結論
日東紡は、ガラス繊維を糸にして布に織る会社だ。半導体のパッケージ基板に使う特殊なガラスクロスで、いま利益の大半を稼いでいる。筆者の結論は「割高」。事業は強いが、市場の期待が先に走りすぎている。
稼ぎの中心は電子材料事業だ。2026年3月期の売上は全体の4割だが、営業利益は9割近い。AI サーバー向けの需要で、熱に強く反りにくい T ガラスクロスが足りない状態が続いてきた。会社は福島に150億円を投じて新棟を建て、2027年初めに生産を始める。T ガラスの生産能力は3倍ほどになる。
残りの事業は地味だ。診断薬のメディカルは安定しているが、断熱材と複合材は利益が薄い。電子材料の山が低くなれば、会社全体の利益は一気に細る。
2026年3月期の純利益は約420億円と急増したが、土地など固定資産の売却益が約340億円ある。実力の利益は、その半分ほどにとどまる。見るべきは2027年3月期の会社予想、純利益200億円のほうだ。
中立の筋書きでも、10年後の時価総額は今の9割強にとどまる。今の値段を超えるのは、AI 需要と T ガラスの優位が10年続くやや楽観より上の筋書きだけだ。総合では本質価値が今の時価総額を4割台半ば下回る。会社の質を疑っているわけではない。払う値段の安全域が見当たらないのだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10年後も、この利益を今と同じように予想できるか」を問う。日東紡は、予想しづらい側に入る。電子材料の利益率は4割に達したが、会社全体の営業利益率は10年前、1割ほどだった。ここまで上がった利益率は、需給が戻れば戻る。
株主に残るお金も考える必要がある。素材業は、設備を作り続けないと競争力を失う。会計の利益から設備投資を引いた「自由に使えるお金」は、増産の年には細る。2027年3月期は設備投資が稼ぎを上回る。
経営の資本配分は、現時点では評価できる。需要が来る前に設備を決め、使わない土地は売り、配当は無理のない水準にとどめている。一方で、前期の売却益を除いた「普通の利益」は、まだ200億円の水準にすぎない。
最後に安全域を問う。会社の質は高い。だが、中立の筋書きで見ても、10年後の価値は今の値段に届かない。今の値段は、AI 需要と T ガラスの優位が長く続く世界に近い。好きな会社と、買ってよい値段は別の話だ。もう少し「普通に強い会社」の値段まで下がるのを待つのが、安全域を重んじる人の態度になる。
何で稼ぐ会社か
日東紡は、ガラス繊維の総合メーカーだ。ガラスを溶かして細い糸にし、それを織った「ガラスクロス」が電子材料の主力になる。2026年3月期の売上は約1,180億円。内訳は電子材料が約490億円、メディカルが約140億円、複合材が約130億円、資材・ケミカルが約100億円、断熱材が約150億円、機械設備などが約170億円だ。
電子材料は、プリント基板や半導体パッケージ基板の中に入る強化材を作る。同社が育ててきたスペシャルガラスには2種類ある。熱で膨らみにくく反りに強い T ガラスと、信号の損失が小さい低誘電の NE ガラスだ。最先端の半導体は、チップを何枚も並べて載せる大きな基板に乗る。基板が反れば配線が切れる。だから T ガラスが要る。NE ガラスは2023年夏以降、AI サーバーのスイッチ用マザーボードにも採用された。
メディカルは体外診断用の試薬が中心で、景気に左右されにくい。断熱材は住宅用のグラスウールで、新築の減少と競争で利益が細っている。複合材は樹脂を強くするガラス繊維で、赤字が続いたが、直近は縮んでいる。
つまり会社の実態は、「AI 基板向けの特殊素材」と「成熟した素材の寄せ集め」の2階建てだ。値段がつくのは1階ではなく、2階の特殊素材のほうである。
優良さと弱いところ
堀は技術と時間にある。特殊ガラスは、溶かす温度や成分の調合、糸を引く条件、織りの精度までが一体のノウハウだ。基板メーカーは採用前に長い認定をする。一度採用された素材は、そう簡単には替えられない。
会社は台湾にも工場と溶融炉を持ち、2021年から増強してきた。需要が来る前に設備を作る姿勢は、いま実を結んでいる。次世代の T ガラスは2028年ごろの実用化を狙うと報じられており、熱膨張をさらに3割ほど抑える。
ただし筆者は、堀を「ほぼ独占」とまでは言い切らない。T ガラスが事実上の独占供給だという解説はあるが、一次の資料では確認できなかった。ガラスクロスには旭化成やユニチカなど国内勢のほか、台湾・中国勢がいる。中国勢が低膨張品を作り始めれば、いまの稀少性は薄れる。
資本の効率は、いま高い。営業利益率は約18%、電子材料だけなら約4割だ。ただし2023年3月期は営業利益率が6%を割っていた。過去の姿は「薄利の素材屋」である。利益率4割が10年続くと考えるのは楽観に傾きすぎる。弱みは、利益の9割を1つの事業が生んでいる点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の主役は、AI サーバーと先端パッケージだ。GPU やスイッチの性能を上げるため、チップを並べる基板が大きく、層も増えている。大きな基板ほど反りやすく、T ガラスの出番が増える。この需要は2027年にかけて強いと見られ、会社も2027年3月期の営業利益を300億円(前期比44%増)に引き上げた。
だが半導体は、2〜3年周期で山と谷を繰り返す。AI 向けの投資が過熱後に急に冷えれば、ガラスクロスの在庫調整が来る。ディスプレイ用ガラスで何度も繰り返された、不足、増産、値崩れの流れが、ここでも起こりうる。
競争の形も変わる。足元は供給が足りず、売り手が値段を決めている。しかし各社が増設すれば、2028年前後に需給が緩みかねない。日東紡自身も150億円の新棟を2027年初めに動かす。自分の増産で値段を下げることになりかねない。
もう1つの転換点がガラスコア基板だ。ガラスそのものを基板の芯に使う技術で、2035年に市場が58〜138億ドルに育つとの予測がある。業界全体には追い風でも、有機基板にガラスクロスを入れる今の構造とは競合する。日東紡にとっては機会であり、脅威でもある。
一方、断熱材は住宅の新築が減り続ける国内市場で、数量が伸びない。値上げで利益を保つ以外にない。
資本政策と M&A
配当は連結配当性向30%(定常収益ベース)が基本方針だ。還元は控えめで、自社株買いは大きくない。会社は稼いだ現金を、まず設備に回す考えである。
2027年3月期の設備投資は450億円と、前期の2倍になる。福島の新棟(150億円)と台湾などの増強が中心だ。純現金は約120億円しかなく、営業の稼ぎだけでは足りない年が出る。借り入れが増えても、利益が出ている間は耐えられる。
問題は、投資の回収が AI 需要の持続に賭けている点だ。山の頂上で建てた工場が、谷で遊ぶ。この種の失敗は素材業界で繰り返されてきた。
2026年3月期には、固定資産の売却益が約340億円出た。過去にも、千葉や伊丹の遊休地を手放してきた会社だ。持ち物の整理が上手なのは良い。ただし、売却益は一度きりのもので、利益の力と混ぜて見てはいけない。
2026年7月に株式を5分割した。M&A で買う側に回る動きは目立たない。kabufu の推計では10年以内に買収される確率は14%ほどだが、時価総額が5,000億円超の今は、買い手の候補は限られる。
点検済み:中立の営業利益率25%は過去の山(17.6%)を超えるが、会社の再来期予想(23.4%)に近く、電子材料の利益率は今(39%)より低い37%に置いてある(AI基板向けの高採算が裏づけ。値段は物価に届かない前提)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI サーバー向けの基板は、これから10年、大きく・多層になり続ける。1枚の基板に載るチップが増え、基板が反る問題は強まる一方だ。T ガラスはその解決策で、需要は数量の伸びに加えて、より高い規格への切り替えでも増える。
新棟で T ガラスの生産能力は3倍になる。しかも会社は2028年ごろに次世代品を出す計画だ。顧客は認定に時間をかけており、乗り換えの手間は大きい。供給が詰まっているいまは、日東紡が値段を決める側にいる。
福島の新棟が動く2027年以降、売上は実際に伸びる。2027年3月期の営業利益300億円は、まだ入り口だ。電子材料の利益率は4割台を保ち、2029年3月期には営業利益が600億円に届く姿も十分ありうる。
さらに会社の他の部分も上向く。複合材は赤字を脱し、断熱材も黒字に戻った。メディカルは高齢化で数量が伸びる。AI 向けの利益が会社全体の質を引き上げ、資本の効率(ROE)が高い状態が長く続けば、今の倍率は正当化される。ガラスコア基板が広がっても、基板の補強材は結局ガラスだ。日東紡の技術はそこでも生きる。
慎重な見方
今の利益は、供給が足りない状態が生んだものだ。電子材料の営業利益率は直近の四半期で48%に達した。素材屋が出す利益率ではない。需給が戻れば、必ず下がる。
増設は日東紡だけではない。同業が増産し、中国勢が低膨張品で追ってくることも考えられる。認定に時間がかかるといっても、顧客はいつまでも1社に頼らない。値段は、物価の上昇分すら取れなくなるおそれがある。
需要の足元も安全とは言えない。AI 向けの投資は、先走りの面がある。半導体は2〜3年ごとに在庫の調整が入り、一度崩れればガラスクロスも急に余る。ディスプレイ用ガラスで繰り返された「不足、増産、値崩れ」の流れが、今度は基板用で起こるかもしれない。
構造の脅威もある。ガラスコア基板が有機基板に代わる流れが強まれば、ガラスクロスの需要自体が細る。さらに2026年3月期の純利益420億円の大半は土地の売却益だ。ならした利益はその半分以下で、今の値段はその数字に対して非常に高い。投資は450億円と重く、借り入れも膨らむ。山で建てた設備が谷で重荷になれば、配当も削りにくい。
どちらに重みを置いたか
事業の質と足元の成長は、強気の見方が正しい。需要は強く、供給は足りず、新棟も2027年に動く。しかし値段の議論では、慎重な見方が優る。利益率4割が10年続く前提は置けない。
確率は10年だけで置き、慎重側に寄せた。10年は、同業の増産・中国勢・ガラスコア基板の3つがそろって効く。悲観と、やや悲観を合わせて3分の1強に置いた。
これは会社への否定ではない。今の値段が、強気の見方の先まで織り込んでいる、という指摘である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,545 円6,686 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 691 円1,303 億円)。 今の値に割り戻すと 2,156 円4,066 億円、今との差 −27.2%、 期待の年率 +3.6%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,116 円1.53 兆円 | 1,106 円2,086 億円 | +211.4% | +12.0% | 922 円1,739 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,675 円1.07 兆円 | 872 円1,645 億円 | +121.1% | +8.3% | 1,440 円2,717 億円 |
| 中立 | 33% | 3,769 円7,109 億円 | 684 円1,291 億円 | +50.4% | +4.2% | 1,470 円2,772 億円 |
| やや悲観 | 22% | 855 円1,612 億円 | 497 円937 億円 | −54.4% | −7.5% | 297 円561 億円 |
| 悲観 | 13% | 405 円764 億円 | 408 円770 億円 | −72.5% | −12.1% | 106 円199 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,545 円6,686 億円 | 691 円1,303 億円 | +43.0% | +3.6% | 4,235 円7,989 億円 |
今の株価時価総額 2,961 円5,585 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% T ガラスの優位が10年続く 利益 843 億円 · PER 18.2 倍 · 株価時価総額 8,116 円1.53 兆円
AI 基板は大型化と多層化を続け、ガラスクロスの需要は10年間、実質で伸び続ける。日東紡は T ガラスの次世代品を出し、既存顧客を保つ。ガラスコア基板が一部で広がっても、補強材としてのガラスの需要は残る。電子材料の売上は2,600億円、利益率は45%を維持する。自前の設備投資の回収が済み、稼いだお金で配当と自社株買いを増やす。メディカルも高齢化で伸びる。会社は「ガラス繊維の総合メーカー」から「AI 基板素材の世界的な中核」へ、評価を変える10年になる。株主への還元も厚くなり、10年後の自己資本利益率は17%前後と、今の素材メーカーの常識を超える。
- 電子材料(ガラスクロス・ヤーン):数量 788(標準ガラスクロス換算の出荷量(百万㎡相当・推定。高機能品は付加価値の分だけ重く数える))× 価格 3.30(1 百万㎡相当あたりの売上(億円・名目。物価と、競争による値崩れ・稀少性の度合いを含む))→ 売上 2,600 億円・営業利益 1,170 億円。電子材料:売上 2600 億円、営業利益率 45%
- メディカル(体外診断薬):数量 135(検査試薬の出荷量(百万テスト相当・推定))× 価格 1.86(1 百万テストあたり売上(億円・名目))→ 売上 251 億円・営業利益 50 億円。メディカル:数量 今の 1.35 倍、営業利益率 20%
- 断熱材・複合材・資材ケミカル・機械設備ほか:数量 100(ガラス繊維・断熱材・設備工事の出荷量(千トン相当・推定。工事は金額から換算))× 価格 7.38(1 千トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 738 億円・営業利益 37 億円。断熱材ほか:数量 今の 1.00 倍、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 843 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.2 倍。全体の PER 18.16 倍、時価総額 15,309 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:T ガラスの優位が10年続き、次世代品も取り込む。連続して勝つ必要があり、重ならないと実現しないので1割にとどめた。
やや楽観 22% AI 基板の主力素材として定着する 利益 622 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 5,675 円1.07 兆円
AI 基板の需要が主力用途として定着し、日東紡は T ガラスと NE ガラスの両方で選ばれ続ける。電子材料の売上は2,100億円、利益率は41%。同業の追い上げはあるが、技術の差と顧客との関係で値崩れは限定的だ。ガラスコア基板は一部の高性能品にとどまる。会社全体の営業利益は900億円ほどで、稼ぎの質は今より高い。設備投資は定期的に続くが、利益で十分まかなえる。断熱材は国内の縮小を値上げで補う。ただし利益の中心は、依然として電子材料だ。この筋書きでは、株主への還元も年々増え、10年後の自己資本利益率は15%に近づく。
- 電子材料(ガラスクロス・ヤーン):数量 649(標準ガラスクロス換算の出荷量(百万㎡相当・推定。高機能品は付加価値の分だけ重く数える))× 価格 3.24(1 百万㎡相当あたりの売上(億円・名目。物価と、競争による値崩れ・稀少性の度合いを含む))→ 売上 2,100 億円・営業利益 861 億円。電子材料:売上 2100 億円、営業利益率 41%
- メディカル(体外診断薬):数量 130(検査試薬の出荷量(百万テスト相当・推定))× 価格 1.86(1 百万テストあたり売上(億円・名目))→ 売上 241 億円・営業利益 46 億円。メディカル:数量 今の 1.30 倍、営業利益率 19%
- 断熱材・複合材・資材ケミカル・機械設備ほか:数量 97.0(ガラス繊維・断熱材・設備工事の出荷量(千トン相当・推定。工事は金額から換算))× 価格 7.38(1 千トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 716 億円・営業利益 29 億円。断熱材ほか:数量 今の 0.97 倍、営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 622 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.21 倍、時価総額 10,705 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 基板の需要が長く続き、電子材料の利益率が4割前後を保つ。強い側の中心として置いた。
中立 33% 需要は育つが、利益率は素材屋の水準へ戻る 利益 446 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 3,769 円7,109 億円
AI 基板の需要は育ち、電子材料の数量は今の2.6倍になる。一方で同業が増産し、中国勢も追い上げるため、値段は物価の上昇に届かない。電子材料の売上は1,650億円、利益率は37%と、素材屋としては高いが、今より下がる。ガラスコア基板は一部を置き換えるが、全体を壊すほどにはならない。会社の営業利益は650億円ほどで、2029年3月期の460億円から伸びは緩やかになる。断熱材は国内の縮小で数量が減り、複合材は薄利のまま。普通に強い優良企業として、評価が落ち着く10年になる。稼いだお金の4割を還元しても、自己資本は着実に積み上がる。
- 電子材料(ガラスクロス・ヤーン):数量 526(標準ガラスクロス換算の出荷量(百万㎡相当・推定。高機能品は付加価値の分だけ重く数える))× 価格 3.14(1 百万㎡相当あたりの売上(億円・名目。物価と、競争による値崩れ・稀少性の度合いを含む))→ 売上 1,650 億円・営業利益 610 億円。電子材料:売上 1650 億円、営業利益率 37%
- メディカル(体外診断薬):数量 125(検査試薬の出荷量(百万テスト相当・推定))× 価格 1.86(1 百万テストあたり売上(億円・名目))→ 売上 232 億円・営業利益 42 億円。メディカル:数量 今の 1.25 倍、営業利益率 18%
- 断熱材・複合材・資材ケミカル・機械設備ほか:数量 95.0(ガラス繊維・断熱材・設備工事の出荷量(千トン相当・推定。工事は金額から換算))× 価格 7.38(1 千トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 701 億円・営業利益 25 億円。断熱材ほか:数量 今の 0.95 倍、営業利益率 3.5%
倍率:事業の純利益 446 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.94 倍、時価総額 7,109 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は構造的に育つが、同業の増産と顧客の分散で値段が物価並みに届かず、利益率は3割台後半へ戻る筋書き。
やや悲観 22% 競争とガラスコア基板で稀少性が失われる 利益 217 億円 · PER 7.4 倍 · 株価時価総額 855 円1,612 億円
中国勢が低膨張のガラスクロスを量産し始め、顧客は調達先を分散する。ガラスコア基板の広がりも、需要の伸びを削る。T ガラスの値段は物価の上昇に追いつかず、電子材料の売上は1,100億円、利益率は27%に下がる。会社全体の営業利益は310億円で、今の水準にほぼ戻る。増設の償却が重く、投資の回収は計画より遅れる。メディカルは堅調だが、会社全体を支える規模ではない。配当は守るが、自社株買いは難しい。「特殊素材のメーカー」という評価は消え、通常の素材メーカーとして扱われる。投資の回収が遅れるぶん、自己資本利益率は10%を割る。
- 電子材料(ガラスクロス・ヤーン):数量 379(標準ガラスクロス換算の出荷量(百万㎡相当・推定。高機能品は付加価値の分だけ重く数える))× 価格 2.91(1 百万㎡相当あたりの売上(億円・名目。物価と、競争による値崩れ・稀少性の度合いを含む))→ 売上 1,100 億円・営業利益 297 億円。電子材料:売上 1100 億円、営業利益率 27%
- メディカル(体外診断薬):数量 115(検査試薬の出荷量(百万テスト相当・推定))× 価格 1.86(1 百万テストあたり売上(億円・名目))→ 売上 213 億円・営業利益 34 億円。メディカル:数量 今の 1.15 倍、営業利益率 16%
- 断熱材・複合材・資材ケミカル・機械設備ほか:数量 90.0(ガラス繊維・断熱材・設備工事の出荷量(千トン相当・推定。工事は金額から換算))× 価格 7.38(1 千トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 665 億円・営業利益 13 億円。断熱材ほか:数量 今の 0.90 倍、営業利益率 2.0%
倍率:事業の ROE 7.5% が k 7.75% 以下なので PER は 1÷k=11.4 倍まで。AI 向けの需要が一服し、増産分が余って ROE が k を下回る 7.5% に落ちる年。上限の 6 割台半ばに置く。(上限の約 65% の 7.4 倍)
確率:中国勢の追随とガラスコア基板の広がりで、稀少性が失われる。10年は技術の置き換えが起きやすい時間なので、厚く置いた。
悲観 13% 構造的に負け、普通の素材メーカーに戻る 利益 24 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 405 円764 億円
ガラスコア基板が有機基板を置き換え、ガラスクロスの需要自体が細る。同時に中国・台湾勢が量産で追いつき、日東紡の T ガラスは値崩れする。そこへ半導体の谷が重なり、電子材料の売上は520億円まで落ち、利益率は1割を割る。会社は設備を持て余し、償却と借入利息が利益を食う。断熱材や複合材は薄利のままで、本業は失速する。配当は守れず、削減される。会社は「AI 時代の素材メーカー」から、普通の素材メーカーに戻る。純資産と土地などの資産が株価の床になる10年だ。最初の5年は利益が出て配当も払えるが、後半に急に細る。遊休地の売却で資金を作る場面も出る。
- 電子材料(ガラスクロス・ヤーン):数量 210(標準ガラスクロス換算の出荷量(百万㎡相当・推定。高機能品は付加価値の分だけ重く数える))× 価格 2.48(1 百万㎡相当あたりの売上(億円・名目。物価と、競争による値崩れ・稀少性の度合いを含む))→ 売上 520 億円・営業利益 42 億円。電子材料:売上 520 億円、営業利益率 8%
- メディカル(体外診断薬):数量 100(検査試薬の出荷量(百万テスト相当・推定))× 価格 1.76(1 百万テストあたり売上(億円・名目))→ 売上 176 億円・営業利益 21 億円。メディカル:数量 今の 1.00 倍、営業利益率 12%
- 断熱材・複合材・資材ケミカル・機械設備ほか:数量 80.0(ガラス繊維・断熱材・設備工事の出荷量(千トン相当・推定。工事は金額から換算))× 価格 7.01(1 千トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 561 億円・営業利益 0 億円。断熱材ほか:数量 今の 0.80 倍、営業利益率 0.0%
倍率:T ガラスが他技術に置き換わり電子材料が赤字に沈む構造的な負け筋。稼ぐ力は純利益 24 億円(÷ k で 274 億円)しかなく、床は純現金+売れる資産の約 769 億円。今の自己資本 1,736 億円に 0.44 倍を掛けた。
確率:ガラスクロスそのものの需要が細り、同時に景気の谷が重なる複合の筋書き。優良さを失う型は一度始まると戻りにくく、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電子材料(ガラスクロス・ヤーン)
半導体パッケージ基板・プリント基板向けの特殊ガラス(T ガラス・NE ガラス)と、その糸・布。
| 数量標準ガラスクロス換算の出荷量(百万㎡相当・推定。高機能品は付加価値の分だけ重く数える) | 価格1 百万㎡相当あたりの売上(億円・名目。物価と、競争による値崩れ・稀少性の度合いを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 2.46 | 493 | 194 |
| 10 年後 中立 | 526 | 3.14 | 1,650 | 610 |
取り方:2026年3月期の電子材料売上493億円を、標準品換算で200百万㎡相当、1 百万㎡あたり 2.46 億円と置いた(開示は金額のみのため推定)。T ガラスなど高機能品の増産は、今の値段で重みを付けた数量の増加として数量の側に入れる。価格は物価(3 年 1.09・10 年 1.34 倍)に、競争で稀少性が薄れる分の補正を掛けて動かす。
メディカル(体外診断薬)
血液検査用などの試薬。景気に左右されにくい安定事業。
| 数量検査試薬の出荷量(百万テスト相当・推定) | 価格1 百万テストあたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.39 | 138 | 24 |
| 10 年後 中立 | 125 | 1.86 | 232 | 42 |
取り方:売上138億円を、年100百万テスト相当、1 百万テストあたり 1.385 億円と置いた(開示は金額のみ。推定)。数量は高齢化で緩やかに増え、価格は物価並みに上がる。
断熱材・複合材・資材ケミカル・機械設備ほか
グラスウール、樹脂強化用ガラス繊維、産業資材、設備の設計・施工。利益の薄い成熟事業の集まり。
| 数量ガラス繊維・断熱材・設備工事の出荷量(千トン相当・推定。工事は金額から換算) | 価格1 千トン相当あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 5.51 | 551 | 12 |
| 10 年後 中立 | 95.0 | 7.38 | 701 | 25 |
取り方:売上551億円を、年100千トン相当、1 千トンあたり 5.51 億円と置いた(開示は金額のみ。推定)。数量は国内の新築減で細り、価格は物価並みに上げられるかが利益率を決める。
リスクと懸念
AI 投資の急な冷え込み
利益の9割を電子材料が生み、その大部分は AI サーバー向けの基板だ。AI 向けの投資が過熱後に急に冷えれば、ガラスクロスにも在庫調整が来る。半導体は2〜3年周期で山と谷が来るので、数年内に1度は谷が来ると考えるべきだ。谷の年は、利益が3〜5割落ちる。
同業の増産で値段が崩れる
いまは供給が足りないので、売り手が値段を決めている。同業の増設が重なれば、2028年前後に需給が緩みかねない。日東紡も2027年初めに新棟を動かす。電子材料の営業利益率が4割を超えているのは、稀少性の対価だ。需給が戻れば、利益率は大きく下がる。
中国勢などの追随
ガラスクロスには国内の旭化成やユニチカのほか、台湾・中国のメーカーがいる。中国勢が低膨張品を量産すれば、T ガラスの優位は縮む。基板メーカーは調達先を分散したい。供給が1社に偏るのは、顧客にとってもリスクだからだ。優位が薄れる速度が、10年の価値を大きく左右する。
ガラスコア基板への置き換え
ガラスを基板の芯に使う技術が育っている。有機基板にガラスクロスを入れる今の構造とは競合する。まだ量産の入り口で、広がる速度も不確かだ。広がれば補強材の需要を食うが、会社も材料側の関わり方を探れる点で、機会でもある。どちらに転ぶかで長期の見方が変わる。
設備投資の回収と借り入れ
2027年3月期の設備投資は450億円と前期の2倍で、純現金は約120億円しかない。投資が稼ぎを上回る年が続けば、借り入れが増える。需要が続く間は問題にならないが、谷の年に償却と利息が重くのしかかる。山の頂上で建てた設備が谷で遊ぶ、素材業界で繰り返された型だ。
利益の質の見誤り
2026年3月期の純利益約420億円には、固定資産の売却益が約340億円入っている。会社予想の2027年3月期の純利益200億円が、ならした利益の目安だ。前期の数字を基準にすると、今の値段を割安と見誤る。比べるなら、この数字を使うべきだ。
非電子事業の薄利
断熱材は住宅の新築減と競争で利益が細り、複合材はようやく赤字を縮めた段階だ。電子材料の山が低くなったとき、これらの事業は会社全体を支える力がない。成熟した事業をどう整理するかが、今後の経営の課題として残る。
今後の分かれ目
- AI 向け投資の冷え込みで基板メーカーの発注が落ちる
- 電子材料の売上が3〜5割落ち、在庫調整が数四半期続く。利益の大半が消えるため、中立や、やや悲観の筋書きの重みが一気に増す。新棟の償却が先に来るので、利益は売上以上に落ちる。
- 福島の新棟が予定どおり2027年初めに動き、T ガラスの出荷が3倍の水準へ向かう
- 売上は電子材料を中心に上がり、営業利益は2029年3月期に460億円を超える。需給が締まったままなら、やや楽観より上の筋書きが現実になる。
- 同業の増設が出そろい、T ガラスの値段が下がり始める
- 利益率が4割から3割台へ下がり、会社全体の営業利益は2027年3月期の予想を下回る。倍率も同時に縮むため、時価総額の下振れは利益以上に大きい。
- 主要な半導体メーカーが、ガラスコア基板の量産採用を決める
- ガラスクロスの需要の伸びは鈍る。日東紡がガラス材料の側で関われるかが焦点になり、関われなければ悲観に近づく。
- 次世代 T ガラスが2028年ごろに実用化し、既存顧客が採用する
- 性能の差が広がり、値段の下落を抑えられる。10年の筋書きは、やや楽観以上の重みが増す。
- 2027年3月期の電子材料の営業利益が会社予想を大きく上回る
- 需給のひっ迫が長引く証拠になり、やや楽観の重みが増す。ただし高い利益は新規参入も呼ぶので、数字がどれだけ続くかを見極める必要がある。
見ておくもの
- 電子材料の営業利益率(四半期ごと。4割台を保てるか)
- 福島の新棟の稼働時期と、T ガラスの出荷数量
- 主要な基板メーカー・半導体メーカーの設備投資計画(AI 向け)
- ガラスコア基板の量産採用の発表
- 同業・中国勢の低膨張ガラスクロスの量産開始
- 設備投資の総額と純有利子負債の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は、利益の質(電子材料に偏る・半導体の循環・同業の追い上げ)と資本コスト7.75%(基本の7.5%に、循環+0.5%・値決め−0.25%・寿命+1.0%の調整)から決め、今の株価や今の PER(約28倍)には寄せていない。結果として、中立の10年後でも今の時価総額を下回る。2026年3月期の純利益は固定資産の売却益で膨らんでおり、ならした利益は会社予想の200億円を目安にした。純現金は時価総額の2%と小さく、余った現金は立てていない。リースは重い業態ではない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.13→18.16 倍・やや楽観 PER 12.51→17.21 倍・中立 PER 11.69→15.94 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。