結論
島津製作所は、液体・ガスクロマトグラフ質量分析計(LC-MS・GC-MS等)を中心とする分析計測機器(売上の65%)を主力に、医用機器(X線診断装置等)・産業機器(半導体製造装置向けターボ分子ポンプ等)・航空機器(防衛向け航空機搭載品)を展開する精密機器会社である。分析計測機器はアジレント・ウォーターズ・サーモフィッシャーといった米系大手と並ぶ世界上位グループを形成し、保守・消耗品(リカーリング)の比率を45%から50%へ高める「脱・売り切り」戦略で収益の安定度を上げている。産業機器の中核であるターボ分子ポンプは半導体製造装置向けで世界シェア4割超を握り、AI投資による先端半導体の設備投資拡大を強く取り込んでいる。一方で、中国の製薬・CRO向け投資の弱さが分析計測機器の成長を繰り返し鈍らせており、2024年度には中国需要の落ち込みで四半期の純利益が2割減る場面もあった。10年の道筋は2026〜2028年度中期経営計画(最終年度売上高6,800億円・営業利益1,000億円)の達成度から始まり、半導体サイクルの持続と中国需要の回復度合いが株価の行方を左右する。今の時価総額はPER21倍・PBR2.25倍で、過去の倍率の幅の中では高めの水域にあり、楽観の実現を既にある程度織り込んだ値段だとみる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、島津製作所は分析計測機器という「研究機関・製薬企業が長年使い慣れた機器から簡単には乗り換えない」ニッチ市場で、米系大手と並ぶ世界上位グループの一角を占める、堀のある事業だと評価できる。ターボ分子ポンプで半導体製造装置向けに世界シェア4割超を握ることも、AI投資による先端半導体の設備投資拡大という強い追い風を受ける質の高い資産である。保守・消耗品(リカーリング)の比率を高める戦略は、装置の売り切りに依存しない安定した収益源を積み上げる動きで、株主のものになる利益の質を長期的に高める方向に働く。
一方、分析計測機器の中国向け販売が製薬・CRO投資の波に弱く、2024年度には四半期の純利益が2割減る場面があったように、業績のブレは小さくない。医用機器の収益力改善も道半ばで、新中計のM&A投資枠2,000億円の実行力は未知数である。自己資本比率77%・純現金1,608億円という財務の健全性は安全域を確保しており、今のPER21倍・PBR2.25倍という値段は、半導体向け事業の伸びと中国需要の回復をある程度前提にした、やや強気な将来を織り込んだ値段だと見る。
何で稼ぐ会社か
島津製作所の事業は4つのセグメントに分かれる。売上の65%を占める計測機器は、液体クロマトグラフ(LC)・ガスクロマトグラフ(GC)・質量分析計(MS)を組み合わせたLC-MS・GC-MSなどの分析機器が中心で、製薬・化学・食品・環境分析の研究機関や品質管理部門に販売する。2018年に参入したQ-TOF型質量分析計、2025年発売の小型LC-MS「LCMS-2050」やPFAS(有機フッ素化合物)分析向け高感度機「LCMS-8065XE」など新製品投入で高機能帯・新市場を開拓し、装置販売後の保守・消耗品(試薬・カラム等)を合わせたリカーリング売上の比率を45%から新中計目標の43%超、2035年に全社45%へ高める方針を掲げる。
売上の13%を占める医用機器はX線循環器・画像診断システムが中心で、不採算製品の整理と原価低減による収益力改善が課題。売上の13%を占める産業機器は、半導体製造装置に搭載するターボ分子ポンプ(真空排気装置)が中核で、世界シェア4割超を握り早期に5割への引き上げを目指す。先端半導体の投資拡大を受けて2027年3月期1Qは過去最高の売上・営業利益を記録した。中国天津の子会社に新たな生産ラインを設け、現地生産体制も強化している。売上の8%を占める航空機器は、防衛省向けの航空機搭載品(飛行制御装置等)で国内シェアNo.1の地位を持ち、日本の防衛予算拡大の恩恵を受ける。顧客は研究機関・製薬企業・病院・半導体メーカー・防衛省と幅広く、特定顧客への依存度は分析計測機器を中心に低い。
優良さと弱いところ
島津製作所の優良さは、ニッチ市場での高い技術力とシェアに支えられている。分析計測機器はアジレント・ウォーターズ・サーモフィッシャー・ダナハーという米系大手と並ぶ世界上位グループに入るが、各社とも事業規模で見れば島津より大きく、価格決定力は高機能帯(質量分析の高感度化等)でこそ強いものの、汎用品では競争に晒される。ターボ分子ポンプは半導体製造装置向けで世界シェア4割超と高く、Edwards・Oerlikon Leybold等との差はあるものの、実質的な寡占の一角を占める。ROEは10〜12%台で安定しており、自己資本比率は77%と高く、純有利子負債はマイナス(純現金)1,608億円と財務は健全。弱みは医用機器のセグメント営業利益率が7%前後と全社平均より低く収益力改善が道半ばであること、分析計測機器の中国向け販売が製薬・CRO投資の波に弱く業績のブレを生みやすいことである。経営は保守・消耗品(リカーリング)比率を高める方向に収益構造を変えつつあり、新中計のM&A投資枠2,000億円(前期比6割増)は消耗品メーカーや機器保守企業の取り込みを想定し資本効率の改善を後押しする計画だが、買収の実行力は未知数の部分もある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
分析・計測機器・産業機器という領域の需要は、研究機関・工場・プラントの設備投資件数に紐づく。世界の分析機器市場は2025〜2026年時点で550〜600億ドル規模、CAGR5〜6%とされ、アジレント・ウォーターズ・サーモフィッシャー・ダナハーが上位を占める寡占的な構図に島津製作所が加わる。中立では大学・製薬・環境分析向けの研究開発投資・品質管理需要の底堅い伸びで数量が年4〜6%、価格は高機能化で実質維持〜上昇し、全体で年5〜7%成長を見込む。ただし中国の製薬・CRO投資は2024年度に大きく落ち込み、2024年4-6月期は純利益10%減、4-9月期は2割減となる場面があった。インドなど他地域の2桁成長でも完全には相殺できておらず、中国の研究開発投資の回復度合いが当面の変動要因になる。
産業機器の中核であるターボ分子ポンプは、AI投資による先端半導体の設備投資拡大が強い追い風で、2027年3月期は日・欧・台・韓で好調。半導体製造装置向け真空ポンプの世界市場は島津とEdwards・Oerlikon Leybold等の少数企業で分け合う寡占構造で、島津はシェア4割超から5割への引き上げを目指す。悲観シナリオ(リーマン級)では、研究機関向け分析機器は企業の研究開発投資削減で過去に1〜2割の受注減となった実例があり、半導体製造装置向けの需要もプラント新設・設備投資が止まれば大きく落ち込む。10年の構造的な負け筋は、①中国・新興国メーカーの技術力向上による分析機器の価格破壊、②半導体の地場メーカー(中国)との競争激化、③中国の研究開発投資の長期停滞である。
資本政策と M&A
配当は2025年度の配当性向42.4%から2026年度予想は配当性向36.8%に下がる計画だが、増配自体は続く方針で、2024年度には250億円の自社株買いを実施した。新中期経営計画(2026〜2028年度)ではM&A投資枠を2,000億円と前中計の3年間比6割増に設定し、試薬等の消耗品メーカーや他社製機器の保守・修理を手掛ける企業の買収を想定、装置販売後のリカーリング事業の拡大を狙う。政策保有株は2026年3月末で連結総資産の6.3%、連結純資産の8.3%を占めるが、純有利子負債はマイナス1,608億円(純現金)で財務の余力は大きく、M&Aと株主還元の両立は資金面では無理のない計画である。買収の実行力・統合力は未知数で、2,000億円規模のM&Aが計画どおりに実行され、価値を生むかどうかが今後の資本配分の評価を分ける。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
島津製作所の分析計測機器は、研究機関・製薬企業が機器の操作や分析条件に習熟し、簡単には競合機器に乗り換えない「使い慣れ」の堀を持ち、アジレント・ウォーターズ・サーモフィッシャーと並ぶ世界上位グループの一角を占める。2018年のQ-TOF型質量分析計参入以降、小型LC-MSやPFAS分析向け高感度機など新製品投入を続け、高機能帯・新市場を開拓する技術力も健在だ。保守・消耗品(リカーリング)の比率を45%から新中計目標の43%超、2035年に全社45%へ高める「脱・売り切り」戦略は、装置の売り切りに依存しない安定した収益基盤を積み上げるもので、米競合に迫る収益構造への転換が進んでいる。
ターボ分子ポンプは半導体製造装置向けで世界シェア4割超を握り、早期に5割への引き上げを目指す。AI投資による先端半導体の設備投資拡大は構造的に続く需要で、2027年3月期1Qに過去最高の売上・営業利益を記録したことがその強さを裏付ける。中国天津での生産ライン新設は、半導体分野での現地対応力を一段と高める動きだ。新中計のM&A投資枠2,000億円は、消耗品メーカーや機器保守企業の取り込みでリカーリング収益をさらに積み上げる機会であり、自己資本比率77%・純現金1,608億円という健全な財務は、この投資を無理なく実行できる土台になる。中国の製薬需要が循環的な落ち込みから回復に向かえば、分析計測機器の成長も再加速し、半導体向け事業の伸びと合わせて、今の株価が十分に評価していない成長余地が残っていると評価できる。
慎重な見方
島津製作所の分析計測機器は、アジレント・ウォーターズ・サーモフィッシャー・ダナハーという米系大手と並ぶ「世界上位グループ」に入るとはいえ、各社とも事業規模では島津を上回り、価格決定力は高機能帯でこそ強いが汎用品では競争に晒される。中国の製薬・CRO投資は構造的に弱含みで、2024年度には四半期の純利益が10〜20%減る場面が繰り返し起きており、インドなど他地域の2桁成長でも完全には相殺できていない。中国・新興国メーカーが分析機器の技術力を高めれば、汎用品を中心に島津の実質シェアが侵食されるリスクは年々強まる。
ターボ分子ポンプで世界シェア4割超を握るとはいえ、半導体製造装置向けの需要は投資サイクルの波が大きく、今は先端半導体への投資拡大という上り坂にいるに過ぎない。中国は天津での生産ライン新設など現地対応を強めているが、裏を返せば中国の地場メーカーが装置・部品の国産化を進める構造変化の中にあり、長期的には価格競争が強まる可能性がある。医用機器は不採算製品の整理・原価低減という収益力改善が道半ばで、全社の営業利益率を押し下げる要因が残る。新中計のM&A投資枠2,000億円は前期比6割増という野心的な規模で、過去の買収がすべて成功してきたわけではない以上、消耗品メーカー・保守企業の統合に失敗すれば資本の無駄遣いになるリスクがある。今のPER21倍・PBR2.25倍という評価は、半導体サイクルの持続と中国需要の回復をある程度前提にしたものであり、どちらかが崩れれば業績の悪化を待たずに倍率そのものが縮む場面が起こりやすい。
どちらに重みを置いたか
事業の質については、分析計測機器の「使い慣れ」の堀とターボ分子ポンプの高シェアという強気の見方が妥当で、半導体向け事業がAI投資という構造的な追い風を受けている点は評価してよい。一方、中国の製薬・CRO投資の弱さが繰り返し業績を鈍らせてきた実績と、医用機器の収益力改善が道半ばである点、M&A投資枠2,000億円の実行力が未知数である点という慎重な見方の指摘も相応に重い。計算では、資本コスト6%(基本7.5%に循環+0.5%・値決め−0.5%・寿命−0.5%)と利益で測る正当化PERの8.5〜9割で倍率を決めると、10年後の中立の時価総額は今とほぼ同じで本質価値は今より3割ほど低く、やや楽観的な半導体サイクルの持続を前提にしても今の値段を大きく超えない。中国需要の回復ペースが読みにくいことから、確率は中立を軸にやや慎重側にも相応の重みを置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,044 円1.46 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 829 円2,396 億円)。 今の値に割り戻すと 3,436 円9,928 億円、今との差 −20.2%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 6.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,682 円2.51 兆円 | 1,207 円3,487 億円 | +129.8% | +8.7% | 989 円2,857 億円 |
| やや楽観 | 25% | 6,640 円1.92 兆円 | 975 円2,816 億円 | +76.9% | +5.9% | 1,904 円5,500 億円 |
| 中立 | 35% | 5,264 円1.52 兆円 | 846 円2,444 億円 | +42.0% | +3.6% | 2,139 円6,179 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,703 円7,810 億円 | 770 円2,224 億円 | −19.3% | −2.1% | 695 円2,007 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,326 円3,832 億円 | 149 円431 億円 | −65.7% | −10.2% | 148 円426 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,044 円1.46 兆円 | 829 円2,396 億円 | +36.5% | +3.2% | 5,873 円1.70 兆円 |
今の株価時価総額 4,304 円1.24 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体スーパーサイクルが10年続く 利益 1,210 億円 · PER 20.7 倍 · 株価時価総額 8,682 円2.51 兆円
AI・先端半導体への投資がこの10年にわたって構造的に拡大を続け、ターボ分子ポンプは世界シェアを過半まで高める。半導体製造装置向け真空ポンプの世界市場自体も大きく拡大し、島津は中国・台湾・韓国・欧州の先端ファブ向けに生産能力を積極的に増強する。分析計測機器は中国の製薬・CRO投資がリーマン後と同様に数年で回復し、インド・東南アジアの研究インフラ整備とあわせて世界の分析機器市場の成長を上回るペースで拡大、保守・消耗品(リカーリング)比率は全社で45%を超える。医用機器は不採算製品の整理が完了し収益性が改善、航空機器は日本の防衛予算拡大が続き安定成長する。新中計のM&A投資枠2,000億円を軸に消耗品・保守関連企業の買収を積極的に進め、2035年度の売上高1兆円という長期ビジョンを上回る水準に達する。
- 計測機器:数量 970(世界の分析機器市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.5%(シェア(島津の取り分))→ 売上 6,590 億円・営業利益 950 億円。市場成長超え+シェア拡大
- 医用機器:数量 145(該当ニッチ市場(億ドル)×シェア)× 価格 5.8%(シェア)→ 売上 1,251 億円・営業利益 90 億円。収益性改善完了
- 産業機器:数量 5,000(半導体製造装置向け真空ポンプ世界市場(億円))× 価格 52.0%(シェア)→ 売上 2,600 億円・営業利益 494 億円。世界シェア過半
- 航空機器:数量 2,537(防衛関連航空機搭載品市場(億円、国内+輸出))× 価格 39.7%(シェア)→ 売上 1,007 億円・営業利益 194 億円。防衛予算拡大が継続(市場は防衛予算の名目の伸びを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の純利益 1,210 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 6.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 2.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.7 倍。全体の PER 20.74 倍、時価総額 25,085 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体スーパーサイクルが10年続き、同時に中国需要も回復するという複数の好条件が揃う必要があるため10%にとどめる。
やや楽観 25% 長期ビジョンをほぼ実現 利益 974 億円 · PER 19.7 倍 · 株価時価総額 6,640 円1.92 兆円
2035年度に売上高1兆円という長期ビジョンにほぼ到達する。ターボ分子ポンプは半導体の設備投資拡大を安定して取り込み世界シェアを45%台まで引き上げ、分析計測機器は中国の製薬需要が緩やかに回復しつつインド等の成長が続く。保守・消耗品比率の向上も着実に進み、全社のリカーリング比率は目標の45%に近づく。医用機器の収益力改善も概ね計画どおり進み、航空機器は防衛予算拡大の恩恵を長期にわたって受ける。M&A投資枠の実行により消耗品・保守関連企業の取り込みも一定の成果を上げ、世界上位グループの一角としての地位を保つ。
- 計測機器:数量 900(世界の分析機器市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.4%(シェア(島津の取り分))→ 売上 5,940 億円・営業利益 820 億円。緩やかな回復と伸長
- 医用機器:数量 135(該当ニッチ市場(億ドル)×シェア)× 価格 5.4%(シェア)→ 売上 1,100 億円・営業利益 75 億円。改善ほぼ計画どおり
- 産業機器:数量 4,300(半導体製造装置向け真空ポンプ世界市場(億円))× 価格 47.7%(シェア)→ 売上 2,050 億円・営業利益 369 億円。シェア45%台
- 航空機器:数量 2,239(防衛関連航空機搭載品市場(億円、国内+輸出))× 価格 36.7%(シェア)→ 売上 821 億円・営業利益 131 億円。防衛予算拡大が続く(市場は防衛予算の名目の伸びを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の純利益 974 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 6.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 2.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.7 倍。全体の PER 19.7 倍、時価総額 19,186 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社自身が掲げる2035年度売上高1兆円という長期ビジョンの達成に相当するシナリオで、半導体需要の強さを踏まえ相応の重みを置いた。
中立 35% 長期ビジョンにはやや届かない中立 利益 792 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 5,264 円1.52 兆円
長期ビジョンの売上高1兆円には届かず、9,100億円程度にとどまる。中国の製薬・CRO投資の回復は緩やかで、分析計測機器の成長は世界の市場成長をわずかに上回る程度にとどまる。ターボ分子ポンプは半導体の設備投資拡大を取り込むが、中国地場メーカーとの競争も強まり、シェアは45%台半ばで足踏みする。医用機器の収益力改善は一定の成果を上げるが完全ではなく、航空機器は防衛予算拡大の恩恵を受けて堅調を保つ。保守・消耗品比率の向上は続くが、M&A投資枠2,000億円の実行は一部にとどまり、全社のROEは8%台半ばで資本コストを上回る水準で推移する。
- 計測機器:数量 850(世界の分析機器市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.4%(シェア(島津の取り分))→ 売上 5,546 億円・営業利益 680 億円。市場成長をわずかに上回る
- 医用機器:数量 125(該当ニッチ市場(億ドル)×シェア)× 価格 5.1%(シェア)→ 売上 950 億円・営業利益 60 億円。改善は不完全
- 産業機器:数量 3,600(半導体製造装置向け真空ポンプ世界市場(億円))× 価格 45.8%(シェア)→ 売上 1,650 億円・営業利益 281 億円。中国地場との競争で足踏み
- 航空機器:数量 2,052(防衛関連航空機搭載品市場(億円、国内+輸出))× 価格 34.6%(シェア)→ 売上 709 億円・営業利益 119 億円。防衛予算拡大で堅調(市場は防衛予算の名目の伸びを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の純利益 792 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 6.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.4%、10 年より先の名目の伸び g 2.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍。全体の PER 18.86 倍、時価総額 14,943 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中国需要の回復ペースが読みにくい中、長期ビジョンにやや届かない程度が最も実現しやすいとみて最大の重みを置いた。
やや悲観 20% 中国需要の長期停滞と競争激化 利益 598 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,703 円7,810 億円
中国の製薬・CRO投資の低迷が10年にわたって長引き、分析計測機器の成長が世界の市場成長を下回る。中国・新興国メーカーの技術力向上で汎用品のシェアが侵食され、ターボ分子ポンプも中国地場メーカーとの競争激化でシェア拡大が止まる。医用機器の収益力改善も進まず、全社の売上高は7,900億円程度、営業利益率は10%台前半にとどまる。航空機器は防衛予算拡大の恩恵を受けて下支えになるが、全社のROEは資本コストを下回る水準まで低下し、新中計以降のM&A投資枠の実行も慎重姿勢が続く。それでも自己資本比率の高さと純現金で財務の健全性は保たれる。
- 計測機器:数量 790(世界の分析機器市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.4%(シェア(島津の取り分))→ 売上 5,153 億円・営業利益 580 億円。市場成長を下回る
- 医用機器:数量 118(該当ニッチ市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.8%(シェア)→ 売上 850 億円・営業利益 45 億円。改善進まず
- 産業機器:数量 2,950(半導体製造装置向け真空ポンプ世界市場(億円))× 価格 39.0%(シェア)→ 売上 1,150 億円・営業利益 161 億円。中国地場との競争でシェア拡大止まる
- 航空機器:数量 1,866(防衛関連航空機搭載品市場(億円、国内+輸出))× 価格 30.0%(シェア)→ 売上 560 億円・営業利益 78 億円。下支え役(市場は防衛予算の名目の伸びを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:ROE 7.1%。RONIC=k 6%+残る割合 1/2×(7.1−7.0)=7.0%、g 3.5% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.4 倍、下限の 1÷k は 14.3 倍で、上限は 14.4 倍。中国需要が戻らず ROE が k 並みに落ちる筋書きなので、稼ぐ力に安全率を掛け、上限の 8.0 割の 11.4 倍に置いた。
確率:中国の構造的な需要停滞と新興国メーカーの技術力向上という、現実に進行している懸念がそのまま10年続く絵として相応の重みを置いた。
悲観 10% 構造的に競争力を失う 利益 106 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 1,326 円3,832 億円
中国・新興国メーカーの技術力向上が加速し、分析計測機器の汎用品市場で価格破壊が進む一方、島津の高機能帯への集中が追いつかず世界上位グループからの脱落が始まる。半導体製造装置向け真空ポンプも中国の地場メーカーが国産化を進め、島津のシェアは侵食される。医用機器・航空機器も予算執行の方向転換で伸びを欠き、全社の売上高は6,400億円程度と今とほぼ変わらない水準にとどまり、営業利益率は3%程度まで圧縮される。もはや世界上位グループの優良企業とは言えない状態だが、自己資本比率の高さ・純現金・政策保有株の含み益が清算価値の下支えとなり、株価の底を支える。
- 計測機器:数量 690(世界の分析機器市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.4%(シェア(島津の取り分))→ 売上 4,511 億円・営業利益 130 億円。世界上位からの脱落
- 医用機器:数量 100(該当ニッチ市場(億ドル)×シェア)× 価格 4.7%(シェア)→ 売上 701 億円・営業利益 10 億円。予算執行方向転換
- 産業機器:数量 2,200(半導体製造装置向け真空ポンプ世界市場(億円))× 価格 29.5%(シェア)→ 売上 650 億円・営業利益 33 億円。中国地場の国産化でシェア侵食
- 航空機器:数量 1,567(防衛関連航空機搭載品市場(億円、国内+輸出))× 価格 26.2%(シェア)→ 売上 410 億円・営業利益 15 億円。予算執行方向転換(市場は防衛予算の名目の伸びを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:赤字で稼ぐ力は無く、売れる資産の床で置く。事業用資産(今の自己資本 5,652 億円に純有利子負債 -1,608 億円を足した 4,043 億円)が簿価の 55% で売れると仮定し、純有利子負債 -1,608 億円を返すと 3,832 億円で、今の自己資本の 0.68 倍にあたる。純現金は全額、保守・消耗品の契約と工場などの事業用資産は簿価の 55% で数える。市場の値付けは根拠にしていない。
確率:10年という長い期間に競争力を失う会社は精密機器業種でも実例があり、5%未満にはしない水準として10%を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
計測機器
液体・ガスクロマトグラフ、質量分析計(LC-MS・GC-MS等)を中心とする分析計測機器。製薬・化学・食品・環境分析の研究機関・品質管理部門に販売し、保守・消耗品(試薬・カラム等)のリカーリング売上を拡大中。
| 数量世界の分析機器市場(億ドル)×シェア | 価格シェア(島津の取り分) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 570 | 4.3% | 3,649 | 526 |
| 10 年後 中立 | 850 | 4.4% | 5,546 | 680 |
取り方:GII等の世界の分析機器市場550〜600億ドル(中位570)に対し、計測機器売上3,649億円÷(570億ドル×150円)で逆算したシェア約4.3%を置いた。
医用機器
X線循環器・画像診断システムなど病院向け医用機器。不採算製品の整理・原価低減による収益力改善が課題。
| 数量該当ニッチ市場(億ドル)×シェア | 価格シェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 4.9% | 735 | 49 |
| 10 年後 中立 | 125 | 5.1% | 950 | 60 |
取り方:医用機器売上738億円から、ニッチ市場100億ドル(推定)に対するシェア約4.9%として逆算した。
産業機器
半導体製造装置に搭載するターボ分子ポンプ(真空排気装置)が中核。世界シェア4割超で早期に5割を目指す。
| 数量半導体製造装置向け真空ポンプ世界市場(億円) | 価格シェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,800 | 40.0% | 720 | 106 |
| 10 年後 中立 | 3,600 | 45.8% | 1,650 | 281 |
取り方:島津のターボ分子ポンプの世界シェア4割超(会社公表)から、産業機器売上715億円に対応する市場規模を1,800億円と逆算した。 2026年3月期の産業機器の営業利益は決算短信で約106億円(利益率14.8%)。全社の営業利益737億円との差(約26億円)は全社費用などの調整額で、筋書きの adjust_oku に分けた。
航空機器
防衛省向け航空機搭載品(飛行制御装置等)。国内シェアNo.1。
| 数量防衛関連航空機搭載品市場(億円、国内+輸出) | 価格シェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,700 | 25.5% | 434 | 82 |
| 10 年後 中立 | 2,052 | 34.6% | 709 | 119 |
取り方:航空機器売上434億円から、防衛関連航空機搭載品市場を1,700億円(推定)・シェア25.5%として逆算した。 先の数量は防衛予算の名目の伸びを物価 1.34 倍で割った実質の市場で置く(物価分は価格側)。
リスクと懸念
中国の製薬・CRO投資の波
分析計測機器の販売は中国の製薬・CRO向け投資の増減に強く影響され、2024年度には四半期の純利益が10〜20%減る場面が繰り返し起きた。中国の研究開発投資の回復が遅れれば、計測機器事業の成長ペースが長く鈍る。インドなど他地域の2桁成長でも完全には相殺しきれず、全社業績のブレの主因になりやすい。
半導体サイクルの反動
ターボ分子ポンプは先端半導体の設備投資拡大を強く取り込んでいるが、半導体の投資サイクルは山谷が大きく、投資が一巡すれば産業機器の増益ペースが急に鈍る可能性がある。過去にも半導体関連の需要は数年単位で山谷を繰り返しており、今の好調がそのまま続くとは限らない。
中国メーカーの技術力向上
分析機器・真空ポンプともに中国・新興国メーカーが技術力を高めており、汎用品を中心に価格競争が強まれば、島津の実質シェアと価格決定力が長期的に侵食されるリスクがある。中国は装置の国産化を政策的に進めており、現地メーカーの技術力向上のペースが読みにくい。
医用機器の収益力
医用機器は不採算製品の整理・原価低減による収益力改善が道半ばで、全社の営業利益率を押し下げる要因が残る。セグメント営業利益率は7%前後と全社平均より低く、改善が計画より遅れれば全社の増益ペースも鈍る。病院の設備投資サイクルの弱さも重なれば、改善は一段と遅れる。
M&Aの実行力
新中期経営計画のM&A投資枠2,000億円は前中計比6割増という野心的な規模で、消耗品メーカー・保守企業の買収・統合に失敗すれば資本の無駄遣いになるリスクがある。過去の買収がすべて成功してきたわけではなく、買収先の選定や統合後のガバナンスが今後の資本効率を左右する。
為替・関税の影響
海外売上比率が高く、米国の関税動向や新興国の通貨安が価格競争力・採算に影響する可能性がある。前提のドル円150円から外れる動きが業績のブレを増幅するほか、対中・対日の関税強化は分析計測機器・産業機器の輸出採算を直接圧迫しうる。
防衛予算の方向転換
航空機器は日本の防衛予算拡大を前提とするが、財政事情や安全保障政策の変化で予算配分が見直されれば、この分野の成長ペースが想定より鈍る可能性がある。国内シェアNo.1という地位自体は防衛省向けの特殊性で守られているが、予算の絶対額が変われば業績への影響は避けられない。
今後の分かれ目
- 中国の製薬・CRO投資が明確に回復する
- 分析計測機器の成長が再加速し、保守・消耗品比率の向上と相まって全社の増益ペースが上振れる方向に見通しを引き上げる。
- ターボ分子ポンプの世界シェアが5割を超える
- 産業機器の収益性がさらに高まり、半導体サイクルの反動があっても下支えとなる水準まで事業の規模が拡大したとみる。
- 新中計のM&A(投資枠2,000億円)の大半が未実行に終わる
- 資本配分の規律は保たれるが、リカーリング収益の積み上げペースが計画より遅れ、成長シナリオを下方に見直す。
- 半導体の設備投資サイクルが明確に反転・縮小する
- 産業機器の増益ペースが急速に鈍り、全社の業績見通しをやや悲観側に引き下げる。
- 医用機器が収益力改善を完了し全社平均並みの利益率に達する
- 全社の営業利益率が押し上げられ、中立シナリオをやや楽観側に引き上げる。
- 米国の対中・対日関税が大きく強化される
- 海外売上比率の高さから採算が圧迫され、見通しをやや悲観側に見直す。
見ておくもの
- 中国の分析計測機器向け受注・CRO投資の動向
- ターボ分子ポンプの世界シェア・半導体設備投資額
- 保守・消耗品(リカーリング)売上比率の進捗(新中計目標43%超)
- 新中計M&A投資枠2,000億円の実行状況
- 医用機器セグメントの営業利益率
- 日本の防衛関連予算・航空機器セグメントの受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER21倍・PBR2.25倍を基準に置かず、各時点の事業のROE・成長・資本コスト6%(基本7.5%に循環+0.5%・値決め−0.5%・寿命−0.5%)から正当化PERの上限を引き、楽観9割・やや楽観と中立8.5割に置いた(k−g≥3.5%でgは3.5%)。10年の本質価値が今より3割ほど低く出たのは、中国需要の波で分析計測機器のROEが伸びにくいと見たためで、今の株価に寄せて高さを調整していない。やや悲観はROEがk並みなので稼ぐ力(純利益÷k)に安全率を掛け、悲観は純現金と事業用資産(簿価の55%)の仮定の床で置いた。過去の倍率や谷の倍率は根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.4→20.74 倍・やや楽観 PER 14.4→19.7 倍・中立 PER 13.4→18.86 倍)。
資本コスト 6.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality -0.5%=7.0%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.00% → 6.00%。