結論
富士紡ホールディングスは、糸を紡ぐ会社から、半導体の研磨パッドの会社に変わった。営業利益の8割近くは研磨材事業が稼ぐ。祖業の繊維は、肌着ブランドのB.V.D.を残すだけの小さな事業になった。
筆者の結論は、今の値段はやや割高、というものだ。事業の質は高い。ただ、会社の計画どおりに利益が伸びる前提を、値段が先に織り込んでいる。
強みは、半導体の仕上げ磨きに使うソフトパッドだ。世界シェアは報道で約8割とされる。顧客は一度パッドを選ぶと、良品の出る割合、つまり歩留まりを考えて簡単には替えない。26年3月期の営業利益は81億円で、過去最高を更新した。生成AI向けの半導体が、受注を押し上げている。
弱みは三つある。利益が半導体の投資の波に大きく振れること。パッド全体では欧米勢が大きく、中国勢も追ってくること。研磨材以外の事業は、稼ぐ力が小さいことだ。
10年先を考えると、研磨材は枚数が着実に増え、物価の分も値段に乗る。それでも中立の利益は、会社の計画をなぞる程度にとどまる。倍率は普通の優良企業並みに落ち着く。旧村上ファンド系のエフィッシモが2割を超えて持ち、還元の強化は期待できる。ただ、それは事業の稼ぐ力を変えない。強気の筋書きが実現して、初めて今の値段に見合う。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い会社」と「高い値段」を分けて考える必要がある。
良い会社である点は、疑いにくい。研磨材は、顧客が替えにくい消耗品だ。受注が増えるほど利益が膨らむ構造で、営業利益率は28%に達する。借金は無く、純現金がある。経営は、利益重視の構造改革を長く続け、赤字の繊維から高収益の事業へ会社を入れ替えた。持ち続けたいと思える条件は、かなりそろっている。
問題は値段だ。26年3月期は、半導体の回復期の最高益にあたる。この利益を10年先まで繰り返せるとは限らない。24年3月期のように、営業利益が4割以上落ちる年は、また来る。波の山の利益に高い倍率を払えば、谷で痛い目を見る。
事業の稼ぐ力は、中立でも10年で今の2倍に育つ。それでも、今の値段で買った人が得る年率は、資本コストに届かない。計画どおりに進む強気の筋書きだけが、今の値段を正当化する。
安全域を求めるなら、半導体の調整で利益が谷に向かう時のほうがよい。その時の値段なら、質の高さを割安で買える可能性がある。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ頭は研磨材事業だ。26年3月期の売上は226億円で全社の5割弱、営業利益は64億円で8割近くを占める。主力は、半導体のウエハーを平らに磨くCMPという工程で使うソフトパッドだ。回路を一層重ねるたびに表面を磨くので、回路が積み上がるほど磨く回数は増える。ほかに、シリコンウエハーの仕上げ用、液晶ガラス用、データセンターのハードディスク用、SiCウエハー用がある。
次が化学工業品だ。子会社の柳井化学工業が、大手化学メーカーに代わって、農薬・医薬・電子材料の中間体を受託で作る。大手が自社で作らない小ロットを引き受ける黒子の仕事で、国内の独立系では専業トップクラスにある。製品は顧客ごとの特注品で、同社にしか作れない中間体も持つ。売上は141億円、営業利益率は10%ほど。2026年4月には新プラントが動き出した。
生活衣料は、B.V.D.とアングルの2ブランドが売上の4分の3を占める肌着の事業だ。売上は60億円強。量販店向けが細り、ネット販売で補っている。
その他は、樹脂の成形品と金型だ。医療機器の部品や自動車向けを手がける。売上は30億円ほどで、利益はほぼゼロ。会社は第4の柱に育てたいとしている。
生産は、愛媛・静岡・愛知・大分の国内4工場と、台湾の工場で行う。国内の紡績工場はすべて閉じ、糸づくりはタイへ移した。紡績で創業した会社が、繊維の比率を2割以下まで下げたことになる。
財務は軽い。借金はほとんどなく、純現金が93億円ある。自己資本比率は72%だ。持ち株は小さく、売って足せる額は限られる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、研磨材にだけ厚くある。半導体メーカーは、パッドを替えると歩留まりが変わるため、試験に時間をかける。一度採用されると、次の世代の工程も同じパッドで開発しやすい。富士紡は顧客と一緒に作り込み、5つの工場で供給する。この関係が、研磨材の営業利益率28%という数字になっている。
ただし、堀の幅は狭い。パッド全体では、米国のデュポン系が大きな部分を握り、中国の湖北鼎龍も伸びている。富士紡が圧倒的なのはソフトパッドという一角で、ここが別の方式に置き換われば崩れる。ハードパッドへの参入を急ぐのは、その守りでもある。
化学工業品は、同社でしか作れない中間体を持つのが強みだ。ただ、値段は顧客の化学メーカーとの交渉で決まる。利益率は10%ほどで、堀は研磨材ほど厚くない。生活衣料は、成熟した肌着市場で7%近い利益率を出す珍しい存在だが、市場は人口とともに縮む。
資本の稼ぎを見ると、26年3月期のROEは10.9%だ。借金が無いので、中身は事業の質をそのまま映す。計画のROE12%は高くないが、資本コストは上回る。
筆者がいちばん気にしているのは、利益の大半が一つの製品群と、半導体の投資の波に乗っている点だ。24年3月期は、営業利益が前の期の4割以上減った。波の下では、この会社も普通の素材会社の顔になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の将来は、半導体の研磨工程の需要でほぼ決まる。
半導体は、回路を何層も重ねる。一層ごとに表面を平らにしなければ、次の回路が描けない。この平らにする工程がCMPで、消耗品のパッドは使うほど減る。チップの生産量が増え、層が増えるほど、パッドは売れる。生成AI向けの先端ロジックと、HBMという積層メモリは、どちらも層が多い。調査会社は、ソフトパッドの世界市場が2030年まで年8%ほど伸びると見ている。
波もある。半導体の設備投資は、数年おきに過熱して冷える。22年3月期の59億円から、24年3月期の28億円まで、営業利益は半分近くに落ちた。ここ2年の回復は、AI向けの先端品が牽引している。スマートフォンやEV向けは、まだ弱い。
研磨材には、半導体以外の用途もある。データ保存用のハードディスクは、データセンターの建設で需要が急増している。液晶ガラス用は、中国の補助金で伸びた。SiCウエハー用は、EVの停滞で在庫が余り、不振が続く。用途ごとに波がずれるので、全体の振れは多少ならされる。
競合の構図は偏っている。パッド全体では、デュポン系が3分の2ほどを持つとされる。2位はエンテグリス、中国の湖北鼎龍が追う。富士紡はソフトパッドの一角で強い。先端の微細化で仕上げ磨きの精度が求められるほど、富士紡の出番は増える。
化学工業品の市場は、農薬・医薬・電子材料の受託製造だ。大手が小ロット品を外に出す流れは続く。電子材料は、半導体と同じ波に乗る。生活衣料は、国内の肌着市場で、人口減と量販店の縮みが数量を削る。
10年の構図は、半導体向けの研磨材と化学工業品が全体を押し上げ、肌着と成形品はほぼ横ばい、というものだ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、守りから攻めへ変わる途中にある。
新しい中期経営計画(進化26-30)は、30年度に売上650億円、営業利益130億円を掲げる。設備投資は5年で480億円で、7割強を研磨材に回す。大分工場の増設は約53億円で、2029年4月の稼働を予定する。台湾には研究開発センターを置き、ハードパッドへの参入を探る。
株主還元は、配当性向40%を目標にし、純資産に対する配当(DOE)3.5%を下限とする。自社株買いは、計画に明記がない。純現金があり、借金でも投資を賄えるので、還元の余力は大きい。
株主には、旧村上ファンド系のエフィッシモがいる。26年10月の報告で保有は20.76%、前回より1ポイント増えた。保有目的は純投資とされるが、資本効率の改善を求める圧力になりうる。買収防衛策は確認できなかった。kabufuの推計では、10年以内の買収の確率は2割ほどだ。
M&Aは、化学工業品や新領域で50億円を上限に見込む。過去の買収は金型や成形品で、のれんの償却が利益を削っている。大型の買収は前提にない。
持ち株は時価総額の1%ほどで、売って足せる金額は小さい。
点検済み:中立の営業利益率19.4%は会社予想(28年3月期18.8%)を0.6pp超えるだけで、事業別は研磨材27.5%(今28.3%)・化学11%(今10%)と今に近く、超えは研磨材の売上が2.1倍になる構成の変化。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
生成AIの投資は、まだ序盤だ。先端ロジックとHBMは、どちらも層を重ねる半導体で、磨く回数が増える。富士紡のソフトパッドは、この仕上げ磨きで世界の大半を握る。26年3月期は研磨材の営業利益が35%増え、27年3月期も2桁増益の見通しで、会社は期中に予想を上方修正した。
顧客の工程に入り込んだパッドは、替えにくい。会社は、受注が増えるほど利益が膨らむ構造だと説明する。大分の増設と台湾の拠点が動けば、供給の制約も外れる。ハードパッドに参入すれば、市場の裾野が広がる。既存の顧客に新しい品を売れるので、営業の費用も小さく済む。
化学工業品は、4月に新プラントが動いた。電子材料と医薬の受託は、大手化学メーカーが外へ出す流れに乗る。営業利益は、研磨材に続く柱になる。
資本政策も変わる。配当性向40%、DOE3.5%の下限という約束がある。エフィッシモが2割を超えて持ち、増配や自社株買いを迫る。純現金が厚く、借金を足してでも還元できる。
会社は、30年度に営業利益130億円、35年度に200億円を掲げる。35年の目標が実現すれば、営業利益は今の2.5倍で、今の時価総額は割安に変わる。
慎重な見方
26年3月期の最高益は、半導体の回復期の数字だ。24年3月期には、営業利益が22年3月期の59億円から28億円へ落ちた。今の利益を土台に10年を考えるのは危うい。生成AI向けの投資が一巡すれば、同じことがまた起きる。
堀は、思われているほど広くない。ソフトパッドで首位でも、パッド全体ではデュポン系が3分の2ほどを握り、中国の湖北鼎龍が追う。HBMや先端ロジックの顧客が複数の仕入先から買う方針を強めれば、値下げ圧力が来る。ハードパッドへの参入は、強い相手の土俵に入ることになる。
利益の8割が、一つの事業から出る。残りも頼りない。化学工業品の営業利益率は10%で、新プラントの減価償却が重い。生活衣料は縮み、成形品と金型は赤字すれすれだ。のれんの償却も重い。研磨材が崩れた時に、受け止める事業がない。会社自身が、半導体の変動に弱い構造だと認めている。
顧客と工場が集まる台湾の地政学も、忘れられない。起きれば、数量の前提そのものが壊れる。
会社の計画も強気だ。30年度の営業利益130億円は、過去最高益の6割増しになる。35年度の200億円は、裏付けが薄い。今の値段は、その成功をほぼ織り込んでいる。
どちらに重みを置いたか
事業の質は高く、強気の見方が描く成長の筋道も本物だ、というのが結論だ。ただし、今の値段は、強気の筋書きが実現して初めて見合う水準にある。
慎重な見方が突く波と堀の狭さのほうが、実現のハードルは低い。強気の見方は、利益が10年間ほぼ切れ目なく伸びる前提を要する。そこで確率は中立を最も厚く置き、楽観とやや楽観を合わせて3割台半ばにとどめた。悲観は、半導体の波と顧客の分散購買、中国勢の値下げが重なる筋書きとして、1割強を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,444 円1,836 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,072 円362 億円)。 今の値に割り戻すと 3,459 円1,167 億円、今との差 +1.7%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 9,596 円3,237 億円 | 1,447 円488 億円 | +224.8% | +12.5% | 1,325 円447 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,734 円2,609 億円 | 1,269 円428 億円 | +164.8% | +10.2% | 1,981 円668 億円 |
| 中立 | 34% | 5,930 円2,000 億円 | 1,058 円357 億円 | +105.6% | +7.5% | 2,376 円801 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,424 円818 億円 | 901 円304 億円 | −2.2% | −0.2% | 665 円224 億円 |
| 悲観 | 12% | 750 円253 億円 | 661 円223 億円 | −58.5% | −8.4% | 169 円57 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,444 円1,836 億円 | 1,072 円362 億円 | +91.7% | +6.7% | 6,517 円2,198 億円 |
今の株価時価総額 3,400 円1,147 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 12% 生成AIの需要が10年続き、研磨材が会社の計画を超える 利益 170 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 9,596 円3,237 億円
生成AI向けの半導体が10年を通して伸び、研磨材の出荷枚数は2倍に増える。HBMの積層が進み、先端ロジックの層も増えるので、仕上げ磨きの回数が増え続ける。ソフトパッドの強さは保たれ、ハードパッドにも参入して顧客の裾野が広がる。パッドの値段は物価並みに上がり、営業利益率は30%に届く。
化学工業品は、新プラントが満稼働する。電子材料と医薬の受託が広がり、出荷量は1.7倍、営業利益率は12%台になる。成形品は医療機器部品が伸びて黒字が定着し、肌着は縮みが止まって横ばいになる。
営業利益は240億円を超え、会社が掲げる2035年度の200億円を上回る。エフィッシモなど株主の圧力もあって、還元は手厚く、自己資本は積み上がらない。買収の話題も出るが、防衛策が無い分、友好的な再編に限られる。
- 研磨材:数量 94.8(研磨パッド換算の出荷枚数(万枚、推定))× 価格 6.70(1枚あたり売上(万円・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 635 億円・営業利益 191 億円。数量 2.10 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 30.0%
- 化学工業品:数量 2,999(出荷量(トン、推定))× 価格 1,072(平均単価(万円/トン・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 322 億円・営業利益 40 億円。数量 1.70 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 12.5%
- 生活衣料:数量 393(販売点数(万点、推定))× 価格 0.20(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 79 億円・営業利益 6 億円。数量 0.95 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 8.0%
- その他(化成品・金型):数量 1,040(出荷点数(万点、成形品換算、推定))× 価格 0.07(1点あたり売上(万円・名目、金型は成形品換算))→ 売上 70 億円・営業利益 6 億円。数量 1.70 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 170 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍。全体の PER 19.05 倍、時価総額 3,237 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの需要が10年切れずに伸び、ソフトパッドの強さも保たれ、ハードパッドでも成功する条件がそろう必要がある。事業の質は高いが、連続した成功なので1割強とした。
やや楽観 22% 研磨材が計画に近い形で育ち、化学工業品も一段上がる 利益 143 億円 · PER 18.2 倍 · 株価時価総額 7,734 円2,609 億円
研磨材は、会社の計画に近い形で育つ。AI向けの先端品が伸び、枚数は1.85倍になる。先端ロジックとHBMで、ソフトパッドの採用が広がる。ハードパッドは小さな足場にとどまり、利益率は29%を保つ。
化学工業品は、新プラントの立ち上がりが順調で、出荷量が1.55倍になる。利益率は設備の減価償却を吸収して12%になる。肌着は点数が1割減り、利益率は7%台で踏みとどまる。成形品は小さな黒字になる。
営業利益は200億円を少し超える。計画の2030年度130億円は通過点で、その先も物価と数量で伸びる。還元は配当性向40%台を保ち、自社株買いも加わる。会社の質への評価は高まるが、倍率は優良企業並みにとどまる。
- 研磨材:数量 83.5(研磨パッド換算の出荷枚数(万枚、推定))× 価格 6.60(1枚あたり売上(万円・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 551 億円・営業利益 160 億円。数量 1.85 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 29.0%
- 化学工業品:数量 2,734(出荷量(トン、推定))× 価格 1,056(平均単価(万円/トン・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 289 億円・営業利益 35 億円。数量 1.55 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 12.0%
- 生活衣料:数量 372(販売点数(万点、推定))× 価格 0.20(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 6 億円。数量 0.90 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 7.5%
- その他(化成品・金型):数量 918(出荷点数(万点、成形品換算、推定))× 価格 0.07(1点あたり売上(万円・名目、金型は成形品換算))→ 売上 61 億円・営業利益 5 億円。数量 1.50 倍・価格 1.32 倍、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 143 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.2 倍。全体の PER 18.23 倍、時価総額 2,609 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(2030年度に営業利益130億円)に近い道を進む筋書き。計画は強気だが、直近の実績と受注が裏付けるので、実現しやすい側の上として2割強を置いた。
中立 34% 研磨材は計画の延長で伸びるが、倍率は普通の優良企業並みに落ち着く 利益 115 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 5,930 円2,000 億円
研磨材は、枚数が1.6倍に増える。年平均で5%ほどの伸びで、AI向けの先端品が牽引するが、半導体の波で数年ごとに調整が入る。パッドの値段は物価に少し届かず、1.3倍。顧客が値下げを求める一方、先端品への入れ替わりが下支えする。利益率は27%台に収まる。
化学工業品は、新プラントの効果で出荷量が1.4倍になる。利益率は減価償却が重く11%にとどまる。肌着は点数が2割減り、利益率は6%に下がる。成形品は黒字にはなるが、小さい。
営業利益は160億円台で、会社が掲げる2030年度の130億円を物価の分だけ上回る。還元は配当性向40%超を保ち、DOEの下限も守る。倍率は、資本コストを超える稼ぎの普通の優良企業並みになる。
- 研磨材:数量 72.2(研磨パッド換算の出荷枚数(万枚、推定))× 価格 6.50(1枚あたり売上(万円・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 469 億円・営業利益 129 億円。数量 1.60 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 27.5%
- 化学工業品:数量 2,470(出荷量(トン、推定))× 価格 1,040(平均単価(万円/トン・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 257 億円・営業利益 28 億円。数量 1.40 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 11.0%
- 生活衣料:数量 331(販売点数(万点、推定))× 価格 0.20(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 67 億円・営業利益 4 億円。数量 0.80 倍・価格 1.34 倍、営業利益率 6.0%
- その他(化成品・金型):数量 796(出荷点数(万点、成形品換算、推定))× 価格 0.07(1点あたり売上(万円・名目、金型は成形品換算))→ 売上 52 億円・営業利益 3 億円。数量 1.30 倍・価格 1.30 倍、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 115 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.25 倍、時価総額 1,986 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の波があっても、研磨材が物価と数量で伸び続ける落としどころ。強気と慎重の言い分がともに一部ずつ当たるとみて、最も厚く3割台半ばを置いた。
やや悲観 20% 半導体の波と競合の圧力で、研磨材の伸びが鈍る 利益 70 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 2,424 円818 億円
半導体の投資が一巡し、研磨材の伸びが鈍る。HBMや先端ロジックは育つが、顧客が複数の仕入先から買う方針を強め、パッドの値上げが通りにくくなる。中国の湖北鼎龍などが、ソフトパッドに近い品を出してくる。枚数は1.25倍、パッドの値段は物価に届かず1.22倍、利益率は23%に下がる。
化学工業品は、新プラントの稼働が遅れ、農薬の不振も重なる。出荷量は1.15倍にとどまり、利益率は8%台になる。肌着はさらに細り、成形品は赤字の幅が縮む程度にとどまる。
営業利益は100億円前後で、足元の81億円から物価の分も伸びない。会社は還元の方針を守るが、自己資本が積み上がり、資本の稼ぎは資本コストをわずかに上回る水準に下がる。
- 研磨材:数量 56.4(研磨パッド換算の出荷枚数(万枚、推定))× 価格 6.10(1枚あたり売上(万円・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 344 億円・営業利益 79 億円。数量 1.25 倍・価格 1.22 倍、営業利益率 23.0%
- 化学工業品:数量 2,029(出荷量(トン、推定))× 価格 976(平均単価(万円/トン・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 198 億円・営業利益 17 億円。数量 1.15 倍・価格 1.22 倍、営業利益率 8.5%
- 生活衣料:数量 289(販売点数(万点、推定))× 価格 0.19(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 2 億円。数量 0.70 倍・価格 1.25 倍、営業利益率 3.5%
- その他(化成品・金型):数量 673(出荷点数(万点、成形品換算、推定))× 価格 0.06(1点あたり売上(万円・名目、金型は成形品換算))→ 売上 40 億円・営業利益 0 億円。数量 1.10 倍・価格 1.20 倍、営業利益率 1.0%
倍率:事業の ROE は 8.2% で k 7.25% をわずかに上回る程度。RONIC=8.0%、正当化 PER=13.3 倍。稼ぎの質が落ち、成長の持ちも弱いので、その 8 割強の 11.0 倍に置いた。
確率:利益が一つの事業と半導体の波に集中するので、調整の深さと競合の圧力で伸びが鈍る可能性は小さくない。強気の筋書きの合計とほぼ同じ2割を置いた。
悲観 12% ソフトパッドの優位が崩れ、半導体の谷が重なる 利益 25 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 750 円253 億円
ソフトパッドの優位が崩れ、半導体の谷が重なる。顧客が先端でも別の方式や中国製を使い始め、富士紡の枚数は15%減る。値段は物価を大きく下回り、10年で5%しか上がらない。大分の増設などの設備は遊び、研磨材の営業利益率は15%まで落ちる。
化学工業品は、農薬と医薬の受託が低迷し、新プラントの減価償却が利益を削る。出荷量は1割減り、利益率は4%になる。肌着は市場とともに縮んで赤字になり、成形品の金型も赤字が続く。
営業利益は30億円台まで落ち、会社は稼ぐ力ではなく、純現金と工場の価値で見られる。投資に使った現金を取り戻せず、還元は配当の下限を守る程度に縮む。エフィッシモなどの株主は、事業の縮小を認めたうえで、売却や再編を求めるようになる。
- 研磨材:数量 38.4(研磨パッド換算の出荷枚数(万枚、推定))× 価格 5.25(1枚あたり売上(万円・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 201 億円・営業利益 30 億円。数量 0.85 倍・価格 1.05 倍、営業利益率 15.0%
- 化学工業品:数量 1,588(出荷量(トン、推定))× 価格 880(平均単価(万円/トン・名目、品種ミックスを含む))→ 売上 140 億円・営業利益 6 億円。数量 0.90 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 4.0%
- 生活衣料:数量 227(販売点数(万点、推定))× 価格 0.17(1点あたり売上(万円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 −1 億円。数量 0.55 倍・価格 1.15 倍、営業利益率 -2.0%
- その他(化成品・金型):数量 551(出荷点数(万点、成形品換算、推定))× 価格 0.06(1点あたり売上(万円・名目、金型は成形品換算))→ 売上 30 億円・営業利益 −1 億円。数量 0.90 倍・価格 1.10 倍、営業利益率 -4.0%
倍率:事業の ROE が 3.8% で k 7.25% を大きく下回るので、ためた利益に倍率は付けず、正当化 PER の上限は 1÷k=12.9 倍。稼ぐ力(純利益÷k)は約 326 億円で、構造的に負けた事業の持ちの短さを見てその 8 割弱の 10.0 倍に置いた。純現金と売れる資産の税後(約 100 億円)は下回らない。
確率:ソフトパッドの優位が崩れる構造的な負け。首位の座が狭い一角にあり、顧客の分散購買と中国勢が重なれば起こりうる。財務は堅く、事業が丸ごと消えるわけではないので、1割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
研磨材
半導体のCMP(ウエハーを平らに磨く工程)で使うソフトパッドが主力。シリコンウエハー、液晶ガラス、ハードディスク、SiCウエハー向けの研磨材もある。
| 数量研磨パッド換算の出荷枚数(万枚、推定) | 価格1枚あたり売上(万円・名目、品種ミックスを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.1 | 5.00 | 226 | 64 |
| 10 年後 中立 | 72.2 | 6.50 | 469 | 129 |
取り方:開示は金額だけなので、枚数を推定した。ウエハー向けの大型パッドから小型の用途まで混ざり、平均を1枚5万円と置くと約45万枚になる。数量は実質の枚数、物価と先端品へのミックスは1枚あたり売上に入れる。 数量は実物(パッドの枚数)で、名目の市場の伸びではない。
化学工業品
子会社の柳井化学工業が、大手化学メーカーなどから農薬・医薬・電子材料の中間体を受託で製造する。2026年4月に新プラントが稼働した。
| 数量出荷量(トン、推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目、品種ミックスを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,764 | 800 | 141 | 14 |
| 10 年後 中立 | 2,470 | 1,040 | 257 | 28 |
取り方:開示は金額だけなので、出荷量を推定した。中間体は1トン数百万〜数千万円と開きが大きく、平均を800万円/トンと置くと約1,760トンになる。数量は実質のトン数、物価と品種ミックスは単価に入れる。
生活衣料
肌着ブランドのB.V.D.とアングルが売上の4分の3。量販店向けが細り、ネット販売と海外の富裕層向けで補う。
| 数量販売点数(万点、推定) | 価格1点あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 413 | 0.15 | 62 | 4 |
| 10 年後 中立 | 331 | 0.20 | 67 | 4 |
取り方:金額は開示から逆算した推定(前年比とセグメント間の差から)。平均を1点0.15万円と置くと約410万点になる。点数は実質、物価は1点あたり売上に入れる。
その他(化成品・金型)
医療機器やデジタルカメラ向けの樹脂成形品と、自動車・事務機器向けの金型。会社が第4の柱に育てたい事業。
| 数量出荷点数(万点、成形品換算、推定) | 価格1点あたり売上(万円・名目、金型は成形品換算) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 612 | 0.05 | 31 | −1 |
| 10 年後 中立 | 796 | 0.07 | 52 | 3 |
取り方:金額は開示から逆算した推定。成形品と金型を成形品の点数に換算し、平均を1点0.05万円と置くと約610万点になる。数量は実質、物価と金型の大型案件は単価に入れる。
リスクと懸念
半導体の投資の波
研磨材は、半導体の生産量に直結する。24年3月期は営業利益が59億円から28億円へ落ちた。AI向けが一巡し、スマートフォンやEV向けの弱さが続けば、受注と利益が同時に落ちる。限界利益率が高い分、逆回転も大きい。会社自身が、研磨材は半導体市場の変動の影響を受けやすいと認めており、肌着や化学工業品で支える構図を描くが、研磨材の落ち込みを埋める大きさはない。
ソフトパッドの優位が崩れる
ソフトパッドは世界シェア約8割とされるが、パッド全体ではデュポン系が大きい。顧客が複数の仕入先に分ける、中国の湖北鼎龍が追い上げる、別の方式に置き換わる、といった変化が起これば、数量と値段の両方が崩れる。ソフトパッドは仕上げ工程の一角にすぎず、微細化の進み方次第で、使う方式が変わる余地は残る。
台湾の地政学
最先端の半導体が集まる台湾に、工場と研究開発センターを置く。顧客の多くも台湾にいる。地政学の緊張や輸出の制約が起きれば、数量の前提が壊れる。顧客だけでなく、台湾の工場と研究開発センターも同じ地域にあり、損害は需要と供給の両方に及ぶ。保険や代替の工場でも、すぐには埋められない。
化学工業品の新プラント
2026年4月に動き出した新プラントは、減価償却が先に重くなる。農薬の需要が戻らず、受託が埋まらなければ、利益率10%の維持も難しくなる。化学工業品は、会社が研磨材に次ぐ柱として設備を厚く積む事業で、稼働が遅れると、全社の資本の稼ぎも下がる。5年で104億円を投じる計画がある。
肌着と成形品の足かせ
生活衣料は量販店向けが細り、27年3月期の第1四半期は営業利益が6割減った。成形品と金型は赤字すれすれで、のれんの償却も続く。両方で全社の稼ぎを削る。肌着は円安による原材料高も受けており、値上げが量を減らす悪循環になりやすい。会社は撤退を含む見直しを掲げる。
大株主との関係
エフィッシモが2割を超えて持つ。還元の強化には追い風だが、成長投資を絞る圧力にもなる。投資の判断をめぐって対立すれば、計画の実行力に疑いが出る。保有を減らす動きがあれば、需給が崩れて株価の下げ要因にもなる。報告書の保有目的の詳細は、本調査では確認できていない。
今後の分かれ目
- 研磨材の営業利益率が28%を超え、2期続けて受注が前年を上回ったら
- 研磨材の数量の伸びを上方修正し、やや楽観より上の筋書きを重く見る。
- AI向け以外の半導体投資が戻り、シリコンウエハー用の需要が回復したら
- 研磨材の底が固くなったと判断し、悲観側の確率を下げてよい。
- 主要顧客が、パッドの調達を複数社に分けると表明したら
- 値決め力の前提を見直し、研磨材の利益率を下げて、やや悲観の確率を上げる。
- ハードパッドが先端ロジックの顧客に採用されたら
- 市場の裾野が広がったとみて、楽観側の確率を厚くする。
- 化学工業品の新プラントが2期以内に満稼働して、営業利益率が12%に乗ったら
- 化学工業品の利益を引き上げる。稼ぎの分散が進んだとみて、k を下げることは考えない。
- エフィッシモの保有が高まり、増配や自社株買いの追加が決まったら
- 還元の合計を上方修正する。ただし事業の稼ぎが変わらなければ、倍率は動かさない。
見ておくもの
- 研磨材の受注額と営業利益率(四半期)
- 世界の半導体の生産量とAI向けの設備投資
- ソフトパッドの顧客数とハードパッドの採用
- 化学工業品の新プラントの稼働率
- エフィッシモの保有割合と株主提案
- 大分工場の増設の進み方と台湾の拠点の立ち上がり
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や過去の評価から置かず、資本コスト 7.25%・事業の ROE・長期成長率 4% から、正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g) を出して決めた。中立は ROE 11% 台、RONIC 約 9.6% で式の上限は約 15.5 倍。利益の 8 割が一つの事業で、半導体の山の利益を含むため、上限の約 8.5 割に置いた。堀は普通(残る割合 1/2)。ソフトパッドの切り替えの難しさはあるが、パッド全体の競合と一つの製品群への集中があるので、強い堀にはしていない。純現金は 93 億円で時価総額の 1 割に満たず、5 年で 480 億円の設備投資と借入の計画があるので、余った現金は分けていない。店舗を借りて営む事業ではなく、リースの約束は小さい。新リース会計基準の影響は小さく、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。今の PER は倍率の根拠に使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.7→19.05 倍・やや楽観 PER 14.1→18.23 倍・中立 PER 13.2→17.25 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。