結論
JMS は、輸液・透析・採血に使う使い捨ての医療機器を作る会社だ。売上は約 660 億円で、日本が 5 割強、海外が 5 割弱を占める。透析用の針、輸液セット、血液バッグなどを病院と海外の大手に納める。
筆者の結論は、今の値段は割高、というものだ。時価総額は純資産の 0.26 倍と安く見える。だが営業利益率は 12 年で 0.6〜4.0% にとどまり、自己資本利益率は 10 年の中央値で 2% 台だ。借入は 280 億円あり、営業利益で利息を払いきれない年もある。
追い風は、透析の患者増と、フィリピンや韓国の拠点を立て直す再編だ。2027 年 3 月期は営業利益 10 億円への回復を会社は見込む。
逆風は、国内の償還価格の引き下げ、海外の血液バッグ向けの減収、借り換えによる利払いの増加だ。筆者は、10 年の中立は営業利益 14 億円にとどまり、純利益は 3 億円台と見る。簿価の厚さは、稼ぐ力の弱さを埋めない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「簿価は厚いが、稼ぐ力が資本コストに届かない会社」だ。
時価総額は純資産の 0.26 倍で、安く見える。だが自己資本利益率は 10 年の中央値でも 2% 台に過ぎない。資本コストを下回る事業の簿価は、価値の床にならない。
使い捨て医療機器という需要の安定は良い。だが価格を物価に連れて上げる力が弱く、人件費の上昇がそのまま利益を削る。海外拠点の赤字と再編も、資本の使い方が上手とは言えない証拠だ。
借入 280 億円は、金利が上がると重い。営業利益で利息を払えない年があるのは、安全域が薄いということだ。
筆者は、10 年の中立の価値は今の時価総額の 3 割に届かないと見る。再編が成功すれば上振れるが、その確率は高くない。経営が資本の使い方を変え、不採算の拠点を畳むのか、見極めたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、病院で使い捨てにされる医療機器の継続的な納入だ。
売上を領域で分けると、輸液・栄養が 240 億円、透析が 214 億円、血液・細胞が 134 億円、外科治療が 54 億円。透析用の血液回路や針、輸液セット、薬剤を安全に調製するクローズドシステム、成分献血の回路などを作る。
拠点は日本の広島などに加え、シンガポール、中国、フィリピン、ドイツ、韓国にある。日本の売上は約 450 億円(セグメント間の取引を含む)で、利益率は 2.1%。フィリピンは稼働率の低下と人件費の増加で、7 億円の営業赤字になった。韓国は生産拠点を再編し、特別損失を出した。
大口顧客は米国の採血機器メーカーで、売上は 65 億円と前期の 89 億円から減った。血液バッグと成分献血の回路が、海外で減収になっている。
2026 年 3 月期は営業利益 4 億円、最終損益 8 億円の赤字に沈んだ。2027 年 3 月期は営業利益 10 億円、純利益 6 億円の回復を見込むが、第 1 四半期は営業赤字で始まった。従業員は連結で約 3,000 人。
優良さと弱いところ
優良さは、使い捨て医療機器の継続需要にあるが、利益を出す力は弱い。
強みは三つある。一つは病院との長い取引で、使い捨ての針や回路は買い替えが定期的に起きる。二つは透析で、患者数が世界で増え、需要は景気に左右されない。三つは国内の製造と品質管理の信頼だ。
弱みは、利益が出ないことだ。営業利益率は 12 年で最高でも 4.0%、2024 年 3 月期は赤字になった。国内は償還価格の引き下げで、価格を物価に連れて上げられない。人件費と原材料の上昇が、そのまま利益を削る。
海外拠点の管理も課題だ。フィリピンの赤字と韓国の再編が、全社の利益を押し下げた。借入は 280 億円あり、営業利益で利息を払えない年がある。
経営は配当を年 4 億円ほどで保つが、利益を上回る年が続いている。品質への信頼はあるが、利益率に表れていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
使い捨て医療機器の需要は、高齢化と透析患者の増加で長く伸びる。
世界の慢性腎臓病の患者は約 6 億人で、2050 年に向けて増える。透析や輸液は手術を先延ばしにできる分野と違い、景気で減らない。国内は高齢化で患者が増えるが、医療費の抑制で材料の償還価格が定期的に下げられる。
競合は、テルモ、ニプロ、日機装のような国内大手と、世界ではバクスター、フレゼニウス、ベクトン・ディッキンソンだ。輸液セットや針は、中国・インドの低価格品と競り合う。差が付きにくい商品で、規模のあるニプロやテルモに価格交渉力で劣る。
血液バッグは、世界の血液事業者の再編と需要の変動を受ける。米国の大口顧客の発注は減っている。
10 年を通じて、数量は透析で伸びるが、血液バッグは縮む。国内では病院の統合が進み、購買の集約で価格交渉は厳しくなる。価格は物価に連れて上がるが、償還価格の引き下げと入札で、実質は下がる。人件費が物価で上がる分、利益率は圧迫される。為替の円安は海外拠点の利益を押し上げるが、150 円で固定する前提では効かない。
資本政策と M&A
資本政策の軸は、配当を保ちながら、借入で設備と再編を賄う姿勢だ。
年間配当は 2026 年 3 月期も 2027 年 3 月期予想も総額 4 億円ほどで、利益を上回る。自社株買いの実績は目立たない。
有利子負債は 280 億円、現金は 77 億円で、純負債は 188 億円。営業利益で利息を払えない年があり、借り換えのたびに金利が上がると、利払いが営業利益の大半を食う。
韓国の生産拠点の再編では特別損失を出した。フィリピンの稼働率を戻せるかが、次の課題だ。
事業の売却や統合による再編の可能性は、他の医療機器メーカーが規模を拡大する中で、常に残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
立て直しが進めば、純資産の厚さが生きる会社だ。時価総額は純資産の 0.26 倍で、自己資本比率は 5 割ある。工場と土地を持ち、売れる資産は多い。
フィリピンは稼働率が戻れば 7 億円の赤字が消える。韓国の拠点再編は 2026 年 3 月期に終わった。2027 年 3 月期は営業利益 10 億円、2028 年 3 月期は 12 億円への回復を会社は見込む。
透析は世界で患者が増え、AVF 針など日本の品質が評価される領域だ。新興国への展開が進めば、規模は 10 年で 1.4 倍にもなる。
国内の医療機器メーカーは再編の途上にある。透析や輸液は大手にとっても欲しい領域で、買い手がつけば価値が表に出る。大手が JMS の透析や輸液の事業を買収する可能性もあり、売却益が出れば借入を返せる。
営業利益率が 2020 年 3 月期の 4.0% を超えれば、時価総額は倍になりうる。医療機器は需要が景気に左右されず、立て直しの成果が数字に表れやすい。
慎重な見方
利益が出ない構造は変わっていない。営業利益率は 12 年のうち 9 年が 2.5% 以下で、2024 年 3 月期は赤字、2026 年 3 月期は最終赤字だ。2027 年 3 月期の第 1 四半期も営業赤字で始まった。
国内は償還価格が下がり続け、価格を上げられない。人件費と原材料は物価で上がる。海外の血液バッグは大口顧客の発注が減り、フィリピンは稼働率が低く赤字が続く。
借入は 280 億円で、営業利益で利息を払えない年がある。金利が上がると、利払いが営業利益を超える。配当は利益を上回る年が続き、自己資本を削っている。
純資産が厚くても、自己資本利益率が資本コストを下回る事業では、簿価は価値にならない。中国・インドの低価格品との競争で、輸液セットや針は値下がりしやすい。
大手のテルモやニプロとの規模の差が、価格交渉力の差になって表れている。借り換えのたびに金利が上がる点は、薄利の会社には致命傷になりうる。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、再編の完了と純資産の厚さに支えられる。慎重な言い分は、12 年続く薄利、利払いの増加、価格を上げられない構造に支えられる。
数字は慎重な側が強い。中立は営業利益 14 億円にとどまり、利払いで純利益が 3 億円台に縮む。純資産の厚さは、清算でもされない限り少数株主の取り分にならない。
結論は、今の値段は 10 年の稼ぐ力に比べて高い、というものだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 271 円66 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 151 円37 億円)。 今の値に割り戻すと 216 円53 億円、今との差 −51.9%、 期待の年率 −0.6%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,058 円260 億円 | 204 円50 億円 | +181.0% | +10.9% | 88 円22 億円 |
| やや楽観 | 20% | 522 円128 億円 | 188 円46 億円 | +58.0% | +4.7% | 142 円35 億円 |
| 中立 | 38% | 163 円40 億円 | 171 円42 億円 | −25.6% | −2.9% | 127 円31 億円 |
| やや悲観 | 22% | 102 円25 億円 | 118 円29 億円 | −51.0% | −6.9% | 48 円12 億円 |
| 悲観 | 13% | 61 円15 億円 | 61 円15 億円 | −72.8% | −12.2% | 16 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 271 円66 億円 | 151 円37 億円 | −6.1% | −0.6% | 422 円103 億円 |
今の株価時価総額 449 円110 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:透析が伸び、海外の赤字が消える 利益 23 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,058 円260 億円
フィリピン拠点を立て直し、韓国の拠点再編も終わる。輸液領域の利益率は 4% まで上がる。透析領域は新興国の患者増で規模が 1.4 倍になり、価格は 1.25 倍に上がる。
全社の営業利益率は 5% 台まで改善し、2020 年 3 月期の 4.0% を超える。本社費と再編の費用が減ることが裏づけだ。
売上は 985 億円、営業利益は 42 億円、純利益は 23 億円。借入の返済も進み、配当は増える。海外の血液事業の再編も進み、不採算の拠点を畳むことができる。
それでも国内の償還価格の引き下げは続き、価格は物価の 1.34 倍に届かない。
- 輸液・栄養領域:数量 276(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.25(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 345 億円・営業利益 14 億円。規模 1.15 倍、価格 1.25 倍
- 透析領域:数量 300(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.25(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 375 億円・営業利益 24 億円。規模 1.40 倍、価格 1.25 倍
- 血液・細胞・外科ほか:数量 204(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.30(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 265 億円・営業利益 13 億円。規模 1.00 倍、価格 1.30 倍
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.5% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 260 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:フィリピン拠点の赤字が止まり、透析が新興国で伸びる姿。10 年続く薄利の歴史があるので 7% に置いた。
やや楽観 20% やや楽観:赤字が止まり、営業利益率は 3% 台 利益 11 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 522 円128 億円
フィリピンの稼働率が戻り、輸液領域は黒字になる。透析領域は規模が 1.25 倍に増え、価格は 1.20 倍に上がる。
全社の営業利益は 25 億円で、営業利益率は 3.2%。2020 年 3 月期の 4.0% の手前に置く。
売上は 861 億円、純利益は 11 億円。借入は横ばいで、利払いが年 8 億円ほどに増える。配当は年 4 億円ほどを保てるが、増配までは届かない。国内の償還価格の引き下げが続くため、価格の上げ幅は物価を下回る。再編の費用が一巡し、特別損失も出なくなる。
血液バッグの大口顧客向けは減り続けるが、他の用途で一部補う。透析の針は新興国で伸びるが、国内の価格は下がる。
- 輸液・栄養領域:数量 252(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.18(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 297 億円・営業利益 9 億円。規模 1.05 倍、価格 1.18 倍
- 透析領域:数量 268(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.20(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 321 億円・営業利益 17 億円。規模 1.25 倍、価格 1.20 倍
- 血液・細胞・外科ほか:数量 194(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.25(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 242 億円・営業利益 10 億円。規模 0.95 倍、価格 1.25 倍
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 2.5% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 128 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の赤字が止まり、透析が伸びて 2027 年 3 月期の会社予想を超える姿。
中立 38% 中立:営業利益は 14 億円、利払いが利益を食う 利益 4 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 163 円40 億円
輸液領域の規模は実質で 1.0 倍。フィリピンの赤字は縮むが、国内の償還価格の引き下げで価格は 1.12 倍にとどまる。透析領域は規模が 1.15 倍で、価格は 1.15 倍。
営業利益率は 1.9% で、過去 12 年の中央値(1.7%)に近い。本社費は物価で 1.34 倍に増え、10 億円ほどかかる。
売上は 772 億円、営業利益は 14 億円。借入は 280 億円のままで、借り換えのたびに金利が上がり、利払いは年 9 億円に増える。純利益は 3.5 億円にとどまる。
配当は年 4 億円ほどを保ち、利益を上回る分は現金と資産の売却で払う。設備の更新は、建築費の上昇で償却を超える額が要り、現金は細る。
- 輸液・栄養領域:数量 240(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.12(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 269 億円・営業利益 5 億円。規模 1.00 倍、価格 1.12 倍
- 透析領域:数量 246(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.15(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 283 億円・営業利益 13 億円。規模 1.15 倍、価格 1.15 倍
- 血液・細胞・外科ほか:数量 184(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.20(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 220 億円・営業利益 7 億円。規模 0.90 倍、価格 1.20 倍
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 0.8% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 40 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の赤字は減るが残り、借入の利払いが営業利益の大半を食う形。最も起こりやすい形として最も厚く置いた。
やや悲観 22% やや悲観:海外の赤字が残り、利払いで赤字に 利益 −13 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 102 円25 億円
フィリピンの赤字が残り、血液バッグの大口顧客の発注が減り続ける。輸液領域の規模は実質で 0.9 倍に縮み、価格は 1.05 倍にとどまる。
営業利益はマイナス 3 億円。借入の利払いが年 10 億円に増え、純損益は 13 億円の赤字になる。
配当は 3 割減るが、なお利益を上回り、現金と資産の売却で払う。借入の返済は進まない。工場の整理と人員の削減が避けられず、再編の費用が重なる。海外の血液事業の縮小が続き、大口顧客への依存度だけが高まる。
設備の更新は先送りされ、競争力が落ちる悪循環に入る。借入の返済が止まり、金融機関との交渉が重くなる。
- 輸液・栄養領域:数量 216(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.05(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 227 億円・営業利益 −2 億円。規模 0.90 倍、価格 1.05 倍
- 透析領域:数量 225(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.08(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 243 億円・営業利益 7 億円。規模 1.05 倍、価格 1.08 倍
- 血液・細胞・外科ほか:数量 163(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.10(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 180 億円・営業利益 3 億円。規模 0.80 倍、価格 1.10 倍
倍率:稼ぐ力は赤字で測れず、ROE が k に届かないので簿価は床にならない。売れる資産の税後から借入を引いた 25 億円を、今の自己資本 417 億円に掛けた(PBR 0.06 倍)。
確率:海外拠点の赤字が残り、血液バッグの減収が続く姿。償還価格の引き下げで価格も上がらない。
悲観 13% 悲観:低価格品に押され、赤字が続く 利益 −25 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 61 円15 億円
中国・インドの低価格品が輸液セットと針で国内に入り、大口顧客は血液バッグの発注を大きく減らす。輸液領域の規模は 0.75 倍に縮み、価格は上がらない。
営業利益は 14 億円の赤字になる。利払いが年 11 億円に増え、純損益は 25 億円の赤字。配当は止まる。
工場の閉鎖と土地・設備の売却が進むが、借入 280 億円の返済に消える。
株主の取り分は、売れる資産と借入の差に近づく。他の医療機器メーカーへの事業の売却や統合の話も出うる。借入の返済が最優先になり、配当や設備投資は後回しになる。株主の発言力は弱く、借入の返済が最優先になる。
- 輸液・栄養領域:数量 180(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.00(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 180 億円・営業利益 −5 億円。規模 0.75 倍、価格 1.00 倍
- 透析領域:数量 193(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.00(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 193 億円・営業利益 2 億円。規模 0.90 倍、価格 1.00 倍
- 血液・細胞・外科ほか:数量 122(出荷規模(今の値段で換算した売上・億円))× 価格 1.00(値段の指数(今 = 1.0))→ 売上 122 億円・営業利益 −1 億円。規模 0.60 倍、価格 1.00 倍
倍率:床の資産で値を付けた。赤字で稼ぐ力は測れない。売れる資産の税後から借入を引いた 15 億円を、今の自己資本 417 億円に掛けた(PBR 0.036 倍)。
確率:低価格品と大手の価格攻勢、大口顧客の離脱が重なる構造的な負け筋。薄利の歴史と借入の重さから 1 割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
輸液・栄養領域
輸液セット、翼状針、薬剤調製・投与のクローズドシステム、栄養・摂食嚥下の用品。外部顧客向け売上の約 4 割。
| 数量出荷規模(今の値段で換算した売上・億円) | 価格値段の指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 240 | 1.00 | 240 | −1 |
| 10 年後 中立 | 240 | 1.12 | 269 | 5 |
取り方:売上 240 億円は決算説明の領域別の開示。領域別の利益は開示がなく、全社の営業利益 3.8 億円とフィリピン拠点の赤字(約 7 億円)から配分した推定。数量は開示がなく、今の売上を実質の規模とし、物価を価格の指数とした推定。
透析領域
血液透析用の針(AVF 針)、血液回路、急性血液浄化装置、透析用チェアなど。
| 数量出荷規模(今の値段で換算した売上・億円) | 価格値段の指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 214 | 1.00 | 214 | 7 |
| 10 年後 中立 | 246 | 1.15 | 283 | 13 |
取り方:売上 214 億円は決算説明の領域別の開示。利益は開示がなく、日本の利益率 2.1% より透析が高めという前提の推定。数量は売上からの推定。
血液・細胞・外科ほか
血液バッグ、成分献血用回路、細胞処理、外科治療用品、医療用手袋など。血液バッグは米国の大口顧客向けが大きい。
| 数量出荷規模(今の値段で換算した売上・億円) | 価格値段の指数(今 = 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 204 | 1.00 | 204 | 6 |
| 10 年後 中立 | 184 | 1.20 | 220 | 7 |
取り方:血液・細胞領域 134 億円、外科治療領域 54 億円、その他 16 億円の合計。利益は開示がなく、推定。大口顧客(米国の採血機器メーカー)向け売上は 65 億円で、前期の 89 億円から減った。
リスクと懸念
利払いの増加
有利子負債は 280 億円。借り換えのたびに金利が上がり、営業利益で利息を払えない年が増える。10 年で利払いは今の倍以上になる推定だ。
償還価格の引き下げ
国内の医療材料は、定期的に償還価格が下げられる。価格を物価に連れて上げられず、人件費と原材料の上昇がそのまま利益を削る。
海外拠点の赤字
フィリピンは稼働率の低下と人件費の増加で、7 億円の営業赤字になった。韓国は生産拠点の再編で特別損失を出した。立て直しに失敗すれば、赤字が長引く。
大口顧客の減少
米国の採血機器メーカー向けの売上は、前期の 89 億円から 65 億円に減った。血液バッグと成分献血の回路で、さらに減る可能性がある。
低価格品との競争
輸液セットや針は、中国・インドの低価格品と競り合う。テルモ・ニプロのような大手との規模の差が、価格交渉力の差になる。
配当が利益を上回る
年 4 億円ほどの配当は利益を上回る年が続いている。自己資本を削って払う形で、減配のおそれがある。
今後の分かれ目
- フィリピン拠点の営業赤字が止まる
- 全社の営業利益が 7 億円ほど改善する。やや楽観の確率を上げる。
- 営業利益率が 3% を超えて 2 期続く
- 構造の改善と確かめられる。楽観側の確率を上げる。
- 借入の金利が上がり、利払いが営業利益を超える
- 悲観の確率を上げる。配当の維持が難しくなる。
- 大手の医療機器メーカーが事業の買収を提案する
- 提示される価格は本質価値と別の話になる。10 年の中立の価値との差で判断する。
- 米国の大口顧客向けの売上がさらに減る
- 血液バッグの事業が縮む。やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 営業利益率と海外拠点(フィリピン・韓国)の損益
- 利払いと純有利子負債
- 大口顧客向けの売上
- 国内の償還価格の改定
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。k 8.75%(quality +1.25)、g 4%。中立の ROE は 1% 以下で k より低く、PER の上限は 1÷k の 11.4 倍。利益の質が低く利払いに食われるので上限の約 7 割の 8.0 倍とした。今の株価や PER は見ていない。簿価は ROE が資本コストを下回るので価値の床にしていない。工場の賃借は少なく、新リース会計基準の影響は小さい。設備の償却は取得時の値段のまま、更新の投資は建築費の上昇で膨らむ点を、中立の現金の細りとして書いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.7→11.43 倍・やや楽観 PER 9.7→11.43 倍・中立 PER 8→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。