結論
ノーリツ鋼機は、かつて写真現像機で知られた会社だが、今は音響機器・部品材料・建築部材を束ねる「ものづくり」の持株会社である。筆者の結論は、10 年で見れば今の値段はほぼ妥当、というものだ。
最大の資産は AlphaTheta、旧 Pioneer DJ である。クラブの DJ ブースで使う CDJ は事実上の標準で、世界シェアは 6〜7 割とされる。売上の約 6 割と、利益の大半を稼ぐ。そこに、米国で安いイヤホンを売る JLab が続く。2026 年 2 月には、建築部材のセンクシアを約 690 億円で買った。
この買収で、680 億円あった純現金はほぼ消えた。ここからは、買った事業を育てられるかが勝負になる。DJ 機器の需要が底堅く、JLab が米国の棚を取り続け、センクシアが計画どおりに働けば、純利益は 10 年で今の 1.8 倍ほどになる。
弱点は 2 つある。売上の 9 割超が海外で、DJ 機器もイヤホンも嗜好品だ。関税・為替・流行の変化にさらされる。もう 1 つは、AlphaTheta を除く事業の堀が浅いことだ。筆者は、高く買った事業が期待を下回る筋も、軽くは置けないと見る。強気と慎重を重ねると、期待できるリターンは資本コストと同じ水準に収まる。割安でも割高でもない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「一つの強い事業と、いくつかの普通の事業を持つ投資会社」として見るのがよい。強い事業は AlphaTheta で、堀は DJ の習慣と標準の地位だ。10 年後も、クラブのブースに CDJ があり続ける公算は大きい。
残りは、買った値段が問われる事業だ。JLab は成長しているが、堀は浅い。センクシアは国内首位の製品が多い堅実な事業だが、営業利益の 13 倍強という値段は安くない。のれんと無形資産が自己資本の相当な部分を占める以上、期待を下回ったときの傷は深い。
経営の資本配分は、これまでのところ良い実績が多い。AlphaTheta の買収と、JMDC の売却は、いずれも大きな価値を生んだ。一方で、医療・介護などに手を広げて撤退した歴史もある。筆者は、経営者が次の買収に使える現金を持ち続けていることを、強みであると同時に注意点とみる。
安全域は、今の値段にはない。利益の質は高いが、買収後の借入と無形資産の償却で、見かけの利益が下がっている。期待は資本コスト並みで、余裕を持って買える水準ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は AlphaTheta だ。クラブやフェスの DJ ブースに並ぶ CDJ と呼ぶプレーヤーとミキサー、入門者向けのコントローラー、DJ ソフトの rekordbox を作る。2025/12 期の売上は約 700 億円、事業 EBITDA(償却前の事業の稼ぎ)は約 190 億円。米国・欧州の比率が高く、ベトナムの新工場が 2026 年 1 月に竣工した。
JLab は米国の個人向けオーディオだ。完全ワイヤレスイヤホンなどを安く売り、大手小売店と通販で棚を広げている。売上は約 380 億円で、2026/12 期は為替を除いて 17% の増収を見込む。ただし利益率は 10% 台前半と、AlphaTheta より低い。
テイボーは、サインペンや蛍光ペンの先の部材で世界の半分以上を握る。年 50 億本以上を作り、売上は約 90 億円。2025 年 4 月に、金属粉末を射出成形する事業を浜松メタルワークスとして切り出した。こちらの売上は約 26 億円と小さい。
新しく加わったセンクシアは、建物の柱の根元をとめる柱脚、データセンターやクリーンルームの二重床、耐震補強を作る。日立グループの一員として 1972 年に創業し、2025/03 期の売上は約 354 億円、営業利益は約 51 億円だった。2026/12 期の連結売上は 1,676 億円と、前の期の 1.4 倍に増える計画だ。
優良さと弱いところ
優良さは、事業ごとにまるで違う。筆者は、堀、つまり他社がまねできない強みを、AlphaTheta だけに認める。DJ は、ブースに置かれた機器に合わせて練習し、曲の入った USB を持ち歩く。クラブ側もスタッフも同じ機器を前提に動く。この囲い込みが、世界シェア 6〜7 割という数字を支えている。入門機でも、いずれプロ機に上がる人を呼び込める。
JLab は違う。品質と値段で選ばれる商品で、乗り換えの費用がほとんどない。強みは、小売店の棚を取る営業力と、通販データの活用だ。これは経営の腕ではあるが、競合の Anker や Skullcandy が同じことをすれば消える。テイボーは世界首位でも、市場が小さく成長しない。センクシアは国内で首位の製品が多いが、買った値段が高い。
資本効率は、ROE が 7% 前後と平凡だ。ただし数字は、買収で生じた無形資産の償却と、過去の現金の重さで押し下げられている。事業 EBITDA で見れば、AlphaTheta の収益力は高い。
経営は、2018 年就任の CEO のもとで、医療・介護・再生医療などへ手を広げた時代の事業をほぼ整理した。JMDC の株を売って得た資金で、音響機器と部品材料に絞り直した。この組み替えは評価できる。残る不安は、買う側としての規律が、事業を重ねるうちに緩まないかである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
DJ 機器の市場は、規模の見方が定まらない。市場調査会社の推計は 7 億ドルから 28 億ドルまで開く。数字に頼るより、需要の動きを見たほうがよい。音楽配信で曲が手軽になり、DJ を趣味にする人が増えた。会社も入門機の伸びを成長の理由に挙げる。筆者は、実質の台数で年 3% 前後の伸びを中立に置く。競合は inMusic の Denon DJ や Numark、Roland、Native Instruments などだが、クラブの標準という点で AlphaTheta の位置は別格だ。
怖いのは関税と為替だ。売上の 9 割超が海外で、米国向けの比率が高い。2025 年は大きな混乱なく乗り切ったが、2026 年の計画は為替を円安に置いて余力を見込む形で、為替の逆回りには弱い。
イヤホンの市場は広いが、競争は激しい。米国では Apple が高価格を、Anker や Skullcandy、JBL が低価格を押さえる。機能が増えても値段は据え置かれる分野なので、実質の台数が伸びても金額はそれほど増えない。
ペン先は、文具の需要が新興国で伸びる一方、先進国は紙離れで減る。建築部材は、国内の建築が人口とともに細る。補うのは、データセンターの増設と、老朽化した建物の耐震改修だ。鉄骨の価格と職人不足が、利益の足を引く。
資本政策と M&A
支配構造は単純だ。創業家系の西本興産が 41.88% を持つ。買収される筋があるなら、動くのはこの親会社になる。
株主還元は、総還元性向 50% 以上と、DOE(自己資本に対する配当の割合)3.5%(2027/12 期までは 3.5%、その後 4.0%)を併用する。2026/12 期の配当は、年 80 億円弱の予想で、2025/12 期の配当性向は約 50% だった。自社株買いも実行している。利益の半分を戻し、残りを事業に回す設計だ。
M&A は、この会社の中心の行為だ。2020 年の AlphaTheta の買収は、当時で過去最大の借入を伴い、結果として大当たりだった。2022 年には JMDC の株を一部売り、ヘルスケアから撤退した。2026 年のセンクシアは約 690 億円で、営業利益の 13 倍強を払った。会社は、200〜300 億円の手元流動性を常に残し、周辺領域の買収を優先する方針だ。次の買収が重なれば、リターンは買う値段に大きく左右される。
手元には投資有価証券が時価で216億円あり、含み益は税引き後で約110億円ある。創業家系の親会社が4割強を持つので、売却して株主に戻る見込みは半分とみて、価値に半分だけ入れる。
点検済み:走査上の中立19.7%は、10年後の事業別の売上(センクシア買収後の合算)を過去の連結売上(買収前)で割った見かけの超え。事業別の合算売上を分母にすると中立15.2%で、過去の山(19.3%)・今期予想(15.9%)を超えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AlphaTheta は、DJ 機器で世界シェア 6〜7 割という、ほとんど独占に近い地位を持つ。クラブの標準機であることが、習慣と信頼の囲い込みを生む。入門機が裾野を広げ、そこで育った人がやがてプロ向けの上位機に移る。ベトナムの新工場は、関税と為替の両面で守りになる。
JLab は、米国の主要小売店で棚を取り、通販の成長と好循環を作った。為替を除いても 17% の増収を見込み、台数は 10 年で倍に近づく。テイボーのペン先は世界の半分を握り、需要は減らない。センクシアは国内首位の製品が多く、データセンターの増設と耐震補強という追い風を受ける。
経営は、写真現像機の会社から、音響機器・部品材料・建築部材の持株会社への組み替えを、わずか数年でやり遂げた。DOE と総還元性向の方針で、還元も約束している。事業 EBITDA は 2025/12 期の 257 億円から、2026/12 期は 355 億円へ増える。中計の営業利益率 15%・ROE 10% は届く範囲にあり、今の値段は成長を織り込んでいない。
慎重な見方
AlphaTheta の収益は、嗜好品である DJ 機器と、その 9 割超の海外売上に頼る。米国の関税、為替の逆回り、DJ ブームの一服のどれかが起きれば、台数も値段も同時に落ちる。2026/12 期の計画も、円安の余力を見込んでいる。ソフト中心の安い機器や中国メーカーが追い上げれば、CDJ の囲い込みもいつまでも続くとは限らない。
JLab は堀がない。大手小売りと通販に頼り、競合は Apple・Anker・Skullcandy・JBL と強い。値下げ競争が起きれば利益は簡単に消える。テイボーは世界首位でも、市場は小さく伸びない。
センクシアは、営業利益の 13 倍強という高い値段で買った。買収で生じた無形資産の償却が利益を押し下げ、のれんは減損の火種になる。純現金 680 億円は、1 つの買収でほぼ消えた。借入が増え、次の買収の余地は小さい。事業を増やすたびに目が行き届かなくなる持株会社の弱さも、過去の医療・介護への手の広げ方が示している。
どちらに重みを置いたか
AlphaTheta の堀の強さと、買収後の資本配分への不安は、どちらも相応に重い。標準機の地位は数字に表れており、強気の見方が事業の質では上回る。一方で、残りの事業の堀は浅く、買った値段が高いという懸念は、利益の質を落とす形で長く効く。確率は中立を最大にし、やや悲観にも楽観と同じ重みを置いた。結果として、10 年で期待できるリターンは資本コストにほぼ等しい。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,563 円3,778 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,012 円1,072 億円)。 今の値に割り戻すと 2,434 円2,580 億円、今との差 +15.3%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,825 円7,235 億円 | 1,530 円1,622 億円 | +296.0% | +14.8% | 668 円709 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,136 円5,445 億円 | 1,273 円1,350 億円 | +203.8% | +11.8% | 1,410 円1,495 億円 |
| 中立 | 38% | 3,922 円4,157 億円 | 1,101 円1,167 億円 | +138.0% | +9.1% | 1,909 円2,023 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,318 円1,397 億円 | 759 円805 億円 | −1.6% | −0.2% | 457 円484 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,073 円1,138 億円 | 236 円250 億円 | −37.9% | −4.7% | 131 円139 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,563 円3,778 億円 | 1,012 円1,072 億円 | +116.8% | +8.0% | 4,575 円4,850 億円 |
今の株価時価総額 2,110 円2,237 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% DJ 機器の標準が広がり、買収も当たる 利益 422 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 6,825 円7,235 億円
DJ 機器の裾野が新興国まで広がり、AlphaTheta は上位機から入門機まで標準の座を守りながら台数を伸ばす。ベトナムの新工場がコストと関税の両面で効き、利益率も上がる。JLab は米国の小売棚をさらに取り、欧州にも出て売上が 2 倍を超える。テイボーのペン先は横ばいでも、値上げが通る。センクシアは、データセンターの増設と建物の耐震改修で受注が積み上がる。
そのうえで、手元に積み上がった現金を使った次の買収も、本業の近くで当たる。事業は 4〜5 本の柱に育ち、中計の掲げる営業利益率 15% 以上と ROE 10% 以上を超える。持株会社としての資本配分の腕が、世間にも認められる 10 年になる。
- AlphaTheta(DJ 機器):数量 109(DJ 機器の出荷台数(万台))× 価格 931(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 1,515 億円・営業利益 371 億円。標準機の地位が続き新興国にも広がる
- JLab(個人向けオーディオ):数量 2,000(イヤホン・ヘッドホンの出荷台数(万台))× 価格 33(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 975 億円・営業利益 127 億円。米国の棚を広げ欧州へも出る
- テイボー(ペン先):数量 50.0(ペン先の出荷本数(億本))× 価格 2.45(1 本あたりの値段(円))→ 売上 123 億円・営業利益 16 億円。横ばいでも値上げが通る
- 浜松メタルワークス(金属射出成形):数量 1.3(部品の出荷個数(億個))× 価格 54(1 個あたりの値段(円))→ 売上 70 億円・営業利益 7 億円。新しい顧客を取る
- センクシア(建築部材):数量 4,200(対象市場(鉄骨建築の柱脚・二重床・耐震補強・土木、実質・億円))× 価格 15.8%(センクシアのシェア × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 664 億円・営業利益 83 億円。データセンターと耐震で伸びる(市場は実質で今の1.40倍、シェアは今のまま)
倍率:事業の純利益 419 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)125 億円。全体の PER 16.95 倍、時価総額 7,235 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:DJ 機器の需要・JLab の拡大・センクシアの成長がそろい、さらに次の買収まで当たる必要がある。条件が重なるので 8% にとどめた。
やや楽観 22% 3 本の柱がそろって育つ 利益 342 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 5,136 円5,445 億円
AlphaTheta は DJ を始める人の増加を受けて入門機が伸び、プロ向け上位機も標準の地位を保つ。台数は 4 割ほど増える。JLab は米国の主要小売店と通販で着実にシェアを取る。ただ、値段は新製品が安く出るので、物価ほどには上がらない。
センクシアは国内の建築が横ばいでも、データセンターの床と耐震補強で計画どおりに稼ぐ。買収で生じた無形資産の償却は、時間とともに利益を圧迫しなくなる。中計の売上目標にはほぼ届き、配当と自社株買いも総還元性向 50% を保つ。全社の営業利益率は 16% 台に乗り、ROE も 10% に近づく。強気には届かないが、持株会社としての組み替えが数字で確かめられる 10 年になる。
- AlphaTheta(DJ 機器):数量 99.4(DJ 機器の出荷台数(万台))× 価格 891(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 1,329 億円・営業利益 312 億円。裾野の拡大が続く
- JLab(個人向けオーディオ):数量 1,750(イヤホン・ヘッドホンの出荷台数(万台))× 価格 31(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 820 億円・営業利益 98 億円。米国で着実にシェアを取る
- テイボー(ペン先):数量 49.0(ペン先の出荷本数(億本))× 価格 2.45(1 本あたりの値段(円))→ 売上 120 億円・営業利益 15 億円。ほぼ横ばい
- 浜松メタルワークス(金属射出成形):数量 1.2(部品の出荷個数(億個))× 価格 54(1 個あたりの値段(円))→ 売上 63 億円・営業利益 6 億円。顧客が増える
- センクシア(建築部材):数量 3,840(対象市場(鉄骨建築の柱脚・二重床・耐震補強・土木、実質・億円))× 価格 15.8%(センクシアのシェア × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 607 億円・営業利益 67 億円。更新需要と DC が支える(市場は実質で今の1.28倍、シェアは今のまま)
倍率:事業の純利益 339 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)125 億円。全体の PER 15.68 倍、時価総額 5,445 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AlphaTheta の標準機としての地位は固く、JLab も着実に棚を取っている。会社の中計(売上の年 10% 超)に近い筋で、相応の重みを置いた。
中立 38% 市場並みに育ち、値段は物価並み 利益 281 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 3,922 円4,157 億円
AlphaTheta は市場並みの成長で、台数は 10 年で 3 割増える。競合の追い上げで少しシェアを失うが、標準機の堀は崩れない。JLab は米国でシェアを取り続け、台数は 5 割増える。一方で低価格イヤホンは機能が増えても値段が据え置かれるので、価格は物価ほど上がらない。
テイボーは本数がわずかに減り、値段は物価並み。センクシアは国内建築の需要が人口とともに細るが、データセンター向けが補い、実質で 2 割増える。全社の営業利益率は 15% 前後に落ち着き、中計の目標に届く。買収は 2026 年のセンクシアで一区切りとし、残りの利益は配当・自社株買いと借入の返済、それ以外の投資に回る。
- AlphaTheta(DJ 機器):数量 91.0(DJ 機器の出荷台数(万台))× 価格 891(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 1,216 億円・営業利益 268 億円。市場並みに伸びて少しシェアを失う
- JLab(個人向けオーディオ):数量 1,500(イヤホン・ヘッドホンの出荷台数(万台))× 価格 30(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 675 億円・営業利益 74 億円。値段は物価に届かず 1.2 倍(機能が増えても同じ値段・値下げ競争)
- テイボー(ペン先):数量 47.5(ペン先の出荷本数(億本))× 価格 2.45(1 本あたりの値段(円))→ 売上 117 億円・営業利益 14 億円。本数は微減・値段は物価並み
- 浜松メタルワークス(金属射出成形):数量 1.0(部品の出荷個数(億個))× 価格 54(1 個あたりの値段(円))→ 売上 56 億円・営業利益 5 億円。小さく伸びる
- センクシア(建築部材):数量 3,600(対象市場(鉄骨建築の柱脚・二重床・耐震補強・土木、実質・億円))× 価格 15.8%(センクシアのシェア × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 569 億円・営業利益 57 億円。国内の建築は横ばい・DC が補う(市場は実質で今の1.20倍、シェアは今のまま)
倍率:事業の純利益 278 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)125 億円。全体の PER 14.48 倍、時価総額 4,157 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強い事業と弱い事業が混ざり、どちらかに振れ切るより、全体が市場並みに育つ筋がいちばん起きやすいとみて最大の重みを置いた。
やや悲観 22% 消費の波と買収の重さで伸びが止まる 利益 154 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,318 円1,397 億円
DJ 機器の需要が頭打ちになり、AlphaTheta は競合の追い上げと関税で値下げを迫られる。台数は 1 割しか増えず、値段も物価に届かない。利益率は 17% まで下がる。JLab は米国で Anker や Skullcandy との値下げ競争が続き、営業利益率は 7% にとどまる。
センクシアは建築の落ち込みと鉄鋼の値上がりで利益が伸びず、買収で払った 690 億円に見合う稼ぎにならない。のれんの減損こそ避けるが、全社の ROE は資本コストを大きく下回る。配当は守るが、次の買収には動けない。
- AlphaTheta(DJ 機器):数量 77.0(DJ 機器の出荷台数(万台))× 価格 831(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 960 億円・営業利益 163 億円。競合の追い上げで伸びが鈍る
- JLab(個人向けオーディオ):数量 1,200(イヤホン・ヘッドホンの出荷台数(万台))× 価格 28(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 495 億円・営業利益 35 億円。値下げ競争で利益が薄い
- テイボー(ペン先):数量 42.5(ペン先の出荷本数(億本))× 価格 2.29(1 本あたりの値段(円))→ 売上 97 億円・営業利益 10 億円。本数が減る
- 浜松メタルワークス(金属射出成形):数量 0.8(部品の出荷個数(億個))× 価格 50(1 個あたりの値段(円))→ 売上 39 億円・営業利益 2 億円。伸びない
- センクシア(建築部材):数量 3,150(対象市場(鉄骨建築の柱脚・二重床・耐震補強・土木、実質・億円))× 価格 15.3%(センクシアのシェア × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 483 億円・営業利益 39 億円。建築の落ち込みと鉄の高騰(市場は実質で今の1.05倍、シェアは今のまま)
倍率:ROE 5.0%(k 7.5% を下回る)。RONIC=k 7.5%+残る割合 1/2×(5.0−8.0)=6.5%、g 4% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=9.6 倍。ためた利益の価値が額面を下回る筋なので、1÷k の 12.5 倍には届かない。嗜好品の売上が主力で利益の質も落ちるため、この式の値より低い 8.5 倍に置いた。 余った資産(投資有価証券の売却益課税後167億円)は戻り方0.5で足した。
確率:売上の 9 割超が海外で、消費の嗜好品が主力。関税・為替・流行の変化が長く続く筋と、高く買った事業の期待外れが重なる絵に、相応の重みを置いた。
悲観 10% 標準の座を失い、買収の荷が重くなる 利益 32 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,073 円1,138 億円
DJ の世界で、ソフトを中心にした安い機器や、中国のメーカーが標準の座に迫り、CDJ の囲い込みが解ける。AlphaTheta は台数も値段も落ち、営業利益率は 6% まで下がる。JLab は価格競争に負けて縮み、利益がほぼ消える。テイボーのペン先も、代替品が進んで本数が減る。
センクシアは、建築とデータセンター投資の冷え込みで利益が細り、買収で生じたのれんを大きく減損する。借入の返済を優先して還元も絞る。もはや優良な持株会社とは呼べず、持っている工場・在庫・売掛金などの資産の価値が値段を支える。
- AlphaTheta(DJ 機器):数量 59.5(DJ 機器の出荷台数(万台))× 価格 732(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 653 億円・営業利益 39 億円。標準の座を失い値下げに追われる
- JLab(個人向けオーディオ):数量 700(イヤホン・ヘッドホンの出荷台数(万台))× 価格 25(平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース))→ 売上 263 億円・営業利益 3 億円。価格競争に負けて縮む
- テイボー(ペン先):数量 37.5(ペン先の出荷本数(億本))× 価格 2.01(1 本あたりの値段(円))→ 売上 76 億円・営業利益 5 億円。代替が進む
- 浜松メタルワークス(金属射出成形):数量 0.5(部品の出荷個数(億個))× 価格 44(1 個あたりの値段(円))→ 売上 23 億円・営業利益 0 億円。赤字すれすれ
- センクシア(建築部材):数量 2,850(対象市場(鉄骨建築の柱脚・二重床・耐震補強・土木、実質・億円))× 価格 14.2%(センクシアのシェア × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 404 億円・営業利益 20 億円。建築と DC 投資が冷える(市場は実質で今の0.95倍、シェアは今のまま)
倍率:稼ぐ力は純利益 32 億円で、k で割ると約 399 億円にしかならない。売れる資産の床のほうが大きいので床で置く。今の自己資本 2,285 億円に取得後の純有利子負債(概算 10 億円)を足した事業用資産の 5 割が売れると仮定し、純有利子負債を返した 1138 億円で、今の自己資本の 0.50 倍にあたる。市場の値付けは根拠にしていない。
確率:標準機の座が崩れる確率は低い。それでも買収を重ねた持株会社で、嗜好品に偏る。10 年で優良さを失う筋は 5% を超える水準として 10% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
AlphaTheta(DJ 機器)
クラブ・フェスの DJ ブースで標準になっている CDJ(プレーヤー)・ミキサー・コントローラーと、DJ ソフト「rekordbox」。2020 年に旧 Pioneer DJ を買収。
| 数量DJ 機器の出荷台数(万台) | 価格平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 70.0 | 665 | 698 | 165 |
| 10 年後 中立 | 91.0 | 891 | 1,216 | 268 |
取り方:売上 699 億円(約 4.7 億ドル)を、入門機のコントローラー(数百ドル)からプロ向け CDJ(数千ドル)までの平均販売価格 665 ドルで割り、約 70 万台とみた。開示は無く推定。市場調査会社の DJ 機器市場は 6.6〜28 億ドルとばらつくので使わず、競合(inMusic の Denon DJ・Numark、Roland、Native Instruments など)との比較で、世界の DJ ハードのうち AlphaTheta は 4 割台後半、プロ用では 6〜7 割と見積もった。営業利益は事業 EBITDA 192 億円から償却と買収で生じた無形資産の償却を引いた推定。
JLab(個人向けオーディオ)
米国で完全ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンを安く売る。2021 年に買収。
| 数量イヤホン・ヘッドホンの出荷台数(万台) | 価格平均販売価格(ドル、メーカー売上ベース) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,000 | 25 | 375 | 41 |
| 10 年後 中立 | 1,500 | 30 | 675 | 74 |
取り方:売上 376 億円(約 2.5 億ドル)を、小売りへの卸値 25 ドルの平均で割り、約 1,000 万台とみた。開示は無く推定。価格は 10 年で物価(1.34 倍)に届かない 1.2 倍とした。低価格イヤホンは、機能が増えても同じ値段で売られ、中国・米国の競合との値下げ競争もあるため(楽観 1.3 倍、悲観は 1.0 倍)。競合は Skullcandy・Anker の Soundcore・JBL・Apple など。米国のイヤホン・ヘッドホン市場は百億ドル規模とみられ、JLab のシェアは 2〜3% と見積もる。営業利益は事業 EBITDA 50 億円から買収で生じた無形資産の償却などを引いた推定。
テイボー(ペン先)
サインペン・蛍光ペンなどのペン先部材で世界首位。2015 年に買収。
| 数量ペン先の出荷本数(億本) | 価格1 本あたりの値段(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 50.0 | 1.83 | 92 | 11 |
| 10 年後 中立 | 47.5 | 2.45 | 117 | 14 |
取り方:会社の説明(年 50 億本以上・約 3,400 種・45 カ国)の 50 億本に、売上 91 億円を 50 億本で割った 1 本あたり 1.83(単位は円)を置いた。世界シェア 50% 超という説明から、世界の需要は 100 億本前後とみる。競合は中国・欧州の小さなメーカー。営業利益は事業 EBITDA 24 億円から償却を引いた推定。
浜松メタルワークス(金属射出成形)
金属粉末を射出成形して小さな金属部品を作る。2025 年 4 月にテイボーから分社。
| 数量部品の出荷個数(億個) | 価格1 個あたりの値段(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.7 | 40 | 26 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 54 | 56 | 5 |
取り方:売上 26 億円を、小さな金属部品の 1 個あたり 40(単位は円・推定)で割り、約 6,500 万個とみた。開示は無く推定。事業 EBITDA は 3.5 億円で、償却を引くとほぼ収支均衡。 先の数量は実物(個数。量産ラインの立ち上げ)で、名目の市場の伸びではない。
センクシア(建築部材)
建物の柱の根元をとめる柱脚(ハイベース工法)・データセンターやクリーンルームの二重床・耐震補強を作る。2026 年 2 月に約 690 億円で買収。
| 数量対象市場(鉄骨建築の柱脚・二重床・耐震補強・土木、実質・億円) | 価格センクシアのシェア × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,000 | 11.8% | 354 | 33 |
| 10 年後 中立 | 3,600 | 15.8% | 569 | 57 |
取り方:国内の対象市場を実質 3,000 億円規模とみて(市場規模は推定)、2025/03 期の売上 354 億円をシェア 11.8% で置いた。買収は 2026 年 2 月だが、10 年の値を比べやすくするため、今の年換算を置く。営業利益は 2025/03 期の 51 億円から、買収で生じた無形資産の償却(推定 20 億円前後)を引いた約 33 億円。
リスクと懸念
米国の関税と為替
売上の 9 割超が海外で、AlphaTheta と JLab は米国向けの比率が高い。2025 年は大きな混乱なく乗り切ったが、関税の対象や率が変われば、仕入れと価格の両面で利益が削られる。2026/12 期の計画は円安の余力を見込んでおり、為替が逆に動くと余力は消える。
買収した事業の期待外れ
センクシアは約 690 億円で、営業利益の 13 倍強を払った。買収で生じたのれんと無形資産が、自己資本の相当な部分を占める。建築や半導体関連の投資が冷えて利益が計画を下回れば、減損で自己資本が大きく減る恐れがある。
嗜好品としての DJ 機器
DJ の裾野は広がっているが、機器は趣味の道具で、景気や流行に左右される。ソフト中心の安い機器や中国メーカーの追い上げで、CDJ の囲い込みが緩めば、台数と値段の両方が下がる。事業のほとんどの利益がここに集中している。
JLab の価格競争
米国のイヤホン市場は、Apple が上を、Anker・Skullcandy・JBL が下を押さえる。堀がなく、機能が増えても値段は上がらない。小売店の棚の取り合いで負ければ、売上も利益も短期間で縮む。
買収を重ねる持株会社の規律
今の経営は、事業の組み替えで実績を残してきた。一方で、医療・介護などに手を広げて撤退した歴史もある。200〜300 億円の手元流動性を持って次の買収を探す方針は、割高な案件を高く買う誘惑も生む。
親会社との関係
創業家系の西本興産が 41.88% を持つ。少数株主にとっては、買収の提案や還元の判断が、親会社の意向に左右される余地がある。逆に言えば、親会社が動く場合に限って、買収される道もある。
今後の分かれ目
- AlphaTheta の売上が為替を除いて 2 年続けて 2 桁増になる
- 裾野の拡大が一時的な動きでないとみて、DJ 機器の台数の伸びを上げ、中立の筋書きを強気側に寄せる。
- 米国が DJ 機器や家電に追加の関税を課す
- AlphaTheta と JLab の採算が悪くなるとみて、やや悲観の確率を上げる。ベトナム工場の稼働が防波堤になるかを見る。
- センクシアの営業利益が、買収時の水準(約 51 億円)を超えて伸びる
- 買った値段の割高感が薄れるとみて、建築部材の見通しを上げる。
- 次の大型買収を、借入を伴って発表する
- 資本配分の規律が問われるので、買った値段と買収後の ROE 見通しを確かめるまで、強気に寄せない。
- JLab の営業利益率が 1 桁に落ちる
- 米国の価格競争に押されている証拠とみて、やや悲観側に寄せる。
- 親会社が TOB や非公開化を打ち出す
- 買収価格が本質価値と比べて高いか低いかで判断する。事業の質は変わらない。
見ておくもの
- AlphaTheta の地域別売上と入門機・上位機の構成
- JLab の営業利益率と米国の小売店でのシェア
- センクシアの営業利益と、買収で生じた無形資産の償却
- 純有利子負債と手元流動性(200〜300 億円の方針)
- 米国の関税と、ドル・ユーロの為替
- 総還元性向 50% 以上と DOE の達成
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER・PBR を見ず、各筋書きの ROE・成長 g 4%・資本コスト 7.5%(基本 7.5% に循環 +0.5%)から、正当化 PER の上限と下限(1÷k)に置いた。ROE が k をわずかに超えるだけなので、中立の PER は 12.6 倍と、上限と下限の間に挟まれた。確率は、AlphaTheta の堀と、残る事業の堀の浅さ、買収の割高さを比べて決めた。今の株価に合わせて確率や利益率を調整していない。センクシアは 2026 年 2 月の買収で今期の決算に含まれないため、今を年換算して置いた。純現金 680 億円は買収で使うので余った現金として分けない。純利益÷営業利益は、買収の借入と無形資産の償却を考えて過去の中央値 0.77 よりやや低い 0.70 にした。IFRS 適用なので、リースは今も貸借対照表に載っており、新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→16.95 倍・やや楽観 PER 13→15.68 倍・中立 PER 12.6→14.48 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality +0.5%=8.0%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。