結論
オーミケンシは、かつてレーヨンで名を売った紡績会社の後身だ。今の稼ぎ頭は繊維ではなく、加古川の工場跡地などを貸して得る賃料である。筆者の結論ははっきり割高だ。賃料の利益は本社の費用と借金の利息でほぼ消え、普通株に残る利益は 10 年先も細い。
会社の土台は約 126 億円の土地と、それに見合う約 79 億円の借金だ。賃料は安定しているが、金利が 3% 台へ上がれば利息は今の 2.1 億円から 3 億円近くに増える。繊維は赤字が続き、食品からは 2026 年 3 月に撤退した。
もう一つの重しは、10 億円の A 種優先株である。会社の純資産 14 億円のうち 10 億円はこの優先株の分で、普通株の取り分は 4 億円ほどしかない。今の時価総額はその 2 倍半にあたる。土地の値上がりや新しいセルロース繊維の成功に賭ける値段で、事業の稼ぐ力からは説明できない。筆者は、普通株は資産の列のいちばん後ろに並んでいると見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、オーミケンシは「持ち主の分が薄い資産の箱」だ。土地は本物で、賃料も入る。だが、その賃料はまず銀行の利息に、次に本社の費用に回る。普通株の株主の手元に届く利益は、ほとんど残らない。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える現金で見ると、この 10 年はほぼマイナスだった。事業をたたむたびに損を出し、土地を売って借金を返してきた。資本の配分がうまかったとは言えない。新しいセルロース繊維は夢があるが、国の助成で実証している段階で、利益の見通しは立たない。
安全域、つまり払う値段と本質価値の差も無い。普通株の純資産は 4 億円ほどで、今の時価総額はその 2 倍半だ。土地の時価が帳簿を大きく上回っていれば話は別だが、賃料から逆算すると、時価は帳簿の近くにとどまる。さらに優先株が普通株より先に 10 億円を取る。資産の値打ちに賭けるとしても、普通株はその列のいちばん後ろに並んでいる。
何で稼ぐ会社か
事業は三つに分かれる。いちばん大事なのは不動産だ。兵庫県加古川市の工場跡地を中心に、長野県飯田市や岐阜県の中津川・大垣にも土地を持ち、貸して賃料を得る。売上は 10 億円強だが、利益は 6.6 億円あり、会社の稼ぎのほぼすべてを生む。
二つ目は繊維で、売上は 14 億円ある。2024 年にレーヨンの製造から手を引き、今はレーヨン綿や糸、生地を仕入れて加工し売る。肌着や化粧品向けに機能を練り込んだレーヨンを共同開発し、上海の子会社が中国でも売る。ただ、この部門は毎年 1 億円を超える赤字だ。
三つ目は芽の段階の新事業である。国の助成を受けて、タイヤの補強材に使うセルロース繊維の実証設備を置き、海で分解されるセルロースナノファイバーの複合材も開発している。成功すれば繊維の赤字を埋める柱になりうるが、今はまだ売上にならない。
このほかソフト開発や電子機器の販売が売上 3 億円ほどある。食品の子会社の宇美フーズは 2026 年 3 月で製造を終え、撤退の費用 3.6 億円が前期の大きな赤字の原因になった。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、土地という一点にしかない。加古川の跡地は広く、貸している限り賃料は安定して入る。しかし、それは土地の強みであって、経営の腕の強みではない。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値はマイナス 13% で、赤字の年が 6 回ある。この間、ブラジルの子会社の清算、レーヨン製造からの撤退、食品からの撤退と、損を出しながら事業をたたんできた。売上は 10 年で 140 億円から 29 億円に縮んだ。
財務はもろい。自己資本比率は 9.5% で、借金は純資産の約 5 倍ある。前期は長期の借入金を返し、同じ額を短期で借り直した。銀行との関係は保たれ、担保に出せる土地もあると会社は言うが、借り換えのたびに金利と条件は銀行が決める。
本社の費用は年 4.6 億円と、会社の規模に比べて重い。賃料の利益の 7 割を本社が食う形で、ここを削れるかが利益の分かれ目になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本の繊維、とくにレーヨンのような汎用の素材は、長く縮む業界だ。安い衣料は中国や東南アジアで作られ、国内の生産は細る一方である。レーヨンの原料のパルプや薬品、燃料は値上がりが続き、汎用品では値上げを通しにくい。オーミケンシが製造から手を引いたのも、この構造の結果だ。
伸びる余地は、環境に優しい素材の需要にある。石油由来の繊維やプラスチックを、木から作るセルロースに置き換える動きは欧州を中心に強まっている。タイヤの補強材は今はポリエステルやナイロンが主で、セルロースの再生繊維は一部にとどまる。置き換えが進めば市場は大きいが、旭化成や東レ、海外の大手も同じ方向を狙う。小さな会社が量産と販路で勝てるかは、まだ分からない。
不動産の側は、地方の工場跡地の賃貸である。加古川は神戸・姫路への通勤圏で、商業や物流の土地として需要はある。賃料は長い契約で決まり、物価ほどには上がりにくい。人口が減る地方の飯田・中津川では、遊休の土地を貸し出すのも簡単ではない。
10 年の中立では、賃料は物価の 7 割ほどの速さで上がり、繊維は量が細って小さな赤字を続けると見る。
資本政策と M&A
株主への還元は止まっている。普通株も優先株も無配で、会社は不動産の収益で財務を立て直し、早く配当を戻すと言う。ただ、自己資本比率が 1 割を切る今、配当より借金の圧縮が先だ。
資本の形は込み入っている。2004 年に第三者割当で出した A 種優先株は、払込の総額が 10 億円ある。会社が清算されれば、この 10 億円が普通株より先に返る。普通株に転換されれば、株数は 2 割近く増える。普通株の株主から見ると、上にも下にも重しがある。
筆頭株主は大阪の東洋商事で、議決権の約 3 割を持つ。個人の大株主も並び、オーナー色の濃い株主構成だ。過去には土地の売却で借金を返した年もあり、2025 年 3 月期は資産の売却で 30 億円近い現金を得て借金を減らした。
買収の話は出ていない。ただ、土地の値打ちに比べて時価総額は小さく、不動産会社や投資家が土地目当てに買いに来る可能性はゼロではない。筆者はこの上振れを筋書きに入れていない。株主優待は無い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
撤退はほぼ終わった。2024 年にレーヨンの製造とブラジルの子会社、2026 年に食品から手を引き、赤字の源はかなり消えた。会社は 2027 年 3 月期に営業利益 2.8 億円、純利益 2.1 億円を見込む。重荷だった撤退の費用の支払いも減り、これからは賃料という安定した収益が素直に利益として残る。
土地の値打ちは小さくない。加古川の跡地は神戸・姫路の通勤圏にあり、商業施設や物流倉庫の土地として引き合いがある。帳簿 126 億円の土地の一部を売るだけで、借金を大きく減らせる。2025 年 3 月期には実際に資産を売って 30 億円近い現金を得ており、この手を再び使える。
新事業にも芽がある。タイヤの補強材を石油由来からセルロースに置き換える動きは、欧州の環境規制で強まる。国の助成で実証設備まで進んでおり、量産にこぎつければ、繊維の赤字は利益に変わる。今の時価総額は 11 億円で、土地と新事業の両方の上振れに比べれば小さい。
慎重な見方
賃料の利益は、普通株主に届く前に消える。不動産の利益 6.6 億円から本社の費用 4.6 億円を引けば 2 億円しか残らず、利息 2.1 億円でゼロになる。金利が 3.5% に上がれば利息は 2.8 億円に増え、黒字は赤字に変わる。会社の予想の純利益 2.1 億円も、資産の売却などの特別な益に頼る形だ。
借金の形も危うい。前期は長期の借入金を返し、同じ額を短期で借り直した。自己資本比率は 9.5% で、有報には営業の現金の流出が続くという重要事象まで書かれた。銀行が条件を厳しくすれば、土地を安く売らされる。
普通株の取り分も薄い。純資産 14 億円のうち 10 億円は優先株の分で、清算になれば優先株が先に取る。セルロースの新事業は、旭化成や東レ、海外の大手と同じ土俵での勝負で、助成金で実証する段階から量産までの距離は長い。10 年で 140 億円から 29 億円に縮んだ会社に、成長の物語を期待する理由は乏しい。
2026 年 3 月には不正アクセスで基幹システムが止まり、決算も有報も遅れた。管理の体制にも不安が残る。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が明らかに強い。土地の値打ちと新事業の芽は本物だが、どちらも普通株主の取り分を厚くする道筋が見えない。賃料の利益は本社の費用と利息でほぼ消え、金利が上がるほど消える。優先株が先に 10 億円を取る資本の形も変わらない。確率は中立とやや悲観を厚くし、楽観は土地の売却と新事業がそろう狭い道として小さく置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 69 円5 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 4 円0 億円)。 今の値に割り戻すと 28 円2 億円、今との差 −83.9%、 期待の年率 −8.4%(資本コスト 10.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 294 円19 億円 | 38 円2 億円 | +88.7% | +6.6% | 23 円2 億円 |
| やや楽観 | 18% | 98 円6 億円 | 6 円0 億円 | −40.7% | −5.1% | 19 円1 億円 |
| 中立 | 40% | 61 円4 億円 | 0 円0 億円 | −65.5% | −10.1% | 24 円2 億円 |
| やや悲観 | 22% | 27 円2 億円 | 0 円0 億円 | −84.6% | −17.1% | 6 円0 億円 |
| 悲観 | 13% | 5 円0 億円 | 0 円0 億円 | −96.9% | −29.4% | 1 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 69 円5 億円 | 4 円0 億円 | −58.5% | −8.4% | 73 円5 億円 |
今の株価時価総額 176 円12 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 10.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 土地を一部売り、新素材が育つ 利益 2 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 294 円19 億円
加古川の跡地の一部を物流会社に売り、借金を 55 億円まで減らす。利息の重さが和らぎ、賃料の利益が株主の側に残り始める。残った土地の賃料は物価の 8 割ほどの速さで上がる。
タイヤ補強材用のセルロース繊維が国内のタイヤ会社に採用され、量産に移る。繊維の販売量は 1.5 倍に増え、汎用品の赤字は高付加価値品の黒字で埋まる。本社の費用も削り、会社は 10 年目に配当を戻す。
それでも優先株の重しは残る。会社の価値が上がるほど優先株は普通株への転換を選び、普通株の取り分は 8 割強に薄まる。土地の時価が帳簿を上回る分も、売るまでは利益にならない。
- 不動産(工場跡地の賃貸):数量 110(賃貸に使う土地・建物(帳簿の額・億円、実質))× 価格 0.11(帳簿 1 億円あたりの年間の賃料収入(億円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 8 億円。帳簿 110 億円 × 利回り 10.8%(今の 1.30 倍)、利益率 64%
- 繊維(レーヨン綿・糸・生地、セルロースの新素材):数量 2,200(繊維製品の販売量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 29 億円・営業利益 2 億円。2,200 トン × 1 トン 134 万円、利益率 6%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 10.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 9.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.8 倍。全体の PER 9.77 倍、時価総額 23 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:土地の売却で借金を減らし、セルロースの新素材も量産に乗る筋書き。撤退を重ねてきた会社で両方がそろう確率は低い。
やや楽観 18% 撤退が終わり、細く黒字に戻る 利益 1 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 98 円6 億円
撤退の費用の支払いが終わり、会社は賃料を土台に細く黒字を保つ。遊休の土地の一部を売って借金を 65 億円に減らし、利息の増加をおさえる。
繊維はセルロースの新素材が一部で採用され、販売量は今を少し上回る。赤字は止まるが、大きな利益は生まない。本社の費用は物価並みには増えず、少しずつ削られる。
純利益は 1 億円弱にとどまり、ROE は資本コストに届かない。配当はわずかに戻るが、普通株主に渡る現金は小さい。土地の値打ちは帳簿の近くで、大きな含み益は表に出ない。筆頭株主の東洋商事が経営を支え、買収や再編の話は出ないまま 10 年が過ぎる。
- 不動産(工場跡地の賃貸):数量 120(賃貸に使う土地・建物(帳簿の額・億円、実質))× 価格 0.10(帳簿 1 億円あたりの年間の賃料収入(億円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 8 億円。帳簿 120 億円 × 利回り 10.4%、利益率 63%
- 繊維(レーヨン綿・糸・生地、セルロースの新素材):数量 1,500(繊維製品の販売量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。1,500 トン × 1 トン 134 万円、利益率 2%
倍率:事業の純利益 1 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.5% が k 10.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 9.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.8 倍。全体の PER 9.76 倍、時価総額 8 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の 2027 年 3 月期の計画に近い形で黒字が戻る筋書き。撤退の費用の支払いが減るのは確かで、相応の確率を置いた。
中立 40% 賃料が利息と本社費に消える 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 61 円4 億円
加古川の賃料は契約の更新のたびに少しずつ上がるが、物価には届かない。土地はほとんど売らず、借金は 79 億円前後のまま残る。借り換えのたびに金利は 3.5% 前後へ上がり、利息は 2.8 億円に増える。
繊維は量が細り、小さな赤字を続ける。セルロースの新素材は実証の域を出ない。本社の費用は物価で膨らみ、賃料の利益の大半を食う。
結果として、営業利益は 2 億円ほど出るが、利息を払うと純利益はわずかな赤字になる。無配が続き、純資産は少しずつ減る。会社はつぶれないが、普通株主に何かが戻る見込みも薄い。
- 不動産(工場跡地の賃貸):数量 126(賃貸に使う土地・建物(帳簿の額・億円、実質))× 価格 0.10(帳簿 1 億円あたりの年間の賃料収入(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 8 億円。帳簿 126 億円 × 利回り 10.0%、利益率 62%
- 繊維(レーヨン綿・糸・生地、セルロースの新素材):数量 1,100(繊維製品の販売量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 0 億円。1,100 トン × 1 トン 134 万円、利益率 −1%
倍率:純利益がわずかな赤字なので PBR で、その時点の自己資本に掛けた。EV(時価総額+純負債 約 70 億円)÷営業利益は 30 倍を超えるが、利払い後の利益がほぼゼロなので利益の倍率は使わない。稼ぐ力はほぼゼロで ROE は k を大きく下回るが、土地は帳簿の近くで売れる資産なので、清算されない限り少数株主には戻らないことを見て 0.4 倍に置いた。
確率:賃料は入るが、金利の上昇で利息が増え、利益がほぼ残らない筋書き。今の利益の構造をそのまま延ばした形で、いちばん起こりやすいと見た。
やや悲観 22% 賃料が細り、借金が重くなる 利益 −2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 27 円2 億円
加古川の借り手が契約の見直しで賃料の値下げを求め、賃料は物価に置いていかれる。飯田や中津川の遊休地は借り手がつかない。
繊維は汎用品の値下がりと原料高に挟まれ、赤字が広がる。セルロースの新素材は大手に先を越される。金利の上昇で利息は 3 億円近くに増え、毎年 2 億円を超える赤字が出る。
純資産は 10 年でほぼ底をつき、銀行は担保の土地の売却を求める。土地は急いで売るほど安くなる。優先株が先に 10 億円を取る形なので、普通株の取り分は 0.83 よりさらに細る。セルロースの新素材も資金が続かず、開発が止まる。
- 不動産(工場跡地の賃貸):数量 126(賃貸に使う土地・建物(帳簿の額・億円、実質))× 価格 0.09(帳簿 1 億円あたりの年間の賃料収入(億円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 6 億円。帳簿 126 億円 × 利回り 8.7%、利益率 58%
- 繊維(レーヨン綿・糸・生地、セルロースの新素材):数量 800(繊維製品の販売量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 −1 億円。800 トン × 1 トン 134 万円、利益率 −5%
倍率:赤字なので PBR で、今の自己資本 14.3 億円に掛けた。EV÷営業利益は営業利益が細く 200 倍を超え、意味を持たない。純資産が赤字で細り、優先株が先に取るので、土地の値打ちが普通株主に届く分は小さいと見て 0.15 倍に置いた。
確率:賃料の値下げや遊休地の空きが続き、赤字が積もる筋書き。赤字の年が多い過去と、自己資本比率 1 割の薄さから、楽観側より厚く置いた。
悲観 13% 担保の土地を安く手放す 利益 −4 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 5 円0 億円
加古川の大口の借り手が撤退し、賃料の収入が大きく落ちる。新しい借り手はすぐに見つからず、利息だけが残る。銀行は短期の借入の借り換えに厳しい条件をつけ、会社は土地を帳簿より安く売って借金を返す。
売却の損で純資産は消え、優先株の 10 億円も満額は戻らない。繊維は縮小を続け、本社だけが重く残る。普通株の価値は、土地の売却の後に何が残るかという一点にかかるが、優先株と銀行が先に並ぶので、ほとんど残らない。上場を保つための増資で、株数が大きく増えることもありうる。賃料という安定した収益の上に重い借金を載せた形が、最後に裏目に出る負け方だ。
- 不動産(工場跡地の賃貸):数量 90.0(賃貸に使う土地・建物(帳簿の額・億円、実質))× 価格 0.08(帳簿 1 億円あたりの年間の賃料収入(億円・名目))→ 売上 7 億円・営業利益 3 億円。帳簿 90 億円 × 利回り 7.9%、利益率 40%
- 繊維(レーヨン綿・糸・生地、セルロースの新素材):数量 600(繊維製品の販売量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 −1 億円。600 トン × 1 トン 134 万円、利益率 −8%
倍率:赤字なので PBR で、今の自己資本に掛けた。土地を安く売り純資産が消え、優先株と銀行が先に取るので、普通株に残るのはわずかと見て 0.03 倍に置いた。
確率:借り手の撤退か銀行の締め付けで、土地を安く売らされる筋書き。短期の借入が大半を占める今の形では無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
不動産(工場跡地の賃貸)
加古川の工場跡地を中心に土地・建物を貸して賃料を得る。利益の大半。
| 数量賃貸に使う土地・建物(帳簿の額・億円、実質) | 価格帳簿 1 億円あたりの年間の賃料収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 126 | 0.08 | 10 | 7 |
| 10 年後 中立 | 126 | 0.10 | 13 | 8 |
取り方:土地 125.8 億円(短信の BS)を賃貸資産の量とし、不動産の売上 10.47 億円を割った。遊休の土地も含むので利回りは控えめに出る。土地を売れば数量が減る。
繊維(レーヨン綿・糸・生地、セルロースの新素材)
レーヨン綿・紡績糸・編織物の加工販売と、タイヤ補強材用セルロース繊維などの開発。
| 数量繊維製品の販売量(トン、推定) | 価格1 トンあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,400 | 0.01 | 14 | −1 |
| 10 年後 中立 | 1,100 | 0.01 | 15 | 0 |
取り方:販売量は開示されていない。レーヨン綿・糸・生地の平均を 1 kg 千円前後と見て、売上 14.02 億円から約 1,400 トンと推定した。物価と品の高付加価値化は 1 トンあたりの売上に入れる。
リスクと懸念
借金の借り換えと金利
借入金の大半が短期で、毎年の借り換えで金利と条件を銀行が決める。金利が 3.5% に上がれば利息は 3 億円近くに増え、賃料の利益の多くを食う。銀行が条件を厳しくすれば、土地を安く売らされる。
賃料の一点への依存
利益のほぼすべてが加古川の跡地などの賃料から生まれる。大口の借り手の撤退や賃料の値下げがあれば、会社の利益は一気に消える。人口の減る地方の遊休地は貸すのも難しい。
優先株の重し
払込 10 億円の A 種優先株は、清算時に普通株より先に返り、転換すれば普通株を 2 割近く薄める。普通株の純資産は 4 億円ほどしかなく、会社の価値の変化は普通株に増幅されて響く。
繊維の赤字と新素材の不確かさ
汎用のレーヨン製品は値段を市場に決められ、赤字が続く。タイヤ補強材のセルロース繊維は国の助成で実証の段階で、旭化成・東レや海外大手との競争で量産にこぎつけられるかは分からない。
管理の体制
2026 年 3 月に不正アクセスで基幹システムが止まり、決算と有報の提出が遅れた。撤退の損を重ねてきた経緯もあり、小さな会社の管理の体制に不安が残る。
今後の分かれ目
- 土地の一部を帳簿を上回る値段で売り、借金を大きく減らしたら
- 利息の重さが和らぐので、やや楽観に重みを移す。売った値段から残りの土地の時価も見直す。
- 2027 年 3 月期に会社の計画どおり純利益 2 億円前後が出たら
- 特別な益を除いた素の利益を確かめ、素で黒字ならやや楽観の確率を上げる。
- 借り換えの金利が 3% を超え、利息が 2.5 億円を上回ったら
- 中立の赤字が深まるので、やや悲観に寄せる。
- タイヤ会社がセルロース繊維の量産での採用を決めたら
- 繊維の利益率と数量を上げ、楽観の確率を上げる。
- 優先株の転換や買い取りが決まったら
- 普通株の取り分(0.83)を条件に合わせて直す。
見ておくもの
- 借入金の残高と借り換えの金利
- 不動産の売上と利益(賃料の動き)
- 繊維の赤字の幅とセルロース新素材の採用
- 土地の売却の有無と値段
- 優先株の扱いと配当の再開
倍率と資本コストの決め方
k は 10.25%(基本 7.5%+quality 1.75%+distress 0.5%)。中立は利払い後でわずかな赤字になるので、PER でなく自己資本に 0.4 倍の PBR を掛けた。根拠は市場の値付けでなく、土地が帳簿の近くで売れる資産であることと、少数株主が清算を決められないこと。今の普通株の PBR(優先株を除く純資産の 2.5 倍)には寄せていない。holder_share 0.83 は優先株の転換の分で、清算の優先は悲観の PBR に入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.36→9.77 倍・やや楽観 PER 8.21→9.76 倍)。
資本コスト 10.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 0.5%。