結論
マツオカコーポレーションは、衣料品の縫製を請け負う会社だ。広島県福山市に本社を置き、バングラデシュ、ベトナム、中国、インドネシアの工場で、約2万1,000人が服を縫う。筆者の結論は、事業は伸びるが利益の質が低く、今の値段はそれを先に織り込みすぎている、である。
稼ぎ方は明快だ。ユニクロや東レグループなど少数の大口から注文を受け、枚数に応じて加工賃を得る。売上は742億円まで伸び、中期計画は2029年3月期に900億円を掲げる。
問題は利益の薄さだ。営業利益率は前期で2.9%。しかも純利益31億円の大半は、営業外の為替差益31億円に支えられた。本業の利益は22億円にすぎない。
ここで置いた前提が効く。ドル円は150円で動かない。為替差益は今後生まれない。その分を除いた本業の稼ぐ力で測ると、10年後の中立は営業利益率4%、純利益33億円になる。
財務は強く、純現金は50億円ある。ただ、現金の多くは海外工場に置かれ、年30億円の設備投資にも使う。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を3割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、マツオカは「実行力のある下請け」と見る。
事業の持続力は十分ある。衣料は誰もが毎日使い、縫製の需要が消えることはない。ただ、持続するのは需要であって、利益ではない。顧客に価格を決められ、人件費は上がり続ける。OEMの宿命だ。
オーナー利益で見ると、利益は薄い。年30億円の設備投資は、減価償却を大きく上回り、成長のための再投資が重い。純利益31億円のうち、為替差益31億円は繰り返せない。為替を除くと、株主の手元に残る利益はごく小さい。
経営は誠実だ。計画を保守的に置き、達成してから引き上げてきた。この姿勢は評価に値する。一方、海外工場の現金が増えても、株主にどう戻すかの道筋は示されていない。
安全域は小さい。中立の評価額は今の時価総額を少し上回るだけで、確率で重みを付けると下回る。好材料はすでに織り込まれ、割安ではない。ただ、純現金とバングラデシュ・ベトナムの生産基盤を持つ事業としては、割高でもない。
何で稼ぐ会社か
売上の8割強が縫製、1割強がラミネーションフィルムだ。
縫製事業(売上660億円)は、アパレルの発注を受けて服を縫う。生地は顧客の指定で調達することが多く、デザインや販売は顧客が担う。国内約50社、海外約20社を相手にし、最大の売り先は東レインターナショナル(売上の21%)と東レの香港法人(17%)、そしてユニクロ(16%)だ。有報は、ファーストリテイリング向けが直接で約3割、東レグループ経由が約4割と書く。
生産国別の売上は、中国241億円、バングラデシュ232億円、ベトナム203億円、インドネシア38億円、ミャンマー29億円。ベトナムでは新しい工場が年に1,000万枚を超える能力を持ち、バングラデシュも第2期工場が動いている。
ラミネーションフィルム事業(82億円)は、アウトドア衣料の防水透湿素材だ。DECATHLON、コロンビア、ルルレモンなど欧米のブランドが顧客で、前期はヒット商品の反動で減った。
従業員は連結で2万1,086人。2029年3月には2万4,000人規模を目指す。人が増えれば売上も増える、労働集約の事業である。
優良さと弱いところ
堀は、顧客と築いた信頼と、生産を任せられる規模にある。ユニクロのような大手は、品質と納期を守れる縫製先を長く使う。マツオカは多国に工場を持ち、関税や政情の変化に応じて生産地を動かせる。この点は評価できる。
ただ、堀が利益率に表れていない。営業利益率は過去12年で最高8.5%、直近は2.9%。2022年3月期と2023年3月期は0.4%と0.1%まで落ちた。OEMは顧客が価格を決め、工賃の上昇を価格に移すのに時間がかかる。
顧客の集中は重い。上位3社で売上の5割強を占め、1社の方針変更で受注が数割動く。東レグループ経由は、東レの繊維戦略にも左右される。
資本効率は中程度だ。ROEの過去10年の中央値は7.6%で、資本コストの8.5%にやや届かない。利益の質も低く、純利益が営業利益を上回る年が多い。為替差益が膨らませてきたからだ。
経営は中期計画を前倒しで達成している。前の計画では経常利益の目標を二度引き上げ、最終年度は計画比14.7%増になった。実行力は確かだが、為替の追い風を除いた実力はまだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
衣料の縫製受託は、人件費の安い国へ生産が移り続けてきた産業だ。かつての中国から、ベトナム、バングラデシュ、インドネシア、ミャンマーへと広がった。世界の衣料の消費は緩やかに伸び、枚数は年1〜2%の増加が普通だ。
追い風はバングラデシュにある。世界2位のアパレル輸出国で、LDC(後発開発途上国)の優遇で関税が低かった。ただし2026年11月にLDCを卒業し、優遇が段階的に外れる。米国の関税も不安定で、一時は高い水準になった。最低賃金は2023年に5割超引き上げられ、その後は据え置かれている。
競合は中国の大手ニット専業(申洲国際など)や、ベトナム・バングラデシュに広く展開する台湾・香港系の大手だ。規模と垂直統合(生地から縫製まで)で、価格競争が厳しい。日本の縫製会社は小粒で、マツオカは日系では大手の一つだ。
原料価格は直接は受けないが、顧客の需要を通じて響く。景気後退期や在庫調整で、発注は1年で1〜2割動くことがある。
10年の構造は、人件費上昇と価格転嫁の綱引きだ。賃金が年に数%上がり続ける中で、顧客がどこまで工賃に乗せるかが利益率を決める。
資本政策と M&A
還元は安定的だ。配当は連結配当性向30%を目安とし、前期は33.5%、3期連続で増配した。今期も増配を予想する。自己株式の取得は小さい。
投資は工場の増強と本社新社屋が中心だ。前期の設備投資は30億円で、本社新社屋(2025年11月に移転)と海外のライン増設に使った。中期計画「BEYOND2028」は、2028年度にROE9%(長期10%)を掲げる。
財務は、現金・預金が約199億円、借入とリースが約149億円で、差し引き50億円の純現金だ。ただ、この現金の多くは海外子会社にあり、日本の株主には自由に戻せない。
株主構成は、筆頭がマツオカカンパニー(約17%)、個人の松岡典之氏が約12%で、日本生命、倉敷紡績、神原汽船が約2%ずつ続く。身内の持分が3割近くあり、買収は成立しにくい。
政策保有株は小さい。株主優待は確認できなかった。M&Aは、近年は目立った案件がなく、工場の新設による成長が中心だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
計画を前倒しで達成する会社だ。前の中期計画では経常利益の目標を35億円から47億円へ二度引き上げ、実際は計画を15%上回った。今期の会社予想は営業利益が5割以上増える。この実行力は10年続く。
需要は構造的に増える。ユニクロは世界で店を増やし、生産を任せる縫製先を増やしている。マツオカはベトナムとバングラデシュで新工場が立ち上がり、年に数百万枚の能力が増える。中期計画は2029年3月期に売上900億円。人員も2万4,000人規模まで伸びる。ASEANへの生産シフトは今後も続くため、受け皿になる工場を持つ強みが生きる。
利益率も上がる余地が大きい。新工場の稼働が上がり、習熟した工員が増えれば、営業利益率は2.9%から5%台に戻る。かつて8%台を出した実績がある。為替差益に頼らなくても、本業の利益が5割増えれば、純利益は50億円に届く。
財務の余力がある。純現金50億円で、設備投資をまかなえる。配当は増え、10年で還元は大きく積み上がる。
慎重な見方
為替差益で見かけの利益が膨らんでいる。純利益31億円の大半は営業外の為替差益で、ドル円が動かなければ消える。本業の営業利益は22億円、利益率2.9%と、OEMとしても低い。
顧客に依存しすぎている。ユニクロと東レグループ経由で、上位3社が売上の5割強を占める。どれか1社が発注を減らせば、工場の稼働率が落ち、固定費の重さで赤字になる。2022年3月期と2023年3月期は営業利益が1〜2億円まで落ちた。
生産国のリスクが大きい。バングラデシュは2026年11月にLDCを卒業し、関税の優遇が外れる。政情の不安定さも変わらない。ミャンマーの売上は減った。人件費は年に1割近く上がる国もあり、価格転嫁が遅れれば利益が飛ぶ。
今期の第1四半期の営業利益は1.5億円と、通期予想の34億円に対してごくわずかだ。後半に積み上げる必要があり、計画が崩れる余地は大きい。顧客の再編や関税の変更が重なれば、数量の伸びを前提にした固定費が重荷になる。
どちらに重みを置いたか
中立を中心に、やや慎重な見方が勝つ。事業の拡大は確かだが、為替差益を除くと利益率は薄く、顧客と生産国の集中も重い。強気の見方の最も強い点は、計画を前倒しで達成してきた実行力と、新工場の立ち上がりだ。それは売上の伸びには効くが、利益率の恒久的な改善はまだ確認できない。確率は中立を中心に置き、やや悲観と悲観を合わせて4割弱とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,253 円342 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 892 円94 億円)。 今の値に割り戻すと 2,072 円218 億円、今との差 −11.4%、 期待の年率 +5.9%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,739 円708 億円 | 1,349 円142 億円 | +245.9% | +13.2% | 647 円68 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,965 円521 億円 | 1,116 円117 億円 | +160.1% | +10.0% | 1,216 円128 億円 |
| 中立 | 36% | 3,775 円396 億円 | 954 円100 億円 | +102.3% | +7.3% | 1,703 円179 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,104 円116 億円 | 734 円77 億円 | −21.4% | −2.4% | 441 円46 億円 |
| 悲観 | 12% | 810 円85 億円 | 340 円36 億円 | −50.8% | −6.9% | 138 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,253 円342 億円 | 892 円94 億円 | +77.3% | +5.9% | 4,145 円435 億円 |
今の株価時価総額 2,338 円245 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:新工場が満稼働し、本業の利益率が5%台後半に乗る 利益 58 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 6,739 円708 億円
ユニクロの店舗網の拡大と新規顧客で、縫製の数量は10年で4割増える。ベトナムとバングラデシュの新工場が満稼働し、習熟した工員が増えて営業利益率は5%台後半に乗る。過去12年の山(8.5%)は超えない。ラミネーションも欧米ブランドの採用が広がる。中計の2029年3月期の目標(売上900億円、経常利益60億円)が前倒しで届き、その後も伸びる。為替差益に頼らない本業の利益で、純利益は50億円台に乗る。還元も配当性向3割を保ちながら増える。この筋書きでは、顧客の集中は薄まり、バングラデシュの関税優遇が外れても、ベトナムとインドネシアで受注を取り戻せる。人件費の上昇は工賃に乗せられ、新しい工場の習熟も進む。
- 縫製事業(アパレルOEM):数量 8,404(生産枚数(万枚、推定))× 価格 1,518(1枚あたり加工を含む平均単価(円、推定。名目))→ 売上 1,276 億円・営業利益 83 億円。営業利益率6.5%
- ラミネーションフィルム事業:数量 658(販売面積(万㎡、推定))× 価格 2,070(1㎡あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 136 億円・営業利益 8 億円。営業利益率6.0%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.24 倍、時価総額 708 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新工場が立ち上がり、顧客が広がり、本業の利益率が戻る筋書き。かつて8%台を出した実績はあるが、為替差益の追い風を除くと確率は低め。
やや楽観 20% やや楽観:中計の売上900億円を延ばし、利益率が5%近くに 利益 43 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,965 円521 億円
縫製の数量が10年で27%増え、顧客数も広がる。新工場の稼働率が上がり、営業利益率は5%近くで安定する。山の水準に届かないが、前期の2.9%からは大きく改善する。ラミネーションは欧米ブランドの需要で1割余り増える。バングラデシュの関税はほぼ現状どおり、人件費の上昇は工賃に転嫁できる。ラミネーションも、欧米ブランドの採用が増えて回復する。配当は3割を保って増える。顧客の集中は残るが、新規顧客の獲得で一社への依存は少し下がる。ただ、人件費の上昇と為替の影響を除いた実力が、山の水準にまで戻るとは置かない。
- 縫製事業(アパレルOEM):数量 7,623(生産枚数(万枚、推定))× 価格 1,496(1枚あたり加工を含む平均単価(円、推定。名目))→ 売上 1,141 億円・営業利益 64 億円。営業利益率5.6%
- ラミネーションフィルム事業:数量 614(販売面積(万㎡、推定))× 価格 2,040(1㎡あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 125 億円・営業利益 6 億円。営業利益率5.0%
倍率:事業の純利益 43 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 521 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の売上900億円を実績の範囲で延ばし、利益率が改善する形。前の中計を前倒しで達成した実行力に裏づけがある。
中立 36% 中立:売上は伸びるが、利益率は4%にとどまる 利益 33 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,775 円396 億円
縫製の数量は10年で15%増え、価格は物価と賃金上昇を転嫁して1.34倍になる。売上は約1,130億円。営業利益率は4%と、過去12年の中央値と同じ水準にとどまる。賃金・原材料・本社費が同じペースで増えるため、規模が広がっても利益率はほとんど動かない。営業利益は46億円、純利益は33億円。為替差益は生まれない前提のため、純利益は営業利益の7割台になる。配当は3割を保つ。大口顧客との関係は続くが、顧客に価格を決められる受託の構造は変わらず、新工場の増強が売上の伸びに効く一方、利益率の改善にはつながりにくい。
- 縫製事業(アパレルOEM):数量 6,903(生産枚数(万枚、推定))× 価格 1,474(1枚あたり加工を含む平均単価(円、推定。名目))→ 売上 1,018 億円・営業利益 51 億円。営業利益率5.0%
- ラミネーションフィルム事業:数量 576(販売面積(万㎡、推定))× 価格 2,010(1㎡あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 116 億円・営業利益 5 億円。営業利益率4.0%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 396 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の数量と価格の見通し(ASEANへの生産シフト、賃金を転嫁した物価並みの価格)に沿う中心。
やや悲観 24% やや悲観:賃金と関税が重く、薄利が続く 利益 19 億円 · PER 6.2 倍 · 株価時価総額 1,104 円116 億円
主要顧客の発注が伸びず、縫製の数量は10年で横ばい。人件費の上昇に価格転嫁が追いつかず、営業利益率は2%台に落ちる。バングラデシュの関税優遇の終了で、受注の一部が他国に移る。ラミネーションは1割減る。純利益は19億円にとどまる。新工場への投資は回収が遅れ、減価償却が利益を圧迫する。配当は据え置きに近い。バングラデシュの人件費と関税の負担を価格に乗せきれず、中国の縫製は縮む。2022年3月期のような薄利の年が増える。顧客の再編や発注の集中で、工場の稼働率が安定せず、固定費の重さが利益率を押し下げる。
- 縫製事業(アパレルOEM):数量 6,003(生産枚数(万枚、推定))× 価格 1,430(1枚あたり加工を含む平均単価(円、推定。名目))→ 売上 858 億円・営業利益 33 億円。営業利益率3.8%
- ラミネーションフィルム事業:数量 493(販売面積(万㎡、推定))× 価格 1,950(1㎡あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 96 億円・営業利益 3 億円。営業利益率3.0%
倍率:ROE3.4%、RONIC5.9%、g4%で正当化PERは7.2倍。その約85%の6.1倍。薄利の構造が続き、伸びても価値が増えない。
確率:人件費と関税の逆風で利益率が低迷する形。2022年3月期と2023年3月期に営業利益が1〜2億円まで落ちた実績があり、厚めに置く。
悲観 12% 悲観:主要顧客の発注が減り、稼働率の低下で赤字に 利益 −4 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 810 円85 億円
ユニクロまたは東レ経由の発注が構造的に減り、縫製の数量は10年で25%減る。バングラデシュの政情悪化と関税で、受注がさらに他国へ流れる。工場の稼働率が下がり、固定費の重さで営業赤字になる。本社の新社屋や増強した工場の減価償却が、売上の減少のもとでも残る。ラミネーションも4割減る。工場の減損も出て、配当は大きく減らす。投資が回収できず、ミャンマーのような撤退も増える。残る事業は小さく、2022年3月期のような薄利が常態になる。純現金は海外に滞留し、株主に届かない。事業は縮小に向かい、残るのは小さな縫製会社と海外の現金だけになる。
- 縫製事業(アパレルOEM):数量 4,502(生産枚数(万枚、推定))× 価格 1,265(1枚あたり加工を含む平均単価(円、推定。名目))→ 売上 570 億円・営業利益 6 億円。営業利益率1.0%
- ラミネーションフィルム事業:数量 329(販売面積(万㎡、推定))× 価格 1,725(1㎡あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 57 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率-2.0%
倍率:営業赤字で稼ぐ力は測れない。床は純現金の戻り分と運転資本の売却額で測り、今の自己資本399億円に対するPBR0.21倍(時価総額85億円)に置いた。
確率:顧客の集中と生産国のリスクが現実になる複合の筋書き。ドル円の前提が固定でも起こりうるため、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
縫製事業(アパレルOEM)
ユニクロ・東レグループなどの発注で服を縫う受託生産。バングラデシュ・ベトナム・中国・インドネシア・ミャンマーの工場。売上の約89%。
| 数量生産枚数(万枚、推定) | 価格1枚あたり加工を含む平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,003 | 1,100 | 660 | 26 |
| 10 年後 中立 | 6,903 | 1,474 | 1,018 | 51 |
取り方:縫製事業の売上660.3億円を、1枚あたり平均千百円前後の服が年6,000万枚つくられたと置いて分けた(推定。ユニクロ向けなどの肌着・ニットから防寒着まで)。数量は、ベトナム・バングラデシュの新工場の増強と顧客の拡大で、中立は10年で1.15倍。価格は物価と賃金の上昇を転嫁し、10年1.34倍。市場の大きさ:世界の衣料の受託縫製は、中国、ベトナム、バングラデシュが主な生産地で、大手は申洲国際など。市場の規模は検索で取れず推定しない。営業利益は連結22億円を、縫製26億円・ラミネーション3億円・本社費−7億円に分けた(推定。セグメント利益は為替を含む基準で営業利益と一致しない)。
ラミネーションフィルム事業
アウトドア衣料向けの防水透湿素材。DECATHLON・コロンビア・ルルレモンなどが顧客。売上の約11%。
| 数量販売面積(万㎡、推定) | 価格1㎡あたり平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 548 | 1,500 | 82 | 3 |
| 10 年後 中立 | 576 | 2,010 | 116 | 5 |
取り方:ラミネーションフィルム事業の売上82.2億円を、1㎡あたり平均千五百円前後の素材が年550万㎡売れたと置いて分けた(推定)。数量は、欧米アウトドアブランドの需要で中立は10年で1.05倍。前期はヒット商品の反動で減った。価格は物価並み。顧客はDECATHLON、コロンビア、ルルレモン。
リスクと懸念
為替差益の消失
前期の純利益31億円の大半は営業外の為替差益31億円。ドル円が動かなければ消える。営業利益は22億円(利益率2.9%)と低く、為替を除いた稼ぐ力はまだ弱い。
顧客の集中
東レグループ経由が約4割、ユニクロ直接が約3割(有報)。上位3社で売上の5割強。1社の発注が減れば、工場の稼働率が下がって固定費が重くなる。
生産国のリスク
バングラデシュは2026年11月にLDCを卒業し、関税の優遇が外れる。政情の不安定さに加え、最低賃金は2023年に5割超引き上げられた。ミャンマーは売上が減っている。米国の関税政策も読みにくい。
人件費の上昇と転嫁の遅れ
賃金は年に数%〜1割近く上がる。顧客が工賃に乗せるまでに時間がかかり、遅れた年は利益率が1%を割る。2022年3月期と2023年3月期は営業利益が1〜2億円まで落ちた。
海外現金の自由度
純現金50億円の大半は海外子会社にあり、日本に戻すには制約と税がかかる。株主への還元に自由に使える現金は、見かけより小さい。
計画達成の確度
今期の営業利益予想34億円に対し、第1四半期は1.5億円。後半に積み上げる計画で、遅れれば成長への期待が剥がれる。
今後の分かれ目
- 為替差益を除いた営業利益率が5%近くで2年続いたら
- やや楽観・楽観に確率を移し、価値は今より上がる。
- 最大顧客(ユニクロまたは東レ経由)の発注が2割以上減ったら
- やや悲観・悲観に確率を移す。稼働率の低下による赤字を織り込む。
- バングラデシュの関税や政情が悪化し、受注を他国へ移す動きが出たら
- バングラデシュの売上前提を下げ、ベトナム・インドネシアの比重を見直す。
- 自己株式の取得や配当性向の引き上げが決まったら
- 海外現金の使い道が見えるので、余った現金の扱いを見直す。
- 中計の2029年3月期の売上900億円・経常60億円が前倒しで見えたら
- 数量前提を上方修正する。
見ておくもの
- 為替差益を除いた営業利益率(今期予想4.3%の達成)
- ユニクロ・東レ経由の売上比率
- バングラデシュ・ベトナムの新工場の稼働率
- LDC卒業後の関税と人件費
- 配当性向・自己株式取得の発表
倍率と資本コストの決め方
縫製は枚数×1枚あたりの単価、ラミネーションは面積×単価で積み、価格は物価並みに上げた(ともに推定)。為替の前提は150円固定で、過去に純利益を膨らませた為替差益は10年先に置かない。中立の営業利益率は4.0%で、過去12年の中央値と同じ。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の9割で、ROEがkより低いので1÷kが上限になる。今の株価(PER約8倍・PBR約0.6倍)は、為替差益の乗った利益で割った見かけの倍率で、寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.24 倍・やや楽観 PER 9.5→12.12 倍・中立 PER 8.5→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決める。事業が傾いてはいないので上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.25%。