結論
ナカニシは、歯を削る小さな回転工具「ハンドピース」で世界首位のメーカーだ。外科用の骨切削ドリルと米国のデンタルチェアも手がける。筆者の結論は、ほぼ適正(やや割安の端)。差は小さく、安全域は厚くない。
直近の2025年12月期は、米国子会社DCIののれん137億円の減損で、初めて最終赤字になった。原因は米国の関税だ。本業は傷んでいない。売上は過去最高の812億円で、営業利益は141億円を保った。2026年は上期の営業利益が3割増え、通期予想も引き上げられた。
稼ぎ頭は歯科だ。営業利益率は35%と高く、全社の利益の大半をここが生む。伸び盛りは外科で、利益率は5割近い。弱いのはDCIで、関税で利益が消えている。
懸念は価格だ。新興国では中国メーカーが力をつけ、値下がりが続いている。先進国は安定しているが、大手歯科チェーンや販売店の自社ブランドも増える。
それでも世界シェアは約3割あり、部品の9割を自社で作る。この構造は簡単には崩れない。中立の筋書きでは、10年後の利益は今の2倍強になる。ただし価格の下落と関税を織り込むと、倍率は穏やかにとどまる。上振れの余地は外科の伸びと米国の巻き返しにあり、下振れの芽は中国勢の価格攻勢にある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ナカニシは「持ち続けたい事業」に近い。世界で最も使われる歯科ハンドピースを、自前の工場で作る。ニッチだが、需要は高齢化とともに続く。
筆者が好むのは、利益率の高さと資本の軽さだ。歯科の営業利益率は35%、外科は5割近い。純現金もある。10年後も事業が残り、少なくとも今と同じ強さを保つ確度は高い。
気になるのは二つ。一つは値段を決める力が限られること。中国勢の攻勢と販売店の自社ブランドで、歯科の価格は物価に追いつかない。もう一つはM&Aだ。DCIの減損は、経営が高い値段で買った事実を示す。
今の株価は、2026年の増益予想に対して穏当な水準だ。それでも安全域は厚くない。値段の下落が続く悲観の筋書きでは、利益が今の半分以下に落ちる。外科の伸びと自社株買いに期待しつつ、買収の規律を見守りたい。
結局、この会社は「良い事業を、やや安く」買える可能性がある。ただし「非常に安い」とは言えない。
何で稼ぐ会社か
事業は4本。歯科、外科、機工、DCIだ。2025年12月期の売上812億円のうち、歯科が482億円で6割を占める。
歯科の主力はハンドピースで、歯を削る・磨く・洗う道具の先端部分だ。世界で歯科医院に広く使われ、海外売上比率は約9割に達する。超高速回転、超音波、小型モーターの3つの技術を自社に持ち、部品の9割を栃木県鹿沼市の工場で作る。設計から製造、販売まで自社で完結するので、品質とコストを同時に管理できる。
外科は骨を削るドリルだ。脳神経外科、脊椎、整形外科で使う。売上は55億円と小さいが、利益率は5割近い。使い捨ての刃先が多く、一度採用されると消耗品が繰り返し売れる。2026年4月には、米国の脳神経外科器具メーカーAcra Cutと、その部品会社Intechを買収した。
機工は産業用スピンドル、つまり工作機械に載せる高速回転軸だ。売上は69億円、利益率は1割ほどにとどまる。景気で需要が揺れる。2022年に買ったドイツのJaegerは競争が激しく、貢献が出ていない。
DCIは米国向けのデンタルチェアと部品を作る。2023年に過半を取得して連結した。米国の市場で第2位、首位とあわせて7割を押さえる。売上は205億円と大きいが、営業利益は赤字だ。関税で主要部品の輸入費用が上がった。
会社は2030年に売上1,000〜1,200億円を目指す。歯科は価格下落を見込み、伸びの主役を外科と米国に置いている。
優良さと弱いところ
堀は「世界首位の規模」と「自前で作る力」の二つだ。他社がまねしにくい強み、という意味での堀である。
ハンドピースの世界シェアは2019年の25%から2024年に28%へ上がった。歯科医が一度使い慣れると、替える理由は少ない。耐久性と修理体制も評価されている。部品を9割内製するため、設計変更や原価の調整が早い。EBITDAマージンは20%台を保ち、歯科だけなら4割を超える。
ただし筆者は、この堀を最強とは見ていない。シェアは約3割で、独占ではない。ドイツのKaVo、オーストリアのW&H、スイスのBien-Airなど競合は多い。新興国では中国メーカーが低価格で攻めてくる。大手歯科チェーンや販売店は、自社ブランドの機器も売り始めた。値段を自分で決める力は、先進国の高級機に限られる。
資本の使い方には評価と疑問が混じる。評価は、手元資金を厚く持ちつつ、総還元性向を70%まで引き上げたことだ。自己資本比率も70%へ下げて効率を上げる方針だ。疑問はM&Aだ。DCIは総投資222億円で、のれん137億円を減損した。Jaegerも減損した。REFINEの貢献は薄い。買収で価値を壊した実績がある。
経営は創業家が担う。中西英一社長ら創業家の持ち株は合計で1割強。外部の社外取締役が半数を占め、統治の形は整っている。資本配分の規律は、これからの買収で試される。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
歯科機器の市場は、先進国と新興国で二極化している。先進国は価格が安定し、買い替えと高級機が堅調だ。新興国では中国メーカーが技術をつけ、価格競争が本格化した。会社の推定では、ハンドピースの世界市場は年1,700億円規模で、2030年まで年2〜3%伸びる。
需要の土台は高齢化だ。歯を残す治療、インプラント、予防歯科が広がる。人口は減っても、一人あたりの治療回数は増える。数量は緩やかに伸び、価格は上がりにくい。この組み合わせが、筆者の置く中立の姿だ。
外科用パワーツールの世界市場は年2,600億円で、年3〜4%伸びる。低侵襲手術の広がりと、手術支援ロボットの普及が追い風だ。ナカニシはスモールボーンと呼ぶ小さな骨の分野に絞り、世界シェアは5%。会社は2030年に8〜10%を狙う。競合が撤退した後の商機も取り込む構えだ。
米国のデンタルチェア市場は年3万台。歯科大学の新設で歯科医が増え、年4〜5%の成長が見込まれる。メーカーも販売店も寡占が進み、参入が難しい。ここにDCIの出番がある。一方で、関税は大きな逆風だ。会社の試算では、対中関税が50%程度になるとDCIの利益率は5〜10ポイント下がる。
10年の負け筋は三つ。中国勢の高級機への進出、販売店の自社ブランドによる値下げ圧力、そして米国の関税の長期化だ。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。中期経営計画NV2030で、総還元性向を従来の50%から70%へ引き上げた。累進配当を掲げ、自社株買いも機動的に使う。2026年は上限40億円の買い付けを実施し、8月には124万株を市場外で取得した。
バランスシートは軽くする方針だ。自己資本比率は今の71%から70%付近を保ち、手元資金は月商の8カ月分まで下げる。現在は純現金が約345億円(現金及び預金613億円。3か月超の定期預金など約153億円を足した)で、時価総額の15%ほどある。事業に必要な運転資金と戦略投資の備えを考えると、余剰として切り分ける額ではない(会社は手元資金を月商の8カ月分に置く方針で、現預金はその範囲)。
M&Aは外科とコア技術に絞る。戦略投資は200〜600億円を想定する。コングロマリット化はしないと明言している。過去の買収は、DCIが関税で減損、Jaegerが減損、REFINEが不発だった。次の買収で成果が出るかが最大の焦点だ。
買われる側になる可能性は低い。創業家と自己株で2割を超える。ただし世界首位のニッチ企業として、医療機器大手からの関心は十分ありうる。
還元は方針(総還元性向70%・累進配当)に沿い、中立は純利益の合計(起点は一過性の減損を除いた110億円)の約77%。
還元の点検(P3 2026-10-19):会社の総還元性向は70%。中立は70%台前半(純利益の合計の72%)に合わせ、従来の77%から下げた。留保が増えた分は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ハンドピースの世界シェアは、ここ5年で3ポイント上がった。会社は2030年に29〜33%を目指す。先進国では歯科医の習慣が堀になり、新興国では中国の工場とREFINEで低価格にも対応できる。数量は高齢化で緩やかに増え、価格も先進国は崩れない。
外科はまだ入り口だ。スモールボーンで世界シェア5%、これを8〜10%へ倍にできる。使い捨ての刃先で売上が続き、利益率は5割を超える。Acra Cutの買収は、米国の脳神経外科に入るきっかけになる。外科が全社の利益を牽引すれば、利益率は持ち上がる。
2026年は、上期の営業利益が3割増え、通期予想が引き上げられた。DCIも関税の影響を和らげ、2030年の売上275〜300億円に近づく。のれんを減損した今こそ、償却の負担が減って利益が出やすい。
総還元性向70%で自社株買いが続けば、ROEは10%台から15%超へ戻りうる。ROE12%は会社自身の目標で、実現の道筋は見えている。
慎重な見方
まず価格だ。会社の計画自体が「価格下落」を前提にしている。中国メーカーはすでに新興国で本格的な価格競争を仕掛け、先進国の高級機にも手を伸ばす。ここで価格が崩れれば、歯科の営業利益率35%は保てない。
販売店と歯科チェーンの自社ブランドも脅威だ。調達力で値引きを迫られ、ナカニシはOEM(相手先ブランド)に回るほど利益が薄くなる。
DCIはさらに厳しい。のれん137億円を減損した後も、米国の関税で利益は消えたままだ。対中関税が50%になれば、利益率はさらに5〜10ポイント下がる。買収済みの会社に追加の資金を入れるほど、資本の使い方への疑問は強まる。
前の中期計画は、営業利益もROEも目標を外した。インフレ、規制対応、部品不足が理由だったが、新計画の2030年目標も同じ前提に立つ。外科は小さく、全社を支えるには時間がかかる。
2026年の増益は円安の寄与が大きい。為替が戻れば、利益は伸びない。
歯科の利益が全社の大半を占める構造も弱みだ。ここが傷めば、外科の伸びでは穴を埋められない。外科は売上がまだ55億円しかなく、全社の利益を支えるには規模が足りない。
どちらに重みを置いたか
事業の質は強気の見方が優る。世界首位、高い利益率、厚い還元は事実だ。外科の伸びも数字に出ている。ただし慎重な見方の指摘も重い。価格は物価に追いつかず、買収の規律には傷がある。
確率は中立に最も厚く置き、やや楽観にもやや悲観にも同じくらい分けた。悲観は、中国勢の価格破壊と米国の関税が重なる複合の場合に限り、低めに置いた。結果は、強気と慎重の差し引きでやや割安にとどまる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,510 円4,107 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 732 円1,198 億円)。 今の値に割り戻すと 1,728 円2,827 億円、今との差 +24.0%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,072 円8,298 億円 | 1,118 円1,829 億円 | +344.3% | +16.1% | 619 円1,013 億円 |
| やや楽観 | 27% | 3,602 円5,893 億円 | 913 円1,494 億円 | +224.1% | +12.5% | 1,219 円1,994 億円 |
| 中立 | 35% | 2,515 円4,115 億円 | 755 円1,235 億円 | +134.7% | +8.9% | 1,144 円1,872 億円 |
| やや悲観 | 21% | 566 円926 億円 | 471 円770 億円 | −25.6% | −2.9% | 218 円356 億円 |
| 悲観 | 7% | 453 円741 億円 | 154 円252 億円 | −56.4% | −8.0% | 42 円70 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,510 円4,107 億円 | 732 円1,198 億円 | +132.8% | +8.8% | 3,242 円5,305 億円 |
今の株価時価総額 1,393 円2,279 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 外科と米国が伸び、利益率が戻る 利益 398 億円 · PER 20.9 倍 · 株価時価総額 5,072 円8,298 億円
世界の歯科機器市場は高齢化で順調に伸び、ナカニシのハンドピースのシェアは33%まで上がる。中国勢との価格競争はREFINEの低価格品で受け止め、先進国の高級機は値崩れしない。歯科の営業利益率は36%を保つ。
外科はスモールボーンのシェアを倍にし、Acra Cutを足がかりに米国の脳神経外科へ広がる。売上は320億円台に乗り、利益率は5割を保つ。外科が全社の利益を押し上げる。
DCIは関税が緩み、新製品と新規販売店で米国のシェアを3割台へ引き上げる。利益率は1割を超え、のれん減損後の負担も軽い。会社が掲げる2030年のEBITDA330億円を、ほぼ実現する10年になる。
総還元性向は75%まで上がり、自社株買いも続く。ROEは20%を超える。
- 歯科事業:数量 2,322(世界の歯科回転機器などの市場(億円・2025年の値段で測った実質、ディーラー渡し))× 価格 44.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数(10年で物価並みなら 1.34 倍))→ 売上 1,027 億円・営業利益 370 億円。実質の市場 2322 億円 × シェア 33.0%(値段の指数 1.34 倍)、営業利益率 36%
- 外科事業:数量 3,564(世界の外科用パワーツール市場(億円・実質))× 価格 9.1%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 324 億円・営業利益 162 億円。実質の市場 3564 億円 × シェア 6.5%(値段の指数 1.40 倍)、営業利益率 50%
- 機工事業:数量 1,875(微細加工用スピンドルの世界市場(億円・実質。推定))× 価格 7.4%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 138 億円・営業利益 25 億円。実質の市場 1875 億円(推定) × シェア 5.5%(値段の指数 1.34 倍)、営業利益率 18%
- DCI事業:数量 40.5(米国のデンタルチェア市場(千台/年))× 価格 1,074(市場 1 台あたりのDCI売上(千円)=シェア × 1 台あたり単価 × 値段の指数)→ 売上 435 億円・営業利益 52 億円。米国チェア市場 40.5 千台 × シェア 34.0%(値段の指数 1.34 倍)、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 398 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.9 倍。全体の PER 20.85 倍、時価総額 8,298 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:歯科のシェア拡大・外科の倍増・米国の関税緩和・円安の維持が同時にそろう必要があり、起きれば強いが、重なる確度は高くない。
やや楽観 27% 歯科は安定、外科とDCIが緩やかに伸びる 利益 305 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 3,602 円5,893 億円
歯科のシェアは31.5%に上がる。価格は物価ほど上がらないが、先進国の高級機と新興国の低価格品を使い分けて利益率を34%に保つ。
外科は市場の伸びを上回り、シェアを5%へ高める。Acra Cutの統合も進み、売上は230億円台になる。
DCIは関税の負担を価格に転嫁しつつ、米国のシェアを3割に乗せる。利益率は1割ほどに戻る。機工は産業用スピンドルの需要が戻り、Jaegerの立て直しも進む。
全社の営業利益は390億円ほどになる。会社の総還元性向70%が守られ、ROEは18%近くで安定する。大きな買収は外科に限られ、のれんの重荷は増えない。
- 歯科事業:数量 2,253(世界の歯科回転機器などの市場(億円・2025年の値段で測った実質、ディーラー渡し))× 価格 40.9%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数(10年で物価並みなら 1.34 倍))→ 売上 923 億円・営業利益 314 億円。実質の市場 2253 億円 × シェア 31.5%(値段の指数 1.30 倍)、営業利益率 34%
- 外科事業:数量 3,458(世界の外科用パワーツール市場(億円・実質))× 価格 6.8%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 233 億円・営業利益 112 億円。実質の市場 3458 億円 × シェア 5.0%(値段の指数 1.35 倍)、営業利益率 48%
- 機工事業:数量 1,800(微細加工用スピンドルの世界市場(億円・実質。推定))× 価格 6.6%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 119 億円・営業利益 19 億円。実質の市場 1800 億円(推定) × シェア 5.0%(値段の指数 1.32 倍)、営業利益率 16%
- DCI事業:数量 39.0(米国のデンタルチェア市場(千台/年))× 価格 933(市場 1 台あたりのDCI売上(千円)=シェア × 1 台あたり単価 × 値段の指数)→ 売上 364 億円・営業利益 38 億円。米国チェア市場 39.0 千台 × シェア 30.0%(値段の指数 1.32 倍)、営業利益率 10.5%
倍率:事業の純利益 305 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍。全体の PER 19.32 倍、時価総額 5,893 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画のストレッチに近いが、価格下落と関税の逆風は残る前提。会社の2030年目標の上位レンジに相当する。
中立 35% 中立:世界首位の歯科が稼ぎ、外科が下支えする 利益 233 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 2,515 円4,115 億円
世界の歯科機器市場は実質で年2〜3%伸び、10年で1.25倍になる。ナカニシのシェアは28%から30%へ小幅に上がる。価格は物価の1.34倍に届かず、1.25倍にとどまる。新興国の値下がりが先進国の値上げを打ち消す。歯科の営業利益率は32%と、今より少し下がる。
外科は市場が年3%台で伸び、シェアも4%まで上がる。売上は180億円ほど、利益率は5割近い。
DCIは関税の負担を抱えつつ、米国市場の成長に乗る。シェアは3割に近い水準で、利益率は9%。機工は景気で上下しつつ、微増にとどまる。
全社の営業利益は300億円と、今の2倍強になる。うち外科の寄与が3割を占める。総還元性向は70%台前半で、ROEは13%台半ばだ。優良さは保たれるが、突き抜けはしない10年になる。
- 歯科事業:数量 2,150(世界の歯科回転機器などの市場(億円・2025年の値段で測った実質、ディーラー渡し))× 価格 37.5%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数(10年で物価並みなら 1.34 倍))→ 売上 806 億円・営業利益 258 億円。実質の市場 2150 億円 × シェア 30.0%(値段の指数 1.25 倍)、営業利益率 32%
- 外科事業:数量 3,379(世界の外科用パワーツール市場(億円・実質))× 価格 5.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 176 億円・営業利益 83 億円。実質の市場 3379 億円 × シェア 4.0%(値段の指数 1.30 倍)、営業利益率 47%
- 機工事業:数量 1,740(微細加工用スピンドルの世界市場(億円・実質。推定))× 価格 6.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 109 億円・営業利益 15 億円。実質の市場 1739 億円(推定) × シェア 4.8%(値段の指数 1.30 倍)、営業利益率 14%
- DCI事業:数量 36.0(米国のデンタルチェア市場(千台/年))× 価格 904(市場 1 台あたりのDCI売上(千円)=シェア × 1 台あたり単価 × 値段の指数)→ 売上 325 億円・営業利益 29 億円。米国チェア市場 36.0 千台 × シェア 29.5%(値段の指数 1.30 倍)、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 233 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.66 倍、時価総額 4,115 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画のボトム〜中間と、価格下落・関税の逆風が釣り合う中心の筋書き。10年の数量と価格の見通しは業種ノートの中立に従う。
やや悲観 21% 中国勢と販売店の自社ブランドに価格を押される 利益 104 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 566 円926 億円
中国メーカーが新興国から先進国の中級機へ広がり、歯科の価格は物価にまったく追いつかない。販売店と歯科チェーンの自社ブランドも広がり、ナカニシはOEM供給で利益の薄い売り方に回る。シェアは26%に下がり、歯科の営業利益率は25%まで落ちる。
外科は競合が増え、シェアは3%台にとどまる。利益率も4割に下がる。DCIは関税が長く続き、利益はほぼ出ない。Jaegerは事業の立て直しが遅れ、機工も低水準だ。
全社の営業利益は130億円ほど。今の水準を下回る。コストを削っても、価格の下落には追いつかない。それでも世界首位のブランドと自前の工場は残り、配当を中心に還元は続く。ROEは7%を下回り、資本コストに届かない。
- 歯科事業:数量 1,978(世界の歯科回転機器などの市場(億円・2025年の値段で測った実質、ディーラー渡し))× 価格 29.9%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数(10年で物価並みなら 1.34 倍))→ 売上 591 億円・営業利益 148 億円。実質の市場 1977 億円 × シェア 26.0%(値段の指数 1.15 倍)、営業利益率 25%
- 外科事業:数量 3,168(世界の外科用パワーツール市場(億円・実質))× 価格 3.6%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 114 億円・営業利益 46 億円。実質の市場 3168 億円 × シェア 3.0%(値段の指数 1.20 倍)、営業利益率 40%
- 機工事業:数量 1,575(微細加工用スピンドルの世界市場(億円・実質。推定))× 価格 5.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 82 億円・営業利益 7 億円。実質の市場 1575 億円(推定) × シェア 4.5%(値段の指数 1.15 倍)、営業利益率 8%
- DCI事業:数量 33.0(米国のデンタルチェア市場(千台/年))× 価格 735(市場 1 台あたりのDCI売上(千円)=シェア × 1 台あたり単価 × 値段の指数)→ 売上 243 億円・営業利益 7 億円。米国チェア市場 33.0 千台 × シェア 26.0%(値段の指数 1.20 倍)、営業利益率 3.0%
倍率:ROE 6.9%。RONIC=k 7.5%+残る割合 1/2×(6.9−7.5)=7.2%、g 4.0% から正当化 PER=12.7 倍で、ROE が k 以下なので上限は 1÷k の 13.3 倍。価格が下がり続ける構造的な負けなので、上限の 7 割の 8.9 倍に置いた。
確率:中国メーカーの先進国進出と販売店・歯科チェーンの自社ブランドが同時に進む筋書き。会社の計画自体が価格下落を前提にしているため、軽くは置かない。
悲観 7% 中国勢の価格破壊と米国の関税で事業が傷む 利益 5 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 453 円741 億円
中国メーカーが先進国の高級機まで価格を崩し、ナカニシのシェアは24%に下がる。値段は10年でほとんど上がらず、歯科の営業利益率は14%まで落ちる。販売店の自社ブランドも広がり、ブランドの値決め力は失われる。
外科は競合に押され、シェアは2%にとどまる。刃先の使い捨て需要は残るが、利益率は25%に下がる。DCIは関税と価格競争で赤字が続く。機工は黒字を保てない。
全社の営業利益はほぼゼロになる。残るのは世界首位の看板と、自前の工場、そして純現金だ。配当は維持できず、還元を絞る。それでも純現金の取り崩しと遊休資産の売却で、一定の還元は続ける。のれんと在庫の追加の減損も出て、自己資本は削られる。
- 歯科事業:数量 1,806(世界の歯科回転機器などの市場(億円・2025年の値段で測った実質、ディーラー渡し))× 価格 25.2%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数(10年で物価並みなら 1.34 倍))→ 売上 455 億円・営業利益 64 億円。実質の市場 1806 億円 × シェア 24.0%(値段の指数 1.05 倍)、営業利益率 14%
- 外科事業:数量 2,904(世界の外科用パワーツール市場(億円・実質))× 価格 2.0%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 58 億円・営業利益 15 億円。実質の市場 2904 億円 × シェア 2.0%(値段の指数 1.00 倍)、営業利益率 25%
- 機工事業:数量 1,425(微細加工用スピンドルの世界市場(億円・実質。推定))× 価格 4.0%(市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数)→ 売上 57 億円・営業利益 0 億円。実質の市場 1425 億円(推定) × シェア 4.0%(値段の指数 1.00 倍)、営業利益率 0%
- DCI事業:数量 30.0(米国のデンタルチェア市場(千台/年))× 価格 471(市場 1 台あたりのDCI売上(千円)=シェア × 1 台あたり単価 × 値段の指数)→ 売上 141 億円・営業利益 −7 億円。米国チェア市場 30.0 千台 × シェア 20.0%(値段の指数 1.00 倍)、営業利益率 -5.0%
倍率:純現金 約 345 億円(定期預金などを足した)と、事業用の資産(今の自己資本 1,137 億円から純現金を引いた 792 億円)が簿価の 5 割で売れるとして、合計 741 億円。今の自己資本の 0.65 倍にあたる。市場の値付けは根拠にしていない。
確率:歯科の価格が実質で崩れ、DCIが赤字を続け、外科も競合に押される複合の筋書き。ただし世界首位の規模と自前の工場は残るので、低めの確率に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
歯科事業
歯科用ハンドピース・インプラントモーター・予防歯科機器・滅菌器。世界シェア首位の中核事業。
| 数量世界の歯科回転機器などの市場(億円・2025年の値段で測った実質、ディーラー渡し) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数(10年で物価並みなら 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,720 | 28.0% | 482 | 169 |
| 10 年後 中立 | 2,150 | 37.5% | 806 | 258 |
取り方:会社推定の世界ハンドピース市場 1,700 億円(2024年)を今の規模 1,720 億円とし、歯科売上 482 億円÷市場=シェア 28%(会社開示の2024年実績 28%と一致)。市場は実質で年 2.5% 伸びるとみて 10 年 1.25〜1.28 倍。値段の指数は、物価 1.34 倍に新興国の値下がりを織り込み中立 1.25 倍。
外科事業
脳神経外科・脊椎・整形外科用の骨切削ドリル。消耗品が多く利益率が高い。2026年4月にAcra Cutを取得。
| 数量世界の外科用パワーツール市場(億円・実質) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,640 | 2.1% | 55 | 27 |
| 10 年後 中立 | 3,379 | 5.2% | 176 | 83 |
取り方:会社推定の世界市場 2,600 億円(2023年)を 2,640 億円とし、外科売上 55.4 億円÷市場=シェア 2.1%(スモールボーン分野では 5%)。市場は実質で年 2.5% 伸び、10 年で 1.28 倍(会社推定は名目で年 3〜4%)。
機工事業
工作機械や工業用ロボット向けの高速スピンドル。ナカニシの小径とJaegerの中径。
| 数量微細加工用スピンドルの世界市場(億円・実質。推定) | 価格市場 1 億円あたりの売上(億円)=シェア × 値段の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,500 | 4.6% | 69 | 8 |
| 10 年後 中立 | 1,740 | 6.2% | 109 | 15 |
取り方:市場規模は開示が無く、小径〜中径の高周波スピンドルの世界市場を約 1,500 億円と推定(根拠は弱い)。機工売上 69.1 億円÷市場=シェア 4.6%。景気で需要が揺れるので、実質の伸びは年 1.5% と低めに置く。
DCI事業
米国向けデンタルチェアと部品。米国の市場で第2位。関税で利益が出ていない。
| 数量米国のデンタルチェア市場(千台/年) | 価格市場 1 台あたりのDCI売上(千円)=シェア × 1 台あたり単価 × 値段の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 30.0 | 683 | 205 | −5 |
| 10 年後 中立 | 36.0 | 904 | 325 | 29 |
取り方:米国市場 3 万台/年(会社推定・2024年)。DCI売上 205 億円を台数で割ると市場 1 台あたり 683 千円(シェア 29%、1 台あたり約 236 万円相当)。営業損益はのれん償却と関税で赤字。市場の実質の伸びは年 2% とみて 10 年 1.2 倍(会社推定は台数で年 4〜5%)。
リスクと懸念
歯科の価格下落
中国メーカーが新興国で本格的な価格競争を始め、販売店・歯科チェーンの自社ブランドも広がる。会社の計画も価格下落を前提にしている。歯科の営業利益率35%が崩れれば、全社の利益が大きく減る。
米国の関税とDCI
のれん137億円を減損した後も、DCIは関税で利益が消えている。対中関税が50%になれば、利益率はさらに5〜10ポイント下がる。米国向け売上は全社の約2割で、関税の影響が全体に及ぶ。
買収の失敗の再発
DCI・Jaeger・REFINEの3件はいずれも期待に届いていない。次の買収を外科で行う方針だが、高い値段で買う癖が直らなければ、資本の使い方への評価は上がらない。
円安への依存
2026年の増収は為替の寄与が大きい(為替を除く上期の増収は12%、円換算では2割)。海外売上は9割あり、円高になれば利益は押し下げられる。会社の想定より円高になれば減益要因だ。
外科の伸びへの期待が大きい
会社は外科を10〜20年後の主力に育てたい。だが売上はまだ55億円。小さな分野で、特定の医療機器メーカーとの関係に頼る面もある。伸びが鈍れば、全社の利益成長が止まる。
創業家支配と流動性
創業家と自己株が2割を超え、市場に出回る株は限られる。創業家の方針で資本配分が決まりやすい。逆に言えば、規律ある還元が続くかは経営者の姿勢次第だ。
今後の分かれ目
- DCIの営業利益が黒字に戻り、関税の影響が和らいだら
- 米国事業の前提を上方修正する。やや楽観の確率を高めてよい。
- 対中関税が50%程度に上がったら
- DCIの利益率が5〜10ポイント下がる。やや悲観の筋書きに近づく。
- 中国メーカーが先進国の高級機に参入し、価格が下がったら
- 歯科の価格指数と利益率の前提を下げる。悲観の確率を見直す。
- 外科の売上が計画(2027年に63〜68億円)を上回って伸びたら
- 外科の利益寄与が大きくなる。楽観側の筋書きに近づく。
- 大型の買収(数百億円規模)を発表したら
- 価格と事業の適合を点検する。過去の減損を繰り返せば、資本配分の評価を下げる。
- 円高が会社の想定より大きく進み定着したら
- 利益が想定より減る。価値を見直す必要はないが、短期の利益は下振れする。
見ておくもの
- 歯科事業の営業利益率(35%を保てるか)
- DCIの営業損益と関税の動き
- 外科の売上の伸びとAcra Cutの寄与
- 総還元性向70%の実行(自社株買いと配当)
- 中国メーカーの先進国での動き
倍率と資本コストの決め方
数量は市場の実質規模、価格は「シェア×値段の指数」に分けて置いた。歯科は、会社推定の世界市場1,700億円とシェア28%から出発し、中立ではシェア30%、値段の指数1.25倍とした(物価の1.34倍より低い。新興国の値下がりを反映)。外科は市場2,600億円×シェア、DCIは米国3万台の市場×1台あたり売上で置いた。機工の市場規模は推定で、根拠は弱い。
倍率は正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限から、中立で8割に置いた。強い堀とは言えないので、残る割合は普通の2分の1とした。今のPERや過去・同業の倍率には寄せていない。純利益÷営業利益は過去の中央値0.76に合わせた。
リース会計の形の変化は、ナカニシは店舗を借りる事業ではなく、影響は小さい。数字は今と同じ形で置いた。
自己資本の流れ(今+純利益の合計−還元)は、2025年の純損失がのれん減損137億円の一過性なので、2026年の純利益140億円(会社予想は上方修正後も同水準)から始めて数えた。検査の注意はこの起点の違いによる。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality 0.0%=7.5%。内訳と理由は quality_why。