結論
SECカーボンは、アルミ精錬の電解炉に敷く炭素の板(カソードブロック)を主力とする炭素メーカーだ。売上の7割近くをこれが占める。ほかに、電炉で鉄を溶かす黒鉛電極、特殊炭素製品、炭素の粉末を手がける。
筆者の結論は、おおむね適正である。理由は2つある。会社は現預金と保有株を合わせて、時価総額に近い規模の資産を持つ。一方で本業の稼ぐ力は、10年かけても資本コストに届かない。この2つが打ち消し合う。
2026年3月期は、アルミ精錬会社の在庫調整で売上が2割減り、設備の減損も出て純損益は赤字になった。それでも営業は黒字を保ち、自己資本比率は89%と厚い。
強みは、中国を除く黒鉛化カソードの世界で、東海カーボンと市場を分け合う位置にいることだ。弱みは、中国とインドの参入で製品が汎用品に寄り、値上げを通しにくくなったことである。
カギは資本の使い方だ。会社は2026年4月に方針を改め、保有株の売却と自社株買いに動き出した。実行が伴えば評価は上がる。いまは宣言から実行へ移る途中にある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、本業よりも、会社が持つ資産のほうが目を引く。
本業は、10年後も残る。アルミは作られ、炉は張り替えられる。だが、続くことと、株主に報いることは別だ。自己資本利益率は10年の中央値で7%と、資本コストを下回る。稼いだ利益のかなりが設備と、使い道のない現金に変わってきた。
株主のものになる利益、つまり維持の投資を引いた後の利益は、売上が戻っても、2018〜19年のような高さにはならない。価格を決める力が、中国とインドの参入で弱まったからだ。
一方で、安全域は厚い。借金が無く、現預金と保有株が時価総額と同じ規模ある。悲観の筋書きでも、これらが価値の底を支える。
経営には、資本を寝かせてきた反省が必要だ。新しい方針は正しい向きだが、保有株を売る実績はまだ薄い。実行を見届けるまでは、戻りの額に割り引きを掛けて見るのが妥当だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、炭素を焼き固めて黒鉛にする技術だ。事業は単一だが、売れる製品は4つに分かれる。
最大はアルミ精錬用のカソードブロックで、2026年3月期の売上は約170億円、全体の67%を占める。アルミは電気分解で作る。その炉の底に敷く炭素の板がこれで、炉の寿命とともに張り替える消耗部材だ。顧客は世界のアルミ精錬会社である。
次が人造黒鉛電極で約45億円、18%。電炉で鉄スクラップを溶かす時に電気を通す棒だ。使うほど減るので、鋼を作るたびに売れる。
特殊炭素製品は約29億円。熱処理炉の部材や非鉄金属の製造に使う黒鉛で、会社は自社が値段を決めやすい高収益の品と位置づける。ファインパウダーは約8億円で、モーターのブラシなどに使う炭素の粉だ。
前期は、アルミ精錬会社が在庫を絞り、カソードブロックの売上が23%減った。固定費の重い装置産業なので、売上が減ると利益はそれ以上に減る。営業利益は41%減の約40億円になった。
開示は製品別の売上だけで、数量と利益は出ない。本業の外では、保有株からの受取配当が年8億円台あり、経常利益を下支えしている。
優良さと弱いところ
質は、強い所と弱い所がはっきり分かれる会社だ。
いちばん強いのはカソードブロックの立ち位置だ。同社は中国を除く黒鉛化品の世界で約4割、東海カーボンが5割強とされ、2社で市場をほぼ分ける。炉の寿命を左右する部材なので、製錬所は実績のある仕入先を替えにくいとみられる。ただし中国とインドの新規参入で、この堀、つまり他社がまねしにくい強みは削られつつある。会社は、中国勢が入りにくい高品質品に絞る方針だ。
黒鉛電極は堀が薄い。世界に同じ物を作る会社が多く、中国とインドの安い電極が価格を押さえる。特殊炭素製品は値段を決める力があるが、規模は売上の1割強にとどまる。
資本の効率は低い。自己資本利益率は過去10年の中央値で7%。ピークの28%は電極の価格が急騰した年の一時の数字だった。
財務は文句なく堅い。有利子負債はほぼ無く、現預金と保有株が厚い。弱点は、その厚みを長く事業に使い切れず、遊ばせてきたことだ。筆者はここを、経営の評価のいちばん低い所と見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界の景気は、アルミと鉄鋼という二つの素材の動きで決まる。
カソードブロックの需要は、アルミ精錬の炉の張り替えと新設が当て先だ。いまは両方が弱い。更新需要が鈍り、顧客の在庫調整が想定より長引いた。会社は、新規の製錬所の建設が延期されたことも挙げる。短期の見通しは重い。一方、長い目では、コストの面から黒鉛を使わない旧来の品が黒鉛化品へ置き換わる流れがある。
競合は東海カーボンが筆頭だ。同社のアルミ向けなど炭素部材の事業は売上が600億円規模で、SECより大きい。中国とインドの新興勢は、まだ品質で劣るが価格で攻める。
市場の大きさは次の目安になる。通常時の売上220億円が市場の4割とすれば、中国を除く黒鉛化カソードの市場は550億円規模だ。うまくいけば10年で名目870億円まで広がり、取り分も保てる。
黒鉛電極は、粗鋼の生産が低水準で、中印の安価品が市況を悪くした。中国品へのアンチダンピング措置は好材料だ。電炉化は世界の流れで、大口径の電極は伸びる余地がある。特殊炭素とファインパウダーは、非鉄金属と自動車・家電向けの回復が鈍い。
資本政策と M&A
資本政策は、ためたお金を株主へ戻す方向へ、ようやく舵を切った。
2026年4月に公表した中長期経営方針で、3年計画をやめ、自己資本利益率12%を最重要の目標にした。柱は、政策保有株の売却と自社株買いだ。政策保有株は純資産の20%未満に減らす。自社株買いは3年で70億円を目安とし、2026年5月から最大10億円の買い付けを始めた。配当は、年の下限額と配当性向30%のうち高い方で出す。
裏づけは弱くない。現預金等は175億円、投資有価証券は帳簿で約280億円ある。ただ、方針の実行はこれからだ。前期の保有株の売却収入は2億円にとどまった。
買収は特殊炭素と新規領域が対象で、規模は小さい見込みだ。株主の上位は、大谷製鉄が約20%、三菱商事が約10%、住友商事が約5%、日本カーボンが約4%と、安定株主が厚い。買われる側になる材料は確認できない。社外取締役は3割弱だが、将来は半数を目指す。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最悪期は過ぎた。カソードブロックの在庫調整は解消に向かい、2027年3月期の第1四半期は売上が27%、営業利益が25%増えた。顧客の在庫が正常に戻れば、更新需要の分だけ数量は戻る。
固定費の重い装置産業は、数量が戻る時に利益の伸びが大きい。前々期は、売上が今より2割強多いだけで、営業利益は7割多かった。数量が戻る時の利益の弾みは大きい。
長い目では、黒鉛化品への置き換えが進む。会社は、新設の製錬所で黒鉛化品への需要が伸びると見ている。中国を除く市場で4割を持つ同社が、最も恩恵を受ける。中国勢の参入は、高品質の領域では届かない。
黒鉛電極は、中国品へのアンチダンピングと電炉化が追い風だ。大口径の電極の量産基盤が立ち上がれば、赤字のない事業になる。
資本政策は転機にある。保有株を売って自社株買いに回し、自己資本利益率の12%を目指す。時価総額は現預金と保有株の合計と並ぶ水準で、本業の価値が丸ごとただに近い。実行が見えれば、評価の見直しは早い。
慎重な見方
回復の道筋は描けていない。会社は前期、設備に60億円超の減損を出した。第9次の中期計画は、掲げた営業利益80億円に遠く及ばず、3年計画そのものをやめた。この事実は重い。
カソードブロックは、中国とインドの参入で汎用品に寄っていく。新規製錬所の建設は延期され、更新需要も鈍い。数量が戻っても、値段が戻る保証はない。物価が3%で上がる世界でも、競争で通せない部分が出る。
黒鉛電極は、能力を絞った東海カーボンと違い、規模の最適化の途中だ。中印の安い電極が世界の価格を決める限り、利益は出にくい。
現金と保有株は確かに厚い。だが、長いあいだ、この厚みは株主に戻らなかった。方針は発表されたが、保有株の売却実績は薄く、取り分は大株主や取引先の意向にも左右される。持ち合いは簡単にほどけない。
さらに、ためたお金を使う先として、M&Aの失敗というリスクが残る。2026年3月期の純損益は赤字で、自己資本利益率はほぼゼロだった。厚い資産は、稼ぐ力の弱さの裏返しでもある。
どちらに重みを置いたか
拮抗している。本業の回復は本物だが、中国とインドの参入があり、利益が高い年の水準まで戻る見込みは薄い。他方、資産の厚みは確かで、悲観の筋書きでも価値の底を支える。
確率は中立を最も高い3割台半ばに置いた。慎重な見方の指摘が強いので、やや悲観を2割台半ばに寄せ、悲観にも1割強を置いた。強気の見方が実現しても、資本コストを大きく上回る利回りにはならない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,060 円607 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,552 円308 億円)。 今の値に割り戻すと 2,385 円473 億円、今との差 +5.1%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,175 円1,225 億円 | 2,369 円470 億円 | +276.4% | +14.2% | 684 円136 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,446 円882 億円 | 2,016 円400 億円 | +184.7% | +11.0% | 1,292 円256 億円 |
| 中立 | 35% | 3,376 円670 億円 | 1,688 円335 億円 | +123.1% | +8.4% | 1,773 円352 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,490 円296 億円 | 1,260 円250 億円 | +21.2% | +1.9% | 660 円131 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,056 円210 億円 | 504 円100 億円 | −31.3% | −3.7% | 203 円40 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,060 円607 億円 | 1,552 円308 億円 | +103.1% | +7.3% | 4,611 円915 億円 |
今の株価時価総額 2,270 円450 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 炉の新設と張り替えが戻り、保有株も動く 利益 84 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 6,175 円1,225 億円
アルミの新設製錬所の建設が動き出し、新設炉が黒鉛化品を選ぶ流れが定着する。カソードブロックの出荷は今の1.5倍の水準へ戻り、値段も物価並みに通る。営業利益率は24%と、前の山に並ぶ。
黒鉛電極は、アンチダンピングと電炉化で数量が3割強増え、赤字を脱する。特殊炭素は新用途が広がり、半導体材料の研究も実を結んで、利益率は3割に乗る。
営業利益は100億円を超え、会社が取り下げた旧目標に近づく。資本政策も実行され、保有株の売却を自社株買いに回して、還元は純利益の8割に近い。それでも自己資本利益率は11%台にとどまり、倍率は10倍台前半までしか付かない。
- アルミ精錬用カソードブロック:数量 5.8(出荷量(万トン))× 価格 60(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 350 億円・営業利益 84 億円。数量 1.54 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 24.0%
- 人造黒鉛電極:数量 1.2(出荷量(万トン))× 価格 68(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 78 億円・営業利益 9 億円。数量 1.33 倍、価格 1.30 倍、営業利益率 11.0%
- 特殊炭素製品:数量 0.5(出荷量(万トン))× 価格 140(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 64 億円・営業利益 19 億円。数量 1.59 倍、価格 1.40 倍、営業利益率 30.0%
- ファインパウダー・その他:数量 0.3(出荷量(万トン))× 価格 67(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 17 億円・営業利益 3 億円。数量 1.69 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 18.0%
倍率:事業の純利益 81 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)135 億円。全体の PER 13.38 倍、時価総額 1,225 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:在庫調整の解消、新設炉の黒鉛化、電極の黒字化、資本政策の実行がそろう姿。条件が多いので1割未満とした。
やや楽観 20% 数量が戻り、稼ぎは前の山の7割ほどに 利益 64 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 4,446 円882 億円
顧客の在庫が正常に戻り、更新需要が回復する。カソードブロックの出荷は4割近く戻り、値段は物価の9割ほど通る。営業利益率は21%台へ戻るが、前の山には届かない。
黒鉛電極は黒字が定着するが、薄利だ。特殊炭素は数量が戻り、利益率は26%。ファインパウダーは自動車向けの回復で小幅に伸びる。
営業利益は80億円ほど。会社が掲げた12%の自己資本利益率には届かず、9%台にとどまる。それでも、保有株の売却と自社株買いは方針どおり進み、還元は純利益の6割を超える。
優良さは、カソードブロックの高品質品が保たれるかで決まる。中国とインドの新興勢は、安さの帯にとどまる。会社は高品質品に絞り、全社の利益率は前の山の7割ほどまで戻る。
- アルミ精錬用カソードブロック:数量 5.2(出荷量(万トン))× 価格 59(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 307 億円・営業利益 66 億円。数量 1.38 倍、価格 1.31 倍、営業利益率 21.5%
- 人造黒鉛電極:数量 1.0(出荷量(万トン))× 価格 65(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 65 億円・営業利益 5 億円。数量 1.16 倍、価格 1.25 倍、営業利益率 8.0%
- 特殊炭素製品:数量 0.4(出荷量(万トン))× 価格 138(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 55 億円・営業利益 14 億円。数量 1.38 倍、価格 1.38 倍、営業利益率 26.0%
- ファインパウダー・その他:数量 0.2(出荷量(万トン))× 価格 66(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 15 億円・営業利益 2 億円。数量 1.43 倍、価格 1.32 倍、営業利益率 15.0%
倍率:事業の純利益 61 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)135 億円。全体の PER 12.15 倍、時価総額 882 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:更新需要が戻り、構造改革と方針転換が一部実を結ぶ姿。ただ、値上げが物価並みに通るのは主力の一部で、2割とした。
中立 35% 数量は戻るが、値段が上がり切らない 利益 48 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,376 円670 億円
数量は戻るが、値段が物価に追いつかない。カソードブロックの出荷は今の2割ほど増え、前々期の水準には届かない。中国とインドの新興勢が価格の上限を決め、値上げは物価の8割ほどしか通らない。利益率は19%。
黒鉛電極は薄利で、数量は微増。特殊炭素は需要が戻って利益率24%。
営業利益は57億円で、物価の上昇を除けば、前期を少し上回る程度だ。自己資本利益率は7%を下回り、資本コストに届かない。会社は方針どおり配当と自社株買いを続け、保有株は純資産の2割まで減らす。倍率は成熟した素材会社の下限に近い。
優良さは目減りする。黒鉛電極の値段は、中印の安値で物価の上昇の半分ほどしか通らない。主力の堀は残るが、広がらない。
- アルミ精錬用カソードブロック:数量 4.5(出荷量(万トン))× 価格 58(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 259 億円・営業利益 49 億円。数量 1.19 倍、価格 1.28 倍、営業利益率 19.0%
- 人造黒鉛電極:数量 1.0(出荷量(万トン))× 価格 62(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 59 億円・営業利益 3 億円。数量 1.10 倍、価格 1.20 倍、営業利益率 5.0%
- 特殊炭素製品:数量 0.4(出荷量(万トン))× 価格 134(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 47 億円・営業利益 11 億円。数量 1.21 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 24.0%
- ファインパウダー・その他:数量 0.2(出荷量(万トン))× 価格 65(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 13 億円・営業利益 2 億円。数量 1.30 倍、価格 1.30 倍、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)135 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 670 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は戻るが、中国・インド勢の参入で値段が物価に届かず、利益率は前の高い年に戻らない姿。最大の確率として3割台半ばとした。
やや悲観 24% 汎用化が進み、利益が細る 利益 25 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,490 円296 億円
中国とインドの製品が、品質の差を詰める。顧客は二社購買を増やし、カソードブロックの数量は戻らず、値段は物価の5割ほどしか通らない。利益率は13%に下がる。
黒鉛電極は中印の安値で採算が合わず、収支はとんとんだ。特殊炭素も需要が戻らない。営業利益は25億円ほどで、今期の見通しを下回る。
保有株の売却は進むが、売却資金を設備更新や買収に回して、一部を食う。還元は配当を中心にし、自社株買いは小さい。自己資本利益率は3%台に沈む。
優良さは明らかに崩れる。主力の値段を決める力を失い、特殊炭素の高収益も数量が戻らず薄れる。会社は構造改革で人員と設備を絞るが、利益の回復には時間がかかる。
- アルミ精錬用カソードブロック:数量 3.7(出荷量(万トン))× 価格 53(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 197 億円・営業利益 26 億円。数量 0.98 倍、価格 1.18 倍、営業利益率 13.0%
- 人造黒鉛電極:数量 0.8(出荷量(万トン))× 価格 55(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 44 億円・営業利益 0 億円。数量 0.93 倍、価格 1.05 倍、営業利益率 0.0%
- 特殊炭素製品:数量 0.3(出荷量(万トン))× 価格 125(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 35 億円・営業利益 6 億円。数量 0.97 倍、価格 1.25 倍、営業利益率 18.0%
- ファインパウダー・その他:数量 0.2(出荷量(万トン))× 価格 60(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。数量 1.04 倍、価格 1.20 倍、営業利益率 6.0%
倍率:事業の ROE 3.5% が k 8.5% 以下なので PER は 1÷k=11.4 倍まで。利益が薄く、汎用化で価格が崩れている筋書きなので、上限の約 70% の 8.0 倍に置く。
確率:参入で主力の価格が崩れ、電極が赤字に戻る姿。過去に2度の赤字と今期の減損があり、2割台半ばを置いた。
悲観 13% 参入で主力が崩れ、資産の厚みだけが残る 利益 4 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,056 円210 億円
構造的に負ける。中国とインドの製品が主要顧客に入り込み、カソードブロックの出荷は今より4分の1ほど減る。値段は物価に追いつかず、横ばいが続く。黒鉛電極は赤字が続き、再び減損が出る。
営業利益は赤字すれすれまで細り、もう優良とは呼べない。保有株の評価も下がり、現金は赤字の穴埋めと設備の更新で減っていく。
それでも、借金が無いことと、現預金と保有株の厚みが、価値の底を支える。配当は2年ほど維持してから大きく減らし、自社株買いは方針の半分に届かない。
売却した保有株の資金は、赤字の穴埋めと設備の更新に回る。厚い財務が会社を倒産から守るが、株主への報いは細る。10年後の評価は、稼ぐ力ではなく、持っている資産の額で決まる。
- アルミ精錬用カソードブロック:数量 2.8(出荷量(万トン))× 価格 45(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 126 億円・営業利益 4 億円。数量 0.74 倍、価格 1.00 倍、営業利益率 3.0%
- 人造黒鉛電極:数量 0.6(出荷量(万トン))× 価格 49(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 27 億円・営業利益 −2 億円。数量 0.64 倍、価格 0.95 倍、営業利益率 -8.0%
- 特殊炭素製品:数量 0.2(出荷量(万トン))× 価格 110(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 24 億円・営業利益 2 億円。数量 0.76 倍、価格 1.10 倍、営業利益率 8.0%
- ファインパウダー・その他:数量 0.1(出荷量(万トン))× 価格 50(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。数量 0.71 倍、価格 1.00 倍、営業利益率 0.0%
倍率:構造的に負けて赤字すれすれの筋書きなので PBR。稼ぐ力(事業の純利益 3 億円 ÷ k 8.5%)は小さく、純現金と保有株の税後が価値の底になる。その約 210 億円(今の自己資本 776 億円の 0.27 倍)を採る。
確率:主力の構造的な負けと、資本政策の空振りが重なる姿。過去の赤字と減損、安定株主の厚さを踏まえ、1割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アルミ精錬用カソードブロック
アルミ電解炉の底に敷く炭素の板。炉の寿命ごとに張り替える消耗部材で、世界のアルミ精錬会社に売る。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.8 | 45 | 170 | 34 |
| 10 年後 中立 | 4.5 | 58 | 259 | 49 |
取り方:開示は売上だけ(2026年3月期 約170億円)。平均単価を1トン45万円(約3,000ドル、東海カーボンの同種品と同水準)と仮定し、出荷量を約3.8万トンと推定した(推定)。これは在庫調整で落ち込んだ水準で、前々期(売上220億円)は約4.9万トン相当。通常時の売上が中国を除く黒鉛化品市場の約4割という会社の説明から、市場を550億円規模とみる。営業利益はセグメント開示が無く、全社40億円を製品の売上と固定費の重さで配分した推定。
人造黒鉛電極
電炉で鉄スクラップを溶かす時に電気を通す棒。国内外の電炉メーカーへ売る。大口径(30〜32インチ)の量産基盤を作っている。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 52 | 45 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 62 | 59 | 3 |
取り方:開示は売上だけ(約45億円)。平均単価を1トン52万円(約3,500ドル、中印の安価品に押さえられた水準)と仮定し、出荷量を約0.9万トンと推定した(推定)。価格は中国勢の安値で物価並みには上がらないと置く。
特殊炭素製品
熱処理炉の部材や非鉄金属の製造に使う黒鉛。会社が価格を決めやすい高収益の品が中心。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 100 | 29 | 8 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 134 | 47 | 11 |
取り方:開示は売上だけ(約29億円。前期は約37億円)。平均単価を1トン100万円(1キロあたり千円)と仮定し、出荷量を約0.29万トンと推定した(推定)。熱処理炉と非鉄金属向けの需要減で落ちた水準で、通常時は0.37万トン相当。
ファインパウダー・その他
モーターのブラシなどに使う炭素の粉と、その他の炭素製品。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.2 | 50 | 8 | 2 |
| 10 年後 中立 | 0.2 | 65 | 13 | 2 |
取り方:開示は売上だけ(約8億円。前期は約10億円)。平均単価を1トン50万円と仮定し、出荷量を約0.15万トンと推定した(推定)。自動車・家電向けの回復待ち。
リスクと懸念
中国・インドの参入で主力が汎用品になる
カソードブロックは売上の7割弱を占める。中国とインドの新興勢が品質を詰めれば、顧客は二社購買を増やし、値上げを通しにくくなる。会社も2025年3月期の資料で、汎用品化を売上目標のリスクに挙げた。数量が戻っても、値段が物価に届かない恐れが最も大きい。
アルミ精錬の新設と更新の遅れ
需要は、炉の張り替えと新設の製錬所で決まる。会社は、新規製錬所の建設延期と、顧客の在庫調整の長期化を認めている。在庫調整は解消に向かうとしているが、想定よりも時間がかかった。戻りが遅れれば、固定費の重さが利益を削る。
黒鉛電極の中印の安値
電極は世界に同じ物を作る会社が多い。中国とインドの安価品が国内外の市況を悪くしている。アンチダンピング措置は好材料だが、効き目は限られる。大口径の量産基盤が立ち上がらなければ、赤字の事業のまま残る。
設備投資と減損の繰り返し
前期は設備の減損を約60億円計上し、純損益が赤字になった。前期の期初には、建設中の設備が約85億円あった。需要が戻らなければ、減損が再び出る。償却の負担も利益を押し下げる。
資本政策の実行が遅れる
保有株の売却と自社株買いは宣言された段階だ。前期の保有株の売却収入は2億円にとどまった。安定株主が上位で4割を超え、取引先の持ち合いは簡単にほどけない。実行が遅れれば、資本効率は改善しない。
M&Aと新規事業の失敗
会社は特殊炭素と新規領域でのM&Aを選択肢に残す。ためた現金を、本業と関係の薄い買収に使えば、価値を壊す恐れがある。半導体材料やCO2の資源化は研究の段階で、売上には入っていない。
アルミ・鉄鋼の景気と為替
売上の7割強が海外向けで、円高は利益を削る。会社は足元の円高基調を、収益の逆風に挙げている。アルミと鉄鋼の景気が同時に落ちる局面では、主力が二つとも弱る。
今後の分かれ目
- カソードブロックの売上が3四半期続けて前年を2割以上上回る
- 在庫調整が終わったとみて、楽観側の確率を上げる。ただし値段が戻っていなければ、利益率の見方は変えない。
- 中国・インド製のカソードブロックが、同社の主要顧客で採用される
- 汎用化が進んだとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。数量を2割下げる。
- 保有株を純資産の20%未満まで減らし、売却資金で自社株買いを増額する
- 資本政策の実行を評価し、余った現金の戻り方の見方を引き上げる。
- 黒鉛電極のアンチダンピング措置が拡大し、国内の電極価格が2年続けて上がる
- 黒鉛電極の利益率の想定を引き上げ、やや楽観の確率を上げる。
- 本業と遠い大型のM&Aが決まる
- 余った現金の戻り方を下げる。資本効率の高い補強なら評価し、遠い買収なら資本配分の評価を下げる。
- 大谷製鉄や商社が保有株を売り、第三者がTOBを仕掛ける
- 現金と保有株の厚みを評価に取り込み、悲観側の確率を下げる。
見ておくもの
- カソードブロックの四半期の売上と、顧客の在庫調整の終わり
- 中国・インド製カソードブロックの採用実績と、同社の価格の動き
- 黒鉛電極の価格と、アンチダンピング措置の効き方
- 保有株の売却額(純資産比20%未満への進み具合)と自社株買いの実行額
- 設備の稼働率と、減損の再発
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE と k 8.5%(基本の7.5%に循環・値決め・寿命の調整+1.25%)、長期の成長率 g 4% から出る正当化 PER を土台に置いた。ROE が k を下回る筋書きは上限 1÷k(11.4 倍)の7〜8.5割に置き、株価の水準を見て決めていない。筋書きは先に数量×価格で積んだ。決算期は3月で、10年後は2036/03期。直近の純損益は減損60億円で赤字なので、ならした32億円を起点にした。実行済みの自社株買い(約5億円)は株数に入っており、equity_start から外した。余った現金は、現預金175億円のうち会社が最後に残す80億円を超える約90億円と、会社が純資産20%未満へ減らすと決めた保有株の売却分の税後約90億円の計180億円。残す保有株の配当は利益に残すので、価値は足さない(二重を避ける)。戻り方は、保有株の売却実績が薄く、安定株主が厚いため0.5とした。リースは工場中心で、新リース会計基準(2028/03期から)の影響は小さい。数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。黒鉛電極の価格は、中国・インドの安価品に押さえられ、10年で1.20倍に置いた(物価並みに通らない)。同じ領域の東海カーボンと比べ、k は同じ8.75%(借金が無い分は下げず、主力が一本足の分を上げた)、中立の倍率も同じ。違いは、悲観の底が現金と保有株で高い点で、悲観の時価総額は今の約46%と、東海カーボンの約11%より高い。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。