結論
日本ガイシは自動車排ガス浄化用のセラミックハニカム担体「ハニセラム」で世界シェア4割前後を握り、コーニング・イビデンと寡占する環境事業を収益の柱にしてきた会社である。同じ環境事業には送配電用の碍子(がいし)も含まれ、こちらは自動車の景気循環と無関係に電力網の更新・増強で支えられる。もう一つの柱であるデジタルソサエティ事業は、半導体製造装置向けのセラミック部材とチップレット向け支持材「ハイセラムキャリア」で、AI投資によるウェハー処理需要の拡大を取り込みつつある。
ここでは環境事業を「世界の自動車生産・保有台数(実質)×搭載単価」、デジタルソサエティ事業を「WFE市場(億ドル)×NGKの取り込み率」、エネルギー&インダストリー事業を「産業・蓄電インフラの市場規模×シェア」で積み上げた。エネルギー&インダストリー事業の中核だったNAS電池は中国製リチウムイオン電池との価格競争で2026年に製造・販売を終了し、約180億円の特別損失を計上している。EV化で自動車向けの数量は10年で4〜6割減る業界の前提のもと、碍子・DAC(直接空気回収)用セラミックスへの転換と半導体セラミックスの成長が、どこまで埋め合わせるかが本質価値を決める。
資本コスト7.75%(基本の7.5%に、循環+0.5%・値決め−0.25%・寿命+0.5%の調整)に対し、今のROEは7.4%とまだ資本コストに届いておらず、堀は普通(残る割合1/2)とした。10年後の中立のPERは11.7倍で、ROEがkを少し上回る程度のため、1÷k(約12倍)のすぐ下にとどまる。10年後の中立の時価総額は今とほぼ同じ水準にとどまる計算になった。確率加重した10年の期待の年率は+1.8%にとどまり、本質価値は今の時価総額を約4割下回る「割高」という結果になった。今の実際のPER19.3倍は、業績が谷から立ち上がった直後の低い利益に対する値であり、半導体セラミックスの成長とEV化の逆風がともに今の勢いのまま続くという、楽観に近い前提まで映していると見える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、自動車排ガス浄化という「構造的に縮む本業」と、半導体セラミックス・電力インフラという「まだ小さいが伸びる本業」を同時に持つ過渡期の会社として見る。環境事業の寡占と碍子の長期取引関係は堀として評価できるが、EV化という技術転換そのものを止める手段は同社にはなく、堀の強さより堀の「当て先」が縮む速さの方が本質的な論点になる。
NAS電池事業の20年以上に及ぶ投資が収益化せずに終わった経緯は、新規事業に資本を投じる判断力そのものに疑問を残す。半導体セラミックス事業は技術的には筋が良いが、まだ売上の3割程度にとどまり、環境事業の縮小スピードに追いつけるかは未知数である。資本配分の規律(撤退の速さと新規事業への再配分の的確さ)と、EV化の実際の速度の2つが、この会社の本質価値の幅を大きく左右する。今のROE7.4%は資本コスト7.75%にまだ届いておらず、再投資が価値を生むかどうかの見極めがこれからの経営の仕事になる。
何で稼ぐ会社か
事業は3つに分かれる。環境事業(売上の過半)は、自動車の排ガスを浄化する触媒担体「ハニセラム」と、電力会社向けの送配電用碍子が中心で、自動車メーカー・電力会社という長期の取引関係に支えられている。ハニセラムは微細なハニカム構造を極薄のセラミックス壁で作る技術の蓄積が参入障壁になっており、世界で数社の寡占。碍子は自動車の景気と関係なく、送配電網の更新・増強・データセンター向け電力供給の拡張で底堅い需要がある。
デジタルソサエティ事業(売上の3割前後)は、半導体製造装置に使うセラミック部材(チャンバー部材、静電チャックの支持材など)と、AI向け先端パッケージング(チップレット集積)用の透光性セラミックス支持材「ハイセラムキャリア」が中心。顧客は半導体製造装置メーカー・半導体メーカーで、AIデータセンター投資によるウェハー処理量の増加が追い風になっている。生産能力を2027年度までに約3倍に増強する計画で、2030年度に単品で売上高200億円を見込む。
エネルギー&インダストリー事業(売上の1割強)は、2002年に世界で初めて商用化したNAS電池(ナトリウム硫黄電池)が長年の看板だったが、部材コストの高騰と中国製リチウムイオン電池の価格競争に勝てず、2026年に製造・販売を終了した(最終出荷は2027年1月頃の見込み)。今後はこの事業の残りの産業用セラミックス・蓄電関連サービスをどう立て直すかが課題になる。
地域別では自動車関連の比率が高い分、世界の自動車生産動向と各国の環境規制・EVシフトの速度に業績が連動する構図が続く。
優良さと弱いところ
環境事業の堀は、ハニカム構造を極薄のセラミックス壁で量産する技術の蓄積と、自動車メーカーの認証を一度取ると切り替えにくい関係にある。碍子も電力会社との長期の取引関係が強みだが、いずれも新規の価格決定力の余地は大きくない(自動車メーカー・電力会社からの値下げ圧力は常にある)。デジタルソサエティ事業は技術優位(微細構造・耐熱性)で装置メーカーとの共同開発に食い込んでいるが、売上規模はまだ環境事業の半分程度で、半導体の循環(2〜3年ごとの投資の山と谷)に業績が振れやすい。
資本効率は、ROE7.4%が自社の目標(10%以上)にまだ届いていない状態で、自己資本比率65%・純有利子負債450億円(自己資本の6%程度)という厚い自己資本に利益がついてきていない。NAS電池事業は20年以上かけて育てたが収益化できずに撤退した経緯があり、新規事業の育成力には実績の積み重ねが要る。2018年には碍子等の検査を契約通りに実施していなかった品質に関する不正(1990年代からの慣行、社内基準自体は満たしていた)が発覚し、企業風土の古さを指摘された。経営陣は以後ガバナンス強化を進めているが、新しい事業(DAC、蓄電サービス)の実行力が試される局面にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車向けの排ガス浄化セラミックスは、世界の自動車生産がEV化で内燃機関・ハイブリッド比率を下げる構造的な縮小局面にあり、新車装着向けの数量は年3〜5%ずつ減っていく前提で考える。既存保有車の補修需要(アフターマーケット)は当面底堅いが、これも保有台数の減少とともに先細る。碍子(送配電インフラ)はこの逆風をほとんど受けず、データセンター向け電力需要の拡大や送電網の更新投資が下支えする。
半導体製造装置向けセラミックスは、AIデータセンター投資によるウェハー処理量の拡大という業界全体の順風を受けており、WFE(ウェハー製造装置)市場の成長に加えて、チップレット集積というパッケージング技術の転換が新しい需要(ハイセラムキャリア)を生んでいる。ただし半導体投資には2〜3年ごとの循環があり、投資が過熱した後の調整局面では需要が急減する。
エネルギー・蓄電分野は、NAS電池が中国製リチウムイオン電池との価格競争に敗れて撤退したように、技術優位があっても価格競争力で劣れば事業が維持できない厳しい市場になっている。今後は長時間・大容量という特性を生かした用途(データセンターのバックアップ電源、再生可能エネルギーの調整力)に絞った蓄電所サービスへの転換が試される。業界全体として、自動車向けという一本足から、電力インフラ・半導体・CO2回収という複数の柱に事業構成を転換できるかが、この領域の会社に共通する10年の分かれ目になる。
資本政策と M&A
株主還元は配当性向30%を目標に、機動的な自社株買いを組み合わせる方針。2026年3月期は政策保有株式の縮減に伴う売却益も織り込んで配当を増額した。政策保有株式は森村グループ(共通の創業者を持つ会社群)各社の株式を含め、取引関係の維持を目的に保有しているが、資産効率の観点から縮減を意識する方針を掲げている。
M&Aは小粒な買収(海外拠点の生産能力増強など)が中心で、大型の買収・被買収は目立った実績がない。NAS電池事業の撤退は、育てた事業を自ら引き際を見極めて畳んだ例として評価できる一方、代わりとなる成長事業(DAC、半導体セラミックス)への資本配分の規律が問われる。長期経営計画2026-2035では2035年度に売上高1.3兆円(現在の約2倍)、ROE12%以上を掲げ、既存の自動車関連事業で生んだ現金を半導体・データセンター関連の成長投資に重点配分する方針を示している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体製造装置向けセラミックスは、AIデータセンター投資という業界全体の順風に加えて、チップレット集積という新しい技術転換に対応した「ハイセラムキャリア」がまさにこれから立ち上がる製品で、2030年度に単品で売上高200億円という目標は生産能力増強のペース(2027年度までに3倍)から見て前倒しで達成できる可能性がある。この分野はニッチトップであるほど価格決定力が強く、デジタルソサエティ事業の利益率は環境事業を上回る水準まで伸びる余地がある。
環境事業も、EV化で縮む自動車向けハニセラムの裏で、碍子は電力インフラの更新・データセンター向け電力供給の拡張という追い風を受けており、自動車向けの縮小を電力インフラの拡大がかなりの部分で相殺できる。さらにDAC(直接空気回収)用セラミックスは、EV化で遊休化する既存のハニカム生産設備をそのまま転用できる「コストのかからない新規事業」で、2050年に世界で年10億トンのCO2回収という調査機関の想定が仮に一部でも実現すれば、既存設備の延命どころか新しい成長事業に転じる余地がある。
NAS電池の撤退は、収益化できない事業から早めに手を引いた合理的な経営判断であり、今後は損失を生まない体質に転じる。政策保有株式の縮減も進んでおり、売却益と資産効率の改善が今後数年の増配余力を支える。これらを踏まえれば、半導体セラミックスの成長が環境事業の縮小を補って余りある成長を達成し、ROEが目標の10%を超えてくる筋書きは十分にありうる。
慎重な見方
EV化は各国の規制強化(燃費規制・ゼロエミッション規制)で前倒しに加速する可能性が高く、自動車向けハニセラムの数量は業界の前提(10年で4〜6割減)よりも速く縮む恐れがある。碍子事業は電力インフラの更新需要があるとはいえ、環境事業全体の売上規模(売上の過半)からすれば、碍子の拡大だけで自動車向けの縮小を打ち消すのは規模的に難しい。
デジタルソサエティ事業は、まだ売上の3割程度にとどまる上に、半導体投資には2〜3年ごとの循環があり、AI投資が過熱した後の調整局面では需要が急減する。ハイセラムキャリアも、代替材料(有機基板や他のセラミックスメーカーの競合品)に置き換わるリスクや、中国・韓国勢の量産追随で単価が下がるリスクを抱えており、2030年度の売上高200億円という目標も、会社全体の縮小を補う規模にはまだ遠い。
NAS電池事業の撤退そのものが、新規事業を育てる経営力に疑問を投げかける事実であり、累計1,500億円超の売上を生んだ事業でも最終的に収益化できなかった。2018年の碍子等の検査不正に見られた「古いやり方を変えにくい企業風土」が、DAC事業や蓄電サービスといった新しい挑戦でも同じ結果(投資したが収益化できない)を繰り返す可能性は否定できない。ROE7.4%は資本コスト7.75%に届いておらず、厚い自己資本(自己資本比率65%)が十分に稼ぐ力に結びついていない状態が、構造的に続く恐れがある。
どちらに重みを置いたか
半導体セラミックスの成長性と碍子・DACによる環境事業の下支えは実在するが、まだ会社全体の規模に対して小さく、自動車向けの縮小スピードの方が数字としては大きい。NAS電池撤退という事実は新規事業の実行力に疑問を残すため、ROEが資本コストを明確に超えてくる筋書きには慎重な見方を少し厚めに置いた。中立は環境事業がほぼ横ばい(碍子・DACが自動車の縮小を大部分相殺)、デジタルソサエティ事業が業界の循環を伴いながら着実に伸びる、という穏やかな転換の筋書きとし、楽観・悲観にはEV化の速度と半導体循環の振れを反映させた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,077 円1.43 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,290 円3,632 億円)。 今の値に割り戻すと 3,295 円9,277 億円、今との差 −29.9%、 期待の年率 +3.1%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 10,934 円3.08 兆円 | 1,649 円4,644 億円 | +167.6% | +10.3% | 1,258 円3,543 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,574 円2.13 兆円 | 1,497 円4,214 億円 | +92.9% | +6.8% | 1,814 円5,108 億円 |
| 中立 | 34% | 5,380 円1.51 兆円 | 1,393 円3,922 億円 | +44.0% | +3.7% | 2,303 円6,484 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,199 円6,190 億円 | 1,068 円3,007 億円 | −30.5% | −3.6% | 784 円2,207 億円 |
| 悲観 | 12% | 933 円2,628 億円 | 797 円2,244 億円 | −63.2% | −9.5% | 208 円585 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,077 円1.43 兆円 | 1,290 円3,632 億円 | +35.4% | +3.1% | 6,367 円1.79 兆円 |
今の株価時価総額 4,703 円1.32 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体セラミックス・DACが環境事業の縮小を上回って成長 利益 1,922 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 10,934 円3.08 兆円
半導体セラミックスはAI・データセンター投資の持続的な拡大とチップレット集積の普及で売上が大きく伸び、環境事業ではDAC用セラミックスが遊休化した生産設備を活用して新しい収益源に育つ。碍子も電力インフラの長期的な拡張で伸び続け、自動車向けの縮小を電力・DAC関連がほぼ打ち消す。エネルギー&インダストリー事業もデータセンター向けバックアップ電源としての蓄電所サービスが本格的に立ち上がる。長期経営計画の2035年度売上高1.3兆円という目標に近い水準まで会社全体が成長する。半導体セラミックスでのニッチトップとしての地位がさらに強まり、中国・韓国勢の追随を技術優位で振り切る。政策保有株式の縮減も完了に近づき、自己資本の効率が目に見えて改善する10年になる。
- 環境事業(ハニセラム・碍子等):数量 7,125(世界の自動車生産・保有台数と電力インフラ需要を合わせた実需換算(万台相当))× 価格 0.72(1台相当あたりの搭載・使用単価(万円))→ 売上 5,111 億円・営業利益 971 億円。DACと碍子の拡大が自動車向け縮小をほぼ相殺
- デジタルソサエティ事業(半導体製造装置用セラミックス等):数量 2,090(世界のWFE(ウェハー製造装置)市場規模(億ドル))× 価格 2.2%(NGKが取り込む売上換算シェア)→ 売上 6,897 億円・営業利益 1,517 億円。AI投資の持続的拡大とシェア上昇(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
- エネルギー&インダストリー事業(NAS電池撤退後の産業用等):数量 2,800(産業用セラミックス・蓄電インフラの市場規模(億円、概算))× 価格 66.0%(NGKの売上換算シェア)→ 売上 1,848 億円・営業利益 314 億円。蓄電所サービスが本格的に立ち上がる
倍率:事業の純利益 1,922 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 16.02 倍、時価総額 30,786 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:長期経営計画の売上倍増目標がそのまま実現し、自動車向けの縮小をDS事業とDACが上回って補う確率は高くない。
やや楽観 20% 事業構成転換が計画通り進む 利益 1,427 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 7,574 円2.13 兆円
自動車向けハニセラムは着実に縮小するが、碍子とDACが環境事業の過半を下支えする。デジタルソサエティ事業は半導体の循環を経ながらも長期では力強く成長し、会社全体の成長を牽引する。エネルギー&インダストリー事業も蓄電所サービスへの転換が進み、NAS撤退時より大きな事業に育つ。長期経営計画が掲げるCN・DS比率60%以上という目標には届かないものの、既存事業で生んだ現金を成長投資に回す資本配分の規律は保たれる。品質・ガバナンスの問題も再発せず、株主還元も配当性向30%を軸に機動的な自社株買いを続ける10年になる。
- 環境事業(ハニセラム・碍子等):数量 6,375(世界の自動車生産・保有台数と電力インフラ需要を合わせた実需換算(万台相当))× 価格 0.69(1台相当あたりの搭載・使用単価(万円))→ 売上 4,416 億円・営業利益 795 億円。碍子とDACが下支え
- デジタルソサエティ事業(半導体製造装置用セラミックス等):数量 1,866(世界のWFE(ウェハー製造装置)市場規模(億ドル))× 価格 1.9%(NGKが取り込む売上換算シェア)→ 売上 5,318 億円・営業利益 1,064 億円。循環を経ながら長期で力強く成長(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
- エネルギー&インダストリー事業(NAS電池撤退後の産業用等):数量 2,400(産業用セラミックス・蓄電インフラの市場規模(億円、概算))× 価格 62.0%(NGKの売上換算シェア)→ 売上 1,488 億円・営業利益 238 億円。蓄電所サービスへの転換が進む
倍率:事業の純利益 1,427 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.94 倍、時価総額 21,324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:長期経営計画の方向性(既存事業を収益基盤に、DS事業を成長の柱に)がおおむね計画通りに進む組み合わせは、起こりやすい上振れ。
中立 34% 自動車向けは4〜6割縮小、半導体セラミックスの成長で会社全体はほぼ横ばい〜小幅成長 利益 1,095 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 5,380 円1.51 兆円
自動車向けハニセラムは業界の前提通りEV化で10年で4〜6割縮小する。碍子・DACがこの縮小の一部を相殺するが、環境事業全体では今よりやや小さい規模にとどまる。デジタルソサエティ事業はAI・データセンター投資という長期の追い風を受けて大きく伸び、会社全体の売上・利益を支える主力に育つ。エネルギー&インダストリー事業はNAS撤退後の再編を経て、電力インフラに近い産業用セラミックス・蓄電サービスとして緩やかに回復する。長期経営計画が掲げる売上高1.3兆円には届かないが、事業構成の転換自体は方向として進む。
- 環境事業(ハニセラム・碍子等):数量 5,603(世界の自動車生産・保有台数と電力インフラ需要を合わせた実需換算(万台相当))× 価格 0.68(1台相当あたりの搭載・使用単価(万円))→ 売上 3,836 億円・営業利益 652 億円。自動車向け4〜6割縮小を碍子・DACが部分的に相殺
- デジタルソサエティ事業(半導体製造装置用セラミックス等):数量 1,716(世界のWFE(ウェハー製造装置)市場規模(億ドル))× 価格 1.7%(NGKが取り込む売上換算シェア)→ 売上 4,376 億円・営業利益 788 億円。AI・データセンター投資の長期の追い風で主力事業に育つ(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
- エネルギー&インダストリー事業(NAS電池撤退後の産業用等):数量 2,100(産業用セラミックス・蓄電インフラの市場規模(億円、概算))× 価格 58.0%(NGKの売上換算シェア)→ 売上 1,218 億円・営業利益 183 億円。NAS撤退後の再編を経て緩やかに回復
倍率:事業の純利益 1,094 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.84 倍、時価総額 15,148 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界ノートの前提(自動車向け10年4〜6割減)に半導体セラミックスの成長を組み合わせた、最も中心的な10年の筋書き。
やや悲観 24% 事業構成転換が計画より遅れる 利益 596 億円 · PER 7.9 倍 · 株価時価総額 2,199 円6,190 億円
自動車向けハニセラムの縮小が各国のEV規制強化で業界の前提より速く進む一方、碍子・DACの立ち上がりは計画より遅れ、環境事業は大きく縮小する。デジタルソサエティ事業は成長するが、中国・韓国勢の技術キャッチアップでシェアの伸びが鈍る。エネルギー&インダストリー事業の再編も時間がかかり、収益性は低いままにとどまる。長期経営計画が掲げた2035年度売上高1.3兆円という目標は実現せず、既存事業で生んだ現金を成長投資に回す戦略そのものの見直しを迫られる。対中輸出規制の強化も半導体セラミックスの一部需要を削り、会社全体として成長事業への転換が遅れた10年になる。
- 環境事業(ハニセラム・碍子等):数量 4,500(世界の自動車生産・保有台数と電力インフラ需要を合わせた実需換算(万台相当))× 価格 0.64(1台相当あたりの搭載・使用単価(万円))→ 売上 2,894 億円・営業利益 376 億円。EV化前倒しと碍子・DACの立ち上がり遅れ
- デジタルソサエティ事業(半導体製造装置用セラミックス等):数量 1,418(世界のWFE(ウェハー製造装置)市場規模(億ドル))× 価格 1.5%(NGKが取り込む売上換算シェア)→ 売上 3,190 億円・営業利益 447 億円。中韓勢のキャッチアップでシェアの伸びが鈍る(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
- エネルギー&インダストリー事業(NAS電池撤退後の産業用等):数量 1,800(産業用セラミックス・蓄電インフラの市場規模(億円、概算))× 価格 50.0%(NGKの売上換算シェア)→ 売上 900 億円・営業利益 90 億円。再編に時間がかかり収益性低迷
倍率:事業の ROE 6.2% が k 7.75% 以下なので PER は 1÷k=12.1 倍まで。自動車向けの縮小が速まり、新事業も伸びず ROE が 6% に落ちる年。上限の 6 割台半ばに置く。(上限の約 65% の 7.9 倍)
確率:新規事業(DAC・蓄電サービス)の立ち上がりが遅れ、自動車向けの縮小が業界の前提より速く進む組み合わせは、NAS電池撤退の経緯を踏まえると軽視できない。
悲観 12% EV化が想定を超えて加速し、新規事業も収益化できない構造的な負け筋 利益 181 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 933 円2,628 億円
EV化が各国の規制強化で想定を超えて加速し、自動車向けハニセラムの新車装着需要がほぼ消滅する。補修需要も既存保有車の廃車進行で先細る。半導体セラミックスは中国・韓国勢の量産追随で単価が崩れ、ハイセラムキャリアも代替材料に置き換わる。DAC用セラミックスも商用化が想定通りに進まず、エネルギー&インダストリー事業もNAS電池撤退後の新事業(蓄電所サービス)が育たず、会社はもはや成長事業を持たない状態になる。自己資本は依然厚いため、谷の利益に谷の倍率を掛ける二重の下げを避け、自己資本×PBRで床を測った。
- 環境事業(ハニセラム・碍子等):数量 3,000(世界の自動車生産・保有台数と電力インフラ需要を合わせた実需換算(万台相当))× 価格 0.57(1台相当あたりの搭載・使用単価(万円))→ 売上 1,707 億円・営業利益 137 億円。自動車向け新車装着がほぼ消滅
- デジタルソサエティ事業(半導体製造装置用セラミックス等):数量 970(世界のWFE(ウェハー製造装置)市場規模(億ドル))× 価格 1.2%(NGKが取り込む売上換算シェア)→ 売上 1,746 億円・営業利益 157 億円。中韓勢の量産追随で単価崩れ(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
- エネルギー&インダストリー事業(NAS電池撤退後の産業用等):数量 1,300(産業用セラミックス・蓄電インフラの市場規模(億円、概算))× 価格 42.0%(NGKの売上換算シェア)→ 売上 546 億円・営業利益 27 億円。新事業が育たない
倍率:内燃機関向けの縮小が止まらず、NAS 電池に続く新事業の失敗が重なる構造的な負け筋。ROE 2.2% は k 7.75% を大きく下回り、稼ぐ力(純利益 181 億円÷k)は約 2,200 億円。事業用資産の 4 割法の床(2,964 億円、floor_assets_oku)の水準を、今の自己資本 8,086 億円の 0.325 倍(約 2,628 億円)に置いた。
確率:自動車向けがほぼ消滅し、半導体セラミックス・DAC・蓄電サービスのいずれも収益化に失敗する組み合わせは厳しいが、NAS電池撤退という実例があるだけに軽視できない深さで置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
環境事業(ハニセラム・碍子等)
自動車排ガス浄化用セラミックハニカム担体「ハニセラム」(世界シェア4割前後)と、送配電用碍子など電力インフラ向け製品。
| 数量世界の自動車生産・保有台数と電力インフラ需要を合わせた実需換算(万台相当) | 価格1台相当あたりの搭載・使用単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,500 | 0.49 | 3,710 | 590 |
| 10 年後 中立 | 5,603 | 0.68 | 3,836 | 652 |
取り方:決算説明資料の環境事業売上3,710億円・営業利益590億円を基に、自動車排ガス浄化(新車装着+補修需要)と送配電用碍子の需要を合わせた実需換算で7,500(万台相当)・単価0.4947万円相当とした。
デジタルソサエティ事業(半導体製造装置用セラミックス等)
半導体製造装置向けセラミック部材(チャンバー部材等)と、チップレット集積向け支持材「ハイセラムキャリア」。
| 数量世界のWFE(ウェハー製造装置)市場規模(億ドル) | 価格NGKが取り込む売上換算シェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,100 | 1.2% | 1,950 | 230 |
| 10 年後 中立 | 1,716 | 1.7% | 4,376 | 788 |
取り方:決算説明資料のデジタルソサエティ事業売上1,950億円・営業利益230億円を基に、世界WFE市場1,100億ドル(概算)に対するNGKの売上換算シェア1.18%、1ドル150円で逆算した。 先の数量は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質の市場で置く(物価分は価格側)。
エネルギー&インダストリー事業(NAS電池撤退後の産業用等)
NAS電池(2026年に製造・販売終了)を含んでいた蓄電・産業用セラミックス事業。今後は残る産業用セラミックス・蓄電関連サービスが中心。
| 数量産業用セラミックス・蓄電インフラの市場規模(億円、概算) | 価格NGKの売上換算シェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,000 | 52.0% | 1,040 | 130 |
| 10 年後 中立 | 2,100 | 58.0% | 1,218 | 183 |
取り方:会社全体(売上6,701億・営業利益950億)から環境事業とデジタルソサエティ事業を引いた残差(売上1,041億・営業利益130億程度)を、市場規模2,000億円×シェア52%の概算で表した。NAS電池の2026年の特別損失(約180億円)はここに含めず別扱い(営業利益の外)とした。
リスクと懸念
EV化による自動車向け排ガス浄化セラミックスの構造的縮小
各国の燃費規制・ゼロエミッション規制の強化次第で、ハニセラムの新車装着需要は業界の前提(10年で4〜6割減)より速く縮む可能性がある。補修需要(アフターマーケット)も既存保有車の廃車進行とともに先細るため、環境事業の下支え役は碍子・DACに移っていくが、その立ち上がりが遅れればそのまま収益の落ち込みになる。
半導体セラミックスの循環リスクと技術の置き換え
デジタルソサエティ事業はAI投資という順風を受けているが、半導体投資には2〜3年ごとの循環があり、投資が過熱した後の調整局面では需要が急減する。ハイセラムキャリアも有機基板など代替材料への置き換えや、中国・韓国勢の量産追随による単価下落のリスクを抱えている。
新規事業の収益化力への疑問(NAS電池撤退の教訓)
2002年に世界で初めて商用化したNAS電池事業は、20年以上かけても中国製リチウムイオン電池との価格競争に勝てず、2026年に製造・販売を終了した。累計売上1,500億円超を生んだ事業でも収益化できなかった経緯は、DAC用セラミックスや蓄電所サービスといった次の新規事業でも同じ結果を繰り返すリスクを示している。
品質・ガバナンスに関する過去の不正の再発リスク
2018年に、送電線用碍子等について顧客の求める検査を契約通りに実施していなかった不正が1990年代から続いていたことが発覚した(社内基準自体は満たしていたが契約上の検査を省略、累計約100万件・約1億個)。企業風土の古さを指摘された経緯があり、新しい事業・生産体制でも同様の問題が再発しないかは継続して見るべき点である。
政策保有株式の縮減ペースと資本効率
政策保有株式は森村グループ各社との関係維持を目的に保有を続けており、資産効率の観点からの縮減は進めているが、自動車メーカー・電力会社との長期の取引関係維持という目的と資本効率の改善のバランスが今後も問われる。縮減が計画より遅れれば、ROE改善のペースも遅れる。
対中輸出規制・地政学リスク
半導体製造装置向けセラミックスは、米中の対中輸出規制の運用次第で中国向け販売が制約を受ける可能性があり、同時に中国の半導体国産化の加速という需要構造の変化も受ける。自動車向けでも中国市場でのEV普及速度が他地域より速いため、中国事業の構成比が高いほどEV化の影響を強く受ける。
電力インフラ・データセンター向け碍子需要の実現確度
碍子事業の成長はデータセンター向け電力供給の拡張や送電網の更新投資という前提に依存しているが、これらの投資計画は国・電力会社の政策判断に左右され、想定より遅れる可能性がある。環境事業の下支え役として期待する分、この前提が崩れると環境事業全体の縮小が速まる。
今後の分かれ目
- 主要国でEV普及目標・規制強化が前倒しで発表される
- 自動車向けハニセラムの数量縮小が業界の前提より速まり、環境事業の縮小ペースが悲観側の筋書きに近づく。
- ハイセラムキャリアが主要半導体メーカーに量産採用され、2030年度売上高200億円の目標を前倒しで達成する
- デジタルソサエティ事業の成長力が確認され、楽観・やや楽観の筋書きに近づく。
- 半導体業界が2〜3年ごとの投資循環の谷に入り、WFE市場が前年比で大きく縮小する
- デジタルソサエティ事業の業績が一時的に下振れし、やや悲観・悲観の筋書きに近づくが、循環である限り構造的な評価は変えない。
- DAC(直接空気回収)用セラミックスが商用化段階に進み、具体的な受注・売上が立つ
- 環境事業の新しい収益源として評価され、既存のハニカム生産設備の延命以上の価値が加わる。
- NAS電池撤退後の蓄電所サービス(データセンター向けバックアップ電源等)が具体的な受注を獲得する
- エネルギー&インダストリー事業の立て直しが確認され、新規事業の収益化力への疑問が和らぐ。
- 政策保有株式の縮減が計画的に進み、売却益・資本効率の改善が続く
- 株主還元の原資が増え、増配・自社株買いのペースが上がる。
- 対中輸出規制が強化され、半導体製造装置向けセラミックスの中国向け販売に制約がかかる
- デジタルソサエティ事業の成長ペースが鈍り、やや悲観側の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 世界の自動車生産台数とEV・HV・内燃機関車の比率(各国の規制スケジュール)
- デジタルソサエティ事業の売上・営業利益率の推移とハイセラムキャリアの採用状況
- エネルギー&インダストリー事業の蓄電所サービスの受注状況
- DAC用セラミックスの商用化・受注の進捗
- 政策保有株式の縮減額・売却益
- ROEの推移(目標10%以上への接近度)
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとの数量×価格を先に積み上げ、その上でROEと資本コストから倍率を決めた。中立の10年後ROEは9.7%で資本コスト7.75%を少し上回る程度で、中立PERを11.7倍(1÷kの少し下)に置いたのは、今の株価(PER19.3倍、業績の谷から立ち上がった直後の低い利益に対する高いPER)に寄せたのではなく、自動車向けの構造的な縮小という業界共通の前提をそのまま適用した結果である。楽観側の筋書きでもROEが資本コストを大きく超える前提(13%超)を置かず、正当化PERの上限の9割程度までしか取らなかった。結果として総合では「割高」という計算になったが、これは先に今の株価を見てから筋書きを作ったのではなく、数量×価格→利益→倍率の順で積み上げた後に、最後に今の値段と比べて初めて出てきた結論である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.94→16.02 倍・やや楽観 PER 12.21→14.94 倍・中立 PER 11.72→13.84 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。