどで、自己資本利益率は資本コストを大きく下回る。配当は性向どおりに減り、自社株買いは細る。
- 衣料ファブリック:数量 113(加工量(百万m2))× 価格 303(1m2あたり加工売上(円)。物価と高付加価値品の比率、客の値下げ要求で動く)→ 売上 341 億円・営業利益 12 億円。加工量0.9倍、値段1.28倍。営業利益率3.6%
- 資材ファブリック:数量 71.3(加工量(百万m2))× 価格 153(1m2あたり加工売上(円)。物価と用途の構成で動く)→ 売上 109 億円・営業利益 4 億円。加工量0.95倍。営業利益率4%
- 製品:数量 170(販売点数(万点))× 価格 2,610(1点あたり売上(円))→ 売上 45 億円・営業利益 2 億円。販売点数1.3倍。営業利益率4.5%
- その他:数量 1.0(1式)× 価格 6.49(売上(億円))→ 売上 7 億円・営業利益 1 億円。物価並み
倍率:事業のROE約4.4%がk8%を大きく下回り、ためた利益は額面を大きく割る。利益が谷に向かう筋書きでもあり、上限の1÷k=11.8倍の約7割の8.0倍に置いた。余った現金は谷で食う前提で今の0.75倍の37.5億円、戻り方1.0で足した。
確率:利益率は過去10年のほとんどで4〜5%台で、最高益は値上げと円安の効果が大きい。中東の混乱、ユニフォームの縮小、工場投資の重さを考え、同じ領域のセーレンと並ぶ24%を置いた。
悲観 11% 加工賃の競争に負け、巨額の工場投資だけが残る 利益 3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 242 円90 億円
染色加工の価格競争に敗れる。アジアの加工業者が品質を上げ、ブランド側は発注を海外へ移す。中東向けの民族衣装も、現地や周辺国の生産に置き換わる。加工量は今の7割まで減り、値段も物価に届かない。
工場の建て替えには巨額の資金がかかる。需要が細るなかで新しい設備を抱え、稼働率が上がらず、償却費が重い。営業利益はほぼゼロになり、非上場株の評価損も重なる。
配当は減らし、自社株買いは止める。ただし純現金と政策保有株が残るので、会社が立ち行かなくなる筋書きではない。
価値は稼ぐ力ではなく、売れる資産で測られる。
- 衣料ファブリック:数量 90.0(加工量(百万m2))× 価格 289(1m2あたり加工売上(円)。物価と高付加価値品の比率、客の値下げ要求で動く)→ 売上 260 億円・営業利益 0 億円。加工量0.72倍、値段1.22倍。固定費を回収できず営業利益はほぼゼロ
- 資材ファブリック:数量 60.0(加工量(百万m2))× 価格 147(1m2あたり加工売上(円)。物価と用途の構成で動く)→ 売上 88 億円・営業利益 1 億円。加工量0.8倍。営業利益率1%
- 製品:数量 131(販売点数(万点))× 価格 2,510(1点あたり売上(円))→ 売上 33 億円・営業利益 0 億円。販売点数は横ばい、利益なし
- その他:数量 0.9(1式)× 価格 6.24(売上(億円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。縮小
倍率:稼ぐ力は純利益3億円ほどで、事業の価値は小さい。床は稼ぐ力ではなく、純現金の半分(約46億円)と政策保有株の税引き後(約45億円)。構造的に負ける筋書きで、現金は新工場の穴埋めに使われ、少数株主には決められない。合計約90億円を今の自己資本392億円の0.23倍として置いた。
確率:加工賃の競争に負け、巨額の工場投資が稼ぎにつながらない構造的な負けの筋書き。ただし自己資本比率が7割台で純現金があり、技術の評価も高いので、1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
衣料ファブリック
スポーツ・ファッション・民族衣装向けの合成繊維生地の染色と機能加工。中東向けトーブ、北米・欧州のブランド向けが中心。
| 数量加工量(百万m2) | 価格1m2あたり加工売上(円)。物価と高付加価値品の比率、客の値下げ要求で動く | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 125 | 237 | 296 | 17 |
| 10 年後 中立 | 125 | 313 | 391 | 21 |
取り方:会社全体の加工規模は年約2億m2(会社開示)。衣料と資材の内訳は開示がなく、売上比で衣料125百万m2・資材75百万m2と置いた推定。衣料と資材の営業利益は合算22.5億円の開示なので、売上比で按分した(衣料17.3億円)。
資材ファブリック
生活関連資材(鞄・日傘など)、車輌、電子材料、リビング、医療・福祉向けの生地の加工。
| 数量加工量(百万m2) | 価格1m2あたり加工売上(円)。物価と用途の構成で動く | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 75.0 | 117 | 88 | 5 |
| 10 年後 中立 | 78.8 | 157 | 124 | 7 |
取り方:売上88.1億円。加工量75百万m2は推定(衣料の項を参照)。営業利益は衣料と合算の22.5億円を売上比で按分した5.2億円。
製品
子会社化で広がった最終製品(資材系の製品、雑貨など)の販売。2026年3月期に売上が14億円から26億円へほぼ倍になった。
| 数量販売点数(万点) | 価格1点あたり売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 131 | 2,008 | 26 | 2 |
| 10 年後 中立 | 210 | 2,691 | 56 | 4 |
取り方:売上26.3億円・営業利益1.94億円(会社開示)。点数の開示はなく、売上を平均単価で割った131万点という推定。子会社化の効果が通期に入った初年度なので、数量の伸びは中計の目標とあわせて置いた。
その他
不動産賃貸などの周辺事業。
| 数量1式 | 価格売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 4.99 | 5 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 6.69 | 7 | 1 |
取り方:会社開示の売上5.0億円・営業利益0.58億円。
リスクと懸念
中東情勢と出荷の滞留
中東向けは売上の14%で、民族衣装が伸びている。今期は封鎖の影響で、約20億円の利益が押し下げられる見通しだ。混乱が長引くと、洋上の在庫の損失と、需要の戻りの遅れが重なる。
工場の建て替えの重さ
factoRe100は総工費300億円以上で、2043年まで続く。償却費が増える一方、売上が追いつかなければ、投資に見合う利益が出ない。計画の見直しも、費用の増加もありうる。
加工賃の価格競争
加工賃は発注元との交渉で決まる。アジアの加工業者が品質を上げれば、価格で押される。最大の客である東レをはじめ、取引先が絞られているのも弱みだ。
非上場株への出資の失敗
新素材のベンチャーなど、非上場12社の株を持つ。2026年3月期は、そのうち一部で12億円の評価損を出した。残りの出資にも、同様の損失が出る可能性がある。
原料価格と石油製品の供給
合成繊維は石油由来で、ナフサの供給と価格が加工コストに響く。中東の混乱で、原料の確保と値上がりの不安が続く。転嫁には発注元との交渉が要る。
国内需要の細りと人手不足
国内の衣料需要は人口減で細り、ユニフォームやスポーツは生産調整が入った。工場の人手不足も課題で、会社は省人化を工場再編の理由に挙げている。
今後の分かれ目
- 中東の混乱が収まり、洋上の在庫が売上に戻ったら
- 今期の減益は一過性だったと判断し、中立の営業利益率を上げる余地が出る。やや楽観より上の確率を引き上げる。
- 営業利益率が、構造改革費用の一巡後も5%を割ったままなら
- 最高益が一時的だったとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。固定費が重い構造の合図になる。
- 工場再編の最初の新工場で、省人化と電力の削減が計画どおり出たら
- 投資に見合う利益が出るとみて、中立の利益率を引き上げる。
- 非上場株でさらに評価損が出たら
- 資本配分への見方を厳しくし、余った現金の戻り方を下げる。
- 東レなど大口の客が、発注を内製や他社へ移したら
- シェアと稼働率の前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 政策保有株の売却が進み、自社株買いや配当に回ったら
- 資本効率が上がり、余った現金の戻り方は1.0を保てる。見立てがわずかに上がる。
見ておくもの
- 営業利益率(構造改革費用が一巡した後の水準)
- 中東向け売上と洋上の在庫の解消
- factoRe100の最初の新工場の立ち上がりと償却費
- 製品部門の売上と利益
- 政策保有株の売却と自社株買い、非上場株の評価損
倍率と資本コストの決め方
売上は衣料・資材の加工量と1m2あたりの値段、製品の販売点数で積み上げた。今の株価とPERは見ずに筋書きを置いた。倍率は資本コスト8%(基本7.5%に循環+0.5%・値決め力+0.5%)と長期成長4%、事業のROEから出る正当化PERの9〜9.5割に置いた。10年後の営業利益率は、2026年3月期の最高6.0%から、構造改革費用の固定化と工場の償却費の分だけ戻した。本社費はセグメントに含まれ、物価で増える前提。リース会計の影響は小さく調整していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→13.52 倍・やや楽観 PER 10.5→12.5 倍・中立 PER 10→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。