結論
オハラは、カメラのレンズに使う光学ガラスの老舗だ。いまの稼ぎ頭は、半導体の露光装置に納める高均質の光学ガラスや石英ガラス、熱で伸び縮みしない結晶化ガラスである。筆者の結論は「割高」。事業の質は高いが、資本の使い方がまだ値段に追いついていない。
会社は二つの顔を持つ。エレクトロニクス事業は2025年10月期の売上が約136億円、営業利益が約26億円。光事業は売上が約153億円あるのに、営業損益は約8億円の赤字だった。黒字の部門が赤字の部門を埋めて、会社全体の利益は18億円にとどまる。
2026年10月期の会社予想は営業利益18億円。露光装置向けの在庫調整が終わり、数量は戻りつつある。だが中計が掲げた37億円には、遠い。
財務は強い。自己資本比率は約78%、純現金は約80億円だ。ただ、その現金も土地も設備も、利益を生む力に見合っていない。自己資本利益率は過去10年の中央値で3%台にすぎない。
中立の筋書きでも、10年後の時価総額は今の9割に届かない。今の値段は、利益が2倍に戻ることまで織り込んでいる。会社を疑うのではなく、値段に安全域がないと見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「この会社を持ち続けたいか」を問う。オハラの素材は、半導体装置の中で小さいが欠かせない部品だ。顧客の設計に入り込むため、乗り換えにくい。これは評価できる。
ただ、資本の使い方に問題がある。自己資本は約519億円あるのに、営業利益は18億円だ。ためた現金と、使われない資産が利益を押し下げる。過去10年の自己資本利益率は3%台にすぎない。株主が預けたお金が、資本コストの半分も稼げていない。
もう一つの問いは、将来を読めるかだ。露光装置の需要は半導体の循環で振れ、光事業はカメラの市場と中国勢の価格に左右される。10年後の利益が、はっきり見える会社ではない。
最後に安全域だ。中立の筋書きでも、10年後の価値は今の値段に届かない。会社が悪いのではない。事業が持つ力に対し、払う値段が高いのである。資産の面で見ても、時価総額は自己資本の8割程度にとどまり、割安とも言い切れない。
何で稼ぐ会社か
オハラは1935年に創業した光学ガラス専業メーカーで、国内の生産量は首位とされる。ガラスを溶かして素材を作り、加工までを一貫で手がける。売上は2025年10月期で約289億円。内訳は光事業が約153億円、エレクトロニクス事業が約136億円だ。
光事業は、カメラやレンズの素材を作る。大きなガラスの塊を売る「ブロック品」と、型で押して形にした「プレス品」がある。最近はレンズに加工した川下の製品にも力を入れる。顧客は、キヤノン、ニコン、富士フイルム、リコーなどのレンズメーカーだ。中国など海外の競争が厳しく、2025年10月期は営業損益が約8億円の赤字だった。
エレクトロニクス事業は、半導体や液晶パネルの製造装置に入る素材を作る。一つは高均質の光学ガラスで、露光装置のレンズに使う。一つは石英ガラスで、回路の原版になるフォトマスクの基板に使う。もう一つが、温度が変わっても形が変わらない結晶化ガラス「クリアセラム」だ。装置の構造部材や、巨大望遠鏡の鏡にも使われる。電池材料の添加剤も育てており、中計は将来10億〜20億円の売上を目指す。
つまり会社の実態は、「成熟した光学ガラス」と「半導体装置向けの特殊素材」の組み合わせだ。値打ちがあるのは後者である。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、素材の作り込みにある。光学ガラスは成分の調合、溶かし方、冷やし方で性質が変わり、レンズの設計者はその性質を前提に設計する。一度採用されると替えにくい。ハイエンドの光学ガラスでは、世界でHOYAと並ぶ首位と報じられている。ドイツのショットも老舗の競合だ。
クリアセラムの競合はショットのゼロデュアと、コーニングのULEである。性能はゼロデュアと同等という資料もあるが、出所は大学の個人サイトで、確かではない。シェアの数字は一次の資料で見つからなかった。
弱みは稼ぐ力の低さだ。営業利益率は直近12年で、最高でも2018年10月期の11.6%。過去20年には、赤字の期が4回ある。光事業は構造の問題を抱え、レアアースの調達リスクや中国の増値税の還付廃止でコストが増える。
経営には、実行力に疑問が残る。前の中計は営業利益30億円を掲げて届かず、今の中計も37億円に届きそうにない。筆者はここを、堀の強さと切り離して厳しく見る。
株主はセイコーグループ、キヤノン、京橋起業がそれぞれ18%台だ。顧客でもあるキヤノンの存在は、安定した受注の裏づけになる。一方で、株主が会社の資本効率を厳しく問う圧力は弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
光事業の需要は、カメラとレンズだ。2025年は、レンズ交換式カメラの出荷が約700万台と、前年より約6%増えた。交換レンズは約1,060万本。ただし中計は、2026年までの市場を「横ばい」と見ていた。スマートフォンが写真の需要を吸収する構図は変わらない。台数ではなく、高価格のレンズへの移行で稼ぐ市場である。
競争は厳しい。中国の光学ガラスメーカーの追い上げが厳しいとされ、オハラは値上げを通しにくい。会社は2026年10月期に、生産拠点の再編と価格改定で赤字を縮める計画だが、原材料高が重なる。XR(拡張現実)用のレンズ材料は、成長が見込まれる新しい用途だ。
エレクトロニクスの需要は、露光装置の出荷が決める。オハラの素材は、i線と呼ぶ波長の長い古い世代の装置向けが目立つ。クリアセラムは先端の装置にも構造部材として使われるが、シェアは確認できなかった。2022年の出荷はキヤノンが125台と首位で、オランダのASMLが45台、ニコンが23台。パワー半導体や、半導体の後工程(チップを積む工程)で需要が続く。キヤノンはこの装置の生産を倍増する計画だ。
この需要は景気で振れる。2025年は在庫調整が入り、会社は一時、営業利益を大きく減らす計画を出した。その後、2026年6月の上方修正で回復基調に戻った。
最先端のEUV露光装置は、ASMLがほぼ独占する。オハラの素材は主役ではない。この棲み分けが、10年後も続くかが分かれ目だ。
資本政策と M&A
配当は年間で約6億円。利益の約35%にあたる。自社株買いは大きくない。純現金は10年前の約40億円から約80億円に増え、使い道がないまま積み上がってきた。
株主構成が資本政策を縛る。セイコーグループ、キヤノン、京橋起業が各18%台、三光起業が6%台、自己株が6%台で、浮動株は多くない。セイコー系の持ち分を合わせると4割強とされる。物言う株主が入りにくく、現金を株主に返す動機が弱い。
M&Aの買い手に回る動きは目立たない。一方で、買われる側の可能性はある。kabufuの推計では10年以内に買収される確率は約2割だ。筆頭株主のセイコー、顧客のキヤノンのどちらかが完全子会社にする形が考えられる。ただし、そのとき値段がいくらになるかは分からず、筋書きの金額には入れていない。
設備投資は、石英ガラスの熔解・加工工程の増強が中心だ。利益に比べて設備が大きく、資産の回転が遅い。2013年にハードディスク基板から撤退し、2019年には子会社を解散している。事業の整理には動ける会社だ。光事業の再編も、同じ道を歩むかが焦点になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
露光装置向けの需要は、これから10年、構造的に伸びる。パワー半導体、車載、後工程のチップ積層は、古い世代の装置を使い続ける領域だ。キヤノンはi線の装置の後工程向けの生産を倍増する計画を掲げ、オハラはその装置向けの高均質光学ガラスを供給している。
石英ガラスの熔解と加工の増強が実り、エレクトロニクスの売上は10年で倍以上になる。数量が増えれば固定費の負担が軽くなり、営業利益率は2割前後を保てる。クリアセラムも、露光装置の高精度化で需要が増える。
光事業は、底を打った。生産拠点の再編と価格改定の効果が出て、赤字は縮んでいる。デジタルカメラの出荷は、2025年に台数、金額ともに伸びた。XRや光通信の新しい用途が加われば、黒字に戻る。
自己資本の厚い会社は、資本効率の改善を迫られる。株主構成が安定しているので、経営は長期の投資をしやすい。純現金が積み上がっているので、不況でも投資を止めずに済む。
電池材料の添加剤が量産に乗れば、上積みになる。この事業が立ち上がるまでの期間を、強い財務が支える。
慎重な見方
稼ぐ力が低いまま、10年が過ぎる。前の中計は営業利益30億円に届かず、今の中計は37億円の目標に対し、会社予想は18億円だ。経営は目標を繰り返し外している。次の計画も同じ道をたどる。
光事業の赤字は構造の問題だ。中国の光学ガラスメーカーが価格を崩し、原材料のレアアースは調達が不安定になる。中国の増値税還付の廃止でコストも増える。拠点を再編しても、黒字化の保証はない。
露光装置向けは、顧客が少ない。キヤノンとニコンの動向に収益が左右され、i線の装置は先端ではない。景気の波を受けて、在庫調整が数年おきに来る。2025年も実際に来た。最先端のEUV装置では、オハラの出番が限られる。
資本が非効率な会社を、市場は高く評価しない。過去10年の自己資本利益率の中央値は3%台で、資本コストの半分にも届かない。大株主が経営を変える圧力も弱く、現金は積み上がり続ける。
2026年10月期の純利益予想14億円に対し、時価総額は約410億円。30倍近い。これは回復を織り込んだ値段であり、期待が外れたときの下落は大きい。
どちらに重みを置いたか
事業の質では、強気の見方に分がある。露光装置向けの素材は顧客に深く入り込み、足元の需要も戻っている。だが値段の議論では、慎重な見方が優る。資本効率が低いまま10年が過ぎ、光事業の赤字も構造の問題として残る可能性が高い。
確率は中立に厚く、悲観側に少し寄せた。悲観とやや悲観を合わせて4割弱とした。経営が目標を繰り返し外してきた実績と、光事業の構造問題が、その理由である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/10 期)
確率で加重した株価時価総額 1,841 円440 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 368 円88 億円)。 今の値に割り戻すと 1,059 円253 億円、今との差 −32.4%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,700 円884 億円 | 586 円140 億円 | +173.5% | +10.6% | 300 円72 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,753 円657 億円 | 503 円120 億円 | +107.7% | +7.6% | 586 円140 億円 |
| 中立 | 37% | 1,994 円476 億円 | 385 円92 億円 | +51.8% | +4.3% | 880 円210 億円 |
| やや悲観 | 25% | 978 円234 億円 | 268 円64 億円 | −20.5% | −2.3% | 312 円74 億円 |
| 悲観 | 13% | 804 円192 億円 | 209 円50 億円 | −35.3% | −4.3% | 132 円31 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,841 円440 億円 | 368 円88 億円 | +41.0% | +3.5% | 2,210 円528 億円 |
今の株価時価総額 1,567 円374 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 露光装置向けが倍増し、光事業も黒字に戻る 利益 68 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 3,700 円884 億円
パワー半導体と後工程向けの古い世代の露光装置が増え、石英ガラスの熔解・加工の増強が実を結ぶ。エレクトロニクスの数量は今の1.85倍、売上は340億円ほどになる。数量が増えて固定費が薄まり、営業利益率は2割を超える。光事業は拠点の再編と値上げが効き、XRや光通信の用途も加わって黒字に戻る。会社全体の営業利益は90億円ほどで、今の5倍になる。純現金はさらに積み上がるが、株主構成が安定しているので経営は長期の投資を続けられる。電池材料の添加剤も量産に乗り、上積みになる。それでも資本は厚く、自己資本利益率は9%台と、資本コストをようやく超える程度だ。
- 光事業(光学ガラス):数量 1,200(光学ガラスの出荷量(トン相当・推定。レンズ加工品は素材の重さに換算))× 価格 0.21(1 トン相当あたり売上(億円・名目。川下の加工品へのミックスを含む))→ 売上 246 億円・営業利益 20 億円。光事業:数量 今の 1.20 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 8.0%
- エレクトロニクス事業(露光装置向け素材ほか):数量 925(露光装置向けなどの素材の出荷量(トン相当・推定。高付加価値品は重く数える))× 価格 0.36(1 トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 337 億円・営業利益 71 億円。エレクトロニクス事業:数量 今の 1.85 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 21.0%
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 12.57 倍、時価総額 884 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:露光装置向けの拡大と光事業の黒字化が、10年のあいだ重なる必要がある。中計が2回続けて目標を外した経営の実績もあるので、1割を切る7%に置いた。
やや楽観 18% 露光装置向けが育ち、光事業は小さな黒字 利益 53 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,753 円657 億円
露光装置向けの素材は、古い世代の装置の需要に支えられて伸びる。エレクトロニクスの数量は今の1.65倍、営業利益率は19%を保つ。クリアセラムの需要も増える。光事業は拠点再編で固定費が下がり、小さな黒字になる。ただし中国勢との競争が続き、値上げは物価に届かない。会社全体の営業利益は70億円ほど。2026年10月期の会社予想の4倍近い。電池材料は育つが、全体を動かす規模にはならない。株主への還元は利益の4割を保つ。純現金は積み上がり続ける。自己資本利益率は8%近くまで上がるが、資本コストにはまだ届かない。
- 光事業(光学ガラス):数量 1,100(光学ガラスの出荷量(トン相当・推定。レンズ加工品は素材の重さに換算))× 価格 0.20(1 トン相当あたり売上(億円・名目。川下の加工品へのミックスを含む))→ 売上 219 億円・営業利益 13 億円。光事業:数量 今の 1.10 倍、価格 1.30 倍、営業利益率 6.0%
- エレクトロニクス事業(露光装置向け素材ほか):数量 825(露光装置向けなどの素材の出荷量(トン相当・推定。高付加価値品は重く数える))× 価格 0.36(1 トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 300 億円・営業利益 57 億円。エレクトロニクス事業:数量 今の 1.65 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 19.0%
倍率:事業の純利益 53 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 657 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:露光装置向けの回復が続き、光事業の赤字が縮む。中計の方向どおりに進む形だが、実行力に疑問が残るので、強い側の中心として18%を置いた。
中立 37% 露光装置向けは育つが、資本効率は低いまま 利益 38 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,994 円476 億円
エレクトロニクスの数量は今の1.4倍まで育つ。パワー半導体や後工程向けの需要が続くが、先端の装置は別の会社が担うので、伸びは緩やかだ。価格は物価並みに上がり、営業利益率は16%台。光事業は拠点再編で赤字を脱し、3%台の小さな黒字になる。カメラの数量は横ばいで、中国勢との競争から、値上げは物価に届かない。会社全体の営業利益は49億円、利益率は11%で、過去の山とほぼ同じだ。還元は利益の4割ほど。残りで純現金と設備が積み上がり、自己資本利益率は5〜6%にとどまる。「普通に堅い小さな素材会社」として落ち着く10年である。
- 光事業(光学ガラス):数量 1,000(光学ガラスの出荷量(トン相当・推定。レンズ加工品は素材の重さに換算))× 価格 0.19(1 トン相当あたり売上(億円・名目。川下の加工品へのミックスを含む))→ 売上 191 億円・営業利益 7 億円。光事業:数量 今の 1.00 倍、価格 1.25 倍、営業利益率 3.5%
- エレクトロニクス事業(露光装置向け素材ほか):数量 700(露光装置向けなどの素材の出荷量(トン相当・推定。高付加価値品は重く数える))× 価格 0.36(1 トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 255 億円・営業利益 42 億円。エレクトロニクス事業:数量 今の 1.40 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 16.5%
倍率:事業の純利益 37 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 476 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:露光装置向けは堅調に育つが、光事業の赤字は完全には消えず、資本効率も低い。過去12年の利益率の山を超えない形で、最も厚い37%を置いた。
やや悲観 25% 光学ガラスの赤字が居座り、露光装置向けは横ばい 利益 15 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 978 円234 億円
中国の光学ガラスメーカーの攻勢で、光事業の値段は物価に届かない。レアアースなど原料の調達費も重く、数量は今の0.85倍に細り、赤字が続く。エレクトロニクスは半導体の在庫調整が数年おきに入り、数量は今の1.15倍にとどまる。値段は物価に追いつかず、営業利益率は1割に下がる。会社全体の営業利益は16億円で、2026年10月期の会社予想とほぼ同じだ。10年間、利益が増えない形である。配当は守るが、余った現金は買収の失敗や設備の更新に使われる。資本の効率は2%台に落ち込む。株主構成が変わらず、改革の圧力もかからない。純現金と土地・設備の価値が、値段の支えになる。
- 光事業(光学ガラス):数量 850(光学ガラスの出荷量(トン相当・推定。レンズ加工品は素材の重さに換算))× 価格 0.18(1 トン相当あたり売上(億円・名目。川下の加工品へのミックスを含む))→ 売上 150 億円・営業利益 −5 億円。光事業:数量 今の 0.85 倍、価格 1.15 倍、営業利益率 -3.0%
- エレクトロニクス事業(露光装置向け素材ほか):数量 575(露光装置向けなどの素材の出荷量(トン相当・推定。高付加価値品は重く数える))× 価格 0.33(1 トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 188 億円・営業利益 21 億円。エレクトロニクス事業:数量 今の 1.15 倍、価格 1.20 倍、営業利益率 11.0%
倍率:稼ぐ力は純利益 14.5 億円(÷ k で 170 億円)と小さい。床は純現金と売れる資産で約 265 億円。今の自己資本 519 億円に 0.45 倍を掛けた(約 234 億円)。ROE 2.4% は k を大きく下回るので、帳簿の自己資本は価値にならない。
確率:光事業の赤字が構造の問題として残り、露光装置向けも在庫調整を繰り返して伸びない。会社の実行力の実績から、厚い25%を置いた。
悲観 13% 光学ガラスと露光装置向けの両方で負ける 利益 1 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 804 円192 億円
光学ガラスは中国勢に価格で負け、数量は今の0.65倍まで落ちる。拠点の再編でも黒字にならず、大きな減損を出す。エレクトロニクスも、露光装置の中心が最先端の装置に移り、i線など古い世代の需要が細る。顧客が素材を内製化・多社購買に切り替える動きも出る。数量は今の0.8倍、値段は物価に届かず、営業利益率は数%まで落ちる。会社全体の営業利益は赤字になる。最初の数年は配当を保つが、後半に削る。大株主が事業の整理や売却に動く場面もありうるが、そのときの価値は純現金と土地・設備の売却価値に近い。優良な素材会社の評価は消える。
- 光事業(光学ガラス):数量 650(光学ガラスの出荷量(トン相当・推定。レンズ加工品は素材の重さに換算))× 価格 0.16(1 トン相当あたり売上(億円・名目。川下の加工品へのミックスを含む))→ 売上 105 億円・営業利益 −6 億円。光事業:数量 今の 0.65 倍、価格 1.05 倍、営業利益率 -6.0%
- エレクトロニクス事業(露光装置向け素材ほか):数量 400(露光装置向けなどの素材の出荷量(トン相当・推定。高付加価値品は重く数える))× 価格 0.29(1 トン相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 114 億円・営業利益 3 億円。エレクトロニクス事業:数量 今の 0.80 倍、価格 1.05 倍、営業利益率 3.0%
倍率:稼ぐ力は純利益 1 億円ほどで、床は純現金と売れる資産の約 205 億円。専用設備は値がつかず、減損も入る。今の自己資本 519 億円に 0.37 倍を掛けた(約 192 億円)。
確率:光事業と露光装置向けの両方で、顧客か中国勢に負ける構造的な筋書き。光事業の構造問題が明らかなので、一割強の13%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
光事業(光学ガラス)
カメラ・レンズ向けの光学ガラス(ブロック品・プレス品)と、レンズ加工品。
| 数量光学ガラスの出荷量(トン相当・推定。レンズ加工品は素材の重さに換算) | 価格1 トン相当あたり売上(億円・名目。川下の加工品へのミックスを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 1,000 | 0.15 | 153 | −8 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 0.19 | 191 | 7 |
取り方:2025年10月期の光事業の売上153.1億円、営業損失8.0億円(2026年6月の中間決算資料の前期欄)。出荷量は開示が無いため、年1,000トン相当、1トンあたり0.153億円と置いた(推定)。価格は物価(10年1.34倍)に、中国勢との競争による値上げの通りにくさを反映して動かす。
エレクトロニクス事業(露光装置向け素材ほか)
半導体・液晶の露光装置向けの高均質光学ガラス、石英ガラス、結晶化ガラス(クリアセラム)と、電池材料。
| 数量露光装置向けなどの素材の出荷量(トン相当・推定。高付加価値品は重く数える) | 価格1 トン相当あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/10 | 500 | 0.27 | 136 | 26 |
| 10 年後 中立 | 700 | 0.36 | 255 | 42 |
取り方:2025年10月期のエレクトロニクス事業の売上135.85億円、営業利益25.93億円(同上)。出荷量は開示が無いため、年500トン相当、1トンあたり0.272億円と置いた(推定)。数量は露光装置の出荷(i線の2022年はキヤノン125台、ASML45台、ニコン23台)と半導体の設備投資に結びつけ、価格は物価並みを基本にした。
リスクと懸念
光事業の赤字が居座る
光事業は2025年10月期に約8億円の営業赤字。2026年10月期も約4億円の赤字を見込む。中国の光学ガラスメーカーとの価格競争、レアアースなど原料の調達不安、中国の増値税還付の廃止が重なる。拠点再編と価格改定で黒字に戻せるかが、会社全体の利益を左右する。
露光装置向けの景気の波
エレクトロニクスの稼ぎは半導体装置の投資で振れる。2025年は露光装置向けの在庫調整が入り、会社は営業利益を大きく減らす計画を出した。その後に戻ったが、同じ波は数年おきに来る。古い世代の装置が中心で、需要が先端に移れば出番が減る。
顧客が少ない
露光装置向けの買い手は、キヤノン、ニコンなど少数の装置メーカーに偏る。1社の方針変更で受注が大きく動く。キヤノンは株主でもあるが、購買の分散や内製化を進める可能性は消せない。価格交渉でも、顧客の力が強い。
資本効率が上がらない
自己資本は約519億円と厚いが、営業利益は18億円しかない。過去10年の自己資本利益率は中央値で3%台。中計は2回続けて利益目標を外している。大株主が安定しているため、改革の圧力は弱く、現金は積み上がり続ける。
最先端の装置では出番が限られる
EUV露光装置は、オランダのASMLがほぼ独占する。目立つのは古い世代の装置向けだ。半導体の微細化が進み、古い世代の需要が減る局面では、数量が伸びない。クリアセラムの用途が広がるかが、これを補う鍵になる。
電池材料の立ち上がりが遅い
リチウムイオン電池向けの添加剤は、量産を始めたが、中計は将来10億〜20億円規模の売上を目指す段階だ。全固体電池向けの材料は、研究開発の途中にある。期待が先行する材料で、売上に表れるまで時間がかかる。
株主の事情による経営の硬直
セイコーグループ、キヤノン、京橋起業が各18%台を持つ。経営は安定するが、少数株主の利益を優先する圧力が弱い。逆に、大株主が完全子会社化を決める可能性もある。値段が不確かで、筋書きの金額には入れていない。
今後の分かれ目
- 露光装置向けの回復が続き、エレクトロニクスの営業利益が2026年10月期の予想を上回る
- 数量の増加が確かめられ、中立よりやや楽観の重みが増す。ただし利益率が2割を超えて定着するかが、次の見極めになる。
- 光事業の再編で、2027年10月期に営業損益が黒字になる
- 会社全体の利益が底上げされ、中立の営業利益48億円への道が現実味を帯びる。黒字にならなければ、やや悲観の重みが増す。
- 半導体の投資が冷え、露光装置向けの在庫調整が再び入る
- エレクトロニクスの利益が数四半期にわたり落ち、やや悲観に近づく。固定費の重い石英の増強が負担になる。
- 中国のレアアース輸出規制が強まり、光学ガラスの原料調達が滞る
- 光事業の原価が上がり、赤字が続く。顧客への価格転嫁が通らなければ、悲観の重みが増す。
- セイコーグループかキヤノンが、完全子会社化の公開買付けを発表する
- 上乗せ価格で買収される可能性が出る。値段はこの筋書きの外で、本質価値とは別に動く。
- 会社が新しい中計で、純現金の還元や自己資本利益率の目標を引き上げる
- 資本効率の改善が本物なら、余った現金の戻り方が高まる。中立の自己資本利益率が上振れする。
見ておくもの
- エレクトロニクス事業の営業利益率(四半期ごと。15%台を保てるか)
- 光事業の営業損益(拠点再編後に黒字へ向かうか)
- 露光装置メーカー(キヤノン、ニコン)の生産計画と受注
- 石英ガラスの増強設備の稼働時期
- 中国のレアアース輸出管理の動き
- 新しい中期経営計画(2027年10月期から)の目標と還元方針
- 大株主の持株比率の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後の自己資本利益率と資本コスト8.5%から出した。今の株価や今のPER(約24倍)は使っていない。資本コストは基本の7.5%に、循環+0.5%・値決め+0.25%・寿命+0.25%を足した。10年後の中立の利益は38億円前後で、今の約2倍。ROEは資本コストに届かないため、倍率は上限の1÷kの範囲に置いた。結果として、中立でも10年後の価値は今の時価総額を下回る。純現金は時価総額の19%あり、うち50億円を余りとして分けた。戻り方は0.5とした。リースは重くない。新リース会計基準の影響は小さい。株主優待は無い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.7→12.57 倍・やや楽観 PER 10→11.76 倍・中立 PER 9→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。