結論
DMG森精機は、日本とドイツを拠点に世界で工作機械を売る業界の大手だ。筆者の結論は「ほぼ適正」である。受注は過去最高圏にあるが、稼ぐ力はまだ追いついていない。
2026年1〜6月の受注は前年同期から3割強伸びた。古い機械の更新と、半導体・データセンター・防衛向けの新しい需要が重なっている。ところが2025年12月期の営業利益率は3.7%にとどまった。受注が利益になるまでには時間がかかる。
会社は2028年度に売上6,800億円、営業利益685億円という計画を示した。実現すれば利益率は10%に乗る。筆者は中立でその8割ほどに置く。工作機械は景気で利益が大きく振れ、同社は過去3度赤字に落ちている。
8月の海外での新株発行で約480億円が入り、借金の重さは大きく和らいだ。ただし株は約1割増え、1株あたりの価値は薄まった。資金は工場とM&Aに回る。筆者は、これが吉と出るかを見極める段階だと考える。
資本コストは基本の7.5%に、受注で利益が振れる循環(+1%)などを足して8.75%とした。10年後の中立の時価総額は今を5割弱上回るが、確率の加重と割引では、本質価値は今の時価総額を1割弱下回り、総合では適正と出た。景気の山に近い利益を、今の値段は先取りしている面がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見る点は三つだ。事業の本質がわかりやすいか、資本の配分が上手か、払う値段に安全域があるか。
事業は理解しやすい。機械を売り、保守で長く稼ぐ。だが堀は、同じ産業の中でも傑出して広いとは言えない。世界の工作機械は競争が激しく、利益は景気で大きく振れる。これは持ち続けたい事業というより、よい時に買い、悪い時に待つ事業だ。
資本の配分は、ここへきて評価が割れる。新株の発行は財務を軽くしたが、株主の取り分を薄めた。それに見合うだけの利益が、数年のうちに生まれるかが試される。
安全域は、今の値段にはほとんどない。計画どおりの利益回復を前提にして、ようやく釣り合う水準だ。受注の勢いは本物でも、勢いと利益は別のものだ、と筆者は見る。確信度は中程度に置く。
投資家の目で見るなら、待つ姿勢も一つの答えだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は二つある。一つは工作機械の本体だ。旋盤にフライス盤の機能を足した複合加工機や、五軸で一度に複雑な形を削るマシニングセンタが主力で、自動化の装置とセットで売る。顧客は航空・宇宙、医療、自動車、半導体装置、エネルギーと幅広い。
もう一つが、売った後の保守・部品・改造、つまりインダストリアル・サービスだ。受注の約4分の1を占め、景気が冷えても減りにくい。世界に積み上がった稼働機が、毎年の収入の土台になる。
同社はドイツのDMG森精機AGを傘下に持ち、欧州の売上が3分の1強、米州が2割強を占める。欧州には独自の工場があり、ポーランドへの新工場計画もある。子会社のマグネスケール(測定器)やサキコーポレーション(検査装置)は、半導体向けで伸びている。
経営の看板は「MX」、つまり複数の工程を一台に集めて自動化し、顧客の工場の省人化と脱炭素を助ける提案だ。装置に載せるソフトとAIも自社で磨く。機械の値段を競うのでなく、顧客の工場全体の生産性で選ばれる形を目指している。
同社の機械は、1台数千万円から1億円を超えるものまである。受注から納入までに数カ月かかり、受注残が先の売上を決める。
優良さと弱いところ
強みは、世界規模の販売・保守網と、五軸・複合機という高付加価値の機種群にある。航空・防衛・医療のような精度が命の顧客は、安い機械へすぐには乗り換えない。ここが同社の堀、つまり他社がまねしにくい強みだ。
ただし堀は広くない。工作機械は世界に競合が多く、日本のヤマザキマザックやオークマ、ドイツ、台湾、そして中国の勢いがある。価格を決める力は中程度にとどまる。
資本の使い方は課題だ。ROEは2025年12月期で7.1%と、資本コストの10%を下回る。2024年12月期は純利益が77億円まで落ちた。営業利益の振れが大きく、利息の負担も重いため、受注が増えても最終利益が付いてこない。
一方で、機械1台あたりの受注単価は上がり、受注残は2,660億円まで積み上がった。事業の質は上向いている。あとは、この受注を利益率の高い形で売上に変えられるかだ。筆者がいちばん気にしているのはそこである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
いま工作機械は、近年でもっとも強い追い風の中にある。2026年上期の業界の受注は前年同期から3割以上増えた。中心はデータセンターと半導体、防衛、そして古い機械の置き換えだ。30〜40年前の機械を使い続けてきた工場が、人手不足を理由に更新へ動いている。
同社の上期受注は、中国が7割を超えて伸びた。中国は自動車向けが弱いはずだったが、同社には半導体や電子部品向けの需要が流れ込んでいる。ただし中国は自前の工作機械メーカーを急速に育てており、この需要が長続きするとは限らない。
もう一つの変化は、台数ではなく工程の置き換えが進むことだ。自動化とセットで売る比率が高まれば、価格は上がりやすくなる。保守・部品の収入も、稼働機が増えるほど積み上がる。
循環の怖さも忘れられない。リーマン後には、同社の営業利益率は赤字まで沈んだ。今回は受注の質がよく、谷は浅くなる余地がある。それでも工作機械は、受注がほぼ半年先の景気を映す資本財だ。山の近くで高い値段を払うのは、バリュー投資の観点では勧めにくい。
景気の山で買うか谷で買うかの差が、この業界では何よりも大きい。
資本政策と M&A
資本政策は大きく動いた。8月、会社は海外市場で1,500万株の新株を発行した。調達は約480億円、発行済み株式の約1割にあたる。使い道は、生産拠点と研究開発の設備、そしてM&Aだ。
これで借金の重さは和らぐ。今回の計画で資金を集めたということは、投資を急ぐという宣言でもある。年間約300億円の設備投資をまかなう前提で、2028年度の計画を組んだ。
株主への還元は、配当を軸に安定を重んじる。2025年12月期の配当は前の年を上回り、2026年度も同額を見込む。ただし、利益に対する配当の比率は100%を超える年があり、余裕は大きくない。自社株買いの発表は確認できなかった。
M&Aは、ドイツのDMG森精機AGの完全子会社化など、これまで欧州を軸に進めてきた。今後は測定・検査といった周辺分野への広がりが考えられる。同業大手との大型統合は、今のところ表に出ていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受注は上期だけで3,352億円と、半期で過去最高を記録した。しかも古い機械の更新、半導体、データセンター、防衛、医療、エネルギーと、需要の出どころが一つでない。2028年度から29年度にかけては各地で工場の建設も予定され、設備の注文が続く見通しだ。
機械1台あたりの受注単価は上がり、受注残は積み上がっている。自動化とセットで売る比率が高まり、サービスの収入も増える。今の利益率は3.7%と低いが、受注が売上に変わるにつれ、固定費の重さが薄れて急速に改善する。
会社の計画は2028年度に営業利益685億円で、かつて掲げた2030年に利益率15%という目標も生きている。新株の資金で工場を増強し、部品を自社で作れば、利益率はもう一段上がる。景気の山で大きく稼ぐ力は、2023年12月期に利益率10%を達成した実績が示している。
受注の質もよくなった。機械1台あたりの受注単価が前の年より上がっており、値引きに頼らず売れていることを示している。
慎重な見方
利益率は2025年12月期に3.7%まで落ち、2026年12月期の計画でも5%にとどまる。受注の勢いと利益は別の話だ。実際、2024年12月期は純利益が77億円に落ち込み、ROEは資本コストを大きく下回った。
受注の中心は、データセンターと半導体という一つの波に偏りつつある。同社の中国向けは上期に7割超伸びたが、中国は自前の工作機械を急速に育て、補助金で内製化を進めている。この需要はいつ反転してもおかしくない。
新株は財務を軽くした反面、1株の価値を薄めた。配当は利益を上回る年もあり、設備投資とM&Aに資金を回しながら、同時に配当を守るのは容易でない。ロシア事業の損失補償や、ドイツ子会社の統合の重さも抱える。
工作機械は、過去に3度、赤字に落ちている。受注が半分になれば、固定費の重い同社の利益は一気に消える。会社の計画は、受注が減らない前提の「一番よい姿」だ。
同社は、計画の達成に自信を示してきた。だが、直近の数年は、計画の下方修正が繰り返されてきた。
どちらに重みを置いたか
受注の質は確かによくなっており、計画の方向は間違っていない。だが、利益に変わるまでの道のりは長く、過去の最高益も一度しか見ていない。中立は、会社計画の8割ほどに置いた。
資本コストを上回るROEが定着するまでは、今の値段を正当化しにくい。確率は、やや悲観にも厚めに配り、構造的な負けの悲観にも1割強を置いた。新株で下値の安全度は上がったので、悲観の深さは浅めにした。10年の本質価値は今の時価総額を1割弱下回り、結論は適正になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 4,880 円7,625 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,178 円1,841 億円)。 今の値に割り戻すと 3,001 円4,690 億円、今との差 +11.8%、 期待の年率 +8.5%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 9,677 円1.51 兆円 | 1,856 円2,900 億円 | +329.6% | +15.7% | 1,384 円2,162 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,122 円1.11 兆円 | 1,504 円2,350 億円 | +221.3% | +12.4% | 1,898 円2,965 億円 |
| 中立 | 34% | 5,023 円7,848 億円 | 1,216 円1,900 億円 | +132.4% | +8.8% | 2,121 円3,314 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,721 円2,690 億円 | 864 円1,350 億円 | −3.7% | −0.4% | 517 円808 億円 |
| 悲観 | 12% | 831 円1,299 億円 | 320 円500 億円 | −57.1% | −8.1% | 138 円216 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,880 円7,625 億円 | 1,178 円1,841 億円 | +125.7% | +8.5% | 6,058 円9,466 億円 |
今の株価時価総額 2,685 円4,194 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 12% MXとAIが差別化に効き、利益率が15%近くへ 利益 1,023 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 9,677 円1.51 兆円
半導体・防衛・医療・エネルギーなど自動車以外の需要が10年続き、更新サイクルも回る。機械の販売は台数を大きく伸ばし、自動化とAIの付加価値で1台あたりの単価は物価を上回って上がる。サービスは稼働機の増加で収入が積み上がり、利益の柱に育つ。営業利益率は14%と、過去の最高圏に定着する。中国メーカーは汎用機で台頭するが、高精度・自動化の領域には届かない。新株の資金で作った工場と部品の内製化が、費用の面でも効く。ROEは14%近くに上がる。売上は1兆円を超え、世界の工作機械の上位に並ぶ存在として評価が改まる。
- 工作機械(本体・自動化・周辺):数量 7,940(機械の販売台数(台))× 価格 109(1台あたりの売上単価(百万円。自動化装置込み))→ 売上 8,639 億円・営業利益 1,037 億円。台数は10年で6.5割増(年5.1%)、単価は物価をやや上回る
- インダストリアル・サービス(保守・部品・改造):数量 24.5(保守対象の稼働機(万台))× 価格 120(1台あたりの年間サービス売上(万円))→ 売上 2,940 億円・営業利益 647 億円。稼働機は10年で6割増、単価は物価を上回る
倍率:事業の純利益 1,023 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.78 倍、時価総額 15,120 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社がかつて掲げた2030年の利益率15%が現実になるには、五軸・自動化・サービスの組み合わせが他社を大きく引き離し、10年続く必要がある。連続して成功する確度は高くない。
やや楽観 22% 世界の更新需要を取り込み、10%超の利益率が定着 利益 796 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 7,122 円1.11 兆円
半導体・データセンター・防衛が成長を支え、機械の販売台数は10年で5割ほど伸びる。自動化とセットで売る比率が高まり、単価は物価をわずかに上回る。サービスの収入も着実に増え、全社の営業利益率は12%と、過去の中位から上位へ切り上がる。中国の競争は続くが、同社の強みである五軸・複合機の領域は守られる。配当は増やせるが、設備投資とM&Aに資金が回るため、自己資本は積み上がる。ROEは12%近くまで改善する。売上は1兆円に届き、世界の更新需要の恩恵を長く受ける。2020年代後半の工場建設の波も、設備需要を支える。
- 工作機械(本体・自動化・周辺):数量 7,310(機械の販売台数(台))× 価格 108(1台あたりの売上単価(百万円。自動化装置込み))→ 売上 7,895 億円・営業利益 790 億円。台数は10年で5割増(年4.3%)、単価は物価並み
- インダストリアル・サービス(保守・部品・改造):数量 22.5(保守対象の稼働機(万台))× 価格 118(1台あたりの年間サービス売上(万円))→ 売上 2,644 億円・営業利益 529 億円。稼働機は10年で5割増
倍率:事業の純利益 796 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.98 倍、時価総額 11,128 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新需要や自動化の流れは構造的で、2023年12月期の10%水準が定着する確度は高い。ただし2桁後半の利益率には、より強い堀が要る。
中立 34% 中立:地位は守るが、ROEは資本コストにほぼ並ぶ 利益 600 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 5,023 円7,848 億円
世界の工作機械市場は実質で年2〜3%伸び、同社もその流れに乗る。台数は10年で4割増え、単価は物価並みに上がる。サービスは稼働機の増加で伸び、売上の4分の1を占める。営業利益率は10%と、2023年12月期の水準に戻り、循環をならした平均になる。中国メーカーとの競争で、汎用機の単価には下押しの力が働く。ROEは10%弱と資本コストにほぼ並ぶ。配当は今の1.4倍ほどまで増える。普通に強い大手として、長く稼ぎ続ける10年になる。売上は9,000億円台に乗る。景気の波で年ごとの振れは残るが、平均すれば安定した稼ぎを続ける。
- 工作機械(本体・自動化・周辺):数量 6,730(機械の販売台数(台))× 価格 107(1台あたりの売上単価(百万円。自動化装置込み))→ 売上 7,215 億円・営業利益 577 億円。台数は10年で4割増(年3.4%)、単価は物価並み
- インダストリアル・サービス(保守・部品・改造):数量 20.5(保守対象の稼働機(万台))× 価格 117(1台あたりの年間サービス売上(万円))→ 売上 2,390 億円・営業利益 430 億円。稼働機は10年で4割弱増
倍率:事業の純利益 600 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.08 倍、時価総額 7,848 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新・自動化という追い風と、中国・台湾勢の追い上げ、景気循環という逆風が釣り合う中心的な姿。会社計画より低い利益率に置く。
やや悲観 20% 中国・台湾の台頭で価格が崩れ、利益率が一桁前半に戻る 利益 277 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,721 円2,690 億円
中国メーカーが汎用機から中級機まで食い込み、同社の機械は単価が物価に届かず、台数も伸びが鈍る。高精度の領域では優位を保つが、全体の利益率は下がる。サービスは堅いが、機械の収入減を補いきれない。営業利益率は7%弱と、2018年12月期の水準まで下がる。設備投資と配当の負担は重く、ROEは6%に届かない。新株の資金で築いた生産能力が、需要の頭打ちで遊ぶ年も出る。売上は7,000億円台にとどまり、世界の大手の中での存在感はやや薄れる。景気の波は2回ほど来て、そのたびに利益が大きく削られる。ただし保守・部品の収入が土台を支え、赤字に落ちる年は少ない。
- 工作機械(本体・自動化・周辺):数量 5,290(機械の販売台数(台))× 価格 102(1台あたりの売上単価(百万円。自動化装置込み))→ 売上 5,417 億円・営業利益 244 億円。台数は10年で1割増(年1%)、単価は競争で物価に届かず
- インダストリアル・サービス(保守・部品・改造):数量 17.0(保守対象の稼働機(万台))× 価格 113(1台あたりの年間サービス売上(万円))→ 売上 1,921 億円・営業利益 288 億円。稼働機は微増、単価は物価に届かない
倍率:ROE 5.6% が k 8.25% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 11.4 倍まで。受注が戻らず利益率が薄いまま、ROE が k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 9.7 倍に置いた。 純有利子負債 858 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 7.2 倍。
確率:中国の工作機械の内製化と技術の向上が10年続けば、汎用から中級機にまで価格競争が及ぶ。業界ノートでも中国の自給率向上が最大のリスクとされている。
悲観 12% 構造的に負け、もはや優良とは言えない 利益 10 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 831 円1,299 億円
中国メーカーが中級〜高級機にも届き、同社の世界シェアは構造的に縮む。機械の販売は台数が2割減り、値引き競争で単価も物価に遠く及ばない。機械の事業は利益が出ない水準に沈み、保守・部品が何とか全体を黒字に保つ。ドイツ子会社ののれんの減損が出て、自己資本も目減りする。新株で築いた生産能力は過剰となり、配当は大きく削られる。ただし財務の厚みは保たれ、会社が存続できなくなるわけではない。競合の中国勢が世界の汎用・中級機の市場を取り、残るのは高精度の一部だけになる。売上は5,000億円ほどで、売上の水準が2010年代の初めに逆戻りする。還元が純利益を上回る分は、手元の現金と周辺事業・遊休資産の売却で払う。
- 工作機械(本体・自動化・周辺):数量 3,850(機械の販売台数(台))× 価格 92(1台あたりの売上単価(百万円。自動化装置込み))→ 売上 3,542 億円・営業利益 0 億円。台数は10年で2割減、単価は競争で物価に届かず
- インダストリアル・サービス(保守・部品・改造):数量 14.0(保守対象の稼働機(万台))× 価格 104(1台あたりの年間サービス売上(万円))→ 売上 1,462 億円・営業利益 161 億円。稼働機は微減、1台あたりの収入も伸びない
倍率:赤字に近い年が続き、堀も広がらない構造悲観。稼ぐ力はほぼ消えるので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 1,300 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。 純有利子負債 858 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 21.4 倍。利益が谷まで落ちた年なので、値は床の資産で測っており、EV の倍率は参考にしない。
確率:中国のキャッチアップと欧州の需要の減退、M&Aの失敗が同時に起きる形。10年という長さでは、ない話ではない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
工作機械(本体・自動化・周辺)
複合加工機・五軸マシニングセンタなどの機械本体と自動化装置、子会社の測定器・検査装置を含む、新品の機械を売る事業。
| 数量機械の販売台数(台) | 価格1台あたりの売上単価(百万円。自動化装置込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4,810 | 80 | 3,848 | 20 |
| 10 年後 中立 | 6,730 | 107 | 7,215 | 577 |
取り方:2025年の売上5,150億円から保守・部品の推定1,300億円を引いた約3,850億円を機械本体とし、受注単価(2025年平均79.6百万円)に近い80百万円で割って約4,810台とした。機械とサービスの利益の割り振りは開示がないので推定(機械は固定費の重さで低収益、サービスが利益を支える形)。
インダストリアル・サービス(保守・部品・改造)
稼働中の機械への保守・スペアパーツ・改造・エンジニアリング。受注の約23%を占め、景気の影響を受けにくい。
| 数量保守対象の稼働機(万台) | 価格1台あたりの年間サービス売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 15.0 | 87 | 1,305 | 190 |
| 10 年後 中立 | 20.5 | 117 | 2,390 | 430 |
取り方:2026年1〜3月のサービス受注357億円(年換算で約1,430億円)の見合いから、2025年の売上を約1,300億円と推定。保有台数15万台は推定で、1台あたり約87万円(万台×万円=億円)。
リスクと懸念
受注の循環と固定費の重さ
工作機械は景気の半年先を映す資本財で、受注が3〜4割落ちると固定費の重い同社の利益は一気に消える。過去20年で、2009年・2010年・2016年の3度、赤字に落ちた。今の過去最高の受注は、山の高さでもある。この点は、筋書きの確率と悲観の深さで織り込んだ。
中国メーカーの台頭
中国は工作機械の自給率を上げ、補助金で内製化を進めている。汎用機から価格競争が広がり、中級機にも及ぶ可能性がある。同社の中国向け受注は上期に7割超伸びたが、この流れは政策で反転しうる。この点は、筋書きの確率と悲観の深さで織り込んだ。
利益率の低さと資本効率
2025年12月期の営業利益率は3.7%、ROEは7.1%で、資本コストに届かない年が多い。2026年度の営業利益計画でも利益率は5%ほどにとどまる。会社が示した2028年度の10%水準に届くかが、価値を分ける。
新株の希薄化と投資の回収
8月の新株発行で約480億円を調達し、発行済み株式は約1割増えた。生産能力の増強とM&Aに使う計画で、投資の回収が遅れれば、1株あたりの価値が薄まったままになる。資金を集めた後の使い方が問われる。この点は、筋書きの確率と悲観の深さで織り込んだ。
為替と欧州の比重
売上の3分の1強が欧州で、会社の予想は今よりユーロ高の前提に立っている。本分析ではドル円150円で固定したが、円高・ユーロ安に振れれば、欧州の売上と利益は目減りする。この点は、筋書きの確率と悲観の深さで織り込んだ。
ロシア事業の後始末とのれん
ロシアのウリヤノフスク工場は事業を止め、ドイツの投資保険で損失の補償を求めている。結果が出るまで、特別損益の振れ要因になる。ドイツ子会社をめぐるのれんも、業績が崩れれば減損の対象になる。この点は、筋書きの確率と悲観の深さで織り込んだ。
今後の分かれ目
- 受注の勢いが2027年も続き、営業利益率が8%を超える
- 会社計画の達成が現実味を帯び、ROEが資本コストに並ぶ時期が早まる。本質価値は中立から楽観寄りに動く
- 工作機械の受注が前年比で2割以上落ちる
- 固定費の重さから営業利益が急減し、10年の筋書きはやや悲観に傾く。ただし新株の資金で財務は持ちこたえる
- 中国メーカーが中級機の価格を大きく下げ、同社の中国向け受注が反転する
- 機械の単価と台数の両方が下がり、10年後の利益率は一桁前半に戻りかねない
- 新工場とM&Aの投資が計画どおり利益に結びつく
- 部品の内製化と生産の効率化で利益率が一段上がり、ROEが資本コストを超えて定着する
- 自社株買いや増配など、希薄化を補う還元が打ち出される
- 資本効率への市場の見方が改まり、倍率が上がる余地が出る
- 同業大手との大型再編や、買収提案が表に出る
- 経営の自由度が変わり、一時的に値段が動く。ただし本質価値の計算は変えない
見ておくもの
- 日本工作機械工業会の月次受注(外需比率・中国向けの動き)
- 同社の四半期受注額と受注残(10月30日に第3四半期決算)
- 営業利益率の推移(2026年度計画5%台、2028年度計画10%)
- 新工場・M&Aへの投資の進み具合と、使途の開示
- ユーロ・ドルの動きと、欧州・米州の受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段(PER18.0倍・PBR1.27倍)を見ずに、その時点のROEと資本コスト8.25%(基本7.5%にquality+1.25%)から正当化PERを出し、楽観は上限の9割、やや楽観は8.5割に置き、中立は1÷kの床(約11倍)を下回らせない水準(上限の9割台)に置いた。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)で、悲観は赤字に近いので純現金+売れる資産の税後の床(約1,300億円)で測った。純利益÷営業利益は楽観側を過去並み(0.63)に置いた。今の時価総額は8月の新株(約1,500万株)を含む。調達した約480億円は純有利子負債858億円を実質的に約380億円まで軽くするが、数字の起点は帳簿の自己資本3,405億円に480億円を足して3,880億円とした。純現金ではないので余った現金は立てない。会社の財務はIFRSで、リースはすでに負債に載っているため、新リース会計基準による形の変化はない。10年後の数字は、今と同じ営業利益(EBIT)の形でそろえた。為替はドル円150円で固定し、会社の予想が置くユーロ高の前提とは切り離している。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.25% = 8.75%。受注の絶頂と利益率の薄さは k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。