結論
TYKは、製鉄所の炉や、溶けた鉄を運ぶ容器の内側を守る耐火物の会社だ。国内では3番手前後の独立系で、純現金が時価総額の3分の1に当たる。筆者の結論はやや割高である。守りは厚いが、10年の稼ぐ力が資本コストに届かない。
稼ぎの柱は鉄鋼向けの耐火物だ。国内の粗鋼生産は人口減と電炉化で縮み、売上の7割は日本が占める。日本製鉄向けだけで1割ある。値段の主導権は買い手の鉄鋼会社にあり、利益率は1割前後で頭打ちになりやすい。
救いは三つある。北米と欧州で需要を取り込めていること。ファインセラミックスなどの新素材を、中期計画で成長の柱にしていること。借金がほとんど無く、現金が厚いことだ。
ただし現金と保有株で膨らんだ自己資本が、資本の効率を押し下げる。利益が増えても、ためる分だけ自己資本が増え、ROEは資本コストを下回りやすい。今期の純利益は保有株の売却益で膨らんでおり、本業の力は3割ほど小さい。
10年で数量はほぼ横ばいだ。利益の増えは値上げと海外が頼りになる。この前提では、今の値段は本質価値に届かない。
救いは下値の固さである。悪い筋書きでも、純現金と保有株が会社の価値を支える。割高といっても、傷の浅い割高だ。ただ、これを割安と呼ぶには、資本の使い方が変わる兆しが要る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「現金と保有株に守られた、ふつうの耐火物会社」だ。
事業は10年後も残る。鉄を作る限り、炉は要る。だが、残ることと、株主に報いることは別の話である。国内の需要は縮み、買い手は大手の鉄鋼会社で、値決めを握られている。堀、つまり他社がまねできない強みは狭い。
オーナーとして見る利益は、今期の純利益37億円ではない。保有株の売却益が約8億円入っており、本業と配当・利息の力は30億円弱とみる。この利益の大半は配当に回り、残りは現金と保有株として積み上がる。積み上がった分は、資本コストを下回る利回りでしか働かない。
経営は慎重で、財務は健全だ。反面、厚い現金の使い道は示されていない。資本の効率を上げるには、自己株買いを増やすか、新素材で実のある投資を行うかのどちらかだ。
安全域は、純現金と保有株の厚みで測るべきだ。それは悲観の床にあたる。中立の筋書きでは10年後の時価総額と還元の合計が今の水準に届かず、安全域は十分とは言えない。
持つなら、自己株買いや増配で現金が株主に戻り始めた時だ。その兆しが無い間は、傍観がよい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、高温の炉を守る消耗品を売ることだ。鉄を溶かす炉や、溶けた鉄を運ぶ容器の内側は、れんがや流し込み材で覆う。使えば削れるので、鉄鋼会社は定期的に買い替える。
売上の約7割は日本で、残りは北米・欧州・アジアが占める。外部への売上は日本が217億円、北米が41億円、欧州が45億円、アジアが8億円。日本製鉄向けが1割強で最大の顧客だ。大同特殊鋼、JFEスチール、岡谷鋼機なども株主に並ぶ。
製品は大きく三つに分かれる。第一は鉄鋼向けの耐火物で、売上の大半を占める。れんがのほか、溶けた鉄の流れを測る部材やガスを吹き込む部材など、機能を持つ品に力を入れる。第二は非鉄金属向けの黒鉛るつぼで、「MOREX」の名で国内首位をうたう。第三が新素材で、ファインセラミックス、耐摩耗材、複合材を含む。製品別の売上は開示されておらず、新素材は売上の1割弱、約25億円と見る。
耐火物は、鉄鋼会社の炉の使い方に合わせて成分や形を作り分ける特注品の色が濃い。納めたあとも炉の補修や施工の相談に乗り、取引は長く続く。
稼ぎは日本に偏る。日本が利益の約8割を占め、北米と欧州の利益率は7〜9%と日本より低い。海外は規模が小さく、これから育てる段階にある。
そのほか、環境関連の装置、窯業機械、建築・修繕、運輸の小さな事業がある。
中期経営計画は2028年度に売上440億円、営業利益58億円、ROE8%以上を目指す。戦略投資に120億円を見込み、重点は新素材だ。
優良さと弱いところ
質の面では、規模は小さいが堅実な会社だ。
強みは二つある。一つは顧客との結びつきだ。耐火物は炉の寿命と鉄の品質に直結するため、鉄鋼会社は実績のある仕入れ先を簡単に変えない。もう一つは機能品で、ガス吹きや流量制御の部材は、ふつうのれんがより値段を保ちやすい。
弱みは値決め力だ。顧客は日本製鉄、JFEスチール、大同特殊鋼などの大手で、毎年のように値下げを求める。国内首位の黒崎播磨は日本製鉄系、2位の品川リフラクトリーズはJFE系で、親元の後ろ盾がある。TYKは独立系で、交渉の立場は強くない。
利益率は10年前の6%台から、直近は10%台前半まで上がった。コスト上昇を値段に移せた成果で、競争の構図が変わったとまでは言えない。
それでも、規模のわりに利益率は悪くない。同じ領域の品川リフラクトリーズは営業利益率が8%前後で、TYKの10%台はそれを上回る。機能品に絞り、不採算を抱えにくい身軽さが効いている。
財務は強い。有利子負債は34億円にとどまり、現金の方が多い。自己資本比率は70%だ。その分、ROEは6〜8%台と低い。
経営は配当を6期続けて増やした。一方で、保有株が多く、自己株買いの動きは見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は鉄鋼の生産に連動する。耐火物の国内消費は年120万トンほどで、約8割が鉄鋼向けだ。2024年の国内粗鋼生産は前年比3.4%減の8,400万トンで、耐火物の需要も縮んだ。
構造の変化が二つある。一つは高炉から電炉への転換だ。電炉は耐火物の使い方が変わり、使用量も少なくなりやすい。もう一つは、鉄鋼会社が鉄1トンあたりの耐火物の使用量を減らし続けていることだ。国内の数量は緩やかに減る前提で見る。
競争は少数の大手が握る。国内は黒崎播磨、品川リフラクトリーズ、ヨータイが上位とされ、TYKは売上でヨータイと並ぶ位置にある。品川リフラは世界でも上位5社に入り、海外へ広げている。
追い風は海外にある。2027年3月期の第1四半期は、国内が減収減益だった一方、北米と欧州は増益だった。現地の拠点を足場に、電炉と鉄鋼の需要を取り込んでいる。
脱炭素は両刃だ。電炉が増えれば黒鉛を使う品には追い風だが、鉄の生産量そのものが減れば耐火物の需要は減る。中国の安い製品が世界の値段を押さえる面もある。
10年の見方は、国内の数量が1割ほど減り、値段は物価にやや届かない。海外の数量は2割ほど増え、値段は物価並みに通る。新素材は市場の伸びに乗り、売上が1.8倍になる。この組み合わせで、全社の営業利益は物価の分を除くと横ばいに近い。
業界の再編にも注意が要る。鉄鋼会社の統合が進めば、耐火物メーカーも組み替えを迫られる。独立系のTYKは、買われる側にも、大手と組む側にもなりうる。
資本政策と M&A
資本政策の基本は、守りを厚くして配当を増やし続けることだ。
配当は6期続けて増え、6年で約5倍になった。方針は配当性向30%以上だが、実際の配当額は本業の利益の4割ほどに当たる。自己株買いは確認できない。純現金は110億円で、配当だけでは減らず、積み上がっている。
保有株は安定株主との関係だ。大同特殊鋼が11.75%を持ち、みずほ銀行や地元の地銀、日本製鋼所、中部鋼鈑、JFEスチールが続く。TYK自身も鉄鋼関連の株を持つ。今期は公開買付けに関わる契約で、投資有価証券の売却益20億9,700万円を見込む。前期も売却益が11.9億円あり、保有株を現金に変える動きは進んでいる。ただ、この売却益は一度きりの利益だ。
買収防衛策にあたる大規模買付行為への対応方針は、5月に継続を決めた。10月には名古屋証券取引所への重複上場が承認された。安定株主が厚く、買収の可能性は高くないと見る。
中計の戦略投資120億円は、純現金110億円とほぼ同じ大きさだ。使い道が新素材の設備なら、現金は事業の中で働く。そうでなければ、現金は積み上がるだけになる。
株主優待は、1,000株以上にQUOカード(千円分)を年1回贈るもので、費用は年1億円に届かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最悪期は終わった。経常利益は2025年3月期に50億円と過去最高になり、配当は6年で5倍に増えた。国内の需要が縮んでも、値上げで利益を守る力は証明済みだ。
伸びしろは海外と新素材にある。北米は鉄の国内回帰と電炉の増設で需要が増え、欧州でも利益が伸びた。現地の拠点が効いている。日本から運ぶ機能品も、競争力が高い。
新素材は中期計画の主役だ。ファインセラミックス、耐摩耗材、複合材は、耐火物より利益率が高い。戦略投資120億円が実れば、2028年度の営業利益58億円は手の届く距離にある。
資本の面でも変化が見える。保有株の売却を進め、売却益が増えている。公開買付けに絡む売却で20億円超の利益が入り、現金はさらに厚くなる。この現金が自己株買いや増配に回れば、資本効率は一気に変わる。
時価総額の3分の1が純現金で、自己資本の7割で買える。10年後に営業利益が60億円を超えれば、割安の度合いは大きい。
大株主の大同特殊鋼や取引先の銀行は、会社を売る側ではない。株価が安いまま、安定した配当を受け取り続けられる。下値の固さは、数字より強い。
慎重な見方
今の利益は天井圏にある。2025年3月期の営業利益率14.1%は過去12年で最高で、今期はすでに10.9%に下がった。2027年3月期の第1四半期は営業利益が17%減り、通期の営業利益も35億円台とほぼ横ばいの見込みだ。
国内の鉄鋼が縮む流れは止まらない。高炉の休止や再編が進めば、日本製鉄向けを含む国内の売上の7割が細る。買い手の大手は耐火物の値下げを毎年求める。黒崎播磨や品川リフラと競る独立系のTYKは、交渉力が弱い。
新素材は売上の1割弱にすぎない。中期計画の主役というには小さく、半導体向けのような高い堀はまだ見えない。戦略投資120億円が利益に結びつく保証もない。
資本効率は変わらない。現金と保有株が自己資本を膨らませ、ROEは6〜8%で資本コストに届かない。今期の純利益は保有株の売却益で増えたもので、続かない。自己株買いもない。
コストの転嫁が遅れれば、利益率は一桁の前半へ戻りうる。
現金が厚いことは、安全の印であって、価値の印ではない。使い道のない現金は、利息しか生まない。保有株の売却益も、いずれ尽きる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。海外と新素材の成長は本物だが、国内の7割が縮む構造と、買い手に握られた値決めは変わらない。純現金と保有株の厚みが下値を支える点は、強気の見方に分がある。
確率は中立を最大にしつつ、やや悲観と悲観に合わせて4割弱を置いた。強気の筋書きが実現しても、資本効率が低いため倍率は高く付かない。自己株買いなど資本政策が変わる兆しがあれば、確率を上に寄せる。
下値が固いぶん、悲観の確率は厚くしすぎなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 942 円419 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 315 円140 億円)。 今の値に割り戻すと 651 円289 億円、今との差 −6.4%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,617 円719 億円 | 428 円190 億円 | +194.2% | +11.4% | 143 円64 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,349 円599 億円 | 378 円168 億円 | +148.5% | +9.5% | 345 円153 億円 |
| 中立 | 36% | 1,129 円502 億円 | 338 円150 億円 | +111.0% | +7.8% | 528 円235 億円 |
| やや悲観 | 24% | 465 円207 億円 | 281 円125 億円 | +7.4% | +0.7% | 179 円80 億円 |
| 悲観 | 13% | 315 円140 億円 | 158 円70 億円 | −32.0% | −3.8% | 61 円27 億円 |
| 加重平均 | 100% | 942 円419 億円 | 315 円140 億円 | +80.9% | +6.1% | 1,257 円559 億円 |
今の株価時価総額 695 円309 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 海外と新素材が国内の縮みを大きく上回る 利益 53 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 1,617 円719 億円
国内の鉄鋼の縮みが想定より緩く、海外が大きく伸びる筋書きだ。
北米は鉄の国内回帰と電炉の増設、欧州は現地の拠点を足場に、海外の数量が今の1.4倍を超える。日本から運ぶ機能品も売れ、海外の利益率は11%に上がる。
新素材は戦略投資が実り、売上が今の3倍を超える。用途が広がり、利益率は21%に乗る。
国内は数量がほぼ横ばいで、値上げも物価並みに通る。営業利益は70億円近くに達し、2028年度の目標58億円を超える。
この姿では、機能品の強みが国内でも通用し、買い手の大手がTYKを外せなくなっている。
還元は純利益の4割台半ばで、配当に加えて自己株買いも出る。それでも現金は積み上がり、ROEは8%に届かない。倍率は上限に近いが、成長の鈍る10年後に高い値は付かない。
- 日本の耐火物・その他:数量 8.7(出荷量(万トン))× 価格 29(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 257 億円・営業利益 39 億円。数量 0.98 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 15.0%
- 海外の耐火物(北米・欧州・アジア):数量 4.6(出荷量(万トン))× 価格 40(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 183 億円・営業利益 20 億円。数量 1.45 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 11.0%
- 新素材(ファインセラミックス・耐摩耗材・複合材):数量 0.4(当社が受ける対象市場の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 201(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 80 億円・営業利益 17 億円。数量 2.40 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 21.0%
倍率:事業の純利益 52 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)56 億円。全体の PER 12.75 倍、時価総額 719 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の伸び、新素材の実り、国内の縮みの緩さがそろう姿。要件が多く、1割未満の7%とした。
やや楽観 20% 海外と新素材が国内の減りを埋める 利益 45 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,349 円599 億円
海外の伸びと新素材が、国内の減りを埋める筋書きだ。
海外の数量は今の1.3倍、新素材の売上は今の2.5倍になる。国内は数量が5%減り、値上げは物価をやや下回る。
営業利益は57億円ほどで、会社の目標に近い水準に届く。海外と新素材の比率が上がる分だけ、全社の利益率は改善する。
北米では電炉の増設に乗り、欧州では現地の顧客を広げる。日本で磨いた機能品を海外の現地工場で作り、輸出に頼らない形に近づく。新素材は用途が少しずつ広がり、利益率は19%まで上がる。
還元は純利益の4割台半ばで、増配を続ける。ただ現金も積み上がるため、ROEは6%台にとどまる。資本コストには届かず、倍率の割増しは付かない。
- 日本の耐火物・その他:数量 8.4(出荷量(万トン))× 価格 29(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 243 億円・営業利益 34 億円。数量 0.95 倍、価格 1.31 倍、営業利益率 14.0%
- 海外の耐火物(北米・欧州・アジア):数量 4.1(出荷量(万トン))× 価格 40(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 167 億円・営業利益 18 億円。数量 1.32 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 10.5%
- 新素材(ファインセラミックス・耐摩耗材・複合材):数量 0.3(当社が受ける対象市場の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 201(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 64 億円・営業利益 12 億円。数量 1.90 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 19.0%
倍率:事業の純利益 43 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)56 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 599 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外と新素材が育ち、会社の中期目標に近づく姿。2割とした。
中立 36% 国内の縮みを海外と値上げが相殺する 利益 35 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,129 円502 億円
国内の縮みを、海外と値上げが打ち消す筋書きだ。
国内の数量は今の92%に減り、値段は物価の伸びをやや下回る。買い手の鉄鋼会社に値決めを握られ、利益率は13%どまりになる。
海外は北米と欧州で数量が2割増え、値段は物価並みに通る。利益率は9〜10%で、今よりわずかに上がる。新素材は売上が今の1.8倍になり、利益率は16%。
営業利益は45億円ほどで、今の1.3倍にとどまる。中身の大半は物価の分だ。本社費も物価で増え、利益を削る。
国内の売上が減る分は、海外と新素材の伸びで埋まる。ただ、全体の稼ぐ力が上がる姿ではない。
還元は純利益の4割台半ばで、配当を増やし続ける。それでも現金と保有株は積み上がり、ROEは5%台。倍率は成熟した素材会社の下限に近い。
- 日本の耐火物・その他:数量 8.2(出荷量(万トン))× 価格 28(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 229 億円・営業利益 30 億円。数量 0.92 倍、価格 1.27 倍、営業利益率 13.0%
- 海外の耐火物(北米・欧州・アジア):数量 3.8(出荷量(万トン))× 価格 39(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 147 億円・営業利益 14 億円。数量 1.20 倍、価格 1.30 倍、営業利益率 9.5%
- 新素材(ファインセラミックス・耐摩耗材・複合材):数量 0.2(当社が受ける対象市場の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 195(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 46 億円・営業利益 7 億円。数量 1.40 倍、価格 1.30 倍、営業利益率 16.0%
倍率:事業の純利益 34 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)56 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 482 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の縮みと、海外・新素材の伸びが打ち消し合う姿。最大の確率として3割台半ばを置いた。
やや悲観 24% 国内の縮みが海外の伸びを食う 利益 21 億円 · PER 6.0 倍 · 株価時価総額 465 円207 億円
国内の鉄鋼が構造的に縮み、海外の伸びも鈍る筋書きだ。
国内の数量は今の85%に減り、買い手の値下げ圧力で、値上げは物価の半分ほどしか通らない。利益率は10%に下がる。
海外は北米の需要が戻らず、数量は横ばい。新素材は投資が実らず、売上の伸びは小さい。
営業利益は25億円ほどで、今期の7割に当たる。売上は伸びないのに、本社費は物価で増えて利益を削る。
日本製鉄などの大手は、高炉の休止に合わせて取引先を絞る。TYKの納入量は減り、機能品でも値下げを迫られる。海外の拠点は、固定費を賄うだけの量が育たない。
還元は純利益の5割強で、配当は維持する。ROEは4%を割る。保有株の売却益は一巡し、現金の積み上がりだけが残る。
- 日本の耐火物・その他:数量 7.6(出荷量(万トン))× 価格 26(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 196 億円・営業利益 20 億円。数量 0.85 倍、価格 1.18 倍、営業利益率 10.0%
- 海外の耐火物(北米・欧州・アジア):数量 3.1(出荷量(万トン))× 価格 36(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 113 億円・営業利益 8 億円。数量 1.00 倍、価格 1.20 倍、営業利益率 7.0%
- 新素材(ファインセラミックス・耐摩耗材・複合材):数量 0.2(当社が受ける対象市場の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 173(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 29 億円・営業利益 3 億円。数量 1.00 倍、価格 1.15 倍、営業利益率 11.0%
倍率:事業の ROE 3.7% は k 8% を大きく下回る。RONIC は 6.1%、g 3.5% の正当化 PER は上限 8.5 倍。稼ぐ力が薄れた筋書きで、上限の 7 割に置く。(上限の約 70% の 6.0 倍)
確率:国内の構造的な縮みと、買い手の値下げ圧力が重なる姿。過去の利益率の振れを考え、2割台半ばとした。
悲観 13% 国内が崩れ、優良ではなくなる 利益 3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 315 円140 億円
構造的に負ける。国内の高炉の休止と再編が進み、国内の数量は今の7割まで落ちる。
日本製鉄などの大手が調達を集約し、海外の大手も入り込んで値段が崩れる。国内の利益率は3%に下がる。
海外は北米で関税と為替の逆風を受け、数量が15%減る。新素材は投資を回収できず、利益は出ない。
営業利益は1億円にも届かず、国内工場の減損で自己資本が減る。配当は減らすが、それでも還元は利益を上回る。もう優良とは呼べない。
工場の稼働が落ち、固定費の重さが利益をさらに押し下げる。新素材への投資は回収の道筋が見えないまま、減損の対象になる。
それでも、純現金と保有株の売却代金が下値を支える。会社の価値は、事業の稼ぎよりも、持っている資産で決まる。
- 日本の耐火物・その他:数量 6.4(出荷量(万トン))× 価格 23(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 148 億円・営業利益 4 億円。数量 0.72 倍、価格 1.05 倍、営業利益率 3.0%
- 海外の耐火物(北米・欧州・アジア):数量 2.7(出荷量(万トン))× 価格 33(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 88 億円・営業利益 2 億円。数量 0.85 倍、価格 1.10 倍、営業利益率 2.0%
- 新素材(ファインセラミックス・耐摩耗材・複合材):数量 0.1(当社が受ける対象市場の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 150(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。数量 0.80 倍、価格 1.00 倍、営業利益率 0.0%
倍率:構造的に負けて稼ぎが消える筋書きなので PBR。稼ぐ力(純利益 3 億円 ÷ k 8%)は約 40 億円にすぎず、下値は純現金と保有株の売却代金が決める。その約 140 億円(今の自己資本 471.7 億円の 0.30 倍)を採る。
確率:国内の高炉の休止と買い手の集約、値崩れが重なる構造的な負け。純現金と保有株が下値を支えるので、1割台前半とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本の耐火物・その他
国内の鉄鋼会社向けの耐火れんが・不定形耐火物・製鋼用の機能品と、非鉄向けの黒鉛るつぼ。環境・窯業機械・建築修繕などの小さな事業も含む。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.9 | 22 | 196 | 28 |
| 10 年後 中立 | 8.2 | 28 | 229 | 30 |
取り方:耐火物のトン数は開示が無い。日本の外部売上 217 億円から、新素材の推定 25 億円を除いた分を耐火物とその他とみて、平均単価を 1 トン 22 万円と仮定し、約 8.9 万トンと推定した(推定)。国内の耐火物消費は年約 120 万トンで、シェアは 7% 台になる。営業利益は日本セグメントの利益 31 億円とその他の 1 億円から新素材の 4 億円を除き、本社費は別に引いた(推定)。数量は国内の粗鋼生産に連動して緩やかに減る。価格は鉄鋼会社の値下げ圧力で物価をやや下回ると置く。
海外の耐火物(北米・欧州・アジア)
北米のTYKアメリカ、欧州のTYKヨーロッパなどが現地の電炉・製鉄所へ売る耐火物。日本からの輸出分も含む。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.1 | 30 | 94 | 8 |
| 10 年後 中立 | 3.8 | 39 | 147 | 14 |
取り方:北米 41 億円、欧州 45 億円、アジア 8 億円の外部売上 94 億円。平均単価を 1 トン 30 万円(日本より高めの欧米の水準)と仮定して約 3.1 万トンと推定した(推定)。地域別の利益は北米 2.9 億円、欧州 4.0 億円、アジア 0.7 億円で、営業利益は 7.5 億円と置く。数量は現地の電炉・製鉄所の稼働と日本からの機能品の輸出で動く。価格は欧米のコスト上昇を通しやすく、物価並みとみる。
新素材(ファインセラミックス・耐摩耗材・複合材)
ファインセラミックス、耐摩耗材、複合材。中期経営計画で成長の柱とする分野。
| 数量当社が受ける対象市場の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分 | 価格円ドル150円×物価倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.2 | 150 | 25 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.2 | 195 | 46 | 7 |
取り方:新素材の売上は開示が無い。売上の 1 割弱、約 25 億円と推定し、円ドル 150 円で割って 0.17 億ドルと置く(推定)。利益率は耐火物より高いとみて 16%。数量は対象市場の実質の伸びと当社の取り分で動き、価格欄は円ドル 150 円に物価倍率を掛けた指数。
リスクと懸念
国内の鉄鋼が構造的に縮む
売上の7割は日本で、国内の粗鋼生産は人口減と電炉化で細っている。高炉の休止や再編が進めば、耐火物の消費量は鉄の生産以上に減りうる。日本製鉄向けだけで売上の1割強あり、集約が進めば取引の条件も厳しくなる。
値決めを買い手に握られる
顧客は少数の鉄鋼大手で、毎年のように値下げを求める。国内首位と2位は大手鉄鋼の系列で、独立系のTYKは交渉の立場が弱い。原料や燃料の値上がりを製品価格に移せなければ、利益率はすぐ1桁の前半へ戻る。
海外の需要と為替・関税
北米と欧州は成長の源だが、北米の外部売上は前期に12.5%減った。電炉の稼働、鉄鋼の関税、為替で振れやすい。現地の拠点は規模が小さく、需要が崩れた時に固定費が重い。
新素材の投資が実らない
中期計画は新素材に戦略投資120億円を見込む。だが新素材は売上の1割弱で、半導体向けのように堀の厚い用途はまだ見えない。投資が回収できなければ、自己資本が増えるだけで利益に結びつかない。
資本効率が上がらない
現金と保有株が自己資本の厚みを作り、ROEは6〜8%台にとどまる。自己株買いもない。利益が増えても、ためる分だけ自己資本が増え、資本コストに届かない状態が続く。会社はROE8%以上を掲げるが、足元の水準に近い。
保有株の売却益は一度きり
今期の純利益は保有株の売却益で膨らんだ。公開買付けに絡む20億円超の売却益も一度きりで、来期の利益には続かない。保有株の値下がりは自己資本を削り、受取配当も減る。
株主構成の偏り
大同特殊鋼が11.75%、地銀やJFEスチールなどの安定株主が厚い。買収防衛策も継続している。少数株主の発言力が弱く、資本の使い方が変わりにくい。名古屋への重複上場で株主を広げる動きはあるが、効果は未知数だ。
今後の分かれ目
- 国内の粗鋼生産が前年から5%以上落ち、高炉の休止が相次ぐ
- 国内の数量の想定を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 北米と欧州の売上が2年続けて1割以上伸び、海外の利益率が10%を超える
- 海外の数量と利益率の想定を引き上げ、やや楽観以上の確率を上げる。
- 新素材の売上が開示され、利益率20%前後で3割以上の伸びが続く
- 新素材の売上と利益率の想定を上げる。ただし全社の倍率は低いままにとどめる。
- 自己株買いや大幅な増配が示され、現金の積み上がりが止まる
- 還元の想定を上げ、余った現金の戻り方を0.5から引き上げる。
- 大手鉄鋼が耐火物の値下げを一斉に求め、値上げが物価を下回る
- 国内の価格の想定を下げる。やや悲観の確率を上げる。
- 大株主の持分整理や公開買付けが出る
- 提示された価格を筋書きに反映し、確率を組み替える。
見ておくもの
- 国内の粗鋼生産と日本製鉄・JFEの高炉の休止計画
- 北米・欧州セグメントの売上と利益率(国内の減益を埋められるか)
- 新素材の売上の開示と、戦略投資120億円の進み具合
- 自己株買いの有無と、投資有価証券の売却の進み具合
- 営業利益率(過去12年の最高14.1%に対する足元の10%台)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE と k 8%(基本 7.5% + quality +1.0%)、長期の成長率 g 3.5% から出る正当化 PER を土台に置いた。今の PER や株価の水準から決めていない。純現金は 110 億円で時価総額の 3 割を超える。運転資金と非支配株主に帰属する分を除き、保有株の売却益の税引き後を加えた 75 億円を余った現金に分けた。保有株の時価は、配当が利益に入っているので足していない。2026/03 期の純利益に入る売却益は、流れの起点から外した。純有利子負債は無く、EV÷営業利益の注意は出ない。工場中心でリースは小さく、新リース会計基準(2028/03 期から)の影響も小さいので、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。株主優待(1,000 株以上に QUO カード)は年 1 億円未満で、payout には足していない。決算期は 3 月で、10 年後は 2036/03 期に置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.55→12.75 倍・やや楽観 PER 9.8→12.5 倍・中立 PER 8.8→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した。同じ領域の品川リフラクトリーズ(+1.0%)と同水準。鉄鋼の生産に連動し値決めを握られる点は同じで、借金が無いことでは k を下げない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。