結論
シチズン時計は、腕時計と工作機械の二本足で稼ぐ会社だ。時計が売上の6割弱、工作機械が約4分の1、残りが電子部品と小型プリンターである。2026年3月期は、北米の高価格帯とアジアの半導体関連需要が重なり、営業利益が過去最高圏に乗った。
筆者の結論は、事業は良いが株価は割高、というものだ。好調がそのまま続く前提に近い値段が付いているからだ。時計の利益率はすでに会社目標の12%を超えた。工作機械も投資の山に乗っている。どちらも景気で振れる商売である。
時計は、量産帯がスマートウォッチに食われる中で、1,500〜3,000ドル帯への引き上げを進めている。北米の直販EC、ブローバ、フレデリック・コンスタントが柱だ。工作機械は自動旋盤が主力で、半導体とデータセンター向けが追い風になる。
ただし山のあとの谷は深い。2009年3月期と2021年3月期は、いずれも赤字に沈んだ。
自己資本比率は6割を超え、純現金も厚い。財務は盤石だが、そのぶんROEは10%前後にとどまる。稼ぐ力に比べて資本が重く、高い倍率を払う理由になりにくい。中立の筋書きでは、10年後も今の時価総額に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、シチズンは「良い会社だが、払う値段が高すぎる」と映る。
事業の見通しは、時計と工作機械で性格が違う。時計は、北米でブランドが育ち、10年後も存在し続ける。ただ、堀が広がるかは、1,500ドル以上の価格帯でスイス勢に挑めるかで決まる。工作機械は、世の中に必要な道具を作る点では堅いが、受注の波が大きく、10年後の稼ぎを高い確信で見通せない。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、見かけの利益より小さい。ムーブメントの増産、工作機械の設備、ブランドの販促に毎年お金がかかるからだ。2026年3月期の純利益には、投資有価証券の売却益や税金の見直しも乗っていて、本業の実力はそれより低い。
資本の使い方は、悪くないが目覚ましくもない。配当を自己資本の5%まで引き上げる約束は評価できる。一方、自己資本の積み上がりに対して、自社株買いが遅い。ROEが資本コストを少し上回る程度では、貯めた現金が価値を生んでいない。
最後に安全域だ。今のPERは約18倍、中立の筋書きで払ってよい値段のほぼ2倍にあたる。優良さを認めても、この値段では安全域がない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は3つある。時計、工作機械、デバイスだ。2026年3月期の売上は、時計が約1,970億円、工作機械が約860億円、デバイスなどが約640億円だった。
時計は、シチズン、ブローバ、フレデリック・コンスタントの3ブランドが中心だ。太陽光で動くエコ・ドライブが看板商品で、ムーブメント(時計の心臓部)の自社生産が強みになる。国内は百貨店と量販店、海外は欧米の専門店と自社ECで売る。ブローバは米国が最大の市場だ。会社は、プロマスターやアテッサを1,500〜3,000ドル帯へ引き上げ、最上位のザ・シチズンを2027年度中に海外展開する構えだ。
工作機械は、シチズンマシナリーとミヤノが担う。主力は自動旋盤(金属の小物部品を削り出す機械)で、自動車、医療、半導体装置向けの精密部品を作る顧客が買う。2026年3月期は、中国の半導体関連とアジアのデータセンター向けが増え、欧州の自動車向けは弱かった。インドには現地の販売会社を立てる。
デバイスは、セラミックス、電子部品、小型プリンターなどだ。利益は小さいが、時計や工作機械の景気が崩れる時の下支えにはなる。
優良さと弱いところ
堀は、時計では世界で通じる中価格帯の信頼、工作機械では自動旋盤の精度と顧客との長い取引にある。ただし堀の深さは、スイス勢のように値上げを続けられるほどではない。
時計の強みは、実用品としての信頼だ。エコ・ドライブと電波時計が、電池交換の手間を嫌う買い手をつかんでいる。弱みは、量産帯がスマートウォッチと中国勢に挟まれていることだ。高価格帯への引き上げが続かなければ、数量は細る。
工作機械は、競合のスター精密、津田駒、DMG森精機のような総合メーカーと戦う。強みは小物精密加工の専門性だが、受注は景気の影響をまともに受ける。
利益の質を測ると、営業利益率は2026年3月期で8.7%、過去の最悪は2021年3月期のマイナス4.6%だった。ROEは直近で10%前後、10年の幅は赤字から10%までだ。資本効率は並みで、堀が強いと言い切れる水準ではない。
経営は、資本政策で改善が見える。株主還元は3年で350億円以上、配当は自己資本の5%を目安にするという。数字の約束が出たのは前進だが、自社株買いは「機動的に」と述べるだけだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
時計の世界市場は2026年に約1,300億ドル、年6〜7%で伸びるとされる。中身は二つに割れている。高級時計は年8%台で伸び、スマートウォッチは年15%超で伸びる。従来型の量産時計は、その間で数量を失っている。
シチズンは、この割れ目のどこに立つかが問われる。量産帯の数量は細っていくが、400〜3,000ドルの価格帯は北米で値上げが通っている。会社はアテッサとシリーズエイトで、1,500〜3,000ドル帯のシェアを取りにいく。競合はセイコー(8050)、カシオ、ティソなどスイスの中価格帯、そして中国勢だ。
循環の位置は、時計も工作機械も山に近い。時計は北米の好調で利益率が12%台に乗った。工作機械は、中国の半導体関連が押し上げた。2027年3月期の営業利益は405億円と、会社が見通しを引き上げている。
谷の深さにも目を向けたい。2008〜09年は高級時計も工作機械も売上が2〜4割落ち、2020年のコロナ期には時計の販売が止まった。工作機械は、半導体と自動車の設備投資に連動する。
米国の関税も無視できない。シチズンは北米が稼ぎの核なので、関税が価格競争力と利益率に効く。2026年3月期には、過年度の関税の費用が特別損失に出た。
資本政策と M&A
還元は、3年(2025〜27年度)で350億円以上、配当は自己資本の5%以上を目安にする方針だ。配当の約束としては分かりやすい。自社株買いは機動的に判断するとしているが、金額や時期の約束はない。
M&Aは、時計ブランドの買収が歴史になる。ブローバを2008年に、フレデリック・コンスタントを2016年に取り込み、北米と中高級帯の足場を築いた。工作機械はミヤノをグループに入れ、中・大型機の領域を広げた。今後も、時計ブランドと工作機械の周辺装置で、中規模の買収が続くとみる。
財務は、純現金が約470億円、自己資本比率は6割超と厚い。過去に赤字が続いた時期(2020〜21年3月期)も、純現金は崩れなかった。事業に必要な現金を差し引いても、余剰が大きいとまでは言えない。
今後の投資は、営業キャッシュフロー約950億円のうち7割以上を、時計と工作機械に回す。時計は機械式ムーブメントの増産、工作機械は拡販とサービスだ。
買収される側のリスクは、小さくない。時価総額は5,700億円で、財務は厚く、保有資産も多い。ただ、確かめられた株主構成の情報がなく、ここでは評価に入れない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
時計の稼ぐ力は、まだ上に伸びる。会社は2027年度の時計の目標(売上1,900億円、利益率12%)を2年前倒しで達成した。しかも北米は自社ECの比率がまだ1割強で、目標の12%に向かう途中だ。ブローバは誕生150周年を迎え、1,000〜2,000ドル帯の首位を狙う。最上位のザ・シチズンは2027年度中に海外に出る。単価の引き上げは、まだ序盤にある。
工作機械は、構造的な追い風を受けている。中国の半導体関連、アジアのデータセンター向けが2025年度の後半から強まった。会社は2027年3月期の営業利益を405億円へ引き上げ、工作機械だけで115億円規模を見込む。インドに販売会社を立て、年400台の体制を目指す。ミヤノの中・大型機は250億円の売上目標で、まだ伸びしろがある。
財務の厚さは、攻めの余地そのものだ。純現金は約470億円、自己資本比率は6割超。ブランドの買収や増産に使っても、財務は揺らがない。株主還元も、自己資本の5%を配当の目安にし、自社株買いの選択肢も残している。
スマートウォッチの浸食は、量産帯に限った話だ。価格帯を上げ続ける限り、シチズンの利益はその影響を受けにくい。景気の谷でも、営業赤字の期は短く、財務が崩れた例はない。
慎重な見方
利益は山の上にある。営業利益率は8.7%から2027年3月期に10%を超える見通しだが、過去の最良は2005年3月期の10.4%だ。つまり今は、過去の最高圏に近い。ここから先は、維持できるかどうかの問題になる。時計は北米に稼ぎが集中していて、関税や為替、個人消費の変調がそのまま利益に響く。
工作機械は、半導体とデータセンターの設備投資の波に乗っているだけだ。2009年3月期と2021年3月期は、いずれも赤字に沈んだ。中国の半導体関連が一服すれば、足元の115億円規模の利益は半分になりかねない。欧州の自動車向けはすでに低迷している。
時計の量産帯は、スマートウォッチと中国勢に挟まれている。値上げが通っているのは、北米の一部の価格帯にすぎない。ブローバとフレデリック・コンスタントは、スイス勢に比べて世界的な格が足りない。
資本効率にも不満がある。自己資本比率が6割を超え、ROEは10%前後にとどまる。現金を貯め込んで価値を生まず、自社株買いも金額の約束がない。2026年3月期の純利益は、有価証券の売却益と税金の見直しで底上げされた。今の株価は、この好調が10年続くことまで払っている。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には実体がある。時計の目標達成は事実で、工作機械の受注も強い。ただ、慎重な見方が突く通り、今の利益は山の上にあり、過去に二度赤字へ沈んだ会社でもある。
10年後の時計は、北米で単価を引き上げ続けられれば強い。しかし、全体を上振れに寄せるほどの確証はない。確率は中立を最も厚くしつつ、やや悲観と悲観を合わせて3割台に置いた。山のあとの谷が深い商売だからだ。強気の筋書きでも、今の時価総額には届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,144 円5,232 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 831 円2,028 億円)。 今の値に割り戻すと 1,559 円3,804 億円、今との差 −29.6%、 期待の年率 +3.0%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,957 円1.45 兆円 | 1,230 円3,000 億円 | +224.7% | +12.5% | 575 円1,403 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,410 円8,320 億円 | 1,025 円2,500 億円 | +100.4% | +7.2% | 887 円2,164 億円 |
| 中立 | 36% | 1,960 円4,782 億円 | 881 円2,150 億円 | +28.4% | +2.5% | 1,023 円2,496 億円 |
| やや悲観 | 22% | 830 円2,026 億円 | 697 円1,700 億円 | −31.0% | −3.6% | 336 円820 億円 |
| 悲観 | 14% | 697 円1,700 億円 | 410 円1,000 億円 | −50.0% | −6.7% | 155 円378 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,144 円5,232 億円 | 831 円2,028 億円 | +34.5% | +3.0% | 2,976 円7,260 億円 |
今の株価時価総額 2,213 円5,400 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 北米でブランドが定着し半導体需要も続く 利益 851 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 5,957 円1.45 兆円
北米でブランドが育ち、時計の世界シェアが1.25%に高まる。アテッサとザ・シチズンが1,500ドル以上の帯に定着し、利益率は16%に届く。工作機械は半導体、データセンター、EV向けの需要が長く続き、インドと東欧で台数が5,600台まで伸びる。デバイスも10%近くの利益率に近づく。全社の営業利益は1,100億円台、ROEは17%に届く。10年前の山の利益に比べ、一段高い稼ぎの水準になる。会社は、10年のあいだに時計ブランドの追加買収と機械式ムーブメントの増産を進め、投資は利益に変わる。スマートウォッチは量産帯だけを浸食し、高価格帯には届かない。
- 時計:数量 2,239(世界の腕時計市場(億ドル・実質、暦年))× 価格 2.51(シチズンのシェア×150円×物価倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 5,625 億円・営業利益 900 億円。時計 市場2,239億ドル×シェア1.25%、利益率16.0%
- 工作機械:数量 5,600(販売台数(台・推定))× 価格 0.34(1台あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,902 億円・営業利益 295 億円。工作機械 5,600台×0.340億円、利益率15.5%
- デバイスほか:数量 115(実質の出荷規模(2026/03=100))× 価格 8.52(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 980 億円・営業利益 78 億円。デバイス 出荷規模115×8.52億円、利益率8.0%
倍率:事業の純利益 851 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.08 倍、時価総額 14,535 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:実現には、時計のブランド育成と工作機械の需要の両方が10年続く必要がある。確率は低めに置いた。
やや楽観 20% 高価格帯への引き上げが定着 利益 555 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 3,410 円8,320 億円
時計は高価格帯への引き上げが主軸として定着し、世界シェアは1.18%に高まる。利益率は14%で、会社目標の12%を上回る水準を保つ。工作機械は台数が4,700台まで増え、インドと東欧の販売が育つ。デバイスは安定した下支えを続ける。営業利益は750億円台、ROEは12%に届く。一方、スイス勢との競争は続き、世界的なブランドの格までは届かない。ブローバとアテッサが北米で定着し、投資の回収も進む。M&Aは中規模にとどまり、大きな失敗はない。自己資本の積み上がりに応じて、還元も増える。競合のセイコーとは高価格帯で競り合うが、中価格帯の厚みで棲み分けられる。工作機械では、小物精密加工の専門性がデータセンター向けにも通じる。
- 時計:数量 1,680(世界の腕時計市場(億ドル・実質、暦年))× 価格 2.37(シチズンのシェア×150円×物価倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 3,985 億円・営業利益 558 億円。時計 市場1,680億ドル×シェア1.18%、利益率14.0%
- 工作機械:数量 4,700(販売台数(台・推定))× 価格 0.34(1台あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,597 億円・営業利益 231 億円。工作機械 4,700台×0.340億円、利益率14.5%
- デバイスほか:数量 108(実質の出荷規模(2026/03=100))× 価格 8.52(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 920 億円・営業利益 64 億円。デバイス 出荷規模108×8.52億円、利益率7.0%
倍率:事業の純利益 555 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 14.99 倍、時価総額 8,320 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期目標を上回る進み方だが、業種の中で十分にありうる筋書きだ。
中立 36% 中立:量産帯の縮小と高価格帯の引き上げが相殺 利益 369 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 1,960 円4,782 億円
量産帯は数量が細り、高価格帯への引き上げが相殺する。時計の世界シェアは1.10%、利益率は11.5%に落ち着く。工作機械は台数が3,900台、利益率は12.5%で、半導体と自動車の波を平均すればこの水準になる。デバイスは横ばいが続く。全社の営業利益は500億円ほどで、ROEは9%を下回る。自己資本が積み上がるのに対し、利益の伸びは物価並みにとどまる。優良な中堅企業として評価される10年になる。関税や為替の波は10年のうちに何度か来るが、平均すれば吸収できる。M&Aは小粒で、資本の使い方は今の延長にとどまる。会社としての優良さは、保たれるが広がらない。
- 時計:数量 1,451(世界の腕時計市場(億ドル・実質、暦年))× 価格 2.21(シチズンのシェア×150円×物価倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 3,208 億円・営業利益 369 億円。時計 市場1,451億ドル×シェア1.10%、利益率11.5%
- 工作機械:数量 3,900(販売台数(台・推定))× 価格 0.34(1台あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,325 億円・営業利益 166 億円。工作機械 3,900台×0.340億円、利益率12.5%
- デバイスほか:数量 100(実質の出荷規模(2026/03=100))× 価格 8.52(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 852 億円・営業利益 47 億円。デバイス 出荷規模100×8.52億円、利益率5.5%
倍率:事業の純利益 369 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.96 倍、時価総額 4,782 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画と業種の中立が重なる、最も厚い筋書きだ。山の利益は平均すれば落ち着くと置いた。
やや悲観 22% 量産帯がじわり侵食される 利益 157 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 830 円2,026 億円
スマートウォッチと中国勢に、量産帯がじわり侵食される。時計の世界シェアは0.95%に下がり、利益率は8%まで低下する。工作機械は中国勢の追い上げで台数が3,000台に減り、利益率も8%に落ちる。デバイスは薄利になる。営業利益は200億円ほどにとどまる。堀は崩れないが、成長株として見られなくなる。配当は守るが、増配は止まり、自社株買いも絞られる。北米の関税が長引き、個人消費も冷える。M&Aの追加はなく、投資は守りに回る。それでも財務の厚さは変わらず、赤字の期は短い。工作機械では、中国勢が低価格機で追い上げ、半導体向けの需要も一巡する。時計は価格を上げられず、数量でも負けるため、成長株としての評価は消える。
- 時計:数量 1,130(世界の腕時計市場(億ドル・実質、暦年))× 価格 1.91(シチズンのシェア×150円×物価倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 2,158 億円・営業利益 173 億円。時計 市場1,130億ドル×シェア0.95%、利益率8.0%
- 工作機械:数量 3,000(販売台数(台・推定))× 価格 0.34(1台あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,019 億円・営業利益 82 億円。工作機械 3,000台×0.340億円、利益率8.0%
- デバイスほか:数量 88.0(実質の出荷規模(2026/03=100))× 価格 8.52(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 750 億円・営業利益 22 億円。デバイス 出荷規模88×8.52億円、利益率3.0%
倍率:事業の ROE 4.0% は k 8% 以下なので、PER の上限は 1÷k の 11.8 倍。需要の谷で ROE が k を下回る筋書きなので、価値は稼ぐ力(純利益÷k)に少しの安全率を掛け、上限の 9.5 割の 11.9 倍に置いた。
確率:量産帯の浸食と中国勢の追い上げが重なる、現実味のある筋書きだ。やや悲観にも十分な確率を置いた。
悲観 14% 構造的に優良さを失う 利益 −42 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 697 円1,700 億円
構造的に優良さを失う。スマートウォッチと中国勢が量産帯を食い尽くし、北米の高価格帯も関税と消費の冷え込みで伸びない。時計の世界シェアは0.75%まで下がり、利益率は2%にとどまる。工作機械は中国勢との価格競争で台数が2,000台まで減り、赤字に落ちる。デバイスも赤字になる。営業利益は赤字になる。自己資本の厚さと保有資産が最後の床になるが、普通の中堅企業として評価される10年になる。還元は積み上げた現金と保有資産の売却で賄い、利益では賄えない。2009年と2021年に続く三度目の赤字局面が、今度は長引く。経営の選択肢も狭まり、再編や買収の対象にもなりやすい。
- 時計:数量 750(世界の腕時計市場(億ドル・実質、暦年))× 価格 1.51(シチズンのシェア×150円×物価倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,131 億円・営業利益 23 億円。時計 市場750億ドル×シェア0.75%、利益率2.0%
- 工作機械:数量 2,000(販売台数(台・推定))× 価格 0.30(1台あたり売上(億円・名目))→ 売上 608 億円・営業利益 −12 億円。工作機械 2,000台×0.304億円、利益率-2.0%
- デバイスほか:数量 65.0(実質の出荷規模(2026/03=100))× 価格 7.63(指数1あたり売上(億円・名目))→ 売上 496 億円・営業利益 −15 億円。デバイス 出荷規模65×7.63億円、利益率-3.0%
倍率:赤字で稼ぐ力は無く、売れる資産の床で置く。事業用資産(今の自己資本 2,932 億円に純有利子負債 -470 億円を足した 2,462 億円)が簿価の 50% で売れると仮定し、純有利子負債 -470 億円を返すと 1,701 億円で、今の自己資本の 0.58 倍にあたる。純現金は全額、時計の在庫・工作機械の工場と設備は簿価の 5 割で数える。市場の値付けは根拠にしていない。
確率:二度の赤字と、構造的な競争の激化が重なる筋書きだ。優良さを失うと戻りにくいため、無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
時計
シチズン・ブローバ・フレデリック・コンスタントなどの腕時計と、外販の時計用ムーブメント。
| 数量世界の腕時計市場(億ドル・実質、暦年) | 価格シチズンのシェア×150円×物価倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,250 | 1.58 | 1,970 | 250 |
| 10 年後 中立 | 1,451 | 2.21 | 3,208 | 369 |
取り方:世界の腕時計市場を、同じ領域のセイコーと同じ1,250億ドル(業種ノートの2026年見通し1,300億ドルに近い実質)で置いた。シチズンの時計売上1,970億円は約13億ドルで、世界シェア約1.05%に相当する。価格はシェア×150円で、今は1.576。営業利益率は開示どおり12.7%(営業利益250億円)。
工作機械
自動旋盤を中心とする工作機械(シチズンマシナリー、ミヤノ)。半導体、自動車、医療向けの精密部品加工機。
| 数量販売台数(台・推定) | 価格1台あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,400 | 0.25 | 862 | 77 |
| 10 年後 中立 | 3,900 | 0.34 | 1,325 | 166 |
取り方:台数は開示がないため推定。売上862億円を、自動旋盤中心の1台あたり約2,500万円で割ると約3,400台になる。価格はその1台あたり売上0.2535億円。営業利益は開示どおり77億円(利益率約9%)。
デバイスほか
セラミックス、電子部品、小型プリンターなどの電子部品・精密部品。
| 数量実質の出荷規模(2026/03=100) | 価格指数1あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 6.36 | 636 | 33 |
| 10 年後 中立 | 100 | 8.52 | 852 | 47 |
取り方:連結売上3,468億円から時計と工作機械を引いた約636億円を、実質の出荷規模100として置いた。営業利益は連結302億円から時計250億円、工作機械77億円、本社費等の調整(推定マイナス58億円)を引いた約33億円。デバイスの利益は開示の数字の確認ができず推定。
リスクと懸念
北米への集中と関税
時計の稼ぎは北米に偏っている。関税の引き上げや為替の変動が、価格競争力と利益率に直接響く。2026年3月期には、過去分の関税が特別損失に出た。北米の個人消費が冷えれば、時計の高価格帯への引き上げも止まりかねない。筋書きでは、悲観側の確率を厚くすることで織り込んだ。
工作機械の循環の深さ
工作機械は、半導体と自動車の設備投資に連動する。2009年3月期と2021年3月期はいずれも会社全体が赤字に沈んだ。足元の好調は中国の半導体関連の一部によるもので、その一服は営業利益に急に効く。筋書きでは、悲観側の確率を厚くすることで織り込んだ。
量産帯のスマートウォッチへの代替
世界のスマートウォッチ市場は年15%超で伸び、量産帯の時計を食っている。シチズンは1,500〜3,000ドル帯へ上がろうとしているが、上がり切れなければ数量が細る。中国勢との価格競争も続いている。筋書きでは、悲観側の確率を厚くすることで織り込んだ。
山の利益の持続性
営業利益率は2026年3月期の8.7%から10%超へ上がる見通しで、過去の最良(2005年3月期の約10%)を超える。過去の最良を超えた利益が続く保証はなく、倍率が縮む時に株価の下げは大きくなる。筋書きでは、悲観側の確率を厚くすることで織り込んだ。
ブランドの格と投資の重さ
ブローバやフレデリック・コンスタントは、スイス勢の格に届かない。アテッサやザ・シチズンの育成には、販促と機械式ムーブメントの増産に投資が続く。ブランドが育たなければ、投資が利益に変わらない。筋書きでは、悲観側の確率を厚くすることで織り込んだ。
資本が重く、還元が小さい
自己資本比率が6割を超え、ROEは10%前後。純現金が厚いのに自社株買いの金額の約束がなく、資本が価値を生みにくい。今後ROEが下がれば、高い倍率を支える理由が薄くなる。筋書きでは、悲観側の確率を厚くすることで織り込んだ。
今後の分かれ目
- 北米の時計売上が、関税の下でも2割近い伸びを続けたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし今の株価は、すでにかなり上の筋書きを織り込んでいる。
- 工作機械の受注が、半導体関連の一服で急に落ちたら
- やや悲観・悲観に重みを移す。時計の利益で受け止められるかを見る。
- 次の中期経営計画で、時計と工作機械の利益率目標が大幅に上がったら
- 中立の利益率を上げて見直す。ただし山の利益を前提にしていないかを確認する。
- 自社株買いが金額つきで発表されたら
- 資本効率の改善として評価する。倍率の上振れではなく、ROEの上昇で見る。
- スマートウォッチの普及が速まり、量産帯の数量が想定以上に落ちたら
- 時計の数量を下げ、やや悲観側に重みを寄せる。
- 関税率が大きく上がる、または北米の売上が急に落ちたら
- 時計の利益率前提を下方修正し、悲観の確率を厚くする。
見ておくもの
- 北米の時計売上の伸びと、自社ECの比率(目標12%)
- 工作機械の受注(特に中国の半導体関連、アジアのデータセンター向け)
- 営業利益率が10%を超えて維持できるか(時計12%・工作機械15%)
- 自社株買いの金額と、配当(自己資本の5%目安)の実績
- 関税率の変更と、時計の高価格帯(1,500ドル以上)の販売の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価にも過去・同業の倍率にも寄せず、事業の ROE と k 8%(基本 7.5%+循環 +0.5%・値決め +0.5%)から出した上限の 8〜9 割強に置いた。中立の PER は約 11 倍で、今の約 18 倍には届かない。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)に安全率を掛け、悲観は赤字なので売れる資産の床(純現金は全額、在庫・設備は簿価の 5 割)で置いた。純現金は約 470 億円で時価総額の 8.2% と 1 割に満たないため、余った現金は分けていない。時計は同じ領域のセイコー(8050)と同じ市場規模で置いた。店舗賃借の影響は小さく、新リース会計基準(2028/03 期〜)で営業利益が少し増え、純有利子負債と自己資本比率の形が変わる点は、10 年後の数字を今の形にそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→17.08 倍・やや楽観 PER 10.8→14.99 倍・中立 PER 10.9→12.96 倍・やや悲観 PER 11.2→11.9 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality +1.0%=8.5%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。