結論
日東製網は、定置網や巻き網などの漁網を作る老舗で、獣害を防ぐネットや遊具のネットも手がける。筆者の結論は「割高」で、網の商売そのものより、在庫を支える借入の重さが価値を決めている。
借入は 176 億円と売上の 8 割に達する。網と糸の在庫を 89 億円も抱え、それを短期の借入で回しているからだ。前期の利払いは 2 億円だったが、金利が上がれば 10 年で 3 倍を超える。営業利益が 5〜6 億円の会社にとって、これは稼ぎの大半にあたる。
前期の純利益 6.8 億円は、為替差益や税の還付に助けられた数字だ。会社は今期の経常利益が半分になると見込む。過去 12 年の営業利益率の真ん中は 4% ほどで、ROE は 10 年の中央値で 8% 弱だった。
10 年の中立では、網は物価並みの値段で売れ続けるが、利払いを引いた ROE は 3% ほどに沈む。PBR は 0.5 倍を割るが、借入を考えれば安いとは言えないと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、老舗の看板と帳簿の厚さに惹かれてはいけない会社だ。PBR は 0.5 倍を割るが、自己資本の多くは網と糸の在庫で、それは借入で支えられている。金利が上がる世界では、借入で在庫を抱える商売は稼ぎの多くを銀行に渡す。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、純利益から工場の更新と在庫の積み増しを引いた分だ。売上が物価で伸びれば在庫も同じだけ膨らみ、その分の借入と利払いが増える。見かけの利益ほど現金は残らない。
定置網の設計の腕は本物で、10 年後も会社は残るだろう。だが、持ち続けたいと思えるのは、在庫を減らし借入を返す決断が見えた時だ。今の値段に安全域は無い。
筆者が見たいのは、在庫の回転が上がり、借入が毎年目に見えて減っていく数年だ。定置網の腕という良い種を持つ会社だけに、財務の形が変われば評価は大きく変わりうる。
何で稼ぐ会社か
売上 221 億円のうち、漁業関連が 178 億円、陸上関連が 43 億円だ。漁業関連の柱は、沿岸に網を仕掛けて魚を待つ定置網と、船団で魚の群れを囲う巻き網の網である。網は漁場と魚に合わせて一つずつ設計して作り、設置や修理も請け負う。北海道から九州まで工場を持ち、網と一緒にロープや浮きなどの資材も売る。
漁業関連には、魚そのものを扱う水産部門と、自ら漁をする子会社もある。魚の値段が高い年は取扱高と水揚げが増える。輸出も伸びており、前期はアジアの巻き網の船団向けが好調だった。
陸上関連は、網の技術を陸に持ち出した商売だ。シカやイノシシから畑を守る獣害防止ネット、ゴルフ場や野球場のネット、公園の遊具のネットを作り、施工まで手がける。獣害の広がりで受注は伸びている。
網は受注を受けてから作るものが多く、季節と漁期で注文が偏る。会社は工場を平らに動かすため、糸と半製品を多めに持つ。この在庫が借入を膨らませる。
在庫の多さは、漁期の直前に注文が集中する商売の性格でもある。漁業者は網を急に求め、待ってくれない。すぐ納められるよう糸と網地を手元に置くことが、顧客に選ばれる理由であり、同時に財務の重荷でもある。
優良さと弱いところ
優良さは低めと筆者は見る。定置網の設計と施工には、漁場ごとの潮と地形を読む長年の蓄積が要り、漁業者は実績のある会社に任せたがる。国内の漁網の老舗という立場は、小さいながら堀、つまり他社がまねしにくい強みだ。
しかし、その強みが利益に残りにくい。顧客の漁業者は人件費と燃料代の上昇に苦しみ、網の値上げに慎重だ。過去 12 年の営業利益率の最良は 7% ほどで、直近 4 年は 1〜3% 台にとどまる。受注の山谷で工場の稼働がぶれ、人件費の上昇も吸収しきれていない。
財務は弱い。借入 176 億円に対し現金は 14 億円で、純負債は自己資本の 2 倍だ。純負債は EBITDA、つまり償却前の利益の 10 倍ほどに達する。利払いは前期に 5 割増え、これからも増える。資本の使い方は、在庫を抱えて借入で回す昔ながらの形から抜け出せていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の漁業は長い縮みの中にある。漁業で働く人は高齢になり、毎年数を減らしている。海の温度の変化で獲れる魚が変わり、定置網の漁獲も年ごとに揺れる。一方で、魚の値段は外食と輸出の需要で高止まりし、漁業者の網への投資の意欲を下支えしている。
漁網の国内の市場は、日東製網とニチモウなど少数の老舗が分け合う。網の糸はナイロンやポリエチレンで、原油とナフサの値段に連動する。前期は中東の混乱でナフサの調達が難しくなり、糸の値段が上がった。海外では、中国や韓国の網会社が安い網で攻める。
伸びるのは海外と陸の上だ。アジアの巻き網の船団は大型化し、高い網を求める。陸の上では、シカとイノシシの被害が山あいから町に広がり、獣害防止ネットの需要が増えている。10 年の中立では、国内の漁網は数量が少し減り、海外と陸の上の網がそれを一部埋める姿を置く。
再編の芽もある。漁網の会社はどこも規模が小さく、糸の値上がりと人手不足に苦しんでいる。工場や在庫を持ち寄れば効率は上がるが、老舗どうしの統合は簡単ではない。金利の上昇は、借入で在庫を抱える会社ほど重くのしかかる。業界全体が、在庫を軽くする商売の形を探る時期に入っている。
資本政策と M&A
配当は 1 株あたりの額を据え置き、年 1.3 億円ほどだ。配当性向は 2 割前後と控えめで、自社株買いはしていない。前期は借入を短期で増やし、在庫と売掛金の増加を賄った。
筆者は、還元より先に在庫と借入を減らすことが株主の利益になると考える。在庫を 1 割減らせば、借入は 9 億円減り、利払いは年 0.3 億円ほど軽くなる。会社は生産の平らな運営を掲げるが、それが在庫を厚くし、金利の上昇の中で重荷になっている。大きな買収の歴史はなく、資本を無駄にする心配は小さいが、財務を軽くする計画も見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の漁網の老舗で、定置網の設計と施工の蓄積は簡単にまねできない。魚の値段は外食と輸出の需要で高止まりし、漁業者の網への投資の意欲は続いている。前期はアジアの巻き網の船団向けの輸出が好調で、海外に伸びしろがある。
陸の上の網も伸びている。シカとイノシシの被害は山あいから町に広がり、獣害防止ネットの受注は増える一方だ。遊具や球場のネットの工事も好調で、漁業の縮みを補う第 2 の柱になりつつある。
前期の純利益は 27% 増の 6.8 億円で、PER は 6 倍ほど、PBR は 0.5 倍を割る。土地と在庫という形のある資産も厚い。在庫を少し減らすだけで借入は大きく減り、金利の重さは和らぐ。東証の要請に応えて資本の使い方を見直せば、今の値段は安すぎる。
金利が上がっても、網の値段に上乗せできれば利益は守れる。漁業者は魚の値段が高い間、良い網には金を払う。陸の上の網は景気に左右されにくく、利益を下支えする。
慎重な見方
借入は 176 億円と売上の 8 割に達し、純負債は自己資本の 2 倍だ。前期の利払いは 5 割増え、金利が 3.5% になれば年 6〜7 億円を超える。営業利益が 5〜6 億円の会社にとって、これは稼ぎのほとんどを銀行に渡すことを意味する。
前期の純利益は為替差益や税の還付に助けられ、営業利益はむしろ 2 割近く減った。主力の定置網の部門は低迷し、人件費と糸の値段の上昇を転嫁しきれていない。会社は今期の経常利益が半分になると見込む。
国内の漁業者は高齢になって毎年減り、網の需要は長い目で細る。在庫の網と糸は需要が細れば値を落とし、帳簿の自己資本も目減りする。PER や PBR が低いのは、この借入と縮みを映しているにすぎない。
在庫を減らすと言うのは簡単だが、漁期に間に合わせる商売の形を変えなければ、借入は物価とともに膨らみ続ける。金利の上昇は一時ではなく、10 年続く前提だ。株主は利払いの残りを分け合うだけになる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が筆者には説得力がある。定置網の腕と陸の上の網の伸びは本物だが、金利の上昇という確実に来る費用の前では小さい。在庫と借入を減らす決断が見えない限り、利益の多くは利払いに消える。確率は中立を中心に置き、両側を同じ重さで振り分けた。在庫を減らし借入を返す具体的な計画が出れば、強気の側へ寄せ直す余地はある。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した株価時価総額 1,480 円38 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 459 円12 億円)。 今の値に割り戻すと 924 円24 億円、今との差 −37.3%、 期待の年率 +2.8%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,471 円90 億円 | 694 円18 億円 | +182.7% | +11.0% | 416 円11 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,356 円61 億円 | 578 円15 億円 | +99.2% | +7.1% | 587 円15 億円 |
| 中立 | 40% | 1,500 円39 億円 | 501 円13 億円 | +35.9% | +3.1% | 801 円21 億円 |
| やや悲観 | 20% | 216 円6 億円 | 308 円8 億円 | −64.4% | −9.8% | 105 円3 億円 |
| 悲観 | 10% | 189 円5 億円 | 116 円3 億円 | −79.3% | −14.6% | 30 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,480 円38 億円 | 459 円12 億円 | +31.7% | +2.8% | 1,939 円50 億円 |
今の株価時価総額 1,473 円38 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 10% アジアの旋網と獣害ネットが伸び、在庫も軽くなる 利益 8 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 3,471 円90 億円
アジアの巻き網の船団向けに網の輸出が伸び、国内でも魚の値段が高いうちに定置網の更新が進む。取引の漁業者の数は 1 割増え、値段は糸と人件費の上昇を転嫁して物価並みに上がる。陸の上では、シカやイノシシの被害を防ぐネットと、遊具のネットの工事が伸び続ける。
利益率は 2016 年 4 月期の山に近い 5〜7% に戻る。会社は在庫を減らして借入を返し、金利の上昇の重さを和らげる。それでも借入は 150 億円を超えて残り、利払いは営業利益の 3 分の 1 を食う。ROE は 6% 台で、資本コストには届かない。
- 漁業関連(漁網・資材・水産物・漁業):数量 2,600(取引の漁業経営体の数(推定))× 価格 0.10(1 経営体あたりの年の売上(億円・名目、網・資材・水産物を含む))→ 売上 260 億円・営業利益 13 億円。2600 経営体 × 1 経営体 10.00 百万円、営業利益率 5.0%
- 陸上関連(獣害防止ネット・スポーツ・遊具ネット):数量 1,600(受注の件数(件・推定))× 価格 0.05(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 72 億円・営業利益 5 億円。1600 件 × 1 件 4.50 百万円、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 90 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:輸出の伸びと陸上の網の伸びに加え、在庫を減らして借入を返す経営の変化まで要る。確度は高くないので 1 割。
やや楽観 20% 漁網は横ばい、陸の網が伸びる 利益 6 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 2,356 円61 億円
国内の漁業者は減るが、魚の値段が高い間は網の更新が続き、輸出も少し伸びて漁網の数量はほぼ横ばいを保つ。陸の上の獣害防止ネットと遊具のネットは、山あいの被害の広がりと公園の整備で数量が 15% ほど増える。
利益率は 4〜7% と過去 12 年の真ん中あたりに戻る。ただ、借入 176 億円の利払いは金利の上昇で今の 3 倍近くに膨らみ、営業利益の 6 割ほどしか税引き前の利益に残らない。配当は今の水準を守る。ROE は 5% 弱で、資本コストの半分ほどにとどまる。在庫は少し減るが、借入の大半は残り、株主の取り分は利払いの後の細い利益にとどまる。
- 漁業関連(漁網・資材・水産物・漁業):数量 2,450(取引の漁業経営体の数(推定))× 価格 0.10(1 経営体あたりの年の売上(億円・名目、網・資材・水産物を含む))→ 売上 241 億円・営業利益 10 億円。2450 経営体 × 1 経営体 9.85 百万円、営業利益率 4.0%
- 陸上関連(獣害防止ネット・スポーツ・遊具ネット):数量 1,500(受注の件数(件・推定))× 価格 0.04(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 67 億円・営業利益 5 億円。1500 件 × 1 件 4.47 百万円、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.8% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 61 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:獣害防止ネットの受注は足元で伸びており、その勢いが続く筋書きにはそれなりの重みがある。
中立 40% 網は売れても利払いが稼ぎを食う 利益 4 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,500 円39 億円
国内の漁業者は高齢になって数を減らし、定置網の更新は鈍る。アジアへの輸出が一部を補い、漁網の取引先の数は 10 年で 5% ほど減る。網の値段は糸と人件費の上昇を追って物価並みに上がる。陸の上のネットは 1 割強伸びる。
利益率は 3% 台後半と、過去 12 年の真ん中を少し下回る。網は受注に合わせて作るので工場の稼働の山谷が大きく、人件費の上昇も重い。借入は在庫とともに膨らみ、金利 3.5% の利払いは年 7 億円に達する。営業利益の 3 分の 2 が利払いに消え、ROE は 3% ほどに沈む。配当は今の額を続けるのがやっとだ。
- 漁業関連(漁網・資材・水産物・漁業):数量 2,300(取引の漁業経営体の数(推定))× 価格 0.10(1 経営体あたりの年の売上(億円・名目、網・資材・水産物を含む))→ 売上 224 億円・営業利益 7 億円。2300 経営体 × 1 経営体 9.75 百万円、営業利益率 3.2%
- 陸上関連(獣害防止ネット・スポーツ・遊具ネット):数量 1,450(受注の件数(件・推定))× 価格 0.04(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 65 億円・営業利益 4 億円。1450 件 × 1 件 4.45 百万円、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.3% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 39 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 12 年の真ん中より少し低い利益率に、金利の上昇で増える利払いを重ねた中心の筋書き。
やや悲観 20% 定置網が細り、利払いで赤字すれすれ 利益 1 億円 · PER 11.2 倍 · 株価時価総額 216 円6 億円
海の温度の変化で一部の魚が獲れなくなり、定置網の漁業者が網の更新を先送りする。漁網の取引先は 15% 減り、海外の安い網にも押される。陸の上のネットも公共の工事が細り、横ばいにとどまる。
営業利益は今と同じ 6〜7 億円ほどだが、利払いが同じだけ膨らみ、純利益はほとんど残らない。在庫の網と糸は値下がりで評価を落とす。配当は減り、借入の返済も進まない。株主に残る価値は、その細い稼ぎを資本コストで割った額にとどまる。会社は在庫の圧縮を迫られ、工場の稼働をさらに落とす悪い循環に入る。銀行との関係が業績を左右する。
- 漁業関連(漁網・資材・水産物・漁業):数量 2,050(取引の漁業経営体の数(推定))× 価格 0.10(1 経営体あたりの年の売上(億円・名目、網・資材・水産物を含む))→ 売上 196 億円・営業利益 4 億円。2050 経営体 × 1 経営体 9.55 百万円、営業利益率 2.0%
- 陸上関連(獣害防止ネット・スポーツ・遊具ネット):数量 1,300(受注の件数(件・推定))× 価格 0.04(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 3 億円。1300 件 × 1 件 4.35 百万円、営業利益率 5.0%
倍率:純利益 0.5 億円は利払いの後のわずかな稼ぎで、価値はその稼ぐ力(純利益÷k)で決まる。PER 11.19 倍で PBR は 0.1 倍を割る。借入 176 億円が現金を大きく上回り、純現金の床は無い。EV(時価総額+純負債)で見ると営業利益の 25 倍で、事業の価値のほぼすべてが借入の返済に回る。
確率:主力の定置網の部門はすでに低迷し、金利は確実に上がる。利益がほとんど残らない筋書きも十分ありうる。
悲観 10% 漁業の縮みと借入の重さで赤字が続く 利益 −5 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 189 円5 億円
国内の漁業者の減少が加速し、定置網と巻き網の需要がそろって縮む。漁網の取引先は 3 割近く減り、利益率は 1% を割る。陸の上のネットも値段の競争で利益が出ない。
利払いは営業利益を大きく超え、毎年 4〜5 億円の赤字が続く。初めの数年の配当は投資有価証券の売却で賄うが、やがて止まる。在庫と土地は借入の返済と担保に回り、銀行の支えがなければ立ち行かない局面もありうる。少数株主に残る分はわずかだ。老舗の看板は残っても、株主の価値はほとんど残らない。再建のために増資や事業の売却を迫られ、今の株主の取り分はさらに薄まる。
- 漁業関連(漁網・資材・水産物・漁業):数量 1,750(取引の漁業経営体の数(推定))× 価格 0.09(1 経営体あたりの年の売上(億円・名目、網・資材・水産物を含む))→ 売上 162 億円・営業利益 1 億円。1750 経営体 × 1 経営体 9.25 百万円、営業利益率 0.5%
- 陸上関連(獣害防止ネット・スポーツ・遊具ネット):数量 1,150(受注の件数(件・推定))× 価格 0.04(1 件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 48 億円・営業利益 1 億円。1150 件 × 1 件 4.20 百万円、営業利益率 3.0%
倍率:赤字なので PBR で置いた。純負債 162 億円が在庫と土地を担保に借りられており、株主に残る分はわずか。今の自己資本に 0.06 倍を掛けた。EV で見ると営業利益の 80 倍近くで、利益の倍率は意味を持たない。
確率:借入が売上の 8 割に達し、金利が上がる中で漁業の縮みが重なれば赤字が続く。構造的に負ける筋書きに 1 割を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
漁業関連(漁網・資材・水産物・漁業)
定置網・巻き網などの漁網と資材を作り、設置と修理を請け負う。水産物の取扱いと漁業の子会社も含む。
| 数量取引の漁業経営体の数(推定) | 価格1 経営体あたりの年の売上(億円・名目、網・資材・水産物を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 2,400 | 0.07 | 178 | 3 |
| 10 年後 中立 | 2,300 | 0.10 | 224 | 7 |
取り方:数量は開示が無いので推定。定置網と巻き網の経営体、資材の取引先、輸出の船団を合わせて 2,400 とし、漁業関連の売上 177.9 億円から 1 経営体あたり年 740 万円ほどと置いた。利益はセグメント利益 3.12 億円。
陸上関連(獣害防止ネット・スポーツ・遊具ネット)
獣害防止ネット、球場やゴルフ場のネット、遊具のネットを作り施工する。
| 数量受注の件数(件・推定) | 価格1 件あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 1,300 | 0.03 | 43 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1,450 | 0.04 | 65 | 4 |
取り方:件数は開示が無いので推定。獣害防止ネットの資材売りと施工工事を混ぜて 1 件 330 万円ほどとみて、陸上関連の売上 43.2 億円から年 1,300 件と置いた。利益はセグメント利益 2.42 億円。
リスクと懸念
金利の上昇と借入
借入 176 億円の多くは短期で、金利の上昇がすぐ利払いに響く。金利 3.5% なら年 6 億円を超え、今の営業利益を上回りうる。
在庫の値下がり
網と糸の在庫を 89 億円抱える。需要が細る、糸の値段が下がると、在庫の評価が落ちて損が出る。在庫を減らせなければ借入も減らない。
国内の漁業の縮み
漁業者は高齢になって数を減らし、海の温度の変化で定置網の漁獲も揺れる。主力の定置網の部門はすでに低迷している。
糸と原料の値段
網の糸はナフサから作られ、中東の混乱で値段が上がった。顧客の漁業者も苦しく、値上げの転嫁は遅れがちだ。
為替と一過性の利益
前期の純利益は為替差益と税の還付に助けられた。円高に振れれば差損に変わり、輸出の採算も落ちる。
今後の分かれ目
- 在庫を 2 割減らし借入を返す
- 利払いが年 1 億円以上軽くなり、中立の価値は 2〜3 割上がる。
- アジア向けの網の輸出が倍になる
- 国内の縮みを補い、やや楽観の筋書きに近づく。
- 政策金利がさらに上がり借入の金利が 4% を超える
- 利払いが営業利益を上回り、やや悲観に寄る。
- 獣害防止ネットが売上の 3 割に育つ
- 漁業への依存が和らぎ、利益率が 1 ポイントほど上がる。
- 同業との統合や大手の傘下入りが起きる
- 在庫と工場の重複が整理され、財務が軽くなりうる。ただ、公表された動きはない。
見ておくもの
- 有利子負債と支払利息
- 棚卸資産の残高
- 定置網の部門の受注
- 獣害防止ネットの受注
- アジア向けの輸出
倍率と資本コストの決め方
倍率は ROE と k の関係だけで置いた。中立の事業の ROE は利払いの増加で 3% ほどに沈み、k 9% を大きく下回るので、PER は 1÷k を上限に 6 割とした。借入が重いので EV(時価総額+純負債)でも見た。今の PER や PBR、同業の値付けは見ていない。今の株価が倍でも半分でも、価値の計算は変わらない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.42→11.11 倍・やや楽観 PER 7.37→11.11 倍・中立 PER 6.32→11.11 倍・やや悲観 PER 10.53→11.19 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。