結論
クラレは、他社がまねしにくい素材をいくつも持つ化学メーカーだ。食品包装のガスバリア樹脂「エバール」は世界シェアが約 6 割、液晶の偏光板に使う光学用ポバールフィルムは約 8 割とされる(いずれも会社の推定)。ただし筆者の結論は、今の値段に対してやや割高、というものだ。理由は、強い素材を持ちながら、資本の稼ぎが細いことにある。
2025 年 12 月期の純利益は 75 億円、ROE は 1% にとどまった。イソプレン関連などで 256 億円の減損を出したためだ。会社は 2026 年 12 月期に純利益 400 億円への回復を見込む。それでも ROE は 5% 台で、資本コストを下回る。
利益の柱はビニルアセテート事業だ。全社の営業利益の大半をここが稼ぎ、ほかの事業は薄利か赤字に近い。柱は太いが、折れれば全体が傾く。筆者はこの偏りを、強みと弱みの両面で見ている。
新工場が動き、赤字だったイソプレンが持ち直して、利益は戻る。それでも自己資本が大きいため、ROE が資本コストを超えるのは強気の筋書きだけだ。10 年後も同じ構図が続くと見る。
安全域は厚くない。純有利子負債は 1,766 億円あり、設備投資も続く。値段が帳簿の価値を下回る点は魅力に見える。だが帳簿の中身が稼がない資産なら、割安とは言えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見るなら、まず問うのは「株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益がいくら残るか」だ。クラレは営業のキャッシュを稼ぐが、その大半を設備に戻している。5 年間で営業のキャッシュ約 6,000 億円に対し、設備投資は 4,500 億円を見込む。残る分は多くない。
次に、残した利益を再投資して、資本コストを超える利益が出ているか。ここが弱い。自己資本は 7,400 億円と厚いのに、利益が追いつかず ROE は低い。厚い自己資本は安心材料だが、稼ぎが細ければ、その厚みは足かせでもある。
堀は本物だ。エバールの世界シェア約 6 割は、10 年先も大きくは崩れないと見る。この部分は、オーナーとして持ち続けたい事業だ。一方で、赤字や薄利の事業を抱えたままでは、全社の価値は上がらない。
安全域の目で見ると、値段は帳簿の価値より安い。だが帳簿の価値を稼ぎで裏づけられていないので、これを安全域とは数えない。筆者は、会社が資本を稼ぐ事業に絞る姿勢をはっきり示すまで、確信度を下げて置く。
何で稼ぐ会社か
クラレは 1926 年に人造繊維の会社として生まれた。今は売上の約 5 割を、ビニルアセテート事業が占める。酢酸ビニルを原料とするポバール(PVA)樹脂と、そこから派生する製品群だ。
中心は 3 つある。1 つ目は「エバール」で、酸素をほとんど通さない樹脂だ。食品や医薬品の包装、自動車の燃料タンクに使う。2 つ目は光学用ポバールフィルムで、液晶テレビやスマートフォンの偏光板の基材になる。3 つ目は合わせガラス用の中間膜と、洗剤の個包装に使う水溶性フィルムだ。
イソプレン事業は、合成ゴムの原料やエラストマーと、耐熱性ポリアミド樹脂「ジェネスタ」を扱う。ジェネスタは電気・電子や自動車の部品に使われ、伸びている。一方でケミカル部分は赤字が続き、2025 年に減損を出した。
機能材料は、メタクリル樹脂、活性炭、歯科材料などの集まりだ。2018 年に米国の活性炭大手を買って厚みを増した。繊維は不織布や高強度繊維などで、利益は薄い。トレーディングは繊維や化学品を扱う商社機能だ。
輸出と海外の工場が多く、為替の影響を受ける。円安なら円換算の利益は膨らむ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、ビニルアセテートの中核にある。エバールは世界シェアが約 6 割で、競合は三菱ケミカル系の日本合成化学(ソアノール)と台湾の長春石化(エバシン)に限られる。包装フィルムの会社は、食品の鮮度試験を通した樹脂を簡単には替えない。この切り替えの面倒さが、価格を守る力になる。
光学用ポバールフィルムも約 8 割を握る。ただし筆者は、ここを永久の堀とは見ない。ディスプレイが液晶から有機 EL へ移れば、偏光板の使い方が変わりうるからだ。
一方、メタクリル樹脂やイソプレンのケミカル、繊維は、中国やアジア勢との価格競争にさらされる。堀は薄い。会社も人工大理石やゴルフ場の売却、一部のエラストマーや銅張積層板の撤退を進めてきた。弱い事業を切る姿勢は評価できる。
いちばん気になるのは資本の使い方だ。中期経営計画は営業利益 1,000 億円と ROE 10% を掲げたが、2026 年の会社計画は営業利益 700 億円、ROE は 5% 台だ。設備投資は 5,000 億円に膨らんだ。投じた資本に利益が追いついていない。強い素材を持つのに、株主の取り分が育っていない。ここが弱点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
クラレの主戦場は、中国の増設で値崩れしている汎用化学品ではない。包装、ディスプレイ、自動車部品という、顧客の中に深く入り込んだ素材だ。化学業界全体の「構造的な供給過剰」とは、距離がある。
エバールの需要は、食品の包装と食品ロス対策で伸びる。新興国で包装食品が増える分が、数量を押し上げる。クラレは米国・ベルギー・日本で能力を増やし、シンガポールで 2026 年末に新工場を動かす。競合は少ないが、台湾の長春石化は増設を続けており、価格の下押しは避けられない。
光学用ポバールフィルムは、テレビの大型化とスマートフォンで量が決まる。足元はテレビの買い替えと部品の在庫積み増しで好調だ。ただし 2026 年の上期は、ビニルアセテート全体では約 15% の減益だった。中間膜は欧州・アジアで競争が激しく、水溶性フィルムは洗剤の個包装向けが弱い。
イソプレンは自動車と電子部品の景気に左右される。ジェネスタは伸びる一方、ケミカルは中国勢の安値に負けやすい。繊維は欧州の景気停滞と EV の生産調整が重しだ。
国内の石化は、エチレン設備の統合が進む。クラレは石化の川上をほとんど持たないので、その再編の傷は浅い。今後の分かれ目は、シンガポールの立ち上がりと、有機 EL への移行の速さだ。
資本政策と M&A
還元の方針は、総還元性向 50% 以上だ。2026 年 12 月期の配当は、創立 100 周年の記念分を含めて前期から増えた。先を見る基準は、記念分を除いた普通配当になる。あわせて 100 億円の自社株買いを終え、株は消却した。
問題は、還元の手前の資金繰りだ。2022 年からの 5 年で、営業のキャッシュは約 6,000 億円を見込み、設備投資は 4,500 億円、還元は 1,500 億円、買収は約 1,000 億円と配分した。足りない分は借り入れで補う。2026 年の上期も、フリーキャッシュは 30 億円にとどまった。
自己資本比率は 55.9% で、会社の目安の 50〜60% の中にある。ただし純有利子負債は 1,766 億円で、金利が上がる分だけ負担は重くなる。
M&A は 2018 年の米国の活性炭大手の買収が大きい。翌 2019 年は赤字になり、のれんの重さが残った。成功か失敗かは、まだ決着していない。次の中期経営計画の発表は未確認だ。筆者は、資本の効率を上げる具体策が出るかを最も見ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
エバールは世界シェア約 6 割の寡占で、包装の需要は新興国で増え続ける。シンガポールの新工場が動けば、数量は確実に積み上がる。しかも新工場は、これから稼ぐための投資が先に終わった形だ。減価償却が重い時期を越えれば、利益は一気に出る。
光学用ポバールフィルムは約 8 割を握り、テレビの大型化で量が伸びる。ビニルアセテートの益率は、2026 年の会社計画の水準へ戻りうる。
イソプレンは 256 億円の減損で資産を軽くした。これから先は償却が減り、ジェネスタの成長がそのまま利益になる。繊維や機能材料でも不採算の整理が進み、営業利益は会社が掲げた 1,000 億円を超えていく。
財務は健全だ。自己資本比率は 5 割を超え、配当は増やす方針で、自社株買いも続く。株は帳簿の価値を下回って売られている。資本効率の改善が見えれば、倍率が戻る余地は大きい。次の中期経営計画で、会社が資本効率を重視する姿勢を示せば、見直しは一気に進む。
慎重な見方
柱が 1 本しかない。ビニルアセテートが全社の利益の大半を稼ぎ、その中身も、光学フィルムは液晶という衰える用途に寄っている。有機 EL への移行が進めば、約 8 割のシェアはあまり意味を持たなくなる。
エバールは強いが、新工場の立ち上がりに合わせて、台湾の長春石化など競合も増設している。数量が増えても、単価の下押しで利益は伸びにくい。中間膜と水溶性フィルムは、すでに上期で減益の要因になった。
資本の効率が、10 年近く改善していない。営業利益 1,000 億円の旧目標に対し、2026 年の会社計画は 700 億円だ。5,000 億円の設備投資に見合う利益が出ていない。2019 年の赤字と今回の減損が示すように、投資を回収できなかった例がある。
純利益が 400 億円に戻っても、ROE は 5% 台だ。これは資本コストを大きく下回る。つまり株主から見れば、自己資本を増やすほど価値は薄まる。値段が帳簿の価値より安いのは、市場がそれを織り込んでいるからだ。金利が上がれば、純有利子負債 1,766 億円の利払いも増える。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。素材の堀は本物で、10 年後も事業は残る。しかし 5,000 億円の設備投資に利益が追いついておらず、ROE が資本コストを超えるのは強気の筋書きだけだ。この点は、強気の見方でも反論しにくい。
このため確率は、やや悲観と悲観に厚めに置いた。ただし悲観の中身は、PBR の床が効く範囲にとどめた。事業そのものが消える筋書きではないからだ。結果として、本質価値は今の値段をやや下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,711 円8,169 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 968 円2,918 億円)。 今の値に割り戻すと 1,990 円5,996 億円、今との差 +9.8%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 5,965 円1.80 兆円 | 1,547 円4,662 億円 | +314.4% | +15.3% | 676 円2,037 億円 |
| やや楽観 | 21% | 4,025 円1.21 兆円 | 1,258 円3,789 億円 | +191.4% | +11.3% | 1,109 円3,342 億円 |
| 中立 | 34% | 2,924 円8,811 億円 | 1,056 円3,183 億円 | +119.6% | +8.2% | 1,353 円4,078 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,006 円3,032 億円 | 613 円1,848 億円 | −10.7% | −1.1% | 372 円1,122 億円 |
| 悲観 | 13% | 796 円2,399 億円 | 498 円1,500 億円 | −28.6% | −3.3% | 168 円507 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,711 円8,169 億円 | 968 円2,918 億円 | +103.0% | +7.3% | 3,680 円1.11 兆円 |
今の株価時価総額 1,813 円5,463 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 9% 強気:エバールが伸び、資本効率が上がる 利益 1,124 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 5,965 円1.80 兆円
エバールは世界の包装需要を取り込み、数量が 4 割近く伸びる。新工場の償却が軽くなり、ビニルアセテートの益率は 18% に達する。光学フィルムは有機 EL への移行を避け、車載や大型用途で数量を保つ。イソプレンはジェネスタの拡大で益率 10% を確保する。機能材料は活性炭と歯科材料が柱になり、メタクリルは縮小を終える。会社は低益率の事業の売却を完了し、設備投資を絞って還元を厚くする。ROE は 10% を超え、資本コストを上回る。株主の取り分が育ち、倍率は大きく戻る。10 年の物価上昇も、素材の値上げで売上に乗る。ただし、この水準まで資本効率が上がるには、中期経営計画の積み残しを片づける必要がある。
- ビニルアセテート:数量 52.4(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 143(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 7,477 億円・営業利益 1,346 億円。益率18.0%
- イソプレン:数量 11.6(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 135(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 1,562 億円・営業利益 156 億円。益率10.0%
- 機能材料:数量 16.3(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 217(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 3,518 億円・営業利益 352 億円。益率10.0%
- 繊維:数量 5.0(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 181(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 895 億円・営業利益 63 億円。益率7.0%
- トレーディング:数量 19.6(取扱量の重さ換算(万トン))× 価格 54(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 1,060 億円・営業利益 90 億円。益率8.5%
倍率:事業の純利益 1,124 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 15.99 倍、時価総額 17,973 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革が完全に成功し、資本効率が上がる筋書き。10 年の間に何度も計画が遅れた経緯を踏まえ、薄く置いた。 10 年かけて構造改革が成功し、新工場の投資が実る筋書き。
やや楽観 21% やや強気:柱が太くなり、薄利の事業は整理が進む 利益 848 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 4,025 円1.21 兆円
エバールの数量は 3 割ほど伸び、ビニルアセテートの益率は 16% を保つ。光学フィルムは数量が減るが、単価を維持して穴を埋める。イソプレンは 8% 台の益率で安定する。機能材料は活性炭と歯科材料が伸び、薄利の部分は整理が進む。繊維は小さな黒字を保つ。会社は設備投資を抑え、還元を続ける。ROE は 8% 台半ばまで上がるが、資本コストをわずかに上回る程度だ。市場は構造改革を認めるものの、10 年後も安定した高収益企業とまでは評価しない。物価の分の値上げは通るが、数量の伸びは 3 割に届かない。薄利の事業の整理が遅れる分だけ、全社の益率は伸びきらない。
- ビニルアセテート:数量 48.6(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 139(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 6,779 億円・営業利益 1,085 億円。益率16.0%
- イソプレン:数量 10.8(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 135(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 1,454 億円・営業利益 124 億円。益率8.5%
- 機能材料:数量 15.3(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 213(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 3,272 億円・営業利益 278 億円。益率8.5%
- 繊維:数量 4.7(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 178(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 843 億円・営業利益 51 億円。益率6.0%
- トレーディング:数量 18.4(取扱量の重さ換算(万トン))× 価格 54(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 995 億円・営業利益 80 億円。益率8.0%
倍率:事業の純利益 848 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.3 倍、時価総額 12,126 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革が部分的に成功する筋書き。 構造改革が部分的に成功する筋書き。
中立 34% 中立:柱は残るが、資本の稼ぎは細いまま 利益 661 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,924 円8,811 億円
エバールは数量が 2 割強伸びるが、競合の増設と償却の重さで、ビニルアセテートの益率は 14% 台にとどまる。光学フィルムは数量が横ばいから緩やかな減少に転じ、単価で支える。イソプレンは益率 6% 台の薄い黒字だ。機能材料は撤退と売却を終え、益率 7% 台で安定する。繊維は小さな黒字、商社は薄利だ。営業利益は 1,100 億円台まで伸びる。配当は物価とともに増え、自社株買いも続く。ただし自己資本が増える分、ROE は 6% 台後半にとどまる。資本コストには届かず、倍率は上がらない。物価の分は売上に乗り、利益の絶対額は増える。しかし株主から見れば、増えた利益の多くが設備に戻る形が続く。
- ビニルアセテート:数量 46.4(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 136(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 6,314 億円・営業利益 916 億円。益率14.5%
- イソプレン:数量 10.4(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 135(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 1,401 億円・営業利益 91 億円。益率6.5%
- 機能材料:数量 14.6(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 213(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 3,106 億円・営業利益 233 億円。益率7.5%
- 繊維:数量 4.6(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 176(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 806 億円・営業利益 44 億円。益率5.5%
- トレーディング:数量 17.9(取扱量の重さ換算(万トン))× 価格 54(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 967 億円・営業利益 77 億円。益率8.0%
倍率:事業の純利益 661 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 8,811 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:構造改革は進むが、劇的には変わらない中心の筋書き。 構造改革は進むが、劇的な変化は起きない筋書き。最も重みを置く。
やや悲観 23% やや弱気:光学フィルムが細り、競争が全体に広がる 利益 286 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 1,006 円3,032 億円
有機 EL への移行が進み、光学用ポバールフィルムの数量が落ちる。エバールは競合の増設で単価が緩み、数量の伸びが利益に結びつかない。ビニルアセテートの益率は 11% 台に下がる。イソプレンは減損後も薄利で、追加の損失が出る年もある。機能材料と繊維は価格競争で益率が上がらない。営業利益は 600 億円に届かない。会社は還元を絞り、投資の選別に追われる。ROE は 3% 台のままで、市場は帳簿の価値を大きく割って評価し続ける。物価が上がっても、価格競争で値上げが通りにくい事業が多く、売上の伸びも利益にならない。新工場の償却だけが重く残る。
- ビニルアセテート:数量 41.0(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 122(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 5,022 億円・営業利益 578 億円。益率11.5%
- イソプレン:数量 8.4(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 121(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 1,013 億円・営業利益 30 億円。益率3.0%
- 機能材料:数量 13.0(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 199(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 2,587 億円・営業利益 142 億円。益率5.5%
- 繊維:数量 4.1(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 162(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 656 億円・営業利益 23 億円。益率3.5%
- トレーディング:数量 16.2(取扱量の重さ換算(万トン))× 価格 51(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 817 億円・営業利益 57 億円。益率7.0%
倍率:事業の ROE 3.3% が k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.5 倍(ためた利益は額面未満)。谷の利益に低い倍率を掛けて二重に下げないよう稼ぐ力で測り、帳簿の自己資本は床にしない。素材の堀は残る。上限の 8 割の 10.6 倍に置いた。
確率:光学フィルムの需要減と、競争の全体への広がりが重なる筋書き。資本効率が 10 年近く改善していない点を踏まえ、厚めに置いた。 柱が痩せ、構造改革が遅れる筋書き。
悲観 13% 弱気:構造的に負け、もう優良ではなくなる 利益 2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 796 円2,399 億円
光学フィルムは有機 EL への移行で数量が大きく減り、エバールは中国・台湾勢の増設で単価が崩れる。ビニルアセテートの益率は 8% まで下がる。イソプレンと繊維は撤退に追い込まれ、損失が続く。新工場への投資を回収できず、減損が重なる。営業利益は 100 億円規模にとどまり、純利益はほぼゼロになる。会社は還元を最低限に絞り、資産の売却で財務を保つ。ただし自己資本は厚く、資産の価値が床になる。事業は残るが、資本の稼ぎは大きく損なわれる。配当は貯えから払う形になり、純利益の合計を超える年が続く。構造改革の失敗が、時間をかけて効いた姿だ。
- ビニルアセテート:数量 34.2(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 106(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 3,639 億円・営業利益 291 億円。益率8.0%
- イソプレン:数量 6.4(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 101(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 643 億円・営業利益 −13 億円。益率-2.0%
- 機能材料:数量 11.1(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 167(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 1,847 億円・営業利益 55 億円。益率3.0%
- 繊維:数量 3.4(販売量の重さ換算(万トン))× 価格 135(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 456 億円・営業利益 0 億円。益率0.0%
- トレーディング:数量 14.5(取扱量の重さ換算(万トン))× 価格 42(1 トンあたりの平均単価(万円))→ 売上 614 億円・営業利益 25 億円。益率4.0%
倍率:構造的に負けて純利益がほぼゼロになるので、稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 2,400 億円(今の自己資本 7,426 億円の約 3 割)に置いた。純有利子負債 1,766 億円を足した EV ÷ 営業利益は営業利益 128 億円では意味を持たず、資産で見る。
確率:構造的に負ける筋書き(有機 EL への移行、中国・台湾勢の増設、投資の失敗)。素材の堀は本物だが、利益の柱が一本足なので、業種の平均並みに置いた。 10 年かけて強みが失われ、優良な素材メーカーではなくなる筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ビニルアセテート
EVOH 樹脂「エバール」、光学用ポバールフィルム、PVA 樹脂、合わせガラス中間膜、水溶性フィルムなど。全社の利益の柱。
| 数量販売量の重さ換算(万トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 38.0 | 106 | 4,045 | 590 |
| 10 年後 中立 | 46.4 | 136 | 6,314 | 916 |
取り方:エバールの能力は世界で約 10 万トン強(シェア約 6 割は会社推定)で、これにポバール樹脂・光学フィルム・中間膜・水溶性フィルムを重さ換算で足し、約 38 万トンと推定。売上 4,045 億円(2025/12)を割った平均単価を価格にした。営業利益は 2025/12 通期の開示を確かめていないため、2026 上期の 254 億円(前年同期は約 299 億円)から約 590 億円と推定した。物価の分は価格に入れ、数量は実質。
イソプレン
イソプレン系の合成ゴム原料・エラストマーと、耐熱性ポリアミド樹脂「ジェネスタ」。ケミカルは赤字が続き 2025 年に減損。
| 数量販売量の重さ換算(万トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 8.0 | 101 | 804 | −20 |
| 10 年後 中立 | 10.4 | 135 | 1,401 | 91 |
取り方:ジェネスタ・エラストマー・イソプレンケミカルを重さ換算で約 8 万トンと推定し、売上 804 億円を割った。営業利益は上期(前年同期 -13 億円)から通期で約 -20 億円と推定。2025 年の減損で償却が軽くなる。
機能材料
メタクリル樹脂、活性炭、歯科材料、人工皮革などの集まり。薄利の部分は売却・縮小を進める。
| 数量販売量の重さ換算(万トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 13.0 | 159 | 2,069 | 90 |
| 10 年後 中立 | 14.6 | 213 | 3,106 | 233 |
取り方:メタクリル樹脂・活性炭・歯科材料・人工皮革などを重さ換算で約 13 万トンと推定し、売上 2,069 億円を割った。営業利益は上期 49 億円(前年同期 17 億円)から通期約 90 億円と推定。
繊維
不織布や高強度繊維など。利益は薄い。
| 数量販売量の重さ換算(万トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4.5 | 135 | 607 | 5 |
| 10 年後 中立 | 4.6 | 176 | 806 | 44 |
取り方:不織布・高強度繊維などを約 4.5 万トンと推定し、売上 607 億円を割った。営業利益は上期 42 億円(前年同期 -1 億円)から推定した 2025 年の通期の薄利。
トレーディング
繊維や化学品を扱う商社機能。薄利で安定。
| 数量取扱量の重さ換算(万トン) | 価格1 トンあたりの平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 17.0 | 40 | 688 | 55 |
| 10 年後 中立 | 17.9 | 54 | 967 | 77 |
取り方:取扱量を約 17 万トン(重さ換算)と推定し、売上 688 億円を割った。営業利益は約 55 億円と推定。
リスクと懸念
ビニルアセテート一本足のリスク
営業利益の大半をビニルアセテートが稼ぐ。ここで中間膜や水溶性フィルムの競争が強まると、全社の利益が大きく振れる。2026 年の上期も、この事業は約 15% の減益だった。柱が折れた時に支える事業が育っておらず、イソプレンや繊維が黒字でも額は小さい。
光学フィルムの需要が有機 EL へ移るリスク
光学用ポバールフィルムは約 8 割のシェアを持つが、液晶向けが主だ。ディスプレイの主役が有機 EL に移れば、偏光板の使い方が変わりうる。移行の速さ次第では、倉敷などで進めた設備増強が過剰になる。需要が減っても設備の償却は残る。
エバールの増設と競合のリスク
シンガポールの新工場が立ち上がる時期に、台湾の長春石化など競合も増やす。数量が伸びても単価が下がり、新工場の減価償却が重くなって利益を食う恐れがある。増産が利益に結びつかないまま、投資だけが残る形になりうる。
資本効率が上がらないリスク
設備投資が 5,000 億円に膨らんでも、ROE は 5% 台にとどまる。資本コストを下回る投資が続けば、自己資本が増えるほど株主の価値は薄まる。投資の選別が最大の論点であり、次の中期経営計画で何を絞るかが問われる。
イソプレンとエラストマーの再減損リスク
2025 年に 256 億円の減損を出したが、ケミカルは中国勢の安値に押される。タイの新拠点の稼働が計画に届かなければ、追加の損失もありうる。減損で償却は軽くなったが、稼ぐ力そのものが戻ったわけではない。
為替と原料の変動リスク
輸出と海外の工場が多く、為替で円換算の利益が変わる。原油・ナフサの価格や、中東情勢による調達難は、原料費に直接響く。物価の転嫁が遅れると利益率が落ちる。為替が円高に振れた場合の影響も小さくない。調達難が続けば、生産の停止も起こりうる。
金利上昇のリスク
純有利子負債は 1,766 億円ある。借り換えのたびに金利が上がり、利払いは増える。10 年で約 44 億円の税前の負担増を見込む。利益が薄い年ほど、この負担は重く響く。投資を続けながら借り入れが増えれば、重みはさらに増す。
今後の分かれ目
- シンガポールの EVOH 新工場が計画どおり稼働し、稼働率と単価が保てたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。数量の伸びと償却の重さの両方を見る。
- 次の中期経営計画で、資本効率(ROE・ROIC)の目標と、設備投資を絞る方針が示されたら
- ROE が資本コストに近づく道筋が見えるので、中立の確率を厚くし、やや悲観を薄める。
- 有機 EL の採用が進み、光学用ポバールフィルムの数量が減り始めたら
- ビニルアセテートの益率が下がるので、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- イソプレンやエラストマーで再び大きな減損が出たら
- 構造改革が進んでいないと判断し、悲観の確率を上げる。
- 中間膜や水溶性フィルムの競争が落ち着き、ビニルアセテートの益率が 15% 前後に戻ったら
- 利益の柱が回復するので、やや楽観の確率を上げてよい。
- 低益率の事業の売却・撤退が、さらに具体的に進んだら
- 全社の資本効率が上がるので、倍率を上げる根拠になる。
見ておくもの
- ビニルアセテート事業の四半期の営業利益率と、中間膜・水溶性フィルムの動向
- シンガポールの EVOH 新工場の稼働開始と、稼働率の立ち上がり
- 次の中期経営計画の発表(ROE・ROIC の目標、設備投資の規模)
- イソプレン事業の黒字定着と、追加の減損の有無
- 有機 EL パネルの採用の広がりと、光学用ポバールフィルムの数量
倍率と資本コストの決め方
ビニルアセテート(トン換算の数量×単価)など 5 事業を、数量は実質、単価は物価 3% 込みの名目で積んだ。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +0.5・値決め力 −0.5・借金 0・寿命 +0.5 で +0.5%)を足した 8.0%。倍率は利益ベースの正当化 PER(ROE が k 以下の中立は 1÷k)に対し、楽観・やや楽観 9 割、中立 8 割で置き、今の株価・今の PER は参照していない。やや悲観は純利益 ÷ k の稼ぎ(上限の 8.5 割)、悲観は純利益がほぼゼロなので売れる資産の税後(概算)から置いた。過去の PBR の底は使っていない。最後に今の時価総額と比べた。純有利子負債が時価総額の 3 割を超えるため EV÷営業利益も確かめ、中立は 8 倍台で高くない。店舗を借りて営む会社ではなく、新リース会計基準の影響は小さいとみた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→15.99 倍・やや楽観 PER 11.6→14.3 倍・中立 PER 10→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。