結論
アツギは、ストッキングと肌着の老舗だ。1947年創業の国内大手で、全社の売上の約9割を衣料が占める。もう1つの柱が、神奈川県厚木市に持つ賃貸用の土地だ。
結論から言う。今の値段は割高と見る。衣料が7年連続で営業赤字で、資産を使って穴を埋めている。資産は豊富でも、利益を生む力は弱い。
2026年3月期は、売上215億円に対し営業損益が10億円の赤字だった。衣料は15億円の赤字で、賃貸の黒字5億円が赤字の3分の1を埋めた。会社は7期ぶりの黒字化を掲げたが届かず、中期経営計画も取り下げた。配当は2021年3月期から無配が続く。
資産は厚い。純現金32億円、上場株の保有44億円、賃貸地の簿価105億円がある。自己資本は320億円で、時価総額165億円の約2倍だ。ただ、賃貸地の賃料利回りは時価の約4%で、資本コストの8.75%に届かない。
救いは株主構成だ。アセット・バリュー・インベスターズが28%を持ち、提案の姿勢を明らかにしている。資産が株主に戻る可能性はあるが、時間とともに価値は削られる。確率を重くした強気の筋書きでも、今の値段には届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、アツギは「事業ではなく、資産の株」だ。ただし、資産を引き出す力は経営にない。
事業は、7年連続の赤字だ。衣料の損失が賃貸の黒字を食い、資産を取り崩している。10年で堀を築き直すのは難しい。
資産は本物だ。厚木の土地、保有株、純現金を足すと、税を引いても約190億円になる。時価総額165億円を上回る。ただ、賃貸地の利回りは時価の約4%で、資本コストに届かない。資産を持ち続けるほど、価値は目減りする。
安全域は、資産を売って株主に戻したときだけ生まれる。そのためには、経営が動くか、外から動かされる必要がある。アセット・バリュー・インベスターズの28%は、その可能性を示す。だが、動くまでの時間が長いほど、資本コストの分だけ価値は下がる。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は、ほぼゼロだ。配当もない。資産が戻らなければ、株主の取り分は増えない。
何で稼ぐ会社か
アツギは、ストッキングやタイツ、靴下などのレッグウエアと、肌着などのインナーウエアを作って売る会社だ。事業の中心は衣料で、不動産の賃貸と介護関連が小さく加わる。
2026年3月期の売上は215億円。内訳は、レッグウエアが111億円、インナーウエアが91億円、不動産が7億円、その他が6億円だ。営業損益は、衣料が15億円の赤字、不動産が5億円の黒字、その他が1億円の黒字となる。
主な販路は衣料専門店、通販、他社ブランドの受託生産(OEM)だ。最大の取引先はしまむらで、売上の約3割(61億円)を占める。自社ブランドの「ATSUGI」「Tight」などに加え、介護や医療の分野へ向けた肌着にも力を入れている。
生産は海外に移った。主力工場は中国の山東省・煙台にあり、国内の生産子会社は生産を終えた。2026年8月には煙台で希望退職120人を募り、構造改革を進めている。従業員は連結で約1,200人。
不動産は、厚木に持つ土地(賃貸中148千平方メートル)で賃料を得る。利益率は8割近く、衣料の赤字を支える。ほかに、介護用品の販売、グループホームの運営、太陽光発電による売電も営む。
優良さと弱いところ
堀は浅い。ブランドの知名度と、日本人の足にあうサイズ設計は強みだが、価格を決める力に結びついていない。
客のしまむらが売上の3割を占め、OEMでは値下げの圧力を受ける。ストッキングは、普段着の変化とパンツスタイルの定着で市場が縮み続ける。自社の売上も、10年前の234億円から215億円へ細った。
利益は長く出ていない。過去12年で営業黒字は2016年から2018年の3期だけで、直近7期は赤字が続く。ROE(自己資本に対する純利益の割合)は、10年の中央値でマイナス3.7%だ。
2018年から2023年の赤字は、店舗の不振と在庫の積み上がりが原因だった。原材料と物流費の上昇を価格に転嫁できず、2026年も同じ構図が続いた。
財務は強い。自己資本比率は8割で、借金は軽い。賃貸の黒字と保有株の配当が、赤字の穴を一部埋める。
経営の資本配分は、保有資産を抱え続けてきた点が弱い。赤字を資産の取り崩しで埋めてきたため、自己資本は10年で497億円から320億円へ減った。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
レッグウエアの需要は、女性の装いの変化で長く細っている。ストッキングは仕事着のカジュアル化とパンツスタイルの定着で、ここ20年で市場が大きく縮んだ。インナーは、介護や機能性の需要が支えになり、売上はほぼ横ばいだ。
2026年3月期は、レッグウエアが5%減、インナーウエアが1%増だった。ストッキングの減少は、まだ止まる気配がない。
競争相手は、同じ繊維大手のグンゼ、福助、岡本などだ。海外では中国・東南アジアの安価な靴下が流れ込み、価格を押し下げる。大手のユニクロは、機能性インナーで市場を広げた。
原材料はナイロン糸と綿で、石油と為替に影響される。加えて、中国の工場の人件費が上がり、為替が円安に動くほど調達コストが増す。値上げを受け入れる客は少なく、利益は削られる。
近い領域の他社を見ると、売上の過半が衣料のワコールやグンゼも、国内の需要は細る。アツギは、ブランド力の弱さと赤字の長さが、同業のなかでも目立つ。
10年の構図は、数量が緩やかに縮み、価格は物価の4分の3ほどしか上がらないというものだ。改善の余地は構造改革と海外にあるが、その確度は高くない。
資本政策と M&A
資本政策の焦点は、持っている資産をどう使うかだ。純現金は32億円、上場株は17銘柄で44億円。東レ(20億円)、しまむら(11億円)、イオン(10億円)が大きい。賃貸地は簿価で105億円あり、賃貸等不動産の時価は最大で約134億円との数字もある(時期は未確認)。
還元の実績は乏しい。配当は2021年3月期から無配が続く。会社は資産で赤字を埋めてきた。中期経営計画は取り下げられ、新しい計画は検討中だ。
圧力は株主からかかる。アセット・バリュー・インベスターズが28.47%を持ち、保有目的を「純投資及び重要提案行為等」としている。東レが6.4%、オンワードが3.8%。kabufuの試算で、10年以内のTOB(公開買い付け)の確率は約30%だ。
資産の価値は、上場株の売却益にかかる税を引いて数えた。賃貸地は、稼ぎを利益に残すと二重になるため、売る筋書きの強気側だけ売却益を足した。
株主優待は、自社の通販で使える30%割引だ。費用は年0.2億円程度と推定し、還元に少額を足した。本社の土地は賃借で、年1億円の家賃が固定費として残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、資産が株主に戻る筋書きだ。アセット・バリュー・インベスターズが28%を持ち、東証のPBR改善要請も追い風になる。10年以内のTOBの確率も約30%と試算される。
この筋書きでは、賃貸地の大半を売る。簿価105億円の土地を税引きで125億円ほどに換金し、保有株44億円と純現金32億円も合わせて、10年で170億円を配当と自社株買いで戻す。
衣料も立て直る。中国の工場の人員を整理し、国内の物流を集約する。介護や医療向けの肌着を伸ばし、インナーは今の1.15倍に増える。価格は物価の分だけ上がる。レッグウエアは縮むが、赤字の事業を減らし、衣料の営業利益は黒字に戻る。
全体の営業利益は9億円、純利益は8億円。2017年3月期の10億円に近い水準を取り戻す。
賃貸地を売ると、賃料の利益は減る。ただ、資産を戻す効果が、それを上回る。株主に戻る額は、土地の売却代金、保有株の売却、純現金で賄う。この筋書きの重みは、経営が自発的に動くかどうかで決まる。
慎重な見方
慎重な見方は、赤字が止まらない筋書きだ。衣料の営業損失は15億円で、6年前から改善していない。国内のレッグウエアは縮み続け、OEMの値下げ圧力も続く。
原材料と物流費の上昇を価格に転嫁できず、コスト削減も追いつかない。構造改革を重ねても、売上の縮小が先に進む。中計を取り下げた経営に、10年の絵を描く力があるとは言いにくい。
資産は、赤字の穴埋めで目減りする。10年で衣料の赤字が累積100億円に達すれば、純現金と保有株は消え、土地を売って埋めるしかなくなる。
賃貸地も、時価がいつまでも保てる保証はない。厚木の土地の相場は上がっているが、売却には税と手間がかかる。
株主の28%を持つ投資家が動いても、経営が動かなければ、資産は戻らない。配当のない状態が続けば、持ち続ける理由は薄れる。ストッキングの需要が細る間に、コストの高い国内の体制を直せなかったことも、重い。
賃貸の黒字は安定しているが、全体の赤字を埋めるには足りない。中国の工場も、人件費の上昇と円安で、コスト優位が薄れている。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠がある。強気の見方は資産の厚さに、慎重な見方は赤字の長さに支えられている。
筆者は、慎重な見方を強いと見た。資産が戻る筋書きにも確率を厚く置いたが、戻るまでの時間と、本業の損失が価値を削る。強気に12%、やや強気に23%、中立に30%を置いた。結果として、強気の筋書きでも今の値段に届かず、割高と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 459 円74 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 283 円45 億円)。 今の値に割り戻すと 392 円63 億円、今との差 −61.3%、 期待の年率 −3.0%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 701 円112 億円 | 1,062 円170 億円 | +74.3% | +5.7% | 211 円34 億円 |
| やや楽観 | 23% | 631 円101 億円 | 562 円90 億円 | +18.0% | +1.7% | 274 円44 億円 |
| 中立 | 30% | 458 円73 億円 | 75 円12 億円 | −47.3% | −6.2% | 160 円26 億円 |
| やや悲観 | 23% | 317 円51 億円 | 19 円3 億円 | −66.8% | −10.4% | 77 円12 億円 |
| 悲観 | 12% | 168 円27 億円 | 0 円0 億円 | −83.4% | −16.4% | 20 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 459 円74 億円 | 283 円45 億円 | −26.5% | −3.0% | 743 円119 億円 |
今の株価時価総額 1,011 円162 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 12% 資産が株主に戻り、衣料も立て直る 利益 8 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 701 円112 億円
資産が株主に戻る。賃貸地の8割を売り、保有株も整理して、10年で170億円を配当と自社株買いで戻す。アセット・バリュー・インベスターズの提案が通るか、TOBが動く。
衣料も立て直る。中国の工場の人員整理と国内の物流集約が進み、介護・ヘルスケア向けの肌着を伸ばす。インナーは今の1.15倍、レッグウエアは0.85倍で下げ止まる。価格は物価と同じ1.34倍まで上がる。衣料の営業利益率は、レッグが1〜2%、インナーが4〜5%に戻る。
賃貸地は大半を売るため、賃料の利益は2億円ほどに減る。全社の営業利益は9億円、純利益は8億円。ROEは4%にとどまり、資本コストに届かないため、倍率は式の上限の9割にした。赤字からの回復が早く、10年の純利益の合計は34億円になる。これに、土地の売却益(税引後で16億円)が入る。還元170億円は、利益だけでは足りず、売却代金と純現金で払う。
- レッグウエア(ストッキング・タイツ・靴下):数量 2,890(販売足数(万足、推定))× 価格 436(1足あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 126 億円・営業利益 2 億円。営業利益率1.5%
- インナーウエア(肌着・機能性・介護向け):数量 2,990(販売点数(万点、推定))× 価格 469(1点あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 140 億円・営業利益 6 億円。営業利益率4.5%
- 不動産(賃貸):数量 3.0(賃貸面積(万平方メートル))× 価格 0.66(1万平方メートルあたりの年間賃料(億円、名目))→ 売上 2 億円・営業利益 2 億円。営業利益率78%
- その他(介護・売電):数量 1.2(事業一式)× 価格 8.00(売上(億円、名目))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。営業利益率12%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)23 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 112 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:28%の大株主、東証のPBR改善要請、TOB確率30%の試算を踏まえ、資産の還元が大きく動く姿として12%を置いた。ただし、7年の赤字と取り下げた計画を見ると、確度は高くない。
やや楽観 23% 一部の資産が戻り、赤字がほぼ消える 利益 6 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 631 円101 億円
経営が動き、資産の一部が戻る。賃貸地の6割を売り、保有株の一部も整理して、10年で90億円を還元する。TOBは起きないが、投資家の圧力で配当が復活する。
衣料は赤字を減らす。レッグウエアは0.78倍まで縮むが、インナーは1.05倍に増える。価格は物価の9割ほどまで上がる。衣料の営業損益はほぼ均衡し、賃貸の黒字が利益を支える。
全社の営業利益は6億円、純利益は6億円。会社の2018年3月期の水準(営業8億円)には届かない。ROEは2%前後で、資本コストの4分の1にとどまる。売却代金が配当の原資になる点は、強気の筋書きと同じだ。中国の工場の人員整理は予定どおり進み、特別損失は一時で済む。
- レッグウエア(ストッキング・タイツ・靴下):数量 2,652(販売足数(万足、推定))× 価格 423(1足あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 112 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率-1.0%
- インナーウエア(肌着・機能性・介護向け):数量 2,730(販売点数(万点、推定))× 価格 455(1点あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 124 億円・営業利益 4 億円。営業利益率3.5%
- 不動産(賃貸):数量 7.4(賃貸面積(万平方メートル))× 価格 0.64(1万平方メートルあたりの年間賃料(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 4 億円。営業利益率77%
- その他(介護・売電):数量 1.1(事業一式)× 価格 7.69(売上(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。営業利益率12%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 101 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:圧力で一部の資産が戻り、配当が復活する姿は現実味がある。経営の動きが遅いため、23%にとどめた。
中立 30% 中立:赤字は縮むが、資産の還元は遅い 利益 3 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 458 円73 億円
会社は赤字を縮めるが、資産を戻す動きは遅い。賃貸地の3割を売り、10年で12億円を還元する程度にとどまる。
レッグウエアは年3%のペースで縮み、10年で0.72倍。インナーは0.97倍でほぼ横ばい。価格は物価の4分の3の1.25倍しか上がらない。衣料の営業損失は、今の15億円から4億円ほどに減る。中国の人員整理、物流の集約、生産の海外移転で、ようやく赤字が縮む。
賃貸の利益は5億円で、全社の営業利益は2億円。受取配当と利息1.5億円を足し、純利益は3億円ほど。ROEは1%に満たない。減価償却と設備投資は、ともに今の6億円台が続く。
純現金と保有株の一部は、赤字の穴埋めで目減りする。それでも、売った土地の代金と合わせて、余った現金は73億円残る。
- レッグウエア(ストッキング・タイツ・靴下):数量 2,448(販売足数(万足、推定))× 価格 407(1足あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 100 億円・営業利益 −4 億円。営業利益率-3.5%
- インナーウエア(肌着・機能性・介護向け):数量 2,522(販売点数(万点、推定))× 価格 437(1点あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 110 億円・営業利益 2 億円。営業利益率1.5%
- 不動産(賃貸):数量 10.4(賃貸面積(万平方メートル))× 価格 0.61(1万平方メートルあたりの年間賃料(億円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 5 億円。営業利益率77%
- その他(介護・売電):数量 1.0(事業一式)× 価格 7.69(売上(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 1 億円。営業利益率12%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 0.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)55 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 73 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:赤字が縮み、資産の還元は遅いという姿が最も自然。構造改革は動き出したが、中計の取り下げが示す通り、見通しの確度は低い。
やや悲観 23% 黒字には戻らず、資産が目減りする 利益 2 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 317 円51 億円
赤字は縮むが、黒字には戻らない。賃貸地の1割を売るだけで、還元は3億円にとどまる。
レッグウエアは0.66倍まで縮み、価格は物価の半分ほどしか上がらない。インナーは0.90倍に減る。衣料の営業損失は3億円ほどのまま残り、賃貸の黒字6億円がそれを打ち消す。
全社の営業利益は1億円、純利益は2億円。ROEは1%に届かない。10年で赤字の累積は30億円に達し、純現金と保有株の多くが消える。配当は復活しない。
資産はあるが、使い方が変わらず、資本コストの分だけ価値が目減りする。保有株の配当と賃貸の黒字が、赤字をわずかに上回る程度で、株主の取り分は増えない。
- レッグウエア(ストッキング・タイツ・靴下):数量 2,244(販売足数(万足、推定))× 価格 384(1足あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 86 億円・営業利益 −3 億円。営業利益率-4.0%
- インナーウエア(肌着・機能性・介護向け):数量 2,340(販売点数(万点、推定))× 価格 413(1点あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 97 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.0%
- 不動産(賃貸):数量 12.6(賃貸面積(万平方メートル))× 価格 0.59(1万平方メートルあたりの年間賃料(億円、名目))→ 売上 7 億円・営業利益 6 億円。営業利益率75%
- その他(介護・売電):数量 0.9(事業一式)× 価格 7.07(売上(億円、名目))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。営業利益率10%
倍率:ROE1%未満でk8.5%を大きく下回る。PERは上限の約6割の7.49倍に置いた。余った現金は赤字の累積で減るとし、戻り方0.5を掛けた。
確率:黒字化の失敗はこの会社の履歴そのもので、7期連続の赤字を踏まえ、厚めの23%を置いた。
悲観 12% 赤字が続き、純現金も保有株も消える 利益 −7 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 168 円27 億円
赤字が止まらず、資産が削られる。レッグウエアは0.55倍、インナーは0.80倍まで縮み、価格は物価の3分の1ほどしか上がらない。衣料の営業損失は12億円に広がり、構造改革の費用もかさむ。
全社の営業利益は8億円の赤字、純損益は7億円の赤字。10年の累積赤字は100億円に達し、純現金と保有株はなくなる。穴を埋めるため、土地を売るか借金を増やす。
最後は、事業の縮小か売却に追い込まれる。税と手間を引いた土地の値段が、株主の最後の取り分となる。株主に戻るのは、その後に残った分だけだ。10年のあいだ、配当は一度も出ない。
- レッグウエア(ストッキング・タイツ・靴下):数量 1,870(販売足数(万足、推定))× 価格 358(1足あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 67 億円・営業利益 −7 億円。営業利益率-10.0%
- インナーウエア(肌着・機能性・介護向け):数量 2,080(販売点数(万点、推定))× 価格 385(1点あたりの平均売上(円、名目))→ 売上 80 億円・営業利益 −6 億円。営業利益率-7.0%
- 不動産(賃貸):数量 14.8(賃貸面積(万平方メートル))× 価格 0.54(1万平方メートルあたりの年間賃料(億円、名目))→ 売上 8 億円・営業利益 6 億円。営業利益率70%
- その他(介護・売電):数量 0.8(事業一式)× 価格 6.77(売上(億円、名目))→ 売上 5 億円・営業利益 0 億円。営業利益率5%
倍率:赤字なのでPBRで置く。稼ぐ力はなく、価値は売れる資産の税後。今の自己資本320億円に0.084を掛けて約27億円。床の資産の内訳は別欄に書いた。
確率:原材料の上昇と値下げ圧力が重なり、赤字が10年止まらない姿は、確率は高くないが深い。12%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
レッグウエア(ストッキング・タイツ・靴下)
自社ブランドとOEMで売るストッキング・タイツ・靴下。国内の需要が縮む主力。
| 数量販売足数(万足、推定) | 価格1足あたりの平均売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,400 | 325 | 111 | −9 |
| 10 年後 中立 | 2,448 | 407 | 100 | −4 |
取り方:有報のレッグウエア売上110.6億円を、販売足数を3,400万足と仮置きして割り、1足あたり325(円)とした(推定。足数は開示なし)。数量は、ストッキング市場の縮小と、しまむらなどOEMの値下げ圧力で、中立で10年0.72倍(年3%減)。価格は物価(1.34倍)の4分の3の1.25倍。理由は、売上の3割を占めるしまむらとの取引や、原材料の上昇を転嫁しきれなかった実績による。営業利益は、繊維全体の赤字15億円を、レッグ(下げ幅が大きい)9.0億円・インナー5.95億円と推定で按分した。競合はグンゼ、福助、岡本など。
インナーウエア(肌着・機能性・介護向け)
肌着、機能性インナー、介護・ヘルスケア向けの下着。ほぼ横ばいで、成長の期待はここにある。
| 数量販売点数(万点、推定) | 価格1点あたりの平均売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,600 | 350 | 91 | −6 |
| 10 年後 中立 | 2,522 | 437 | 110 | 2 |
取り方:有報のインナーウエア売上91.0億円を、販売点数を2,600万点と仮置きして割り、1点あたり350(円)とした(推定)。数量は中立で0.97倍。介護・ヘルスケア向けと、D2C(自社通販)の伸びが、国内の人口減を相殺する程度。価格は1.25倍(レッグと同じ理由)。営業利益はレッグと按分。競合はグンゼ、ワコール、ユニクロ。
不動産(賃貸)
厚木に持つ賃貸地(148千平方メートル)の賃料。利益率が高く、衣料の赤字を支える。
| 数量賃貸面積(万平方メートル) | 価格1万平方メートルあたりの年間賃料(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.8 | 0.47 | 7 | 5 |
| 10 年後 中立 | 10.4 | 0.61 | 6 | 5 |
取り方:有報の不動産売上6.97億円を、賃貸中の面積14.8万平方メートルで割り、1万平方メートルあたり0.471(億円)とした。営業利益は開示の5.38億円(利益率77%)。賃料は契約の更改で、物価の4割ほど上がるとして、中立で10年1.30倍。数量は、中立で3割の売却を置く(アセット・バリュー・インベスターズの圧力と、利回りが資本コストを下回るため)。
その他(介護・売電)
介護用品の販売、グループホームの運営、太陽光発電の売電。
| 数量事業一式 | 価格売上(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 6.15 | 6 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 7.69 | 8 | 1 |
取り方:有報のその他6.15億円。営業利益は0.75億円(利益率12%)。介護は需要が伸びる一方、売電は固定価格で伸びない。価格は中立で1.25倍。
リスクと懸念
衣料の赤字が続く
衣料は営業損失15億円で、7期連続の赤字。原材料と物流費の上昇を価格に転嫁できず、中計も取り下げた。赤字が10年続けば、純現金と保有株が消える。
ストッキング市場の縮小
レッグウエアは2026年3月期に5%減った。普段着の変化で市場が縮み続け、アツギの売上も10年で2割近く細っている。
客先の値下げ圧力
しまむらが売上の3割(61億円)を占める。OEMの値下げ要求が強く、価格を物価ほどには上げられない。
資産が株主に戻らない
無配が2021年3月期から続く。賃貸地の利回りは時価の約4%で、資本コストを下回る。資産を持ち続けるほど、価値が削られる。
保有株の価格変動
上場17銘柄の44億円のうち、東レが20億円、しまむらが11億円。株価が下がれば、資産の価値が目減りする。
中国の工場と為替
主力工場は中国の煙台。人件費の上昇と円安で、調達コストが増える。希望退職120人の費用(約2.1億円)も出る。
大株主の動き次第
28%の投資家が動けば資産が戻るが、動かなければ膠着する。保有を減らす場合は、株価の下押し要因にもなる。
今後の分かれ目
- 賃貸地や保有株の売却と、配当・自社株買いの復活が発表されたら
- 強気・やや強気の確率を上げ、余った現金の戻り方を見直す。
- 衣料の営業損益が黒字に転じたら
- 中立の利益を上げ、レッグ・インナーの利益率を見直す。
- 衣料の赤字が2期連続で拡大したら
- 慎重な見方の確率を上げ、純現金の目減りを前倒しで織り込む。
- アセット・バリュー・インベスターズがTOBや株主提案に踏み切ったら
- 買い取り価格が資産の税後の価値を上回るかを別に確かめる。
- しまむらなど主要取引先の取引が減ったら
- 数量を下方に見直し、売上の3割の変動を織り込む。
- 賃貸等不動産の時価が開示で大きく動いたら
- 床の資産と、売却時の税引後の価値を直す。
見ておくもの
- 衣料の営業損益と、レッグウエアの売上の減り方
- 賃貸地・保有株の売却と、配当・自社株買い
- アセット・バリュー・インベスターズの保有と提案
- 新しい中期経営計画の中身
- しまむらの売上比率
倍率と資本コストの決め方
売上は、レッグウエアを足数×1足あたり売上、インナーを点数×1点あたり売上、賃貸を面積×賃料で積んだ。足数と点数は仮置き(推定)で、価格は物価の4分の3を基本にした。倍率は式から決め、事業の純利益に掛けるPERの上限1÷kの約8割に置いた。余った現金(純現金と保有株の税引後)は別に足し、その配当・利息の分(1.4%)を純利益から引いて、二重に数えないようにした。戻り方は0.5とし、賃貸地は売る筋書きの強気側だけ現金に足した。今の株価は見ずに決め、最後に比べて割高と出た。新リース会計基準の影響は、借りているのが本社の土地(年1億円)だけで軽い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.3→11.76 倍・やや楽観 PER 9.8→11.76 倍・中立 PER 9.1→11.76 倍・やや悲観 PER 7→7.49 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+1.25%を足して8.75%。7期の赤字は、純現金と厚い自己資本があるため事業が傾いているとは見ず、上乗せ(extra)は置かない。赤字の続く姿は筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.50%。