結論
トーア紡コーポレーションは、四日市を地盤とする毛織物の老舗だ。今は毛糸や制服の生地、自動車の内装材の原料、商業施設の賃貸、医薬品や電子部品までを手がける。筆者の結論は割高だ。今の値段は自己資本の3割ほどで安く見えるが、その自己資本は2%台しか稼がず、しかも借入が116億円と重いからである。
利益の柱は不動産だ。ショッピングセンターなどの賃料が、営業利益の大半を生む。繊維の本業は、羊毛の値上がりと制服の在庫調整に揺れ、利益率は数%にとどまる。車の内装材は値上げが通り始めたが、取引先の力が強い。
この先の10年で効くのは金利だ。これまで1%ほどだった借入の金利は、借り換えのたびに3%台へ上がる。営業利益が中期計画どおり伸びても、増えた分の多くは銀行に払う利息に消える。帳簿の値段より安いことは、ここでは安全域にならない。安いのは、帳簿の中身が株主のためにほとんど稼いでいないからだ。資本の整理は始まったが、借金の重さを変えるにはまだ遠い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、帳簿より安い株は、その帳簿が稼ぐ時だけ掘り出し物になる。トーア紡の自己資本は、過去10年で2%台しか稼いでいない。
オーナー利益、つまり設備を保つ投資を済ませたあとに株主に残る利益は、ならせば年3〜4億円だ。しかも、そのうちの不動産の賃料は、古くなる建物の修繕に毎年お金を食う。会計上の減価償却は昔の値段のままだが、建て替えや改修の費用は建築費とともに上がる。利益は見かけより細い。
借金の重さも気になる。金利が上がる世界では、借入の多い会社の株主は、銀行の後ろに並ぶことになる。営業利益が伸びても、その多くが利息に回る。
経営は資本の整理を始めた。中国の子会社の売却と、政策保有株の縮減は正しい方向だ。その現金で借入を返し、事業を絞れば、評価は変わりうる。今の時点では、払う値段に見合う稼ぎが見えない。筆者は、資産の厚さより、資産が生む利益の薄さを重く見る。
何で稼ぐ会社か
事業は六つに分かれるが、稼ぎの中身は単純だ。営業利益の大半を、売上の5%しかない不動産が生む。残りの繊維や化学は、売上は大きいが利益は薄い。
いちばん売上が大きいのはインテリア産業資材で、全体の4割を占める。自動車の床に敷くカーペットの原料となるポリプロピレンの綿や、防草シートなどの不織布を作る。最大の取引先は自動車内装材の林テレンプで、売上の13%を占める。2025年12月期に中国の内装材の子会社を売った。
二つ目は衣料で、売上の3割強だ。毛糸、学校や官公庁の制服の生地、紳士服の生地を作る。羊毛の相場と、制服を作るメーカーの在庫に左右される。
三つ目が不動産で、四日市などのショッピングセンター、ビジネスホテル、本社の隣のビルを貸す。売上は9億円ほどだが、利益率は6割近い。ほかに電動工具の制御基板などのエレクトロニクス、半導体向けの材料と医薬品原料のファインケミカル、子会社のムサシノ製薬、自動車教習所、洋菓子店がある。
従業員は連結で414人だ。多角化は、縮む繊維の穴を埋めるために重ねてきた結果で、どの事業も規模は小さい。全社の営業利益は6億円弱で、借入の利息が上がれば余裕はほとんどない。
優良さと弱いところ
筆者の見立てでは、この会社に堀、つまり他社がまねできない強みと呼べるものは、不動産の立地くらいしかない。繊維も化学も、規模が小さく、値段を決める力が弱い。
衣料は羊毛の相場をそのまま受ける。相場が上がれば受注が止まり、制服のメーカーが在庫を絞れば生地は売れない。車の内装材の原料は、内装材の大手と自動車メーカーの値決めに従う立場だ。原料や電気代の値上げは、いつも半年から一年遅れて通る。
資本の効率は低い。自己資本の稼ぎは過去10年の中央値で2.3%で、資本コストの4分の1ほどだ。しかも借入は116億円と自己資本の8割を超え、減価償却前の利益の10倍に近い。政策保有株を27銘柄も持ってきたことも、資本を眠らせてきた。
評価できるのは、最近の動きだ。中国の子会社を売り、政策保有株を毎年減らし、上期には小さいながら自社株も買った。資本の整理は始まっているが、借金の重さを変えるほどの規模ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
トーア紡のいる市場は、どれも数量が伸びにくい。繊維製品の業界全体では、東レや帝人のような素材の大手が海外の需要を取り込む一方、国内の紡績や毛織物は人口の減少と海外製品との値段の競争で縮み続けている。
毛織物は特に厳しい。国内の衣料の需要は細り、スーツを着る人は減った。羊毛の相場は世界の需給で動き、上がった年は日本の毛織物の受注が止まる。制服は少子化で数が減るが、学校や官公庁、企業の別注は一定の量が残る。尾州の産地の協力工場とともに、環境負荷の低いウールを打ち出す動きもあるが、量を押し上げる力は小さい。
車の内装材は、国内の自動車の生産台数に結びつく。生産は横ばいからゆるやかな減少で、電気自動車でも床のカーペットは要る。ただ、内装材の大手が値段を握り、原料のポリプロピレンや電気代の上昇を転嫁するのに時間がかかる。廃食用油から作るポリプロピレン繊維のような環境対応は、値上げの材料になりうる。
地方のショッピングセンターの賃貸は、人口の減少とネット通販に押される。2026年上期にもテナントの一部が抜けた。賃料は物価ほどには上がらず、建物の修繕の費用は建築費とともに膨らむ。
資本政策と M&A
配当は安定配当が方針で、2025年12月期は総額1億円強、利益の2割ほどだ。2026年上期には自社株を10万株ほど、0.5億円買った。規模は小さいが、還元の姿勢に変化は出ている。
資本の整理も進む。2025年12月期に中国の自動車内装材の子会社を売り、政策保有株は毎年売っている。上期の純利益が増えたのも、政策保有株の売却益のためだ。ただ、売却の数値目標は見当たらず、まだ上場の27銘柄、27億円ほどが残る。
借入は116億円で、前の期から13億円減った。中期計画は2027年12月期に純利益7億円を掲げるが、借入の金利が上がる分は織り込みが薄いとみる。時価総額は40億円台と小さく、不動産と政策保有株を持つので、投資ファンドの関心を引く余地はある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の値段は自己資本の3割にすぎず、政策保有株と不動産を持つ会社としては安すぎる。上場の政策保有株だけで27億円あり、時価総額の6割を超える。これを売って借入を返せば、金利の上昇の打撃はかなり和らぐ。
事業の手応えも出てきた。インテリア産業資材は値上げが通り、上期の利益は前年の2.7倍になった。不織布は防草や寝装、緑化の用途で伸びている。廃食用油から作るポリプロピレン繊維や、炭素繊維の再生の技術は、環境の需要に乗れば値段を取れる。中期計画は2027年12月期に営業利益10億円、純利益7億円を掲げ、今の2倍近い。
経営も変わり始めた。中国の子会社を売り、政策保有株を毎年減らし、自社株も買った。小さな会社が資産を整理して借入を減らせば、自己資本の稼ぎは一気に上がる。不動産と政策保有株を持つ割安な会社は、投資ファンドに狙われやすいことも忘れてはいけない。値段が資産の価値を大きく下回る今は、上に振れる材料のほうが多い。下値は政策保有株と不動産が支える。
慎重な見方
帳簿が安いのは、帳簿が稼がないからだ。自己資本の稼ぎは過去10年の中央値で2.3%、良い年でも6%に届かない。多角化は、縮む繊維の穴を埋めるために小さな事業を重ねた結果で、どれも値段を決める力がない。
金利の上昇がとどめを刺す。借入は116億円あり、これまでの金利は1%ほどだった。借り換えのたびに3%台に上がれば、利息は年2億円以上増える。今の営業利益の4割近くが、新たに銀行に回る計算だ。中期計画の利益目標は、この重さを十分に織り込んでいない。
利益の柱の不動産も盤石ではない。地方のショッピングセンターは、人口の減少とネット通販でテナントが抜ける。上期にも一部が撤退した。建物は古くなり、修繕の費用は建築費とともに膨らむ。衣料は羊毛の相場と少子化に揺れる。政策保有株を売っても、借入の返済に消えるだけで、株主には残らない。資産が厚く見えても、その前には銀行が並んでいる。帳簿の安さは、この順番を映した値段だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。資本の整理が始まったことと、インテリア産業資材の値上げは評価し、上振れの筋書きに重みを残した。ただ、借入の金利が上がる影響は計算でほぼ確実に効き、事業の伸びでそれを打ち消すのは難しい。中心は営業利益が少し伸びても純利益が細る筋書きに置き、確率は悲観の側に寄せた。借入を大きく返す数字が出れば、強気の側へ戻す。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 526 円46 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 138 円12 億円)。 今の値に割り戻すと 325 円28 億円、今との差 −34.8%、 期待の年率 +2.9%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,118 円98 億円 | 206 円18 億円 | +166.0% | +10.3% | 93 円8 億円 |
| やや楽観 | 18% | 809 円71 億円 | 172 円15 億円 | +97.0% | +7.0% | 177 円15 億円 |
| 中立 | 40% | 539 円47 億円 | 149 円13 億円 | +38.1% | +3.3% | 275 円24 億円 |
| やや悲観 | 23% | 299 円26 億円 | 115 円10 億円 | −17.0% | −1.8% | 95 円8 億円 |
| 悲観 | 12% | 149 円13 億円 | 57 円5 億円 | −58.6% | −8.4% | 25 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 526 円46 億円 | 138 円12 億円 | +33.4% | +2.9% | 664 円58 億円 |
今の株価時価総額 498 円43 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 資産を売って借入を返し、中期計画の先まで伸びる 利益 8 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,118 円98 億円
政策保有株をほぼ売り切り、その現金で借入を返す。インテリア産業資材は値上げが定着し、不織布は防草や緑化、寝装の用途で数を伸ばす。廃食用油から作る繊維や再生の炭素繊維が環境の需要をつかみ、値段を取れる品が増える。
衣料は制服の別注と環境に配慮したウールで規模を保つ。ショッピングセンターはテナントを入れ替えて賃料を守る。営業利益は今の2倍を超え、借入が減った分だけ金利の上昇の打撃も小さい。それでも自己資本の稼ぎは5%に届かず、資本コストの半分ほどだ。会社は身軽になるが、稼ぐ力の上限は事業の小ささが決める。それでも、借金の重さから解き放たれた会社として、初めて株主が報われる10年になる。
- 衣料:数量 1.7(毛糸・生地の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4,140(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 3 億円。数量 0.85 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 5%
- インテリア産業資材:数量 12.7(原綿・不織布の出荷面積(百万平方メートル・年、推定))× 価格 816(1 平方メートルあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 103 億円・営業利益 4 億円。数量 1.05 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 4%
- 不動産:数量 6.1(貸している床の面積(万平方メートル、推定))× 価格 20,100(1 平方メートルあたりの年間の賃料(円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 7 億円。面積 1.03 倍 × 賃料 1.34 倍、利益率 58%
- エレクトロニクス・ファインケミカル・その他:数量 13.0(製品・サービスの販売数(百万個・年、推定))× 価格 469(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 3 億円。数量 1.3 倍 × 単価 1.38 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 98 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画の達成と借入の返済の両方が要る筋書きで、過去に営業利益率が5%台に乗ったのは一度だけなので低くした。
やや楽観 18% 値上げが定着し、中期計画に近い利益を出す 利益 6 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 809 円71 億円
インテリア産業資材の値上げが定着し、利益率は今の3倍ほどになる。衣料は羊毛の相場が落ち着き、制服の在庫調整も終わって利益を戻す。電子材料と医薬品原料は少しずつ伸びる。
営業利益は中期計画の水準に近づく。ただ、借入は半分ほどしか減らず、借り換えの金利が利益を削る。純利益は今より少し増える程度だ。配当は利益の2割強を保ち、自社株買いも時々行う。政策保有株は半分ほど売り、残りは持ち続ける。自己資本の稼ぎは3%台で、会社は安定するが、株主の取り分はそれほど増えない。借入の金利が上がらない世界なら評価は違ったが、その前提はもう無い。
- 衣料:数量 1.6(毛糸・生地の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4,080(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 65 億円・営業利益 3 億円。数量 0.8 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 4.5%
- インテリア産業資材:数量 12.1(原綿・不織布の出荷面積(百万平方メートル・年、推定))× 価格 798(1 平方メートルあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 96 億円・営業利益 3 億円。数量横ばい × 単価 1.33 倍、利益率 3.2%
- 不動産:数量 6.0(貸している床の面積(万平方メートル、推定))× 価格 19,500(1 平方メートルあたりの年間の賃料(円・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 7 億円。面積横ばい × 賃料 1.30 倍、利益率 56%
- エレクトロニクス・ファインケミカル・その他:数量 12.0(製品・サービスの販売数(百万個・年、推定))× 価格 462(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 2 億円。数量 1.2 倍 × 単価 1.36 倍、利益率 4%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 71 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:インテリア産業資材の値上げは上期に効き始めており、中期計画に近い所まで届く道筋はありうる。金利の上昇が残るので中立に次ぐ重みにとどめた。
中立 40% 営業利益は伸びるが、利息に食われる 利益 4 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 539 円47 億円
毛織物と制服の数量は10年で4分の1ほど減る。車の内装材の原料は国内の自動車の生産に沿ってわずかに減り、値上げは物価に少し遅れて通る。ショッピングセンターの賃料は物価ほどには上がらない。電子材料と医薬品原料は少しずつ伸びる。
営業利益は名目で7億円ほどに増えるが、借入の金利は1%台から3%台に上がる。政策保有株を半分ほど売って借入を返しても、利息は年2億円以上増える。純利益は4億円ほどで、今とほぼ変わらない。自己資本の稼ぎは2%台にとどまり、帳簿の値段より安い状態は続く。会社は残るが、株主の価値はほとんど増えない。資産の厚さは、株主でなく銀行を守る役に回る。
- 衣料:数量 1.5(毛糸・生地の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 4,020(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 2 億円。数量 0.75 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 3.5%
- インテリア産業資材:数量 11.4(原綿・不織布の出荷面積(百万平方メートル・年、推定))× 価格 780(1 平方メートルあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 2 億円。数量 0.95 倍 × 単価 1.30 倍、利益率 2.5%
- 不動産:数量 6.0(貸している床の面積(万平方メートル、推定))× 価格 18,750(1 平方メートルあたりの年間の賃料(円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 6 億円。面積横ばい × 賃料 1.25 倍、利益率 55%
- エレクトロニクス・ファインケミカル・その他:数量 11.0(製品・サービスの販売数(百万個・年、推定))× 価格 456(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。数量 1.1 倍 × 単価 1.34 倍、利益率 3%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 47 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:事業はほぼ横ばいで値段は物価並みに上がり、借入の金利の上昇が純利益を削るのが最もありそうな道筋とみた。
やや悲観 23% 繊維が細り、利益のほとんどが利息に消える 利益 1 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 299 円26 億円
羊毛の相場が高止まりし、毛織物の受注は大きく減る。制服は少子化で数が減り、紳士服の生地も細る。車の内装材の原料は値上げが遅れ、電気代の上昇を返せない。ショッピングセンターはテナントが抜け、賃料を下げて埋める。
営業利益は2億円台に落ち、借り換えの金利がそれをほぼ食い尽くす。純利益はわずかに黒字を保つ程度だ。政策保有株は借入の返済に回り、株主には残らない。価値は事業の稼ぎより、売れる資産の税後の手取りで測るしかなくなる。帳簿の値段とのかい離は、さらに広がる。経営は事業の売却を迫られ、残る事業はさらに小さくなる。
- 衣料:数量 1.2(毛糸・生地の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 3,750(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 0 億円。数量 0.6 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 1%
- インテリア産業資材:数量 10.2(原綿・不織布の出荷面積(百万平方メートル・年、推定))× 価格 750(1 平方メートルあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 1 億円。数量 0.85 倍 × 単価 1.25 倍、利益率 1%
- 不動産:数量 5.7(貸している床の面積(万平方メートル、推定))× 価格 17,250(1 平方メートルあたりの年間の賃料(円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 5 億円。面積 0.95 倍 × 賃料 1.15 倍、利益率 50%
- エレクトロニクス・ファインケミカル・その他:数量 10.0(製品・サービスの販売数(百万個・年、推定))× 価格 425(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 1 億円。数量横ばい × 単価 1.25 倍、利益率 1.5%
倍率:純利益がほぼ利息に消えるので稼ぐ力では測れない。今の自己資本 139 億円に PBR 0.136 を掛け、売れる資産(政策保有株の税後)の 19 億円に合わせた。この筋書きでは営業利益が 2 億円台に落ち、時価総額に純負債 99 億円を足すと営業利益の 50 倍を超える。利益の倍率では値が付かず、資産でしか測れない状態を表す。
確率:羊毛の高騰と制服の在庫調整、価格転嫁の遅れは足元でも起きている。金利の上昇が重なれば赤字すれすれになるので厚めに置いた。
悲観 12% 本業が赤字に沈み、資産を売って借入を返す 利益 −5 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 149 円13 億円
毛織物は国内の工場を畳む所まで縮み、車の内装材は取引先の海外生産の移管で数量を失う。ショッピングセンターは大きなテナントが抜け、賃料は物価を大きく下回る。工場の閉鎖と減損で自己資本も減る。
営業損益は赤字に沈み、借入の利息が赤字を広げる。配当は大きく減らし、政策保有株は借入の返済にすべて回る。不動産も一部を手放す。株主に残るのは、借入を返したあとの資産の残りだけになる。少数株主は資産の使い道を決められず、清算の値段より低い所で値が付き続ける。四日市の毛織物の老舗という看板だけが残り、株主の取り分は資産の残りかすほどになる。
- 衣料:数量 0.9(毛糸・生地の出荷量(千トン・年、推定))× 価格 3,600(1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 −1 億円。数量 0.45 倍 × 単価 1.2 倍、赤字
- インテリア産業資材:数量 8.4(原綿・不織布の出荷面積(百万平方メートル・年、推定))× 価格 720(1 平方メートルあたりの平均単価(円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 −1 億円。数量 0.7 倍 × 単価 1.2 倍、赤字
- 不動産:数量 5.1(貸している床の面積(万平方メートル、推定))× 価格 16,500(1 平方メートルあたりの年間の賃料(円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 4 億円。面積 0.85 倍 × 賃料 1.1 倍、利益率 45%
- エレクトロニクス・ファインケミカル・その他:数量 9.0(製品・サービスの販売数(百万個・年、推定))× 価格 408(1 個あたりの平均単価(円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 0 億円。数量 0.9 倍 × 単価 1.2 倍、損益ゼロ
倍率:赤字なので PER は当てない。今の自己資本 139 億円に PBR 0.093 を掛け、赤字と返済に食われた後の売れる資産 13 億円に合わせた。
確率:借入が重く、繊維と内装材が同時に崩れれば赤字が続く。過去にも赤字の期があり、金利の上昇で谷は深くなるので1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
衣料
毛糸、制服の生地、紳士服の生地。中国の現地法人で毛糸も作る。
| 数量毛糸・生地の出荷量(千トン・年、推定) | 価格1 kg あたりの平均出荷単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2.0 | 3,000 | 59 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 4,020 | 60 | 2 |
取り方:セグメント売上 59.4 億円・利益 2.57 億円(有報)。数量は非開示。羊毛の毛糸と生地をならした 1 kg あたりの単価を 3,000 と置き、年 1,980 トンと推定。
インテリア産業資材
自動車の床のカーペットの原料(ポリプロピレンの綿)、カーペット、防草などの不織布。
| 数量原綿・不織布の出荷面積(百万平方メートル・年、推定) | 価格1 平方メートルあたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 12.1 | 600 | 72 | 1 |
| 10 年後 中立 | 11.4 | 780 | 89 | 2 |
取り方:セグメント売上 72.3 億円・利益 1.03 億円(有報)。数量は非開示。原綿と不織布を面積に換算し、1 平方メートルあたり 600 と置いて年 1,205 万平方メートルと推定。2025 年 12 月に中国の内装材の子会社を売ったが、上期の売上は国内の伸びで前年並み。
不動産
四日市などのショッピングセンター、ビジネスホテル、本社隣のビルの賃貸。
| 数量貸している床の面積(万平方メートル、推定) | 価格1 平方メートルあたりの年間の賃料(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 6.0 | 15,000 | 9 | 5 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 18,750 | 11 | 6 |
取り方:セグメント売上 8.96 億円・利益 5.12 億円(有報)。床面積は非開示。地方の商業施設の賃料を年 1 平方メートル 15,000 と置き、約 6 万平方メートルと推定。
エレクトロニクス・ファインケミカル・その他
電動工具の制御基板、半導体向けの材料と医薬品原料、ムサシノ製薬、自動車教習所、洋菓子店。
| 数量製品・サービスの販売数(百万個・年、推定) | 価格1 個あたりの平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.0 | 340 | 34 | 1 |
| 10 年後 中立 | 11.0 | 456 | 50 | 2 |
取り方:エレクトロニクス 10.8 億円(△0.14)、ファインケミカル 15.3 億円(1.25)、その他 8.0 億円(△0.60)の合計(有報)。品目がばらばらなので 1 個 340 の平均で年 1,000 万個と推定。
リスクと懸念
借入の金利の上昇
借入は116億円で、これまでの金利は1%ほどだった。借り換えのたびに3%台へ上がれば、利息は年2億円以上増える。営業利益の4割近くに当たり、純利益を直接削る。
羊毛の相場と制服の需要
衣料は羊毛の相場をそのまま受け、上がった年は受注が止まる。制服は少子化で数が減り、メーカーの在庫調整にも揺れる。2026年上期の衣料の利益は前年の4割に落ちた。
取引先への依存
最大の取引先の林テレンプが売上の13%を占める。車の内装材の値段は取引先と自動車メーカーが握り、原料や電気代の値上げを返すのに時間がかかる。自動車の海外生産の移管も数量を削る。
商業施設の賃料
利益の柱は地方のショッピングセンターの賃料だ。人口の減少とネット通販でテナントが抜け、2026年上期にも一部が撤退した。建物の修繕の費用は建築費とともに膨らむ。
小さな事業の寄せ集め
医薬品、電子部品、教習所、洋菓子店と事業が多く、どれも規模が小さい。経営の目が分散し、どの事業でも値段を決める力を持てない。売却や撤退の判断が遅れれば、資本はさらに眠る。
今後の分かれ目
- 政策保有株の売却の数値目標を示し、その現金で借入を大きく返したら
- 金利の上昇の打撃が小さくなるとみて、上振れの筋書きの確率を上げる。
- 中期計画の2027年12月期の営業利益10億円を達成したら
- 値上げが定着したとみて、やや楽観の確率を上げる。
- ショッピングセンターで大きなテナントが抜けたら
- 利益の柱が揺らぐとみて、悲観側に寄せる。
- 借入の平均の金利が2%を超えたら
- 純利益が細る筋書きが近づいたとみて、確率を見直す。
- 投資ファンドや同業が株式を買い集め始めたら
- 資産に近い値段が付く場面になりうる。ただし筋書きの確率は事業と借金の中身で決める。
見ておくもの
- 借入の残高と平均の金利
- 政策保有株の売却額
- インテリア産業資材の利益率
- ショッピングセンターの稼働と賃料
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段から置かず、資本コスト8.5%と10年後の自己資本の稼ぎだけで決めた。中立のROEは2%台でkを大きく下回るので、PERの上限は1÷kで、中立はその7割に置いた。純負債は時価総額の2倍を超えるが、中立の時価総額に純負債を足しても営業利益の17倍ほどで20倍を超えない。悲観側は今の自己資本に、売れる資産の税後に合わせたPBRを掛けた。今のPBRが0.3倍であることは計算の後に比べただけで、割安の根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.2→11.76 倍・やや楽観 PER 8.1→11.76 倍・中立 PER 7.6→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。