結論
松風は、人工歯や接着剤、充填材、CAD/CAM用の材料を作る京都の歯科材料メーカーだ。売上の94%が歯科で、海外が6割に迫る。筆者の結論は、今の値段は10年で見ればやや割高、というものだ。
理由は、稼ぎの水準に対して値段が先に上がっているからである。営業利益率はこの10年で6%台から13%台まで上がり、増収増益が4年続いた。ただ、2026年3月期は人工歯などで競争が厳しくなり、営業利益は前の期をわずかに下回った。会社は2028年3月期に営業利益率15%を掲げるが、本社工場の建て替えと中国第二拠点の償却が先に来る。
事業の質は悪くない。接着・修復材は歯科医が長く使い慣れ、切り替えに手間がかかる。財務は借金がなく、自己資本比率は84%と厚い。一方で、世界大手のデンツプライシロナや国内のジーシーに比べると規模は小さく、堀は普通と見る。
10年で効くのは、デジタル歯科の流れと中国の現地化だ。口腔内スキャナーと3Dプリンターで義歯を院内で作る動きが広がれば、人工歯は細る。逆に、CAD/CAM用の材料は伸びる。中立では、海外が緩やかに伸び、国内は微減とみる。この場合、10年後の時価総額は今の1.2倍ほどで、配当を足しても資本コストに届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、松風は「良い小さな会社」だが、「飛び抜けて安く買える会社」ではない。
良い点は、歯科材料という景気に左右されにくい需要を持ち、借金がなく、ここ4年で増収増益を続けたことだ。接着剤や充填材は、歯科医が使い慣れた分だけ切り替えにくい。経営は、配当性向の引き上げと政策保有株の縮減で、資本の使い方を改め始めた。
気になる点は、堀が世界大手ほど深くないことだ。国内は公定価格で値上げが通りにくく、海外は中国の現地メーカーが迫る。人工歯の競争悪化はすでに利益に出ている。加えて、10年のうちに新工場と中国第二拠点の償却が先に重くなる。
筆者がいちばん気にしているのは、稼いだお金の使い道だ。自己資本が積み上がるわりに、事業が稼ぐ率(ROE)は9%台にとどまり、資本コストを少し超える程度である。このため、利益が伸びても、倍率を高く置く根拠が弱い。今の値段は、中計の目標が達成される姿を先に織り込んでいる、とみる。安全域は薄い。
何で稼ぐ会社か
松風は1922年に人工歯の製造で創業した、京都の歯科材料メーカーだ。事業はデンタルとネイルの2つで、2026年3月期の売上は約400億円、デンタルがそのうち377億円を占める。
デンタルの製品は、人工歯、義歯の材料、接着剤、充填修復材、研削材、CAD/CAM用の材料と幅広い。歯科医院と歯科技工所に、代理店を通じて売る。国内の売上は165億円で、海外が約6割を占める。海外は中国が60億円、米国が49億円、ドイツが41億円だ。
海外は10年前から本腰を入れ、売上500億円(国内170億円、海外330億円)という長期の目標を2012年に掲げた。第五次中期経営計画は、その総仕上げにあたる。計画は2028年3月期に売上502億円、営業利益75億円を狙う。
生産は京都の本社工場が中心だ。2028年1月に新しい本社工場ができ、中国の常州に第二の拠点を2028年から稼働させ、ベトナムの工場も増強する。投資は4年で153億円に上る。
ネイル関連事業は、ジェルネイル用品などを売る小さな事業で、売上は22億円にとどまる。2026年3月期は利益が赤字に転じ、減損も出した。全社の利益には効かず、止血が課題だ。
優良さと弱いところ
松風の強みは、歯科医が使い慣れた製品が多く、切り替えに手間がかかることだ。接着剤や充填材は、操作のくせや仕上がりの癖を医師が覚えているので、すぐには他社品に替えられない。人工歯は創業以来の主力で、1958年には国内の義歯の生産の65%を占めた。長い歴史が技工所との信頼につながっている。
稼ぐ力は上がってきた。営業利益率は2015年3月期の6%から、2026年3月期の13%へ上がり、ROEも3%から10%に改善した。借金はなく、自己資本比率は84%と厚い。
弱い点は3つある。1つ目は規模だ。世界の歯科材料は、デンツプライシロナや3Mなどの大手が広く構える。国内のジーシーも強く、松風は上位には入るが、突き抜けてはいない。2つ目は人工歯の競争悪化で、2026年3月期にはっきり出た。3つ目は、歯科の医療費が公定価格で決まる国内では、値上げが通りにくいことだ。
資本の使い方は改善の途上にある。配当性向40%以上とDOE3%以上を打ち出し、株式の分割も行った。政策保有株の売却も進める。ただ、ROE13.5%という中計の目標はまだ遠い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
歯科材料は、高齢化と審美需要、デジタル化に支えられて世界で実質年3%前後伸びる、景気に強い市場だ。歯科用レジンは2026年に約28億ドル、年6%の成長という調査があり、ジルコニア系の材料も年8%近く伸びるとされる。ただ、調査会社ごとに数字の幅は大きい。
国内は事情が違う。歯科の診療は保険の公定価格で縛られ、材料の値上げが通りにくい。人口も減る。国内の需要は微減か横ばいで、伸ばすには高付加価値の製品へ移るしかない。
競争は二層に分かれる。高付加価値帯は、デンツプライシロナ、ジーシー、クラレ、3Mなどの大手が技術で争う。普及品の帯は、中国の現地メーカーが品質を上げ、価格で攻めてくる。中国は医療機関の調達で現地品を優先する動きが強まっている。
10年の構造変化の軸は、院内で義歯や被せ物を作るデジタル歯科だ。口腔内スキャナーと切削機、3Dプリンターで、技工所を通さずに作れる。CAD/CAM用の材料を持つ会社には追い風だが、人工歯や従来の技工材料には逆風になる。松風はCAD/CAM材料にも力を入れるが、機器を持たないため、大手のエコシステムの外に置かれる恐れがある。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。配当性向は30%以上から40%以上へ、DOE(純資産配当率)は1.7%から3.0%以上へ引き上げた。2026年3月期の配当は特別配当を含めて増配で、2027年3月期も特別配当を含めて増配を予想する。自社株買いの実績は確認できなかった。
政策保有株は、純資産の約20%から約10%に下げるため、40億円を売る計画だ。売った資金は、本社工場の建て替えや中国の第二拠点への投資に回る。計画期間の設備投資と投融資は153億円で、会社自身がネットキャッシュは減ると述べている。
M&Aは、能動的に進める方針だ。三井化学とサンメディカルとの業務提携を、研究開発・販売・生産に広げる。実際の買収の実績は多くない。
買われる側になる可能性は、下調べの推計で10年以内に16%台とされる。ここでは確認できた事実だけを書き、筋書きの確率には入れていない。
手元には投資有価証券が時価で87億円あり、含み益は税引き後で約30億円ある。縮減の方針はあるが、戻した実績は乏しいので、半分だけ価値に入れる。
点検済み:中立の営業利益率15.5%が会社予想(28年3月期14.6%)と過去最高(13.9%)を超え、海外が今の14.2%から17%へ上がる前提だったため、海外15%に置き直した(全社14.1%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
松風は、海外の歯科材料の伸びを最も素直に取り込める位置にいる。海外の売上は、4年前の約140億円から234億円まで広がった。接着剤や充填修復材、CAD/CAM用の材料は、デジタル化で世界の需要が伸びる分野だ。
営業利益率は6%台から13%台まで上がり、会社は2028年3月期に15%を掲げる。本社の新工場と中国・ベトナムの生産拠点が立ち上がれば、現地向けの製品を安く速く出せる。償却の負担は一時的で、その先は利益が伸びる。
財務は、自己資本比率84%で借金がない。配当性向を40%以上、DOEを3%以上に引き上げ、政策保有株も縮減する。資本の使い方が株主寄りに変わる転換点だ。世界の歯科材料が実質で年3%超伸びれば、松風は海外でシェアを少し上げるだけで、利益は二けた台の伸びを続けられる。しかも、ここ4年の利益の伸びは、価格の上げ幅と数量の伸びの両方から来ている。単なる円安の効果だけではない。
中国の第二拠点は、現地向けの製品を現地で作るための布石だ。現地調達の方針が強まっても、現地に工場がある外資は有利に動ける。
慎重な見方
2026年3月期は、売上は増えたのに営業利益が前の期をわずかに下回った。人工歯などで競争が強まったことが響いた。人工歯など一部の製品で競争が厳しくなり、利益率は13.9%から13.1%に下がった。ネイルは赤字で、減損も出した。
国内は公定価格で値上げが通らず、人口も減る。海外は中国の現地メーカーが普及品で力をつけ、現地調達の方針で外資が不利になる。松風の世界シェアは1%に満たず、大手のデンツプライシロナやジーシーに比べて規模が小さい。
2028年3月期の目標(営業利益75億円、ROE13.5%)は、利益を4割あまり伸ばす高い前提だ。その前に、新工場と中国第二拠点の償却と立ち上げの費用が先に来る。さらに、院内で義歯を作るデジタル歯科が広がれば、人工歯と従来の技工向け材料は細る。
今の株価は、中計の達成を先に織り込んでいる。ROEが9%台にとどまれば、倍率は下がる。
加えて、純現金がいくらあっても、投資の約153億円で減っていく。会社自身がネットキャッシュは減ると述べている。厚い財務は安全を支えるが、株主に戻る額を増やす材料にはならない。
どちらに重みを置いたか
事業の質は、強気の見方がやや優勢だ。借金がなく、海外が伸びて、利益率が上がってきた事実は動かない。一方、倍率を決める資本の稼ぐ力は、慎重な見方が強い。ROEは資本コストを少し超える程度で、堀は普通だからだ。
確率は、中立を中心に置き、やや悲観を楽観より少し厚くした。2026年3月期の人工歯の競争悪化は実際に起きており、新工場の償却が先に来る。中計の目標に届く筋書きは、やや楽観と楽観を合わせて3割台とした。
結果として、10年後の価値は今の時価総額を2割ほど下回り、やや割高になった。会社が悪いのではなく、今の値段が先に高いのだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,119 円1,113 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 755 円269 億円)。 今の値に割り戻すと 2,039 円728 億円、今との差 −6.8%、 期待の年率 +5.9%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,549 円1,980 億円 | 998 円356 億円 | +199.1% | +11.6% | 655 円234 億円 |
| やや楽観 | 25% | 4,503 円1,607 億円 | 883 円315 億円 | +146.1% | +9.4% | 1,347 円481 億円 |
| 中立 | 33% | 3,107 円1,109 億円 | 732 円261 億円 | +75.4% | +5.8% | 1,267 円452 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,480 円528 億円 | 644 円230 億円 | −2.9% | −0.3% | 467 円167 億円 |
| 悲観 | 10% | 877 円313 億円 | 510 円182 億円 | −36.6% | −4.5% | 139 円50 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,119 円1,113 億円 | 755 円269 億円 | +77.0% | +5.9% | 3,874 円1,383 億円 |
今の株価時価総額 2,189 円781 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% デジタル歯科の追い風を取り切る 利益 109 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 5,549 円1,980 億円
デジタル歯科の追い風を取り切り、海外で一段高い稼ぎ方に移る10年。CAD/CAM用の材料と接着・充填材が世界で広がり、海外のシェアは0.87%から1.0%まで上がる。中国の常州に作る第二工場とベトナム工場が立ち上がり、現地向けの製品を安く速く出せる。国内も、保険外の高付加価値品で値上げが通り、シェアは5.0%に乗る。人工歯のような古い主力の目減りは、新製品が埋めて余りある。ネイルは赤字を脱して小さな黒字に戻る。営業利益率は19%台に乗り、会社が2028年3月期に掲げる15%を大きく超える。ただ、ここまで取り切るには、新製品の連続ヒット、中国の価格競争の回避、為替の追い風が同時に要る。
- 国内のデンタル:数量 20.4(国内の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 9.75(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(国内は物価並みを下回る))→ 売上 199 億円・営業利益 34 億円。国内の歯科市場 20.4 億ドル(実質)× シェア 5.00%、価格は物価の 1.30 倍、営業利益率 17.0%
- 海外のデンタル:数量 252(日本を除く世界の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 2.01(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価並みの 1.34 倍が基本))→ 売上 507 億円・営業利益 106 億円。海外の歯科市場 252 億ドル(実質)× シェア 1.00%、価格は物価の 1.34 倍、営業利益率 21.0%
- ネイル関連:数量 24.0(年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 149(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 36 億円・営業利益 2 億円。ネイル 24 百万個 × 単価は今の 1.34 倍、営業利益率 5%
倍率:事業の純利益 108 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)56 億円。全体の PER 17.6 倍、時価総額 1,961 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の新製品と現地工場、為替がすべてうまく噛み合う必要があり、会社の目標(営業利益率15%)を大きく超える。実現すれば大きいが、連続して取り切る確度は高くない。
やや楽観 25% 海外の堅調な伸びで中計に近づく 利益 91 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 4,503 円1,607 億円
中計の筋書きに近い、堅調な10年。海外の歯科材料市場は実質で年3%台の伸びを保ち、松風は充填修復材とCAD/CAM材料を軸にシェアを0.95%まで広げる。国内は人口が減る中でも、デジタル対応の高単価品で売上を保つ。新工場の償却が重くなるが、海外生産の比率が上がり、営業利益率は17%台まで上がる。中国は価格競争が続くものの、現地工場で採算を保つ。ネイルは赤字が縮み、ほぼ収支が合う。配当は性向40%以上とDOE3%の方針どおりで、自己資本は着実に積み上がる。この筋書きでは、会社の目標に2、3年遅れで届き、世界の大手に負けない高付加価値の分野を一つ育てられる。ただ、国内の公定価格は変わらず、人工歯の目減りは続く。
- 国内のデンタル:数量 20.0(国内の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 9.17(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(国内は物価並みを下回る))→ 売上 183 億円・営業利益 28 億円。国内の歯科市場 20.0 億ドル(実質)× シェア 4.85%、価格は物価の 1.26 倍、営業利益率 15.5%
- 海外のデンタル:数量 243(日本を除く世界の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 1.91(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価並みの 1.34 倍が基本))→ 売上 464 億円・営業利益 88 億円。海外の歯科市場 243 億ドル(実質)× シェア 0.95%、価格は物価の 1.34 倍、営業利益率 19.0%
- ネイル関連:数量 21.0(年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 149(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 1 億円。ネイル 21 百万個 × 単価は今の 1.34 倍、営業利益率 3%
倍率:事業の純利益 90 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)56 億円。全体の PER 16.92 倍、時価総額 1,576 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の筋書きに近く、これまでの4年の増収増益(売上が約1.4倍)の流れが保たれる想定。海外の需要は強く、確度は比較的高い。
中立 33% 国内は微減、海外は緩やかに伸びる 利益 67 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 3,107 円1,109 億円
国内は微減、海外は緩やかな伸びで、利益率が少しずつ上がる10年。世界の歯科材料の需要は、高齢化と審美・デジタル化で実質で年3%弱伸びる。松風のシェアは海外で0.9%へ小幅に上がる程度で、国内は人工歯などの競争で4.7%へわずかに下がる。物価分の値上げは国内で十分に通らず、価格は物価並みを下回る。海外は物価並みに通る。営業利益率は新工場の稼働と海外比率の上昇で14%台まで上がる(会社の28年3月期予想は14.6%)。中国の現地メーカーは普及品で力をつけるが、高付加価値帯の接着・修復材は守れる。ネイルは収支とんとんが精一杯だ。会社の2028年3月期の目標よりは、遅れて届く。
- 国内のデンタル:数量 19.8(国内の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 8.60(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(国内は物価並みを下回る))→ 売上 170 億円・営業利益 24 億円。国内の歯科市場 19.8 億ドル(実質)× シェア 4.70%、価格は物価の 1.22 倍、営業利益率 14.0%
- 海外のデンタル:数量 234(日本を除く世界の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 1.81(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価並みの 1.34 倍が基本))→ 売上 423 億円・営業利益 63 億円。海外の歯科市場 234 億ドル(実質)× シェア 0.90%、価格は物価の 1.34 倍、営業利益率 15.0%
- ネイル関連:数量 20.0(年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 139(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 0 億円。ネイル 20 百万個 × 単価は今の 1.25 倍、営業利益率 1%
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)56 億円。全体の PER 15.36 倍、時価総額 1,075 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の中心の伸び(実質年3%弱)と会社の過去の利益率の改善を、中計より遅れて置く中心の筋書き。国内の人工歯の競争悪化を織り込む。
やや悲観 22% 中国の現地メーカーに普及品を取られる 利益 43 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,480 円528 億円
中国・アジアの現地メーカーに普及品を取られ、デジタルへの乗り遅れも重なる10年。中国で現地調達の方針が強まり、松風の中国向けは価格を下げながらの販売になる。海外のシェアは0.82%に下がり、価格も物価に追いつかない。国内も、人工歯や義歯の需要が減り、シェアが4.4%に下がる。本社工場の建て替えと中国第二拠点の償却が先に重くなり、営業利益率は11%台に落ちる。ネイルは赤字が続き、減損を重ねる。配当は方針どおりに保つので、自己資本の伸びは鈍い。事業は残るが、資本コストを上回れない会社になる。海外の売上は伸びても、利益は価格競争と償却に吸われる。ネイルの立て直しも遅れ、固定費が重くなる。会社は新工場の稼働を急ぐが、稼働率が上がるまでの時間が長引く。
- 国内のデンタル:数量 19.2(国内の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 7.59(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(国内は物価並みを下回る))→ 売上 146 億円・営業利益 16 億円。国内の歯科市場 19.2 億ドル(実質)× シェア 4.40%、価格は物価の 1.15 倍、営業利益率 11.0%
- 海外のデンタル:数量 216(日本を除く世界の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 1.60(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価並みの 1.34 倍が基本))→ 売上 345 億円・営業利益 43 億円。海外の歯科市場 216 億ドル(実質)× シェア 0.82%、価格は物価の 1.30 倍、営業利益率 12.5%
- ネイル関連:数量 16.0(年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 128(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 −1 億円。ネイル 16 百万個 × 単価は今の 1.15 倍、営業利益率 -4%
倍率:ROE 6.0%(k 7.5% 以下)。ためた利益は簿価未満の価値しかないので PER の上限は 1÷k の 13.3 倍。中国での価格下落と償却の先行で稼ぐ力が弱るため、上限の 7.9 割の 10.5 倍に置いた。 余った資産(投資有価証券の売却益課税後74億円)は戻り方0.5で足した。
確率:人工歯での競争悪化が2026年3月期に実際に起きており、中国・アジアの現地メーカーの台頭と新工場の償却負担の先行は現実味がある。慎重な見方のほうが強いとみて、確率をやや厚くした。
悲観 10% 院内製作と現地化で構造的に負ける 利益 12 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 877 円313 億円
構造的に負け、普通の会社に落ちる10年。大手が口腔内スキャナーと3Dプリンターを組み合わせ、歯科医院の中で義歯や被せ物を作る流れが定着する。松風が得意とする人工歯や、技工所向けの材料の需要が細る。中国では現地メーカーが品質を上げ、公的な調達で外資が締め出される。米国の関税も重なり、海外のシェアは0.7%に落ちる。新工場と中国第二拠点は稼働が低く、固定費が利益を食う。営業利益率は5%を割り、ネイルは撤退損を出す。配当は削るが、保有株の売却で一部は維持する。簿価の自己資本が稼ぎの裏付けにならない状態になる。
- 国内のデンタル:数量 18.2(国内の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 6.14(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(国内は物価並みを下回る))→ 売上 112 億円・営業利益 7 億円。国内の歯科市場 18.2 億ドル(実質)× シェア 3.90%、価格は物価の 1.05 倍、営業利益率 6.0%
- 海外のデンタル:数量 180(日本を除く世界の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質))× 価格 126.0%(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価並みの 1.34 倍が基本))→ 売上 227 億円・営業利益 11 億円。海外の歯科市場 180 億ドル(実質)× シェア 0.70%、価格は物価の 1.20 倍、営業利益率 5.0%
- ネイル関連:数量 12.0(年間出荷個数(百万個、推定))× 価格 117(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 −1 億円。ネイル 12 百万個 × 単価は今の 1.05 倍、営業利益率 -8%
倍率:稼ぐ力は純利益 約 12 億円を k 7.5% で割った約 155 億円しかなく、売れる資産の床のほうが大きい。純現金と保有株、事業用の資産を売った額 313 億円を、今の自己資本 485 億円に掛けて 0.65 倍とした。
確率:デジタル歯科による院内製作への移行と中国の調達方針の変化が重なる複合の筋書き。単独では起きにくいが、起きれば元に戻らないので、5%を超えて置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内のデンタル
人工歯・接着剤・充填材・研削材などを、歯科医院と技工所に代理店経由で売る。日本の売上 165 億円からネイル 22 億円を除いた分。
| 数量国内の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(国内は物価並みを下回る) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 7.12 | 142 | 20 |
| 10 年後 中立 | 19.8 | 8.60 | 170 | 24 |
取り方:日本の売上 164.7 億円からネイルの 22 億円を引き、国内のデンタルを 142 億円とした。国内の歯科材料・機器の市場は開示が無く、約 3,000 億円(20 億ドル)と推定した。シェアは 142 億円 ÷(20 億ドル × 150 円)で約 4.75%。営業利益は、デンタル全体の利益 53.3 億円を国内 14.0%・海外 14.2% と推定して配分した。市場は実質で置き、物価は価格の側に入れた。国内は診療報酬の公定価格で材料の値上げが通りにくいので、中立の価格は 10 年で今の 1.21 倍(シェアの微減を含む。物価並みの 1.34 倍に届かない)とした。
海外のデンタル
中国・米国・ドイツなどで歯科材料を売る。海外のデンタル売上は約 234 億円で、全体の約 6 割。
| 数量日本を除く世界の歯科材料・機器の市場(億ドル・今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(物価並みの 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 180 | 130.2% | 234 | 33 |
| 10 年後 中立 | 234 | 1.81 | 423 | 63 |
取り方:海外の売上は日本以外の合計 234 億円(中国 60・米国 49・ドイツ 41・その他 86 億円)。日本を除く世界の歯科材料・機器の市場を、調査レポートの歯科材料(レジン約 28 億ドル、ジルコニア約 5 億ドルなど)から実質で約 180 億ドルと推定した。シェアは約 0.87%。営業利益は推定の配分。
ネイル関連
ジェルネイル用品などを売る小さな事業。2026年3月期は赤字で、減損を計上した。
| 数量年間出荷個数(百万個、推定) | 価格1 個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 111 | 22 | −1 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 139 | 28 | 0 |
取り方:売上 22.3 億円・セグメント損失 1.1 億円(2026年3月期)。出荷個数は開示が無く、年約 2,000 万個と推定し、1 個あたりの単価に分けた。個数は実質、物価は単価に入れる。ネイルは価格競争が強く、中立の単価は 10 年で今の 1.25 倍(物価並みの 1.34 倍に届かない)とした。
リスクと懸念
人工歯の競争悪化
2026年3月期に、人工歯など一部の製品で競争環境が悪化し、営業利益が前の期を下回った。創業以来の主力で、利益への影響が大きい。デジタル歯科の広がりで、さらに需要が細る恐れがある。
中国の現地化と価格競争
中国は海外売上の約15%を占める最大の海外市場。医療機関で現地品を優先する動きが強まり、現地メーカーも品質を上げている。松風は常州に第二拠点を作るが、普及品の価格下落は避けにくい。
新工場・第二拠点の償却と稼働
本社工場の建て替え(2028年1月竣工)、常州の第二拠点(2028年から出荷)、ベトナムの増強で、4年で153億円を投じる。稼働が遅れれば、償却が利益を食い、純現金も減る。
国内の公定価格と人口減
国内は診療報酬の公定価格で、材料の値上げが通りにくい。人口も減り、国内の数量は微減が普通だ。海外の伸びで補えないと、全社の成長が鈍る。
デジタル歯科の主導権
口腔内スキャナー・切削機・3Dプリンターの大手が、材料まで囲い込む動きがある。松風は機器を持たず、材料の売り先が絞られる恐れがある。
ネイル関連の赤字
ネイルは売上22億円で、2026年3月期は赤字・減損だった。全社への影響は小さいが、立て直しか撤退かの判断が遅れると、利益の足を引く。
今後の分かれ目
- 2027年3月期に営業利益が会社予想の60億円に届き、人工歯の落ち込みが止まったら
- 中計の目標(2028年3月期に営業利益率15%)に近づくとみて、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- 2027年3月期に営業利益が50億円を割り込んだら
- 人工歯の競争悪化が広がっているとみて、やや悲観の確率を上げる。
- 中国の売上が2年続けて減ったら
- 現地メーカーと現地調達の影響が大きいとみて、海外のシェアの前提を下げる。
- 新工場や第二拠点の稼働が計画から半年以上遅れたら
- 償却と固定費で利益率が下がる期間が長くなるので、利益率の前提を下げる。
- 大手の機器会社と材料の提携が決まったら
- デジタル歯科での材料の売り先が確保できるので、CAD/CAM材料の伸びの前提を上げる。
- 政策保有株の売却や自社株買いが想定より大きく進んだら
- 資本効率の改善が早まるので、ROEの前提を上げて確認する。
見ておくもの
- 人工歯・充填修復材・CAD/CAM材料の製品別の売上
- 中国・米国・ドイツ別の売上と営業利益率
- 本社工場・常州第二拠点・ベトナムの稼働時期と償却
- 配当性向・DOEと政策保有株の売却の進み具合
倍率と資本コストの決め方
国内と海外のデンタルを、実質の市場 × シェア(価格の欄はシェア × 150 円 × 物価の倍率)で分けて置き、数量は実質、物価は価格に入れた。倍率は利益ベースの正当化 PER(k 7.5%、g 4%、残る割合は堀が普通で 1/2)の上限から、利益の質に応じて 9 割前後に置き、今の PER(約 17 倍)にも同業の倍率にも寄せていない。悲観は稼ぐ力より売れる資産の床のほうが大きいので、今の自己資本に 0.65 倍を掛けた。新リース会計基準の影響は小さく、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→17.6 倍・やや楽観 PER 14→16.92 倍・中立 PER 13.3→15.36 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality 0.0%=7.5%。内訳と理由は quality_why。同じ領域のナカニシ・マニー・オリンパスも 0.0%。松風は値決めで +0.5%、循環で −0.5% とし、合計を同じにした。