結論
JMDC は、健康保険組合の診療報酬明細(レセプト)と健診の記録を匿名にして集め、製薬会社や保険者、保険会社に売る会社だ。売上の 9 割近くがこのデータ事業で、残りは遠隔読影、つまり画像診断を専門医に遠隔で頼むサービスである。筆者の結論は、10 年の本質価値が今の時価総額を大きく下回る「割高」である。事業はよいが、資本の効率が値段に追いついていない。
データの価値は、集めた人数と年数にある。健保のデータは約 1,200 万人分あり、民間では最大級だ。後から他社が同じものを集めるのは難しい。2027 年 3 月期の売上は 20% 伸びる計画で、需要の追い風は強い。
弱みは 2 つある。1 つ目は ROE の低さだ。買収でのれんが積み上がり、自己資本は 837 億円に対し利益は 70 億円にとどまる。ROE は 8% と、資本コスト並みである。2 つ目は、公的データの利用拡大だ。国は医療情報の二次利用を広げる法整備を進めている。無料に近い選択肢が増えれば、民間データの希少性は削られる。
大株主はオムロンで、5 割を超える議決権を持つとされる。親会社の戦略が変われば、会社の針路も変わる。ただ、これは資本コストに足さず、筋書きと確率で表した。
10 年後の中立は、売上が 2.4 倍、純利益が約 3 倍。それでも ROE は 1 割ほどで、倍率は 13 倍弱にとどまる。強気の筋書きを厚めに置いても、今の値段を支えるには足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見るのは 3 点だ。堀は続くか。稼ぐ現金は株主のものになるか。払う値段に余裕はあるか。
堀は本物だ。健保のデータを 10 年以上の履歴で持つ会社は他にない。製薬会社が決まった形で使い続けるので、乗り換えにくい。ただし 10 年後も同じ深さかは分からない。公的データが使いやすくなれば、堀の外側から水が入る。筆者は、堀の強さを「並み」と置き、強いとは見ていない。
株主のものになる利益は、見かけより少ない。償却が重く、毎年データ基盤に投資する。稼いだ現金の多くは、また事業に戻る。配当は小さく、のれんを積んだ買収の履歴もある。ROE が資本コスト並みの会社は、増収でも株主の取り分は増えにくい。
値段の余裕はない。中立の利益で見ても、10 年後の価値を今に戻すと、時価総額の 6 割ほどにとどまる。強気の筋書きでも、今の値段をやっと支える程度だ。悪い側の確率は 4 割近いが、それを薄くしても結論は変わらない。事業はよいが、いまの値段は、その先まで払いすぎている。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はヘルスビッグデータ事業だ。売上の 87%、約 440 億円を占める。健保組合から預かった診療報酬明細と健診結果を匿名にして整え、顧客に売る。祖業で、いまも会社の土台である。
顧客は 4 つに分かれる。製薬会社は、薬が実際にどう使われているかを調べるために買う。保険者(健保組合や自治体)は、加入者の健康管理に使う。生命保険・損害保険会社は、商品設計や査定に使う。医療機関には、診療を支える仕組みを売る。製薬向けは景気に強いが、薬価の改定や研究費の抑制には影響される。
データは「買って終わり」ではない。使い方の分析、疫学の調査、健康管理の事業支援まで一緒に売る。年間の契約で続くものが多く、更新が続くので売上は積み上がりやすい。
もう 1 つの柱は遠隔医療だ。子会社のドクターネットが、病院と放射線診断の専門医をインターネットでつなぐ。専門医の不足が背景にあり、国内の遠隔読影で 3 割ほどのシェアを持つ。売上は 64 億円と小さいが、利益率は 4 割近い。
費用の重さは、データ資産への投資にある。集めたデータの整備や基盤の構築に毎年お金がかかり、償却が営業利益を押し下げる。EBITDA と営業利益の開きが大きいのはこのためだ。
優良さと弱いところ
強みはデータの厚みだ。健保のデータは全国の保険の種類を網羅し、働く世代の 10 年超の履歴が追える。薬の使われ方や病気の経過を長く追える点が、製薬会社に選ばれる理由だ。同じ規模のデータを 1 から集めるのは、いまからでは難しい。
民間のライバルはメディカル・データ・ビジョン(MDV)だ。こちらは急性期病院の診療データが中心で、集める場所が違う。両社は競い合うより、使い分けられている面が強い。
利益率は高めだ。EBITDA の利益率は 26% 前後で、遠隔医療は 4 割近い。ただし償却を引くと、営業利益率は 2 割ほどに下がる。投資が重い事業である。
弱みは 3 つある。1 つ目は、データの元が健保組合であることだ。組合との契約と法の枠内でしか集められず、方針が変われば仕入れが変わる。2 つ目は、公的データ(NDB など)の開放だ。目的が違い、いまは補い合う。ただ 2027 年の法案提出が視野にあり、無料に近い選択肢が増える可能性がある。3 つ目は資本の使い方だ。買収の積み重ねでのれんが膨らみ、ROE は 6〜10% で動いてきた。
経営は社長の松島陽介氏が率いる。親会社のオムロンが 5 割強を持つ。独立した経営の自由度と、親会社の都合の両方を見ておく必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の医療データ活用は、政策の追い風を受けている。医療 DX の号令のもと、診療情報を研究や創薬に使う道が広がっている。製薬会社は、実際の患者の記録(リアルワールドデータ)を薬の開発や市場調査に使う流れを強めている。
データを売る側には、3 つの顔ぶれがある。民間の JMDC と MDV、国のデータベース(NDB など)、そして次世代医療基盤法に基づく認定事業者だ。JMDC は保険者データで強く、MDV は病院データで強く、公的データは網羅性で強い。使う側は目的に応じて組み合わせる。
製薬向けの需要は、薬価の引き下げと研究費の抑制に左右される。直近は製薬向けの一部が弱く、成長は期初の想定を下回った。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、この部門の回復が想定より早く、売上は 17% 伸びた。
構造の変化は 2 つある。1 つ目は法整備だ。国は医療情報の活用を広げる法案を、2027 年の国会に出すことも視野に入れている。公的データが使いやすくなれば、民間データの値付けに圧力がかかる。2 つ目は生成 AI だ。診療記録の解析や分析の手間が減ると、分析サービスの価値は薄れる。元データの価値は、むしろ上がる。
遠隔医療は、放射線診断専門医の不足が続く限り、需要は底堅い。ただ、診療報酬の見直しや、AI による読影支援が価格に影響する。
景気には強い。診療データは、景気が悪くなっても生まれ続けるからだ。主な揺れは、製薬会社の研究費と、制度の変更から来る。
資本政策と M&A
還元は少ない。配当は小さく、自社株買いの実績もない。会社は成長への投資を優先し、稼いだ現金はデータ基盤と買収に回してきた。純有利子負債は 126 億円で、時価総額の 5% ほどだ。借金は重くない。
過去の買収でのれんが積み上がった。これが ROE を押し下げた最大の理由だ。自己資本は 837 億円だが、利益は 70 億円前後で、ROE は 8% にとどまる。資本の使い方は、この会社の最大の課題である。
資本関係の中心はオムロンだ。2022 年にノーリツ鋼機から 33% を買い、2023 年に公開買付けで連結子会社にした。大量保有報告の集計では 56% だが、最新の数字は確かめていない。上場は維持されている。
オムロンが持ち株を売る、あるいは完全子会社にするという公表は見当たらない。ただ、親会社は事業の組み替えを進めており、将来の見直しがないとは言えない。
オムロンの公開買付けの価格は、いまの株価を上回る水準だった。親会社が買い増すなら、この価格が意識されるはずだ。
点検済み:中立の営業利益率23.4%が会社予想(27・28年12月期19〜20%)と過去最高(22.0%)を超え、ヘルスビッグデータが今の20.9%から24%へ上がる前提だったため、22%に置き直した(全社21.5%)。償却の負担が続く説明と合わせた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
医療データの需要は、これから 10 年が本番だ。製薬会社は患者の実際のデータなしに薬を開発できなくなり、保険者は健康づくりの成果をデータで証明する時代に入った。JMDC は、健保のデータを 10 年以上の履歴で持つ唯一の会社だ。売上は 2027 年 3 月期に 20% 伸びる計画で、遠隔読影も専門医不足の中で伸びる。
データは、使うほど価値が上がる。分析の経験が積み上がるほど、顧客は乗り換えにくくなる。製薬向けの契約は年単位で続き、更新の確率は高い。保険会社向けは新しい市場で、高い伸びが続いている。
利益率にはまだ伸びしろがある。データの整備にかかる費用は、顧客が増えるほど 1 件あたりが下がる。償却が一巡すれば、営業利益率は 3 割に届く。
オムロンとの提携は、健康機器とデータの組み合わせという新しい用途を開く。血圧計や体重計の記録を診療データとつなげる道がある。
公的データの開放は、むしろ追い風になる。データの利用者が増えれば、使いやすく整えて売る会社の価値が上がる。国が整えるのは入口で、実務に使える形に仕上げるのは民間だ。
慎重な見方
最大の問題は、資本の効率だ。ROE は 8% で、資本コストの 7.5% と変わらない。買収を重ねて自己資本を膨らませたが、利益はそれほど増えていない。2026 年 3 月期は、売上が 21% 伸びたのに、純利益は 7% 減った。成長しても株主の取り分が増えないのは、事業の構造に原因がある。
費用が重い。データの整備と基盤の構築に毎年投資し、その償却が営業利益を削る。EBITDA で見ると 26% の利益率だが、営業利益では 21% に下がり、純利益では 13% だ。売上が増えるほど償却も増える。
データの元は健保組合で、仕入れの条件は組合と法の枠に縛られる。国は医療情報の二次利用を広げる法案を、2027 年の国会に出すことも視野に入れている。公的データが使いやすくなれば、民間データの値付けは下がる。製薬会社は、同じ内容を安く買えるなら、そちらを選ぶ。
製薬会社は薬価の引き下げで研究費を抑えている。製薬向けは期初の想定より弱く、成長は計画を下回った。1 つの顧客層に頼る構造は、変わらない。
親会社のオムロンが 5 割強を持つ。経営の自由度は限られ、少数株主の取り分は優先されにくい。将来、完全子会社化や売却の話が出ても、買う側の都合で値段が決まる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。事業の質は高いが、問題は値段との関係だ。ROE が資本コスト並みの会社は、どれだけ成長しても、価値は利益の伸びほどには増えない。強気の見方は需要の強さを根拠にしているが、それは売上の話で、株主のものになる利益の話ではない。
そこで、確率は慎重な側に寄せた。構造的に負ける筋書きに 14%、やや悪い側に 23% を置き、強気の側は合わせて 31% とした。公的データの開放は方向として確かなので、悪い側を薄くはしていない。
中立は、売上が年 9%、利益率が少し上がる形だ。それでも ROE は 1 割ほどで、倍率は 13 倍弱にとどまる。この結果、10 年後の価値は、今の値段を大きく下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,421 円2,893 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 353 円231 億円)。 今の値に割り戻すと 2,391 円1,565 億円、今との差 −36.2%、 期待の年率 +2.5%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 10,669 円6,983 億円 | 611 円400 億円 | +201.2% | +11.7% | 1,015 円664 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,340 円4,804 億円 | 504 円330 億円 | +109.5% | +7.7% | 1,726 円1,129 億円 |
| 中立 | 32% | 4,433 円2,901 億円 | 374 円245 億円 | +28.4% | +2.5% | 1,538 円1,007 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,676 円1,097 億円 | 229 円150 億円 | −49.1% | −6.5% | 438 円287 億円 |
| 悲観 | 14% | 296 円194 億円 | 107 円70 億円 | −89.2% | −20.0% | 56 円37 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,421 円2,893 億円 | 353 円231 億円 | +27.5% | +2.5% | 4,774 円3,124 億円 |
今の株価時価総額 3,745 円2,451 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 9% 需要が強く、データの価値が上がる 利益 373 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 10,669 円6,983 億円
データの需要が想定を上回り続け、ヘルスビッグデータの顧客は 2.6 倍に増える。保険会社と医療機関向けが新しい柱になり、製薬向けも回復する。1 契約あたりの売上は、分析と健康管理の事業支援を組み合わせて物価より速く伸びる。
償却の山が一巡し、営業利益率は 3 割に届く。遠隔医療は専門医の不足が続き、シェアを伸ばして 4 割近い利益率を保つ。
公的データの開放は入口にとどまり、実務に使える形に整えて売る民間の価値は保たれる。会社は稼いだ現金の半分近くを株主に返し、ROE は 15% 台に上がる。
10 年後の売上は 1,900 億円ほど、純利益は 370 億円ほどになる。オムロンは持ち続け、データを軸にした健康事業の拡大に投資する。市場はこの会社を、成長するデータ企業として評価し直す。
- ヘルスビッグデータ:数量 7,800(契約顧客・団体の数(件、推定))× 価格 0.22(1 契約あたりの年間売上(億円))→ 売上 1,719 億円・営業利益 516 億円。契約 7,800 件、利益率 30%
- 遠隔医療(ドクターネット):数量 3,600(契約医療機関の数(施設、推定))× 価格 0.04(1 施設あたりの年間売上(億円))→ 売上 154 億円・営業利益 56 億円。3,600 施設、利益率 36%
倍率:事業の純利益 373 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.7 倍、時価総額 6,983 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データの希少性が保たれ、強気が実現した姿。1 割弱にとどめたのは、ROE が資本コスト並みの現状から飛躍するのが難しいため。
やや楽観 22% 成長が続き、利益率が少しずつ上がる 利益 275 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 7,340 円4,804 億円
顧客は 2.3 倍に増え、1 契約あたりの売上も物価を少し上回って伸びる。売上は 10 年で 3 倍強になる。製薬向けと保険会社向けが成長を支える。
償却の負担は残るが、営業利益率は 27% まで上がる。遠隔医療も、読影の件数が増えて利益率を保つ。
公的データの開放は一部で競合になるが、民間のデータの使いやすさが選ばれる。配当と自社株買いは増え、ROE は 13% 前後になる。
10 年後の売上は 1,550 億円ほど、純利益は 270 億円ほどになる。強気ほどの利益率には届かないが、需要の強さは数字に表れる。親会社との関係も安定したまま続く。
- ヘルスビッグデータ:数量 6,900(契約顧客・団体の数(件、推定))× 価格 0.21(1 契約あたりの年間売上(億円))→ 売上 1,419 億円・営業利益 383 億円。契約 6,900 件、利益率 27%
- 遠隔医療(ドクターネット):数量 3,200(契約医療機関の数(施設、推定))× 価格 0.04(1 施設あたりの年間売上(億円))→ 売上 137 億円・営業利益 47 億円。3,200 施設、利益率 34%
倍率:事業の純利益 274 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.5 倍、時価総額 4,804 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の途中経過を 2 割強。需要の追い風はあるが、価格は物価をやや上回る程度とした。
中立 32% 需要は伸びるが、ROE は 1 割ほどにとどまる 利益 185 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 4,433 円2,901 億円
ヘルスビッグデータの顧客は 2 倍に増え、売上は 10 年で 2.4 倍になる。価格は物価並みに上がる。製薬向けは回復し、保険会社向けが伸びる。
償却の負担は続き、営業利益率は 22% まで上がるにとどまる(会社予想は 19〜20%)。遠隔医療は専門医の不足で伸びるが、AI の読影支援が価格を抑える。
公的データの開放は少しずつ進み、民間データの値付けに圧力がかかる。会社は配当と自社株買いを少しずつ増やすが、成長投資も続ける。純利益は約 2.8 倍の 185 億円になり、ROE は 1 割ほどだ。
10 年後の売上は 1,300 億円、営業利益は 280 億円ほどになる。毎年の伸びは 1 割に届かない程度で、2027 年 3 月期の 2 割成長から、徐々に落ち着いていく。親会社の持ち株も、いまの形で続く。
- ヘルスビッグデータ:数量 6,000(契約顧客・団体の数(件、推定))× 価格 0.20(1 契約あたりの年間売上(億円))→ 売上 1,181 億円・営業利益 260 億円。契約 6,000 件、利益率 22%
- 遠隔医療(ドクターネット):数量 2,800(契約医療機関の数(施設、推定))× 価格 0.04(1 施設あたりの年間売上(億円))→ 売上 120 億円・営業利益 38 億円。2,800 施設、利益率 32%
倍率:事業の純利益 185 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.69 倍、時価総額 2,901 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:いちばん素直な道。成長は強いが、資本の効率は資本コストを少し上回るだけ。上下に広く散るので 3 割台にとどめた。
やや悲観 23% 公的データの開放で、価格に圧力がかかる 利益 109 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,676 円1,097 億円
公的データの開放が進み、製薬会社が一部を無料に近い選択肢に切り替える。ヘルスビッグデータの顧客は 1.5 倍に増えるが、1 契約あたりの売上は物価に追いつかない。
営業利益率は 19% にとどまる。償却は増え続け、売上が伸びても利益は伸びない。遠隔医療も、AI の読影支援で価格が下がる。
親会社は事業の組み替えを進め、成長のための買収をやめる。会社の稼ぐ力は伸びず、ROE は 7% 弱と資本コストに届かない。
10 年後の売上は 920 億円ほどにとどまり、純利益は 110 億円ほどだ。事業は黒字で続くが、投資の重さに見合う成長は得られない。株主にとっては、長い停滞の姿になる。
- ヘルスビッグデータ:数量 4,500(契約顧客・団体の数(件、推定))× 価格 0.18(1 契約あたりの年間売上(億円))→ 売上 826 億円・営業利益 157 億円。契約 4,500 件、利益率 19%
- 遠隔医療(ドクターネット):数量 2,400(契約医療機関の数(施設、推定))× 価格 0.04(1 施設あたりの年間売上(億円))→ 売上 96 億円・営業利益 27 億円。2,400 施設、利益率 28%
倍率:ROE6.9%がk7.5%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=13.3倍まで。構造的に負けた後の値付けは稼ぐ力(純利益÷k)を超えない。この筋書きは10.0倍に置き、時価総額1,091億円。
確率:公的データの開放が、価格に実際に効く道。ROE が資本コストを下回るのも、この道だ。
悲観 14% 民間データの希少性が失われる 利益 20 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 296 円194 億円
公的データが無料に近い条件で使えるようになり、製薬会社と保険者が民間データを買わなくなる。ヘルスビッグデータの顧客は増えず、1 契約あたりの売上は 10 年据え置かれる。物価で 1.34 倍になるはずの価格が動かないのは、実質で 2 割以上の値下がりだ。
営業利益率は 8% に落ち、データの価値の低下で、のれんと無形資産の減損が出る。遠隔医療も、AI の読影支援が広がり、利益率が 2 割に下がる。
会社は縮小均衡に入り、還元は止まる。利益は 20 億円ほどで、優良とは言えない。
10 年後の売上は 500 億円ほどで、今とほぼ同じだ。物価が上がる中で売上が横ばいなのは、実質では縮んでいるということだ。会社は優良ではなくなり、時価総額も今の 1 割に届かない。
- ヘルスビッグデータ:数量 3,000(契約顧客・団体の数(件、推定))× 価格 0.15(1 契約あたりの年間売上(億円))→ 売上 441 億円・営業利益 35 億円。契約 3,000 件、利益率 8%
- 遠隔医療(ドクターネット):数量 2,000(契約医療機関の数(施設、推定))× 価格 0.03(1 施設あたりの年間売上(億円))→ 売上 64 億円・営業利益 13 億円。2,000 施設、利益率 20%
倍率:ROE2.6%がk7.5%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=13.3倍まで。構造的に負けた後の値付けは稼ぐ力(純利益÷k)を超えない。この筋書きは先細る利益なので9.5倍(上限の約7割)に置き、時価総額194億円。
確率:公的データの開放、競合、AI が重なる構造的な負け。ROE が資本コストを大きく下回る。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ヘルスビッグデータ
健保の診療報酬明細と健診データを匿名にして整え、製薬会社・保険者・保険会社・医療機関に売る。分析の支援も含む。
| 数量契約顧客・団体の数(件、推定) | 価格1 契約あたりの年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 0.15 | 441 | 92 |
| 10 年後 中立 | 6,000 | 0.20 | 1,181 | 260 |
取り方:セグメント売上は 440.7 億円(会社開示)。契約数は開示が見つからないので、製薬・保険者・保険会社・医療機関を合わせて 3,000 件前後と推定し、1 契約あたり約 1,470 万円とした。営業利益はセグメント EBITDA 117 億円から償却 25 億円を引いた推定値。 数量は実物(顧客・団体の数。顧客は 2 倍に増える)。価格は物価並み。
遠隔医療(ドクターネット)
病院と放射線診断専門医をインターネットでつなぎ、遠隔で画像診断を請け負う。
| 数量契約医療機関の数(施設、推定) | 価格1 施設あたりの年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,000 | 0.03 | 64 | 21 |
| 10 年後 中立 | 2,800 | 0.04 | 120 | 38 |
取り方:セグメント売上は 63.9 億円(会社開示)。利用医療機関数は開示が見つからないので、2,000 施設と推定し、1 施設あたり約 320 万円とした。営業利益はセグメント EBITDA 24 億円から償却 3 億円を引いた推定値。
リスクと懸念
公的データの開放
国は医療情報の二次利用を広げる法案を 2027 年の国会に出すことも視野に入れている。NDB など公的データが使いやすくなれば、民間データの値付けは下がる。JMDC のデータの希少性が、そのまま価格に効いてきたからだ。これは 10 年の悪い筋書きの中心である。
ROE の低さと資本の使い方
買収で積んだのれんと投資の重さで、ROE は 8% にとどまる。2026 年 3 月期は売上が 21% 伸びたのに、純利益は 7% 減った。成長が利益に届かない構造が続くと、本質価値は伸びない。
製薬会社の研究費
製薬向けは売上の大きな部分を占める。薬価の引き下げや研究費の抑制で、購入が減ることがある。直近でもこの部門の動きが、成長を期初の想定より下げた。景気には強いが、業界の都合には弱い。
データの元が健保組合
データは健保組合との契約と法の枠の中で集める。組合が方針を変えたり、規制が厳しくなったりすれば、集められる人数が減る。この会社の資産の元は、他人の同意の上にある。
親会社の戦略
オムロンが 5 割強を持つ。親会社が事業の組み替えを進める中で、売却や完全子会社化の話が出る可能性がある。そうなると、少数株主の取り分は、買う側の都合で決まる。
生成 AI と分析サービスの値下がり
データの分析や報告書の作成は、AI で手間が減る。分析サービスの単価が下がれば、売上の一部が圧迫される。元のデータの価値は残るが、サービスの値付けは薄くなる。
今後の分かれ目
- 公的データ(NDB など)の二次利用を広げる法案が国会に出され、民間への提供が無料に近い条件になったら
- 民間データの希少性が下がる。やや悲観と悲観の確率を上げ、ヘルスビッグデータの単価の置き方を見直す。
- 製薬向けの売上が 2 期続けて 2 割以上伸びたら
- 製薬会社の需要が戻った合図になる。強気の筋書きの確率を上げ、中立の数量の伸びを見直す。
- 純利益の伸びが売上の伸びに追いついたら
- 投資の山が過ぎ、償却の重さが一巡した合図。営業利益率の置き方を上げ、ROE の見方も変わる。
- オムロンが持ち株の売却や完全子会社化を公表したら
- 資本関係が変わる。価格が、これまでの公開買付けの水準を下回るのか上回るのかで、少数株主の見方が変わる。
- 遠隔医療の読影件数が、AI の支援で急に増えるか、急に減るかしたら
- 遠隔医療の数量と価格の置き方を見直す。利益率の 4 割が保たれるかが分かれ目になる。
- 自社株買いや配当の水準が、利益の 5 割を超えて示されたら
- 資本の使い方が変わる。自己資本の積み上がりが止まり、ROE が上がる。中立の倍率の上限が上がる。
見ておくもの
- ヘルスビッグデータの四半期売上の伸びと、インダストリー(製薬等)・保険者・医療提供者・エンタープライズ別の動き
- 営業利益率と償却の増え方(EBITDA と営業利益の開きが縮むか)
- 医療情報の利活用に関する法案の提出時期と、民間への提供条件
- 遠隔医療の売上の伸びと EBITDA マージン(39% 前後を保てるか)
- オムロンの持ち株比率と、持ち株についての公表
- 株主還元(配当・自社株買い)の方針と、買収の規模
倍率と資本コストの決め方
ヘルスビッグデータと遠隔医療に分け、契約数×1契約あたりの売上で積んだ(契約数は開示がなく推定)。倍率は式の上限(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、k7.5%、残る割合1/2)に対する位置で置いた。楽観は上限の9割、やや楽観8.5割、中立8割。やや悲観・悲観はROEがk以下なので上限1÷kの範囲で稼ぐ力から置いた。今のPERや同業の倍率、過去の倍率は見ていない。純現金ではないので余った現金は分けていない。IFRSなので賃借はすでにBSに載っており、形は今と同じ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.8→18.7 倍・やや楽観 PER 14.9→17.5 倍・中立 PER 12.6→15.69 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。