結論
三井化学は、幅広い機能材を売る総合化学会社だ。筆者がまず見るのは、稼ぎ頭が自動車・半導体・医療という育つ市場向けの機能材か、それとも安い樹脂を売るコモディティ事業か、という一点である。今の答えは、まだ後者の比重が大きい。売上の4割弱を占める石化基礎品(ベーシック&グリーン・マテリアルズ)は、中国の増設による供給過剰で益率が1%に届かない。一方でモビリティ・ICT・ライフ&ヘルスケアという3つの機能材segmentは、自動車材料・半導体材料・メガネレンズ材料でそれぞれ高いシェアを持つ。2026年には歯科材料で過去最大の買収にも踏み出した。筆者の見立てでは、この機能材シフトはまだ道半ばだ。ROEは資本コストに届かない年が続き、10年たっても構造改革が完走しない筋書きの方が重いとみる。だから今の値段は、大きく割高だと判定した。資本コストは基本 7.5% に quality +2.0% を足して 9.5% とした。石化の谷が浅く済むか、歯科材料の買収が実を結ぶか。この二つが評価を動かす鍵になる。
結果、中立は 10 年後に ROE 4.7%・PER 7.9 倍で時価総額約 3,824 億円(それまでの還元約 2,484 億円は別)。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額(約 7,601 億円)より -55.2%、「割高」。
バリュー投資の観点から
オーナーの目で見れば、三井化学は「育てている事業」と「守るだけの事業」が同じ会社の中に混在している。石化基礎品は維持にお金がかかるのに、値段は中国の増設が決めてしまう。これは筆者の言葉でいえば、守るだけの事業だ。一方でメガネレンズや半導体の保護テープは、世界シェア1位という育てた堀の上に立っている。経営者の資本の使い方は、合格点にはまだ届かない。政策保有株を減らし、買った事業がうまくいかなければ入れ替える姿勢は評価できる。ただ歯科材料への過去最大の買収は、賭けの規模としては大きい。失敗したときの傷も相応に深くなる。安全域という点では、ROEが資本コストに届かない今の状態が、そのまま10年続く筋書きの方が重いと筆者は見ている。だから今の値段には、買う側に十分な余裕がない。石化の谷が浅く済み、歯科材料の買収がきちんと利益を生むようになれば、この会社を長く持ち続ける理由は強くなる。今はその途中だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は4つある。まずモビリティ・ソリューション。自動車の内外装やバンパーに使う樹脂・ウレタン・不織布を自動車メーカーや部品メーカーに売る事業で、売上の3割強を占める。製品によっては世界シェア上位3位に入る。次にICTソリューション。半導体ウエハを研削するときに表面を保護するテープで世界シェア1位を持ち、ペリクルなど半導体づくりの縁の下を支える材料を半導体メーカーに供給する。売上の2割弱。三つ目はライフ&ヘルスケア・ソリューション。メガネレンズの材料で世界シェア1位、コンタクトレンズ材料、歯科材料、農薬をそろえる。農薬は収益率5割を超える稼ぎ頭だ。2026年には米ウルトラデント・プロダクツを買収し、歯科のホワイトニングで世界シェア3割の事業を取り込んだ。売上の2割弱。最後がベーシック&グリーン・マテリアルズ。エチレンやフェノールといった石化の基礎原料をつくる、昔からの祖業にあたる事業で、売上の4割弱を占める。ナフサという原油由来の原料の値段がそのまま採算を左右する市況事業だ。海外の売上比率は5割を超え、約30の国と地域で事業を展開する。不織布のように、1社だけでは規模が足りない事業は旭化成と組んで新会社をつくるなど、身の丈に合った事業の組み替えも進めている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みの厚さは、segmentごとにまるで違う。メガネレンズ材料と半導体の保護テープは世界シェア1位で、顧客はそう簡単に他社に切り替えない。ここは価格決定力がある。対して石化基礎品は、中国企業が資金さえあれば増設できる領域で、堀はほとんどない。値段は市況が決める。歯科材料はまだ発展途中の堀だ。2013年のDENTCA買収から積み上げ、2026年のウルトラデント買収で一気に規模を広げた。買収した事業をうまく育てられるかが、この先の堀の厚さを決める。資本効率はまだ力不足だ。ROEは4%にとどまり、筆者が置いた資本コスト9%には遠い。純有利子負債は時価総額の7割を超え、総合化学の中でも借金の重さが目立つ。経営は2030年に向けて、成長3領域の利益を今の2倍近くに増やす計画を掲げるが、2026年3月期は農薬の出荷ずれや米国の関税、車載半導体の不足が重なり、計画のペースに届いていない。ガバナンスは前向きだ。2026年6月から取締役・監査役の過半を社外が占める体制に移り、買収防衛策も持たない。大株主は信託銀行が中心で、特定の事業会社に握られてはいない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
三井化学の事業は、1つの業界循環では語れない。4つのsegmentが、それぞれ別の波に乗っている。石化基礎品が置かれた市場は、業種ノートが指摘する「総合化学・コモディティ樹脂・基礎化学品」領域そのものだ。中国の増設による供給過剰が構造的に続くと筆者は見ている。2026年はホルムズ海峡情勢に伴うナフサの目詰まりで値段が一時的に跳ねたが、これは需要が強いからではない。国内のエチレン設備は、統合や停止という痛みを伴う調整が10年単位で続く。モビリティが向き合う自動車材料の市場は、世界の生産台数という実質の数量に、電動化・軽量化で1台あたりの採用額が増える、という価格の上乗せが乗る。2026年の米関税と車載半導体不足は、筆者はいずれ緩む短期の逆風だとみている。ICTが供給する半導体材料は、AI投資という強い追い風があるが、2〜4年ごとに投資が冷え込む循環業種でもある。保護テープのような縁の下の材料も、この波からは逃れられない。ライフ&ヘルスケアの歯科材料・レンズ材料・農薬は、高齢化や食料安全保障という構造的な下支えがある。ただ歯科材料はウルトラデント統合の出来次第、農薬は後発品との価格競争という、それぞれ固有の懸念を抱える。つまり会社全体の立ち位置は、石化の重さと短期の逆風を、3つの機能材がどこまで打ち返せるかで決まる。
資本政策と M&A
配当方針はシンプルだ。純利益の4割以上を還元し、株主資本に対する配当(DOE)を3%以上に保つ。2028年度までに4%への引き上げも視野に入れている。2026年3月期は、配当と自社株買いを合わせた総還元額が純利益を上回った。政策保有株の売却収入を原資に使った年で、この還元ペースがそのまま続くとは筆者は見ていない。2026年2月には300億円を上限とする自社株買いを発表し、完了後に発行済株式の5%ほどを消却する予定だ。政策保有株は原則ゼロに向けて減らし続けている。買収の経験も豊富だ。2020年には三井物産と組んで本州化学工業にTOBをかけ、過半の株式を取得した。2026年6月には、歯科材料の米ウルトラデント・プロダクツを過去最大の規模で買収し、ホワイトニング事業の世界シェア3割を取り込んだ。不織布事業のように、1社で戦うより組んだ方がいい事業は、旭化成と統合して新会社をつくる選択もとっている。この先の分かれ目は、石化基礎品の売却や連携がどこまで進むか、そして歯科材料の買収をうまく育てられるかにある。
2026年2月決議の自己株式取得300億円のうち、期末後の約127億円(4月)は実行済みで、株数に反映した。期末までの約173億円は決算の自己資本に入っている。期末後の分は10年の還元に入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の保護テープとメガネレンズ材料は、世界シェア1位という動かない事実がある。AIデータセンター投資が続く限り、半導体材料の市場そのものが育つ。自動車材料も世界シェア上位の製品を複数持ち、2026年の関税や半導体不足は一時的な向かい風にすぎない。遅くとも3年のうちには風向きが変わる。歯科材料の買収は、規模の大きさゆえに目を引くが、裏を返せば一気に世界シェア3割の事業を手に入れたということだ。2013年のDENTCA買収から10年以上かけて育てた土台があり、統合をうまくやれる経験もある。レンズ材料・農薬という既存の強みと合わせれば、ヘルスケアは次の稼ぎ頭になりうる。石化基礎品にも機会はある。2026年のナフサ高は短期の追い風だし、国内のエチレン設備の統合が計画以上に進めば、低益率事業を整理して機能材にお金を回す動きが加速する。不織布事業を旭化成と組んで立て直したように、身の丈に合わせて事業を組み替える実行力も持っている。資本政策も前向きだ。政策保有株をゼロに近づけ、自社株買いを続け、配当も段階的に引き上げる計画を示している。ROICの目標を2030年に9%超まで上げており、計画どおりに進めば資本効率と株主還元は両立する。
慎重な見方
石化基礎品の益率は1%に届かない。中国の増設による供給過剰は、ナフサの値段が落ち着いても簡単には解消しない構造問題だ。純有利子負債は時価総額の7割を超え、総合化学の中でも借金の重みが目立つ。金利が上がれば、借り換えのたびに利払いがじわじわ増える。2030年に向けた成長計画は、2026年3月期の実績で早くもつまずいている。農薬の出荷ずれ、米国の関税、車載半導体の不足、円高による差損。一時要因が重なったと会社は説明するが、一時要因が毎年のように重なるなら、それは一時要因ではない。歯科材料の買収は過去最大の規模だけに、統合に失敗したときの傷も深い。自動車材料は電動化で部品の構成そのものが変わるリスクを抱え、半導体材料も2〜4年ごとの投資循環から逃れられない。総還元性向が純利益を上回った年があるのも気になる。政策保有株の売却という一時的な原資に頼った還元で、ROEが4%にとどまる状況が続けば、この還元ペースは長くは保たない。
どちらに重みを置いたか
筆者の判定は、慎重な見方にやや重きを置く。半導体材料とレンズ材料のシェアの高さ、歯科材料を育てる経験は確かな強みだが、売上の4割弱を占める石化基礎品の構造問題と、借金の重さがそれを相殺する。10年後もROEは資本コストに届かない水準にとどまると見立て、倍率は会社の質に応じて上限の7〜8割に収めた。確率は中立を軸に置きつつ、石化の構造改革と歯科材料買収の実行力への疑問から、やや悲観・悲観の重みをやや厚くした。結果として、今の値段は強い割高に落ち着く。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,740 円6,291 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 698 円2,524 億円)。 今の値に割り戻すと 1,281 円4,632 億円、今との差 −37.7%、 期待の年率 +1.7%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,458 円1.61 兆円 | 1,214 円4,391 億円 | +175.9% | +10.7% | 454 円1,641 億円 |
| やや楽観 | 21% | 2,614 円9,450 億円 | 847 円3,063 億円 | +68.3% | +5.3% | 727 円2,628 億円 |
| 中立 | 35% | 1,673 円6,050 億円 | 687 円2,484 億円 | +14.8% | +1.4% | 826 円2,987 億円 |
| やや悲観 | 24% | 801 円2,897 億円 | 553 円2,000 億円 | −34.1% | −4.1% | 325 円1,175 億円 |
| 悲観 | 12% | 471 円1,704 億円 | 415 円1,500 億円 | −56.9% | −8.1% | 106 円384 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,740 円6,291 億円 | 698 円2,524 億円 | +18.6% | +1.7% | 2,438 円8,815 億円 |
今の株価時価総額 2,056 円7,433 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 機能材3本柱が育ち、石化も身軽になる 利益 1,162 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 4,458 円1.61 兆円
10年かけて、三井化学が機能材の会社に生まれ変わる筋書きだ。半導体材料はAI投資の波を取り込み続け、保護テープ以外の製品群でもシェアを広げる。自動車材料は電動化・軽量化で1台あたりの採用額が増え続ける。歯科材料はウルトラデント以降も買収を重ね、レンズ材料・農薬という既存の強みと合わせてヘルスケアが全社利益の柱に育つ。石化基礎品は不採算な部分の整理が進み、残った事業はナフサ高の恩恵も受けて身軽になる。中国の増設は続くが、三井化学はその争いから距離を置く選択をしている。財務は健全なまま、還元も着実に増える10年になる。
- モビリティ・ソリューション(自動車材料):数量 105(世界の自動車生産台数(百万台、実質))× 価格 8,200(三井化学の1台当たり採用額(円、名目))→ 売上 8,610 億円・営業利益 775 億円。益率9.0%、電動化対応で採用額が増加
- ICTソリューション(半導体材料・電子材料):数量 620(参入する電子材料市場規模(億ドル、実質))× 価格 7.5%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 6,975 億円・営業利益 1,046 億円。益率15.0%、AI投資とシェア拡大
- ライフ&ヘルスケア・ソリューション(レンズ・歯科・パーソナルケア・農薬):数量 230(参入する市場規模(億ドル、実質))× 価格 17.0%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 5,865 億円・営業利益 704 億円。益率12.0%、歯科材料M&Aが続けて成功
- ベーシック&グリーン・マテリアルズ(石化基礎品):数量 150(生産・販売量(万トン、実質))× 価格 58(1トン当たりの平均単価(万円、名目))→ 売上 8,700 億円・営業利益 348 億円。益率4.0%、構造改革が進み身軽に
倍率:事業の純利益 1,162 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.87 倍、時価総額 16,117 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:石化の構造改革、歯科材料の複数回のM&A成功、自動車・半導体材料でのシェア拡大がすべて実現する必要があり、確度は高くない。
やや楽観 21% ヘルスケア・半導体材料が主軸に育つ 利益 756 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,614 円9,450 億円
ヘルスケアと半導体材料が、10年かけて利益の主役に育つ筋書きだ。歯科材料・レンズ材料・農薬が伸び、半導体材料も投資サイクルの波を乗り越えながら拡大する。自動車材料は電動化対応を着実に進めるが、世界的な自動車生産そのものの伸びは緩やかにとどまり、採用額の上乗せが成長の中心になる。石化基礎品は構造改革が部分的に進み、低益率事業の整理と残存事業の価格改善が少しずつ利益に効いてくる。10年前には想像しづらかった事業の重心の移り方だが、会社の資本配分の方針どおりに進めば、十分に手が届く範囲だと筆者は見ている。
- モビリティ・ソリューション(自動車材料):数量 100(世界の自動車生産台数(百万台、実質))× 価格 7,600(三井化学の1台当たり採用額(円、名目))→ 売上 7,600 億円・営業利益 570 億円。益率7.5%
- ICTソリューション(半導体材料・電子材料):数量 560(参入する電子材料市場規模(億ドル、実質))× 価格 6.7%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 5,628 億円・営業利益 732 億円。益率13.0%
- ライフ&ヘルスケア・ソリューション(レンズ・歯科・パーソナルケア・農薬):数量 210(参入する市場規模(億ドル、実質))× 価格 15.5%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 4,882 億円・営業利益 513 億円。益率10.5%
- ベーシック&グリーン・マテリアルズ(石化基礎品):数量 148(生産・販売量(万トン、実質))× 価格 52(1トン当たりの平均単価(万円、名目))→ 売上 7,696 億円・営業利益 192 億円。益率2.5%
倍率:事業の純利益 756 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 9,450 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画の延長線に近い、前向きなレンジの想定。
中立 35% 中立:機能材が支え、石化は構造的な低成長のまま 利益 484 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,673 円6,050 億円
10年後も、石化基礎品の重さは完全には消えない、と筆者はみる。中国の増設は収まらず、国内のエチレン設備の整理も計画どおりには進み切らない。一方でモビリティ・ICT・ライフ&ヘルスケアは、それぞれの市場の緩やかな成長を取り込み、全社の利益を支える主力になる。半導体材料のシェアは大きくは崩れない。歯科材料の買収は収益に定着し、レンズ材料・農薬という既存の強みと合わせて、ヘルスケアの存在感は増す。それでも会社が掲げた成長目標には一歩届かず、資本効率の改善も道半ばで終わる10年になる。半導体材料のシェアは大きくは崩れないが、世界シェア1位という地位に安住すれば、いずれ中国企業に追いつかれる種はまく。
- モビリティ・ソリューション(自動車材料):数量 88.0(世界の自動車生産台数(百万台、実質))× 価格 7,674(三井化学の1台当たり採用額(円、名目))→ 売上 6,753 億円・営業利益 439 億円。益率6.5%
- ICTソリューション(半導体材料・電子材料):数量 510(参入する電子材料市場規模(億ドル、実質))× 価格 6.0%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 4,590 億円・営業利益 528 億円。益率11.5%
- ライフ&ヘルスケア・ソリューション(レンズ・歯科・パーソナルケア・農薬):数量 195(参入する市場規模(億ドル、実質))× 価格 14.0%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 4,095 億円・営業利益 369 億円。益率9.0%
- ベーシック&グリーン・マテリアルズ(石化基礎品):数量 145(生産・販売量(万トン、実質))× 価格 47(1トン当たりの平均単価(万円、名目))→ 売上 6,815 億円・営業利益 123 億円。益率1.8%、供給過剰で価格は物価より上がりにくい
倍率:事業の純利益 484 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 6,050 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機能材の相対的な強さと、業種ノートが示す石化基礎品の構造的な低成長を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 24% 石化の整理が進まず、機能材のシェアも侵食される 利益 109 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 801 円2,897 億円
構造改革が頓挫したまま、10年がたつ筋書きだ。石化基礎品は中国の増設にさらされ続け、事業の整理も進まない。設備は古いまま稼働率を落としていく。半導体材料・自動車材料でも、中位グレードで中国企業の追随が進み、シェアが徐々に侵食される。かつての強みだった保護テープの優位も、じわじわ薄れていく。歯科材料・レンズ材料は底堅さを保つが、全社の成長を取り戻すほどの力にはならない。財務の重さも残り、還元は配当中心にとどめ、自社株買いはほとんど行えない10年になる。財務の重さも残り、還元は配当中心にとどめ、自社株買いはほとんど行えない10年になる。配当は政策保有株の売却など手元の資産を取り崩してまかなう年が続き、会社が掲げたROIC目標は達成されずに次の中期計画へ持ち越される。
- モビリティ・ソリューション(自動車材料):数量 88.0(世界の自動車生産台数(百万台、実質))× 価格 6,200(三井化学の1台当たり採用額(円、名目))→ 売上 5,456 億円・営業利益 218 億円。益率4.0%
- ICTソリューション(半導体材料・電子材料):数量 450(参入する電子材料市場規模(億ドル、実質))× 価格 5.0%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 3,375 億円・営業利益 270 億円。益率8.0%
- ライフ&ヘルスケア・ソリューション(レンズ・歯科・パーソナルケア・農薬):数量 175(参入する市場規模(億ドル、実質))× 価格 12.0%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 3,150 億円・営業利益 189 億円。益率6.0%
- ベーシック&グリーン・マテリアルズ(石化基礎品):数量 138(生産・販売量(万トン、実質))× 価格 40(1トン当たりの平均単価(万円、名目))→ 売上 5,520 億円・営業利益 −28 億円。益率-0.5%、石化が小幅な営業損失
倍率:石化の整理が進まず機能材のシェアも侵食され、純利益は 109 億円と薄く、稼ぐ力(純利益 ÷ k)では約 1,100 億円にしかならない。売れる資産の税後 2,900 億円(今の自己資本 8,647 億円の約 3 割 4 分)が大きい方なので、そちらで置いた。純有利子負債を足した EV ÷ 営業利益は 20 倍を超えるが、利益が谷の年の値なので資産で見る。
確率:石化基礎品の構造改革が実行されず、機能材でも中国企業の追随が中位グレードに及ぶという、業種見通しの弱めのレンジ。
悲観 12% 石化・自動車・歯科材料の賭けがすべて裏目に出る 利益 −900 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 471 円1,704 億円
3つの賭けが、同時に裏目に出る10年だ。石化基礎品は中国の増設がさらに激化し、構造改革も実行できずに赤字が常態化する。工場の一部は停止を迫られる。自動車材料は電動化への対応が遅れてシェアを失い、半導体材料も投資の冷え込みで稼げなくなる。保護テープの世界シェア1位という強みも、値段の崩れには抗えない。歯科材料の買収は高値掴みとなり、減損が発生する。レンズ材料・農薬だけが相対的に傷が浅い。配当は政策保有株の売却や資産の処分でぎりぎり維持するが、優良企業という評価からは外れる10年になる。配当は政策保有株の売却や資産の処分でぎりぎり維持するが、優良企業という評価からは外れる10年になる。筆者がこの筋書きを無視できないのは、石化・自動車・歯科材料という3つの柱が同時に傷む構図が、過去の総合化学各社でも起きたことがあるからだ。
- モビリティ・ソリューション(自動車材料):数量 70.0(世界の自動車生産台数(百万台、実質))× 価格 5,000(三井化学の1台当たり採用額(円、名目))→ 売上 3,500 億円・営業利益 −175 億円。営業損失(益率-5.0%)
- ICTソリューション(半導体材料・電子材料):数量 350(参入する電子材料市場規模(億ドル、実質))× 価格 3.5%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 1,838 億円・営業利益 −37 億円。営業損失(益率-2.0%)
- ライフ&ヘルスケア・ソリューション(レンズ・歯科・パーソナルケア・農薬):数量 140(参入する市場規模(億ドル、実質))× 価格 9.0%(三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に))→ 売上 1,890 億円・営業利益 0 億円。益率0%、歯科材料で減損
- ベーシック&グリーン・マテリアルズ(石化基礎品):数量 110(生産・販売量(万トン、実質))× 価格 32(1トン当たりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,520 億円・営業利益 −282 億円。営業損失(益率-8.0%)
倍率:石化・自動車・歯科材料の賭けがすべて裏目に出て赤字になるので、稼ぐ力では値が付かない。売れる資産の税後 1,700 億円(今の自己資本の約 2 割)に置いた。純負債が重く、自己資本の多くは回収できない前提。
確率:石化の構造改革失敗、自動車材料のシェア流出、歯科材料M&Aの高値掴みが同時に重なる複合シナリオ。確度は低いが無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
モビリティ・ソリューション(自動車材料)
自動車内外装・バンパー向けポリプロピレンコンパウンド、ウレタン、不織布、エラストマー(タフマー等)。世界シェア1〜3位の製品を複数持つ。
| 数量世界の自動車生産台数(百万台、実質) | 価格三井化学の1台当たり採用額(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 5,727 | 5,154 | 258 |
| 10 年後 中立 | 88.0 | 7,674 | 6,753 | 439 |
取り方:世界の自動車生産台数を約9,000万台(実質)と置き、モビリティ事業の売上5,154億円をその生産台数で割った1台当たりの採用額を価格とした。2026年3月期は米関税・車載半導体不足の影響で益率5.0%まで低下したとみる。
ICTソリューション(半導体材料・電子材料)
半導体ウエハ裏面研削用保護テープ(世界シェア1位)、ペリクル等のプロセス材料、ICT用光学・工業フィルム。
| 数量参入する電子材料市場規模(億ドル、実質) | 価格三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 350 | 5.3% | 2,793 | 279 |
| 10 年後 中立 | 510 | 6.0% | 4,590 | 528 |
取り方:保護テープ・ペリクル・ICT用フィルムが参入するニッチな電子材料市場を約350億ドル(実質)と推定し、ICT事業の売上がその約5.3%に当たるとした。半導体材料市場全体は2030年に700億ドル規模という業種ノートの見通しに沿う。益率10.0%は保護テープ世界シェア1位の価格決定力を反映。
ライフ&ヘルスケア・ソリューション(レンズ・歯科・パーソナルケア・農薬)
メガネレンズ材料(世界シェア1位)、コンタクトレンズ材料、歯科材料(DENTCA・2026年ウルトラデント買収)、パーソナルケア材料、農薬。
| 数量参入する市場規模(億ドル、実質) | 価格三井化学のシェア×物価指数(150円/ドルで億円に) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 12.2% | 2,741 | 164 |
| 10 年後 中立 | 195 | 14.0% | 4,095 | 369 |
取り方:眼鏡・コンタクトレンズ材料、歯科材料、農薬が参入する市場を合計約150億ドル(実質)と推定し、売上がその約12.2%に当たるとした。2026年3月期は農薬の販売タイミングのずれで益率6.0%にとどまったが、ウルトラデント買収(2026年6月、約1,440億円)の業績はまだ反映されていない。
ベーシック&グリーン・マテリアルズ(石化基礎品)
エチレン・フェノール・PTA等の石化基礎品・汎用樹脂。ナフサ価格に連動する市況事業。
| 数量生産・販売量(万トン、実質) | 価格1トン当たりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 140 | 43 | 5,999 | 36 |
| 10 年後 中立 | 145 | 47 | 6,815 | 123 |
取り方:会社開示の売上を、エチレン・フェノール・PTA等の推定販売量約140万トンで割った平均単価を価格とした。2026年はナフサ供給の目詰まりでコストが上がり益率0.6%まで低下したとみる。
リスクと懸念
石化基礎品の構造的な供給過剰
中国の大規模な増設で、エチレンやフェノールなどの値段は簡単には戻らない。2026年のナフサ高が収まれば、むしろ値段の重さが見えやすくなる、と筆者はみる。国内設備の統合・停止という痛みを伴う調整が10年単位で続く。整理が遅れるほど、低益率の事業が全社の足を引く期間も長くなる。
歯科材料M&Aの統合リスク
2026年のウルトラデント買収は過去最大の規模だ。ホワイトニング事業の世界シェア3割を取り込んだ意義は大きいが、統合に手間取れば、のれんの重さが利益を圧迫する。買った事業を自分の事業として使いこなせるかどうかは、買収の発表から数年たってはじめて分かることが多い。
財務の重さと金利上昇
純有利子負債は時価総額の7割を超える。借金は借り換えのたびに新しい金利が付くため、金利が上がる間は利払いがじわじわ増え、純利益を押し下げる。手元の現金を増やすより借金を減らす方が、この先10年の体力には効くはずだ。
自動車材料の電動化対応
自動車の電動化で部品の構成が変わると、今の材料がそのまま使われ続けるとは限らない。採用額を保てるかは、新しい車種の設計に食い込めるかで決まる。ここで後れを取れば、自動車の生産台数が増えても三井化学の取り分は増えない。
半導体材料の投資循環
半導体への投資は2〜4年ごとに山と谷をつくる。AI投資という新しい追い風があっても、循環そのものは消えない。保護テープのような縁の下の材料も、この波に乗る。山のときの利益を、谷の年に慌てて評価し直すような投資判断は避けたい。
中期経営計画の実行力
2030年に向けた成長目標に対し、2026年3月期の実績はすでに一時要因で遅れている。農薬の出荷ずれや関税、半導体不足という一時要因が重なるたびに、計画の信頼性は少しずつ削られる。筆者が次に見るのは、この遅れが1年で消えるか、それとも常態化するかだ。
今後の分かれ目
- 国内エチレン設備の統合・停止が具体的に発表されたら
- 石化基礎品の構造改革が前に進んでいるサインとみて、中立〜やや楽観側に重みを移してよい。
- ウルトラデントの統合が順調で歯科材料の利益が目に見えて伸びたら
- ヘルスケアの評価を上げ、やや楽観側の確率を上げる。買収後の減損発表があれば逆に重みを下げる。
- 自動車の電動化対応で三井化学の材料が新型車の設計に採用されたら
- モビリティの採用額の前提を上げてよい。逆に採用が他社材料に切り替わったら下方修正する。
- AIデータセンター投資が一段と加速し半導体材料の需要が拡大したら
- ICTのシェア拡大シナリオの確度が上がり、やや楽観側に重みを移す。
- 中国の石化・電子材料メーカーの増設がさらに加速したら
- 石化・ICTの双方で価格前提を下方修正し、やや悲観側の確率を上げる。
- 次の中期経営計画で成長3領域の利益目標が下方修正されたら
- 計画と実行のギャップが続いているサインとみて、中立シナリオの前提を下方修正する。
見ておくもの
- 石化基礎品の構造改革(事業売却・設備統合)の発表
- ウルトラデント・プロダクツ統合後の歯科材料事業の収益貢献
- モビリティ事業の米関税・車載半導体不足の解消ペース
- ICT事業(半導体材料)の四半期ごとの益率と投資循環の位置
- VISION 2030の進捗(成長3領域コア営業利益・ROIC目標との距離)
- 純有利子負債の水準と金利上昇に伴う利払いの変化
倍率と資本コストの決め方
4 セグメントを、モビリティは生産台数×採用額、ICT・ライフ&ヘルスケアは市場×シェア、ベーシック&グリーンは生産量×トン単価で積み、数量は実質、価格は物価 3% 込みの名目で置いた。資本コストは基本 7.5% に quality(循環 +1.0・借金 +1.0 で +2.0%)を足した 9.5%。10 年の楽観も ROE が k 並みで、倍率は正当化 PER の上限の 7.5〜8.5 割に収めた。やや悲観は純利益が薄いため稼ぐ力ではなく売れる資産の税後(概算)、悲観も売れる資産の税後から置き、過去の PBR の底は使っていない。今の株価は最後に比べただけで、倍率を決める前には見ていない。総合の差は -55.2%(割高)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.1→13.87 倍・やや楽観 PER 8.4→12.5 倍・中立 PER 7.9→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。