結論
日本電気硝子は、液晶ディスプレイ用の薄いガラス板で世界の上位に入る会社だ。ガラス繊維や医薬品用ガラス管も手がける。筆者の結論は「やや割高」。事業は堅いが、その事業が株主に残す利益が、時価総額に見合う水準に届いていない。
稼ぎの柱は液晶ガラスだ。2025年12月期は、値上げが通って営業利益が341億円まで戻った。前の期は61億円、その前は赤字だった。この数年の利益は、需給と値上げ次第で大きく振れてきた。
2026年12月期は、会社が予想を営業利益200億円、純利益150億円に引き下げた。炉を全電気式に替える費用と、北米のガラス繊維からの撤退が重なる。体質の入れ替えは進むが、利益はまた谷に戻る。
新しい芽はある。半導体パッケージ向けのガラスコア基板だ。ただ量産はこれからで、利益を動かす規模になるまで時間がかかる。
中立の筋書きでも、10年後の時価総額は今の水準をわずかに上回るだけだ。確率を加重した本質価値は、今を2割ほど下回る。過去10年の自己資本利益率の中央値は3%台で、資本コストを下回り続けてきた。値段に安全域は薄い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社の最大の論点は「稼ぎが資本に見合うか」だ。自己資本は約4,900億円で、時価総額は約3,650億円。帳簿より安いが、それは割安の理由にならない。稼ぎが帳簿に届かない会社は、帳簿の価値を保てないからだ。
過去10年、純利益が自己資本の5%を超えた年は、数えるほどしかない。景気の山で稼ぎ、谷で吐き出す。この繰り返しだった。山の利益だけを見て値段を付けると、必ず裏切られる。
筆者がいちばん気にしているのは、液晶ガラスの値段が10年後も保てるかだ。保てれば、事業は資本コストに近い稼ぎを出す。保てなければ、設備が重荷になる。
良い点もある。借金が少なく、純現金がある。自社株買いは割安な水準で進められた。経営が資本の使い方を改め始めたのは確かだ。
半導体向けの新分野は、伸びれば利益の質を変える。ただ、いまは期待で、証拠ではない。オーナーとして持ち続けたい会社かと問われれば、「値段次第」と答える。今の値段は、その答えを出せる水準にない。
何で稼ぐ会社か
日本電気硝子は、ガラスを溶かして薄い板や繊維や管に作り変える会社だ。報告上は「ガラス事業」の1本だが、実態は2つの柱に分かれる。
1つ目は電子・情報で、2025年12月期の売上は約1,740億円。液晶テレビやモニターに入るガラス基板が主力だ。半導体やデータセンター向けの特殊ガラスも、この中に入る。後者は小さいが、成長する側にある。
2つ目は機能材料で、売上は約1,380億円。樹脂を強くするガラス繊維が中心だ。医薬品容器用のガラス管、耐熱ガラス、建築用ガラスも含む。繊維は競争が厳しく、北米と英国の拠点を畳んできた。医療・耐熱・建築は安定している。
会社の中期計画は、2028年に売上4,000億円、営業利益500億円、自己資本利益率8%を掲げる。戦略投資枠は5年で500億円。目標どおりなら、いまより2割ほど大きい会社になる。
営業利益の内訳は開示されない。筆者は、液晶ガラスと電子デバイスが利益の大半を生み、ガラス繊維はほぼゼロとみている。
営業の現場でいえば、液晶ガラスは「少数の大口の買い手と、年単位の価格交渉」で動く商売だ。半導体向けのデバイスは「用途ごとに仕様を詰めて売る」商売で、利益率は高いが量は小さい。同じ会社の中に、性格の違う事業が同居している。
優良さと弱いところ
堀は「ガラスを安く均一に作る力」にある。液晶ガラスは、溶かす温度と引き伸ばしの精度で歩留まりが決まる。大型の炉を長く回せる会社でないと、パネル会社が求める品質と量を出せない。世界でこれができる会社は数えるほどだ。
ただし堀は広くない。買い手のパネル会社は数が少なく、値引きの圧力は強い。2023年に韓国子会社を畳んだのは、需要の落ち込みで値が崩れたからだ。その時の再編費用で最終赤字に沈んだ。
中国勢は大きな生産能力を持つが、品質で劣り、値上げを受注につなげられていないとの報道がある。いまは同業の米コーニングが値上げを続け、同社もそれに乗れた。この構図は、中国勢の品質が上がれば崩れうる。
資本の効率は低い。過去10年の自己資本利益率の中央値は3%台だ。設備に巨額の資金が眠り、稼ぎが追いつかなかった。自己資本比率は約70%と厚く、純現金もある。守りは堅い。ただ守りが堅いことと、株主に儲けを残すことは別の話だ。
経営は自社株買いと配当を増やし、政策保有株も縮めている。資本に目を向け始めたのは確かだ。ただ利益の質が上がらない限り、還元は小さな補いにとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
液晶ガラスは成熟した市場だ。テレビの台数は伸びないが、画面は大きくなる。ガラスの面積は、年0〜1%ほどの緩やかな伸びと筆者は見る。大きな伸びは望めない。
値段は需給で動く。2022年末に需要が急に落ち、日本電気硝子は韓国子会社を畳み、AGC も高砂工場でのディスプレイガラス生産を終えた。その後の供給の絞りと、コーニングの値上げが、足元の利益回復の背景にある。
中国勢はガラス基板の自国生産を広げている。品質はまだ海外大手に及ばないが、差は縮む方向だ。値崩れを防げるかが、この事業の10年を決める。
新しい需要は半導体にある。AI サーバーや高性能の半導体では、チップを並べる基板の素材が足りなくなる。ガラスコア基板は、その有力な候補だ。大日本印刷も同じ分野に入り、2028年度の量産を目指す。日本電気硝子は2026年の量産を目指すが、顧客の採用はこれからだ。
ガラス繊維は、中国勢との値下げ競争が続く。北米と英国の撤退で、日本電気硝子は規模を縮める側に回った。残る日本や東南アジアの拠点で、高付加価値品に絞れるかが課題だ。
医療・耐熱・建築は、人口減の影響を受ける国内の建築を除けば、安定した需要が続く。
資本政策と M&A
還元は積極的だ。2023年11月から2025年末までに約600億円の自社株を買った。2028年末までに総額1,000億円という計画で、残りは約400億円になる。配当は年150円で、株主資本配当率3%を目標にしている。
買収は慎重だ。ただ中期計画で5年500億円の戦略投資枠を設け、デバイス、エネルギー、医療などで外部の力も借りる方針だ。大型の買収が失敗すれば、悪い方向に働く。
撤退と整理は続く。2019年に米国の工場を閉じ、2023年に蘭と韓国、2025年に英国、2026年に北米のガラス繊維から退く。一つずつ赤字を止める動きで、悪くない。
政策保有株は小さい。上場株は17銘柄で、貸借対照表の額は約60億円にすぎない。縮減は進むが、価値を動かす規模ではない。
買収される側の可能性は残る。自己資本の厚さと低い評価は買い手の目に留まりやすい。ただ液晶ガラスは設備集約型で、買い手が限られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
液晶ガラスは、もう値崩れしない。同業は韓国と日本で設備を畳み、供給は絞られた。コーニングは値上げを続け、日本電気硝子もそれに乗った。2025年12月期の営業利益は、前の期の5倍以上に戻った。全電気式の炉への切り替えが終われば、エネルギー費用が下がり、利益率は一段上がる。
成長の芽もある。半導体向けの電子デバイスは、データセンター向けで売上が伸びている。ガラスコア基板は、反りにくく、細かな配線に向く。AI 向けの大型パッケージで採用されれば、電子デバイスの利益は数倍になりうる。
体質も変わった。ガラス繊維の赤字拠点は北米と英国から撤退し、重荷が消える。自社株買いは2028年末までに総額1,000億円、配当は株主資本配当率3%を目指す。自己資本比率は約70%で、純現金もある。
2028年の計画は営業利益500億円だ。これが達成できれば、今の時価総額は割安に見える。
10年先を考えても、液晶ガラスは世界の画面を支える基本素材のままだ。大型化が進むほど、ガラスの面積は増える。作れる会社が絞られるほど、残った会社の値決めは強くなる。
慎重な見方
いまの利益は、需給が締まった年の利益だ。会社自身が、2026年12月期は営業利益200億円に引き下げた。2025年の341億円は、山だった可能性が高い。過去10年の自己資本利益率の中央値は3%台で、資本コストに一度も届いていない。
液晶ガラスは、買い手が少なく、値引きの圧力が強い。2023年には需要の落ち込みで赤字に沈み、韓国子会社を畳んだ。中国勢が品質を上げれば、この値上げは長続きしない。炉の全電気化には巨額の費用がかかり、その分の投資は利益を食う。
ガラスコア基板は、まだ量産の入口だ。大日本印刷も2028年度の量産を狙い、競争は始まっている。有機材料の基板が改良を続ければ、置き換えは遅れる。電子デバイスは小さく、全社の利益を押し上げるには時間がかかる。
ガラス繊維は、撤退を重ねても利益が出ない。買収される可能性はあるが、液晶ガラスの設備を欲しがる買い手は少ない。中期計画の営業利益500億円は、いまの需給の延長で置いた数字にすぎない。
どちらに重みを置いたか
足元の事業の質は強気の見方が正しい。値上げが通り、体質も整いつつある。だが値段の議論では、慎重な見方が強い。資本コストに届かない稼ぎが、10年のうちに変わる証拠が乏しいからだ。
確率は、やや悲観と悲観を合わせて4割弱に置いた。液晶ガラスの値崩れと、電子デバイスの伸び悩みは、同じ時期に起きやすい。楽観は、ガラスコア基板が本格採用される筋書きに絞り、1割弱とした。
これは会社への否定ではない。今の値段が、成功する筋書きを多く織り込んでいる、という指摘である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 6,188 円4,513 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,529 円1,845 億円)。 今の値に割り戻すと 4,419 円3,223 億円、今との差 −11.5%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 15,584 円1.14 兆円 | 3,839 円2,800 億円 | +289.0% | +14.6% | 1,554 円1,133 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,236 円6,737 億円 | 3,153 円2,300 億円 | +148.1% | +9.5% | 2,478 円1,807 億円 |
| 中立 | 33% | 6,551 円4,778 億円 | 2,742 円2,000 億円 | +86.1% | +6.4% | 3,067 円2,237 億円 |
| やや悲観 | 25% | 3,010 円2,195 億円 | 2,056 円1,500 億円 | +1.5% | +0.1% | 1,267 円924 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,283 円936 億円 | 1,234 円900 億円 | −49.6% | −6.6% | 352 円257 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,188 円4,513 億円 | 2,529 円1,845 億円 | +74.6% | +5.7% | 8,717 円6,358 億円 |
今の株価時価総額 4,993 円3,642 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% ガラスコア基板が主力になり、液晶も値が保たれる 利益 846 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 15,584 円1.14 兆円
ガラスコア基板が AI 向けの大型パッケージで採用され、電子デバイスの数量が3倍以上に育つ。単価も上がり、電子デバイスは売上2,400億円、営業利益率24%と、今の液晶ガラスより稼ぐ事業になる。
液晶ガラスは中国勢が品質で追いつけず、同業の供給も絞られたまま、値が保たれる。ディスプレイは営業利益率15%を維持する。ガラス繊維は小さな黒字になり、医療・耐熱・建築は安定する。
会社の営業利益は約1,000億円、中期計画の目標の2倍になる。純利益は850億円ほど、自己資本利益率は11%。自社株買いと配当で、10年の還元は2,800億円になる。
会社は設備と研究に使い続けるが、資本の稼ぎは初めて資本コストを超える。買収の舞台に立つ側にもなれる。
- ディスプレイ用ガラス基板:数量 54.0(世界の液晶ガラス基板出荷面積のうち同社分(百万㎡))× 価格 0.32(1 ㎡あたり売値(万円/㎡))→ 売上 1,737 億円・営業利益 261 億円。ディスプレイ:値が保たれ営業利益率15%
- 電子デバイス(半導体・データセンター向け特殊ガラス):数量 19.2(出荷量(千トン換算))× 価格 1,253(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 2,406 億円・営業利益 577 億円。電子デバイス:ガラスコア基板が本格採用、営業利益率24%
- 複合材(ガラス繊維):数量 16.3(出荷量(万トン))× 価格 40(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 656 億円・営業利益 39 億円。複合材:撤退後に小さな黒字
- 医療・耐熱・建築ほか:数量 13.5(出荷量(千トン換算))× 価格 700(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 948 億円・営業利益 133 億円。医療・耐熱・建築:安定
倍率:事業の純利益 844 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)173 億円。全体の PER 13.27 倍、時価総額 11,367 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ガラスコア基板の採用と液晶ガラスの値上げ定着が、同時にそろう必要がある。量産は競合も狙う段階で、顧客の採用は未確定。過去10年の稼ぐ力も低く、1割を下回る確率に置いた。
やや楽観 20% 電子デバイスが育ち、液晶は値上げを保つ 利益 554 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 9,236 円6,737 億円
電子デバイスの数量が2倍強に育ち、売上は約1,580億円、営業利益率は20%になる。ガラスコア基板は限られた顧客で採用され、主力にはならないが、安定した柱になる。
液晶ガラスは値上げの水準をほぼ保つが、中国勢の追い上げで伸びは物価を下回る。ディスプレイの営業利益率は13%に落ち着く。
会社の営業利益は約650億円、中期計画の目標を上回る。純利益は550億円ほど、自己資本利益率は8.5%と資本コストと並ぶ。還元は10年で2,300億円。
会社は設備を更新しながら、デバイス事業へ投資する。利益は伸びるが、質の面で「高収益の素材メーカー」とまではいかない。
- ディスプレイ用ガラス基板:数量 52.5(世界の液晶ガラス基板出荷面積のうち同社分(百万㎡))× 価格 0.31(1 ㎡あたり売値(万円/㎡))→ 売上 1,613 億円・営業利益 210 億円。ディスプレイ:値の伸びは物価未満、営業利益率13%
- 電子デバイス(半導体・データセンター向け特殊ガラス):数量 13.2(出荷量(千トン換算))× 価格 1,199(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 1,583 億円・営業利益 317 億円。電子デバイス:数量2.2倍、営業利益率20%
- 複合材(ガラス繊維):数量 15.2(出荷量(万トン))× 価格 38(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 582 億円・営業利益 23 億円。複合材:小さな黒字
- 医療・耐熱・建築ほか:数量 13.1(出荷量(千トン換算))× 価格 680(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 893 億円・営業利益 112 億円。医療・耐熱・建築:安定
倍率:事業の純利益 552 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)173 億円。全体の PER 11.9 倍、時価総額 6,737 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子デバイスの需要は半導体の長期の伸びで追い風。ただ液晶の値が保たれるかは不確かで、採用の時期もずれやすい。楽観の筋書きとの間に置いた。
中立 33% 電子デバイスは育つが、液晶の稼ぎは普通の素材屋に戻る 利益 394 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 6,551 円4,778 億円
電子デバイスは半導体向けの需要で数量が6割増え、売上は約1,150億円、営業利益率は16%になる。ガラスコア基板は小さな柱にとどまる。
液晶ガラスは数量がほぼ横ばい。値段は、中国勢の追い上げとパネル会社の値引き要求で、物価の伸びに届かない。ディスプレイの営業利益率は11%に戻る。
ガラス繊維は北米と英国の撤退で規模が縮み、営業利益は小さな黒字になる。医療・耐熱・建築は国内の建築が減る分を値上げで補い、横ばいが続く。
会社の営業利益は約460億円、中期計画の500億円には届かない。純利益は約390億円、自己資本利益率は6.6%で、資本コストを下回る。還元は10年で2,000億円。
良い会社にはなるが、稼ぎが資本コストを超える会社にはならない。
- ディスプレイ用ガラス基板:数量 52.0(世界の液晶ガラス基板出荷面積のうち同社分(百万㎡))× 価格 0.29(1 ㎡あたり売値(万円/㎡))→ 売上 1,498 億円・営業利益 165 億円。ディスプレイ:数量微増・値は物価未満、営業利益率11%
- 電子デバイス(半導体・データセンター向け特殊ガラス):数量 9.6(出荷量(千トン換算))× 価格 1,199(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 1,151 億円・営業利益 184 億円。電子デバイス:数量1.6倍、営業利益率16%
- 複合材(ガラス繊維):数量 15.2(出荷量(万トン))× 価格 38(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 568 億円・営業利益 17 億円。複合材:撤退後の小さな黒字
- 医療・耐熱・建築ほか:数量 12.9(出荷量(千トン換算))× 価格 670(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 862 億円・営業利益 103 億円。医療・耐熱・建築:横ばい
倍率:事業の純利益 392 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)173 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 4,778 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の事業の質は強気の見方が正しい。ただ過去10年の稼ぐ力は低く、液晶の値上げは需給が締まった年の効果が大きい。やや悲観に寄る中立に置いた。
やや悲観 25% 中国勢の追い上げで液晶の値が崩れる 利益 210 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 3,010 円2,195 億円
中国勢の液晶ガラスが品質で追いつき、値下げ競争が再開する。ディスプレイの値段は物価の上昇どころか、今よりも下がる。営業利益率は6%に落ちる。
電子デバイスは数量が3割増えるが、同業と競合して値段が伸びない。営業利益率は12%にとどまる。ガラス繊維は規模が半分になり、収支はゼロになる。
会社の営業利益は約240億円、純利益は約210億円、自己資本利益率は4%弱と資本コストの半分以下になる。炉の更新費用がかさみ、利益の多くを吸い取る。還元は1,500億円に縮み、自社株買いは計画を下回る。
自己資本は厚く、赤字には落ちないが、稼ぎは資本に見合わない。
- ディスプレイ用ガラス基板:数量 47.5(世界の液晶ガラス基板出荷面積のうち同社分(百万㎡))× 価格 0.25(1 ㎡あたり売値(万円/㎡))→ 売上 1,197 億円・営業利益 72 億円。ディスプレイ:値は今より下落、営業利益率6%
- 電子デバイス(半導体・データセンター向け特殊ガラス):数量 7.8(出荷量(千トン換算))× 価格 1,074(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 838 億円・営業利益 101 億円。電子デバイス:数量1.3倍、値の伸びは小さい
- 複合材(ガラス繊維):数量 11.7(出荷量(万トン))× 価格 35(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 402 億円・営業利益 0 億円。複合材:規模半減、収支ゼロ
- 医療・耐熱・建築ほか:数量 12.2(出荷量(千トン換算))× 価格 650(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 792 億円・営業利益 79 億円。医療・耐熱・建築:国内の建築が縮む
倍率:事業の自己資本利益率約3.7%は k 8.5%を大きく下回り、PER は 1÷k=11.8倍が上限。値崩れで稼ぎが資本コストの半分以下に落ちる構造的な弱さを見て、上限の約7割弱の8.0倍に置いた(引き上げはしない)。
確率:液晶ガラスの値崩れは、過去にも2012年、2020年、2023年の谷で繰り返された。買い手の値引き要求が続く構造が変わらないため、この筋書きは重い確率で置いた。
悲観 14% 液晶ガラスが構造的に負け、設備が重荷になる 利益 45 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,283 円936 億円
中国勢が液晶ガラスの品質で並び、値段は今よりも下がり続ける。ディスプレイは数量が2割減り、営業利益はほぼゼロになる。炉の更新が終わらないまま、設備が重荷として残る。
電子デバイスは、ガラスコア基板が有機材料に押し戻され、数量が伸びない。営業利益率は6%どまり。ガラス繊維は規模が3割まで縮み、赤字が続く。
会社の営業利益は約60億円まで落ちる。減損を入れた純利益は50億円足らず。稼ぐ力は資本コストの1割ほどしかない。還元は10年で900億円に縮み、前半に配当を払って後半に削る。
設備や土地を売って事業を縮め、純現金と売れる資産が価値の床になる。自己資本4,900億円のうち、市場が評価するのは2割ほどだ。
配当は純利益を上回るが、手元の現金と売却資産で払う。
- ディスプレイ用ガラス基板:数量 40.0(世界の液晶ガラス基板出荷面積のうち同社分(百万㎡))× 価格 0.20(1 ㎡あたり売値(万円/㎡))→ 売上 816 億円・営業利益 0 億円。ディスプレイ:数量2割減・値は下落、利益ゼロ
- 電子デバイス(半導体・データセンター向け特殊ガラス):数量 5.4(出荷量(千トン換算))× 価格 895(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 483 億円・営業利益 29 億円。電子デバイス:伸びず営業利益率6%
- 複合材(ガラス繊維):数量 7.0(出荷量(万トン))× 価格 30(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 210 億円・営業利益 −6 億円。複合材:規模3割・赤字
- 医療・耐熱・建築ほか:数量 11.5(出荷量(千トン換算))× 価格 600(1 トンあたり売値(万円/トン))→ 売上 691 億円・営業利益 48 億円。医療・耐熱・建築:縮小
倍率:液晶ガラスが構造的に負け、稼ぐ力は純利益約50億円(÷ k で約530億円)にとどまる。床は純現金と売れる資産の約900億円。今の自己資本4,924億円に0.19倍を掛けた(約936億円、床とほぼ同じ)。やや悲観(PER 8.2倍)より高い PER にならないよう、床の水準に合わせた。
確率:中国勢の追い上げと、パネル会社の値引き要求が同時に起きる筋書きは、過去の液晶ガラスの谷でも現実に起きた。ガラスコア基板の遅れと重なれば、深い負けになる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ディスプレイ用ガラス基板
液晶テレビ・モニター・ノート PC 向けの薄板ガラス。電子・情報セグメントの最大事業。
| 数量世界の液晶ガラス基板出荷面積のうち同社分(百万㎡) | 価格1 ㎡あたり売値(万円/㎡) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 50.0 | 0.24 | 1,200 | 175 |
| 10 年後 中立 | 52.0 | 0.29 | 1,498 | 165 |
取り方:開示は電子・情報 1,737 億円まで。ここから電子デバイスを引いて約 1,200 億円とみた。世界の液晶ガラス需要を年 2.4 億㎡前後、同社シェアを 2 割とみて 50 百万㎡、1 ㎡あたり 0.24 万円。営業利益は 2025 年の価格改定後で売上の約 15% と推定。
電子デバイス(半導体・データセンター向け特殊ガラス)
半導体パッケージ・センサー・通信向けの特殊ガラスと LTCC 材料、ガラスコア基板などの新分野。
| 数量出荷量(千トン換算) | 価格1 トンあたり売値(万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 6.0 | 895 | 537 | 100 |
| 10 年後 中立 | 9.6 | 1,199 | 1,151 | 184 |
取り方:電子・情報 1,737 億円のうちディスプレイ以外の約 537 億円と推定。出荷は 6 千トン、1 トン 900 万円ほど(薄板・微細品が中心で単価が高い)。営業利益は売上の約 19% と推定(開示なし)。 先の数量はトン(出荷量)で、実物の需要の増加(データセンター・半導体向け)を置いたもの。名目の市場の伸びではない。
複合材(ガラス繊維)
樹脂を強くするガラス繊維と、その加工品。北米・英国から撤退を進めている。
| 数量出荷量(万トン) | 価格1 トンあたり売値(万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 23.3 | 30 | 700 | −15 |
| 10 年後 中立 | 15.2 | 38 | 568 | 17 |
取り方:機能材料 1,377 億円のうち約 700 億円と推定。出荷は 23 万トン、1 トン 30 万円ほど。米国と英国の拠点は直近 3 年赤字で、全体でも営業損益はほぼゼロ〜小幅の赤字と推定。
医療・耐熱・建築ほか
医薬品容器用のガラス管、耐熱ガラス、建築用ガラスなど。会社が「前期並み」と説明する安定事業。
| 数量出荷量(千トン換算) | 価格1 トンあたり売値(万円/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 13.5 | 500 | 677 | 80 |
| 10 年後 中立 | 12.9 | 670 | 862 | 103 |
取り方:機能材料 1,377 億円から複合材を引いた約 677 億円。出荷は 13.5 千トン、1 トン 500 万円ほど(管ガラスと耐熱品の混合)。営業利益は売上の約 12% と推定。
リスクと懸念
液晶ガラスの値崩れ
いまの利益は値上げで戻った分が大きい。中国勢の品質が上がれば、買い手の値引き要求は強まる。需要が落ちた2022年末のような局面が再び来れば、営業利益は数十億円まで落ちる。
炉の全電気化の投資負担
炉を全電気式に替える投資は大きく、定期修繕の費用も重なる。会社は2026年12月期の予想を下げた。費用が回収できるのは、値段が保てる前提のうえだ。
ガラスコア基板の立ち上がり遅れ
半導体の基板はまだ有機材料が主流だ。顧客の採用が遅れれば、開発費だけが先行する。大日本印刷など競合も2028年度の量産を狙い、先行者の利益は薄い。
ガラス繊維の構造改革
複合材は赤字が続き、北米と英国から撤退した。特別損失は129億円に上る。残る拠点でも中国勢との値下げ競争が続き、撤退が続く可能性が残る。
顧客の集中
液晶ガラスの買い手は少数のパネル会社だ。主要な顧客は10%を下回るが、一部製品は特定の顧客に頼ると開示している。1社の生産計画で、数量が大きく動く。
資本の効率が上がらない
過去10年の自己資本利益率の中央値は3%台で、資本コストを下回る。還元を増やしても、稼ぎが増えなければ、自己資本の厚みは重荷として残る。
今後の分かれ目
- ガラスコア基板が主要な半導体メーカーに採用される
- 電子デバイスの数量が数倍になり、利益率も上がる。10年の見立ては楽観側に動き、全社の稼ぐ力が資本コストを超える可能性が出る。
- 中国勢が高品質な液晶ガラスの量産に成功し、値下げを始める
- ディスプレイ事業の利益率は1桁へ戻る。炉の更新費用が重くなり、全社は再び赤字圏に近づく。
- 全電気式の炉への切り替えが終わり、エネルギー費用が大きく下がる
- ディスプレイの利益率が1〜2ポイント上がる。ただ値段が保たれる前提が崩れれば、効果は相殺される。
- 大手が液晶ガラスの設備や事業の買い取りに動く
- 自己資本が厚く評価が低いため、買収提案の可能性がある。実現すれば上振れ要因だが、液晶ガラスは買い手が限られる。
- 自社株買いが計画の1,000億円を超えて拡大される
- 1株の価値は増えるが、時価総額は変わらない。配当と合わせた還元は増え、総合の価値をわずかに押し上げる。
- ガラス繊維からの撤退がさらに広がる
- 赤字が止まり、利益は小さく増える。ただ売上が減るので、全社の規模は縮む。
見ておくもの
- ディスプレイ用ガラスの販売価格と稼働率(四半期の決算説明)
- ガラスコア基板の量産開始と顧客採用の発表
- 中国の液晶ガラス基板メーカーの品質と生産能力
- 全電気式の炉への切り替えの進み具合と費用
- 自社株買いの進捗と配当(株主資本配当率3%の達成)
- 複合材(ガラス繊維)の営業損益
倍率と資本コストの決め方
倍率は、資本コスト8.5%と、10年後に想定する自己資本利益率(中立で約7%)から、正当化 PER の式で決めた。今の株価や過去の PER・PBR は使っていない。中立の純利益は、ディスプレイの値上げ定着と電子デバイスの成長で置き、会社の2028年の計画(営業利益500億円)には届かない水準にした。悲観の床は、稼ぐ力と売れる資産から置いた。2025年12月期は液晶ガラスの価格改定が効いた山の年とみて、利益は10年の平均へなだらかに戻す形にした。リース負債の影響は小さい。 持ち合い株の含み益(評価差額金の税後)は余った現金に 0.5 で足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→13.27 倍・やや楽観 PER 10.2→11.9 倍・中立 PER 9.5→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。