結論
東洋炭素は、等方性黒鉛をつくる会社だ。等方性黒鉛とは、どの向きにも性質が同じ、細かい粒の黒鉛のことで、半導体のウエハを育てる炉の内側などに使われる。生産量では世界首位級とされ、売上の半分強が国内、残りが海外だ。
筆者の結論は「割高」だ。一番の理由は資本効率にある。自己資本比率は 8 割を超え、利益に比べて資本が厚い。10 年先でも自己資本利益率は資本コストをわずかに上回る程度で、倍率は高くならない。会社が掲げる 2030 年の営業利益 180 億円は、過去最高の年の 1.5 倍だ。その達成まで織り込めば別だが、筆者は中計を中心の筋書きには置かない。
事業の質は悪くない。素材の製造から高純度化、加工までを自社で一貫してやり、顧客に直接売る。半導体、次世代の原子炉、航空宇宙と、黒鉛の使い道は広がっている。堀、つまり他社がまねしにくい強みは、純度と加工の技術、そして顧客の工程に組み込まれていることだ。
弱みは、需要の波と中国勢だ。前期は SiC 向けの調整で営業利益が 4 割以上減り、今期もさらに減る予想になっている。巨額の設備投資を終えたばかりの局面で、稼働率が戻るまで利益は重い。
10 年後の中立で見ても、営業利益は今の 2 倍ほどだ。割り引いた本質価値は、今の時価総額の半分に届かない。優良な素材メーカーだが、今の値段はその優良さを先に払っている。
バリュー投資の観点から
まず、10 年後も事業が残るかを見る。黒鉛は半導体、原子力、航空宇宙という長く続く需要に使われる。この点で、事業が突然なくなる心配は小さい。
次に、稼いだ利益が株主の手に残るかを見る。この会社は稼いだ利益の多くを設備に回し、自己資本は 975 億円まで積み上がった。ところが、自己資本利益率は 5〜6% にとどまっている。100 億円ためて 6 億円しか稼げない資本は、資本コストに届かない。
堀は本物だが、強いとは言い切れない。純度と加工の腕は競合に対する優位だが、価格を自分で決める力は弱い。需要が弱い年は利益が 4 割以上落ちた。
最後に安全域、つまり払う値段と本質価値の差だ。今の時価総額は、会社が掲げる 2030 年の利益の達成を、かなり織り込んでいる。筆者は中計が達成されても、倍率は今ほど高くならないと見る。自己資本利益率が 10% 程度の会社の正当な倍率は、10 倍台前半が上限だからだ。優良な素材メーカーであることと、今の値段が妥当であることは別の話になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、黒鉛の部材だ。黒鉛は高温と真空に強く、不純物が少ないほど価値が上がる。同社は黒鉛の素材づくりから、高純度化、削り出し、表面のコーティングまでを一貫して手がける。
中核は特殊黒鉛製品で、売上の約 44% を占める。半導体の結晶を育てる炉の部材や、エピタキシャル装置の部品が中心だ。エピとは、ウエハの上に薄い結晶の膜を重ねる工程をいう。次世代の原子炉である高温ガス炉の黒鉛もここに入り、フランスと米国の案件で前受金つきの契約がある。
次に大きいのが複合材ほかで、約 33%。黒鉛に炭化ケイ素や炭化タンタルをコーティングした製品、GaN 用の部品、炭素繊維の複合材、黒鉛シートが並ぶ。航空宇宙向けの炭素複合材は開発中の新しい用途だ。
残りが一般カーボンで、モーターのブラシや機械の軸受けに使う炭素製品だ。家電・工具向けの小型ブラシは縮む一方で、会社は整理に動いている。風力、水力、鉄道向けの産業用ブラシに力を移す。
地域では国内が約 52%、アジアが約 27%、欧州と米国が各 1 割ほどだ。為替は 150 円で固定して考えるが、海外売上が半分近くあり、実際の業績は円相場に揺れる。
売り先は半導体メーカーと装置メーカーが主役で、需要は半導体の設備投資に連動する。同社は顧客名を細かくは明かしていない。集中度は外から確かめにくい。
優良さと弱いところ
優良さの核は、技術の一貫性だ。素材、高純度化、加工、コーティングをまとめて持つ会社は少ない。顧客は工程に合わせて部材を選ぶので、一度採用されると替えにくい。直販率が高く、顧客の要望をそのまま開発に返せる点も強みだ。
利益率は波が大きい。営業利益率は 2016 年 12 月期の 2% から、2024 年 12 月期には 23% まで上がり、前期は 15% に戻った。値決め力が強いとは言い切れない。需要が強い年に利益が膨らみ、弱い年に減るという素材らしい動きだ。
財務は強い。自己資本比率は 8 割を超え、純現金だ。ただ、前期は設備投資で純現金が 146 億円から 64 億円に減った。借金で苦しくなる会社ではないが、現金を厚くためて安心するだけの会社でもなくなった。
経営は創業家の色が濃い。代表取締役会長兼社長兼 CEO は近藤尚孝氏で、創業家に連なる株主と財団で 2 割強を持つ。長期の視点で投資を打てる強みがある。一方、少数株主の目線で資本効率を磨く圧力は弱くなりやすい。
弱点は、資本効率が低いことだ。過去 10 年の自己資本利益率の中央値は 6% にとどまる。利益率が高い年でも、厚い自己資本が割り算の分母を重くする。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は、半導体の長い成長だ。AI 向けの最先端チップは増え続け、その製造に使う高純度の黒鉛部材も増える。会社も、最先端品の需要は強いと説明している。
ただ、今は調整の局面だ。シリコン半導体全体では在庫調整が長引き、会社は回復を今期の半ばからと見ている。もう一つの柱の SiC(炭化ケイ素)パワー半導体は、EV の販売の鈍りと、中国メーカーの作りすぎで需給が崩れた。会社自身が SiC 向けの売上は減る計画だと言っている。
市場の大きさを見積もろう。等方性黒鉛の世界の生産量は年 12 万トンほどで、素材の値段を掛けると 11 億ドル前後だ。高純度化や加工の付加価値を足し、筆者は特殊黒鉛の市場を 12 億ドルと置く。自社の売上 203 億円は 1.35 億ドルで、シェアは 1 割強になる。第三者の数字は見つからず、売上と生産量から逆算した推定だ。
競合は、独 SGL、仏メルセン、東海カーボン、イビデン、日本カーボンなどだ。中国には黒鉛の大きな生産能力があり、汎用の領域では価格で攻めてくる。同社が守るのは、高純度と加工の腕が効く上位の領域だ。
循環のどこにいるか。半導体は谷の底に近く、SiC は需給の調整がまだ続く。一方、高温ガス炉は半導体と別の波で、受注が始まったばかりだ。循環に左右されない柱が育てば、会社の性格は変わる。
資本政策と M&A
資本政策は、投資が主役で、還元は従だった。前期までの 5 年は自社株買いがなく、配当が中心だった。配当性向は年によって 15% から 55% まで動いた。利益が減っても配当を据え置いたため、前期は 55% に上がっている。
新しい中計では、配当性向の基準を 40% に引き上げた。方針としては前向きだ。ただ、利益が増えない間は、配当の総額は 30 億円ほどにとどまる。
設備投資は 2026 年から 5 年で 375 億円と、前の計画の 765 億円から圧縮した。SiC のコーティング設備は今期で終わり、高純度化の設備もいわき工場の完成で一巡する。これからは、投じた設備でどれだけ稼ぐかが問われる。
M&A は目立たない。大型の買収で価値を壊した形跡も、広げた形跡もない。創業家と財団が 2 割強を持ち、買われる側になる可能性は小さい。一般の統計では、10 年以内に買収や TOB が起きる確率は 16% 前後だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
黒鉛は、半導体が増えるほど必要になる素材だ。AI 向けの最先端チップは、結晶を育てる炉も、薄い膜を重ねる装置も、高純度の黒鉛部材に頼る。会社は純度を上げる設備を香川、米国、欧州で増やし、いわき工場が完成すれば能力は 1.9 倍になる。需要が戻った時の増産の余力は十分にある。
次世代の原子炉は、新しい柱になる。高温ガス炉の黒鉛は、フランスと米国の案件で前受金つきの契約を結んだ。半導体と無関係な需要で、一度採用されれば長く続く。航空宇宙向けの炭素複合材も、会社が新たに開く市場だ。
利益は、谷から戻る力を持つ。前期の営業利益 68 億円は、2024 年の 122 億円の 6 割にすぎない。設備投資は大半が終わり、稼働率が戻れば固定費が薄まって利益率は急に上がる。2024 年には 23% まで上がった実績がある。
株主への姿勢も変わりつつある。配当性向の基準が 40% に上がり、自己資本利益率を 10% へ引き上げる目標を掲げた。資本効率が上がれば、倍率も上がる。財務は強く、投資を自己資金でまかなえる。10 年かけて黒鉛の用途が広がれば、利益は今の 3 倍以上になりうる。
慎重な見方
中計の数字は、これまでも下方修正が続いている。2024 年の計画では 2028 年に売上 880 億円を掲げたが、新しい中計では 2030 年に 740 億円まで下げた。今期の会社予想は営業利益 62 億円と、さらに減益だ。計画を作るたびに強気の前提が崩れてきた。
SiC の調整は長引く。EV の販売は鈍り、中国メーカーは作りすぎている。中国には黒鉛の大きな生産能力があり、汎用の領域で値段を崩しに来る。前期は国内の営業利益が 4 割まで落ちた。高い利益率は、需要が強い年だけの姿だった可能性がある。
資本効率の問題は変わらない。自己資本は 975 億円まで厚くなったが、自己資本利益率の過去 10 年の中央値は 6% だ。中計の 10% という目標を達成しても、資本コストを大きくは上回らない。倍率が高くなる理由がない。
設備投資の重荷もある。投じた設備の減価償却が、稼働率の低い今の利益を押し下げる。需要が戻らなければ、設備は余り、減損の恐れも出る。創業家が 2 割強を持つ体制では、少数株主が資本効率の改善を迫る力は弱い。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の見方に分がある。ただ、値段の議論では慎重な見方が勝つ。理由は、資本効率が低いままでは、利益が増えても倍率が上がらないからだ。中計は下方修正が続いており、達成を中心には置けない。
確率は、中立を中心に置き、慎重な側をやや厚くした。強気の筋書きでも、今の時価総額を大きくは超えない。次世代原子炉の受注と、SiC の回復が見えれば、確率を楽観側に寄せる余地はある。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 6,740 円1,414 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,728 円362 億円)。 今の値に割り戻すと 4,298 円901 億円、今との差 −33.7%、 期待の年率 +2.7%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 13,902 円2,916 億円 | 2,494 円523 億円 | +153.0% | +9.7% | 1,640 円344 億円 |
| やや楽観 | 22% | 9,842 円2,064 億円 | 2,165 円454 億円 | +85.3% | +6.4% | 2,641 円554 億円 |
| 中立 | 34% | 6,914 円1,450 億円 | 1,802 円378 億円 | +34.5% | +3.0% | 2,964 円622 億円 |
| やや悲観 | 21% | 2,532 円531 億円 | 1,326 円278 億円 | −40.5% | −5.1% | 810 円170 億円 |
| 悲観 | 13% | 2,325 円488 億円 | 858 円180 億円 | −50.9% | −6.9% | 414 円87 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,740 円1,414 億円 | 1,728 円362 億円 | +30.7% | +2.7% | 8,468 円1,776 億円 |
今の株価時価総額 6,480 円1,359 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体と原子力が重なり、黒鉛の会社として一段上がる 利益 197 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 13,902 円2,916 億円
半導体の設備投資が AI で長く伸び、黒鉛の部材の需要は 10 年のあいだ増え続ける。SiC は中国の過剰生産が整理され、2028 年ごろから回復に向かう。高温ガス炉の受注は数基から十数基に増え、前受金の入る安定した柱になる。会社は純度で他社を引き離し、特殊黒鉛の市場でシェアを 1 割台の前半まで上げる。営業利益率は過去最高に近い 23% に戻る。配当性向は 4 割台で、自社株買いも加わる。10 年先の東洋炭素は、半導体と原子力の両方に欠かせない黒鉛の会社になり、稼ぎは今の 4 倍近くになる。設備投資は自前の稼ぎでまかなえ、財務の余裕も保たれる。
- 特殊黒鉛製品:数量 2.8(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 553 億円・営業利益 149 億円。市場 22 億ドル(実質)× シェア 12.5%、営業利益率 27%
- 複合材・コーティング製品:数量 1.9(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 376 億円・営業利益 90 億円。市場 17 億ドル(実質)× シェア 11.0%、営業利益率 24%
- 一般カーボン製品:数量 0.8(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 155 億円・営業利益 14 億円。市場 22 億ドル(実質)× シェア 3.5%、営業利益率 9%
倍率:事業の純利益 197 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.8 倍、時価総額 2,916 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10 年で特殊黒鉛の市場が実質 1.8 倍になる形。半導体の成長に原子炉の追加が重なる強い前提で、1 割に置いた。
やや楽観 22% 半導体が戻り、利益が過去の山に近づく 利益 150 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 9,842 円2,064 億円
半導体は在庫調整を抜け、AI 向けと車載向けの両方で需要が戻る。SiC は 2028 年以降に緩やかに回復し、高温ガス炉は米仏の案件が予定どおり進む。特殊黒鉛の市場は実質で今の 1.6 倍になり、シェアも少し上がる。複合材では SiC コーティングと GaN 向けが伸びる。営業利益率は 21% で、2018 年と 2024 年の山に近い水準だ。中計の 2030 年の目標には届かないが、方向は同じだ。設備は計画どおり稼働し、自己資本利益率は 10% に近づく。顧客からの信頼は厚く、価格の交渉でも守りやすい。10 年先の東洋炭素は、安定した高収益の素材メーカーだ。
- 特殊黒鉛製品:数量 2.2(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 451 億円・営業利益 108 億円。市場 19 億ドル(実質)× シェア 11.8%、営業利益率 24%
- 複合材・コーティング製品:数量 1.6(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 327 億円・営業利益 72 億円。市場 15.5 億ドル(実質)× シェア 10.5%、営業利益率 22%
- 一般カーボン製品:数量 0.7(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 147 億円・営業利益 12 億円。市場 21.5 億ドル(実質)× シェア 3.4%、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 150 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.76 倍、時価総額 2,064 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場が実質 1.6 倍、営業利益率が 21% の形。中計に近い道筋だが、達成より遅れる。2 割強に置いた。
中立 34% 黒鉛の需要は伸びるが、中計には届かない 利益 116 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,914 円1,450 億円
特殊黒鉛の市場は 10 年で実質 1.5 倍になるが、SiC の調整と中国勢の追い上げで、伸びは中計を下回る。シェアは今とほぼ同じ 1 割強にとどまる。高温ガス炉は着実に受注を積むが、売上の柱になるほどではない。複合材はコーティング品を中心に 1.35 倍。一般カーボンは小型ブラシの整理で横ばいだ。営業利益率は 19% で、前期の 15% と 2024 年の 23% の間に落ち着く。10 年先の稼ぎは今の 2 倍ほどで、資本効率は 8% 台だ。優良だが、突出はしない会社になる。配当は 4〜5 割を出し続け、自己資本はゆっくり膨らむ。
- 特殊黒鉛製品:数量 1.9(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 387 億円・営業利益 85 億円。市場 17.5 億ドル(実質)× シェア 11.0%、営業利益率 22%
- 複合材・コーティング製品:数量 1.4(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 271 億円・営業利益 54 億円。市場 13.5 億ドル(実質)× シェア 10.0%、営業利益率 20%
- 一般カーボン製品:数量 0.7(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 139 億円・営業利益 10 億円。市場 21 億ドル(実質)× シェア 3.3%、営業利益率 7%
倍率:事業の ROE 8.1%、k 8.00%、残る割合 1/2 から RONIC 8.0%。正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、g 4.0% で上限 12.6 倍。ROE は k をわずかに上回るだけで、PER は 1÷k の 12.5 倍が下限であり、上限もほぼ同じ。波の大きい利益の質を考え、下限に置く。(上限の約 100% の 12.5 倍)
確率:市場が実質 1.5 倍、営業利益率が 19% の形。中計は下方修正が続いているので、中計より低く、最も実現しやすい筋書きとして 3 割台前半に置いた。
やや悲観 21% 調整と値段の競争に削られ、稼ぎは今並みにとどまる 利益 59 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 2,532 円531 億円
SiC の調整が長引き、中国メーカーが作る黒鉛との値段の競争も始まる。国内の半導体向けは回復しても、新設備の稼働率が上がらず、減価償却が利益を重くする。特殊黒鉛の市場は実質で 1.2 倍にとどまり、シェアも 1 割に下がる。高温ガス炉の受注は少しずつ増えるが、全体を支えるほどではない。営業利益率は 13% まで下がり、過去 10 年の中央値に近い水準で張り付く。株主への還元は配当が中心で、資本効率は 5% を下回る。10 年先の稼ぎは今とほぼ同じだ。物価の分だけ名目の売上は増えるが、実質ではほとんど伸びない。
- 特殊黒鉛製品:数量 1.4(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 281 億円・営業利益 42 億円。市場 14 億ドル(実質)× シェア 10.0%、営業利益率 15%
- 複合材・コーティング製品:数量 1.0(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 208 億円・営業利益 29 億円。市場 11.5 億ドル(実質)× シェア 9.0%、営業利益率 14%
- 一般カーボン製品:数量 0.6(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 115 億円・営業利益 5 億円。市場 19 億ドル(実質)× シェア 3.0%、営業利益率 4%
倍率:事業の ROE は 5% 弱で k 8.0% に届かず、ためた利益は額面どおりの価値にならない。正当化の PER は 1÷k の 12.5 倍を大きく下回り、稼ぎの質が落ちる筋書きとして 9 倍に置いた。
確率:市場が実質 1.2 倍、営業利益率が 13% の形。堀の幅の狭さと、中国勢の追い上げを考えて、2 割強に置いた。
悲観 13% 中国勢に純度でも追いつかれ、優良さを失う 利益 14 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,325 円488 億円
中国の黒鉛メーカーが純度を上げ、半導体の大手顧客に採用され始める。値段が下がり、同社の上位の領域でも利益が出にくくなる。SiC は EV の需要が戻らず、市場そのものが縮む。新設備は遊休になり、減損が出る。営業利益率は 5% まで落ち、稼ぎはほとんどなくなる。会社は潰れないが、もう優良な素材メーカーとは呼べない。10 年先の値段は、厚い自己資本と現金、設備の売却価値が支える。高温ガス炉の受注も、半導体の損失を埋められない。投じた設備だけが重く残る、苦しい 10 年になる。株主に戻る還元も細り、配当は利益の 6 割を占めても、額はわずかになる。
- 特殊黒鉛製品:数量 0.9(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 177 億円・営業利益 12 億円。市場 11 億ドル(実質)× シェア 8.0%、営業利益率 7%
- 複合材・コーティング製品:数量 0.6(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 127 億円・営業利益 6 億円。市場 9 億ドル(実質)× シェア 7.0%、営業利益率 5%
- 一般カーボン製品:数量 0.4(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 85 億円・営業利益 0 億円。市場 17 億ドル(実質)× シェア 2.5%、営業利益率 0%
倍率:稼ぎがほとんど出ないので、純現金と事業用資産の売却価値が床になる。今の自己資本 975 億円に 0.5 倍を掛け、減損と遊休設備の売却損を織り込んだ。
確率:構造的に負ける筋書き。中国勢が高純度の領域に入り、市場が縮む。確率は 1 割強にした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
特殊黒鉛製品
半導体の結晶炉の部材やエピ装置の部品、高温ガス炉用の等方性黒鉛。売上の約 44%。
| 数量対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル) | 価格1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.4 | 150 | 203 | 35 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 201 | 387 | 85 |
取り方:中計の資料の製品別売上(前期 203 億円)を 150 円で割り、1.35 億ドルと読んだ。等方性黒鉛の世界生産量(年約 12 万トン)に素材の単価を掛けて約 11 億ドル、加工の付加価値を足して市場を 12 億ドルと置くと、シェアは 11.3%。第三者の数字が無く推定。営業利益は開示が無く、全体の 68 億円から 17% と置いた。
複合材・コーティング製品
黒鉛に SiC・TaC をコーティングした部材、GaN 用部品、炭素繊維複合材、黒鉛シート。売上の約 33%。
| 数量対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル) | 価格1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.0 | 150 | 153 | 28 |
| 10 年後 中立 | 1.4 | 201 | 271 | 54 |
取り方:中計の製品別売上(前期 153 億円)を 150 円で割り 1.02 億ドル。対象市場を 10 億ドル、シェアを 10.2% と推定した。営業利益率は特殊黒鉛とほぼ同じ 18% と置いた(開示なし)。
一般カーボン製品
モーター用ブラシ、機械用の軸受け・シール、その他。売上の約 23%。小型ブラシは整理中。
| 数量対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル) | 価格1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.7 | 150 | 105 | 5 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 201 | 139 | 10 |
取り方:機械用 42 億円、電気用 43 億円、その他約 20 億円を合わせて 105 億円。対象市場を 20 億ドル、シェアを 3.5% と推定した。小型ブラシの縮小で利益は薄く、営業利益率を 5% と置いた(全体 68 億円との差し引き)。
リスクと懸念
SiC 向けの調整が長引く
EV の販売の鈍りと中国メーカーの作りすぎで、SiC の需給が崩れている。会社は今期も調整が続くと見ており、SiC 向けの売上は減る計画だ。回復が 2028 年以降にずれ込めば、新設備の稼働率が上がらず、利益が低いまま長引く。
中国勢が高純度の領域に上がってくる
中国には黒鉛の大きな生産能力がある。汎用の領域ではすでに価格で攻めてくる。純度と加工の腕が追いつかれれば、上位の領域でも値段が下がり、利益率が 10 ポイント以上落ちる恐れがある。
中計の達成が遠い
2030 年の営業利益 180 億円は、過去最高の年の 1.5 倍だ。前の計画から下方修正したばかりで、さらに崩れる余地がある。計画を前提に値段が付いている間は、未達のたびに失望が出やすい。
資本効率が上がらない
自己資本は 975 億円で、利益に比べて厚い。還元を厚くしても、設備投資を続ければ自己資本は膨らむ。自己資本利益率が 6〜8% で止まれば、倍率は高くならない。
設備の減損
短期間に大きな設備投資をしたため、需要が戻らなければ設備が余る。減価償却が利益を削るうえ、減損の損失が出る恐れもある。国内の利益が 6 割落ちた前期は、その予行になった。
円相場の振れ
海外の売上が半分近くあり、為替で円換算の業績が振れる。本分析は 150 円で固定して考えるが、実際の業績は円高の年に目減りする。
創業家の持ち分が大きい
創業家に連なる株主と財団で 2 割強を持つ。長期の投資を打ちやすい反面、少数株主の目線での資本効率の改善は進みにくい。経営判断が特定の個人に偏る恐れもある。
今後の分かれ目
- SiC 向けの需要が底を打ち、受注が 2 四半期続けて前年を上回る
- やや楽観・中立の確率を上げてよい。新設備の稼働率が上がり、利益率の回復を早める。
- 高温ガス炉の黒鉛の受注が、フランス・米国のほかにも広がる
- 半導体の波に左右されない柱が育つ合図だ。楽観側の筋書きの確率を上げ、循環の深さの評価を軽くする。
- 中国勢が高純度の黒鉛で大手の顧客に採用される
- 値段の下押しが上位の領域にも及ぶ合図だ。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 配当性向の 40% に加えて、自社株買いを始める
- 自己資本が膨らむ流れが止まり、資本効率の改善が進む。中立の倍率を上限寄りに置く余地が出る。
- 中計の 2027 年の営業利益が、計画の道筋から大きく外れる
- 2030 年の 180 億円はさらに遠のく。中立の利益を下げて見直す。
- 創業家が持ち分を売る、または TOB・再編の動きが出る
- 事業の価値を十分に反映した価格が出るかを見る。出るなら、その分の価値が上乗せされる。
見ておくもの
- 中計の道筋:2026 年の営業利益 62 億円と、2027 年の回復の度合い
- SiC 向けの受注と、中国メーカーの稼働率
- 高温ガス炉の黒鉛の受注の広がり
- 配当性向 40% の運用と、自社株買いの有無
- いわき工場の完成後の稼働率と減価償却の重さ
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の PER 27 倍や過去の水準から置いていない。k 8.0%(基本 7.5% に quality +0.5%)、g 4%、事業の ROE から出した正当化 PER の上限に、利益の質に応じた 9 割台を掛けた。中立の ROE は 8% 台で資本コストをわずかに上回るだけなので、PER は 1÷k の 12.5 倍が下限かつほぼ上限になり、12.5 倍に置いた。今の時価総額は中計の 180 億円の達成を前提に近いが、中立の営業利益は 2036 年で 149 億円と置き、中計に引きずられていない。同じ領域の MARUWA(k 9.0%・中立 PER 10.8 倍)より k を低く置いたのは、通信・半導体へ偏る度合いが小さいため。フジミ(k 7.5%・PER 14.4 倍)より倍率が低いのは、ROE が低く利益率の振れが大きいため。新リース会計基準の影響は、工場の多くが自社保有と見ており小さい。10 年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.8→14.8 倍・やや楽観 PER 13→13.76 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。