結論
東海カーボンは、炭素を原料に暮らしの裏方の部材を作る会社だ。タイヤに入れるカーボンブラック、製鋼用の黒鉛電極、アルミ精錬の炉の部材、半導体工場で使うSiC製の部品までを手がける。
筆者の結論は割高である。会社は回復の途上にあり、今期は半導体とアルミ向けが予想を押し上げた。ただ、今の株価はその勢いが長く続き、倍率も高いままという前提に立つ。
稼ぎの土台は、売上の4割強を占めるカーボンブラックだ。世界の大手に並ぶ位置にいて、需要は堅い。伸びしろは半導体向けのファインカーボンにある。
足を引っ張るのは黒鉛電極とアルミ関連の部材だ。2024年は両事業の傷みで大きな赤字になった。構造改革で血は止まったが、儲かる事業になったとはまだ言えない。
数量は10年で大きく伸びない。利益の増えは値上げと半導体の拡大が頼りだ。資本の効率も、資本コストを下回る水準が長く続いている。一度の好決算で倍率だけが先に上がる局面は、割高と見るのが筆者の流儀だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、持ちたいのはファインカーボンとカーボンブラックだけだ。
この会社は、10年後も存在する。タイヤは走り、半導体は作られる。だが、続くことと、株主に報いることは別の話だ。自己資本利益率が資本コストを下回る期間が長く、稼いだお金のかなりが設備と減損に消えてきた。
株主のものになる利益、つまり維持の投資を引いた後のオーナー利益を考える。カーボンブラックは環境投資と新工場で重く、黒鉛電極は能力を減らして止血しただけだ。残る柱はファインカーボンだが、売上の2割に満たない。
経営の資本配分も評価は分かれる。2019年の買収は、今のところ価値を生んでいない。いまは構造改革で整理している途中だ。
安全域は乏しい。今の値段は、半導体とアルミの好調がしばらく続くことを前提にしている。筆者は、中立の筋書きでは10年後の時価総額が今の水準に届かないと見る。割安になるのは、利益の回復を確かめたうえで、値段が大きく下がった時だろう。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は「炭素を固め、焼き、削る」技術だ。事業は大きく四つに分かれる。
最大はカーボンブラックで、売上の約45%を占める。タイヤやゴム製品に混ぜて強度と耐久性を出す黒い粉だ。日本、米国、タイなどに工場を持つ。製品の値段は原料の油に連動して決まる契約が多い。
次に大きいのは、アルミ精錬の炉に使う部材などを扱うスメルティング・アンド・ライニング事業で、売上の約2割だ。2019年に買ったドイツのコベックスが中核である。炉の内張りに使う炭素ブロックが主力で、顧客は製鉄所とアルミ工場だ。
ファインカーボンは売上の約17%と小さいが、利益の質は高い。半導体のエッチング装置で使うSiC製フォーカスリング、つまりウェハーを囲む消耗部品が看板だ。メモリ向けで強く、2022年の実績では半導体装置向けがこの事業の約75%を占めた。工業炉やヒーターも同じ事業に近い。
黒鉛電極は売上の約12%。電炉で鉄スクラップを溶かす時に使う消耗品で、中国勢との値下がり競争に長く苦しんだ。2025年7月までに日本と欧州の生産能力を5.6万トンから3.2万トンへ減らし、滋賀工場を閉じた。
2030年の目標は売上5,000億円、EBITDA率20%だ。
優良さと弱いところ
質の高い部分と低い部分が同居する会社だ。
カーボンブラックは世界でも寡占に近い市場で、上位5社で世界の半分近くを握る。顧客のタイヤメーカーは品質を理由に簡単に仕入れ先を変えない。ただ、値段は原料連動で、価格を決める力は弱い。稼ぐ力は安定しているが、突出はしない。
ファインカーボンは堀、つまり他社のまねしにくい強みが明確だ。メモリ向けSiC部品で世界の先頭を走り、装置メーカーと組んで規格に入り込んでいる。成長もここにある。
一方で、黒鉛電極とアルミ向け部材は堀が薄い。黒鉛電極は世界で数多くのメーカーが同じものを作り、中国勢が安く売る。経産省も中国産の不当廉売を調べたほどだ。ここは堀というより、能力を絞って生き残る事業である。
資本の効率は低い。自己資本利益率は直近で6%台、ピーク前の2018年の39%は黒鉛電極の価格急騰が生んだ一時の数字だった。経営は構造改革を進めているが、期待は目標の実現にかかっている。
財務はそこまで強くない。純借金は1,300億円台で、自己資本の4割ほどだ。利払いは今後の金利上昇でさらに増える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界は事業ごとに景気の当たりが違う。順に見る。
カーボンブラックは、タイヤの世界需要が当て先だ。世界の需要は年1〜2%の緩やかな伸びと置く。人口に左右される国内は横ばいに近い。主要な競合はインドのビルラ・カーボン、米国のキャボット、欧州系のオリオンなどで、上位5社でおよそ半分のシェアを持つ。東海カーボンは2021年に中国の子会社をキャボット側へ売った。米国では環境規制に応じた設備投資を続け、タイでは年18万トンの新工場が動き出した。償却の重さが当面の利益を押し下げる。
黒鉛電極は、電炉の鋼の量で需要が決まる。電炉への切り替えは世界の流れだが、中国の安い電極が価格を押さえる。2024〜25年に値が戻り始めたが、強い寡占の市場ではない。
アルミ精錬向けは今、追い風が吹く。2026年2月末に中東で起きた紛争で、湾岸のアルミ生産が減り、他地域で炉の巻き替えが増えているという。会社はこれを数量の増加として織り込んだ。ただ、ホルムズ海峡が落ち着けば元に戻る一過性の面もある。
半導体向けは、AI向けの投資でメモリと先端ロジックの装置投資が高水準だ。世界のセラミック製フォーカスリング市場は、2025年に約3.9億ドルとされ、年2桁の成長が見込まれる。ただ、2〜3年おきの谷は避けられない。
資本政策と M&A
資本政策は「構造改革で傷を治し、成長分野へ回す」が基本だ。
2024年に特別損失768億円を計上し、黒鉛電極とアルミ向け部材で大きく減損した。2025年は黒字に戻り、配当は年間でほぼ純利益の3割にあたる水準に据え置いた。自己株買いの動きは確認できていない。
長期ビジョンは2030年に売上5,000億円、調整後の投下資本利益率12%を掲げる。しかし、この数字は2025年に5%まで下がっており、目標との距離は大きい。目指す資本構成は、純負債を自己資本の0.35倍程度に抑えることだ。
M&Aでは、2019年のコベックス買収が足かせになった。その後にS&L事業が2024年に大きな損失を出し、買収の果実はまだ見えない。今後は、成長分野に絞った小さな投資にとどまるとみる。
買われる側になる可能性は低くないが、確かな材料はない。大株主の最上位は信託銀行の名義で、実質の保有者は分からない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最悪期は終わった。黒鉛電極と、アルミ向け部材の構造改革で、2025年の営業利益は前の年から3割増え、純利益も赤字から黒字に戻った。会社の今期の営業利益予想は2度引き上げられ、350億円に乗る。
伸びしろは半導体にある。AI向けの投資でメモリの装置投資が続けば、SiC製フォーカスリングの使用量が増える。この部品は他の素材から切り替わる需要も取り込める。ファインカーボンの利益は2024年に124億円まで増えた実績があり、再びそこへ戻る。
カーボンブラックは底堅い。タイの新工場の償却が一巡すれば、利益率は元の2桁へ戻る。物価が上がる世界では、原料連動の値段は売上を自然に押し上げる。
アルミ向けは、炉の巻き替えが数年の波になる。中東の混乱が長引けば、他地域の増産が追い風になる。黒鉛電極も、日欧の能力を4割ほど減らした結果、稼働率が上がり価格が戻りやすい。
長期ビジョンの2030年目標、売上5,000億円と利益率20%が実現すれば、今の営業利益は2倍以上になる。割高に見えるのは、足元の利益が回復の途中にあるからだ。
慎重な見方
今の値段は、回復を先取りしすぎている。今期の予想利益は、半導体とアルミ向けの追い風が重なった結果だ。どちらも波がある。中東が落ち着けば、アルミの巻き替え需要は元へ戻る。
ファインカーボンは売上の2割に満たない。ここが失速すれば、全社の利益はすぐ細る。半導体の装置投資は2〜3年おきに谷が来て、競合のセラミック勢もフォーカスリング市場に入ってきている。
本体のカーボンブラックは、世界の大手が同じ値段で競う。タイの新工場と米国の環境投資で、償却と投資の負担が重い。利益率が元の2桁に戻るかはまだ分からない。
黒鉛電極は、能力を減らしても中国勢の安値を止められるとは限らない。コベックスを軸にしたアルミ向けは、2024年に137億円の営業赤字を出した事業で、本当に黒字が定着したと言うには早い。
資本効率も弱い。自己資本利益率は6%台で、資本コストに届かない。長期ビジョンの12%という目標は、足元の5%からの距離が大きい。倍率が10倍前後に戻るだけで、今の値段は大きく下がる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。会社の回復は本物だが、今の利益はアルミと半導体の追い風を含み、10年かけて積み上がる姿ではない。
資本効率が資本コストを下回る事業が多いため、利益が増えても倍率は上がりにくい。確率は中立を最大にしつつ、やや悲観と悲観に合わせて4割弱を置いた。強気の見方がそのまま実現しても、10年後の時価総額は今の1.5倍ほどにとどまり、資本コストを稼ぐには足りない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,647 円3,333 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 511 円1,034 億円)。 今の値に割り戻すと 1,089 円2,204 億円、今との差 −42.3%、 期待の年率 +1.4%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,608 円7,299 億円 | 835 円1,690 億円 | +135.5% | +8.9% | 311 円629 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,587 円5,235 億円 | 650 円1,316 億円 | +71.6% | +5.5% | 648 円1,310 億円 |
| 中立 | 35% | 1,895 円3,833 億円 | 510 円1,031 億円 | +27.4% | +2.5% | 841 円1,703 億円 |
| やや悲観 | 23% | 789 円1,596 億円 | 417 円844 億円 | −36.1% | −4.4% | 277 円561 億円 |
| 悲観 | 15% | 220 円446 億円 | 321 円650 億円 | −71.3% | −11.7% | 81 円164 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,647 円3,333 億円 | 511 円1,034 億円 | +14.4% | +1.4% | 2,158 円4,367 億円 |
今の株価時価総額 1,887 円3,817 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 半導体の拡大と値戻しが重なる 利益 528 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 3,608 円7,299 億円
10年を通して半導体の装置投資が高水準で、ファインカーボンの売上は今の3.3倍になる。SiC部品の取り分が広がり、パワー半導体向けの黒鉛部材も加わる。利益率は22%に乗る。
S&Lはアルミ精錬の増設と巻き替えで数量が1割以上増え、黒鉛電極は世界の電炉化で稼働率が上がって黒字が定着する。カーボンブラックは新工場の効果で利益率が14%まで戻る。
営業利益は900億円を超え、会社の2030年目標を大きく上回る。資本の効率も資本コストを超える。ただ、成長が鈍る10年後に、市場が高い倍率を払い続ける理由は乏しい。
還元は純利益の4割台半ばで、配当と自己株買いを両立する。自己資本利益率は11%台と資本コストを上回る。それでも長期の成長は物価プラス少しで、倍率は10倍台前半までしか付かない。
- カーボンブラック:数量 74.4(販売量(万トン))× 価格 33(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,475 億円・営業利益 347 億円。数量 1.22 倍、価格 1.38 倍、営業利益率 14.0%
- 黒鉛電極:数量 5.5(出荷量(万トン))× 価格 101(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 554 億円・営業利益 72 億円。数量 1.10 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 13.0%
- アルミ精錬向け炭素部材(S&L):数量 15.8(出荷量(万トン換算))× 価格 62(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 980 億円・営業利益 88 億円。数量 1.15 倍、価格 1.38 倍、営業利益率 9.0%
- ファインカーボン・工業炉:数量 6.7(当社が受ける半導体・電子部品向け部材の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 207(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 1,383 億円・営業利益 304 億円。数量 2.40 倍、価格 1.38 倍、営業利益率 22.0%(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の純利益 525 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)133 億円。全体の PER 13.65 倍、時価総額 7,299 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の拡大、アルミの増設、電炉化がそろい、ファインカーボンの質がカーボンブラックにも及ぶ姿。要件が多く、1割未満とした。
やや楽観 20% 成長事業が足りない分を埋める 利益 412 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,587 円5,235 億円
半導体は波を挟みつつ装置市場が広がり、ファインカーボンの売上は今の2.7倍になる。利益率は19%台で安定する。
S&Lは数量が緩やかに増え、利益率は7%台へ上がる。黒鉛電極は黒字が続くが、価格は物価に届かない。カーボンブラックは数量が17%増え、利益率は13%。
営業利益は700億円ほど。会社の目標に近い水準だが、そこから先は伸びない。優良な成長部門が全社を引っ張る形に近づく。
還元は純利益の4割ほど。会社の長期目標は部分的に達成され、全社の優良さはファインカーボンの存在感で保たれる。それでも自己資本利益率は9%で、資本コストをわずかに下回り、割増しは付かない。
- カーボンブラック:数量 71.4(販売量(万トン))× 価格 33(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,339 億円・営業利益 304 億円。数量 1.17 倍、価格 1.36 倍、営業利益率 13.0%
- 黒鉛電極:数量 5.3(出荷量(万トン))× 価格 96(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 501 億円・営業利益 55 億円。数量 1.05 倍、価格 1.27 倍、営業利益率 11.0%
- アルミ精錬向け炭素部材(S&L):数量 14.8(出荷量(万トン換算))× 価格 61(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 908 億円・営業利益 68 億円。数量 1.08 倍、価格 1.36 倍、営業利益率 7.5%
- ファインカーボン・工業炉:数量 5.6(当社が受ける半導体・電子部品向け部材の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 204(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 1,136 億円・営業利益 216 億円。数量 2.00 倍、価格 1.36 倍、営業利益率 19.0%(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の純利益 410 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)133 億円。全体の PER 12.45 倍、時価総額 5,235 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ファインカーボンの成長が全社の稼ぐ力を押し上げ、構造改革も実を結ぶ姿。2割とした。
中立 35% 成長部門と重い事業が相殺する 利益 308 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,895 円3,833 億円
半導体は10年で装置市場が1.7倍に広がり、ファインカーボンは売上が今の2.2倍になる。利益率は16%。
カーボンブラックは数量が12%増え、価格は物価並み。利益率は11%台で、タイの新工場の償却が一巡しても、環境投資が重く残る。黒鉛電極は価格が物価に届かず、利益率は9%どまり。S&Lの利益率は6%に戻る。
営業利益は530億円ほどで、2025年の約2倍。ただ中身は物価の上昇が大半だ。自己資本は厚く積み上がり、資本の効率は資本コストを下回ったままになる。
ファインカーボンは利益の4割近くを占めるが、全社の足を引っ張る事業の比率は高いままだ。還元は純利益の4割で、ROE は7%台。倍率は成熟した素材会社の下限に近い10倍台前半にとどまる。
- カーボンブラック:数量 68.3(販売量(万トン))× 価格 32(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,206 億円・営業利益 254 億円。数量 1.12 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 11.5%
- 黒鉛電極:数量 5.0(出荷量(万トン))× 価格 90(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 451 億円・営業利益 41 億円。数量 1.00 倍、価格 1.20 倍、営業利益率 9.0%
- アルミ精錬向け炭素部材(S&L):数量 13.7(出荷量(万トン換算))× 価格 60(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 828 億円・営業利益 50 億円。数量 1.00 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 6.0%
- ファインカーボン・工業炉:数量 4.6(当社が受ける半導体・電子部品向け部材の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 201(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 923 億円・営業利益 148 億円。数量 1.65 倍、価格 1.34 倍、営業利益率 16.0%(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の純利益 305 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)133 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 3,833 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:成長部門と重い事業が相殺し、会社の目標には届かない姿。最大の確率として3割台半ばとした。
やや悲観 23% 重い事業が成長を食う 利益 175 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 789 円1,596 億円
半導体は伸びるが、競合の参入で取り分は広がらない。ファインカーボンの売上は今の1.6倍で、利益率は11%に下がる。
カーボンブラックは値上げが原料や人件費に追いつかず、利益率は9%台。黒鉛電極は中国勢の安値に押され、薄利が続く。S&Lは炉の巻き替えの波が終わり、利益が細る。
営業利益は300億円ほどで、今期の予想を下回る。自己資本利益率は4%台に沈み、買収や減損が再び出る恐れもある。
還元は純利益の4割台半ばで、利益が伸びない分だけ自己資本が積み上がる。資本の効率はさらに落ち、会社の目標との差が開く。株価は自己資本の6割ほどで測られ、今の値段を大きく下回る。
- カーボンブラック:数量 62.8(販売量(万トン))× 価格 31(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 1,938 億円・営業利益 184 億円。数量 1.03 倍、価格 1.28 倍、営業利益率 9.5%
- 黒鉛電極:数量 4.5(出荷量(万トン))× 価格 83(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 372 億円・営業利益 19 億円。数量 0.90 倍、価格 1.10 倍、営業利益率 5.0%
- アルミ精錬向け炭素部材(S&L):数量 12.7(出荷量(万トン換算))× 価格 56(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 718 億円・営業利益 22 億円。数量 0.93 倍、価格 1.25 倍、営業利益率 3.0%
- ファインカーボン・工業炉:数量 3.6(当社が受ける半導体・電子部品向け部材の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 188(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 679 億円・営業利益 75 億円。数量 1.30 倍、価格 1.25 倍、営業利益率 11.0%(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:事業の ROE 4.5% が k 8.25% 以下なので PER は 1÷k=11.4 倍まで。黒鉛電極の市況が長く冷え、ROE が 4% に落ちる年。上限の 7 割に置く。(上限の約 70% の 8.0 倍)
確率:新規事業が競合に削られ、重い事業の改善も進まない姿。過去の減損を考え、2割強とした。
悲観 15% 構造的に負ける 利益 25 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 220 円446 億円
構造的に負ける。半導体向けの取り分が競合に移り、メモリ向けSiC部品の価格が崩れる。黒鉛電極は中国勢の安値で赤字が続き、再び減損が出る。
カーボンブラックは米国の環境規制と設備更新が重く、数量は15%減る。S&Lもアルミ精錬の立地が中東や中国に移り、需要が痩せる。
営業利益は70億円ほどまで細り、もう優良とは呼べない。株価は自己資本の半分前後で評価される。純借金の重さが、最後の足かせになる。
配当は遊休資産の売却も含めて維持し、還元は利益を大きく上回る。純借金を減らす余力はなく、財務の重さが評価を押し下げる。それでも、自己資本の厚みと、一部事業に残る技術力が、これ以上の下げを抑える。
- カーボンブラック:数量 51.9(販売量(万トン))× 価格 28(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 1,437 億円・営業利益 72 億円。数量 0.85 倍、価格 1.15 倍、営業利益率 5.0%
- 黒鉛電極:数量 3.5(出荷量(万トン))× 価格 71(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 250 億円・営業利益 0 億円。数量 0.70 倍、価格 0.95 倍、営業利益率 0.0%
- アルミ精錬向け炭素部材(S&L):数量 11.0(出荷量(万トン換算))× 価格 50(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 544 億円・営業利益 −11 億円。数量 0.80 倍、価格 1.10 倍、営業利益率 -2.0%
- ファインカーボン・工業炉:数量 2.5(当社が受ける半導体・電子部品向け部材の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分)× 価格 165(円ドル150円×物価倍率)→ 売上 414 億円・営業利益 21 億円。数量 0.90 倍、価格 1.10 倍、営業利益率 5.0%(市場は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質で置いた)
倍率:構造的に負けて赤字すれすれの筋書きなので PBR。稼ぐ力(事業の純利益 28 億円 ÷ k 8.25%)は約 320 億円、純負債を返した後の売れる資産の税後は約 450 億円。大きい方の約 450 億円(今の自己資本 3,184 億円の 0.14 倍)を採る。
確率:過去の大きな減損、黒鉛電極とS&Lの構造的な苦戦を考え、1割台半ばと厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
カーボンブラック
タイヤ・ゴムの補強に使う黒い粉。日本・米国・タイなどで生産し、世界のタイヤメーカーへ売る。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 61.0 | 24 | 1,471 | 131 |
| 10 年後 中立 | 68.3 | 32 | 2,206 | 254 |
取り方:開示は金額だけなので、平均単価を1トン24万円(約1,600ドル)と仮定し、販売量を約61万トンと推定した(推定)。世界の需要は1,400万トン前後とされ、シェアは4〜5%になる。数量はタイヤ需要とタイの新工場で緩やかに増え、価格は原料の油に連動して物価並みに動く。
黒鉛電極
電炉で鉄スクラップを溶かす時に使う消耗品。日本・欧州で生産し、大口径の高品位品が中心。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 5.0 | 75 | 376 | 24 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 90 | 451 | 41 |
取り方:開示は金額だけなので、平均単価を1トン約75万円(大口径の高品位品、約5,000ドル)と仮定し、出荷量を約5万トンと推定した(推定)。能力は日欧で3.2万トンまで絞ったため、残りは他の黒鉛製品や商社分を含むとみる。価格は中国勢の安値に押さえられ、物価並みには上がらないと置く。
アルミ精錬向け炭素部材(S&L)
アルミ精錬の炉に使うカソードブロックや、高炉の内張りブロック。2019年にドイツのコベックスを買って広げた。
| 数量出荷量(万トン換算) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 13.7 | 45 | 618 | 15 |
| 10 年後 中立 | 13.7 | 60 | 828 | 50 |
取り方:開示は金額だけなので、平均単価を1トン約45万円(約3,000ドル)と仮定し、出荷量を約13.7万トンと推定した(推定)。数量は世界のアルミ精錬の炉の巻き替え時期に連動する。長期契約が多く、価格は物価並みに通せる。
ファインカーボン・工業炉
半導体装置向けSiC部品(フォーカスリング)、黒鉛部材、工業炉とヒーター。メモリ、SiCパワー半導体、積層コンデンサ向けが中心。
| 数量当社が受ける半導体・電子部品向け部材の売上(億ドル、実質)=市場×当社の取り分 | 価格円ドル150円×物価倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.7 | 150 | 560 | 77 |
| 10 年後 中立 | 4.6 | 201 | 923 | 148 |
取り方:半導体の装置向けが事業の約75%(2022年実績)を占め、世界のウェハー製造装置市場の1,170億ドル前後に対し当社の取り分が約0.3%、周辺を含めて売上3.7億ドル相当と推定した(推定)。価格欄は円ドル150円に物価倍率を掛けた指数。取り分は技術力と市場の広がりで動く。 先の数量は WFE の名目の見通しを物価 1.34 倍で割った実質の市場で置く(物価分は価格側)。
リスクと懸念
半導体の装置投資の波
ファインカーボンは利益の質が高いが、売上の2割に満たない。半導体の装置投資は2〜3年おきに谷が来る。谷ではこの事業の利益が半分近くに縮み、全社の利益も道連れになる。今期の予想はこの事業の追い風を大きく含む。回復の最中にある今は強気に見えるが、次の谷は必ず来る。
黒鉛電極と中国勢
黒鉛電極は世界で多くのメーカーが同じものを作る。中国の安い電極は国内需要も侵食し、経産省が不当廉売を調べた。日欧の能力を5.6万トンから3.2万トンへ絞ったが、価格が戻る保証はない。値が崩れれば、事業はまた赤字に戻りうる。
アルミ向けの追い風は一過性かもしれない
2026年の中東紛争で、湾岸のアルミ生産が減り、他地域の炉の巻き替えが増えた。会社は数量増を織り込むが、情勢が落ち着けば元へ戻る。S&Lは2024年に大きな赤字を出した事業で、黒字が定着したと言えるほどの実績はまだない。
タイ新工場と米国の環境投資
カーボンブラックはタイの新工場で年18万トンの能力を持ち、償却が利益率を押し下げる。米国の工場は環境規制への対応で設備投資が続く。数量が想定どおり埋まらなければ、償却の重さだけが残る。主力事業なので、影響は全社の利益に及ぶ。
資本効率が低いまま
自己資本利益率は6%台で、資本コストを下回る。利益が増えても、厚い自己資本が増えるので割合は上がりにくい。会社は2030年に調整後の投下資本利益率12%を掲げるが、足元は5%だ。計画を達成しない状態が続けば、倍率は低いままだ。
金利と純借金
純借金は1,300億円台で、自己資本の4割ほどある。借金は借り換えのたびに新しい金利になるため、これから利払いが増える。本業が崩れる局面では、減損と借金の重さが同時に効く。2024年の純損益の赤字は、その例だ。
買収の後始末
2019年のコベックス買収は、今のところ価値を生んでいない。S&L事業は2024年に大きな赤字を出し、買収に伴う資産の減損も起きた。同様の買収が再び失敗すれば、自己資本が削られる。経営は小さな投資に絞る姿勢を見せるが、実行力は確かめるしかない。
今後の分かれ目
- 半導体の装置投資が急に減速し、ファインカーボンの売上が前年から2割以上落ちる
- やや悲観・悲観の確率を上げる。全社の利益が3割ほど細ると見て、10年の見通しも下げる。
- 黒鉛電極の価格が2年以上続けて上がり、会社が黒字の定着を示す
- 黒鉛電極の利益率の想定を引き上げ、やや楽観以上の確率を上げる。ただし倍率は低いままにとどめる。
- 中東の情勢が落ち着き、アルミの炉の巻き替え需要が剥がれる
- S&Lの数量を下げ、今期の利益が一過性だった分を中立の見通しから外す。
- タイの新工場の稼働率が上がり、カーボンブラックの利益率が12%を超える
- カーボンブラックの利益率の想定を引き上げ、やや楽観の確率を上げる。
- 自己株買いや配当の大幅な引き上げが示される
- 10年の還元の想定を引き上げる。ただし利益が変わらなければ倍率の想定は変えない。
- 大型の買収や新規事業への投資が決まる
- 採算の見通しを確認する。資本効率の高い補強なら評価し、本業と遠い投資なら資本配分の評価を下げる。
見ておくもの
- ファインカーボンの四半期の売上と利益率(半導体の装置投資の見通しとの比較)
- 黒鉛電極とS&Lの営業損益(赤字の事業が黒字に定着するか)
- カーボンブラックの利益率とタイ新工場の稼働率
- 調整後の投下資本利益率(目標12%に対する足元の5%)と純借金の水準
- アルミ生産の動向と中東情勢、世界の粗鋼生産・電炉比率
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE と k 8.25%(基本の7.5%に循環・値決め・借金の調整+1.25%)、長期の成長率 g 4% から出る正当化 PER を土台に置いた。ROE が k を下回る筋書きは下限の 1÷k(約11.4倍)で、今の PER 約20倍や株価の水準を見て決めていない。筋書きは先に数量×価格で積み、倍率は後から ROE と k で決めた。結果は、中立でも今の時価総額を下回る。純有利子負債は1,300億円台で時価総額の3割を超えるが、現金は純債務側なので excess_cash は立てない。EV÷営業利益は今の値で約21倍(今期予想の営業利益なら約16倍)で、筋書きの利益では20倍を下回る。「その他」事業(売上107億円、営業利益23億円)は本社費とともに adjust に入れ、セグメントの売上には含めていない。リースは工場中心で店舗型ではなく、新リース会計基準(2028/03期から)の影響は営業利益が少し増え負債が増える程度なので、数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。決算期は12月で、10年後は2035/12期に置いた。配当は純利益の3割ほどで据え置きが続いているため、還元は純利益の4割前後(悲観は配当の維持分)に置いた。
黒鉛電極の価格は中国勢との競争で物価並みには上げず、10年1.20倍に置いた。 持ち合い株の含み益(評価差額金の税後)は余った現金に 0.5 で足した。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。