結論
帝人は、繊維商社、アラミド・炭素繊維、電子材料、在宅医療を抱える複合企業だ。祖業の繊維は、いまや稼ぎの土台ではなく、立て直しの主役に回っている。
筆者の結論は「やや割高」である。事業の質が悪いのではない。稼ぐ力が資本コストに届かない状態が、10 年先まで続くと見るからだ。
2026 年 3 月期は営業赤字だった。アラミドは大型の定期修理が重なり、炭素繊維は販売量が落ちた。889 億円の減損も出し、純損失は 880 億円になった。
会社は 2028 年度に売上 1 兆円、事業利益 600 億円、ROE 10% を掲げる。柱は繊維商社の統合と在宅医療で、10 月に帝人フロンティアと旭化成アドバンスが一つになった。
筆者はこの方向を妥当と見る。ただし 600 億円に届いても、10 年後の純利益はせいぜい 450 億円にとどまる。ROE は 7% 台で、資本コストの 8.5% を下回る。
下回る間は、利益が伸びても会社の価値は積み上がらない。強気の筋書きでも今の時価総額の 2.8 倍が上限で、慎重な筋書きは 5 割を割る。
安全域は、業績の底にいる今の値段にある。ただし事業の稼ぐ力を割り引いた本質価値は、それを上回らない。アラミドと炭素繊維の再建が目に見えて進むまでは、筆者は静観する。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家が見るのは、この会社を丸ごと買って持ち続けたいか、である。帝人は、持ちたい事業と持ちたくない事業が同居している。
持ちたいのは在宅医療だ。患者が機器を使い続ける限り、毎月の収入が入る。景気に左右されにくく、資本の回転もよい。繊維商社の統合も、規模を武器にする点で筋が通る。
持ちたくないのは、アラミドと炭素繊維の設備に積んだ資本だ。市況が戻れば稼ぐが、戻る保証はない。2 年続けて大きな減損を出した事実は、先に投じた資本が期待ほど稼がなかったことを示している。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益で見ると、10 年後の中立の純利益は 450 億円ほどになる。自己資本は 6,000 億円を超え、ROE は 7% 台だ。資本コスト 8.75% を下回るので、ためた利益は、額面ほどの価値を持たなくなる。
こうした会社の価値は、稼ぐ力を資本コストで割った額に近い。だから、売上が 1 兆円になっても、株主の取り分は大きく増えない。筆者はこの点を重く見る。
安全域は、今の値段に少しある。純利益の底堅さと、売れる資産の価値を考えれば、悲観でも時価総額の 4 割強は残る。しかし、期待値は今の時価総額を下回る。安く買える会社ではなく、待つ会社だと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 4 つある。2026 年 3 月期の売上構成は、アパレル&インダストリーズが 4 割、スペシャリティマテリアルズが 2 割強、エレクトロニクス&エナジーが 2 割弱、ヘルスケアが 16% だ。
アパレル&インダストリーズは、繊維商社の帝人フロンティアと産業資材を束ねる。ユニクロなどの衣料メーカーに糸や生地を納め、手数料と加工賃で稼ぐ。2026 年 10 月に旭化成アドバンスを合併し、連結売上は 4,400 億円規模になった。利益率は薄いが、景気に左右されにくい。
スペシャリティマテリアルズは、アラミド繊維「トワロン」「テクノーラ」と炭素繊維「テナックス」が中心だ。アラミドの世界シェアは首位級である。防弾・タイヤ・光ファイバー補強に使われ、高い技術がいる。ただ今は、設備が余り、中国・韓国勢の値下げを受けている。
エレクトロニクス&エナジーは、樹脂、フィルム、電池向け材料を扱う。AI サーバーや車載向けの需要を取り込めるが、競合は多く、値段は市場が決める。
ヘルスケアは、睡眠時無呼吸症の治療器(CPAP)などの在宅医療が柱だ。患者に機器を貸し出し、毎月の費用が入る。医薬品は絞り込み中で、糖尿病治療剤の販売権は減損した。
つまり帝人は、値決め力のある事業と、市況に振り回される事業の寄せ集めだ。2024 年にインフォコム、2025 年に北米の複合成形材料を手放し、選別を進めている。
優良さと弱いところ
優良さは、事業ごとに大きく違う。いちばん堀が深いのはアラミドの技術だ。製造に高い技術と資本がいるため、参入できる会社は限られる。ただし堀があることと、儲かることは別だ。需要が戻らないうちに設備が増え、中国の煙台泰和などが値段を崩している。
炭素繊維は、航空機向けの高級品では強い。一方で、スポーツ用具や産業用途は中国・韓国勢の値下げが続く。日本の同業と、世界の首位を争う構図だ。
繊維商社は堀が薄い。ただ、素材メーカー系の商社どうしが一つになる国内最大級の再編であり、規模の利は働く。在宅医療は、患者が機器を使い続ける限り費用が入る。切り替えにくく、質のよい収益だ。
資本効率は弱い。過去 10 年の ROE の中央値は 5.8% で、資本コストを一度も上回れていない。2 期連続の営業赤字を出し、財務の余裕も薄くなった。自己資本比率は 39.6% で、純有利子負債は自己資本の 6 割弱ある。
経営は、売るべき事業を売る決断はしてきた。しかし素材への大型投資が回収できず、減損を 2 年続けて出した。この点は、資本の使い方として厳しく見る。
筆者は、堀の深さは認める。ただ資本の使い方の記録が、まだ信頼を置けるところまで積み上がっていないと考える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
アラミド・炭素繊維は、需要が弱い局面にある。アラミドの世界市場は年 4〜5% の成長が見込まれ、首位の帝人のシェアは 17.6% と推計される。上位 5 社で 4 割弱にとどまり、集中度は高くない。
問題は供給の側にある。中国勢が増産し、メタ系アラミドでは煙台泰和が国内最大手に育った。値段は下がり、帝人は定期修理と販売量の落ち込みが重なって赤字に沈んだ。会社は 400 人超を削る構造改革に着手した。
炭素繊維の世界市場は 2030 年に向けて年 7〜11% の成長が予測される。牽引役は航空機、風力、水素タンクだ。しかし帝人は、その伸びを取り込めていない。販売量が落ち、米国の工場は一時休止に追い込まれた。
繊維は、国内の衣料需要が人口減で細る。中国からの流入も続く。それでも、帝人フロンティアと旭化成アドバンスの統合で、取引先への交渉力は上がる。会社は 2030 年近傍に連結売上 5,000 億円を狙う。
電子材料は、AI・データセンター向けで数量が伸びる。ただ競合が多く、価格の下落も速い。在宅医療は、高齢化と睡眠時無呼吸症の診断の広がりで台数が伸びる。診療報酬の改定が、値段の上限を決める。
全体として、数量が伸びるのは医療と電子材料で、値段が崩れるのは素材だ。筆者は、この綱引きで素材の値崩れが長引くと見る。
資本政策と M&A
資本政策の軸は、売却と再編で資産の質を上げることだ。インフォコムと北米の複合成形材料を手放し、2026 年 4 月にはデュポンとの合弁を解消した。この売却益は約 455 億円で、2027 年 3 月期の純利益 450 億円はほぼこれで説明がつく。実力の利益ではない点に注意が要る。
成長投資は、2029 年 3 月期までに 1,850〜1,900 億円を見込む。使い道は繊維と在宅医療の M&A だ。素材に手を広げた過去の失敗を、繰り返さないかが問われる。
還元は、連結配当性向 30% が目安で、2027 年 3 月期の配当は総額で約 100 億円を予想する。自社株買いはほとんどない。赤字の年は配当を守るのが精いっぱいで、還元を厚くする余力は小さい。
財務は、純有利子負債が時価総額の 6 割を超える。借り換えで金利が 3.5% 前後に上がると、利払いは 10 年で 50 億円ほど増える見込みだ。減損で自己資本は 3,645 億円に減り、これ以上の損失は許容しにくい。
買収される可能性は、低くない。時価総額が小さく、事業の切り売りもしやすいからだ。ただ素材と医療が絡み合い、買い手には重い。TOB の確率は、筆者は大きく織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
帝人は底を打った。2 期続けて膿を出し切り、これからは身軽になった会社の戻りを買う局面だ。
素材の再建は、数量の回復が主役になる。アラミドの大型定期修理は一巡し、操業度は戻る。400 人超の削減でコスト構造は軽くなった。炭素繊維も、設備の稼働が上がれば固定費の重さが逆に効いて、利益が急に戻る。アラミドの世界シェアは首位で、需要が戻れば値段も戻る。
繊維は、帝人フロンティアと旭化成アドバンスの統合で、日本最大の繊維商社になった。2030 年近傍に連結売上 5,000 億円を狙い、重なる顧客や仕入れ先を整理すれば、利益率は上がる。
在宅医療は、睡眠時無呼吸症の診断が広がり、台数が伸び続ける。レンタルの収入は景気に左右されず、利益率も高い。
会社は 2028 年度に事業利益 600 億円、ROE 10% を掲げる。物価が毎年 3% で上がる世界では、この利益は名目で膨らむ。10 年後の事業利益は 1,000 億円を超え、ROE は 10% を超える。
自己資本が薄く、利益が増えれば ROE は一気に上がる。この会社の変化に、市場は気づいていない。
慎重な見方
帝人の問題は、赤字ではなく資本の使い方にある。大型の減損が 2 年続いた。炭素繊維の米国工場は止まり、アラミドは大型の定期修理で赤字になった。同じことがもう一度起きない保証はない。
素材の値段は戻らない。中国の煙台泰和などが増産を続け、アラミドの値崩れは中高級品にまで及ぶ。炭素繊維も、スポーツ・産業用途の値下がりが止まらない。構造改革で 400 人超を削っても、値段が下がれば利益は消える。
2027 年 3 月期の純利益 450 億円は、デュポンとの合弁解消で出た約 455 億円の売却益が大半だ。実力の利益はほぼ出ていない。
繊維商社は、利益率が低く、薄い手数料の積み上げだ。統合で規模が増えても、国内の衣料需要は人口減で細る。
ROE は過去 10 年の中央値で 5.8% にとどまり、資本コストを一度も超えていない。目標の ROE 10% も、これまでの計画と同じく、達成されない可能性が高い。
さらに、成長投資 1,850〜1,900 億円は、買収で価値を壊す危険を抱える。借金は増え、借り換えの金利も上がる。利益が伸びても、株主の取り分は増えない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が強い。両者の違いは、素材の値段が戻るかどうかだ。強気の見方は、数量の回復を頼みにするが、世界の供給が増えている以上、値段の回復は読みにくい。
ただし慎重な見方も、在宅医療と繊維の再編が生む利益を軽く見ている。そこで中立を最大の 32% に置いた。
確率は慎重な側に寄せ、やや悲観を 27%、悲観を 14% とした。強気側は、楽観 8%・やや楽観 19% にとどめる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,367 円4,567 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 590 円1,139 億円)。 今の値に割り戻すと 1,411 円2,723 億円、今との差 −12.2%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 8.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,956 円9,563 億円 | 1,088 円2,100 億円 | +276.0% | +14.2% | 484 円933 億円 |
| やや楽観 | 19% | 3,560 円6,870 億円 | 803 円1,550 億円 | +171.4% | +10.5% | 829 円1,600 億円 |
| 中立 | 32% | 2,665 円5,144 億円 | 622 円1,200 億円 | +104.5% | +7.4% | 1,052 円2,030 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,230 円2,373 億円 | 440 円850 億円 | +3.9% | +0.4% | 451 円870 億円 |
| 悲観 | 14% | 777 円1,500 億円 | 233 円450 億円 | −37.1% | −4.5% | 141 円273 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,367 円4,567 億円 | 590 円1,139 億円 | +83.9% | +6.3% | 2,957 円5,706 億円 |
今の株価時価総額 1,608 円3,102 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 素材の再建が当たり、資本コストを上回る会社に変わる 利益 780 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 4,956 円9,563 億円
素材の再建が当たり、10 年後の帝人は、利益率の高い複合企業に生まれ変わる。アラミドは操業度が戻り、世界の需要の回復に合わせて数量と値段の両方が戻る。炭素繊維も固定費の重さが逆に働き、稼働が上がると利益が急に伸びる。
統合した繊維商社は、取引先と仕入れ先を整理し、利益率が 5% 台まで上がる。在宅医療は台数が伸び続け、医薬品の絞り込みで利益率は 1 割を超える。電子材料は AI 向けの需要を取り込む。
成長投資は、繊維と医療の買収で当たりを引く。事業利益は 1,200 億円を超え、ROE は 10% を超える。資本コストを上回る状態が定着し、会社の価値は積み上がり始める。ただし素材の値段が全面的に戻る前提ではなく、うまくいった場合の姿だ。
- アパレル&インダストリーズ(その他を含む):数量 48.4(繊維製品の取扱量(万トン相当))× 価格 1,380(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 6,672 億円・営業利益 367 億円。益率5.5%
- スペシャリティマテリアルズ:数量 47.3(アラミド・炭素繊維などの販売量(千トン))× 価格 8,161(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 3,856 億円・営業利益 424 億円。益率11.0%
- エレクトロニクス&エナジー:数量 94.5(電子・樹脂材料の販売量(千トン))× 価格 2,876(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 2,717 億円・営業利益 231 億円。益率8.5%
- ヘルスケア&ライフソリューションズ:数量 90.0(在宅医療の利用患者数(万人、医薬品の売上を患者換算で含む))× 価格 30(1 人あたり年間売上(万円))→ 売上 2,665 億円・営業利益 293 億円。益率11.0%
倍率:事業の純利益 780 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.26 倍、時価総額 9,563 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:素材の需要回復・統合の効果・在宅医療の成長が同時に当たる必要があり、確率は低い。会社の目標(2028 年度 ROE 10%)を超える水準で、過去の計画も未達が続いたため 8% にとどめた。
やや楽観 19% 中期計画が数年遅れで達成される 利益 600 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 3,560 円6,870 億円
会社の中期計画が、数年遅れで達成される筋書きだ。素材は、アラミドの稼働が戻り、炭素繊維も構造改革で黒字に定着する。値段は物価並みには戻らないが、下落は止まる。
繊維商社の統合は、予定どおり進む。国内の衣料需要は細るが、海外の展開で数量は増える。在宅医療は、台数が堅調に伸びる。電子材料も、AI 向けの需要で数量が伸びる。
事業利益は 1,000 億円に近づき、ROE は 8% 台に乗り、資本コストの 8.5% にほぼ並ぶ。ただ上回る幅は小さく、会社の価値は利益の伸びほどには増えない。配当は徐々に厚くなる。
2 期連続の赤字から立ち直った会社の、手堅い回復である。
- アパレル&インダストリーズ(その他を含む):数量 46.1(繊維製品の取扱量(万トン相当))× 価格 1,360(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 6,272 億円・営業利益 314 億円。益率5.0%
- スペシャリティマテリアルズ:数量 43.8(アラミド・炭素繊維などの販売量(千トン))× 価格 7,795(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 3,410 億円・営業利益 307 億円。益率9.0%
- エレクトロニクス&エナジー:数量 89.6(電子・樹脂材料の販売量(千トン))× 価格 2,790(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 2,500 億円・営業利益 180 億円。益率7.2%
- ヘルスケア&ライフソリューションズ:数量 85.2(在宅医療の利用患者数(万人、医薬品の売上を患者換算で含む))× 価格 29(1 人あたり年間売上(万円))→ 売上 2,444 億円・営業利益 244 億円。益率10.0%
倍率:事業の純利益 600 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.45 倍、時価総額 6,870 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画が数年遅れで達成される筋書き。繊維の統合と在宅医療は進めやすいが、素材の値段の回復が読めないため 19%。
中立 32% 素材は赤字を脱するが利益率は戻らず、繊維と医療が補う 利益 450 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,665 円5,144 億円
素材は赤字を脱するが、本来の利益率には戻らない。アラミドは稼働が戻るものの、中国勢との競争で値段は物価並みの上がり方をしない。炭素繊維も、構造改革で黒字を保つ程度にとどまる。
繊維商社は、統合の効果が緩やかに出て、利益率が 4% 台半ばで落ち着く。在宅医療は、機器の台数が高齢化で着実に増え、利益率は 9% 前後になる。電子材料は数量が伸びるが、値段の下落が重い。
10 年後の事業利益は 760 億円ほどで、会社の 2028 年度目標を、物価の分だけ膨らませて数年遅れで達成する姿だ。ただ ROE は 7% 台にとどまり、資本コストの 8.5% を下回る。
配当は、純利益の 3 割前後を保つ。成長投資は一部が実を結ぶが、のれんの負担も残る。
- アパレル&インダストリーズ(その他を含む):数量 44.3(繊維製品の取扱量(万トン相当))× 価格 1,340(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 5,931 億円・営業利益 267 億円。益率4.5%
- スペシャリティマテリアルズ:数量 40.3(アラミド・炭素繊維などの販売量(千トン))× 価格 7,308(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 2,941 億円・営業利益 206 億円。益率7.0%。中国・韓国勢との競争で値段は物価並みに上がらず 1.20 倍
- エレクトロニクス&エナジー:数量 84.0(電子・樹脂材料の販売量(千トン))× 価格 2,683(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 2,253 億円・営業利益 135 億円。益率6.0%。電子材料は値下がりで 1.25 倍
- ヘルスケア&ライフソリューションズ:数量 81.0(在宅医療の利用患者数(万人、医薬品の売上を患者換算で含む))× 価格 28(1 人あたり年間売上(万円))→ 売上 2,249 億円・営業利益 202 億円。益率9.0%。診療報酬の改定が物価に追いつかず 1.20 倍
倍率:事業の純利益 450 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 5,144 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:素材が赤字を脱するが利益率は戻らず、繊維と医療が補う筋書き。業種ノートの中立(炭素繊維・アラミドの数量が伸びる一方、価格競争が続く)と、強気と慎重の見方の落としどころとして最大の 32%。
やや悲観 27% 値崩れが続き、構造改革が相殺される 利益 225 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 1,230 円2,373 億円
素材の再建が思うように進まない。中国勢の増産でアラミドと炭素繊維の値段は物価の上昇に追いつかず、利益率は 4% ほどにとどまる。構造改革の効果は、値下がりで相殺される。
繊維商社は統合しても利益率が上がらず、国内の衣料需要の縮みを海外の伸びで補い切れない。在宅医療は台数が伸びるものの、公定価格の引き上げが物価に追いつかず、利益率は 7% 程度で頭打ちになる。
事業利益は 450 億円ほど、純利益は 200 億円台前半で、ROE は 5% を割る。資本コストを大きく下回り、会社の価値は稼ぐ力にほぼ等しい水準まで下がる。
成長投資の一部が失敗し、小さな減損が出る。配当は据え置きが精いっぱいになる。
- アパレル&インダストリーズ(その他を含む):数量 40.9(繊維製品の取扱量(万トン相当))× 価格 1,300(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 5,318 億円・営業利益 202 億円。益率3.8%
- スペシャリティマテリアルズ:数量 36.8(アラミド・炭素繊維などの販売量(千トン))× 価格 6,699(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 2,462 億円・営業利益 98 億円。益率4.0%
- エレクトロニクス&エナジー:数量 75.6(電子・樹脂材料の販売量(千トン))× 価格 2,468(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 1,866 億円・営業利益 71 億円。益率3.8%
- ヘルスケア&ライフソリューションズ:数量 75.0(在宅医療の利用患者数(万人、医薬品の売上を患者換算で含む))× 価格 26(1 人あたり年間売上(万円))→ 売上 1,943 億円・営業利益 136 億円。益率7.0%
倍率:構造的に負け気味の 10 年で、純利益は 225 億円、ROE は 4.5%。稼ぐ力は 225 ÷ 8.5% = 約 2,650 億円で、その 9 割強にあたる 2,440 億円(今の自己資本 3,645 億円の 0.651 倍)に置いた。積み上げた自己資本には掛けていない。EV÷営業利益は 6 倍前後で、借金を含めても重い置き方ではない。
確率:中国・韓国勢の値崩れが続き、構造改革が値下がりで相殺される筋書き。2 期連続の営業赤字と減損が実績としてあり、ROE が過去 10 年で資本コストに届いていないため、慎重な側に寄せて 27%。
悲観 14% 素材が構造的に負け、再び大型の減損が出る 利益 −60 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 777 円1,500 億円
素材が構造的に負ける。中国・韓国勢の増産で、アラミドと炭素繊維の値段は 10 年で下がり続ける。需要が戻っても設備が余り、稼働率は上がらず、素材は赤字が続く。炭素繊維では、再び工場の休止と大型の減損が出る。
繊維商社は、統合の摩擦で顧客を失い、利益率は 2% 台に落ちる。電子材料も値段の下落で利益が出ない。在宅医療だけが黒字を保つが、全体の穴は埋まらない。
事業利益は 60 億円ほどに縮み、利払いを引くと赤字になる。減損で自己資本は 2,900 億円まで減る。配当は、売れる資産を処分して最低限を守る。
会社の価値は、稼ぐ力ではなく、売れる資産の価値で決まる。素材設備は売れず、在宅医療や繊維商社を売却して、ようやく自己資本の 4 割ほどが残る。
- アパレル&インダストリーズ(その他を含む):数量 35.3(繊維製品の取扱量(万トン相当))× 価格 1,250(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 4,416 億円・営業利益 110 億円。益率2.5%
- スペシャリティマテリアルズ:数量 31.5(アラミド・炭素繊維などの販売量(千トン))× 価格 5,786(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 1,822 億円・営業利益 −55 億円。益率-3.0%
- エレクトロニクス&エナジー:数量 66.5(電子・樹脂材料の販売量(千トン))× 価格 2,146(1kg あたりの平均単価(円/kg))→ 売上 1,427 億円・営業利益 0 億円。益率0.0%
- ヘルスケア&ライフソリューションズ:数量 63.0(在宅医療の利用患者数(万人、医薬品の売上を患者換算で含む))× 価格 23(1 人あたり年間売上(万円))→ 売上 1,457 億円・営業利益 58 億円。益率4.0%
倍率:赤字なので稼ぐ力ではなく、売れる資産で測る。今の自己資本 3,645 億円から、アラミド・炭素繊維の設備とのれんの減損 1,500 億円を引き、残りの売却価値を 7 割とみて 1,500 億円(今の自己資本の 0.41 倍)を床とした。赤字に近く EV÷営業利益(50 倍超)は意味を持たないので、売れる資産と借金の差し引きで見ている。
確率:素材が構造的に負け、再び大型の減損が出る筋書き。2 期連続で減損を出した実績と、中国・韓国勢の増産が止まらない現状を踏まえ、悲観を 14% と厚めに置いた。quality と同じ理由では上下させていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アパレル&インダストリーズ(その他を含む)
帝人フロンティアを中心とする繊維商社と産業資材。2026 年 10 月に旭化成アドバンスを合併した。
| 数量繊維製品の取扱量(万トン相当) | 価格1kg あたりの平均単価(円/kg) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 37.2 | 1,000 | 3,719 | 171 |
| 10 年後 中立 | 44.3 | 1,340 | 5,931 | 267 |
取り方:会社開示の売上構成(A&I 40.1%、その他 2.5%)から売上 3,719 億円とし、平均単価を 1.0 千円/kg として取扱量を推定した(開示の数量ではない)。事業利益は 2025 年度の A&I 171 億円。価格は名目で中立 10 年 1.34 倍。
スペシャリティマテリアルズ
アラミド(トワロン・テクノーラ)・炭素繊維(テナックス)・複合成形材料。
| 数量アラミド・炭素繊維などの販売量(千トン) | 価格1kg あたりの平均単価(円/kg) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 6,090 | 2,131 | −31 |
| 10 年後 中立 | 40.3 | 7,308 | 2,941 | 206 |
取り方:売上構成 24.4% から売上 2,131 億円とし、平均単価 6.09 千円/kg として販売量を推定(開示の数量ではない)。事業利益は 2025 年度の新区分の開示がなく、旧マテリアルの合計 1 億円を電子材料と分けた推定(スペシャリティ -31 億円)。
エレクトロニクス&エナジー
樹脂・フィルム・電池向け材料など。AI・車載向けの需要を取り込む。
| 数量電子・樹脂材料の販売量(千トン) | 価格1kg あたりの平均単価(円/kg) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 2,146 | 1,502 | 31 |
| 10 年後 中立 | 84.0 | 2,683 | 2,253 | 135 |
取り方:売上構成 17.2% から売上 1,502 億円とし、平均単価 2.15 千円/kg として販売量を推定(開示の数量ではない)。事業利益は旧マテリアル合計 1 億円をスペシャリティと分けた推定(+31 億円)。
ヘルスケア&ライフソリューションズ
睡眠時無呼吸症治療器(CPAP)などの在宅医療と医薬品。
| 数量在宅医療の利用患者数(万人、医薬品の売上を患者換算で含む) | 価格1 人あたり年間売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 23 | 1,388 | 130 |
| 10 年後 中立 | 81.0 | 28 | 2,249 | 202 |
取り方:売上構成 15.9% から売上 1,388 億円とし、利用患者を 60 万人相当と推定して 1 人あたり 23.1 万円とした(開示の数量ではない)。事業利益は推定 130 億円(全社 258 億円から他を引いた残り)。
リスクと懸念
素材の値崩れが長引く
アラミドと炭素繊維は、中国・韓国勢の増産が続き、値段が下がっている。需要が戻っても、供給が先に増えれば利益は戻らない。素材事業が赤字から抜け出せない状態が長引けば、さらに大きな減損が出る。
減損と財務の余力
2 年続けて大きな減損を出し、自己資本は 3,645 億円まで減った。純有利子負債は時価総額の 6 割を超える。もう一度大きな損失が出れば、自己資本比率は 3 割台前半まで下がり、配当や投資の自由度が狭まる。
M&A の失敗
成長投資 1,850〜1,900 億円の多くを繊維と在宅医療の買収に使う。高い値段で買えば、のれんが重くなり、ROE をさらに下げる。素材への投資で資本を壊した過去があり、同じ失敗を繰り返さないかが問われる。
売却益頼みの利益
2027 年 3 月期の純利益 450 億円の大半は、デュポンとの合弁解消に伴う約 455 億円の売却益だ。実力の利益は小さい。この一回限りの利益を見て、立て直しが済んだと誤解するのは危ない。
繊維商社の統合の実行
帝人フロンティアと旭化成アドバンスの統合は、2026 年 10 月に始まったばかりだ。重なる取引先の整理や、システムの統合で摩擦が出れば、利益率は上がらない。国内の衣料需要が人口減で細る逆風も続く。
在宅医療の価格改定
在宅医療は、診療報酬の改定で値段が決まる。物価が毎年 3% 上がる世界でも、公定価格の引き上げは追いつかない恐れがある。医薬品の絞り込みも進めており、ヘルスケアの利益は読み違えやすい。
今後の分かれ目
- アラミドの稼働率が上がり、素材事業の事業利益が黒字に戻ったら
- 構造改革が数量の回復と噛み合ったとみて、楽観・やや楽観の確率を上げてよい。値段が戻らず、数量だけ戻る場合は据え置く。
- 炭素繊維で再び減損や工場の休止が出たら
- 素材の再建が遅れているとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。自己資本の減りが大きければ、悲観の床の見方も下げる。
- 統合後の繊維商社の事業利益率が 5% に近づいたら
- 規模の利が出ているとみて、中立の利益率を上方修正してよい。統合の費用だけが先行するなら、据え置く。
- 在宅医療の機器の稼働台数が、診療報酬の改定後も伸び続けたら
- ヘルスケアの質が高いとみて、中立〜やや楽観に重みを移す。
- 大型の買収を発表し、のれんが自己資本の 1 割を超えたら
- 資本配分への不安が再燃するとみて、確率を悲観側へ寄せる。
- 2028 年度の事業利益 600 億円の目標が下方修正されたら
- 立て直しが計画より遅れているとみて、中立の前提を引き下げる。
見ておくもの
- アラミドと炭素繊維の事業利益と稼働率(四半期)
- 統合後の繊維商社(TAフロンティア)の事業利益率
- 在宅医療のレンタル台数と診療報酬の改定
- 2028 年度の事業利益 600 億円・ROE 10% の進捗
- 減損の有無と自己資本比率
- 成長投資 1,850〜1,900 億円の使い道(買収の値段)
倍率と資本コストの決め方
数量は実質(取扱量・販売量・患者数)、価格は物価 3% 込みの名目で 4 区分に積んだ。素材は競争で物価並みに上げず(1.20 倍)、医療は公定価格で 1.20 倍、電子材料は下落を見て 1.25 倍とした。利払いは借り換えで 3.5% に上がる分(10 年 −52 億円)を純利益に入れた。k は基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。ROE が k を下回る中立の倍率は 1÷k に ROE÷k(0.86)と 0.9 を掛けた 9.2 倍に、ROE が k を上回るやや楽観と楽観は式の上限の 8.5 割と 9 割に置いた。悲観側は稼ぐ力と売れる資産の税後から置き、過去の PBR の底は使っていない。今の PBR が 1 倍を割っていることは最後に比べただけで、倍率を寄せていない。自己資本の流れは、2026 年 3 月期の減損を一度きりとして実力の純利益(約 150 億円)から始め、2027 年 3 月期の売却益 450 億円は起点の自己資本(約 4,100 億円)に入れて、その後は事業の回復に沿って利益が積み上がる前提で置いた。新リース会計基準(2028/03 期から BS に載る)で営業利益と純有利子負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。個別のリスクは k に入れず、確率と筋書きで表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.75%。