結論
フジミインコーポレーテッドは、半導体のウェハーを磨く材料の会社だ。回路を作る途中の研磨(CMP)では前工程の主力品で世界の過半、ウェハー切り出し後のラッピング材では世界のほぼ独占を持つ。営業利益率は 2 割前後と、素材の会社では高い。
筆者の結論は「ほぼ妥当で、やや割高」だ。AI 向けの需要が追い風なのは間違いない。ただ、この追い風は今の値段にかなり織り込まれている。10 年後の中立の稼ぎで測ると、本質価値は今の時価総額をわずかに下回る。
強みは、顧客の工程に組み込まれた材料であることだ。研磨材は工程ごとに認定を受け、いったん採用されると替えにくい。研究費を売上の約 9% かけ続けて、先端の工程に合う材料を出している。
弱みは資本の使い方にある。会社は 6 年で 1,300 億円の設備投資を計画する。今の自己資本の 1.5 倍を超える額だ。需要が計画どおりに伸びれば利益は増えるが、外れれば償却だけが残る。前の計画も進みが遅れた。
手元には 120 億円ほどの純現金があるが、時価総額の 5% にすぎず、現金で下値が支えられる会社ではない。値段を決めるのは、あくまで稼ぐ力だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、まず事業の質は高い。顧客の工程に組み込まれた消耗材で、需要は半導体の生産量に連動して長く続く。10 年後も存在し、今より大きいと見るのが自然だ。
次に、株主のものになる利益で測る。会社が営業利益から税と設備を差し引くと、手元に残るお金は大きくない。新工場の投資が重い間は、利益がそのまま現金にならないからだ。筆者は、この点を高い倍率の根拠にするのは危ういと考える。
資本の配分は、評価が分かれる。配当は手厚いが、6 年で 1,300 億円の投資は賭けの色が濃い。需要が読み通りなら報われるが、読みが外れた時の逃げ道は少ない。投資の回収を確かめるまでは、安全域を厚く取りたい。
最後に値段だ。10 年後の中立の利益に、事業の力に見合った倍率を掛けて今に割り引くと、今の値段にはほとんど余裕がない。優れた会社だが、払ってよい値段は今より少し低い。安全域がない以上、筆者は「やや割高」とみる。
何で稼ぐ会社か
売上の大半は、半導体のウェハーを磨く粉と薬液だ。ウェハーの原料を切り出して磨くシリコン向けと、回路を重ねる途中で表面を平らにする CMP 向けの 2 本柱で、合わせて全社の約 8 割を占める。残りはハードディスクの基板向け、半導体装置の部品を守る溶射材、一般工業向けの研磨材だ。
稼ぎの中心は CMP だ。直近の四半期では売上の半分を超え、前年より 3 割近く伸びた。先端ロジックと先端メモリで、研磨の回数が増えているためだ。CMP は層を重ねるたびに必要になる。層数が増えれば、材料の使用量はそのまま増える。
シリコン向けは成熟した事業だ。ラッピング材は世界シェアが 9 割前後で、ウェハーの出荷面積に連動する。伸びは年 3〜4% ほど。ポリシング材は競合もいる。
ディスク向けは長い縮小傾向にあり、AI サーバー向けの記録装置の需要でやや持ち直している。溶射材は半導体装置の部品にかける被膜の材料で、装置の稼働とともに増える。
今期の会社予想は、売上 748 億円、営業利益 145 億円。海外の売上比率は 7 割を超え、為替の影響を受ける。
優良さと弱いところ
優良さの源は、認定による切り替えにくさだ。CMP の材料は、顧客の工程の条件に合わせて作り込む。顧客が別の会社に替えるには、再認定の手間と歩留まりの危険を負う。この壁があるから、営業利益率は直近で 2 割前後を保っている。
過去 10 年のこの利益率は、12% から 23% の間を動いた。2022 年 3 月期と 2023 年 3 月期は 23% 前後まで上がり、2024 年 3 月期は半導体の在庫調整で 16% に落ちた。景気の波は受けるが、赤字になった年はない。
財務は堅い。自己資本比率は約 7 割で、純現金を持つ。営業利益は支払利息の 100 倍近くあり、借金で行き詰まる心配はない。
弱い点は 3 つある。1 つは顧客の集中で、主要な半導体メーカーが調達先を見直せばシェアが動く。2 つめは競合で、エンテグリス、富士フイルム、レゾナックなどに加え、中国の現地メーカーが育っている。3 つめは設備投資の重さだ。
経営は配当性向 55% 以上を掲げ、還元に前向きだ。自社株買いは 10 年前が最後で、資本を戻す手段は配当が中心になっている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
CMP の市場は 2025 年で約 22 億ドル。半導体の微細化と積層化で、年 6〜9% の数量増が見込まれる。会社自身は 2029 年度まで年約 10% の伸びを想定する。
伸びの理由は単純で、先端の半導体ほど工程が増え、研磨の回数も増えるからだ。ロジックは配線の層が増え、メモリは立体に積み上がる。AI 向けの先端チップとメモリは、この流れの中心にある。
競合は、世界最大手のエンテグリス(旧 CMC マテリアルズ)、富士フイルム、レゾナック、デュポン、メルクなどだ。フジミは前工程の主力ポリシング材で過半を握り、研磨材に特化した技術で戦う。
循環のどこにいるかというと、直近は上向きだ。2027 年 3 月期の第 1 四半期は、売上が 19% 増え、CMP は 28% 増えた。ただ半導体は 2〜3 年ごとに谷が来る。過去にも 2009 年、2019 年、2023 年に世界の市場が縮んだ。
規制も効く。米国の対中輸出規制は、中国向けの販売を縛る一方で、中国の国産化を後押しする。フジミの海外売上は 7 割を超えるため、地政学の影響は避けられない。
物価の面では、原料と人件費が上がる分を、値上げで転嫁できるかが焦点になる。認定品の強さで、通しやすい部類だ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、設備投資が主役だ。新しい中長期計画(2026 年 10 月公表)は、6 年で 1,300 億円を設備に回す。各務山(岐阜県)の拡張と新工場、台湾の新工場、新研究所が柱だ。台湾の工場は最終決定がまだである。
還元は連結配当性向 55% 以上を目標とし、2029 年 3 月期までは配当を維持か増配する。足元の配当は前期と同水準で、配当性向は 6 割前後だ。自社株買いは、2016 年に実施して以来ない。
M&A は、新規事業の獲得に使う方針で、前の計画では 6 年で約 80 億円を見込んだ。新計画でも、2032 年 3 月期に M&A 由来で売上 40 億円を見込む。規模は小さく、大型買収で価値を壊す心配は今のところ小さい。
政策保有株は縮減の方針だ。親会社や支配株主はおらず、TOB の話も出ていない。ただ時価総額が 2,500 億円と小さく、外部からの買収提案が出る余地はある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の研磨は、AI の時代に最も確かな消耗材の 1 つだ。先端ロジックは層が増え、メモリは積み上がる。研磨の回数が増えれば、材料はそのまま売れる。フジミは前工程の主力ポリシング材で過半、ラッピング材ではほぼ独占だ。
顧客は工程ごとに材料を認定する。いったん採用されれば、替える理由がない。この切り替えにくさが、2 割前後の営業利益率を支えている。会社の新計画は、2032 年 3 月期に売上 1,380 億円、利益率 21%、ROE 17% を掲げる。
1,300 億円の設備投資は、需要の先取りではない。各務山と台湾の新工場は、すでに見えている顧客の需要に応える投資だ。CMP は 10 年で今の 3 倍に乗る。SiC のパワー半導体や溶射材など、新しい用途も育つ。
純現金があり、借金の心配はない。配当性向は 55% 以上で、還元も厚い。今の時価総額は、この成長を半分も織り込んでいない。
新しい研究所は 2026 年末に完成し、次世代の材料開発を速める。ここまで揃った会社を、景気の山谷だけで割引くのは行きすぎだ。
慎重な見方
半導体は 2〜3 年ごとに谷が来る。フジミの利益率は 12% から 23% の間を動いた。今は山に近い。山の利益に高い倍率を掛けるのは危うい。
競合は強い。エンテグリスは最大手で、富士フイルムやレゾナックも先端に投資している。中国の現地メーカーは成熟ノードから攻める。顧客が価格を求めれば、認定品でも単価は物価に届かない。
設備投資は重い。6 年で 1,300 億円は、今の自己資本の 1.5 倍を超える。前の計画は進みが遅れた。新工場の完成と需要の谷が重なれば、償却だけが残る。ROE は目標の 15% に届かず、9% 台に沈みかねない。
純現金は時価総額の 5% しかなく、下値を支えない。値段は稼ぐ力で決まり、その稼ぐ力は循環と価格競争に左右される。今の値段は、順調な成長を前提にしすぎている。
加えて、中計の数字には疑問もある。2027 年 3 月期の売上は計画表で 825 億円なのに、会社予想は 748 億円だ。目標は強気に作られている。
どちらに重みを置いたか
強気の主張は事業の質に、慎重な主張は投資の重さと循環に、それぞれ根拠がある。筆者は、質の高さは認めつつ、投資の回収が読めない点で慎重な側にやや軸足を置いた。
確率は、中立に最も厚い 35% を置き、楽観側 37%、悲観側 28% とした。悲観側をやや厚くしたのは、前の計画が遅れた実績と、新工場の稼働が需要の谷と重なる危険による。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,947 円3,670 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,219 円905 億円)。 今の値に割り戻すと 3,384 円2,511 億円、今との差 +8.5%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 8,786 円6,518 億円 | 1,618 円1,200 億円 | +233.4% | +12.8% | 1,248 円926 億円 |
| やや楽観 | 25% | 6,841 円5,075 億円 | 1,456 円1,080 億円 | +165.9% | +10.3% | 2,074 円1,539 億円 |
| 中立 | 35% | 5,338 円3,960 億円 | 1,254 円930 億円 | +111.3% | +7.8% | 2,307 円1,711 億円 |
| やや悲観 | 18% | 1,496 円1,110 億円 | 1,011 円750 億円 | −19.6% | −2.2% | 451 円335 億円 |
| 悲観 | 10% | 452 円336 億円 | 404 円300 億円 | −72.5% | −12.1% | 86 円64 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,947 円3,670 億円 | 1,219 円905 億円 | +97.7% | +7.1% | 6,167 円4,575 億円 |
今の株価時価総額 3,120 円2,315 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 先端ロジックとメモリが伸び続け、研磨材の世界標準になる 利益 312 億円 · PER 20.9 倍 · 株価時価総額 8,786 円6,518 億円
先端ロジックの層数と、積層メモリの工程数が増え続ける。研磨の回数はそのまま研磨材の使用量に直結する。フジミは前工程の主力ポリシング材で過半のシェアを持ち、新しい材料(コバルトやルテニウムなど)の工程にも採用を広げる。CMP の売上は今の 3 倍に乗る。
シリコンウェハー向けも、AI 向け需要で出荷面積が戻り、世界首位のラッピング材が持ち上がる。SiC パワー半導体向けの研磨材が育ち、M&A で買った機能材料も数十億円の事業に育つ。
新工場の稼働率が高く、利益率は 22% 前後まで上がる。10 年の稼ぎは今の 3 倍を超え、配当性向は 6 割を保つ。
会社の新計画(2032 年 3 月期に売上 1,380 億円)を上回る水準で、半導体の需要がほぼ最良の形で続いた場合だ。
- CMP 製品(半導体の研磨材):数量 5.4(CMP 市場(億ドル・実質)× 自社シェア)× 価格 210(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 1,124 億円・営業利益 315 億円。市場 年 8% 増・シェア維持、高機能品へ単価シフト
- シリコンウェハー向け:数量 2.1(ウェハー出荷面積に連動する売上規模(億ドル・実質))× 価格 201(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 418 億円・営業利益 71 億円。ウェハー出荷面積 年 3.8% 増
- ディスク・溶射材・その他:数量 1.4(売上規模(億ドル・実質))× 価格 210(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 303 億円・営業利益 61 億円。SiC 向け・M&A で新事業が育つ
倍率:事業の純利益 312 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.9 倍。全体の PER 20.89 倍、時価総額 6,518 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 向けの先端半導体投資が 10 年続き、CMP の使用量が年 8% 超で増える形。実現すれば強いが、半導体は 2〜3 年周期で谷が来るため、確率は 1 割台前半にとどめた。
やや楽観 25% AI 向けの需要が根づき、会社の中計に近い成長 利益 254 億円 · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 6,841 円5,075 億円
CMP 市場は年 7% 前後で伸び、フジミは先端ロジック向けのシェアを守る。単価は高機能品への切り替えで、物価の上昇をほぼ取り込む。CMP の売上は今の 2.7 倍になる。
シリコン向けは年 3% 台の数量増で、価格はほぼ横ばいから緩やかな上げにとどまる。ディスクは縮むが、溶射材と一般工業向けが補う。
各務山と台湾の新工場は 5 年ほどで埋まる。償却の重さで利益率は 21% 前後と、中計の目標に並ぶ。配当性向 55% 以上を続けて、自己資本は穏やかに積み上がる。
10 年の稼ぎは今の 2.5 倍ほど。会社の計画どおりに行けば、この形に近い。ただ、実現には新工場の立ち上げと主要顧客の採用の維持が欠かせない。
- CMP 製品(半導体の研磨材):数量 4.7(CMP 市場(億ドル・実質)× 自社シェア)× 価格 206(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 975 億円・営業利益 254 億円。市場 年 7%・シェア維持
- シリコンウェハー向け:数量 2.0(ウェハー出荷面積に連動する売上規模(億ドル・実質))× 価格 195(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 386 億円・営業利益 62 億円。出荷面積 年 3.3% 増・価格は緩やか
- ディスク・溶射材・その他:数量 1.3(売上規模(億ドル・実質))× 価格 201(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 252 億円・営業利益 45 億円。溶射材と新事業が伸びる
倍率:事業の純利益 254 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.0 倍。全体の PER 19.98 倍、時価総額 5,075 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中長期計画(2032 年 3 月期に売上 1,380 億円)に近い形。計画は意欲的で達成が遅れる前例(前計画は進捗が遅れた)があるため、中立より少し低い確率とした。
中立 35% 需要は伸びるが、設備と競争が利益率を抑える 利益 207 億円 · PER 19.1 倍 · 株価時価総額 5,338 円3,960 億円
CMP 市場は 10 年で実質 1.75 倍ほどに伸びる。フジミはシェアを維持し、単価は物価並みに上がる。CMP の売上は今の 2.3 倍だ。
シリコン向けはウェハー出荷面積が年 2〜3% 増える一方、顧客のウェハーメーカーが値下げを求める。単価の上がり方は物価に届かない。ディスクは縮小が続く。
新工場の償却と研究費で、営業利益率は 2 割弱にとどまる。過去 10 年の中央値 17% よりは高いが、会社が掲げる 2 割台前半には届かない。利益は今の 2 倍。配当は 6 割を出し、自己資本は 1,500 億円弱に増える。
- CMP 製品(半導体の研磨材):数量 4.3(CMP 市場(億ドル・実質)× 自社シェア)× 価格 201(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 856 億円・営業利益 214 億円。市場 年 5.8% 増・シェア維持・価格は物価並み
- シリコンウェハー向け:数量 1.9(ウェハー出荷面積に連動する売上規模(億ドル・実質))× 価格 188(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 349 億円・営業利益 52 億円。出荷面積 年 2.7% 増・価格は物価に届かない
- ディスク・溶射材・その他:数量 1.1(売上規模(億ドル・実質))× 価格 201(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 214 億円・営業利益 34 億円。溶射材が伸び、ディスクは縮む
倍率:事業の純利益 207 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.1 倍。全体の PER 19.13 倍、時価総額 3,960 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 向けの需要は続くが、競合(エンテグリス、富士フイルム、中国勢)が追い上げ、設備投資の負担も重い。強気と慎重の両方が一定の説得力を持つので、最も厚い確率を置いた。
やや悲観 18% 競合に価格を削られ、投資の回収が遅れる 利益 111 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,496 円1,110 億円
AI 向けの投資が一巡し、新工場が稼働率の低いまま償却だけが重くのしかかる。CMP の数量は伸びるが年 3.8% にとどまり、単価は主要顧客の値下げ要求で物価に届かない。
中国の現地メーカー(安集微電子など)が成熟ノード向けで台頭し、汎用品の価格を押し下げる。先端向けは守るが、全体の利益率は 14% 台まで落ちる。
投資を回収できず、ROE は 9% を切る。配当は維持するが、自己資本はあまり積み上がらない。
会社は先端向けの強みを保つが、普通の高収益の部材会社に近づく。利益は今の 1.2 倍ほどにとどまり、10 年で物価の分をようやく取り戻す程度だ。
- CMP 製品(半導体の研磨材):数量 3.5(CMP 市場(億ドル・実質)× 自社シェア)× 価格 180(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 635 億円・営業利益 127 億円。市場 年 3.8%・価格は物価に届かない
- シリコンウェハー向け:数量 1.6(ウェハー出荷面積に連動する売上規模(億ドル・実質))× 価格 173(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 272 億円・営業利益 30 億円。出荷面積 年 1% 増・値下げ
- ディスク・溶射材・その他:数量 0.8(売上規模(億ドル・実質))× 価格 180(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 150 億円・営業利益 15 億円。新事業は小粒
倍率:事業の ROE 9%、k 7%、残る割合 1/2 から RONIC 8.2%。g 3.5% で上限 14.3 倍だが、投資の回収が遅れる筋書きなので 7 割へ引き上げず約 7 割に置く。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 10 倍・時価総額 1,110 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:新工場が完成する頃に需要が減速し、中国勢と欧米勢の値下げ圧力が重なる形。半導体の過去の循環と、前計画の遅れを踏まえ、2 割近い確率を置いた。
悲観 10% 技術と価格で負け、重い設備だけが残る 利益 35 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 452 円336 億円
先端ロジックで主要顧客が調達先を切り替え、競合に前工程の主力ポリシング材の席を奪われる。中国勢は成熟ノードを国産で固め、フジミの海外売上の 7 割以上を占める市場が細る。
数量は横ばいから微減、単価は競争で名目でも上がらない。設備は余り、稼働率は 5 割台に落ちる。減損も出て自己資本は削られる。
営業利益率は 1 桁前半となり、もはや高収益の部材会社ではない。価値は稼ぐ力と純現金で測るほかない。
この形では配当を守るのがやっとで、新しい計画の目標は一つも達成できない。筆者は発生確率を 1 割と見て、悲観の床は純現金と稼ぐ力から置く。
- CMP 製品(半導体の研磨材):数量 2.6(CMP 市場(億ドル・実質)× 自社シェア)× 価格 150(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 383 億円・営業利益 50 億円。数量横ばい・価格は上がらない
- シリコンウェハー向け:数量 1.3(ウェハー出荷面積に連動する売上規模(億ドル・実質))× 価格 150(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 194 億円・営業利益 12 億円。ウェハー向けは縮む
- ディスク・溶射材・その他:数量 0.7(売上規模(億ドル・実質))× 価格 150(1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率))→ 売上 103 億円・営業利益 3 億円。稼働率低下
倍率:構造的に負けて利益が細る筋書きなので PBR。稼ぐ力(事業の純利益 35 億円 ÷ k 7%)は約 470 億円、純現金は 123 億円。ROE 4% は ROE 9% のやや悲観(PER 10.0 倍)よりずっと低いので、稼ぐ力の満額は付けず、今の自己資本 839 億円の 0.40 倍(約 336 億円)に置いた。
確率:新工場に 1,300 億円を投じた後に、需要の腰折れとシェア喪失が重なる筋書き。構造的な負けとして 1 割を置く。確率は quality と同じ理由では上下させていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
CMP 製品(半導体の研磨材)
半導体の回路を作る途中でウェハー表面を平らに削る研磨材。前工程の主力ポリシング材で世界の過半のシェアを持つ。
| 数量CMP 市場(億ドル・実質)× 自社シェア | 価格1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.4 | 150 | 365 | 95 |
| 10 年後 中立 | 4.3 | 201 | 856 | 214 |
取り方:Q1 の用途別売上の比率から CMP を全社売上の約 5 割強の 365 億円と読んだ。業種ノートの市場約 22 億ドルに対し、2.43 億ドル分の売上で、全体で約 1 割強のシェア(前工程の主力ポリシング材では過半)。市場の大きさとシェアは第三者の推定がなく、競合との比較から逆算した。物価の分は価格の欄に入れる。営業利益は全社 138 億円のうち CMP が最も高い利益率と見て約 26%。 先の数量の伸びは CMP 市場を実質(物価を除く、年 5.8%)で置いたもので、市場調査の名目の見通し(2035 年に 61 億ドル)をそのまま置いたものではない。
シリコンウェハー向け
ウェハーを切り出して磨く工程のラッピング材とポリシング材。ラッピング材は世界シェア 9 割前後。
| 数量ウェハー出荷面積に連動する売上規模(億ドル・実質) | 価格1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 150 | 215 | 34 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 188 | 349 | 52 |
取り方:Q1 の実績(ラッピング 19.8 億・ポリシング 34.4 億円)から年換算し、全社売上の約 3 割の 215 億円と読んだ。市場は成熟しており、会社の想定成長は CMP の約 10% に対して約 4%。利益率は CMP より低く約 16%。
ディスク・溶射材・その他
ハードディスク基板向けの研磨材、半導体装置向けの溶射材、一般工業用の研磨材と新事業。
| 数量売上規模(億ドル・実質) | 価格1 ドル相当の売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 150 | 114 | 19 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 201 | 214 | 34 |
取り方:全社売上から CMP とシリコンを引いた残りで約 114 億円。開示が薄く推定。ディスクは縮み、溶射材と新事業が伸びる。利益率は約 17% と置き、本社の研究費などの調整を全社の営業利益に合わせて引く。
リスクと懸念
半導体の循環と主要顧客の集中
半導体は 2〜3 年ごとに谷が来る。研磨材は工場の稼働に連動するため、顧客が生産を絞れば数量が落ちる。主要顧客の数は少なく、調達先の見直しは利益に直結する。2024 年 3 月期は営業利益が 4 割近く減った。
設備投資の回収が遅れる
6 年で 1,300 億円の投資は、今の自己資本の 1.5 倍を超える。新工場の完成が需要の谷と重なれば、稼働率が下がり償却だけが残る。前の計画(2023)も進みが遅れた。台湾の新工場は最終決定がまだである。
競合と中国勢の追い上げ
エンテグリス、富士フイルム、レゾナックなどが先端に投資している。中国の現地メーカーは成熟ノードから国産化を進め、価格を下げている。顧客の値下げ要求が強まれば、認定品でも単価は物価に届かない。
対中規制と地政学
海外の売上は 7 割を超える。米国の対中輸出規制の運用が変われば、中国向けの販売に影響が出る。台湾や韓国の工場の稼働にも、地政学の影響がある。
シリコン向けの成熟と値下げ圧力
ラッピング材はほぼ独占だが、ウェハーの出荷面積は年 3〜4% しか増えない。顧客のウェハーメーカーは、材料費の削減を求め続ける。価格が物価に届かない状態が長引けば、利益率が下がる。
為替と原料価格
海外売上が多く、円高は利益を削る。前年同期は為替差損が 6 億円あり、今期は差益で経常が伸びた。原料(シリカなど)と電力の値上がりを価格に転嫁できるかも、利益率を左右する。
新事業と M&A の実行
新計画は 2032 年 3 月期に M&A で売上 40 億円を見込む。買う側として価値を壊す可能性は小さい規模だが、新事業が育たなければ、成長を CMP に頼り切る形になる。
今後の分かれ目
- 先端ロジック向け CMP の売上が、四半期ごとに前年比 2 割増を保つ
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし新工場の稼働率と、利益率が 2 割台前半に乗るかを併せて確かめる。
- 主要顧客が先端工程の調達先を見直す、または他社の認定が進んだと報じられる
- シェアの低下が利益を直撃する。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 台湾の新工場の最終投資決定が出て、稼働予定が需要の増加より先行する
- 設備の過剰が現実味を帯びる。中立の利益率を下げて見直す。
- 半導体の在庫調整が始まり、CMP の売上が 2 四半期続けて前年を割る
- 循環の谷に入った合図。利益率は 1 割台前半まで落ちうる。谷の時期は価値でなく買い場かどうかの問題として見る。
- 自社株買いを含む還元の拡大が示される、または M&A で新事業が育つ
- 資本の使い方への評価を引き上げ、倍率を上限寄りに置き直してよい。
- 外部から TOB などの買収提案が出る
- 時価総額が小さい点を踏まえ、提案の値段が本質価値の上限を超えるかで判断する。
見ておくもの
- CMP 製品の四半期売上と前年比
- 各務山工場・台湾新工場の稼働予定と最終投資決定
- 営業利益率が 2 割台前半に乗るか
- 主要顧客の調達先見直しの報道
- 世界半導体市場・装置投資額(WSTS・SEMI)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価から置いていない。事業の ROE、資本コスト 7%(基本 7.5% と quality 0 の合計)、長期の成長 4% から出した正当化 PER の上限に、利益の質に応じて 8 割を掛けた。中立の PER は 14 倍台で、ROE が k を上回るので 1÷k の下限は守っている。今の PER が 2 割ほど低い・高いかには左右されない。
数量は CMP 市場の 10 年の伸びを年 5.8%(会社の想定 10% より低い)と置き、シェアは維持とした。物価の分は価格に入れ、10 年 1.34 倍が基本。シリコン向けだけは顧客の値下げ要求で 1.25 倍とした。会社の新計画は意欲的な目標で、そのまま使わず割り引いた。
純現金は時価総額の 5% で 1 割に届かないため、余った現金は分けていない。リースは小さく、新リース会計基準の影響は軽い。10 年後の数字は今と同じ形でそろえている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.9→20.89 倍・やや楽観 PER 15.2→19.98 倍・中立 PER 14.4→19.13 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。